インサイド・ヘッド

 「面白い度☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆☆」

 月に連れてってあげてね。

 心の中のイメージを具体化して描くっていう内容の作品は、かつて私も描いたことがあるんだけど、これがなかなか難しい。確か、大学でフロイトとかユングとかを勉強していた時期だったんだけど、精神っていうのはもともと実体のあるものじゃないから、上手にやらないとイドとかスーパーエゴがどうたらとか、なかなか話が小難しくなっちゃうんだ。
 ということで、ピクサーが人間の感情をテーマにした作品を作るって聞いて「おやおや、さすがのピクサーでもこのテーマは難しいですよ、ほっほっほ・・・」とかうそぶいて、あまり興味が湧かなかったんだけど、この前さ、アベンジャーズを見てさ。その時にこの映画の予告編がやってて。ドリカムのやつ。それで、もうこの夏、恐竜よりもバナナよりも一番楽しみな映画になっちゃった。

 相変わらずうめえな~~~!って。

 まずさ、感情をキャラクターにするっていうのは、まあアイディアとしては割と思いつくと思うんだけどさ、あの5つに絞り込んだっていうのがうまい。
 人間の感情って、まあ、日本だと喜怒哀楽になるんだろうけど、私は個人的に喜と楽の違いがよくわからないし(喜べば楽しいだろ)、学説によっては人の感情って20種類以上あるっていう人もいて、どこで区切りを付けるかって難しいところなんだけどさ。
 ピクサーはさ、往年のスーパー戦隊っぽく、メインの感情を、喜び(ジョイ)、悲しみ(サッドネス)、怒り(アンガー)、嫌悪(ディスガスト)、恐怖(フィアー)の5人にして、喜び以外わりとネガティブな感情にさせたってのが意表をついて面白かった。
 喜怒哀楽だとポジな感情とネガな感情が2対2のトントンになるけど、この映画だとまさかの1対4なわけだからね。もう絶対的にポジティブが数で負けているのよ。
 ライリーっていうのは、もともとすごい優しい女の子で、大自然いっぱいのミネソタから大都会サンフランシスコに引っ越してきてさ、いろいろ悩みや不安もあるんだけど、パパもママも頑張っているんだから自分だけわがままは言えないって、気を使ってネガティブな感情を抑圧しているんだよ。こういうタイプの子は実際にもいて、教育上かなり注意が必要なんだけどさ。
 つまり、心の中では、喜びが一人で必死にテンション上げて「明るく元気なライリー」ブランドの維持に孤軍奮闘しているってわけ。ここからして、もう破滅の匂いがするじゃん(^_^;)

 で、いつもは飄々としている映画評論家の町山さんも珍しく「全町山が泣いた!」って、この映画を絶賛するとともに指摘してたんだけどさ、この5つの感情のチョイスって、心理学的にも唸るところがあってさ、ひょんなことから喜びと悲しみが行方不明になっちゃって、残りの感情がライリーの精神状態をなんとかしようと頑張るんだけど、この怒り、嫌悪、恐怖の3つの感情って、動物にもあるすごい原始的な感情なんだ。
 これらってドラクエ的に言うと「たたかう」「ぼうぎょ」「にげる」に対応する感情で、自然界で生き残るためにはすごい重要な感情なわけ。
 でもそれって逆を言えば、非常に自分本位な感情で、だからこいつらがいくら頑張ったところでライリーの精神や人格はガンガン崩壊してっちゃうわけ。もうね、本当に音を立てて崩れていってさ、となりの席のちびっこなんてキョトンとしててさ、なんつーもんを子どもに見せるんだ、すごい映画だなって思ったんだけど。

