「面白い度☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆」
こんなことなら浪費グセを直しておくんだったな。
家庭や学校で大人が「いじめは良くない」とか綺麗ごとの説教するよりも、この映画見せればみんないじめやらなくなるんじゃないか。この映画に描かれるナチスドイツによるユダヤ人の虐殺はいじめの究極形だ。
学校で感想文を書かせると「戦争は良くないと思います」「平和は素晴らしいと思います」という一辺倒のリアクションで終わってしまうが、戦争や虐殺をしたくてこの世に生まれた人間はいない。いけないことはみんなわかってるんだ。なのに人間の歴史では時にこういうことが起きてしまう。自分とは離れた世界のことと遮断しないで、不愉快かもわからないけれど考え続けていこう。
もちろんこんな深刻な映画を見ても、1000人に一人くらいヒャッハー映画として楽しんじゃう人がいるのも否定はしない。それは個人の自由だ(頼むから実行はしないでくれ)。
そして、ユダヤ人をゲームのように嬉々として殺したナチスの将校の気持ち、ちょっとわかるって正直に言う人のほうが、案外信頼できる人物かもしれない。というのも、とある実験では2.8%のドライバーがわざわざ道をはみ出してまで動物をひき殺したのだという。
私たちの心の2.8%にはそういったスーパーヴィランが存在するのだ。
アメコミ作家グラント・モリソン氏は『スーパーゴッズ アメリカン・コミックの超神たち』の最後の章「スター、伝説、スーパーヒーロー、そして超神?」で、偉業に対する価値が下がった現代では、誰もがスター、伝説、天才であり、ならいっそ行くところまで行って、みんなでスーパーヒーローを名乗ってはどうだろうか?と提案した。私が印象に残った一節を引用したい。
多彩なマスクやコスチュームで正体を隠し、身を挺して地域に貢献する、この先駆者たちはいったい何者であろうか?オレゴン州ポートランドには“ゼータマン”がいる。彼は町内を巡回し、ホームレスに食事や衣服を送っている。ジョージア州アトランタの“クリムゾン・フィスト”は、月に二回街に繰り出して助けが必要な人々を探す。
(略)しかし、衝撃的なことに、カーテンや家電製品で身を固めた彼らは、実在するのだ。(581ページ)
ふと私たちは、線路を渡って街に入ってくる二人に目を留めた。その片割れは髭面の普通の男であり、一見何の変哲もないコミックファンであった。しかし、もう一人はスーパーマンだった。(略)ファン大会でよく練り歩いている、貧相だったり、太鼓腹だったりするスーパーマンとは異なり、身ぎれいで、たくましく、ハンサムだった。
(略)駆け出して二人を捕まえたダンと私は、自己紹介し、事情を説明し、いくつかの質問に答えてほしいと“スーパーマン”に頼んだ。彼は承諾し、コンクリートの車止めに腰かけた。片膝を胸のマークにあてたその様子は、完全にくつろいでいた。これこそスーパーマンの座り方であると、その時私は思った。決して傷つくことのない者は、常に悠然とくつろいでいるものである。一般的なスーパーヒーローが好む、威嚇的な身のこなしは彼には必要ない。突如として、スーパーマンに対する新たな視点が開けた。私たちは質問した。「ロイスについてどう思う?」。「バットマンについては?」。返答する声色や内容は、まさにスーパーマンそのものであった――「私や、私の行動をロイスが真に理解することは決してないだろう」。「バットマンは人々の心の暗黒面だけを見つめている。いい面にも目を向けてくれればいいのだが」――実に説得力があった。(588ページ)
600ページ以上にもなる分厚い本なんだけれど、なかでも私はこの章が大好きで何度も読み返した。スーパーヒーローは実在するのだ!と。
ニコニコ動画やピクシブで確かにクリエイターやアーティストの地位は相対化し、誰でもそれらを名乗れるようになった。ではモリソン先生が言うように誰もがスーパーヒーローになることはできるのだろうか?
かつて日本でもタイガーマスクが恵まれない子供にランドセルを届けてくれたことがあったし、最近ではご当地を守る戦隊ヒーローがたくさんいるらしい。実に勇気づけられることだけど、問題は自分自身が実際に困った人に出会ったら、どれだけのものを犠牲にしてその人を救うことができるのだろう?ということ。
そんな利他的な善行は歴史の本に載るような聖人君子しかできないよ、と人は思う。私もそう思っていた。
しかしスピさんが『ジュラシック・パーク』の次に撮った(!)この映画を見て私の英雄観はかなり変わった。1100人のユダヤ人を救ったオスカー・シンドラーは決して超人でもなければ人格者でもなかったということだ(※この映画のシンドラーを論じています)。
私はこの映画すごい長かったからか、最後の方(車も売っときゃよかった)しか覚えてなくて、今回再び見てみたんだけど、シンドラーってもともと一攫千金を夢見る野心的なベンチャー起業家で、戦争に乗じてユダヤ人を安く使って大儲けしようとしていた、めっちゃ業の深い人だったんだ。
もうホリエモンとかワタミみたいなもんで、平時の今、シンドラーが生きて鍋工場やってたら、ブラック企業とか言われてツイッターで叩かれていただろう。ポーランド人よりもユダヤ人を積極的に雇用したのは、とにかく安く使えたからだ。
英雄は時代が作るとか言いたいわけじゃない。私が衝撃的だったのはこんな人でも英雄的な行為ができるんだっていう希望。つまりワタミの社長だって、もしかしたら時と場合によってはシンドラーなのだ。
シンドラーを英雄にしたのは、結局経理を担当したユダヤ人のシュターンって気もする。彼が頭を使って、真っ先に処分されちゃうような弱い立場のユダヤ人を雇用し、なんとか命を救おうと裏工作をしていたわけで(私も先に粛清される部類の人間だと思われる。1980年代のジャパンに生まれて本当に良かった)。
んでそれに気づいた我らが社長シンドラーは、もちろんこう返す!「冗談じゃないよ!」THE保身!気持ちは分かるぞ!
