進化の袋小路について

 コープの定向進化が否定されるならば、おのずとよく言う「進化の袋小路に突入して、その生物は絶滅した」という言い回しも間違っていると言えます。

 これをウマに例えるならば「ウマには脚が速くなるような進化の方向性があらかじめ定まっていて、その運命は不可抗力で、どんどん脚は細長くなり、その内に脚は速いが、転んだ時のリスクの方が大きくなりすぎて滅んでしまいましたとさ」といった感じで言えるでしょう。
 実際には進化の袋小路的局面に突入する前にトレードオフの原理が働くので、足が速くなる傾向の進化は止まると思います。
 進化の袋小路の好例である、足を速くするために、怪我をしやすく、人工的な飼料でしか成長できなくなった競走馬「サラブレッド」は自然淘汰ではなく、人工的な品種改良の結果生まれたので、野生ではまずあのような動物は生まれないでしょう。
 
 確かにウマは平原を速く走るのに特化した動物であり、断崖絶壁にすら適応するウシなどの偶蹄類に比べて、生息できる環境は大きく限られています。
 しかし平原が存在する限りウマは「進化の袋小路」に入った哀れな動物ではなく、平原に最も適応した究極進化形動物といえるのです。
 彼らが滅ぶとしたら、平原が消滅するような大規模な環境の変化が起こった場合ですが、環境の大激変が起これば、どんな適応パターンを選択した動物も窮地に立たされるのは言うまでもないです。こうなると適応力どうこうでなく「運のいい」ものがたまたま生き残るだけでしょう。

 もちろんどんな破滅的状況でも、相対的に生き残る可能性の高い生物は存在します。バクテリアやウィルス、菌、電子レンジに入れても大丈夫という昨今話題のクマムシ、放射能にことさら強いカイコなどは逞しく生き伸びそうですが、高等生物は、まあ、彼らに比べて滅ぶ可能性が高いと言えるでしょう。
 となれば、進化の袋小路に入った動物は「(人類も含めて)複雑な動物全て」ということになってしまいます。そんな馬鹿な。
 環境の激変さえなければ、高等動物だって環境に立派に適応する事は出来るのだから、高等動物全てを「進化の袋小路」というのは、どうなんだろうと思います。

 よく「恐竜は大きくなりすぎて進化の袋小路に入って滅んだ」という考え方も大間違いで、そもそも恐竜が最も巨大化したのは恐竜時代の末期というよりは、中期(ジュラ紀後期)で、白亜紀の最後に隕石が落ちる(=事故)までは、コンスタントにいろんな恐竜が進化し続け、多様化していました(確かに一部滅んだグループもいますが)。
 恐竜を哺乳類に変えて考えてみてください。「ヒト、ゾウ、キリン、ライオンと多様化した我々哺乳類は巨大隕石によって絶滅しました。これは哺乳類が進化の袋小路に入ったからであり、彼らは種の寿命を迎えたのです・・・」
 こう考えれば、この説がいかに荒唐無稽か分かると思います。あんな隕石落ちてきたら、動物はどう進化しても死にますよ。

公然と偽善者を演じられる才能

 テレビを見てて、なんか私もまだまだ未熟だな、と思い知らされました。

 ライブドアの堀江貴文元社長の「女は金で付いてくる」とか「人の心はお金で買える」的発言は、小林よしのり先生も「こどもへの影響は大きいぞ!」と問題視していましたが、この発言をテレビで全否定するアイドルの肝も大したものだな、と。

 確かにホリエモンの発言を肯定しちゃえば、アイドルとしての自分のイメージダウンになるし、世間や番組スタッフはこの発言を全否定することを自分に求めているんだな、という計算の下に彼女も発言しているのでしょうが、それをごくごく自然にテレビでやってのけてしまうのが、すごい、というか、なんか傷つきました。胃をぎゅっとされた感じで。

 人間とは、他人に「お前はこうだ」と分析されると、その指摘が合っていようが、否定したくなるものだから、それで「私は女性がお金で付いてくるなんて違う」って思っているのか、それとも本気でホリエモン発言を全否定しているのかはわかりませんが、ちょっと頭が良ければ、どう考えたって今の日本は資本主義なんだから「人はお金でついてくる」こともあるに決まってるじゃないですか。

 多くの女性だって、できれば経済的に自立した人と結婚したいに決まっているし、大体有名人が財をなした金持ちと結婚するのは、じゃあなぜだ?ってことになります。
 おそらくセレブと結婚した彼女達は「お金でこの人を選んだのではない」とか言うのでしょうけど、同じルックス、同じ性格ならば、おそらくお金を持っている方を選ぶわけで、少なからず異性の選択に経済観念が働いているのは明白です。
 ならはっきりと自分の欲深さを引き受け「学歴だ、ルックスだ、金だ」という女医の西川先生の方がまだ好感を持てる(あれもテレビ用のキャラクターだろうけど)。
 
