キッズ・リターン

 「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆☆」

 バカヤロー、まだ始まっちゃいねぇよ。

 1996年公開の北野武監督の青春映画。いや~すっごいいい映画だった!もうすべてがかっこよくて正直こんな私が語るのは恐れ多いし、んなもん蛇足極まりないと思うんですけど、こんなに「すげえ!」って思った、なんというか自分の感性にパチっとはまった映画は『オーケストラ!』以来かもしれません。

 この映画って木村くんも好きで「田代、見ろよ!」ってずいぶん前に勧めてくれたんだけど、結局見るの忘れてて、この前女性のマロさんも勧めてくれたので「これはやっぱ一度ちゃんと見といたほうがいいな」と50円で借りてきたわけです。
 で、とりあえず木村くんには謝るよ。ど~せ少年マガジンとかにありがちな甘ったるいヤンキーものだろって一瞬でも思った私が悪かった!

 そもそもたけしさんがそんな映画を撮るはずない。私たけし映画はともかくたけしさんの書籍はかなり持ってて「悪い奴が急に心を入れ替えて善人面するのは気に入らない。いままでこいつに迷惑したやつの立場はどうなるんだ。まずはそいつらに謝って精算するのが先なんじゃないか」みたいなことを書いてたし「いきがったワルは一度とことん叩きのめされなきゃわからない」とも書いてるんだよね。
 だから、この映画でもハイライトシーンで不良のコンビがとことん叩きのめされる。それは相当辛い挫折かもしれないけど、人生ってそういうことの繰り返しなんだよっていう監督のメッセージのような気がする。だから「終わっちゃいないんだって」ってw

 監督はラストの学校の校庭を昔のように自転車でぐるぐる回るシーンを最初に思いついて、そこに至るまでの物語を後から逆算して組んでったらしいんだ。
 だから脚本の構成の完成度が高いし、たけし映画の中でもかなり筋が分かりやすい(本人曰く日本一後付け設定やつじつま合わせがうまい映画監督)。
 でもなんであのシーンをたけしさんは無性にやりたくなったんだろう?って思ったんだけど、この映画ってバイク事故を経験したたけしさんの監督復帰作なんだよね。つまり自分の挫折を描いてるんだよな。

 そして、ここらへんはもう勝手な推測だけど、この時のたけしさんにあったのは「こんな顔になっちゃった自分はもう一度芸能界でやっていけるんだろうか?」という不安であった気がする。
 フライデー襲撃事件の時は、芸能界復帰が無理なら軍団とヤクザか建設会社でもやるかな、とか考えてたらしいんだけど、事故の時は「顔に棒突き刺されちゃったよ、おでんの気持ちがわかった」とか見舞いに来た軍団の人にボケても、全然笑ってくれなかったんだって。もういたたまれなくて。
 でも最終的に記者会見をやって見事に復帰するんだけど、あの記者会見もある種の賭けだったらしい。どれくらい顔が戻ったらやるか、そのタイミング。

 とにかく、マーちゃんの刺青みたいに一生背負う傷を、あの時のたけしさんは負って、自分の終わりも感じながら、それでもふたたび立ちあがった。また自分の居場所を見つけることができた。
 私が最近思うのは、家庭でも学校現場でも社会でもなんでもいいんだけど、そもそも自分の居場所なんてあらかじめ用意されていないんだよね。自分の居場所っていうのは誰かに与えられるものじゃない。自分で見つけて掴み取るものなんだなって。
 それを勘違いしちゃっているから、社会に適応できない人がいるのかもしれない。相手を蹴落としてまで働きたくないって言うけど、そんなこと言ったら他の動物殺して食って生きている時点でオレらは罪悪感で自殺しているわけだし。

 多少は矛盾していても折り合いをつけなきゃ生活できないんだなあって。そこらへんの矛盾を「矛盾だ」っていう大人が今いないんじゃないのかな。みんなと仲良くしましょうも限度があるってw世の中にはパイが決まっていますってw理想と現実のどっちも教えたほうがいいだろって。
 子供ってすっごい純粋に大人の言うことを額面通りに信じちゃうところがあるし。もう野暮かもわからないけど、大人の方から「とはいえ、これ建前なんだ」って一度子供にちゃんと言うべきなのかもしれない。
 昔はそんなこと大人から言わなくても子供の方が成長して気づいていったんだろうけれどね。

 とにかく私が思うのは学校に居場所がないってグレてるヤンキーも、普通の人も変わらないよってこと。おそかれ早かれどこにも自分の場所なんてないってことを全員が痛感するわけだし。
 それで要領が悪くてうまくいかなかった場合、大人しい奴は引きこもったりうつになっちゃうし、元気な奴は同じような境遇の仲間を作って夜の街に繰り出して悪さをしてしまうのだろう。
 でも十代って本当難しい時期なのかもな。私は「漫画」っていう特殊技能があったから、クラスでなんとなく自分のポジションがあったし、高校では生徒会長やってたから、そういう自分の居場所がないっていう悩みもなく十代は楽しめたけど、大学時代はやっぱり居場所なかったもんねw
 もう先生にキレちゃってからアウトローもいいところで、国立大学でなにやってんだって気はしたけれど。

 俺たちみたいな馬鹿まだいるかな?

 もういないんじゃないですか?


 いますいます。山ほどいます(笑)

 そうやって居場所がなくて不安だったりイライラしたりするのはわかるけれど、それはつまり自分が大人になろうとしていることなんだって思って欲しいよね。私はまだ脱皮できてない気もするけど・・・(職員室に居場所がない)
 でも大人の方が自分の居場所を確保するので精一杯で、自分の子供に居場所を与えられないのは大問題だと思う。ウミガメみたいに卵から孵ってすぐに自分のやるべきことが遺伝子レベルでインプットされているならともかく、人間は教育しなきゃ生き方がわからない動物だからね。
 そこをないがしろにするのだけはあっちゃいけないと思う。子供をないがしろにするのって絶対国家や社会にとって不利益だと思うし。

 あれ?全然『キッズ・リターン』の話してないや。だからこんな素晴らしい映画語ることないんだって!もう冒頭のタイトルが出るところなんて映画史上屈指のカッコよさじゃない?
 なんだあれってw『アウトレイジ』もかっこよかったけどこういう映像的なセンスってたけしさん天才的だよな。
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