オール・ユー・ニード・イズ・キル

 「面白い度☆☆☆☆ 好き度☆☆」

 戦ったよ。誰よりも多くね。

 かつて「ニンテンドー・ウォー」と呼ばれた戦争があった。任天堂が他のゲーム会社と戦ったことではない。ファミコンウォーズ的なゲームソフトでもない。「ニンテンドー・ウォー」とは誘導爆弾での攻撃があまりにテレビゲームっぽいことからついた湾岸戦争の別名だ。
 東浩紀さんが「ゲーム的リアリズム」と言ったように、ほとんどの日本人にとって戦争や戦場は非現実的な存在で、テレビゲームの方がずっと身近でずっと「リアル」な存在なのかもしれない。
 第二次世界大戦から70年、日本人のクリエイターは、戦場カメラマンや元外人部隊でもない限り、どんなに頑張っても実際の戦争の生々しさは描けない。描けたところで、きっとあまり見たくない。
 しかし悲しいかな、オレたちはテレビゲームの「リアル」は共有できる。テレビゲーム戦争がアリならテレビゲーム戦争映画だってアリだろ、みたいなこの映画のオタク的設定は、考えてみればすっごい日本のサブカルチャーのコンテキストを汲むよね。

 実際、この映画の原作は日本のライトノベルらしい。しかしこれ、ハリウッド資本で実写映画化したのはすごい良かったと思うよ。
 この映画の設定って、まどかマギカ10話みたいなもんで、日本のオタク的アニメではもう何度も繰り返されたベタなネタなんだ。
 つまり、主人公が同じ時間軸を、まるでテレビゲームをリトライするがごとく繰り返すっていうね。そう言う意味で、描写がいくら凄惨でも、この手の漫画やアニメって現実の戦争を描いているわけじゃないんだよね。
 とはいえ、現実でも一度死んだことのある人っていないから、最近では現実もテレビゲームのようにリセットボタンがあって生き返るって考えている子もいるらしいんだけどね。まどかマギカ責任取れよな!

 まあ、そんなわけで、日本のアニメとかではベタな設定でも、トム・クルーズが主演でハリウッド映画のパッケージにしちゃうと、わりと新鮮だったっていうね。それが予想以上に楽しかった。悔しい!w
 これが萌え~な戦闘美少女とかの画風だったら、もうベタすぎて魅力なかったもんな。面白いよね。
 例えば主人公のケイジ少佐っていうのが実戦経験なしの臆病な広告屋でね。戦場の様子を撮影してこいって将軍(『グリーン・ゾーン』のCIAのおじさん)に命令されるんだけど、もう「ヤダヤダ行きたくない」って駄々こねるわけよ。「人にはそれぞれ役割が・・・私は正直言って兵士じゃないのです」とか言って、「指を切っただけで失神しますハッハッハ・・・」ってごまかそうとしたら、将軍の逆鱗に触れて「逮捕。」
 もう、この展開がオレたちの『宇宙戦争』が帰ってきたぜ!って感じで大爆笑だったんだけど、これはもう50歳を過ぎたおじさんが徹底的に駄々をこねることによる面白さなわけで、ガンダムのアムロ君やエヴァンゲリオンのシンジ君みたいな日本のアニメキャラが、こういう風に逃げても、別にギャグにならないわけだ。
 ここら辺きっと原作でもギャグになってないんだろうな。たけしさんが言うように、若い芸人が腹を出してもつまらない、いい歳した大人がチンコ出してこその笑いなのに!!・・・あれ?話脱線してるなw

 んで、『宇宙戦争』の他にも、私が好きな『スターシップ・トゥルーパーズ』、レトロなゲームをモチーフにした異星人とのシンプルな戦いって言う意味では『バトルシップ』、また敵が同じ情報を共有していて、ラスボスが水の中っていうのは『パシフィック・リム』と、いろんなSF映画の引用が多く、ディティールのオリジナリティはあまりないはずなのに、割といい感じにそのパッチワークが成功していて、結果的に個性的な映画に仕上がっていたりする。
 んで、一体どこがそんなに個性的だったんだろうって考えてみたんだけど、多分地球侵略を目論むエイリアンの設定だったんじゃないかって思うんだ。
 中盤で同じくループ仲間のリタっていう女性兵士が、敵についての秘密を話してくれるんだけど、その敵っていうのが、宇宙各地の惑星を侵略するためだけに特化した生命体で、侵略戦争に絶対負けないように時間の流れを操ることができるんだって。
 だから、こいつらは卑怯な種族でさ、その惑星の生物との戦いに負けそうになるとリセットボタンを押して、今までの勝負をなかったことにしちゃんだよ。ほいで自分らが勝つまで再挑戦を繰り返すんだって。

 ここまで聞いて、私は思った。テレビゲームのプレイヤー(=オレ達)は、実は痛い思いしながらループを繰り返すトム・クルーズじゃなくて、リセットボタンを押すこいつなんじゃないのかって。
 つまり、この映画がこれまでのテレビゲーム的ループアニメと違うのは、侵略する異星人の方をプレイヤーのメタファーにしたことなんだよね。そこらへんで、美少女ノベライズゲームの流れを汲む『魔法少女まどか☆マギカ』とは違うよね。
 となると、これは一大事ですよ。『ソフィーの世界』で提示された(されてねーよ)テレビゲームのキャラクターはプレイヤーを倒せるか問題になってくるわけですよ!スライムはドラクエから脱出できるか問題ですよ!

 テレビゲームって作る側にとっては難しいもんで、最終的にはほとんどのプレイヤーがクリアできるように難易度を設定させて作るわけじゃん。たまに頭おかしい難易度があるけど(主に洋ゲー)、基本的にクリアできるように作られている。
 それと同様に、この映画の異星人にとっての他の惑星への侵略は命がけの戦争などではなく、絶対勝てるテレビゲームみたいなものなんだ。だってリセットボタン押し放題、残機無限設定だぜ?まあ、こんなゲームやってゲーマーとして恥ずかしくないか?っていうのはある(あの異星人、ゲーマーじゃないけど)。
 で、あまりに調子に乗ってリセットボタン押しすぎたから、多分ゲームがバグったんだろうね。敵の方も不死身設定になっちゃって攻略不可能になっちゃったんだろうねw

 最後に一言。タイトルの『オール・ユー・ニード・イズ・キル』ってなんか洋楽の曲みたくてすごい覚えにくい。もっと短くならないのかって思ったら、アメリカでは『エッジ・オブ・トゥモロー』ってタイトルに直されたみたいね。これなら覚えやすい!(どっちも意味はわからない!)
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