進化を実験する

 おもしろい・・・!リチャード・ドーキンスの『進化の存在証明』は第5章から本領発揮!アフリカゾウや、孤島のトカゲと前置きを終えたのち、ついに進化を“実験で”確かめられるバクテリアの登場・・・!たまたま私も「バイオロジー」でバクテリアの進化について執筆していたので、なんともタイムリー。
 「この世に普遍的な法則などはない」と仰っていた視野が狭く無知な絵画の教員も、これを読めば納得すること請け合い?ただドーキンスはバクテリアの話に入ると「ここから話が長くなるし、別に難解になるわけではないけど、ちょっと複雑だから、今が夜更けなら明日ゆっくり読んだ方がいいよ」と(何度もw)念押し。
 これは話が難しいどうこうじゃなくて、とても重要な話だから「じっくり正確に」読解して欲しいのだろうな。

 と、いうわけで第5章の核である、リチャード・レンスキーの実験について、大雑把に要約。レンスキーの研究グループは、細菌(ここでは大腸菌)を20年間世代交代させて、彼らの形質がどのように変化するかを調べました。
 言うまでもなく無性生殖の細菌は、世代交代のスピードが速く、一日6~7世代繁殖すると言います。よってレンスキー氏の20年に及ぶ実験では、なんと45000回に及ぶ世代交代を観察できることになります。

 この実験に細菌を使った理由は他にもあって、実験開始前のオリジナルの細菌や、任意の世代の細菌のサンプルを冷凍保存し、キープ出来ると言うこと。
 サンプルを再び解凍すれば、彼らは生命活動を再開してくれるので、実験前の細菌と、実験後の“進化”した細菌の形質を比較することもできますし、適応度を調べるために同一環境で暮らさせて競合させることもできます(この場合に備えて細菌にはあらかじめ遺伝子操作を施し、旧型と新型を色で区別できるようにしています、Ara+遺伝子は赤、Ara-遺伝子は白)。

 レンスキー氏は、同一の遺伝子(クローン)の細菌を12のフラスコに分けて入れて、それぞれに独立した進化を促しました。例えるならば、動物を遠く離れた12の大陸に別々に生息させたわけです。早くからほかの大陸と独立したオーストラリアに住む動物に独特な固有種が多いのはこのためですが、それでも流木などで海を渡ってガラパゴス諸島にいっちゃう例もあるので、レンスキー氏の実験はそんな偶然すら許さない絶対的な隔離だと言えます。

 レンスキー氏の実験は、個々のフラスコにグルコースと言う細菌の餌を入れて、細菌たちを育てるわけですが、増殖に伴い細菌の餌は次第に減っていき、食糧不足に陥ります。このような状態を停滞状態(プラトー)といい、大体グルコースは一日で尽きるそうです。
 レンスキー氏のグループは、一日経過しプラトーとなった細菌たちの一部(100分の1を無作為かつ正確に抽出して)を餌が入った新しいフラスコに移します。
 この作業を毎日12の「フラスコ大陸」に別々に行い、12系列の細菌の進化を見届けるのです。つまりフラスコ大陸では1日ごとに、大豊作と大飢饉が繰り返され適度なプレッシャー、淘汰圧を与えている事になります。

 20年後、7000回フラスコを取り換え=餌を供給し、細菌が45000世代経過すると、程度の差はあれ、どの大陸でも打ち合わせでもしたかのように、同じ進化の傾向、細菌の大型化が見られたのです。
 つまり12大陸で同じように遺伝子が変異したのであり、それは突然変異と言う偶然なのですが、まるでその傾向は必然的で「なるようにしてなった」偶然なのです。
 これは仮に生物集団が隔離、独立していても、環境が一緒ならば、スマートボールの弾がどの点数のホールに入るかには差があるにしろ、上から下に落ちると言うおおまかな「運命」は絶対的だということを、示しているのではないでしょうか?

