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許せ。持病に保険は使えない。治療費は自己負担だ!
『アホでマヌケなアメリカ白人』のマイケル・ムーア監督のアメリカの経済体制を批判したドキュメンタリー映画。一言でまとめれば、資本主義は非民主主義だ!キリスト教の精神でも極悪非道!という内容。
これは、2013年最後にレンタル店で借りて見て、もっとも衝撃を受け、即DVDを購入した映画で、『ゼロ・グラビティ』は怖いといっても自分が宇宙飛行士になる確率はほぼ0だし、これまでのマイケル・ムーア作品も、どれも対岸の火事というか。
だから「可愛そうだなあ、大変だなあ。でもわたしはげんきです。」で済んでいた。『ボーリング・フォー・コロンバイン』※銃が規制されてる『華氏911』※そんなイスラム圏の人たちの反感買ってない『シッコ』※一応国民保険制度大丈夫・・・でも今回は他人事じゃいられない。この記事を読んでくれている人(特に社会人になる前の若者)。この映画は絶対見てほしい。そして是非考えて欲しい。
国家の90%以上の富を1%の富裕層が独占しちゃっている社会状況を、シティグループは富裕層向けの極秘文書で「プルトノミー」と名づけたらしいんだけど、日本もこのまま新自由主義的な改革が進めば、間違いなくこの構造になるし、実際半分くらいなりかかっている気もする。
幸いなのは、まだ社会保障制度が生きていることと、投資銀行のようなハイリスクハイリターンの不健全な金融システムが日本には存在しないという点。ただ、今後若い層を中心に、自由主義のが好き勝手できていいじゃん!て感じになると、ネットで鬱憤を晴らす若者の味方の安倍さんは、きっと自由のために戦ってくれるので、今のうちにプルトノミー社会に備えていったほうがいいのかもしれない。
この映画で取り上げられるプルトノミーという社会構造は、実際おととしに自分の作品(『CRIMSON WING』)にも取り上げ批判していたのだけど、今回経済学をちゃんと学んでから、もう一度考えると本当にシャレにならないように思えてくる。
あの作品では、題材となった中国でも問題になっているシャドーバンキング、いわゆる投資銀行は描かなかったし、サブプライムローンの巧妙な仕掛けも今思えばカットしたのはもったいなかった。まあ、当初は漫画の脚本として書いていたから、そこまで突っ込んだ話はストーリーのテンポ上不要だったんだけど、今回は小説ということで、ここら辺が描けると思うので、そこらへんの問題は小説を読んで欲しい。
じゃあ、この記事では何を書こうかっていうと、アメリカの経済がどのように変遷していったかをまとめて、ムーア監督が批判するネオリベ、新古典学派、マネタリズムは、実際どこにメリットがあってここまで支持されて、どこがいけないのか、また、ムーア監督はやっぱり民主党支持者っぽいのだけど、オバマさんがやろうとしているケインズ的な手法はなぜ第二次大戦後破棄されちゃったのか、どこに問題があったのだろうか、さらになぜムーア監督は、資本主義という経済的な議論に、かなりの尺をさいてキリスト教の教えを持ち込んだのか。そこらへんをちょっと。
そもそも経済学ってどういう学問なのかというと、どの本にも書いてあるのは「経済学は限られた資源や富をどうやって公平、適切に分配するか、それを研究する学問」だという。
したがって経済学には明確な大義名分、目的があるということになる。エコノミストは金儲けの仕方を研究しているわけじゃないのだ!バーン!
