ガイア理論について

 映画『アバター』は「衛星パンドラに住む全ての生き物が、ある種の超自然的存在によってリンクされている」という、大変私好みの設定がありました。もっと、この深い設定を作品の中心軸において、強調して欲しかったのですが、今回はこの設定の元ネタと思われる「ガイア理論」について、ちょっと記事を書きます(本当は「バイオロジー」の後半で取り上げたかったんだけど、いい機会なのでここで推敲させてください)。

 私の好きな人に、TBSの「どうぶつ奇想天外」にでていた「千石正一」さんという、(主に)両生類や爬虫類の研究者がいます。
 この方の著書のあとがきに、「生き物を滅ぼすという事は、地球という時計の構造を知らずに、内部の歯車の一つを取り除いてしまうような危険なことだ」といった内容が書いてありました。いや、この本、高校生の頃立ち読みしただけなんで“引用が正確でない”ことをご了承ください(でも、大体あっていると思います。適当ですが、論文じゃないので多めにみてください…)。
 このような「地球に住むすべての生き物はつながりあって、相互作用をしている」というのがガイア理論なのですが、そこから「だから生物を滅ぼしてはいけない。生物多様性は維持すべきである」というガイア理論に基づく思想が発生します。これを「ガイア思想」とします。
 千石さんの、あとがきの文章は「ガイア思想」だと思います。蚊や、ゴキブリが人間にとって迷惑で、気持ち悪くても、それを滅ぼすことは生態系に大きな悪影響を及ぼし、人間はしっぺ返しを食らう。こんな主張だと思ってください。
 
 実は、私は昨年新作漫画(恐竜大陸『サウラシア』)の脚本を書き、その内容がまさにこの「ガイア思想」でした。しかし、この考えは「感動物語(フィクション)のギミック」としては面白くても、科学的、客観的に考えれば、距離を置かなければいけない思想だと思っています。個人的には。
 私は決して「ガイア理論」に懐疑的ではありません。「ガイア思想」に懐疑的なのです。すべての生き物がつながりあっているのは事実ですが、ある動物種の絶滅が(人間にとって)悪い結果やいい結果をもたらすというのは、予想がつきません(カオス)。

 似たような話で「地球温暖化」が挙げられます。現在の人間の生活や経済活動が、どのような結果を生態系に与えるかは予想のしようがないし、その結果が地球や地球の生物にとって良いか悪いかは“絶対的”なものではありません。そもそも「いいか悪いか」という判断自体が人間中心的(主観的)ですよね。
 ※だからといって環境破壊を進めろと言っているわけではありません。もっと客観的なデータを集めて研究を重ねるべきで、短絡的に政治的な道具として使うのは問題と言っているのです。
 「科学技術の進歩、発展=環境破壊」「科学の否定=環境保全」と短絡的に考える人が多くて・・・

 アフリカや中国といったこれから伸び盛りの国にとっては、発展こそが優先事項であり、「国より地球のことを最優先に考えろ」と他国(しかも散々環境破壊してきた先進国)に言われる筋合いはないと、思っていると思います。
 
 人間は結局人間のことしか考えられないし、地球の事よりも人間が生きていける環境を守ることこそが優先事項だと思うのです。
 残念ながら人間は、人生を生まれる前から奪われた家畜、牛や豚、鶏に対して「地球の生物を守ろう!」なんて奇麗事をぬかす資格もない、外道の限りを尽くしています。
 そして『アバター』の主人公のように「俺が地球のリーダーだ!」と他の動物の頂点に君臨し、仕切るのもおこがましいです。
 だから、そういった奇麗事は置いといて、まずは動物よりも人間の住みよい環境から考えてみるべきだと思います。レッドデータ―アニマルよりも紛争や飢餓で苦しむ、同じ人間を救うべきです。
 ちなみに、気象学の先生によれば「北極の氷が溶けてホッキョクグマが絶滅する」というのは嘘らしいです。かつて北極の氷は“すべて”溶けた時があって、そのころもホッキョクグマは平気でアラスカとか、グリーンランドとかで暮らしていたらしいですから。
 
 私が思うに「地球は一つの生物のようなもの」で、その意味では「ガイア理論」は正しい。生物を「地球の細胞」だと考えてみてください。ちょっと怪我をして、体の表面をすりむいても、いつかはかさぶたができて傷は治ります。
 人間が生態系に及ぼす影響とは、実はこの程度のものだと思うんです!「いやいや核兵器があるだろ」という人もいますが、そんなものよりも比べ物にならないほどのエネルギーを出す「地殻変動」や「小惑星衝突」を何度も経験しても、生物はちゃっかり生き残り、まるでそんなカタストロフィーがなかったかのように生態系を再構築します。

