参考文献:伊藤正己、加藤一郎編著『現代法学入門』、伊藤正己著『近代法の常識』、大塚哲著『聴くだけ政治・経済』
大日本帝国憲法(明治憲法)
天皇主権
欽定憲法(天皇から国民に与えられた憲法のこと)
天皇は統帥権を総攬・国会は天皇の立法権の協賛機関・内閣は天皇の行為の輔弼機関
地方自治の規定無し
基本的人権は天皇が与えた権利
法律の留保あり(法律によって人権は制限される)
社会権なし
意見法令審査権なし
戦争肯定
日本国憲法
国民主権
民定憲法
象徴天皇制
地方自治の規定あり
基本的人権は永久不可侵の権利
法律の留保なし
社会権あり
意見法令審査権あり
戦争否定
自然法と実定法
法律は自然法と実定法に分けられる。
自然法は、時代や社会を越えて存在する普遍的な決まりのこと。
具体的には、実定法が存在しない自然状態の時から存在する「人を殺してはいけない」「人の物を盗まない」といったモラルを指す。
実定法は、その時代や社会において人間が作った法律のこと。普遍的な自然法と対極にある特殊な法律。一般的に法律というとこの実定法がイメージされる。
成文法と不文法
実定法はさらに文章化されている成文法(制定法)と不文法に分けられる。
成文法は、公法(国と個人の関係を規定)、私法(個人と個人の関係を規定)、社会法(公法と私法の中間に当たる)に分けられる。
具体的には憲法、法律、行政機関の命令、裁判所規則(訴訟手続や裁判所の内部規律)、条例、条約などがある。
不文法には、慣習法や判例法などがある。
立憲主義
国家権力を憲法によって制限し、国民の人権を守る考え方。法の支配とほとんど同義。
似た言葉にドイツの法治主義があるが、これは法律に基づいていれば国家権力は何をやってもいいというもので、法治主義においてはユダヤ人の虐殺も合法的なのでOKになってしまう。
しかし、違憲法令審査制が機能している現代では、悪法も法という流れになることは少ないので、法の支配も法治主義もそこまで違いはない。
法源(4月出題)
裁判官が裁判の際に参照する基準のこと。また「憲法及び法律」といった成文法に判断の根拠を求められない場合には、慣習法や判例法、学説、条理及び一般条項などが用いられる。
慣習法
共同体といった自然発生的にできた集団の内部が守っている慣習が、集団の中心的地位を担う人々によって法としての効力を持つようになったもの。
こういった慣習の役割を法の本来の形式であると重視したのが、一九世紀前半のドイツの法学者サヴィニイで、ローマの法典を受け入れることは、ドイツの民族精神にそぐわないとした。
またイギリスでは憲法が成文化されておらず(軟性憲法)、コモン・ローが大きな役割を持っている。実際内閣制度は成文法には明記されておらず、これまでの慣例によって運営されている。
日本では成文法を主体とするため、慣習法はイギリスのそれよりも地位は高くないが、成分法の柔軟性の低さや足りない部分を補うため、また社会の変動に応じるために慣習法を取り入れる場合がある。
慣習法と成分法のどちらが効力があるかは法律によって異なり、法の適用に関しての事項を定めた法律である法例の第二条では成文法優先、商法の第一条では慣習法が優先されている(『近代法の常識』126ページ)。
判例法
裁判所がこれまでの判例を積み重ねて作り上げていく法規範のことであり、慣習も判例を通じて慣習法になるのだと言える。
しかし個別具体的な判例から、どのように一般的な法が生まれてくるか、そのプロセスは国によって異なる。イギリスやアメリカは判例法の国で、過去の裁判の判決を引き出すために用いられた法原則が、後の同様の事件に対して拘束力を持つ。
イギリスの貴族院が下した判決は、その後において絶対的拘束力を持ち、後に下級裁判所はおろか貴族院自身が、その判決は間違っていたと考えなおしたり、時代の変化によって前の判決が適当でなくなっても、これを変更することはできない。
これに対してアメリカは、連邦でも州でも最高裁判所は前の自らの判決を覆して変更する自由が認められている。そう言った意味で判例法の拘束力はイギリスに比べて低い。
