中学時代からファンだった生物学者佐倉統さんがツイッターをやっていた。そしてそのツイートがかなり面白い。某漫画や某番組をばっさり切っていたり、著作では味わえない毒舌?ぶりが味わえる・・・と思ったけれど、著作でもまたに毒が滲んでいた(^_^;)
さらに今日、本人についミーハーなメッセージを送りつけ、返信をもらってめちゃくちゃ嬉しかったので、ちょっとだけ佐倉統さんについて語りたい。
佐倉先生は、東大で心理学を学んでいて、その後京都大学で霊長類の研究をされた学者さんで、専門は進化生物学。でもこの人のなにが凄まじいかかって、論考する対象の射程の広さ。文理融合というか、とにかくバランス感覚がすごい。
科学史や科学哲学、文明論までひっくるめて、その本質をバシっと鋭く、時に大雑把に語り倒してくれるのが、アクロバットかつスリリングで最高。『ロストワールド』※原作版で言うならば、ディティールを重要視するレヴィン博士タイプではなくて、「オレの神は本質に宿るんだ」というマルカム博士型。
で、とにかくどの本も面白いけれど『進化論の挑戦』が個人的にはフェイバリット。科学と政治は相容れないとか、結局科学は政治的思惑や経済的合理性にはかなわないという考え方もあるけれど、この本は真逆。環境問題やジェンダー問題といった政治的な諸問題を圧倒的科学理論で飲み込んでしまう。
ここら辺の考えの中核は、E・O・ウィルソン博士なんだろうけれど、とにかく文章が卓越していて、難解で抽象的な話にバシバシイメージが与えられていく。その文章力がとりわけバーストしたのが第6章で、カントの『純粋理性批判』の大雑把なイメージをつかむ上で、この本以上に上手な文章を私は知らない。
哲学的にどう考えても強大なアポリアである、鏡の裏側問題を、カント以降の生物学者がどうのように研究していったか、また、そこから話はフロイトに飛び、「神は心のウィルスだった」という中原英臣先生もびっくりの仮説にたどり着く。ミームや進化心理学だ。
近年、政治も経済もゲーム理論で解釈しようとする流れがあるらしいけど、この世界で最も歴史が長いライフゲームは進化と生存競争だ。だから、佐倉先生は最語にこう締めくくる。
「日々の暮らしに進化論!進化論のある生活!」
私生物学の本でここまで爆笑したことはないよw
とにかくとんでもなく面白い本で、最初のバージョンは絶版なんですが、確か文庫版は現在も売っているので、クリスマスプレゼントに悩む親御さんたち、可愛い我が子には是非この本を!各チャプターの終わりのリチャード・ドーキンスやエドワード・ウィルソン、マイケル・ルースさんらの人となりがわかるおまけも面白いです。
ただ文庫版は表紙のサルがトラウマ並みに怖いっす(^_^;)
さて、自分が佐倉統さんを知ったのは今から16年前で、『この素晴らしき生き物たち』という荒俣宏さんとの共著になる。この本の対談で、「人工生命の理論で言えば、0と1、つまり存在しないと存在する、の差は大きい。そして1と2、つまり複数存在するの差もまあ大きい。けれど、2以降はあまり変わらない」という話があった。
だけど、最近なにげに「2と3の差も大きいんじゃなかろうか」って思うようになってきた。3って数字ってなんか、政治力学的にはすごい面白いと思う。安定感があるというか、パラドキシカルというか。
コンドルセの投票のパラドクスって話があって、なんとまあ、選挙において二つの大きなイデオロギーの対立ならともかく、政策争点が多様化し、3つ以上になると、投票行動に重大な矛盾が生じるという。これは実は現行の中学校公民の教科書にも名前は出てこないもののちょっと触れられている。
例えば、政策争点が3つあって、政党も3つ。各政党がそれぞれの争点において最も支持が高かった場合、どの政党が最も与党に望ましいかが判断できない。
ほかにも、A党が40%の支持で与党になっても、B党、C党の支持者の合計、つまりアンチA党の人は全体の6割もいることになり、多数派が正しいという多数決の原理も覆る。
こういう話を証明したのが、アローの一般可能性原理なんだけど、こんな話を中学生にさりげなく解説しちゃうのが池上魂。そう、公民の教科書、池上彰さんが関わっているんですよね(^_^;)となると、今の国民が、選挙って本当に意味あるのって、投票権を放棄しちゃうのもある程度の合理性があるのかもしれない。
また、こういった三すくみの状態を、強固であるべき政治の基盤においた、モンテスキューの理論(権力分立)はやっぱり天才的だと思う。流動的に動くべきではないものにおいては3という数字は、かなり使い勝手がいいのかもしれない。3を2にしてしまった時、もしかしたら予測のつかない政変が起きたり。
天文学でも三体問題っていうのがあるらしいし、だいたいイスの脚だって2本じゃ立たないからね。3本からやっと立つからね。でも脚の形を変えれば1本でも2本でも立つか。・・・立つか!
脱線しましたが、まあ、カンブリア紀の生物をライフシミュレーション的にどう考えるべきかの本な、わけです。
すっごい昔の本になっちゃったけど、当時としてはアナクロな印象のあった生物学をデジタルに捉えてて、やたらかっこよかった思い出があります。
ドーキンス博士の『利己的な遺伝子』もそうだったけど、多分DNAが割とデジタル情報だったからなんだろうなあ。佐倉先生語りおしまい!
・・・以上のような連続ツイートを投下したんですが、そしたらなんと佐倉先生ご本人がフォロー&ダイレクトメールでいろいろお話をしてくださって(科学者はマルカム博士みたいにマッドであるべきである!とかw)、私はもう赤塚不二夫先生以来の、近年稀に見る幸せを感じました。だって佐倉統だよ?サイエンスゼロ(NHKの科学番組)で安めぐみさんと共演しているような人だよ!?
しかも佐倉先生ってこの前、うちの地元に講演でやってきたらしいんですよ。くそ~佐倉先生のツイッターアカウントをあと一日早く見つけていたら・・・有給をとって会いに行ったのに!
とにかく佐倉先生ありがとうございました!これからも先生の本を買ったり、読んだりして応援しております!すごい気さくな人で更にファンになったよ、あたしゃ。
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