 私は「人の心はお金で買える」こともあれば、ないこともあると思います。だから全肯定も全否定もできません。
 そもそもこの堀江さんの発言自体、半分冗談な上、当時の小泉構造改革、市場原理主義に対するメタファーなのは言うまでもないから、これを本気でとる人がおかしいんでしょうね。
 全ての女性がお金持ちについていくはずはありません。お金が無くても、その人の人柄にほれてくれる素晴らしい女性はいくらでもいます。
 しかし「女はお金についてくる」発言を全否定する女性は偽善者だと思います。「お金について行く女性もいるけど、私は違う」くらいならいいんだけど・・・

進化には方向性はあるが定向進化はない

 そもそも「進化」という考え方を始めて唱えたのは『動物哲学』の著者ラマルクだと言われていますが、彼は進化のメカニズムを「キリンの首は、高い所の餌を食べるために何世代にもわたって努力した結果伸びたのだ」と、かなり大雑把に考えてしまいました。

 一世代内の後天的な努力が、その子孫に受け継がれる事を「獲得形質の遺伝」といいます。これは結論から言って間違いで、たとえば「オレは鳥のように大空に羽ばたきてえんだ」という人が常に腕をバタバタ振ってたら、その腕が翼に変わっていくことや、因数分解の解き方を覚えた人の子どもが、生まれた時から因数分解の解き方を知っているような事が無いように、否定されています。
 この獲得形質の遺伝は、その後ワイズマンによって反証されましたが、ラマルクを責めるのもちょっと可哀そうです。何しろ当時はメンデルの遺伝の法則が存在していなかったからです。
 実はダーウィンも、メンデルの遺伝の法則はギリギリ知らずに、自然選択説を考えたのですが、あの合理的な説を遺伝子の概念無しで考えるとは、やはりあの人はただ者じゃありません(メンデルがダーウィンに自身の遺伝の法則を手紙で郵送したのだけど、ダーウィンは多忙で読めなかったという話もあります)。よってラマルクが劣っていたのでは決してありません。ダーウィンがすごすぎたのです。

 ラマルク説のパワーアップ版に、アイマーや化石戦争のエドワード・コープが唱えた「定向進化説」というものがあります。
 定向進化説とは主に古生物学者の支持を取り付けた説で、よく例に持ち出されるのがウマの脚です。化石で見つかる原始的なウマは、体が小さく脚は短く、足の指は五本あります。しかしウマの仲間は、進化していくにつれ体を大きくし、脚を細く長くし、足の指を減らしていき、とうとう一本にしてしまいます。
 これは化石という証拠による純然たる事実です。そして、この“傾向”は「ウマが進化によって徐々に平原を速く走れるように進化した」ようにみえます。私も事実そうだったと思います。

 「つまり進化には定まった方向性がある。」これが定向進化説の考え方です。

 私は、現在の足の速いウマ(サラブレッドは人為的に作ったので除外します)の系譜を逆走すれば「平原を早く走るように」進化したことは確認できると思います。
 しかし定向進化説は「進化には定まった方向性がある」という結論がおかしいのです。この結論は「あとちょっとでいい線いってたのに惜しい」って感じの結論だと思います。
 「進化には方向性がある」ならいいと思います。定向進化説は、この進化の方向性を「定めてしまった」ので「これじゃラマルク説と一緒」と否定されたのです。

 この違いは微妙なように思えますが、実際には大きな違いです。定向進化説の大きなミスは、ラマルク説と同じく「進化のメカニズムの説明に、群集団や環境、捕食者などの外的環境の影響、つまり相互作用を排除してしまった」ところです。

 実際、足の速いウマが、集団内の足の遅い他のウマに比べて、捕食者に捕まる「確率」は低かったと思います。すると“結果として”多様な個体のいるウマの群れに占める、足の速いウマの遺伝子の割合は増えていきます。
 つまり外的環境との相互作用によって「進化の方向性」は形成されるのであって、ウマ自身に「脚がはやくなる傾向」が存在するわけではないのです。

 これは、クジャクの羽のように、あえて敵に目立つデザインを進化させてしまう「性淘汰説」にも適用できます。この場合、クジャクのオスの羽根のデザインは、異性にもてる「メリット」と、敵に見つかって食われる「デメリット」が秤にかけられ、「トレードオフ」の論理で決められるのです。
 ※正確には、オスのクジャクが主体的に決定しているのではなく、外的環境によって決定“されます”。つまり派手すぎて敵に食われる確率が高くなっても、食われる前に異性にめちゃくちゃモテて、子どもを作って子孫を残せる確率が高いのならば、生物的には「メリットがデメリットを上回った」と言えるのです。

