戦火の馬

 「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆」

 国に戻るには戦地の上を飛ばねばならん。苦しみと恐怖の上を。それ以上勇敢なことってあるか。

 スピルバーグ監督の悲しくも心温まる戦争映画。私はもちろん戦後生まれなんだけれど、世界大戦の最中に生まれなくて本当幸せだったと思う。
 もちろん今でも世界中で虐殺や紛争、飢餓は続いていて世界は不平等極まりないとは思うけど、そういった人と人とが争う恐怖や悲しみを実際体験しているのとしていないのとではやっぱり説得力が違う。

 スピルバーグ監督は世代的には戦争に参加して戦ったわけではないけれど、親や先生といった周りの大人はやっぱり戦争を知っていて、オレたちユダヤ系はドイツにひどい目にあったんだよとか絶対に聞いているから、ああいったものが作れるのかもしれない。
 戦争の悲惨さも知ってるし、矛盾しているけどあの手のミリタリーも結構興味があるんだと思う。つーか無邪気に好きだと思うw

 よく深夜アニメで「近未来、世界戦争が始まり日本は滅ぼうとしていた・・・!」みたいなのがあって「リアリティがない」とか「キャラクターがバシバシ死んでいって感情移入できない」とか叩かれているけれど、違和感があるのは日本で今どれだけの人が戦争というものを知っているのかということ。
 私だって戦争知らないけど、普通に考えて戦争を題材にしていて人が死なないのはやっぱりおかしい。

 その点スピルバーグ監督は戦場の生々しさを撮るのが本当にうまくて、兵士がバッタバッタとあっけなく死んでいく。
 キャラとか感情移入とかじゃなくて、もっとメタ的に戦場を見せてしまうから、見ているこっちはゾッとするわけだ。
 「ああ、戦争って運のないほとんどの人は、こうやってあっけなく死んじゃうんだろうなあ。自分がここで撃ち殺されて戦況は何か変わったのかな。無駄死になんじゃないのかな。だったらこの塹壕から這い出てすぐに撃たれるこいつはヤダなあ」とか考えると、すっごい虚しさを感じる。この手の虚しさはたけし映画を見た時にも感じるんだけどw

 「人は本当にあっけなく死ぬ。昔はよく道端のドブで死んでた」てたけしさんは言うし、「キミたちがこれから出ていこうとする社会はもしかすると戦場よりも厳しいところかもしれない」って金八先生は言うし、「格闘ゲームのノリであんなふうに人間を蹴ったら肋骨が折れて死んでしまいます」って水谷先生は言ってた。

 だからこんなものを考えちゃうと、もうテレビゲームなんかのんきにやれないよね。虫けらのように湧いて出てくる雑魚キャラの一人がもし自分だったら冗談じゃないって思っちゃう。実際自分がクリボーでないと誰が言えるのだろうか?
 今は逆にテレビゲームを使って兵士の感覚を麻痺させたりもするくらいだから倒錯しているなあとも思うけれど。でもイラクの人はゲーム感覚で殺されていることになる。

 とまあ、そんな感じで戦場の恐怖を撮るのがうまいスピ様なんだけど『プライベートライアン』などに比べてそういった陰惨なシーンは控えめ。
 いや充分怖いシーンはあるのですが、そんな恐怖の戦場の中でも、馬をきっかけにハートウォーミングなヒューマンドラマがしっかり描かれる。
 ただ、決してこの映画の馬「ジョーイ」も「平和の象徴」とか「人々に笑顔を与える天使」とかそんな機械仕掛けの神様じゃなくて、いち馬として戦争に巻き込まれるただの動物キャラに過ぎないんだけれど、それでも戦場にほんの小さな奇跡を起こす。
 
 この映画がハリウッドで一般的な戦争アクション映画と一線を画するのは、連合国=善、同盟国=悪といった単純な勧善懲悪ものにするのではなく、かといってガンダムの少佐のように敵キャラにも魅力を持たせるのでもなく、イギリス兵も敵のドイツ兵も(あと馬も)実際はただの普通の人なんだよって描いている点。
 自分が大学時代に論文で調べたH・リードって人は青年時代、この映画のように第一次世界大戦に出兵した経験があって、詳細に手記にまとめているんだけど、読書マニアのリードさん、ドイツ人の捕虜にミーハー丸出しでニーチェのこととか聞いていたらしい。
 ただ普通は戦時中敵国の人と仲良く会話することなんかはできない。なにかの罠だと疑われて殺されちゃうかもしれない。人は真に立場や役割からは自由になれないからね。

 これはなにも戦争までいかなくても、社会に出るとみんなそれぞれに立場というものがあって、実際は100%同意していないけれどそうせざるを得ないということがある。
 若い人はよく「大人は嘘つきだ!」って言うけれど、嘘の一つや二つつけないようじゃ世の中わたっていけないんだと思う。
 で、今一番厄介だと思っているのが、みんな自分以外の他人の立場にはなんも興味がなくて、他人には正論や清貧を強いているように見えること。
 書生論で飯を食っている評論家や作家とかが言うならまだわかるんだけど、一般の人も自分を棚に上げて相手に完璧な人間を求めていることってよくある。
 それがある許容値を突破した時に戦争って起こるのかもしれないなあ・・・

 最後に一言。あの農場の凶暴なアヒルデニス・ミューレンのCGだろw
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