『量子重力理論とはなにか』

 タイトルに偽りあり!

 理学部の学生以外は買ってはいかん!いかんぜよ、竹内さん!(c)福山雅治

 著者はサイエンスライターの竹内薫さん。

 量子重力理論とはなにか?という本なのに、肝心の量子重力理論にふれているのは第四章だけで、それはたった20ページ。本全体の一割程度しかない。
 しかもその第四章も「量子重力理論の“迂回路”」という章で、量子重力理論への手がかりとなる数学的な考え方をあれこれ紹介しているだけ。しかし待ってくれ。俺たちは量子重力理論そのものを知らないのに、その迂回路ってなんだ?

 この本は書きかけの原稿をそのまま強引に本にしちゃった感じがあって(まえがきによれば路線変更で書くきかけの原稿を一度破棄しているそうだ)、章が進むにつれどんどん解説がおざなりになり、一般の読者はどんどん置いてかれてしまう。挙句の果てには「物理学徒のための注」とかいいだして、完全に物理学徒以外は放置プレイ。
 そして「本来は量子重力理論の本を書くはずだった」という衝撃の告白でこの本は終わる・・・(ならタイトル変えろ!)

 私は、ぶっちゃけ第一章(相対性理論の相対的な矛盾をローレンツ変換を使って座標で表す=ミンコフスキー図の話)くらいしか分からなかったし、量子のデジタル性について数学的な説明をした第二章は、イマイチイメージがつかめないところもあって半分くらいの理解度(偏光フィルターによって光の状態が変わる話は面白かったけど)。
 第三章の「二重相対論(相対論の絶対的な要素である慣性座標系=ここでは光速度に、量子力学のプランク定数を組み込んだ相対性理論のこと)」に入ると話は途端に難しくなって、それはなぜかっていうと「学術論文に書かれた数式(スナイダーの量子時空理論)を一緒に解いて行こう的」な、もうそんなの解説でも何でもないことになっちゃって、学術論文の数式なんて解けたら、そもそもこんな本買ってねえよって感じもするし、全くこの本はどういう層に向けて書かれたのか分からなくなってしまう。
 金子隆一さんと言い、これはサイエンスライター特有の病気みたいなものなのか?

 さらに「詳しい解説はこの本を読んで欲しい」って煩わしい解説は他の本に回してしまうんだから、一体この本の存在価値って・・・

 高校の微分積分も怪しい私が大雑把につかんだイメージはこういうことだ。言いたかった内容と違ってたらごめんね竹内さん。でもこの本の構成じゃ仕方ないでしょ?

 昔はニュートン力学や電磁気学(古典物理学と言う)で世界の物理現象は大体計算できると思っていた。でもその理論は、かなり特殊な状況(力が釣り合っているとか、力が働かない時とか・・・)でしか使えず、一般的な目の前で起こる物理現象を考える場合には、話を単純化する必要があった(だからあくまでも式を演繹して導かれる答えは実験結果の近似値だった)。

 しかし現実の世界はもっと複雑だ。ニュートン力学では実験を行なう「観測者」を世界に全く影響を与えないような「完全なる第三者」として想定し、客体世界の物理現象を扱ったが、よくよく考えればそれは幻想だった。
 実際には学校の授業参観で子どものいつもの授業態度が変わってしまうように、観測者(主体)が客体世界に影響を与えてしまう。
 そこで「主体と客体の関係性」を物理学に組み込んだのがアインシュタインだった。物理現象と言うのは観測するものと観測されるものの相対的な関係性によって決まるから、相対性理論と言う。

 もう一つの物理学の革命が量子力学の誕生だ。もう難しいので適当に考えると古典力学は物理現象の連続性を(例えば大砲や弓矢の弾道とか)、話を単純化することでなんとか計算しようとしていたのだけど、そのようなマクロな物理現象を、量子(物理量の最小単位。私はドットのようなものだとする)レベルにまで細かくしてみていくと、その連続性は失われ、全ては飛び飛びの値にしかならなくなる。
 飛び飛びってなんだって言うと、竹内さん曰くそれは「デジタル」であり、私なりにイメージするに、電光掲示板の動きはぱっとみ連続的に見えるけど、クローズアップして見ると、その動きはドットごとのデジタルな振る舞い(電球をつけたり消したり)の集合(ドット絵)だったりする。

 なんとも強引なアナロジーだけど、私たちだって組織、細胞、分子、原子、電子と原子核って細かく分解していけば、結局のところ量子の集合体であり、ミクロな世界ではもうこれ以上は理論的に細かくしきれない!という領域がみえてくる(プランク世界)。
 ここでやっと加速度や重力の影響度の値がほとんど0(完全に0ではない)の領域に到達する。世界のすべてがデジタルな粒(量子)ならば、物理現象を発生させる全ての力も量子化できるはず。
 この世界の力は大きく分けて四つの勢力が存在するが、その内の三つは量子論で説明がついたという。だがこの力の四天王の中でもっともメジャーな重力(時空をひぱって曲げてしまう力)だけは、現在においてもなぜだか量子化できない。「重力子」なるものも発見されていない。この重力を量子化する理論こそが量子重力論なんだろう。

 この理論を完成させるために、この本ではシュバルツシルト時空(回転するブラックホールや膨張する宇宙の曲がり具合が計算できると言われる時空のこと。自由落下する飛行機の中では重力がなくなるように、ブラックホール内部では局所的ではあるが重力の影響を考えずに済むことができる)とかレッジェ計算(時空を細かい三角形の集合として、その時空の曲がり具合を調べる計算方法)とか手がかりになりそうなものを雑然と紹介している(だけなんだ)けど、一番ぶっ飛んでいるのが最後に出てくるミルナーのエキゾチックな微分構造。

 ミルナーは、7次元の球面には我々の使う微分構造以外にエキゾチックな微分構造(なにものだそれは)が27個存在すると数式を解いて証明したらしい。
 7次元の球面とは、その球面上の位置関係を7種類の座標軸が決定する球面の事で、そんなの立体的にあり得ないんだけど、数物理学者は別に次元を増やすことにあまり抵抗がないので、どんどんおかしな世界へ旅立ってしまう・・・
 面白いのは1~3、5~6までの次元の世界は微分構造の種類が1個に絞られるのに、7次元では合計28個、8次元が2個、9次元で8個、10次元で6個、11次元で992個、12次元が1個、13次元が3個、14次元が2個、15次元が16256個・・・と素人にはその規則性が全く分からない点。

 そして微分構造の種類が最も多いのが実は4次元で、その数は計測不能(多すぎて数え切れない)だという。
 我々の住む宇宙は四次元だからこそ、無限の可能性があるのでは?とか竹内さんはやたらリリカルに締めくくっているが(例えばエヴェレット解釈=パラレルワールドの可能性とか)どうなんだろう。
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