参考文献:上野和彦、椿真智子、中村康子編著『地理学概論』
地理学の目的
①場所の情報学として
人類の行動空間が拡大すると、多様で大量な知識を整理して記述することが必要になる。その場所を記憶するために、人類は絶対的な位置を決定したり、場所に名前をつけて整理し、それを地図を用いて表現してきた。
地理学は、地球上の多様な情報を整理し、記述し、表現し、社会に対して有用な情報を伝達する重要な役割を果たしてきたのである(1ページ)。
②地理的条件の分析科学として
地理的条件(場所の自然的、社会的な違い。地形、気候、土壌、植生など)の生成とメカニズムおよび地理的条件間の関係について分析し、その中から普遍的な原理を導き出す。
③場所(地域)の総合科学として
普遍的原理を応用し、地域を総合的に分析することに地理学の独自性があるという立場が、地誌学や地域地理学である。地理的条件の複合性を構造的に把握して(相対的に評価)地域性を明らかにする。
④教育科学として
学校の地理教育は、地理学の研究を支える基盤として大きな役割を果たしてきた。
グローバル化時代における国土と国際理解は必須であり、地理学の教育的重要性は高い。
等質地域と機能地域
地域がある程度等質的指標で分けられる場合、そこを等質地域という。例えばミカンが栽培されている農地・農家の分布を確定することによってミカンの栽培地域が把握できる。
これが文化圏を把握する場合には、自然・人文・社会的な分布など、複数の地理的事象の複合性を分析する必要が有り、等質地域を検出するのは難しくなる。
地理的現象の結合関係を重視して、それが一定の範囲として確定される場合を機能地域という。例えば商圏という地域は、消費と販売という地理的事象が相互に結合し合っている範囲で、通勤圏は、就業者と就業する場が結合する範囲を指す。
日本の野菜の主産地形成
主産地は特定品目の大量生産を特徴とする。
野菜栽培では1960年代以降特に顕著になり、61年に公布・試行された農業基本法は、作物の選択的拡大と農業構造改善事業の実施を通して自立経営農家の育成をうたっていた。
この法律は需要の増大が見込まれた果樹、畜産、一部の野菜の生産拡大に対して補助金を投入するという内容だった。
66年の野菜生産出荷安定法は野菜の値段の安値でも安定化を目的として法律で、これに基づいて指定産地制度が導入された。
指定産地の要件は①一定の産地面積②一定の生産者数③出荷団体である農協からの一定の系統出荷率を満たす産地であることである。
指定産地では構造改善事業の一環として、集出荷場や、予冷・保冷施設が整備され、野菜の価格が暴落した場合には一定の保証金が受けられるようになっている。
指定産地は、需要の多い大都市の中心にある指定市場へ、特定の野菜の供給を大量に、継続的かつ安定的に行なった(場合によっては複数の生産地で季節ごとに産地をリレーしながら=産地リレー)。こうして主産地が形成されていった。
クリスタラーの中心地理論
中心地が、その周囲の地域に財貨やサービスを提供し、周囲の地域からは食料などが供給され、相互依存関係によって一定の地域が成立するという考え方。
それぞれの中心地が持つ財貨やサービスの度合いによって、高次な中心から低次な中心までの蜂の巣状の階層的構造が形成されるとした。
耕作放棄地の要因と問題の実態
耕作放棄地とは耕作されない耕地。
発生要因としては、過疎化による農家の減少、高齢化による耕作の停止、後継者不足や農産物価格の低迷による農家の非農家化などが挙げられる。
また鳥獣害や自然災害など農業を行なう上で条件の悪い農地の不耕作化も進んでいる。
これに対し、大規模農家や企業等による新規参入もあるが、農地法の規制(権利の移転は農業委員会の許可がいる)や不在村地主化(耕作放棄地の所有者が村落住民ではない)などで流動化が進まず、2005年時点で農地面積の1割が耕作放棄地となっている。
耕作放棄地の発生によって伝統的な村落景観が失われるとともに、国家全体の農業生産は縮小、食料自給率は一層低下すると危惧されている。
