『80日間宇宙一周 Galaxy Minerva』脚本⑥

天王星で最も遠い衛星ファーディナンド
地球連邦軍の前線基地の予備の滑走路にライブ会場が設営されている。
腕時計を心配そうに見つめるアリエルのマネージャー。
衛星ファーディナンドに着陸するリンドバーグ号。
リンドバーグ号に駆け寄るマネージャー。
「あ、アリエルこっちこっち!」
リンドバーグ号から降りるアリエル「マネージャーさん!」
マネージャー「こちらは?」
アリエル「私が一日お世話になったライトさんです。」
ライト「けっこうお世話しました。」
ライトに名刺を差し出すマネージャー「そうですか、うちのアイドルがお世話になりました。わたくしこういうものです・・・」
また名刺をもらうライト「どーも・・・」
マネージャー「あの、うちのアリエルがお世話になったお礼と言ってはなんですが、三日後土星で行われるジュリエッタの星間友好コンサートのチケットを受け取って頂けませんか?」
ライト「え!?マジ!」
マネージャー「ええ、二枚しかないのですが、どうぞ・・・」
アリエル「それプラチナチケットですよ!」
ライト「うわ~ありがとう・・・これアイツがすっごい喜ぶな・・・」
アリエル「ぜひお連れの方と見に行ってください」
ライト「で、今日のライブは?なんかジュリエッタ特別記念公演って書いてあるけど・・・アリエルのライブちゃうの?」
マネージャー「ええ、ジュリエッタはご存知のとおり多忙なので、うちの事務所で最もジュリエッタに似ている彼女にジュリエッタの格好をさせて、この星で戦う海兵隊さんにせめてジュリエッタの雰囲気だけでも味わわせてあげようと・・・」
ライト「そうなのか・・・」
アリエル「似てませんか?」
「いやそんなことはないけど・・・バレるんちゃうんか?」
マネージャー「いいんですよ。いくら脳みそ筋肉の海兵隊の人でもこんな星で本物のジュリエッタの慰問ライブがあるなんて誰も信じてないですから!はっはっは!」
ライト「な~る・・・」
マネージャー「では我々はライブの準備がありますのでこれで!楽しんでいってください!」
アリエル「ライトさんではまた!」
バックヤードにかけていくアリエルとマネージャー。

ライブ会場の席に座るライト。
周りに海兵隊のごつい兵隊たちが集まってくる、

海兵隊「おい、あのジュリエッタがこんな最前線の基地に慰問に来ると思うか?」
「確かに。だがジュリエッタの生まれ故郷がこの星だからな。可能性はなくはないぜ。」
「ったく天王星の連中が軍を持ってないから、家族残してはるばるこんな星までやってきたが、やっといいことがあったな。」
「あ~オレジュリエッタの大ファンなんだ。二週間前から楽しみで・・・」
「死んだ戦友にも見せてやりたかったな・・・」

気まずくなるライト
「こ・・・これはエライ事になるで・・・」

慰問ライブが開場する。
アリエルが歌を歌おうとした途端、大ブーイングとゴミが飛んでくる。
海兵隊「ふざけんな~!死ね~~!!」
アリエル「や・・・やめてください!」
海兵隊「そのレベルのモノマネならオレの方がもっとうまいぜ!!」
「だいたいてめえは客に笑われてるだけなんだよ、馬鹿にされてるってわからねえのか?」
アリエル「え・・・」
「才能ねえんだからとっとと辞めて俺の彼女になれって!」
「ギャハハ!二等兵のスコットが面倒見てやるってよ!」
アリエル「れ、恋愛は事務所から止められているのでご勘弁を・・・」
「だからやめろっつってんだよ!
お前みたいなのが一生やったってジュリエッタみたいなトップアイドルになれねえよ!」
酒を煽りながらステージに上がりアリエルに抱きつく海兵隊
アリエル「ひいい!ライトさん助けて!」
ライト「もうええやろ!」
「ライトさん・・・」
海兵隊「なんだてめえは!」
ライト「決まってるやろ。その子のファンや」
アリエル「ライトさん・・・」
ライト「マイナーなアイドルを応援するって結局魂胆はそれかい。ファンならマナーを守って応援するんちゃうんか!」
「なんだと・・・!」

会場内に警報が鳴り響く
士官がホイッスルを吹く「楽しい茶番はそこまでだ!土星の艦隊が接近!海兵隊ども直ちに出動!」
海兵隊「ウーアー!」

配置につくため駆け出す海兵隊員。踏みつけられるアリエルのチラシやブロマイド。
誰もいなくなる会場。
むなしくボーカルなしの曲がかかっている。

ステージの上で無言でへたり込むアリエル。
ライト「アリエル・・・大丈夫か?」
肩を震わせるアリエル「はっきり言われちゃった・・・一生やったってジュリエッタさんのようにはなれないって・・・
笑っちゃいますよね・・・それが小さい頃からの夢だったなんて・・・」
ライト「・・・・・・。」
「私がいけなかったんだ・・・海兵隊さんたちの期待を裏切るようなことをして・・・あの人たちはジュリエッタさんを見るのをずっと楽しみにしていたんだ・・・
私を見に来たんじゃない・・・誰も私の歌なんか・・・」

ライトがアリエルに近づいてかがむ。
「なあ、アリエル・・・よかったら俺だけにその歌声聞かせてくれへんかな?
レコーディングスタジオのみんな言ってたで。あんたの歌声はもしかしたらジュリエッタを凌ぐかもしれんって・・・
人にはそれぞれ自分の道があるんや・・・あんたはジュリエッタやない。アリエル・スカイやろ。」
「ライトさん・・・」