となれば、アメリカの経済体制は全然富が公平に分配されていないわけだから、そう言う意味でも大失敗、極悪非道と言われても仕方がないやってなる。
慶応大学経済学部卒の池上さんいわく、もともと「経済」とは「エコノミー」を指し示す和訳語だけれど、なんでそんな字を明治時代にあてたのかというと、中国の「経世済民」・・・世を治めて民を救うという言葉がいいやってことになったらしい。つまり経済とは民を救うものなのだ。
ただ、もうひとつ廃れちゃった方で「理財」って言葉があって、個人的にはこっちの方が経済学にはぴったりな言葉って気もする。材のことわり、だからね。
ちなみに本家エコノミーの語源はギリシャ語の「家計」だ。よってこの、家計という意味の言葉に、経済を当てた人は相当意識が高かった気がする。
給料は平等。経営方針は全員で決める。このやり方で、より利益を上げるなんて…やるじゃないか。
さて、ムーア監督がなぜオバマ以前のアメリカの経済システムを徹底的に批判するのかは、明白だ。経済がもたらす結果が不平等じゃダメなのだ。経済学の本って面白くて、本によっては新古典学派を持ち上げ、本によってはケインズ経済学を持ち上げている。
つまりプロのあいだでも議論が分かれている状態。でもじゃあなんで、ここまで社会を不平等にした新古典学派がアメリカや日本でも支持されるようになったのか、自ら進んでこんな世の中を望む人はそうそういない。小泉さんやレーガン、ブッシュ大統領を支持したオレ達国民は(私はしてないけどw)、どういう了見で新古典学派の小さな政府がいいと思ったのだろう。
まず、新古典学派は、国民にとやかく干渉せずに自由にやらせたほうがいいという立場を取る。これは親や学校にいろいろうるさいこと言われた反抗期の若者及び大きな子どもにはウケがいい。しかし、自由にやってもいいっていうことは裏返すと、その尻拭いもほかの人のせいにしないで自己責任で自分でやってくれよ、ということになる。
子どもが子どもたる所以は、権利だけを主張して、自分に都合の悪い義務や責任を人に擦り付ける点で、煎じ詰めれば、甘ったれってことなんだろうけれど、新古典学派は、そう言う意味で、人間は、もっと大人――つまり自立意識が高いものだ、という人間観の前提があるように思える。だからこそ徹底的に自由にしたほうが、自分の才能を活かしてみんなが活躍ができる、と。
その上、フリーライダーを阻止するためには、政府のセーフティネットもとっぱらっちゃって、グダグダしてたら本当に死んじゃうようにすれば、ちゃんと働いてくれるだろうと言うわけだ。
新古典学派、とりわけシカゴ学派という勢力を作った中心人物にフリードマンという人がいる。名前がいいよねww「フリー」ドマンだもんw
この人は、とにかく独創的で面白いアイディアをバンバン考える人で、もうぶっちゃけお前はSF作家か、って言うくらい次々に革新的な提案をした。その魅力にアメリカ人は惚れちゃったんだろう。優れたSFはリアルと区別がつかない・・・はクラークじゃなくて、私が今思いついた言葉だけど、すなわち天才フリードマンはSF的なアイディアで現実を変えてしまったのだ。
フリードマンは、国家が行う事業をガンガン民間に任せれば社会はうまくいくと考えた。もう利権の温床になっちゃっていて不平等だから、本当にそのビジネスの才能があるやつに開放したほうがいい、と。
でもどいつがその才能に恵まれているかよくわからないから、とりあえず医師免許とか教員免許とかもなくしちゃって、やりたい人みんなにやらせて腕のいいやつを生き残らせればいい、そんなダーウィニズムを繰り出したわけ。公益のために下手な商売をする奴は潰れちゃったほうがいいんだ、ということ。
もっと言えば国家が定める最低賃金もいらないし、社会保障制度も民間に任せちゃえ、公営の道路もニューディール政策で十分もう作っただろ、いらねえ。みたいな徹底的な夜警国家構想がある。国は国防と通貨供給量(マネーサプライ)の安定さえしてればいいよってw
こうやって考えるとすごいラディカルな考えに思えるけれど、資本主義ってある意味公平な投票制度とも言える。政治家に投票するよりも、もっと直接的で効果的な選択方法が、購入というわけだ。
そもそも資本主事とは社会がどんな商品を求めているか意思表示するしくみだ。