 生物はつながりあっています。しかしそれを滅ぼしても、時計の歯車のように、すぐに機能停止にはいきません。ただ無制限に生物を滅ぼし続ければ、確実に修復不可能な状態にはいくでしょう。しかしそこまでの破滅を、お釈迦様の指ではしゃぐ、ちっぽけなお猿さんである我々は、引き起こしたくても引き起こせない。
 環境のことを考えなくてもいいと、言いたいのではありません。ただ環境や、地球、国家というグローバルなものを守るという“政治的戦略”によって、誰かが不幸になるのはおかしいのではないか?と思うんです。

アバター

 「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆」

 昨日映画『アバター』を見てきました。いや~想像以上に悪趣味なおバカ映画で、アメリカの大作娯楽映画お決まりのパターンでした。
 
 「映画の新時代」とかコピーうった割には手堅い、単純なストーリーラインで、三時間近い長丁場を飽きさせず、長く感じさせなかったのは見事。とはいえ、原住民の女の子と主人公が仲良くなっていくあたりで(ちょっと眠かったというのもあるんですが)飽きてきちゃったんですけど、うまい具合に展開が動き出してよかった。

 物語の背骨はほとんど『ラストサムライ』。そしてそれをベースに『キングコング』(趣味の悪い生き物がたくさん出てくる)『ダイノトピア』(翼竜ライダーのくだりがほとんど一緒)『紀元前1万年』(敵に対抗するために部族を集結させる)を足したような感じ。

 正直もっと深い話を見せてくれるのかな、と思ってたけどそこは何もなかった。『インデペンデンスデイ』みたいなおバカなノリで見るのが正しい楽しみ方なのでしょう。
 おバカと言えば、個人的に助演男優賞をあげたい、戦争大好きシブマッチョ大佐。強すぎです。この人の性格は、もうディズニー映画の悪役か!ってくらいカリカチュアライズされていてアニメみたかったです(宮崎アニメっぽいシーンもあったな)。
 そして衛星パンドラに鉱物を掘りに来ていた株式会社のトップ。このひと吹き替えの声優がよかったのかな?どっちかというと悪役だけど、パターゴルフで遊んでいたり、子供っぽくてどこか憎めないキャラクターでした。
 軍に属していながら、自分の信念で動き、主人公たち、科学研究チームに協力してくれた女性兵士も良かったですね。この人『LOST』シーズン2に出てたような。その時は嫌な奴の役だったけど、『アバター』の役は良かった!一番好きなキャラだったかも。

 しかし残念ながら、この映画は人間ドラマとしてはイマイチ。メインキャラの心理描写が薄く、主人公は結局どういう性格の人かさっぱり分からなかったです。せっかく感情移入しやすい主人公の一人称視点で映画を作っているのになぜ?
 自分が考えるにジェームズ・キャメロン監督は、このキャラ設定が定まっていない、いわば空っぽの主人公を、我々観客の「アバター」として用意し、映画の世界を疑似体験できるようにしたのかもしれません。
 でも疑似体験と感情移入ってちょっと違うから、この映画は「映像はすごい!」と思えても、主人公の行動に共感したり、応援したりってのがなかったのかも。
 もうすこし観客がのめり込める、主人公を作り込んで欲しかったなあ。まあそこがこの映画のキモではなかったんでしょうけど。

 クライマックスの展開は、なんだかアメリカ人の馬鹿さ加減に笑いと怖さを感じましたね。それは、原住民に対する徹底的な差別意識の表出です。この映画はおそらく、英国からアメリカ大陸にやってきた移民と、ネイティブアメリカンの対立をSFっぽく描いているのでしょうけど、無意識のうちに「原住民は無知で、アメリカの海兵隊員である主人公が率いてやらなきゃ強力な軍事兵器を持つ人間軍に負けた」という物語の構造になっているんです。

 この他民族に対する謙虚さの欠如は何なんでしょうか(笑)。『ラストサムライ』は面白かったのですが、それ以上にこの『アバター』では、原住民が“アメリカ人のリーダーに指揮されて”勝利をつかむという構造があざとくてちょっと…
 これじゃあ、勝手にしゃしゃり出てきたよそ者が、ちゃっかりリーダーになって、おいしいところを持っていくようなもので、それなら原住民は全員アメリカ人抜きで強大な敵に特攻して、散っても良かったんじゃ。それで守れたものもあったんじゃ。この思想結構やばいのかな?

