漫画を作る手順

 いやー漫画が大変…全然進まない。全然終わらない。ツイッターでもつぶやいたけど、プロの漫画家ってそれこそ一日中描き通しなんだなってことを肌で実感しました。これ比喩じゃないぞ!

 私もちょっと偉そうに、漫画業界を知った気になっていましたが、想像するのと実行するのは大違いだ。よく漫画家で「締め切り前は修羅場ですよ」とか言う人がいて、漫画家を目指してる人はそう言うセリフに憧れたりするんだけど、やめといたほうがいいよ。あれ冗談じゃなく、本当だから。

 余計なお世話かもしれないけど、漫画家志望の人は俺は“実際に”24時間以上漫画を描き続けられるのだろうか?って考えた方がいいと思う。そこまで漫画を描くの好きじゃねえなって思ったら、少なくとも商業誌で週刊連載をする漫画家は諦めよう。悪いことは言わないw
 あの世界は一冊の雑誌を作るのに、とんでもなくたくさんの人がそれこそ不眠不休働いているから、新人ごときが締め切りを破ったら、大勢の人に迷惑がかかってみんなになぶり殺しにされると思う…

 私は週刊連載なんてやんなくて本当良かったと思っている。これは連載会議で落ちた負け惜しみじゃなくて本当に。
 10代の頃って馬鹿だからそういう仕事の大変さを分かっていなかったんだよね。編集者が「アシスタントは少なくとも3人はつけます」って言った時も「別に一人で描けるよ」とか思ってたもの。

 で、その後、作画クオリティが半端無いプロの漫画家さんの仕事に対して「確かにすごいけど、これたくさんのアシスタントを雇って描いているんだよ」とか言ってたけど、やっぱりアシスタントを7人雇っていようが毎週19枚の原稿をあげるのは超人的。
 仮に私にアシスタントが7人いたとしてもやっぱり7日で19枚は終わらせられないと思う。アシスタントに指示を与えたり、その仕事をチェックしたり、場合によっては修正したりと、気を使う作業はむしろ増える気もするし。

 今回の件を思い返せば、ちょっと作業の見通しが甘かったのかもしれない。私の脳内スケジュールではトーン貼りなんて二日もあれば終わるだろとなめていたのですが、まあ結局終わったんだけど、おかげでまったく寝れなかった。
 こんなに無理したのは教育実習以来だろってほどきつかった。こんなの繰り返してたら本当体壊すよ。
 今後こういう事態に陥らないためにも、この作業は大体これくらいの大変さでこれくらいの時間がかかるから、この日数を割り当てようというように、漫画製作の各作業を見なおしてみようと思う。

 私が漫画を作る時の手順は大体いつもこんな感じ。

①イメージを膨らませる(所要時間:?)
 「考えるな感じろ」が嫌いとか言いながら、一番最初は抽象的な視覚イメージから入ることがほとんど。このシーンかっこいいな、とかビジュアルを大まかに空想していく。
 あとけっこう自分の実体験がものを言ったりする。こんなことあってこういうこと考えたんだよな、それをみんなに伝えたいなあとか。

②シノプシス(所要時間:2時間ほど)
 大体の話の流れを決めて、それに肉付けをしていく。世界観や設定、登場人物の適当なリストを文字に起こす。画は描かない。絵嫌いだから。だから登場人物の顔はまだ決まってない。
 この段階はサラリーマンとかで言うと企画書づくりって感じ。先生だとレジュメって感じ。

③プロット(所要時間:数時間)
 シノプシスのあらすじをもう少し発展させていく。なにせ登場人物がいるわけだから、物語の流れに沿って思考実験ができる。この段階で登場人物に“キャラ”ができてくる。口調やリアクションとか。『80日間宇宙一周』の時はこの段階でミグのキャラクターや立ち位置が若干変わった。
 物語の展開はこの段階でほとんど決定する。細かい伏線もここで決める。伏線がちゃんと回収できるように、伏線シーンのとなりに「このシーンの伏線」って身も蓋もなくメモってあるから、本当ネタばれ文書(笑)。

④取材(所要時間:一か月~長い場合半年)
 取材って言うと大げさだけど、SFや歴史物の場合この段階でたくさんの本を読んだりする。その半分くらいは本編に反映されなかったりするんだけどねw
 大学に通ってた時は大学教授に漫画ということは隠して専門的な質問をしたりした。向こうは「いやー熱心な学生もいるもんだなー」と勘違いし、私は漫画が面白くなってどっちもハッピー。最近はもっぱらツイッターでイラク戦争で使った戦車の種類を聞いたりしています。
 この取材で得た知識が物語に大きく影響を与えることもあるので、その場合はプロットを若干修正する。前のを没にして丸々描き直すこともあります。