ステージを降りて椅子を直して観客席の中央に座るライト
「さあ、聞かせてくれ!客はオレだけや、これなら緊張もせんやろ!」
立ち上がって客席に振り返るアリエル「・・・・・・。」
ライト「さあ!」
涙を拭くアリエル「ありがとう・・・」
マイクを持って歌いだすアリエル。
たった二人だけのコンサート。



オセロ第一警察署
オフィスに入って資料をめくるミグ。
ミグ「最初の被害者おてもやん、第二の被害者ローリング娘、そして第三の被害者ザ・パンチラーズ・・・」
ゲオルグ「ターゲットになったアイドルはどれも中堅若手・・・ファンの数も大したことはないよ。」
ミグ「これがもっと大きなテロのデモンストレーションだとしたら・・・」
ゲオルグ「おい、ちょっと待て・・・」
ミグ「パトラ・ジュリエッタってファンは一体何人いるんですか?」
ゲオルグ「おい!知ってる奴いるか!?」
警官「は、全宇宙に22億8260万人であります!」
ゲオルグ「なぜ貴様暗記してる!」
警官「いやその・・・妻がファンでして・・・」
ミグ「そんな超人気アイドルがサーペンタリウスに殺されたら?そしてそれを土星の過激派の仕業にしたてあげたら?」
警官「私、泣きながら土星に特攻します!」
ゲオルグ「こんなバカが22億人いたら、この星の再軍備は本当に実現しちまうぞ・・・!」
ミグ「・・・なぜジュリエッタはここまで天王星の世論を変えた・・・?偶然?」
ファンの警官の携帯電話の着信メロディが流れる

ジュリエッタ「♪守りたい、救いたい、私のたった一つの大切な星~」

ゲオルグ「バカやろう!その歌はムカつくからやめろって言ってるだろ!」
携帯を切る警官「すいません!」
ミグ「ちょっと待った!」
警官「?」
ミグ「キミ、その曲の歌詞全て覚えているか?」
警官「ええ・・・」
紙とペンをテーブルに置くミグ。
ミグ「ここに全部書き出してくれ。」



衛星ファーディナンド
二人きりのライブ会場。
コンサートで予定していた曲をすべて歌い上げるアリエル。
アリエル「・・・どうでした?」
ライト「・・・・・・。」
アリエル「な、なんかリアクションしてくださいよ・・・」
「あ、ごめん。見とれてたわ・・・鳥肌立ってもうた・・・」
「また、気を使うんですから・・・」
「いや、ほんまやて!アリエル、あんたは絶対すごいアイドルになる!」
「ありがとうございます・・・でも・・・私はこれを引退コンサートにします。」
マイクを置くアリエル
ライト「え・・・?」
アリエル「ライトさん・・・ありがとう・・・」
微笑みながら喋っていくうちに涙を流していくアリエル
「最後の最後に大切な人を歌で感動させることができた・・・私がずっと夢見ていたのはこれだったんです・・・」
「アリエル・・・」
「夢・・・叶っちゃいましたね・・・」
頭を下げるアリエル。
拍手をするライト。

次第にその拍手が大きくなっていく。
お辞儀をしたままのアリエル「・・・?」
顔を上げる。
海兵隊たちが戻ってきて拍手している。
「ブラボー!」
「馬鹿にして悪かった!感動しちゃったよ!」
「アリエル・スカイ!覚えたぜ!!」
「引退なんかするなよ!俺たちだけでもシングル買ってやるからさ」
「みなさん・・・」
携帯電話を切り、慌ててマネージャーがステージに駆けてくる「アリエル大変だ!」
「なんですか?」
「さっきキャリバン社長から電話があって・・・オーディション・・・合格したって・・・」
アリエル「えええ!!?」
マネージャー「ジュリエッタのライブに出れるんだよ!それもジュリエッタの相棒として!」
大歓声「うおおおおおおお!やったああああああ!!!」
ライト「見てる人は見てるんやなあ・・・」
アリエル「ライトさん・・・」
ライト「お前の夢や・・・」

『80日間宇宙一周 Galaxy Minerva』脚本⑤

防音ブースの中でレコーディングをするアリエル。
ミキサー「じゃ、さっきよりもうちょい高めのキーでもう2パターンほどとってみようか」
ブースの中のアリエル。楽譜を確認する「わかりました。」

コントロールルーム
ライトの方を振り返るミキサー「彼女、ダンスやライブはてんでダメですが、歌はなかなかうまいですよ。華がある。」
ライト「ホンマ?」
コンピューターのモニターを差す。
ミキサー「これは彼女の声の波形なんですがね・・・この部分、人に安らぎを与えるゆらぎが発生しているんです」
ライト「へ~・・・」
作曲家「でも極度のあがり症で客の前でまともに歌えないんだよなあ・・・まあシングルだけはそこそこ売れるからオレとしてはいいんだけど。」
一生懸命歌っているアリエルを見つめるライト。



