コミュニケーション
記号を媒介として、他者と情報を伝達しあうこと。
動物にも見られるが、人間に固有のコミュニケーションには、記号の中でも間接的な象徴(言語)を媒介として他者と情報を伝達しあうという特徴がある。
言語以外のコミュニケーションには、絵画、彫刻、音楽、演劇、写真、映画、舞踏、漫画、服飾、料理、工芸、建築、園芸などがある。
一般にコミュニケーションは、人間同士が直接的に情報を伝達し合うパーソナル・コミュニケーションと、大量の斉一的情報が不特定多数の人々に伝達されるマス・コミュニケーションに大別される。
マーシャル・マクルーハン
カナダの英文学者。メディアの研究で知られる(「メディアはメッセージである」)。
著書『グーテンベルグの銀河系』で印刷技術の普及によって、これまで聴覚、触覚中心で生きていた人々を、視覚中心の世界に生きるように変えてしまったと論じた(非均質的、非連続的から均質的、連続的へ)。
そしてこれは部族中心の社会から個人中心の社会への移行に対応する。さらにマクルーハンは、現代の電子技術が活字文化から口承文化への先祖返りを促しているとも考察している。
マクルーハンによれば「国民」の概念(ナショナリズム)は印刷技術の普及以前にはなかったという。
メディア
コミュニケーションの手段を指すが、もともとの語源は中間を意味する。
メディアは本来人間が開発したものであるが、メディアが人間世界を創造するという一面もある。
マクルーハンはメディアを人間の精神的なあるいは肉体的な拡張として理解した。
ウォルター・リップマン
第一次世界大戦後に発表した著書『世論』でマスメディアが伝える情報は単純化されたイメージに過ぎず、大衆のステレオタイプを形成する特徴を指摘。またステレオタイプは偏見と結び付き、世論調査に利用されやすく、極端な行動に導く危険性があると考えた。ちなみに冷戦という言葉の名付け親でもある。
コミュニケーション二段の流れ
エリー調査によると、マス・コミュニケーションの過程では送り手のメッセージが直接受け手に伝達されるとは限らず、受け手集団に属するオピニオンリーダーを介して受け手に伝達させる場合、マス・コミュニケーションはパーソナル・コミュニケーションと接合した二段の流れになっている。
またファシズムの中で学校の教師がオピニオンリーダーの役割を演じることもある(擬似インテリゲンチャ=エリートっぽいけど実際は大衆)。
効果研究
マスコミがどのような効果を上げているか研究する。
ここでの効果とは、送り手の意図したように受け手の態度や行動が変化することを指す。
利用と満足の研究
マスコミに人々がどう満足しているかを研究する。マスコミが送り手の意図とは異なる効果を上げることを強調。
マスコミが効果を上げるには、人々の満足に結びつく必要があるので、効果研究と、利用と満足の研究はコインの裏表の関係であるといえる。
リチャード・ホガート
カルチュラル・スタディーズ(文化研究)草創期のイギリスの英文学者。
大衆的出版物(新聞、雑誌、小説)などから労働者階級は「自分を甘やかすこと」を学んだと分析。それらの活字を読み解くリテラシーを問題にしている。
プロの送り手
インターネットの普及で誰もが情報の送り手になることができるようになったが、プロとアマの境界はなくなったのではなく、むしろ明確化されたとも考えられる。
プロの送り手には固有の職業倫理が求められ、自らのコミュニケーションの過程全般に対して責任を負わなければならない。
ネットによって明確化されたのは誰もが情報の送り手にはなれないという事実であった。
社会心理
欧米には、それを実態的に捉えるのが困難であるからか「社会心理」に当たる言葉が存在しないと言う。これに対して「社会心理学」という言葉は欧米にも存在し、そのアプローチは心理学的(個人の心理が研究対象。中心的方法は実験)なものと、社会学的(集団の心理が研究対象。中心的方法は調査)なものがある。
テキストでは社会学的アプローチを取り上げ、社会心理を「社会のメンバーに共有されている心理」と定義する。
社会心理の研究の源流は19世紀後半のドイツにおける民族心理の研究にあるとされ、民族心理とは民族的アイデンティティの中核をなすものだと捉えられていた。
ヴィルヘルム・ヴント
実験心理学を創始したドイツの心理学者。
民族心理を個人心理の相互作用から生まれると考えた(構成心理学)。民族心理は個人心理から完全に独立した実態ではないが、それはそれぞれの個人心理にも還元できないとしたヴントは、具体的な研究対象として、言語、芸術、神話、宗教、法律などを取り上げた。