⑤脚本(所要時間:早い時は一日、かかると数週間)
 高校生の頃ページ数の決まった短編(『抽選内閣』)を描くようになってからやり出した作業。
 物語に沿って全てのセリフを決定する。ト書き形式。脚本はパッとできる時もあればかなり難産な場合もある。その差が分からないけど…例えば『イッツアドリームワールド』や『ダブルスピーク』は数時間で完成しちゃったけど、『ラストパーティ』とかなんかは結構かかった。
 脚本はオフィスのワードで作っているんだけど、シーンをカットしたり追加したり、シーンの順番とか変えたい場合、ワードはすごい便利。高校の頃はノートに書いてたけど、その時は鉛筆で書いた文章を消したり描き足したり大変だった。
 また私が普通の漫画家のようにネームの段階で話を決めないのは、シーンの変更がネームでは面倒くさいからだ。つーか無理。

脚本.jpg

⑥ネーム(所要時間:一日に10枚前後。場合によっては一日で一話分26枚描けることも)
 漫画の8割はネームで決まるといわれるけど、確かにネームでカメラアングルやコマ割り、漫画の具体的ビジュアルがほとんど決定される。
 漫画家さんによってはネームでプロットや脚本に当たる作業をまとめてやる人もいるから、そうなるとネームの重要度は半端無い。
 別にネームはキャラの絵とか最低「へのへのもへじ」でもいいんだけど、浦沢直樹先生みたいに下書きと言っていいほどかなり絵としてちゃんとしたモノを描く人もいる。
 紙にはルーズリーフを使う人もいるけど、私はこのネームの絵を“下書きの下書き”として使うので大学時代までは原稿用紙大のB4のコピー用紙で描いていた。今はA4サイズのノートに描いている。画が一回り小さくなるけど、こっちの方が友達に読ませる時、本みたくなるので便利。保管もしやすいし。

える下書き.jpg

⑦作画(所要時間:一日3~5枚。)
 ネームの下書きの下書きをトレースする。そこでトレースした絵をさらにトレースして線画を完成させる。ずっとトレース台の光を見ているので目は疲れるし、けっこうめんどうくさい。
 昔はインクでなぞってたんだけど『超音速ソニックブレイド』からはデジタルコミックってことで丁寧に鉛筆でなぞった絵をスキャナーで取り込んで、それを二階調化している。いまいましいペン入れがなくなって本当せいせいしてますw
 ちなみに私は絵を描くよりも話を考える方が好きなタイプなので、作業としては⑤か⑥を終えた時点で飽きていることが多い。

える線画.jpg

⑧エフェクト(所要時間:そんなかからない)
 コマによっては集中線やオノマトペを付け足すことがあるんだけど、いまはデジタル的に合成している。インクの時代は一回描いちゃったら最後変更はきかなかったけど、位置や大きさも変えられて便利なんだ。
 場合によっちゃ別の紙に描いた背景や小物(湯のみとか)もペーストして加えたりする。

⑨スクリーントーン(所要時間:一日4枚)
 デジタル作業になったから、手で貼り付けたころよりもずっと楽になったかと言われれば実はそうでもないかもしれない。気軽に貼れて修正も効く分、際限がなくなって貼る量がずっと増えた気がする。
 なにしろデジタルでは、髪の毛にだって貼れるからね。アナログじゃ普通髪の毛なんかに貼らないよ。前髪のギザギザ部分なんかはカッターさばきが面倒くさいし、はがれるし、欠けちゃうから、ベタで処理していたんだ。
 この作業を先月なめていて偉い目にあったというわけ。寝ずにやったら一日10枚近く貼れるけどお勧めしない!

えるトーン.jpg

⑩写植(所要時間:トーンと合わせて一日4枚ほど)
 吹き出しの中のセリフを手書きの汚い文字からフォントにする。普通漫画家はこの作業はせず、編集者がどの文字をどれほどの大きさで使うか指定し、それをもとに印刷会社の人がフォントにして原版を作ってくれるんだけど、うちのサイトはこの作業も作家持ち。面倒だけど、キャラの台詞にこだわる人はいいんじゃないだろうか。勝手にセリフ変えられる心配もないぜ。

える完成.jpg

 完成。…とこんな感じで作っています。けっこう面倒くさいでしょう??
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