刑務所の面会室。
ゲオルグ警部の交渉で爆弾魔の仲間と面会するミグ。
ゲオルグ「5分間だ。」
ミグ「わかりました・・・」

ミグ「この星の刑務所にいたんだな・・・」
ロイ「やあ久しぶりだね。ミグ・チオルコフスキー!」
ミグ「お前の仲間のボマーが殺されたぞ。ロイ・ヒューズ・・・」
ロイ「アンディが?それは残念だ・・・僕の友人だったのに・・・」
ミグ「なぜ無関係のアイドルを狙う?」
ロイ「あいつらはアーティストじゃない。」
ミグ「ああ、お前らよりはまともだもんな。」
「連中・・・文明社会に対する批判も、自己の内面性における葛藤やアンビバレントな矛盾もない。
た~だ平和ボケした馬鹿な大衆に迎合して金を巻き上げているだけだ。約束しよう。
今もてはやされているジュリエッタだって3年もすればみんな忘れて他のアイドルに熱狂しているだろうさ。なぜだかわかるか?『イリアス』や『オデュッセイア』とやつらの違いは?」
頬杖をつくミグ「・・・・・・。」
ロイ「芸術か紛い物(シミュラークル)かどうかだ。」
ミグ「美術館や博物館に飾られるものだけが芸術ではないだろう・・・」
ロイ「そのとおり。だからぼくらは一瞬の美を追求したのさ。」
ミグ「それが無関係な人を巻き込む爆弾テロか。」
ロイ「感謝して欲しいくらいだよ。ボケた天王星人どもの目を覚ましたのはアイドルじゃない。
ぼくたちアーティストだ。フルクサスを唱えたかのジョージ・マチューナスは・・・」
面会室の防弾ガラスをパンチで突き破るゲオルグ「ごちゃごちゃうるせえんだよ!ぶち殺すぞコノヤロウ!!」
ションベンを漏らすロイ。
ゲオルグを取り押さえるミグ「ゲオルグ警部落ち着いて、血圧が・・・!」
ゲオルグ「よくわかんねえ長台詞言いやがって!てめえを殺すのに1ラウンドもいらねえ!1分だ!」
ロイ「ごめんなさい!許してください!」
ミグ(せっかくの取り調べがメチャクチャだ・・・)
ロイ「お、教えますよ。アイドルを狙っているやつ・・・」
ミグとゲオルグ「?」



レコーディングスタジオ
ブースから出てくるアリエル
ミキサー「お疲れ様でした~」
アリエル「大丈夫でしたか?」
作曲家「この美声がライブで出ればファンの度肝を抜けるんだけどねえ。」
アリエル「頑張ります。」
ミキサー「じゃ、マスタリング終わったら連絡しますんで。」
ライト「・・・なにそれ?」
アリエル「は、はい了解しました!」



レコーディングスタジオから出るライトとアリエル。
ライト「次はどこや?」
手帳を開くアリエル「ええと・・・次はボーカルのオーディションなんですが・・・けっこう時間があきますね」
ライト「じゃあ好きなところ連れてったるよ」
アリエル「いいんですか?やった~!」
ライト「まだそんな元気あるんやな・・・」



ウラヌスショッピングプレイス。
観覧車やジェットコースターに乗るライトとアリエル
風船を持って駆け回るアリエル「ああ、たのし~ステキ~♪」
「ちょっとおっちゃん疲れてもうた・・・休んでかまへん?」
ベンチに座るライト
「あ、すいません!なんか一人ではしゃいじゃって・・・じゃ、なにか飲みもの買ってきます!」
元気にワゴンにかけていくアリエル。
「若いつもりやったけど・・・10代の女の子ってやっぱエネルギーがちゃうなあ・・・
ミグはもっとのんびり屋だからなあ・・・」
ミグのことを思い出すライト。

「夢なんだ・・・地球に行くこと。」
「生まれた時から私の運命は決まっている・・・私もいずれ小惑星とともに宇宙で死ぬ。ならば生に執着することなどないじゃないか」
「この傷もう治らないんだ・・・気持ち悪いだろ?」
「お前こそ甘すぎるんだ。命懸けで戦ったことがないから・・・!」
「私は生きたい。」


ライト「そういやあいつ今頃何してるんやろ・・・無茶してなきゃいいけど・・・」
ジュースを持ってくるアリエル「はいどうぞ!」
ライト「あ、ありがとう」
ライトの横に座るアリエル。
アリエル「へへへデートみたいですね!」
「大人をからかうなって」
「でも私こういうことって初めてなんで楽しくて・・・」
「恋愛したことないの?」
「アイドルはそういうのNGじゃないですか。」
「まさか生まれた頃からアイドルやないやろ。」
「でも、私・・・物心がついた時からジュリエッタさんのようなアイドルになりたかったですから・・・」
「本当に子供の頃からの夢なんや。」
「だから今日のオーディションは絶対合格したいなあ。今日のに合格するとですね、あのジュリエッタさんのライブにサブボーカルとして出られるんですよ!」
「へ~!共演や!」
「はいっ!共演です!」

「・・・なあアリエル。アリエルはなんでアイドルになりたいん?」
「え?」
「いや一日中働き通しで・・・そこまで頑張れるには何か理由があるんちゃうのかなって・・・」
「そうですねえ・・・え~っと・・・そういえばなんでなんだろう?もう忘れちゃいました。」
「そうか・・・」
「ライトさんは?」
「オレ?」
「なんで発明家を目指されたんですか?」
「そやな・・・自分の作った宇宙船に好きな女の子を乗せたかったんだよなあ・・・」
「そ、その話詳しく!」
「なんで君にオレの初恋の話を公開せなあかんねん・・・」
「その手の話は10代の女子の大好物ですよライトさん!」
「そうやったのか・・・勉強になったな・・・さ、オーディションに行くで!」
「え~もう終わり!?」



オーディション会場
メガホンを持つライト「いいかアリエル。今日の柔軟を思い出せ!」
嫌な気分になるアリエル「え・・・?」
ライト「お前の体だってその気になればあそこまで曲がるんや!なんでもできる!行ってこい!」
アリエル「はい!」

試験場の部屋に入っていくアリエルを見送るライト。
部屋から出てくるアリエル。
半泣きのアリエル「全然ダメだった~・・・」
ライト「ガーン」

廊下でアリエルを慰めるライト
「ま、まあ次があるやん。」
えづくアリエル「このオーディションだけはもう二度とないですよ~オエ~」
背中をさするライト「なあ、ある人が言ってたで。生きてる限りは何度だってやり直せるって。」
涙を拭うアリエル。
「そ、そうですよね!死んだわけじゃないですもんね!」
ライト「そうや。気を取り直して次の仕事に行こう?な?」
アリエル「そうだ、今日最後の仕事はジュリエッタさんの故郷で慰問ライブなんだった・・・!これで挽回しなきゃ!」
「・・・それでこそいつものアリエルや!」
微笑むアリエル。