それがナチスのユダヤ人排斥が激しくなるにつれて、シンドラーもついにユダヤ人の青田買いを開始する。自分の工場の労働力にするためにではなく、収容所送りになるユダヤ人の命を救うために。
彼の手段と目的がいつの間にか変わった動機は大したものじゃない。それは誰にだってある罪悪感だ。『リンカーン』でも思ったけど、スピ監督は歴史的な英雄を、一般的な悩める人間に落とし込んで演出するのが、得意というか好きらしい。
シンドラーは、勧善懲悪の作品ならば極悪非道の敵キャラである、ナチスの将校を接待し、おだてて、すかして、賄賂を贈り、ユダヤ人を金に物を言わせてガンガン買って行く。
ホリエモンは「人間お金で買えないものはない!」とか言って世間の顰蹙を買ったけれど、この映画やツチ族フツ族内戦を取り上げた『ホテル・ルワンダ』などを見ると、それはある種の真理だということを認めざるを得ない。
人の命はお金で買えるのだ。
もし当時のシンドラーにあの地位と資産がなければユダヤ人を一人も救えなかっただろう。もしポール・ルセサバギナさんにミルコリンホテル副支配人という地位がなければ1200人のツチ族はナタでバラバラに殺されていただろう。
地獄の沙汰も金次第。どんなに汚い手だろうが、手段を選ばずに切れるカードは全て切ったからシンドラー社長は大勢の命を救うことができたのだ。
英雄には二つのタイプがいると思う。シンドラー社長やルセサバギナさんのように、凄惨な状況に不可抗力で巻き込まれちゃって、なにがなんだかわからないまま英雄になってしまうタイプと、ガンジーやネルソン・マンデラ大統領のように、そもそも不屈の闘志が自分の中に存在するタイプ。
前者は言ってみれば優柔不断が吉と出て、後者は頑固さがものを言った。つまりスーパーヒーローにはどんな気質の人でもなれるのだ。必要なのは社会的な立場なのかもしれない。ガンジーはもともと南アフリカ共和国の弁護士だ。
なんで急にガンジーが出てきたのかというと、リチャード・アッテンボロー監督の『ガンジー』も一緒に借りてきて、英雄映画祭りをやってたんだよね。あと『ガンジー』も『シンドラーのリスト』も『ジュラシック・パーク』に関係してるじゃんw
『ガンジー』の冒頭部で、ハモンドさんがガンジーをどんな人間として描こうとしているかがわかる。1893年のこと。ガンジーが列車の一等車に乗っていたら、おめーはインド人だという理由で列車から放り出され、その時の屈辱がガンジーの太陽にトリチウム注いでしまったのだ。
これって考えてみれば結構個人的な感情なわけで、それがきっかけになってインド独立までこぎつけちゃうんだから、本当にシンドラーとは真逆のタイプの英雄だ。
テロは圧政を正当化する。
善意はともかく支配するというのは侮辱です。
正しいとは思うけど、ここまでしなくても・・・(『ガンジー』)
頑固者というだけでは収まらないレベルの意志の強さが、不暴力不服従という聖人しかできないような運動を多くのインド人に実行させた。
その結果、ある時には集会を行った1500人の命が犠牲になった。シンドラーやルセサバギナさんが救った人の数よりも多い数字だ。それでもガンジーは自分の意思を貫いた。こう考えると、この手のタイプの英雄と独裁者は紙一重というか、ガンジーは世界一の頑固者だったんだと思う。
頑固といえばアパルトヘイトを撤廃したマンデラ大統領も似たりよったりで、無理ばっかして全然休もうとしないし、二人とも逮捕と刑務所暮らしはへともないらしい。
私が我が運命の支配者。私が我が魂の指揮官なのだ。(『インビクタス負けざる者たち』)
運命を支配した英雄ガンジー、マンデラ。運命に翻弄された英雄シンドラー、ルセサバギナ。ガンジーやマンデラの生き様はちょっと常人にゃ無理だけど、シンドラー社長くらいの英雄なら、ある程度の社会的立場とほんのちょっとの良心(罪悪感)でなれるはずだ。
そして『フェアゲーム』で私は自己保身で人はいくらでも残酷になれると言ったけど、実はその逆もありうるんだっていうことを私は知った。自己保身のためなら人はどんな英雄的行為も厭わない。
シンドラーが最終的にあそこまで熱心にユダヤの人を救ったのは、チャリティー活動に目覚めたとか、いいことをしている俺に酔ったとかそういうことだけじゃない。
もしシンドラーの活動が中途半端に終わったら、それこそ自分の身の上が危ないからだ。そう言う意味で途中から彼には選択の余地はなかったのだ。
さあネットでワタミを叩いているキミたち!カーテンと電化製品を用意してスーパーヒーローになろうじゃないか!
助けが来ないわけありません。虐殺を目撃するんですよ?
だけど、あの映像を見た人は「怖いわね」っていうだけで夕食を続ける。(『ホテル・ルワンダ』)
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