生きた化石は古くない

 中間種における記事で、dario氏が私の記事を誤解した原因は、私の文章の書き方の悪さと、現代でも生きている生物を「原始的」と呼ぶ風潮だと思います。

 ウミユリやシーラカンス、ワニ、サメ、カブトガニ、ムカシトカゲを「生きた化石」とか「原始的な」とか言いますけど、あれはあれで「原始的な特徴を今なお残した“現代の”生物」と言えます。
 「古生物=原始的生物」は違うってことですね。言葉ってややこしいですけど。原始的の“的”がくせものですね。

 首の短いキリンであるオカピも決して古代生物ではありません。そもそもキリンの祖先に当たる生き物がどういう姿か分からないので、もしかしたらオカピの方が進んでいて、キリンの方が原始的特徴を残しているとも言えなくもありません(おそらくキリンを先祖帰りさせれば、徐々に首は短くなるだろうけど)。
 オカピとキリンを生んだ「原始的な」中間種はもうとっくに滅んでいるし、今生きている生物は「大進化の結果」です(哲学的に言うならば、時間はとめられないので進化の途中とも言えますが)。
 私たちは哺乳類などの動物においては大進化の結果しか、実際に生きている姿を見ることができません。あとはマンモスのようにフリーズドライされた死骸や化石です。

 ここでのポイントは「現代に生きる私たち人類と、現代に生きる原始的なシーラカンスは“同じだけ新しい”」ということでしょう。シーラカンスの進化の歴史だけ、ジュラ紀から停滞しているわけではないのです。
 逆を言えば、進化による変化が長い時間ほとんど変わらないのは、もう変化しなくても十分環境に適応しているからであり、ある意味「歴史上他の生物に比べて早くに完成系にたどり着いた優秀な生物」とも言えるのです。

 結論:今生きている生物に古いも新しいもない。みんな同じく新しい。

そうだナイロビ博物館に行こう

 『進化の存在証明』第7章は人類の進化。

 特に頑固なまでの歴史否定論者ウェンディ・ライトとドーキンスの進化をめぐるやり取りは必見。まるで大晦日に「疑似科学スレイヤー」大槻教授と、「金星人の住民票を持つ男」たま出版編集長、韮澤さんの口喧嘩を聞いているようで大爆笑必死。
 このやり取りを紹介している項のタイトルが「見に行くだけでいい」というのですけど、このタイトルに、彼女に対するドーキンスの思い全てが凝縮されています。
 「サルとヒトの中間種が存在しないだって?博物館に行ってくれ。見に行くだけでいい。あるから。」

 ドーキンスは彼女のことを尽く馬鹿にしていて「モーニングアフターピルは小児性愛者の最良の友」という彼女の意見を聞けば、彼女の論理的能力がどれほどのものかおおよそ分かるが・・・とバッサリw。

 この二人の議論はもはや議論の体をなしておらず、ドーキンスが具体的な中間種の化石をあげて、彼女を追いこんだと思いきや、彼女は論点をさらっとすり替え「ドーキンスの攻撃性」を攻撃。「なんであなたはそんなに攻撃的なの?誰もが貴方の信じているように信じることが、なぜあなたにとってそんなに重要なの?」としょぼいポストモダン作家のような価値相対主義で応戦。でドーキンスが「これは私の個人的な信念でなく、客観的な事実です。」と返しても、また同じ質問に逆戻りの無限ループ。

 この不毛な堂々めぐりにドーキンスもいらついたのか「中間種の証拠見せろって言ったのあんただろ!いいから博物館に見に行けや!」的発言でたたみかけます。しかし彼女も「ならあなたも、ご自身の目を開けて、私たちのそれぞれを創造された愛情深い神を信じる人によって築かれてきたコミュニティを御覧なさいと言いたいわ」と売り言葉に買い言葉。
 このやり取りが所収されてるだけでも、この本は充分価値があるなあ。こんなの日本の本や図鑑じゃまず載らないから。

 またこの前の記事に書いた「種のグラデーション性」及び「化石動物の種のあいまいさ」は、全く同じような主張が第7章にも書いてありました。
 「種と種の間の中間種につけられる名前は、結局その中間種をはさんでいる両端の種のどちらかの名前(属名)に入ってしまうから、種と種の人為的境界が発生してしまう」という問題を、二十歳という境界を超えたら子どもは急に大人になるか?という例えで説明したドーキンスはうまいですね。
 境界に当たる部分はグラデーションになっていて、そのままだと概念的に捉えにくいから便宜上境界を設けている。このことをドーキンスは大人と子ども、私はジェンダーで説明したわけです。

 あとドーキンスとデズモンド・モリスって同僚なんですね。それにジョン・メイナード・スミスも知り合いなんだ。というかジョン・メイナード・スミスも亡くなってたんだ。早くに亡くなったグールドといいドーキンスもさみしいだろうな。
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