この記事はネタバレなので、本編を読んでから読むように!
いや~まさかこの漫画を公開するとは思わなかったよ。しかも、これ9年前の作品なのな。私まだ22歳とかだよ。22歳の私は何があったんだろうな。いろいろ病んでそうだよな。
担当編集者に見せても「女の子が可愛い」しか感想がなかったしな。オレもこんなもん読ませられたらリアクションに困るわ。
つーか『ダブルスピーク』と同時に描けるような内容の話じゃないよね。ほんとに、この漫画だけギャグ要素が一切ないもんね。というか内容すっかり忘れてたけどテーマ的にギャグにできないよ、これ。まあ、そういうのも一回やってみたかったんだろうな。
この時期は、一体どういうのが読者にウケるんだろうってノイローゼになっちゃって迷走期だったことは覚えている。
今は、「この味は通だけわかればいいんだよ!」みたいな下町の口の悪い小さな寿司屋みたいなスタンスになっちゃっている気もするけど、一つだけ言えるのは、自分自身がこの作品は絶対面白いっていう信念がないと、いいものは絶対できないってことだよね。つっても最近はてっきりご無沙汰だけどさ(^_^;)
さて、『イノセントガーデン』の直接的な着想は二つあって、一つ目が昔、地面がどんどんなくなっていっちゃう夢を見たってこと。この手の夢が、フロイト的にどう言う意味があるのかは知らないけどさ。
『イッツアドリームワールド』もそうだったけど、たまに描きたい「画」が最初に浮かんで、そのシーンを描くために前後の筋書きを後付けで考えるっていうこともある。
だから、この漫画は「画」が中心で、前半は私の漫画としては珍しくセリフがあまりない。当初はいっそサイレントでやろうと思ったくらいなんだけど、わりとキャラが高度な駆け引きをしててさ、これをセリフ無しで説明する技術が当時の私にはなかった。
「私は声を失った」とか言ってる割にモノローグでよくしゃべるもんな、こいつ。彼女はもともと、ああなる前はおしゃべりだったんじゃねえかな。それで余計なこと言っちゃって、ひどい目にあったみたいな。
着想の二つ目が、なんの映画か忘れちゃったけど、赤ちゃんが生まれる前のシーンでアナウンサーの福澤朗さんがさ、精子の吹替えしててさ。「それいけ~~!!」みたいな感じでみんなで卵子の方へ突っ込んでいってさ、福澤の精子(なんかエロいな)だけ卵子に取り込まれてさ「お、お、お・・・!!???ジャ・・・ジャストミ~~~~ト!!!」って受精しててさ、大爆笑だったわけよ。
これをもうちょっと、旧約聖書風にできないものかと。ほんで、エデンの園みたいな世界観に変えてみたんだ。
あと、あれだ。この作品の虚無的な雰囲気はMYSTに当時ハマっててさ、そういうものの影響だった気がする。トゥームレイダースもそうだよね。
海外のゲームって独特の空気感があるんだ。簡単な言葉で言うと「さみしい」「ひとりぽっち」。そういう感じをスゴイ出したかった。
一応この漫画には、たくさんの(モブ)キャラが出てくるんだけど、実際は、たった三人の話なので、そう言う意味じゃさみしいっちゃさみしい。
そして、この三人って『インサイド・ヘッド』じゃないけど、どの人にもある感情だよね。
ヴィルトゥス(勇気)
今見ると、『ソニックブレイド』の隊長とデザインが激似。彼の子役時代の作品に違いない(描いた順番逆だけど)。
私は、正義って「合理」じゃなくて「感情」だと思うんだよ。だから「怒り」とかと一緒で強いエネルギーである反面、おそろしく暴力的なものなんじゃないかって。
この子なんて、まあ、子どもだからっていうのもあるけど、ほんとに深く考えず行動してるもんね。大人でこのアルゴリズムだけを選択したら絶対破滅するよね。
でも、この「向こう見ずさ」ってたまにすごい羨ましい時がある。
子どもって守るべき過去がないからかな。一歩間違えばあの世行きであろう、すごい危険な遊びとかするしね。タナトスだよね。
利他的な行動っていうのもそういう面があるんかね。というか、この子は年齢的に死というものがよくわかってないよね。まあ誰もわかってないか(^_^;)
この漫画が、深く考えると怖い内容なのはさ、救いらしい救いがひとつもないからなんだよ。東洋の哲学だとさ、四季が明確にあって自然が豊かだったからかわからないけど、円環構造で世界を考えるじゃん。生と死が廻っているみたいな。
だから、ここで自分が死んでも次の世代につながれば・・・って考えられるんだけど、西洋っていうのはアポカリプス的でさ、直線なんだよね。