オセロ第一警察署
廊下を歩くゲオルグとミグ
ゲオルグ「まさかサーペンタリウスが天王星と土星双方をそそのかしていたとはな!!」
ミグ「連中としては天王星と土星が戦争を始めるのが一番いい。なぜなら武器が売れるから。」
ゲオルグ「土星には天王星に軍隊がないことを強調し、領土問題に踏み込ませる。」
ミグ「それだけじゃない。」
ゲオルグ「何?」
ミグ「アイドルを暗殺してファンの復讐心を煽ったんです。」
ゲオルグ「それで戦争が起きるかあ?」
ミグ「被害者の資料を見せていただけますか?」

『80日間宇宙一周 Galaxy Minerva』脚本④

屋上から戻ってくるライト。
ライトに駆け寄るアリエル「ライトさん・・・大丈夫でした!?」
ライト「あ、ああ・・・で、あんたはこれからどうするの?バスが燃えちまったけど・・・」
「いまマネージャーさんに連絡しているんですが電話に出なくて・・・」
「あんたのマネージャーなのに??」
「はい、マネージャーさん、私以外にもたくさんのアイドルの卵の面倒を見ているのでお忙しいんですよ・・・どうしよう次の仕事に間に合わない・・・」
「バスでどこへ行くつもりやったんや?」
「え?」
「俺が乗せてったる。」



離陸するリンドバーグ号
アリエル「うわ~すっごい速い!これなら次の現場に間に合います!ありがとうございます!」
ライト「ええってええって。」
アリエル「あの・・・お連れの方は・・・?」
ライト「ああ、あいつ?あいつは警察官に再就職しました。」
アリエル「そうなんですか!?」
「あんたらアイドルを狙う悪党をとっ捕まえるって」
「あの人すごい身のこなしでしたよね・・・」
「ああ、正義感がものすごくてなあ・・・俺はちょっと心配や・・・」
「かっこいいですよね」
「あんたのアイドルもかっこいい仕事やないけ。夢売ってるんやから。」
「アイドルといっても私はアイドルの卵ですから・・・それだけでは生活できないのでアルバイトを掛け持ちしてるんです」
「だから定食屋で働いてたんやな」
「はい、他にも家政婦、家庭教師、喫茶店のウエイトレス、清掃員、ケーキ屋さん、パン屋さん、お花屋さん、コンビニ、居酒屋、雑居ビルの警備員、漫画のアシスタント、そして土木作業員もたまに・・・」
「は~!あんた働き者っていうか・・・多才なんちゃう!?」
微笑むアリエル「丈夫な体だけが取り柄ですから」
「それで充分食っていけるちゃうんか?」
「ええ・・・よくうちで就職しないか、とは言われるんですけど・・・アイドルが私の夢ですから」
「そうか・・・」
「いつか・・・あのジュリエッタさんのようにたくさんの人に私の歌を聴いてもらいたい・・・こんな夢追いかけるの恥ずかしいですかね?」
「ぜんぜん・・・」

ダッシュボードの所さんのシングル盤を見つけるアリエル
アリエル「これなんですか?」
ライト「あ、そこらへんあいつの私物やから・・・」
「あ、すいません・・・」
「ま、別にええか。」
「知らないアーティストですね。聴いていいですか?」
レコードプレイヤーを指差すライト「あ、そこにセットすれば聴けるで。」
レコードをプレイヤーの本体に強引に押し込むアリエル「入らないなあ・・・これどこにスロットがあるんです?」
ライト「ちゃう!上に乗せるんや!!」
「あ、ごめんなさい!」
ちょっと曲がったレコード盤
レコードを手にとって息を吹きかけるライト「大丈夫かなあ、聴けるかなあ・・・」
アリエル「ごめんなさい、ごめんなさい!」
ライト「大丈夫大丈夫。世代的に知らないもんな、これ。」
プレイヤーの上にレコードを乗せて針を落とすライト。

音楽が流れる
♪(カメがウサギに勝ったのは~カメの力じぇねえじゃねえの~のろまな奴には何かが起きなきゃ勝てねえっちゅうことかい?)

ライト「な?バカバカしいやろ?」
アリエル「・・・・・・。」
ライト「アリエル?」
アリエル「なんて楽しそうなんだろう・・・」

♪(意味ないじゃ~ん、意味ないじゃ~ん)



ミューズダンススクール
駐車場に着陸するリンドバーグ号。
ライト「ついたで~」
ポシェットをつかみリンドバーグ号を降りて駆けていくアリエル「ありがとうございます!」
「ここでなにするの?」
「ダンスのレッスンなんです。よかったら見てってください!」
「へ~」

先生「1,2,1,2・・・」
他の練習生とともにダンスのレッスンをしているアリエル。
それを稽古場のハジの椅子に座って見ているライト

別のアイドルのマネージャー「おたく、アリエルの新しいマネージャー?」
ライト「へ?」
「いやいやこれは失礼。
わたくしポエニ・パー子のマネージャーをしております、カンネー小林と言います。」名刺を差し出す。
ライト「あ、これはどうもおおきに・・・」
カンネー「しかしニュース見ましたか?バスの爆弾テロ。またアイドルがターゲット。
おっかないですな~」
ライト「そんな頻繁に起きとるんか?」
カンネー「ええ。今回は中堅アイドルのパンチラーズでしょう?
まあ起きてしまったものは仕方がない。彼女たちがいなくなれば我々のアイドルがのし上がるチャンスができるってことですしね!」
ライト「あんたが仕掛けたんちゃうやろな~」
カンネー「はっはっは!ま~たご冗談を!まあお互い恨みっこなしでいきましょうや。」