 じゃあ、行方不明になった竹内結子と大竹しのぶはなんなんだって言うと、この二つの感情は大脳新皮質にある比較的新しい感情で、ヒトみたいな高等な動物にしかないんだよ。
 ほいで、その役割はなんだっていうとさ、ネタバレになっちゃうんだけど、共感の感情なんだ。アリストテレスいわく人間っていうのは得てして社会的な存在だからね。
 11歳くらいってさ、ギャングエイジを卒業して、いよいよ社会(=他者集団)と本格的に向き合う時期なわけじゃん。ちょっとメタな思考もできるし。第二の誕生なわけですよ。
 んでさ、いつも場をもり下げるようなネガティブなことしか言わず、お前はちびまる子の永沢君かっていう、悲しみがさ、実は他人を思いやる上でとっても大切な感情なんだよって解釈されていて、この映画の重要なテーマになっているんだけど。
 まあ、すっごいネガティブな人がみんな、自分と同じような境遇の人に対して思いやりの心があるかっていうと、クエスチョンがつくところはあるけどさ。
 本当に辛く苦しみもがいている人って、もはや他人のことを考えている余裕すらなくて、誰かれ構わず周囲の人をネガティブ沼に引きずり込むようなところあるけれど。割と共感しやすいだけに伝染しやすい感情でもあるんだよな。

 悲しんでいたから、みんな来てくれたんだ。

 なんにせよ、ひとつだけ確かなのは、そういう悲しみで胸がいっぱいな人に、喜びみたいなやつが「頑張って♪いけるいける!」とか言っても、うつ病には逆効果だってことだよ。それにどんなに「あなたの辛さわかるよ」って言っても、「お前に私の苦しみがわかるか」ってとっちゃったりもするから、そうなるともっと不幸なやつを連れてくるしかないだろうなっていう。不幸インフレというか。「あ、この人よりは自分はマシかも」みたいな展開にしないと埒があかないぞ、みたいな。
 つまりさ、人間っていうのは、いつも笑顔で元気よくなんていられないわけ。どんなにポジティブな人でもどこかで限界が来て精神が壊れてしまう。
 そんなとき、適度にベントして格納容器の内圧を下げてくれるのが悲しみなんだ。そう言う意味でネガティブな感情っていうのは調整弁の働きをしているとも言える。
 私なんかは、すぐに弱音や愚痴を吐いて逃げちゃうんだけど(この前もやらかした)、逆にすっごい明るく元気で精神的にタフそうな人がうつになっちゃったりもするし、長期的にはネガティブな奴の方が図太いんじゃないかって思うことはあるけどね。人をさんざ心配させやがってな。
 
 しかし、この吹き替えキャスティングは抜群に良かったよな。竹内結子なんて一時期あんな髪型してたもんな。見た目で選んだんじゃないかって思ったもんw
 ちなみに、私は予告では怒りが一番好きだったんだけど(少女の感情なのに何故か中年のおっさん)、本編見ると悲しみとムカムカ(※嫌悪。スパッツがエロい)が割と気に入っちゃった。今後思春期になっていくにあたって、ムカムカがコントロールルームの主導権を握るんだろうな、とか。
 でもディスガストをムカムカって訳しちゃったのは、ちょっと怒りと区別がつきにくくてややこしいよな。確かにギャルの言う「超むかつくんだけど~」みたいな感情ではあるけどさ。「イヤイヤ」じゃパンチが弱かったのだろうか。
 あと、全町山の涙を誘ったであろう「ビンボン」っていう、ライリーが幼い頃に遊んでいた空想の友達が出てくるんだけどさ。こいつがまた、私なんかはクリエイター的なことやってたからさ、勘弁してくれよって思ってね。
 小さい頃に考えたオリジナルキャラクターほどの黒歴史はないわけじゃん。できることならビンボンみたいに記憶から抹消したいところなんだけどさ。今なお脳裏にこびりついているよゼリーマン。

 最後に一言。睡眠時に記憶の整理をしているM&M'sみたいなやつがすごい面白かった。「7歳のピアノ教室の記憶??ねこふんじゃったとエリーゼのために以外は捨てちゃって」みたいな感じで掃除機で処分しちゃうんだけど、ああいう実際の学説を映像化してくれるのは面白いよなあ。
 でもピアノっていうのは心理学的には、手続き記憶っていうものに分類されるから(自転車の乗り方など、体で覚える系の記憶)、そう言う意味じゃ、夢で処分されない長期記憶だと思うんだけどね。
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