作中に「エントロピー(拡散度)」ってセリフがあるけど、つまり時間の矢は一方的で、進んで戻ってこない。イノセントガーデンの出口の向こうには、また別の世界があって、次の世界に行ったら二度とこっちの世界には戻ってこれないよっていう不可逆性。
だから、この漫画の世界観は仏教じゃなくて絶対キリスト教的な方がいいなって。西洋的なテイストにしたんだよね。
セレスティス(天上の)
すぐ泣く。
みんなが落ちていっちゃう世界の中で、唯一「飛べる」というチート能力を持っているが、逆を言えば高いところまで飛べるということは、物事を俯瞰で考えられるということ。
つまり、彼女だけは世界をメタに見れるというメタファー(つまらん
精神年齢的にはヴィルトゥスが少年期なら、彼女は思春期(ちょいワルな影がある男に初恋しちゃうのもありがち)。
世の中の不愉快な面がなんとなく分かってきちゃって、子どもの頃のピュアな部分が若干よどみかけてきている時期。実際、彼女だけはルシファーみたいな黒い服を着ている。
そもそも、この物語の元凶はこいつって気もするけど(ほかの天使がトパゾスに根こそぎ殺された上にコイツも死んだので天使が絶滅した)、遅かれ早かれどのみち崩壊しちゃう世界なら、彼女の犯した罪は仕方がないって気もする。
当初のデザインでは、翼は先が黒くてコウノトリのものだった。でも、こんなん気づく奴いないか、ってことで醜い白鳥みたいにした。
そういや、最後のさ、彼女が残りの力と勇気を振り絞って少年の手を取って飛ぶシーンあるじゃん。あのシーンは星のカービィ2のクーのテーマをかけてください。
トパゾス(探求)
こいつらの年齢設定はよくわからないんだけど、少なくとも精神年齢においては彼がおそらく最年長なのではないだろうか。
ヴィルが小学生、セレスが中高生、ほいで、トパゾスが大学生くらいというか。
この人は頭が切れるし、行動力もあるんだよね。悪堕ちすると一番厄介なタイプだよ。
ヴェロキラプトルというか。
セレスティス(きっと元カノ)に世界のルールを教えられ、その現実にうじうじすることもなく、しっかりと受け入れて割り切り、そのルール内で最も合理的な選択をして、あとちょっとのところで決勝戦敗退みたいなw
この人は、天使をためらいなく殺しているから無神論者なんだろけど、最後の最後で非情になりきれなかったんだよね。すこしだけ罪悪感があって、でも人間なんてのはすべてエゴの塊だって思って、自分の罪に目を背けてたら、よくわからない正義感の強い子どもが出てきて、こいつも結局は自分のことしか考えていない・・・ってことを確かめないわけには行かなくなった。
私、久しぶりに読んで、自分が助かりたいだけなら、なにコイツは最後にネタばらししてんだ?バカじゃねーの?って思って、この部分を描きなおそうと思ったんだけど、よく考えてみると、そういう意図があるシーンだったのかって。描いた自分が忘れてるっていうね。
なんか聞いた話では、精子の中には他の精子(エッグゲッター)がうまく受精できるようにアシストするための精子がいるらしいんだよ。悲しい事実だけど、彼はそういうものだったのかもしれない。
この人は東大生なんだ。東大生ってゲームのルールを与えられると、そのルール内で最高のパフォーマンスをするじゃん。でもルールそのものをメタ的に変えるっていうのはすごい苦手なんだよね。
怪物
一応「月」ってことになるのだろうか・・・?いきなり最初のページに描かれているっていう。これも母体が舞台というメタファーなんだろうな。
とはいえ、イノセントガーデンで最初に「殺し」をしたトパゾスも怪物だといえるし、彼を殺戮に駆り立てたセレスが本当の怪物なのかもしれない。
ここら辺の「誰が本当の怪物だ?」みたいなくだりはちょっと展開が間延びするのでカットしてしまった。クライマックスは畳み掛けたかった。
ちなみに、本に描かれていた化物はホムンクルスって言って、神経系のバイアスが体のどの部分にかかっているかを示したもの。これによると口と手が繊細らしいが、これ、めちゃめちゃ怖いよね。あれは、審判の日のあとに創られる胎児のボディプランの本だったわけだ(螺旋階段はDNAのメタファー)。
そういえば『スクールオブジェイル』にこの作品の三人がちょっとだけ描かれてます。探してみよう。
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