先生「スカイさん、相変わらずあなたは体が硬すぎよ!もっと滑らかに動けないの・・・?」
一人だけワンテンポずれているアリエル「す、すいません・・・毎日ストレッチはしているんですが・・・」
先生「ちょっとマネージャーさん!」
ライト「・・・・・・。」
隣のカンネー小林がライトをつつく。
ライト「あ、オレか。」

ライト「ど~かしましたか?」
先生「ど~もこ~もないですよ、この子ここに通って二年ですけど、ダンスが1ナノメートルたりとも上達しないんです!これでは他の練習生の迷惑ですのでやめて頂けませんかね?」
ライト「そんな先生、この子はこの子なりに一生懸命頑張ってるんですよ~なあ?」
頷くアリエル
先生「あなたやる気だけじゃこの世界やっていけないのよ?残念だけどダンスの才能が全くない人を上達させるのは不可能よ。この世界でやっていくのは諦めなさい。」
ライト「そんな言い方無いやろ!」
先生「なんです、あなた。第7惑星プロはちゃんとしているから今まで多めに面倒見てあげたけど・・・そんな態度とられたら、もうそちら様のアイドルの担当は降りさせてもらいますよ・・・」
アリエル「やめてくださいライトさん!私だけじゃなくてほかのアイドルの子にも迷惑が・・・!」
ライト「あんた先生やろ。先生が生徒を見限るっていうのはちょっとなあ~・・・ほらアリエル座ってみい。」
アリエル「え?」
「お前の本当の力を見せたるんや。」
床に座るアリエル「はい・・・」
ライト「足伸ばして。このオバちゃんに体が柔らかいこと教えたれ。」

力づくでアリエルの背中を押すライト「おらあああああああああああ!」
背中が折れて床に顔がめり込むアリエル「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!」

先生「わ、わかった!もうわかりましたからやめてください!ちょっと誰か~虐待事件よ~~!!」
大爆笑のカンネー小林。



巨大な水道橋の下をくぐるリンドバーグ号。
リンドバーグ号船内。
ライト「あのオバハン分かってくれてよかったな」
背中を押さえているアリエル「ありがとうございました・・・
これでまたダンスのレッスンに励めます・・・背中に障害が残らなければですが・・・」
ライト「なんか言った?」
アリエル「い、いえ!」
ライト「で、次はどこや?」
アリエル「ええと・・・40分後にスタジオキケロでレコーディングが・・・」
ライト「本当分刻みのスケジュールなんやな。つかまってろ!」

『80日間宇宙一周 Galaxy Minerva』脚本③

トポロ劇場
ステージ上では知らないアイドルが歌っている
アイドルのライブを何故かオペラグラスで鑑賞するミグ
「あれ?テレビで見たのよりも踊りがぎこちないし、なんか歌が下手・・・」
ファン「なんなんだこのおばさん・・・」
ファン「観光客が・・・」
ミグ「なんか胸が張り裂けそうなこと言われてるんだけど・・・」
ポップコーンを食べるライト「だからよそうって言うたやんけ・・・」
親切なファン「彼女たちはジュリエッタじゃないですよ。ここはマイナーなインディーズアイドルをファンの僕らが応援する劇場なんです。ジュリエッタも昔はこの劇場で歌ってたんです・・・」
ミグ「はあ・・・」
ライト「よう見てみい、メイクや服装はあの人気アイドルの真似してるけど、顔立ちがあの子の方がずっとあどけないやろ」
ミグ「ジュリエッタじゃないんだ・・・」
ライト「それよりもあの子さっき見かけたような・・・」

ガチガチに緊張している新人アイドル「あの・・・きょきょきょ、きょうはお日柄もよく、ようよう白くなりゆくヤマギワ・・・」
観客「はははかわい~!」
新人アイドル「ええと、えとえと、次の曲は、ええと・・・なんでしたっけ?」
客「マイオンリーアイドル!」
「ああそうでしたね・・・ごめんなさいごめんなさい!」
ポップコーンをむしゃむしゃ食べるライト「応援か・・・確かにあれ金取って見せるクオリティちゃうでw」

ライブ会場から出る二人。
劇場内のロビーのソファーに座る。目の前にはグッズショップがある。
ライト「どや、楽しかったか?」
ミグ「つまりあれなんだな、かつての芸術界にあったパトロンに近いんだな。」
「ああタニマチのことね。」
グッズ屋を見つめるミグ「あ、私お手洗い行ってきていい?」
「ええよ、ここで待ってるから。」

ライトの前に近づく新人アイドル
「あ、やっぱりさっきのお客さんだ!見に来てくださったんですね!」
ライト「あ、やっぱり、あんたさっきの定食屋の」
アリエル「はい!アリエル・スカイって言います。今日はありがとうございました!」
ライト「アイドルやったんや!」
アリエル「ええ、まだ駆け出しですけどね・・・ステージどうでした?楽しんでいただけました?」
ライト「ああ、面白かったで色々・・・」
アリエル「よかった~今日は払い戻ししなくて済みそうだ・・・」
ライト「え・・・ま、まあよかったらここ座りいな。」
アリエル「あ、じゃあ失礼して・・・」
ライト「それよりアイドルってこんなところで客と絡んでてええんか?」
アリエル「私人気ないですから・・・」
ライト「でもほかの客は?そこそこおったで。」
アリエル「あの人たちは他のグループの追っかけさんですね。ザ・パンチラーズさんとか・・・」
ライト「ああ、あのスカートの短い!」
「ですです。」

