「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆☆」
私は生き残りたいんじゃない、生きたいんだ!
何気にピクサー史上最大スケールのSF大作。そして私が思うにピクサーで最もまともにいい話。監督も「ピクサーアニメにおいて異色の存在になると思う」って言ってたけど、確かにすっごいシンプルにまとめてきた。爆笑の嵐だった『トイ・ストーリー3』などに比べるとギャグも少なめ。セリフも少なめ…
ただセリフが少ない分セリフの一言一言が重い。さすがセリフに納得いくまで脚本を書き直し続けるピクサー。どの作品もその物語を象徴する印象的な名言がしっかりあるから引用がしやすい。
繰り返しになるけど本作の特徴は短編作品的なシンプルなメッセージとストーリー。そして世界観が極めてシリアス。あの冒頭のゴミにまみれた地球のシーンはピクサーとは思えないほど・・・怖い。大気は火星のようにめちゃくちゃでまるで悪夢のようだ。
ウォーリーがひとりぼっちで地球に取り残され、健気にむなしくゴミを圧縮し積み上げている孤独さが怖いんじゃない。ハードSFとして大量消費社会の未来を真剣に描いているから怖い。
どこが怖いか?それはこの映画がこだわる人類の未来のリアリティ。実は物語の大まかな内容は「ノアの方舟(ハトが船に持ちかえったオリーブを見て生きものが故郷に帰る)」+「2001年宇宙の旅(HALコンピュータの反乱)」+「ドラえもんのび太とブリキの迷宮(科学技術が発達して人間が椅子に座っているだけで生活できるようになっちゃう)」みたいなものだと思っていて目新しさは特にない。
ただ背骨はシンプルだけど細かい設定が考え抜かれていて、とりわけ未来人の描写がすっごい新しい。オレこんなにリアリティのある未来人見たことないよ。
冒頭のシーンの怖さの話に戻ろう。それはBNL社という政府を担う未来の大企業のCMが底抜けに明るいからだ。
「地球はゴミだらけになったから、後はゴミ処理ロボットに掃除を任せて、その間は宇宙へバカンスに繰り出そう!」みたいなこと言ってるの。この楽観&しぶとさがすっごいリアル。
大抵のSFってこういう未来描くと必ず人類が絶望してるの。「我々はとんでもない過ちをしてしまった。うお~」って嘆いて絶望している。
でもさ実際このまま地球がダメになっても、それは今までの祖先がやってきたことのつけが回ったんだから、問題に直面している世代は自分たちの世代だけのせいじゃないから、問題の原因が分散されてそこまで深刻に感じないと思うんだ。徐々に「ああ、もうじきやばいなあ・・・」って感じている位で。今の地球温暖化だってそんなところじゃん。
その上この映画では地球は核戦争や火星人の侵略でダメになったわけじゃない。「核戦争はダメ絶対!」って言ったらほとんどの人はみんな賛成すると思うけど、便利で楽しい大量消費社会や火力発電、自動車をダメって言われたらどれだけの人が賛成するだろう?
どんなに心が優しく親切な人でも現代に生きている以上、大量消費社会を捨てて原始時代に戻ろうなんて思わない。だからまあその問題は後ででいいか・・・って先送りしてきた・・・その未来があれなんだ。
で、地球がダメになっても楽観も悲観もしない。人類はなんだかんだですっごい逞しいから、問題が起きたらちゃんと対策を考える。適応ってやつだ。で、逃げちゃった。
大抵のSFはこう言う話を書くと必ず人類や文明を批判したくなっちゃうもの。しかしピクサーは違う。彼らを否定も肯定もしない。そう言う時代なんだってしちゃうのが逆にSFのリアリティとしてすごかった。
なによりロボットに依存するあまり椅子から立ち上がろうともしなくなった未来人は、ぶくぶく肥り、手足が退化し、まるで大きな赤ちゃんのようになってしまったけど、心も子どものように純粋で無垢。
大抵のSFは(三度目)この手の未来人を「科学は発達したけどなにか人として大切なものを失った・・・」とか「自己中心的な残酷な奴になっちゃった・・・」とかに設定しちゃうんだけど、平和、安全になり過ぎて呑気になっちゃったってのは面白い。まるで天敵のいない島に生活し続けたあまり飛ぶのをやめてしまったドードー鳥のようだ。
そして極めつけはAXIOMの船長。監督は船長を決して愚かに描きたくはなかったそうだ。怠け者でやる気がないけど、本当は偉大な人物・・・
この向こうで我々の故郷が問題を抱えている。それなのに何もしないなんて…私はいやだ!
心がなくプログラムされた命令を繰り返すことしかできないはずのロボット達の奮闘を見て、人類は再び二本の足で立ち上がり新たな誕生を迎える。そのシーンで『2001年宇宙の旅』の人類の夜明けのシーンのBGMが流れるんだけど、いつものピクサーならこのパロディシーンで笑いが起きるだろう。しかし笑えない。リアルなSFとして真剣に見ちゃうと感動してしまうのだ。・・・これはこれでどうかと思うが・・・
最後に一言。パラソル超強ええ。
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