「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆ 閉所恐怖症注意☆☆☆☆☆」
あの戦車バケモノか。
凄惨な奴隷いじめの実態を描いた『それでも夜は明ける』など、誰もが目を背けたい不愉快なテーマの映画を作り出した謎のイケメンブラッドピットが贈る戦車版プライベートライアン。
私、何年か前に講談社の編集者に「戦争とかそういう漫画はうちは求めていない、そんなの読みたい読者は誰もいないんです、不愉快だから」って言われたことあるんだけど、確かに娯楽作品の文脈では、こういう戦争の実態を描いたって儲かるわけはないんだよ。
でもさ、でもさ、やっぱり私は悔しいんだよね。アメリカの映画文化ってさ、撮るべき映画(※(C)ノラネコさん)っていうのもちゃんと作るじゃん。スピルバーグ監督の『アミスタッド』の時と同じこと言ってるけど。
エンターテイメント万歳ヒャッハー!みたいなイメージの国な割に、なんというか当事者意識みたいなのも高いからさ、つーか今なお戦争に足突っ込んでいるからさ、こういうことができちゃうんだよね。
スピさんの『プライベートライアン』もそうだったんだけどさ、この映画って別にストーリーないんだよ。あらすじなんて「5人のアメリカの兵士が戦車に乗ってドイツ軍と戦う」で終わっちゃうわけで。
つまり「ありの~ままの~戦場見せ~る~のよ~」みたいなものでさ。戦争を変に美化もしないし、かといって反戦がやりたいわけじゃないと思うんだ。
かつていろんな事情があってこういうことが起きちゃったんだよねってのだけ見せて、あとは見た人がどう感じるか委ねるっていう。
だから方法としてはドキュメンタリー映画にかなり近い。こういうどっちにもぶれないバランス感覚を持って、自然主義的に戦争を描くって日本人はなかなか難しいんじゃないのかな。
ちょっと前に話題になった『永遠の0』なんかは私見てないから何とも言えないんだけど、安倍政権一押しってことは、やっぱり大東亜戦争や当時の軍部を多少美化してんのかなあとか。それとも、いち特攻隊員の人の犠牲心だけにフォーカスしているのかな。
そう言う意味で言えばさ、毎回毎回戦争映画で悪役というかやられ役に甘んじてくれているドイツの人ってやっぱり日本人よりも偉いというか、心底あんなこと起こさないように反省してんだろうなあ。ヴァイツゼッカー大統領じゃないけれど「過去に目を背ける者は現在にも盲目である」というか。
もちろんドイツにも右の人もいるだろうから「いいかげんにしてくれ」って思っている人もいるんだろうけど。でも総合的に日本の方がこういう国際舞台での振る舞いはちょっと無神経なところがあるよね。
ただ、ここまで言ってあれだけどさ。この映画って、両軍を客観公平に描いてはいないからね。戦争ってそういうものじゃないじゃん。参加する以上どっちかの立場で戦わなきゃいけないんだから、アメリカの戦車の話になる以上、ドイツの方の言い分なんてわからないわけよ。あくまでも一人称視点だから、あの部隊にカメラ片手についてっている感がすごいんだよ。
したがってドイツなんて、国家総動員法みたいに、女子供も戦争に参加させて、反戦とかラブ&ピースとかタワゴトぬかす臆病者は問答無用で晒し首じゃい、みたいな異常な集団くらいに描いているけれど、実際にアメリカ兵がそう思ってしまったものはしょうがない。それは彼らの見た“真実”なんだろうから。
戦争映画の素晴らしさって言っちゃアレだけど出来の良さの判断基準って私が思うに二つあって、一つが観客を“いち当事者”として“戦場”に放り込めるか、もう一つが戦争の当事者たちの狂気をどれだけ描けるかだと思う。
ベトナム戦争からか湾岸戦争からかは忘れたけど、今じゃ戦場の様子ってテレビで中継するの衝撃が強すぎて大衆が反戦に回るからNGになってるんだけど、だからイラク戦争でもウクライナ問題でもイスラエルパレスチナ問題でも「戦闘で大変なことになっています」ってニュースで報道されてても、対岸の火事感すごいじゃん。
テレビの前で寝っ転がって鼻ほじくって「へ~そうなんだ~」で終わり。全然胸なんて痛んでないんだよ。人間って結局自分の身近な出来事にしか必死にならない想像力あるんだかないんだかわからない生き物だから、海の向こうの遠い国でどれだけの人が酷い殺され方しても、オレには関係ないで済んじゃう。
で、「それでいいのか?今でこそお前らのんきだけど、歴史を振替ればわかるようになんかのきっかけで平和な日常なんてあっさり崩れちゃうんだぞ」って、戦争の実態を大人なんだから少しは考えろ!と見せてくれるのがブラッドピットやスピさんやスタローン兄貴(ランボー4最高でした)みたいな人なんだろう。