ヴントの研究の中でも国民性は現在でも様々な文脈で用いられている。それは、ある国家のメンバーが共有するパーソナリティの特性を指す。
ギュスターヴ・ル・ボン
フランスの社会心理学者。
固有の規則や名簿を持たない人々の集合である群集を研究した。群衆とは未組織の集団であり、それは古来から存在したものの、近代における産業化、民主化、都市化などの要因によってさらに台頭してきたと考えられている。
ル・ボンは、群集心理を「人間は集合化することで、感情や本能に支配されるようになる」と分析し、群衆は革命的であると同時に保守的でもあるという。つまり熱しやすく冷めやすいことが群衆の属性と考えられる。群集心理の研究は、パニックや暴動の研究としても行われている。
オルテガ・イ・ガセット
これに近い言説としてはオルテガの『大衆の反逆』が挙げられる。大衆は自分を指導することができない存在であり、その大衆が社会を指導するようになったことはひとつの反逆であるとオルテガは考察した。オルテガは社会のメンバーをエリートとマス(大衆)に区分し、前者が特別な素質を備えた人、後者は平均的な人だと定義した。そしてオルテガは大衆が政治に影響力を持つようになったことをファシズムなどとともに批判した。
民主主義とは、無知蒙昧な大衆がデマゴーグによって簡単に扇動されてしまうような危険性を持つラディカルな政治形態だと考えられていたのである。
エーリッヒ・フロム
ファシズムが人々に支持された理由を、アメリカの社会学者フロムは、自由を獲得した近代の人々が自由から逃れる道を探した結果にあるとした。
近代人は、自由であるがゆえに孤独な存在である。そのため自由を得たいという欲求とともに、自由から逃れたいという矛盾した欲求に常時さらされている。そのような意味では『自由からの逃走』はある種のパニック現象(自己保存欲求に基づく集合的な逃走)であったとも考えられる。
デビッド・リースマン
社会心理(社会的性格)を伝統的な儀礼や慣習に従う「伝統指向型」、自分の中の指針に従う「内部指向型」、他人からの信号を受け取るレーダーに従う「他人指向型」の三つに分類。この中で内部指向型から他人指向型への移行が20世紀以降に見られ、数多くの孤独な群衆を生んだ。
リースマンは政治的無関心を伝統型無関心(政治についての知識がないのでプロの政治家に任せておけばいいという態度)と現代型無関心(政治に対する知識はあるが自分とは無関係だとして参加しようとしない)に分類したことでも有名。
党派性
また社会学者による社会心理に対する議論が一般の人々にとって説得力のあるものかどうかは難しい問題である。社会学者がある集団Aの社会心理をBであると考察したとき、それについてその集団が違和感を持つ場合がある(集団Aは自分たちの社会心理をAだと思っているから)。
その文脈ではイデオロギーの研究は、外部からその集団を観察する社会学者にとって苦々しい事実を突きつけた。つまりAが集団Bの党派性を問題にする場合、そのA自身の党派性は問題にされないのである。
しかしこのような完全に客観的な立場に立つことは、現実問題として果たして可能なのであろうか。集団Bを評価する際、評価する側の党派性がバイアスを与えていることは十分考えられる。
ジャン・ボードリヤール
大衆心理として興味深い点は、大衆自身が大衆文化の流行を追いかけ続けることで、自分の他の凡庸な人々と差別化を試みようとしている点である。しかしそれは、非凡な人々と自分を同一化しているとも言える。
ボードリアールはこのような現代の消費社会を記号論の立場から研究をした。ボードリヤールによれば消費社会そのものが唯一の神話として機能してしまっているのだという。
消費社会では、人々は商品の実体(現実)ではなく、他人が持っていない“差異”を消費しており、このような社会をシミュラークル(まがい物)という概念を使って悲観的に分析したのである。
宗教
超自然的・超人間的な存在(神など)に対する信仰のこと。
デュルケムは宗教を聖と俗の二元論で分析し、聖なるものの信仰の体系とした。さらに宗教は社会を統合する機能を持つと考えた。
これに対してヴェーバーは、宗教は社会の安定に寄与するのではなく、逆に社会の変革を促進すると考えた。
宗教と深い関わりを持つカリスマ的支配は、指導者の個人的カリスマだけに担保されているため安定性を欠いているというのだ。
