「面白い度☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆」
アメリカがこれまでまともに倒したのはナチだけだものね。
月からナチスが襲ってくるというワンアイディアだけで世界中のSFファンから一億ドルもお金が集まっちゃったという話題作。
設定からしてどう考えても社会風刺ギャグって感じなんだけど、人種差別や歴史の断絶、第二次大戦時も現代も変わらない、きな臭い政治的な駆け引きなどをうまく人間ドラマに盛り込んで、意外と真面目で丁寧にお話を組み立てていた感じ。
特に人種的にマイノリティなアメリカの黒人ワシントン(政治的な思想信条は特にないニュートラルな人)と、第二次大戦時から時間が止まっちゃったような純粋なナチ党員の女の子レナーテとの交流が、けっこう微笑ましいラブコメみたくなってて、面白い。
F先生の異色短編に出てきそうな清楚で、かつ、ちょっと世間ずれした女の子のレナーテはなかなかチャーミングで(あとなぜかお色気w)、サラ・ペイリンのようなタカ派大統領や、なんかよく分からないけどとにかくおっかない女ってことはわかる広報部長など、どぎつい世界観に咲く一輪の花・・・なのかな?
まあ、とにかくこの映画女が強い。というかそのインパクトははっきり言って月にいるナチス軍の印象が霞むほど(本当は霞んじゃダメなんだけどw)
でも、どう考えても月のナチスってアイディアは出オチ的なものだから、一発の破壊力は強くても持続性がないんだよね。そう言う意味で、1時間半どうやってドラマを持たせて、落とすんだろう?ってのは見てて気になってた。
で、結局ナチスは月で超兵器を作ろうが地球の大国の噛ませ犬に過ぎなくて、ナチス以上に恐ろしいのは地球のメスゴリラだったってことにしたんだよねw
ここら辺は絶対異論があるとは思うんだけど、私の個人的な印象では、男性よりも女性の方が、感情に訴えかける影響力っていうのは大きいと思うんだよ。理屈じゃなくて。
だからアイドルとか、政治的な象徴とかなら女性のリーダーはアリかもしれないけど、社会的なルール・・・それは合理的な思考がものを言うと思うんだけど、そういうものを組み立てていくのって女性の方は苦手な気がするんだ。
いや、これは本当に個人的な経験だけで言っているだけなんだけど。つまり何が言いたいかっていうと、この映画って女性=感情(⇒ポピュリズムの恐怖)のメタファーで描いていると思うんだ。もちろん癇癪持ちの男性キャラでもいいんだけど、個人的な怨みや嫉妬で核ミサイルを落としちゃうのはやっぱり女性ならではって感じが・・・
ダメだ!どう言っても女性の好感度下げてしまう・・・!!
でも女性の敵は女性って言うし、分かってくれる人もいると思うんだけど・・・あの私的なドロドロって言うのは男性にはあまりない感情だから。
もちろん大幅に戯画化しているんだろうけど。だから、まあ、女性のリーダーが悪いって言っているわけじゃないんだけどね。もういいや。何言っても誤解されるw
あともう一つきわどいネタなのは共和党の描き方だよね。ここも何を言っても火に灯油注いじゃう感があるんだけど、例えば『キックアス』ってアメコミでは、熱心な共和党支持者が自分の娘を殺人マシンに育てて親子でスーパーヒーローの自警活動をするんだけど、あの漫画は意外とそういう共和党支持者をあからさまにカリカチュアライズするような描き方はしていないんだよね。
多分読んだ人、作者の政治的スタンスとかは分からないと思う。私もわからなかったし。おそらく作者にとってはただ純粋にバイオレンスがやりたかっただけで、そのキャラが共和党支持者っていう設定に大した意味はなかったんだと思う。
これが同じくバイオレンス描写が目を引く『スターシップ・トゥルーパーズ』になると、もう少し意識的に風刺を行なっている。
あの映画に描かれる地球連邦軍が共和党のメタファーかどうかは分からないけど、少なからず超タカ派であることは間違いないし、「地球VSバグ」を「アメリカVSイスラム世界」に置き換えることは容易いと思う。
で、あれはどう考えてもそういった軍事政権をコケにしているんだよね。所々にカットインされる地球連邦放送の番組は戦争を礼賛しながら、それと同時にその愚かさを演出している。