ミグが戻ってくる「お待たせライト・・・」
ソファーでライトとアリエルが楽しく談笑している。
アリエルのポケベルが鳴る
立ち上がるアリエル「いけない、もういかなきゃ!またバスに乗り遅れる。今日はありがとうございました、ではまた!」
ライト「ああ頑張れよ~」
立ち去るアリエル。

ミグに気づくライト「あ、ミグいたん?」
ミグ「なんかお邪魔だったようだね・・・」
「何言うとんねん・・・ってお前何ジュリエッタグッズ買い込んどんねん!」
紙袋を抱えるミグ「え・・・これはその・・・お土産だよ。デニスが好きだって言うから・・・」
「お前・・・まあいいや、さあ行くか!」

その直後、劇場の外で爆発音が鳴り響く。
二人「!?」

劇場から出るライト「なんや!?」
劇場の前のロータリーで路線バスが燃えている
人だかりができる。

ミグ「爆弾テロ・・・!」
アリエル「ライトさん・・・」
ライト「あ、アリエル、大丈夫か!?」
アリエル「はい・・・あのバス、私も乗ろうとしてたんです・・・」
ライト「なんやって?」
やじうま「大変だ、あのバスにはパンチラーズが・・・!」
号泣するファン「パンチラーズ~~!!」

パトカーが集まってくる。
ゲオルグ警部「やじうまを追っ払え!けが人を助けろ!」
警官「は!」
消防隊員がこんがり焼けたパンチラーズを救急車に乗せる。

ゲオルグ「オラオラどけどけ!救助活動の邪魔だ!ぶっとばすぞてめえら!」
ライトを見つけるゲオルグ
ゲオルグ「こら、お前。まだこんなところにいたか・・・」
ライト「この星、随分と治安悪くなったんやな・・・」
「ふん、おかげ様でな。」
警官「警部!やはりまたアイドルを狙ったテロ行為です!」
ゲオルグ「くそ、なめやがって・・・」

アリエル「アイドルを・・・」
ライト「大丈夫やアリエル。深く考えるな。」
アリエル「いったい誰が・・・」
ミグの方を向くライト「緋色の旅団ちゃうんか?」
ミグ「いや、彼らは労働者の味方だ・・・大衆文化を破壊はしないだろう・・・手口から言って使われた爆弾はサーペンタリウスのものかもしれん。」
ゲオルグ警部「おい、そこのお前、どうしてわかる?」
ミグ「自動車や航空機による爆弾テロにはたいていあの犯罪組織が裏で絡んでいます。」
ライト「サーペンタリウス?なんやそれ。」
ミグ「いわゆる死の商人だよ。テロリストや反政府組織に銃器や破壊兵器を売る。」
爆弾の破片をつまむミグ「問題はこの爆弾をどこがサーペンタリウスから購入し、仕掛けたか・・・」
ゲオルグ「お前詳しいが何者だ。」
ミグ「冥王星のチオルコフスキー将軍です。」
ゲオルグ「なんだと、軍人か。」
辺りを見回すミグ

ライト「そもそも誰がアイドルを狙うんや・・・」
ゲオルグ「ふ~おそらくは土星の過激派だよ。最近アイドルのおかげで天王星に再軍備を求める動きが出ているからな。それか天王政府の保守派勢力か・・・どっちも警察の分を超えた相手だが・・・」
「あんたはどんな相手でもぶっ飛ばしてワッパをかけるんやろ?」

やじうまの中に怪しい男を見つけるミグ。
ミグ「あの男・・・!」
駆け出すミグ。
ゲオルグ「あ、おい・・・!」

やじうまの中からひとりの男が逃げ出す。
その男を追いかけ、取り押さえるミグ
爆弾魔「いででで!離しやがれ!」
ミグ「久しぶりだなアンディ・ボマー・・・!」
ゲオルグ「誰だ!?」
ミグ「冥王星の兵器をサーペンタリウスに横流ししていた悪党だ!」
爆弾魔「違うね、アーティストだよ。」
ミグ「答えろ、誰に雇われた!?」
爆弾魔「どうだ美しかっただろう・・・?あれこそが芸術だよ・・・くだらんアイドル文化など灰になれば・・・」
銃を突きつけるゲオルグ「その前にお前が灰になるぞ。」
爆弾魔「それは・・・」

狙撃される爆弾魔。
とっさに銃弾が飛んできた方向へ銃を構えるゲオルグ。
悲鳴を上げてやじうまが逃げ出す。
「上に狙撃している奴がいるぞ!(警官隊に指示を出す)早く市民を建物の中に避難させろ!!」
ビルの屋上に向かって発砲するゲオルグ「お前らもいけ!(ライトとミグに)」

駆け出すミグ「いくぞライト狙撃している奴を倒す!」
ライト「おう!」
ゲオルグ「ちょっと待て!そういうことじゃねえよ!!」
アリエル「ライトさん!」

ビルの屋上。
狙撃手「任務完了・・・引き上げるか・・・。」

ビルの屋上へ続く扉をぶち破るミグ。
ミグ「そこまでだ!」
ミグに向かって発砲する犯人
とっさにEM銃を撃つミグ
木っ端微塵に吹っ飛ぶ犯人。
返り血を浴びるミグ。

屋上に入ってくるライト。
ライト「!お前何やっとんねん!犯人が跡形もなくなったやないか!」
ミグ「いや、正当防衛で・・・」
ライト「だからって殺すことないやろ!それに貴重な証人やったんちゃうんか!」
ミグ「すまない・・・条件反射で引き金を・・・」
ライト「あ~あ・・・」
屋上の一部がクレーター状に凹んでいる。
ライト「前から思ってたけどあんたいつもやりすぎや・・・人の命をなんだと思ってんねん」
ミグ「そんなこと言ったって撃たなきゃこっちがやられてたんだぞ。」
「軍人はいつもそう言うんや・・・」
「お前こそ甘すぎるんだ。命懸けで戦ったことがないから・・・!」
ライト「ああそんな殺戮マシーンにはなりたくないね。」
ショックを受けるミグ「・・・・・・!」

