生物学概論覚え書き⑥

主な参考文献:トレシー・グリーンウッド、ケント・プライヤー、リチャード・アラン共著、後藤太一郎監訳『ワークブックで学ぶ生物学の基礎』
参考サイト:東京医科歯科大学 http://www.tmd.ac.jp/index.html

生態系
生物群集やそれを取り巻く環境を一つの系と考えた概念である、生態系は、生物的要因と非生物的要因で構成される。
地球上のすべての生き物が存在する生物圏は、海底から大気圏上端までであり、それは地球を取り巻く薄い膜のような空間になる。
生物圏には、バイオーム(生態群系)という広域な生物の分布帯が認められ、これは優占する植生によって特徴付けられている。つまり、バイオームとは、それぞれの環境条件下でクライマックスの状態になっている、動物、植物、土壌生物などの生物群集の集まりである。

生物的要因は以下のものある。
生産者、消費者、デトリタス(分解途上の有機物)食者および分解者は競争者、寄生者、病原体、共生者、捕食者として群集の中で相互作用する。
ちなみに「ある地域に存在するモリアオガエル全体」という場合は、個体群といい、個体群の生きる環境はハビタット(生息場所)という。
つまり、カマスは岩礁域や沿岸域、非移動性の菌類は朽ちた木、ウシの消化管内にいる細菌や原生動物は、ウシのルーメン(第一胃)がハビタットである。

非生物的要因は主に以下の三つがある。
①大気
風速と風向、湿度、光の強度と質、降水量、気温
②水
溶存養分、pHと塩分濃度、溶存酸素、温度
③土壌
利用可能な栄養分、土壌水分とpH、土壌組成、温度
これらの非生物的要因の勾配は、ほぼ全ての環境で確認でき、生物の生息場所や微気候に影響を及ぼしている。

生態遷移
遷移とは、ある場所の群集が、生物的要因と非生物的要因の複雑な相互作用の結果、時間とともに変化するプロセスのこと。
遷移初期の生物の群集は、照度、光の質、風速、風向、気温、土壌、湿度の変化といった物理的な環境の変化を起こし、その環境の変化が群集の変化を促し、さらにそれがまた環境の変化を・・・といった具合に続く。
この遷移は、攪乱が起こらない限り、安定したクライマックス(極相)群集の形成に至るまで進行し続ける。
遷移初期の群集は種の多様性も低く、群集構造も単純で、広いニッチ幅を持つが、これがクライマックスになると高い種の多様性と、それらが相互作用する複雑な構造、狭いニッチ幅を持つ。
生態遷移には以下の三つのパターンがある。

一次遷移
形成されたばかりの火山島など、それまで群集の存在しなかった場所にコロニーができること。例えばむき出しの岩の上には、まず地衣類、コケ類、一年生草本が生え、その後、草本や低木(潅木かんぼく)が、次にナナカマドのような成長の早い樹木、最後の成長の遅い広葉樹ができる。ここまでで100~200年の年月がかかる。

二次遷移
火事や地すべりなどで植生が一掃されたあとに起きる遷移のこと。植生が一掃されたとは言え土壌の消失を伴わないため、一次遷移に比べると早く進行する。
しかしそのペースは、関わる生物種、気候、土壌などの要因に依存している。
また、草刈りなどで人間が遷移の道筋をそらせてしまうと、クライマックスは自然の群集と変わってしまうことがある。このときの群集は、偏向的極相と呼ばれる。

雨林におけるギャップ更新サイクル
大型の林冠木は、高い位置で太陽光を遮り、低い幼樹の成長は阻害するなど、雨林群集の形成に重大な影響を持っているのだが、このようなでかい木が倒れると、林冠に穴が開き、林床に光が入る。これにより成長した幼樹が、林冠にできた穴を再び埋めてクライマックスになる。

ニッチ(生態的地位)
ニッチとは生物の生息環境における機能的なポジションで、その生物が資源の分布状態にどう反応するのかを示し、多種の資源をどう変化させるかに関係する。
ニッチは、物理的な環境条件、ハビタットから提供される資源、他の生物、そしてその生物の適応によって決定される。
その生物が生存できる生物的・物理的環境条件の範囲全体を、その生物の基本ニッチというが、たいていの場合、その生物が実際に占めるニッチは基本ニッチよりも狭い範囲に限られる(多種と競合するため)。このようなニッチを実現ニッチという。
したがって、ニッチがかぶってしまう二種類の生物は、同じ資源を求めて競合し、一方の種が多種を排除してしまうため共存はできないという仮説が生まれた。これはガウゼの競争排除則と言われる(イギリスに移入されたハイイロリスが、もともとイギリスに生息していたヨーロッパアカリスの分布を脅かすなど)。
ニッチは動的なもので、資源が豊富、もしくはその生物が競争に強い場合はニッチ幅は広く、資源が限られている、もしくはその生物が競争に弱い場合はニッチ幅は狭くなる。

種間競争と種内競争
別の種類どうしの競争を種間競争、同じ種類の生物どうしの競争を種内競争という。
一般的には種間競争よりも、種内競争の方が激しい。
その理由は通常、同種の個体が要求する資源は全く同じだからである。
このように競争が激しい場合、個体は基本ニッチの耐性範囲の両端の好適ではない資源も利用せざるを得なくなる。こうして実現ニッチの範囲は広がることになる。
種間競争において、異なる二種が同じ資源をめぐって競争する場合は、それぞれの基本ニッチを決める資源利用曲線は重複することになる。
重複部分では資源をめぐる競争が強く、ニッチ文化への特殊化が生じて、片方、もしくは両種の専有ニッチ幅は狭くなる(住み分けや食い分けなど)。
この時の競争の程度を低下させるための特化した生息場所のことをマイクロハビタット(微生息場所)という。