なんでも『スターシップ・トゥルーパーズ』は最新作を日本のアニメーターが作ったらしいんだけど(『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』)、CMを見る限りシリーズのこういったメッセージ性をちゃんと読み取れているのか非常に心配だ。
ただ映像的にカッコいいところだけしか認識せずに、見栄えだけはいいアクションアニメになってなきゃいいんだけど、これに関しては鑑賞してから判断してみる。
で、なんでそういうことを危惧しているかっていうと、ユーストリームでも言ったけど、あの映画って倒錯が起きているんだよね。
戦争を徹底的に馬鹿にしているんだけど、その戦闘シーンがやたらかっこよくて、物語と映像のそれぞれが受け手に与える印象にねじれがあるんだ。だからあの映画を見て何人かに一人は絶対「戦争ってかっこいいな」って思っちゃうと思うんだよ。
その原因の一つが敵が虫だってことだってことに、この『アイアン・スカイ』を見て気づいたw『アイアン・スカイ』って公開当時、コメディ映画として見に行った人がラストシーンがなんだかなあって評価に困ったらしいんだけど、それは結局、この映画で描かれる下世話な戦いが「人VS人以外」じゃなくて人間同士だってことだよね。
だから文字通りひとごとじゃないから笑えない。
でも私、この映画に関してはこう落とすしかなかったんじゃないかって思うんだよ。あんなめちゃくちゃな大統領や広告屋出しちゃった以上、あいつらの愚かさを徹底的に描ききらないと、少なくとも私は納得しなかったと思うんだよね。
最終的に月のナチスなんか置いといて、地球の国家間で全面核戦争が起こるんだけど、それこそバカは死ななきゃ治らないっていうかさ。
あの大統領って結局のところ、当事者意識が欠如した私たちそのものであって、戦争すら広報活動に利用していたわけだけど、広大な宇宙の小さな星にみんなで生きている以上、その影響は自分たちにも跳ね返ってくるわけだ。
・・・いや実際は結構したたかに責任の所在をうやむやにして逃げちゃったりするんだけど、全面核戦争じゃそれこそ身の破滅だろう。そこまでいかなきゃ自分の想像力のなさを痛感できないってことなんだよね。
んで、ああいうオチってやり方としてはイギリスのブラックコメディとかに近いよね(最後は何故かみんな死ぬw)。
だからああいう『映像の世紀』的な終わり方でもいいけど、そうなると前半のコメディ調とのギャップで当惑しちゃう人がいるのも確かなので、地球の全面核戦争の映像にコミカルな曲を合わせちゃうのもアリだったかもね(8時だよ全員集合的な)。
でもやっぱこれ笑い事じゃないんだよ。だから最後は意表をついてああいうシリアスな感じでOKだったんだろうな。
別に国際問題とか戦争について考えろ!って言いたいわけじゃなくてさ・・・相手の立場を尊重して思いやるためのちょっとした想像力が、今の私たちには欠けてると思うんだよね。
だからリアルと創作がことごとく断絶している状況が私はどうかと思うんだ。で、その割には勧善懲悪な文脈だけは現実に持ち込んじゃって短絡的な善悪二元論でファジーな問題を捉えてしまう。
最近第二次世界大戦の本を読んだんだけど、ヒトラーの思想ってけっこうつかみどころがないんだよね。連合国とはもちろん敵対してたけど、ドイツ社会主義労働者党を母体としながらも共産主義勢力とも敵対していたわけじゃん。
で、お前は結局どっちやねんwって思ってたんだけど、結局大衆にとって政治は右か左か、保守か革新かといったテーゼやスタンスなんてどうでもよくて、自分たちの日常生活(=景気)さえなんとかしてくれればいいんだよね。理想じゃなくて現実があるわけだから。そういえば自由民主党だって結局保守なんだかリベラルなんだかよくわからないもんね。
つまり世の中なんて理屈で白黒つけられる方が希で、結局は曖昧なままグレーで動いていくんだよね。そう言う意味で、理屈じゃなくて大衆の感情(アーリア人のプライド)に訴えかけたヒトラーの戦略は本当にうまいし、恐ろしい。
その現実について大衆がどれだけ意識的かどうかで、歴史の流れは変わっていくのかもしれない。悪や敵はどこにいる??
人々が思考しないことは、政府にとっては幸いだ。――アドルフ・ヒトラー
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