屋上に警官と共に入ってくるゲオルグ「なに痴話喧嘩してるんだてめえら!!」
ライト「こいつが犯人をダーティハリーばりに問答無用でぶっ殺したんや!」
ゲオルグ「なんだって!?」
ミグ「・・・・・・。」
ゲオルグ「はっは~気に入ったぜ冥王星の将軍!悪党どもには正義の鉄槌だ!な!?」
ミグ「え?
ええ・・・そうだ!ほらみろ警部殿だってそう言ってるじゃないか。」
ライト「お前ら結託するんか!」
ゲオルグ「正義の執行には力が伴う。強くなければ平和は守れない。」
ライト「それは俺の正義とちゃうなあ」
ゲオルグ「ああそうかい。それよりあんたいい腕だな、どうだ?この事件の捜査に協力しねえか?」
ミグ「え?」
ゲオルグ「オレたちはずっとサーペンタリウスを追っている。そしてあんたは連中に詳しい。どうだ?報奨金も出るぜ?」
ミグ「わかりました。私でよければ協力しましょう。」
ライト「おい、ちょっと待て!地球への旅はどうするんや?」
ミグ「お前はあの女の子とデートでもしてればいいだろ。私はしばらく社会のために働いてるから。」
ライト「なんやと~!!ああ、分かった!勝手にせい!」
ライトに背を向けて警官と話すミグ「まずこの狙撃位置から見て最初から犯人はボマーを始末しようと・・・」

『80日間宇宙一周 Galaxy Minerva』脚本②

惑星連合放送
「先週から始まった天王星で大人気のアイドル、ジュリエッタのライブツアー、ライブ初日で入場者は2000万人を超え、会場は熱狂の渦に包まれました。
また本日発表された新曲マイリトルスターは配信初日で12億5000万ダウンロードを記録。早くも話題となっています。」

「ジュリエッタは天王星の27番目の衛星ファーディナンド出身。14歳の頃に田舎の星から夢を追って天王星へ上京、首都ポープの安クラブでピアニストとして働きながら地道にキャリアを積み、3年後メジャーデビューに至っています。そのサクセスストーリーは多くの少女に夢を与えました。」

天王星。市街。
都心部は建設ラッシュで、ビル街のそこらじゅうで巨大なクローラクレーンが首をもたげている。
重機のガコーンガコーンという音。
惑星連合放送が映っている屋外のマルチビジョン。
ジュリエッタの映像が流れている。
それを遠くからぼんやり眺める土木作業員のアルバイトをしている女の子。
作業員のおじさん「アリエルちゃん、もうちょい土のう持ってきてくれる~!?」
アリエル「あ、は~い!」
首にかけたタオルで汗をぬぐい、土嚢を持ち上げるアリエル。

マルチビジョン
「しかしジュリエッタの言動はアイドルの域を超え天王政府を動かす大問題にまで発展しています。
それが衛星ファーディナンドの領有権問題です。」

天王星とその衛星の軌道を示した図が表示される。

「近年ファーディナンドの領有権を土星が主張。ファーディナンドの宙域に機動戦艦を送り、そこに駐留する地球連邦軍の艦隊と一触即発の状態になったのは記憶に新しいでしょう。」

記者会見のVTR
ジュリエッタ「私の故郷が土星になるのはとても悲しいです・・・」

「この発言がここまで政治的な意味を持つとは彼女自身も思ってもいなかったでしょうが、ジュリエッタの涙はシラけ世代や平和ボケと揶揄された天王星人のナショナリズムににわかに火をつけました」

「ジュリ様の故郷を守れ!」「元老院は役たたず!」「再軍備しろ」のプラカードを持つ運動家。
土星の国旗を燃やす天王星の若者

「この非常事態に天王政府はディクタトル(独裁官)を指名することを検討、強大な力を持つ臨時職ディクタトルがアイドル文化を規制する可能性もありますが、それはかえって大衆の心を逆なですることになると懸念する者もいます。」

天王政府コンスル(執務官)「我々が言えるのは、たかがサブカルチャーといえども、それが国家の秩序を乱す信仰に発展した場合には、毅然とした対処を取らざるを得ないということです。」
元老院議員「ジュリエッタがメシア?バカバカしい。」


「色々な意味で今後も目が離せないジュリエッタ・・・ここで番組内容を一部変更して、たった今始まったジュリエッタの全世界ライブツアーの様子を生中継します!」

ライブ会場。数え切れないファンの中心で手を振るジュリエッタ。
ジュリエッタ「それでは私の歌を聴いてね!」
観客「わあああああああああ」
前奏が流れる
ジュリエッタ「マイリトルスター!!」

所ジョージ「♫タイヤキ~タイヤキ~さ~め~て~しまったら~電子レンジでチン、チンしてアンコもか~わ~く~♫」

リンドバーグ船内に響く所ボイス。
ライト「お前本当に所さん好きやなあ」
ミグ「ほっといてくれ、トコジョーさんの歌にはな、ふか~い社会風刺があるんだよ・・・」

所「♪意味ないじゃ~ん意味ないじゃ~ん」

ライト「・・・・・・。この人そこまで深く考えてこの歌作ってないと思うで・・・」
「あるの!いいの!所さんの歌を聴くと・・・宇宙はこんなに広いのに私はなんてつまらないことにあくせくしてるんだろうって癒されるんだよ・・・」