制定法主義
大陸ヨーロッパや日本の様な成文法の国(制定法主義)では、判例に強い拘束力が認められていない。よって最高裁判所の判例に、下級裁判所が必ずしも従う必要はない。
日本の法体系では判決は、当事者を拘束し、また上級裁判所が下級審の判決を破棄した際、差し戻しを受けた下級裁判所を拘束すると考えられている。つまり、その事件の当事者、および同じ事件についてのみ判決は拘束力を持つのであり、別の事件では法的拘束力は持たない。
とはいえ、先例が無視され続けるのは、法の安定性と秩序の維持に影響があるので、判例法主義が全く機能していないわけでは決してない。日本においても判例(特に最高裁判所のもの)は法的拘束力こそ持たないものの、事実上には強い拘束力があると言える。
判決理由と傍論
判例はレイシオ・デシデンダイ(判決理由)とオビタ・デイクタ(傍論)に分けられるが、理論上は先例として拘束力を持つのは前者だけに限られる。
とはいえ日本では原則どちらにも法的拘束力はない。さらに日本の判決は主文と理由に分けられるので、どこまでが判決理由で、どこからが傍論かの区別が難しい。
傍論は裁判の判決文のうち判決理由と関係のない部分のこと。
学説
学説の影響力は裁判官や弁護士といった裁判所での実務家を重視する英米と、法学者の権威が高かった大陸ヨーロッパ(ローマ法系統)では異なるものの、学説自体が拘束力を持つ法の一形式であるとは言えない。判例法は、国家機関である裁判所の活動を通じて形成されるもので、学説の場合それに当たらないからである。
しかしディゲスタという法学者の学説を集めたものがローマ法大全で重要な位置を占めていたり、ドイツでは裁判所が困難な法律問題にぶつかると大学の法学者に諮問するといった慣行もあった。
条理
条理とは成文法にも慣習法にも判例法にも、その問題に適用できる規範がない場合に、裁判官自身が想定する、仮に自分が立法者だったら作っていたであろう法(ルール)のことである(スイス民法第一条)。
刑事事件においては、適用できる規範がなければ犯罪は成立しないので問題にはならないが、民事裁判では適用すべき法がないからといって裁判を拒むことはできず、原告と被告のどちらかを必ず勝たせなければならない。
条理は裁判官の主観が大きく入り込む可能性があり、法でも法源でもないことは明らかであるものの、現実問題として条理を用いなければならない場合は(現在では可能性が低いとは言え)存在する。
日本では、明治8年の太政官布告(『裁判事務心得』第3条)において条理を法源にすると明記されている(当時実定法が未完成だったため)。
一般条項
専制君主性の反動によって生まれた、罪刑法定主義のような近代初期の厳格な法体系は、民法などの私法においては見直されることになる。
裁判官の裁量権をほとんど認めない法体系は、時に個別具体的なケースに合致せず正義に反する結果をもたらすのではないか、と考えられたからである。
そのため事情に応じて伸縮性が可能な、内容が漠然とした多様な解釈を許す条項が増えることになった。これが一般条項である。
具体例をあげるならば、「権利の濫用はこれを許さず」(民法第一条第三項)、「公の秩序、善良の風俗に反する法律行為は無効である」(民法第九〇条)などが一般条項であり、そこでは裁判官の条理が支配する余地が大きいと言える(なにが公序良俗に当たるのか、など)。
西洋の法思想では、「法そのものの安定性(社会秩序の維持)=一般」と「具体的な正義や妥当性=特殊、個別」という互いに対立する二つの目的のバランスを取るための衝平として条理が表現される。
犯罪の成立要件(6月出題)
①構成要件
犯罪として決められたパターンにその行為が合致するかどうか
②違法性
その行為に違法性はあるかどうか(例えば刑法36条の正当防衛など)
③有責性
その人に責任能力があるかどうか(善悪の判断能力があったのか)
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