名古屋議定書について

 地球温暖化と生物多様性の議論はとにかく似ている。
 欲深い人間の後ろめたさや、それでもなおも善人でありたいという欺瞞の心をうまくついて、「人類のエゴではなく、地球や、そこに生きる全ての生命の為に取り組むべき美しい環境問題」と言うイメージをマスコミはせっせと植え付けているけど、ばっかじゃないの。なんのことはない。これはどっちも経済問題。 
 結局生物多様性は金になるから保全しようってこと。こんな野暮なことは恥ずかしくて言いたくないんだけど、意外とマスコミのイメージをあっさり信じている善意の人もいるからなあ・・・

 COP10は生態系保全を世界目標にすること(愛知ターゲット)に同意したけど、これもなかなか国同士がみっともなく揉めて面白い。
 EUは「生態系の破壊を20年までにすべてやめるべきだ」とジャスティスかつ無茶なことを言い、日本や途上国は「20年までに生態系保全を確保する目的で、生物多様性の損失を止めるための行動を起こす」となんかこれはこれで実行力に乏しい中途半端なことを言っている。
 夏休みの宿題における努力目標をこんなノリで言ったら絶対夏休み最終日が修羅場になること請け合いだ。

 この議論にはポイントが二つある。ひとつは「生態系の破壊」の定義が曖昧なこと。生態系に何も影響を与えずに人間が活動することは不可能だから、どこまでが生態系の破壊なのかを検討しなければならない。
 どうも彼ら政治家は生態系の複雑さを理解していないようだから、国際的な会議でこの基準を考える時はかなり面倒くさくなりそう。
 例えば、その生きものが生態系にとってどれほど重要な種類かどうかって、乱獲して減らしてみたりしないと分からなかったりする(キーストーン種の記事を参照)。それでああ、こいつはこの生態系に必要なんだって。
 でもEUの言うように2020年で生態系の破壊を禁止してしまうならば、今後10年で地球全ての生物種が生態系に与える影響をまとめあげてデータベース化しなければいけないことになる。そんなことをEUが本気でできると思っているとは私には到底思えない。
 そしてそれについて「生態系の現状をどうやって調べるんだ」と的確な突っ込みをした途上国は先進国よりもよっぽど賢い。

 二つ目のポイントはなんでそんな無茶なことをEUはつきつけようとするのか?そもそも京都議定書の時も議論の主導権を握り、地球温暖化を巨大なビジネスマーケットにしたのは何を隠そうイギリスをはじめとするヨーロッパだ。
 竹内薫さんも言っているけど日本なんてエコの技術に関しては世界最高レベルで、もうこれ以上は省エネできないって臨界点まで来ているのに、無茶なCO2削減目標を掲げてしまった。
 だから京都議定書って日本がイニシアチブ取って採択した感じするけど、まんまと国際社会にはめられて温室効果ガスの排出権取引で金を絞り取られるはめになっただけなんだ。
 
 EUはそもそも環境保全に対する意識はかなり進んでいて、それで生物多様性についても「それくらいの大きなことを目標にしなければ到底守れない!」と言っているのかもしれない。これは政治的な理想論としてあると思う。
 でももうひとつの理由は、生物多様性が最も豊富である熱帯雨林がたくさんあるのは、南米とかの発展途上国だから、そう言った国を他人事のようにけん制しているのかもしれない。
 たとえばクジラを特に食べようとも思わない国は「クジラがかわいそうじゃないか!」って捕鯨禁止運動を仕掛けてくるけど、それと似た感じがするんだ。
 生物多様性を守るのはあくまでもジャングルを切り開く途上国の問題。だからお前ら2020年までにそういう破壊活動をやめないとひどいぞ(ジャイアン)みたいな。
 
 さて名古屋議定書とは、生物の遺伝資源が生む莫大な利益を、その生物の生息地のある国(遺伝資源原産国=それは大抵が途上国だ)に配分しようというルールを定めたものだ。
 これは先進国と途上国の経済的な格差をなくすいい目標って気もするけど、そういうイメージの裏に国家間のえげつない思惑が交錯している・・・と思う。京都議定書がそうだったから。
 たとえば途上国は自分たちの国に生息する生物どもが金になることを知り、できるだけ先進国から使用料を踏んだくろうとする。だから途上国は植民地時代の利益配分も求めたわけだ。これはさすがに先進国の経済的負担が莫大で棄却されちゃったけど(ただ基金を設立してというアフリカの要望は通った)。

 でも生物遺伝資源を利用して作った製品(派生物。その生物の遺伝子を持たない複合物も含まれることになった)にも原産国の使用料(利用料?)がかかるのか?っていうのはまだ具体的なところまで詰め切れてないみたいだ。
 遺伝資源って例えばDNAの塩基配列なんかはPCR法で大量に複製できたりもするから、鉄などの鉱物資源や、石油、ガスなどのエネルギー資源よりかは、デジタル情報と性質が似ているんだよね。ネット上で違法コピーやダウンロードされちゃうとまずい。良くも悪くも共有しやすいんだ。

 その為に、遺伝資源を利用する際にはその原産国に法的許可を取っているかどうかを確認する監視部署を各国はひとつ設立しなければならない。
 経産省は「これで企業の生物資源利用の手続きがスムーズにできる」って言ってるけど、一方の企業側は「この国のこういう遺伝資源を使わせてください」って監視部署に届け出て原産国の許可証を取得するのはライバル会社に手の内の明かすことにはならないのか?とかなり不安だという話もある。

 なんにせよ、ついにバイテクも国際基準で法整備がなされるようだ。マイクル・クライトンが危惧したバイテクが野放しになっている『ジュラシック・パーク』の時代は終わるのかも。
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