だから、発展型の国家は政府主導で公共事業をやって、ガンガン経済成長させればいいけれど、ある程度国が発展し豊かになっちゃった場合は、政府は自分たちの仕事を民間企業に任せて見守っていればいい。これが国家の正しい発展の仕組みなんだという。
子どもを独り立ちさせるためには親はいつまでも子どもの面倒を見ていちゃおせっかいっていう話に近い。
もともとアメリカってボストン茶会事件を見ればわかるように、上からあれこれ言われて自由を規制されるのをスゴイ嫌う。セルフエスティームが強いんだ。
この映画のラストで出てくるルーズベルト大統領はニューディール政策(大規模な公共事業で失業者を減らす)で、世界恐慌や第二次大戦を乗り切ったんだけど、この政策の中心概念が、国家主導で安定した社会を築いていこうというケインズの考え方なんだ。
ルーズベルト大統領の死後、大統領の側近だったスタッフは、敗戦国の戦後処理を担当し、皮肉にもアメリカに作れなかった手厚い社会保障システムを日本やドイツに構築したという。
そんなムーア監督が支持するルーズベルト大統領の経済政策を、なぜアメリカは自ら捨ててしまったのか?これもアメリカ人みんながアホでマヌケだからってわけじゃない。一応ちゃんとした事情がある。
つまり、さっきも言ったようにある程度国家が発展し切っちゃうと、ケインズのやり方ではインフレが発生してしまうのだ。
失業者を減らすために公共事業といっても、シムシティ系のゲームの末期のように、もうどこもかしこも開発され尽くされてしまえば、大規模な公共事業をやる意味も余地もなくなってしまう。
こうなると、失業問題の処方箋としてはほとんど効果がないし、労働者の給料を維持するためには、商品の値上げをメーカーはするしかないから、物価はどんどん高くなっていってしまう。失業率とインフレ率はトレードオフ、シーソーの関係になっているのだ(フィリップス曲線)。
また、ケインジアンは、景気が悪くなったらその場で政府が財政出動をかける「裁量主義」という戦略を取る。つまり、景気が悪くなるたびに政府は赤字国債(これ考えたのケインズ)を発行して、公共事業を増やしたり、ヤバそうな企業に財政投融資をするわけ。
そうなると問題になってくるのが、赤字国債が増殖するアメーバのように増大していっちゃうということと、政治家の利権発生。
つまりゼネコンに応援されている政治家は、有権者のためにも正直もう開発するところねえだろ…と思いながらも公共事業を打ち切ることができない。そういった国家規模の「付き合い」によって国の借金はえらいところまで行ってしまった。
最近姿を見せなくなっちゃったけれど、小沢一郎さんはこの状況を「だめだこりゃ」と思って、94年に衆議院選挙の中選挙区を小選挙区制に変えて(政治改革四法)、族議員と圧力団体のしがらみを断ち切ったわけで、その恩恵によって小泉さんは「自民党をぶっ壊す」ことができ、郵政民営化が実現したわけだ。
さて、フリードマンの新自由主義やマネタリズム、ケインズの裁量主義のいいところと問題点をそれぞれさらってみた。大学のマクロ経済学で、段々ついていけなくなった私の気持ちがちょっとわかるよね?どっちがいいかがさっぱりわからん。
ただ昨夜、私、この相反する二つの経済政策における共通する問題点をひとつ見つけたんだ。それはモラルハザードなんだよ。つまりケインズは政治家、フリードマンは企業のCEOが公共の福祉を忘れて身勝手な戦略を取ると、社会はめちゃくちゃになってしまうという。
これはマルクス経済学も一緒だろう。社会主義という素晴らしい理想がなぜリアルでは独裁国家を産んじゃったのか、これも大統領や書記長のモラルハザードにほかならない。
それを踏まえれば、古き良きアメリカを愛するマイケル・ムーア監督が、なぜ経済問題を取り上げた映画の中核にキリスト教を置いたのかが分かるだろう。
子どもの頃、僕は聖職者に憧れた。シャレた祭服が着られて、騎士会がお供につくからじゃない。尼僧が優しくしてくれたからでもない。憧れたのは公民権運動への関わりや反戦運動、貧しきものに身を捧げる姿だ。
彼らはイエスの言葉を教えてくれた。“人は最も貧しき者への接し方で裁かれる”
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