個体群成長曲線
新しい場所に初めて定着する個体群を新規個体群というが、この時新規個体群が進出する環境が低い死亡率と高い出生率を可能にする、資源が豊かな環境だった場合、個体群の個体数(N)は指数関数的に増加する。
この時の曲線を指数関数的成長曲線(J型曲線)という。もし資源に限りがなければ、このまま曲線は突き進んでいくが、もしそうなら20分で一回分裂する細菌は、二日かからず地球と同じ質量までに増殖しちゃうらしいので(ドラえもんでそんなのあったな)、絶対そうはいかない。
初期の成長(個体数増加)は指数関数的に急速でも、個体群が成長するにつれて増加は穏やかになり、その環境が維持出来る水準で頭打ちになる(環境抵抗)。このようなタイプの成長曲線はS型になりロジスティック曲線と呼ばれる(ここでのロジスティックとは物流じゃなくて成長という意味)。
定着した個体群は、ある決まった範囲で環境収容力(K)の近くを変動することが多い。

個体群の成長は以下の式で計算ができる。
N:もともとの個体数
r:その生物の増加率(20分で2倍に増殖など。これは増加数-死亡数で計算ができる)
t:時間
Δ:増加量

ΔN/Δt=r×N

この式を微分すると、Δが微分(ディファレンチエーション)のdに変わって

dN/dt=rN

この時、増加率に限界がない(マックスな)場合は

dN/dt=rmax N

となって、指数関数的成長曲線を表す式ができる。
しかし、どんな生物も無限には増えていかず、環境収容力(K)による制限がかかるので、

dN/dt=rmax N(1-N/K)

となる。例えばKの値を100にし、増加率rを1.0にすると、式の形は以下のようになる。

dN/dt=1.0×N(1-N/100)

こうして、個体数が100まで増えると増殖が頭打ちになる、ロジスティック曲線の式ができる。

センサス(標識再捕法)
個体群を測定することをセンサスという(社会学では国政調査とかだったよね)。
このとき、ヌーやシマウマみたいなでかい動物の群れなら、その個体数をすべてしらみつぶしに数えるのも、根性さえあれば行けなくもないが、個体数がすごい多かったり、その生物の大きさがすごい小さかったりと、直接すべて数えることが難しそうな場合には、推定値を出すことになる。
そういった場合には、群れの一部をランダムに捕獲し、捕獲した個体にマークをつけて、もとの群れに返す。その後、もう一度同じ群れをやっぱりランダムに捕獲し、その時捕獲した個体の何割にマークがあるかを確認する。
一回目の捕獲と二回目の捕獲が同一条件であると仮定するならば、以下の数式で群れ全体の個体数が推定できる。

N:調べたい群れの数
M:一回目の捕獲でマークをつけた個体数
n:二回目の捕獲で捕まえた個体数
R:二回目の捕獲でマークがあった個体数

M/N=R/n

よってこの式を変形すると

N=Mn/R

となり、全個体を数えなくても標本調査で、群れの個体数がわかる。
しかし一回目の捕獲と2回目の捕獲のあいだで、群れの構成が大きく変化してしまうと、この計算はあまり成り立たないので、調査の際には、捕獲方法、マークのつけ方、1回目と2回目の捕獲の間隔などを慎重に考えなければいけない。

r選択とK選択
ロジスティック曲線の成長パターンは2つの係数で決まる。
1つは、その生物の潜在的な最大繁殖力である内的自然増加率(r)で、もう1つは環境収容力(K)である、
高い内的自然増加率を持つ(めちゃくちゃ子どもを産む)生物種は、r選択種と呼ばれ、藻類、げっ歯類、多くの昆虫、ほとんどの一年生草本が含まれる。
r選択種のニッチはジェネラリスト的(広域な環境に適応できる汎用性がある)で常に新しい場所に侵入し続ける。
彼らは繁殖力や成長スピードが速い分、一個体の寿命は短く、通常は一年未満。個体群の大きさは著しく変動し安定しない。
これに対して、多くの大型哺乳類や、肉食性鳥類、大型で寿命の長い植物は、K選択種と呼ばれ、環境包容力に合わせた個体数を持ち、効率的に環境資源を利用するための競争にさらされている。
そのためK選択種のニッチはスペシャリスト的(特定の環境に特化)で、僅かな子を生み、長い寿命を持つ。また子が繁殖年齢になるまでの子育てにかなりのエネルギーを投資する。
個体群の大きさは、ほぼ一定で、環境に関してほぼ均衡状態。
この理論は、エドワード・ウィルソンが、島嶼部の生物がわりとコンスタントに絶滅(&ニッチの取り合いを)していることに着目して、1967年に提唱した。
当たり前だが、個体数が少ないほうが絶滅しやすいため、絶滅を免れるためには、速やかな個体数の増加(繁殖力)が重要だというわけである。また、いくら増えてもすぐ減っちゃったらダメなので、個体数を維持し続けるような選択も重要ということになる。
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