所「たけしがバイクでゴンダワラ~♪」

ライト「たしかに凄まじくバカバカしいもんな・・・」
「それがトコジョーさんのねらいなのさ・・・」
「は~歌で人を感動させるのも難しいんやなあ」



「制限速度~マッハ2000」と書かれた人工衛星の影に隠れてスピード違反の取り締まりをしている警察の宇宙船。
そこを猛スピードでリンドバーグ号が横切っていく。
リンドバーグ号が速過ぎて爆発するスピードメーター衛星。

警察のパトロール船がサイレンを光らせて接近してくる。
ライト「あかん、警察や・・・」
ヘッドフォンで曲を聴いていて気づいてないミグ「でもそらお前 俺だって警察に来たくて来てんじゃないんだから、オ~ラ お前の態度が気にくわぬ~オラ 愛想の一つも言ってみろ~
か弱い市民は命令的な~お前の態度や言動に~車~庫証明が欲しいから付き合ってんだよ~♪」
ライト「・・・ミグ、今その歌を歌うのやめてくれへん・・・?」



天王星。首都ポープ。
オセロ第一警察署。
屈強な老刑事が足を踏み鳴らして取調室に入ってくる。
ゲオルグ警部「俺の星の秩序を乱すやつは許さん!ギタギタのメロメロにしてやる・・・!」
ライト「あ、ゲオルグのおっちゃん!」
警官「デカ長お知り合いですか?」
ゲオルグ「・・・そいつを釈放しろ。とっととこの星から追い返せ。オレたちの捜査の邪魔になる。」
警官「はあ・・・」
ゲオルグ「そいつはスパイでも運動家でもない。ただの馬鹿だ。」
ライト「なあ、なんかあったん?天王星」
ゲオルグ「お前には関係ない話だ。さあ帰った帰った。こちとら領土問題で忙しいんだ・・・」
ライト「じゃあ前みたいにカツ丼食ってからでいい?」
ゲオルグ「うるせえ~!外の定食屋で食え!」

取調室から追い出されるライト。
待合室で待っていたミグ「なあ、大丈夫だった?」
ライト「ああ・・・知り合いがおってな。」
ミグ「お前はたいていどの星でも警察沙汰を起こすよな・・・」
ライト「冥王星はお前が通報したんやろ!」
ミグ「あれは悪かったって謝ったじゃないか・・・で、どうする?この星で飯でも食べていく?」
ライト「せやな。せっかく降りたし。」

警察署を出て街を歩く二人
巨大なビルの周りをモノレールが走っている。遠景にはさらに巨大な水道橋がそびえ立っている。
街のそこらじゅうに劇場、映画館、カジノ、カラオケ、公衆浴場、フィットネスクラブがある。
ミグ「すごい大都市だな・・・劇場や娯楽施設がたくさん・・・」
ライト「パンと見世物の星やからね。なあ、うまい店知ってるからそこでいい?」

定食屋
定食屋主人「いらっしゃい!」
ライト「おう大将来たで~」
主人「あ、久しぶり!カウンターでいい?」
ライト「ああ。ツレもいるんで。」
ミグ「こ、こんにちは・・・」
主人「すっごい品の良さそうなご婦人じゃないの!どうしたの?」
ライト「へへ、冥王星人やぞ」
主人「あの星美人多いって言うもんな!」
お冷とおしぼりを出すバイトの女の子「どうぞ」
ライト「悪いな。」
主人「で、なんにしましょう?」
ライト「いつものやつで。ミグもそれでいい?」
ミグ「構わんよ。」

ライト「ここのドンブリすっごいうまいんや!」
ミグ「へ~・・・こういう店入ったことないから緊張するなあ・・・」
周りを見渡すと客が座敷で新聞を広げてタバコを吸っている。
ようじを咥えたサラリーマン「おじさん勘定!」

ミグ「なあ・・・さっき警官から聞いたんだが・・・天王星って軍隊持ってないんだな。
だから宙域を警察が取り締まっている・・・」
ライト「軍人のあんたには信じられへんやろうけど・・・ずっと昔に戦争を放棄した平和な星なんや」
「しかしどんなシステムにも防衛は必要なんじゃないか。例えば人体だって免疫というものが・・・
だけど・・・うん・・・そんな星、羨ましい。」
微笑むライト「オレもや・・・」

バイトの女の子「カツ丼お待たせしました~」
ライト「へへへこれやこれや!いただきま~す!」
ミグ「え、なにこれ?ライスの上におかず乗せてるんだ・・・」
「食ってみろよ、旨いから」
「いただきます・・・あ、甘くて美味しい~」
「やろ!」

何気なくリモコンを操作するサラリーマン。
定食屋のテレビのチャンネルが変わり、ジュリエッタのライブ映像が流れる。
ジュリエッタ「♪守りたい、救いたい、私のたった一つの大切な星~」

テレビ画面を指差すミグ「おい、あの珍妙な歌はなんだ!?」
ライト「あ、ああ天王星で流行っているとかいうアイドルやろ。」
バイトの女の子「あの人はパトラ・ジュリエッタさんですよ~」
ライト「お、おねえちゃん詳しいね!」
ミグ「そういえば市街のビル広告でも見かけたし、マルチビジョンにも映ってたかも・・・」
バイト「はい、天王星で最も人気のあるアイドルなんです!」

テレビのジュリエッタ「劇場で待ってるね!」

ミグ「なあ・・・行ってみないか?」
ライト「え?」
ミグ「その・・・劇場・・・」
ライト(こういうのバカバカしいと言うと思った・・・)
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