余計なお世話だって言われればそれまでなんだけどね。こうして毎日安心してお布団で寝れるっていうのがすごい幸運な状況だって、少しはありがたく思ったほうがいい気はするよね。
つまり、せめて映画くらいは戦場で戦う当事者として疑似体験しやがれっていう。実際は映画って匂いもないし、結局のところ76ミリ砲弾がスクリーン突き破って観客席で爆発しない以上、絶対安全圏からの物見遊山ではあるんだけど、ガルパンとか見てるオタクとかこういう映画どう思うんだろうって。兵器を喜々として語っているけれど罪悪感ないのかっていう。
私は所ジョージさんと秋元治先生の感想が気になるんだよね。秋元先生は『こち亀』の前にベトナム戦争か何かを題材にしたすごいシリアスな漫画をやろうとしていたくらいだからね。
昨今『艦これ』の影響で、にわかにミリオタを自称する人が増殖したけれど、私はあのゲームに抵抗があってさ。日本の平和ボケというか、無神経さもここまできたかって思ってるんだけどさ。
『フューリー』を見て、艦これが嫌いな理由がわかった。あのゲームってさ、司令官のプレイヤーが戦艦の少女を、しかも司令官に好意を寄せているような少女たちをなんのためらいもなく戦場に送るゲームなわけじゃん。
女の子もあのゲームはまっているから一概には言えないけれどさ、火だるまになったり首が吹っ飛ぶような恐ろしい戦場に、自分を好きだと言ってくれる女を出撃させるような男は私はろくでもないやつだと思う。
てめえが守りやがれって。ハーレム漫画のさらに先を行ったよなって。あんなもんに愛なんてねえよ。嫁とかなんとか言うならその女の子のために真っ先に戦って死ななきゃダメなんじゃないのかって。そりゃオタクはモテないよって。安全圏で偉そうなこと言ってるだけだもん。
私だって臆病で戦争なんて絶対いやだけどさ、せめてドイツの街で真っ先に白旗を振って「子ども兵だけは助けてくれ」言ったメガネの先生風の人くらいにななりたいよ。
自分の生徒を見殺しにしてまで生き残ることはないよなって。すげ~嫌だけど、大人になるってそういうことなのかもな。
だから昨日のツイッターでのやり取りじゃないけれど、自分のしていることをちゃんと心得ていて、自分のすべきことを黙って行なえる人ってかっこいいんだろうな。人に責任をなすりつけない。そういうことができる大人があまりにも減っちゃったんだろうね。
だいたい戦争に行っちゃった以上、オレの代わりに銃弾に当たってくれなんてやれないもんね。お腹痛いからお前オレの代わりにトイレ行ってくれができないのと一緒だよね。
そういや、今は日本と中国の関係が悪いってことになっているけれど、両国にホットラインはないものの、どうやら日本の防衛省と中国の人民解放軍はマメに連絡を取り合って戦争を回避させようと対話をコンスタントにやっているんだよね。
結局、戦争になっても自分は関係ないよって思っている人だけが過激なこと言っているだけでさ、いざ戦争になって最初に命をかけて戦わなきゃいけない人たちは、戦争なんて望んじゃいないんだと思う。なったらなったで、私たちには頭の下がる「カント的な義務感」というもので戦地に赴いてくれるんだろうけれど。
だから、そういう人が『艦これ』やるぶんには別にいいな。『艦これ』ユーザーは徴兵までいかんでも、あのゲームをやることで収益金が戦時国債みたいに自衛隊に支払われれば、なんか丸くおさま・・・らないか。本当アレやっている人はどういう了見でやってんだろう。
なんか話逸れちゃったから、話を『フューリー』に戻すけどさ、戦車のなかって狭いし、臭そうだよな。戦車が主題の戦争映画ってありそうでなかなかなかったけれど、なんか一時期の潜水艦映画とテイストが近い。詰め込まれている感が。敵との戦い方も潜水艦の魚雷当てと似た感じがあるし。
ドイツのティーガー戦車が当時の戦車界でいかに化け物じみていたかも納得。中盤の戦車戦がもう映像資料としてもDVD欲しいくらい。
戦車の乗組員って戦車という一つの生き物の臓器を分業している感じがする。だから結束力が命。『パシフィックリム』のロボットは二人乗りだったけど、戦車は5人6脚だもんな。リアルの方がよほどすごいことやってるじゃんって。
だから戦争に行った人ってみんな「戦友以上の濃密な人間関係は二度と構築できない」って言うもんね。部隊が一つの命になるんだろうか。
新入りの副操縦士ノーマンが荒くれ者のフューリー号の乗組員たちに「マシーン」と受け入れられ、最終的にすっごい皮肉なラストを迎えたのには心が揺さぶられた。あのシーンはかつてのノーマンなんだよね。で、多分あの若いドイツ兵も、ノーマンたちの功績によってアメリカ兵に殺されちゃったんだろうな。
理想は平和だが歴史は残酷だ。
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