さらに規則や伝統に縛られないことから、カリスマ的支配は固有の革命性を持っている(カエサルやナポレオン、ヒトラーなど)。
トーテミズム
トーテムとは「一族の者」という意味を持つネイティブアメリカンの言葉で、それを象徴する図案を刻んだ柱をトーテムポールという。
ディルケムはこれを社会の旗であるとし、トーテミズムを原始的な信仰であるとしたが、これはレヴィ=ストロースによって現代においても普遍的に見られる現象であると批判されている(シンボルマークやロゴマークなど)。
エートス
宗教社会学の展開にあたってヴェーバーが考えた概念で、人々の生活様式を規定する心的要因を指す。行為に対して一定の傾向性があり、ギリシャ語のエトス(慣習)に由来する。
例えば近代資本主義はプロテスタンティズムの倫理観に基づくのではないかという研究がある。
ピーター・バーガー
オーストリア出身のアメリカの社会学者。
人間の世界構築をノモス(社会秩序)、カオス(無秩序状態)、コスモス(宗教的秩序)と弁証学的に分析した。ノモスが俗なるものであるのに対し、コスモスは聖なるものであると対比される。
またバーガーは近代化に伴って宗教が社会的影響力を失っていくことを世俗化と提示した。
宗教は公的なものから私的なものへ変容してしまう。
カール・マルクス
科学的社会主義のマルクスは『ヘーゲル法哲学批判序説』において、宗教を「民衆の阿片である」と批判したが、皮肉なことに彼の思想(幻想よりも現実)も宗教的意味を持ってしまった。
そういやオタクなんかも、好きなコンテンツを崇拝したり布教したり神曲!とか言ったり、世俗化した宗教的に消費されている気がする。信者の意識があるかはわからないけど。
ジェンダー
一般的に性別。適当な訳語がないが、生物学的な性(セックス)と区別される社会的な性とされる。女らしいファッションのスカートなど。
フェミニズム
従来抑圧されてきた女性の社会的地位を向上させる立場。
ジェンダーの概念自体が男性優位の社会を批判する目的を持つ。
フェミニズムは男女の平等が実質的また形式的に実現しているかどうかを問題にする(選択的夫婦別姓制度など)。
ポリティカルコレクトネス
政治的に公正な表現という意味。男性優位だったり白人優位に取られかねない表現を言い換える。「人間」とか「かれまたはかの女」とか「子ども」など。
医療と福祉
通常の生活を営むのに必要な身体的、精神的能力に異常のある状態である病気から回復させるための専門的援助を指す。
病院
入院もしくは通院患者に医療を提供する空間。
また病院はホテルやレストランのように社交の空間でもある(トーマス・マンの『魔の山』のサナトリウム=長期療養所など)。
病人の役割
パーソンズは、病人は社会的な役割を免除される存在であると定義した(学校の欠席、会社の欠勤など)。
社会保障
英語ではソーシャルセキュリティで、社会的に安全や安心を確保することを意味する。
国家が国民に最低限度の生活水準(ナショナルミニマム)を保障する。
①社会保険
加入者が保険料を拠出する
②公的扶助
申請者に対して、資力調査(ミーンズテスト)を経て、生活に必要な費用を支給する
③社会福祉
児童、母子、高齢者、障害者などに社会的な支援をする
プロフェッション
①長期の訓練を受け
②資格の認定を得た
③特定の団体に属する人々が
④高度な技能をもとに
⑤社会の信託に応える
タイプの職業。
現代社会
現代は英語でモダンだが、これは近代も意味する。
デュルケムは近代社会を、異質な人々が分業によって有機的に結合した社会と定義した。
グローバリゼーション、異文化コミュニケーション、外国人労働者、格差社会、環境問題など様々な問題がある。
ウォルト・ロストウ
アメリカの経済学者。ロストウは近代化を産業化の過程として捉え
①伝統的社会(国民所得5%未満)
②離陸のための先行条件期(5~10%)
③離陸期(10%)
④成熟への前進期(20%)
⑤高度大衆消費時代
の五段階からなる経済発展段階説を提唱した。
遊びと労働
オランダの歴史家ヨハン・ホイジンガは、遊びに人間の本質を求め(ホモ・ルーデンス=遊戯人)、学問を含む様々な文化は遊びを通じて生まれてきたとする。
また労働は、生存のための手段として存在する点で、遊び(完結的)と区別され、ものを作ることに人間の本質を求める考え方もある(ホモ・ファーベル=工作人)。
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