日本のいちばん長い日

 「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆」

 軍をなくして、日本を残す。

 この夏の映画で一番面白い。この玉音盤騒動(宮城クーデター未遂事件)は、ずいぶん前にNHKか何かで実際の当事者の証言(まだ元気だという)をもとにした番組がやってて、その時点ですごい話だなあって思ってたんだけど、この映画では更に、鈴木総理と阿南陸軍大臣、昭和天皇をメインに重厚な人間ドラマとして完成させている。

 特に本木雅弘さんの昭和天皇が激似w名台詞の「あ、そう」もちゃんと言ってくれた!感動だ!
 昭和天皇が、学者気質の天皇というのは有名な話なんだけど、これはもう学者“気質”じゃないよ。学者だよ。博物学、歴史学問わず、とんでもない教養があることはサザエの学名の発音で一発でわかるっていう。
 そのサザエの例え話で、戦争を終わらせないでくれと直訴してきた東条英機を論破するところとかすごい面白いし、東条さんも天皇陛下は絶対だから、すぐにほこを収めちゃったり。
 ここまでインテリで人格者で無私な陛下だったら、そりゃあ神様だよ。

 で、長年侍従長をやっていた鈴木総理はこの神様の聖断という切り札を使ったが、これはとんでもない反則技だったっていうのもわかる。
 というのも、ここらへんは中学高校の社会でもあまり深くは教えないんだけど、明治憲法下でも天皇陛下は国家を総覧するだけだから、天皇の聖断をやっちゃうと戦争責任が天皇一人に行っちゃって、それは国体的にとんでもないことになるっていう。その覚悟が陛下と鈴木貫太郎にはあったと。
 あと、この時代の内閣は閣内不一致すると総辞職するしかないとか、そういう知識がないとよくわからないかもしれない。
 実際にこの映画、観客はそこそこ居たんだけど、年齢層がやっぱり高くて、今年32になる私が一番若かったっていうね。でもいいのか。シルバー世代は今や多数派だし。
 でも若い人も、こういう映画も見ればいいんだよね。というのも普通に面白いから。すごいもったいないよ。

 さて、役所広司さん演じる、阿南陸軍大臣は、今までの個人的なイメージでは戦争強硬派で、戦争を集結させたい鈴木総理のライバル的なものだと思ってたんだけど、まあこの映画でもそうなんだけど、それは立場的に仕方がなかったんだなあってよ~く分かった。
 ヒールだと思っててごめんよ阿南大臣。実際に鈴木総理もかなり過激なことをポーズで言ったしね。私の屍を越えていけ!とか。

 あれだけ部下を殺しても恨まれなかったのは、乃木将軍と阿南閣下だけです。

 でもでも、ああいう血気盛んな若者を教育しちゃったのは、やっぱりほかならぬ軍隊だし、日中戦争の前から、皇道派と統制派が対立してたりして、陸軍ってなんかガバナンスだいじょぶか?って感じだったしなあ。ちょっと指導を誤ればたちまち学級崩壊(クーデター)するクラスみたいな。

 鉛弾、金の玉をば通しかね。

 山崎努さんの鈴木貫太郎もひょうひょうとしててすごいよかった。このとぼけた演技で思い出したんだけど、『デザーテッドアイランド』の大日本帝国チームもこんな感じの、のんびりな雰囲気でさ、戦前の日本ってこんなにゆるいの?ファシズムじゃなかったの?って違和感があったんだけど。
 そのおおらかな空気の原因がやっと腑に落ちた。人生の切り札として「死」を覚悟している人たちだから、このオーラが出るんだなあって。肝の座り方が半端ないから、どんなことにも動じない。だからのんきに見えているだけっていうね。う~む、デザテのスタッフはやっぱすげえよ。

 そういえば、なんか高校の歴史のカリキュラムが変わるらしくてさ。世界史と日本史ってどっちが必修科目になるかずっと対立してたんだけど、もう合体させて。で、高校は近現代史だけにしちゃおうよっていう風になるらしい。これは“史観”が入ってくるからいろいろ厄介だとは思うのだけど。
 でも戦後70年なんだよね。70年っていうのはもはやひとつの歴史だよね。奈良時代だって80年くらいなわけで。
 そうすると911ですら生まれる前に起こっている今の学生は、歴史教師が近現代をいろいろアンタッチャブルだからってスルーしちゃうと、マジで何も知らないっていうことになっちゃうんだよね。
 若者への教育一つで国家の行く末が変わるってのは、作中の若手幕僚が「原子爆弾恐るるに足らずです!」って言ってたのでよくわかる。いやいや、この世に原爆くらい怖いモノってそうそうないぞっていう。
 その後、結局日本はあっさり鬼畜米英に懐柔されちゃったけど、日本という国、日本人という民族、皇室制度はちゃんと残っている。
 私たちの世代は未来に何を残すのだろうか。

 日本は滅びぬものか。勤勉な国民だよ、必ず復興する。
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