第2の人口転換
従来の人口転換論では、最終的に出生率と死亡率がともに低い水準になり、人口増加率は低いものの0にはならず、総人口に対する65歳以上の人口の割合は20%台後半で安定するものと考えられていたが、日本などの先進国では出生率の低下に歯止めがかからず、出生率が死亡率を下回り、人口減少・超高齢化段階が訪れる。これを第二の人口転換という。
地域イメージと地名の役割
地域のイメージは地名と結びついてステレオタイプ化する傾向がある。
平成の大合併で多くの自治体の名称が変更されたが、これは地域のイメージアップを意図している場合も多かった。
また夕張メロンや松坂牛のように産地の地名がついた特産物のブランドも、各地域のイメージ形成に寄与していると考えられる(映画、ドラマ、CMのロケ地なども)。
逆にミネラルウォーターの商品名に使われている南アルプス、六甲などの地名は、既存の地域イメージを商品価値に利用していると言える。
しかし現実の地域がイメージとかけ離れていると逆効果なので、形成されたイメージに合わせて地域も改変されていく必要がある。
地名は住民のアイデンティティの拠り所にもなるため、目指すべき地域の将来像について十分に吟味検討し、住民との合意形成を図る必要がある。
方言周圏論
探偵!ナイトスクープによれば「アホ」という語は近畿地方を中心に分布、「バカ」は近畿以外の全国に広く分布している。よって必ずしも関西が「アホ」で関東が「バカ」ではない。さらに中部地方の愛知県や岐阜県を中心に分布している「タワケ」が西の山口県や大分県にも分布、「ホンジナシ」は東北地方と南九州に分布、日本海側には「ダラ」が分布している。
このような「アホ」を挟むように「タワケ」「ホンジナシ」「バカ」が分布している空間的パターンは、方言周圏論によって説明される。これは、新しい言葉は文化中心地から時間をかけて伝播するために、広く分布している言葉ほど時代が古いという考え方である。また周縁部(「ダラ」の日本海側など)には古い言葉が残るという傾向があるという。
この理論を提唱したのは柳田國男である。
社会的不平等
社会的不平等とは種々の社会的資源(収入・所得、学歴、雇用、権力・権限など)の配分や、社会的サービスや社会資本などへのアクセシビリティが不平等であり、その状態が一定の社会的基準からみて不公平、不公正であることを言う(107ページ)。
ポイントはその格差が社会的公正かどうか。
スミスは、国家間、国内、都市などのスケールごとに現れる不平等に言及、保険・医療サービスの国際比較を行なった。
ハーヴェイは、欧米都市における貧富の差に注目し、特定の社会階層の人が不平等を強いられ、特定の空間に閉じ込められているとし、社会的不平等の空間的な現れ方を重視した。
他にも人種や民族の差別(南アフリカ共和国のアパルトヘイトなど)も取り上げられる。
地理の授業では、世界地図・日本地図や様々なスケールで切り取られる地域の中でどのような社会的不平等が展開しているのかについて議論し、その背景や原動力について考察を深めさせるような設定が望ましい。
社会的不平等は、社会科の諸教科にクロスオーバーしながら学ぶべき課題である(不平等の概念は倫理、その原動力の一つである資本主義は政治経済、大局的な不平等問題は現代社会で扱う)。
ハーヴェイの地図の効用
デビッド・ハーヴェイは現在現役のイギリスの著名な地理学者。
彼の著書『地理学基礎論』によれば地図の効用は
①学識的能力
空間的情報を記述・表現・蓄積・伝達する能力
②研究的能力
思考の整理・一般化・理論化を助け、地図の上での作業・分析を可能にする能力
③哲学的能力
古代や中世の地図が当時の世界観を表しているように地理学における哲学的問題の所在を教える能力
の3点が挙げられるという。
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