「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆」
『すばらしい新世界』のよくできたリメイク!
・・・いやこの小説が原作かどうか分からないけど。
『すばらしい新世界』って言うのは、昔ハクスリー一族っていう生物学とかで有名な一族がいたんだけど(ダーウィンの進化論を支持したヘンリー・ハクスリーは特に有名)、一人だけなぜか小説家になった人がいて、その人(オルダス・ハクスリー)が書いたSF小説。
ある種のユートピア社会を描いた作品なんだけど、その世界もメタ的に見ればかなり印象が変わるよって言う、実存主義的な内容だった。
オルダスはおそらく当時の進歩主義や優生学に基づくユートピア思想に警鐘を促したかったんだと思う。
当時は優秀な人間だけを集めて平和で善良な社会を本気で作ろうとしていて、これ(優生学)は今でこそ無かったことにしたい科学の黒歴史とされているけど、当時は本当に世界的ブームだったんだ。
そして今なおそれに似たユートピア思想(宇宙船地球号とか)は形を変えて生き続けている。まあよりよい生活、よりよい社会を実現したいっていう目標はいいんだろうけど、それはあくまでも目標のままとどめといたほうがよかったりする。
『ちびまる子ちゃん』のさくらももこ先生が「夢とはかなうまでが夢。かなったらただ現実なのである。」とかうまいことを言っていたけど、今はかつての優生学が達成しようとした理想の(ままにしといたほうがいい)社会が遺伝子工学などの発達によって、やる気になれば実現できそうだからかなり怖い。
江崎ダイオードの江崎玲於奈さんは、中教審かなんかで「学校は優秀な遺伝子を持つ子とそうでない子でスクリーニングするべきだ」とか言っててかなりラディカルだ。
このような遺伝子至上主義はかなり危険なので、遺伝子なんて大したことねえよくらいに思っておいた方がいい。
だからこの遺伝子があると犯罪を起こしやすいとか言う研究も、科学リテラシーのないバカが誤解するとかなり恐ろしい。
え?バカって誰かって?理系に弱い日本のマスコミのことだよ!
お前らこれを報道する時は本当に頼むぞ!!お前らがしくじると恐ろしい差別が始まっちゃうから!
話がそれてしまった・・・私は、こういうセンスオブワンダー(モノの見方をずらせば、自分たちの世界の印象がガラッて変わるような話。SFの醍醐味!)って結構好きで、私も一回漫画で描いたことあるんだけど、正直これを観てから描けばよかったな。それくらいこの映画はよくできてる。
冒頭から30分までの舞台となるクローンプラントのデザインはとにかくかっこいい。
前にこの映画を見た時は、あの白を基調としたかっちょいい地下施設のシーンがもっと見たくて「なんだよ、意外とすぐにアイランドの秘密ネタばれしちゃって、ただの逃避行モノになっちゃたなあ」ってガッカリした覚えがあるんだけど、今改めて見たらその逃避行のシーンもアクション性が高くてなかなか面白かったりする。
私はSFでもファンタジーでも、その作品独特の世界観を出せれば勝ちだって思っていて、この映画の世界観を象徴するのは、なんだかんだでやっぱりあのクローンプラントだと思うんだ。
都市部の空飛ぶ電車や自動車は『フィフスエレメント』かなんかでやってたしね。
後この映画『ダイ・ハード4.0』に比べて敵側の印象がなかなか強いよね。
アイランドの秘密を知って地下施設から逃亡した主人公たちを執拗に追う傭兵「ローラン」も、最初は敵として描かれながら、最後はクローンの味方になってくれるという、自分なりの哲学のある人でかなり魅力的だし(やっぱりクローンビジネスに言葉にはできない違和感を感じたんだろうな)、敵の親玉である「メリック医師」もなかなかリアリティのある悪役だと思った。
ああやってクローンを作り続ければ、それこそ半永久的な人生が約束されるわけで、そんなことに実際なったら、彼のように自分を神だと勘違いしてしまう人も意外と出てくると思う。クローンを作る側と買う側の違いはあれどね。
とにかく科学による寿命の克服ってすごいよね。実際人類の平均寿命って伸びてるわけだし、今だってできることなら永久に健康で生き続けたいって言うゲスな欲望のある人(私だ)はけっこういると思うし。これは戦国時代や第二次大戦中には考えられない価値観だよね。
ただメリック医師って、クローンが自分の存在する世界に疑問(それはすなわちメタ的な視点=哲学)を持たないように、クローンの精神年齢を15歳の子どもに設定したって言うんだけど、アイランドの崩壊の原因はそこにあるよね。
ダメだよ8歳くらいにしとかないと!メリック先生が15歳の頃は、牧歌的でみんな純粋だったかもしれないが、今日びの15歳って人生でもっとも暴力的でSEXのことしか考えていないぜ!(15歳を誤解してます)
実際クローンのあいつらも脱走して外の世界の刺激に触れたとたん、鉄道の車輪をドンキーコングのように高速道路に転がすわ(あれで何人の民間人が犠牲に…)、女とバカスカやっちゃうわ・・・
つまりは、あんな見た目は大人、中身は中学生日記のクローンが最後は大量に解放されちゃったというのか・・・おっかねえ・・・
ちなみにこの映画では、意識も感情も人間と変わらないクローン(人工的な双子のようなものだから)を一度作って、それをわざわざ殺して臓器を頂戴するなんて無慈悲で回りくどい方法をとっていたけれど、現実にはips細胞のようにもっと手軽に自分の組織のコピーが作れる技術が存在する。このips細胞は受精卵や胚を利用するES細胞と違って倫理的にも問題がないそうだ。
そういう意味で素晴らしい新世界の夜明けは近いのだ。
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