「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆」
又三帰ろう。景色は明日もあるからね。
いや~想像通りの全国の美大生震撼の恐ろしい映画だった。
世間に認められようと必死にもがき続けた一人の絵描き小僧の話。自分も大学では美術を専攻してしまったから半分位はわかるんですが、芸術って精神衛生上あまりよくない。
仮に自分が美術の教員になって中学生や高校生に美術を教えることになった時、生徒になんて言えばいいのだろう?
こんなもん教えて万が一絵に目覚めた子が出てきちゃったとして、それでその子は果たして幸せなんだろうか?創作に真摯であればあるほど、この映画のようにその人生は茨の道なんじゃないか?
とりあえず私は美術の最初の授業でこの映画を見せようと思いました。
美術やっている人って、よく言えば個性が強い、悪く言えばキチガイの人もいるし、才能の限界を社交性の高さでうまくカバーして世間に器用にコミットする人もいる。
プライドだけ高くて不平不満ばかり言っている人もいるし、自分の才能に見切りをつけて諦めちゃう人もいる。
なんにせよ結局のところ自己表現だから、アキレスと亀のパラドクスのようにエンドレスな自分探しに出発してしまう。
かつてコラムで才能について書いたことがあるんだけれど、自分に才能があるかどうかは結局のところ死ぬまでわからない。それがポジティブな人には自信や希望になるし、ネガティブな人には泥沼になってしまう。
私にとってもひとごとじゃないけれど、これはある種の人生をかけたチキンレースなんだ。
そしてこの映画の主人公は最後の最後まで描くことをやめずに突き進んだ。ヤクザ映画でもないのにやたら多い様々な人間の死を見つめながら。
もちろん映画だからかなりカリカチュアライズはされていて、中でも最大の編集は、創作することの楽しさや喜びをほとんど割愛して、創作の辛さ、苦しみ、もがき、あがき、狂気、そういったネガティブな面を強調した点だと思う。
そこらへんはやっぱり映画としてうまいなあって。テーマがぶれちゃうからね。
でもディティール、例えば絵は恵まれた環境でしか描けないことはないけどやっぱりお金がかかることとか、美術の予備校が金だけ取るだけであまり役に立たないこと(デッサン力は身につく)、画家を目指す若者が自分には人と違った突出した個性があるんだと何かを勘違いして迷走しちゃうところなどは、けっこう真実味があるし間違っていないと思う。
というかたけしさんは幼少期は野球少年で、その後お笑いという大衆芸能の世界に行ったのに、何でこんな美術の世界に生きる人間の心理とか事情に詳しいのだろう?なにか通じるものがあるのかな。
あと、この映画は創作のネガティブな面を強調した映画って言ったけれど、そのため作中に出てくる画商はどちらも嫌な奴で、最後まで主人公倉持マチスを苦しめる大森南朋は、なんというかまるで新人漫画家に意地悪な編集者のようでダメ出しばっかりして、自分のストレスのはけ口にしている感アリアリ。
結局この人も美術の世界にしがみついていて人をけなすことで自分の精神の安定を保っているんだろうなあって思う。画商じゃないけどこの手のタイプの人って確かにすっごいたくさんいる。
で、純粋なマチスは健気に編集者…じゃなかった画商のダメ出しをアドバイスとして受け入れ、次の作品でそれを鵜呑みにしたものを作って持っていく。で、その作品にまた画商がケチをつけて・・・そんな繰り返しが作中ドライかつ滑稽に描かれる。が、笑えない。こんな辛く厳しい映画はないw
マチスは画商の言っていることがアドバイスじゃなくてただの意地悪であることに早く気づけばよかったんだけど、愚直なまでに信頼してしまう。
しかし悲しいのはマチスの絵って本人の知らないところでちゃんと売れてるんだよね。狡猾な画商共にいいように搾取されてるだけでさ。
漫画の編集者が実際はもっと協力的で親切であるように、実際の画商もあんなのばっかりじゃないとは思うけど、これは映画の嘘・・・ですよねたけしさん?
ではそんな創作やっている人が100%凹む悪徳画商の名台詞集をどうぞ。
バカ。こういう絵が案外儲かるんだよ。こういう絵騙して売るのが画商だからよ。
技術があれば誰でもこんな絵は描けますよ。
よほどの天才じゃない限り学校行かなきゃダメですよ。
これは一歩間違えたら銭湯にある絵じゃないですか。
私勉強しろといったけど真似しろとは言ってないよ。
これ何?
あとこの映画では芸術に対する様々な見解がキャラクターのセリフとして描かれていて結構楽しい。とりわけ大竹まことさん演じるおでん屋のセリフは印象的で、このような話はたけしさん自身も著書で書いている。
アフリカの飢えた人の前にピカソとおにぎり置いてみろ。誰だっておにぎり取るだろ。
本当そうだよな。人はパンだけでは生きていけないかもしれないけど、パンがなきゃ生きることすらできないもんなあ。
その点自分は、学生の頃も授業中漫画描き続けられて幸せだったのかもしれない。先生に見限られてただけかもしれないけど、私はマチスのように大富豪の坊ちゃんじゃなかったからね。先生は私をぶっ飛ばしても別に良かったんだけど、なんか黙認してくれた。
だからそれはありがたいと思わないといけない。自分で決めたこの道を茨の道なんていう資格はないのかもなあ。実際楽しいことのほうが多いし。
創作って実は楽しいことも辛いことも悲しいことも全部無駄にならないってところが素晴らしい点なんだよね。
辛いことがあっても「あ、これ次の漫画に使おう」って思えば、物事を突き放せて考えられるんだ。でもやっぱり未来のある高校生に積極的にすすめるようなもんじゃねえなw
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