 最後に空の支配者の巨大な翼竜。モデルはブラジルの翼竜「タペジャラ」ですね。しかし歴史上5人しか乗りこなせなかったあいつに、主人公あっさり乗っちゃったな…

マメンチサウルス科について

 あけましておめでとうございます。

 ギャラリーの「チュアンジエサウルス」のイラストを午前中にささっとかいて、差し替えたのですが、もはやこのギャラリー、中学、高校に描いたイラスト6枚くらいしかなくなっちゃって、全然「主に中学、高校のイラストです」じゃなくなってきましたね。書き直さないと。

 このチュアンジエサウルスのイラスト、実は手抜きで、高校の頃に描いた大型のマメンチサウルスのイラストを使ってたんです。
 チュアンジエサウルス、高校生の頃には幕張に来てないですからね。んで、手抜きはいかんとチュアンジエサウルスが来日した恐竜博のガイドブックで、骨格を調べて描き直してみたんです。年も明けたし、心機一転。

 いや~この手の恐竜は紙にどう入れて描けばいいのか難しい!解説文の通り、大きく入れると首しか入らないし、尻尾の先まで入れると絵のサイズが小さくなって迫力が出ない…
 というわけで、泣く泣く新作は尻尾を根元からバッサリ切ってしまいました。これじゃあ尻尾の長さや形が分からないと思うけど、絵的な表現をとってしまった。勘弁(ちなみにこの恐竜の尻尾の骨の数は詳しく分からないので長さも分かりません。尻尾の形は尻尾の先に骨の固まりのハンマーがあるってこともなく普通だと思います)。
 
 中国の竜脚類って何が悲しいのか、頸がとんでもなく長くて、中には全長の半分を占めているものもいます。最も有名なのが、「マメンチサウルス」だと思うのですが、やっぱりこの恐竜のバランスはおかしいと思います。
 首に対して尻尾が短すぎるのです。これで首はほとんど曲がらず、水平に直線的に伸ばしていたとなれば、やはり尻尾はその首のバランスを取れずに前に倒れてしまうと思います。

 竜脚類の首と尻尾はしばしばシーソーのような関係にたとえられますが、シーソーで重要なのが、物体をシーソーに乗せる位置、中心(てこの原理ならば支点にあたるところ)からの距離です。シーソーで遊ぶときに、体重の小さい子でも中心から遠くに乗せれば、体重が重い人も持ち上げることが出来ることを経験した人は多いと思います(ただし重い人が中心から遠くに乗っちゃうともう駄目ですが)。

 このことをふまえてマメンチサウルスを考えてみましょう。となれば、答えは一つ。「マメンチサウルスの体が想像以上に重ければ前には倒れない」ということです。つまりマメンチサウルスは、首の付け根をシーソーの中心とするならば、中心から(ものすご~く、10メートル以上)遠い場所に軽い頭が乗っていて、その反対側の中心から近い場所にとっても重い体が乗っている状態だったのかもしれません。
 北アメリカのディプロドクス科の竜脚類はその長い頸を、同じくらい長い「尻尾」でバランスを釣り合わせました。ちょうど体から延びる四足は橋脚のようです。しかしマメンチサウルス科は、軽くて長い尻尾でバランスをとるのではなく、私が思うに超重量化した「体」でバランスを取ったのだと思います。

 ちなみにチュアンジエサウルスの体の印象やポーズは松村しのぶさんが作ったカマラサウルスの模型をパク…参考にしました。山本聖士さんの竜脚類は、いくらなんでもちょっと足がガリガリすぎてて…

2009年はいま一つ

 今年は何年かぶりに恐竜のイラストを描いて、その奥深さにノイローゼになった年でした。なんだか漫画に費やした2008年と比べて、中途半端な年になっちゃたなあ。
 来年はバシバシ漫画でも描こう。では。

おそるべし高校教育

 今日の冬期講習での「高校現代文」の文章はなんとカントの『純粋理性批判』を批判してました。こういった認識や観念といった問題って、科学にしろ哲学にしろ究極的に難しい問題(アポリア)なのに、それを読ませて問題を作ってしまうとは…

 この問題文はおそらく、哲学とか少しかじっていないと、理解することすら困難だと思います。それを、あまり本を読まないような高校生にも課すとは…
 もしこの問題が五択のセンター形式でなく、記述式ならば、平均点はぐっと下がること間違いないですね。まぐれ当たりする人がそぎ落とされるんで。
 
 あと国学者の「本居宣長」が文中で引用されていましたが、この人って「“道徳”なんて、物事の本質を考えれば、自然と芽生えるものなんだ!そんなん学ぶもんじゃねえ!」ってずいぶん熱いこと言う人だったんですね。
 小学校の時、この人について調べ学習したはずなのに、何した人か具体的にはさっぱり知りませんでした。

 とにかく高校の勉強がもし完璧にマスターできるのならば、はっきり言って「大学の教養教育っていらなくね?」ってくらい、高校の内容はオタクすぎると思います。遊んでばかりの大学生よりも確実にやっている学習内容が濃い!
 
 話は変わりますが、昨夜とあるwebコミックについてマロ氏が「この作品は、作者が“私的”に描いてるからこそ、私は感動出来たんだ」と仰っていたのですが、この観点はとても興味深いと思いました。夏目房之介さんが提議した「作者と読者の関係性(“作品”とは作者と読者が存在して初めて成り立つもの)」と合わせて考えていきたいと思います。

 一人で好き勝手に描いた作品でしか、味わえない“何か”って、私もあると思うんですよ。
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