 よって進化のメカニズムはあくまでも「偶然」だとしても、生物は環境と絶えず「相互作用」をしており、変化は必然的に起こると言う事。
 そしてその変化は、初期値やその環境が同じならば、それぞれのコロニーが辿った進化の細かな過程の差はともかく傾向も似通ったものになると言う事がこの実験から見て取れます。

 でなければ、12の細菌グループが同じような遺伝子の変異をすることが理解できません。中学校で習ういわゆる「確率」では、20年後に12の細菌グループが同じような進化をする確率は、人が「奇跡」と言うほどの天文学的低さとなるでしょう。

 追記:実はこの実験では、たった1つのフラスコ大陸の細菌たちが、グルコース以外の物質(クエン酸塩)を食べれるように変化したのですが、この話はちょっと複雑で(いわゆる「木村資生の中立進化」だと思います)「バイオロジー」で取り上げることにします。

 第6章は、どうやら古生物学の話になるよう。楽しみだ。

池上彰さんと日本の教養

 最近テレビで池上彰さんがニュースを解り易く解説する番組が多いです。ニュース解説番組が多いのではなくて、「池上彰さんのニュース解説番組」が複数あるのがすごい。
 こういった番組がそこそこ数字をとっていると仮定すると、大衆はニュース番組の小難しい内容に、もはやついていけてないのかもしれません。
 これは分かりやすくニュースを伝えようとしないニュース番組の責任か、それとも学校を漫画描いててさぼり倒し、一般教養のレベルが低い我々の責任か(それはお前だけ)、なんにせよニュースが理解できないという危機的状況を打破すべく現れた救世主が、池上彰さんなのかもしれません。

 そもそも池上さんはNHK「週刊こどもニュース」という子供向けにニュースを解説するお父さん役をやっていて、その子どもにもわかりやすい解説を、今度は民放で大人にも行っているわけで、私たちは「これを見て感心している私たちって一体・・・」ってちょっと学校の授業をさぼったことを反省すべきだと思います(でも実はNHKは大人向けのニュースでもトピックをイラスト付きで分かりやすく教えてくれている)。
 まあ、政治、経済、金融などは、基本的なことはもう小学校高学年でしっかりやってますからね。おそらく小学生にこんな事教えても、日常の生活とはあまりにもかけ離れていて頭に入ってこないのでしょう。というか、それが逆に正常な反応なのかもしれませんが。

 もし、ふがいない教育のしりぬぐいを池上さんがやってくれて、日本人の平均的な教養が上がるのならば、日本の未来は少しは明るいかもしれません。ニュースの内容分からなきゃ、そもそも、それを話題にした議論が成り立たないし、正直ニュースの話で盛り上がれる人なんて私の周りにも限られています。
 実際チャウシェスク政権時のルーマニアなんかは、近代化の為に教育に力入れすぎちゃったら、みんな賢くなっちゃって「独裁政権ってダメだろ」と革命を起こされちゃったらしいです。

「ふたたびイヌについて」について

 『進化の存在証明』第3章は「家畜や植物の交雑等の人為淘汰と自然淘汰なんてほとんど差がないよ。むしろ人為淘汰で十数世代交雑を重ねれば、イヌにしろバラにしろ形質が大きく変わっちゃうのだから、何千万年も時間がかかる生物史の進化があれ位(魚が陸に上がったり、恐竜が鳥になったり)変わっても全然不思議じゃないよ」というのが主な主張。
 この主張をしたいがために、今回もドーキンスは様々な生物の相互作用の例を挙げて親切丁寧に解り易く説明していきます。
 この人、文章痛快なのに、変なとこ丁寧で、進化論を信じない人を尽くバカにする割に、そう言う人が何とか納得できるように、その目線まで話を解り易く持ってってあげているのが、なんかいうか「結局いい人」っぽくていいです。ポストモダン思想家や浅田彰さんにこの姿勢はない。

 今回例として挙げられるのが、花を育種したのは人間だけじゃなくて、虫もそうで、昆虫は人類が誕生するずっと前から、花の生殖(もしくは虫においては空腹を満たす栄養源の確保)という大義名分の下、花を育種し続け、いい香りや、美しい色を花に与えたと言う話。
 もし虫の好むにおいと、人間がいいにおいと思う香りが異なっていたら、そりゃひどい話になってただろうな、という突っ込みは爆笑。花によっては腐肉食性の昆虫をおびき寄せるために、腐った肉のようなにおいを出すものもあるらしいですからね。
 虫と花の共存関係は、どう考えても進化が事実としてあった証拠の一つと言えます。

 ドーキンスの例でもっともパンチがあったのは、ダーウィンやウォレスも言及したマダガスカル産のランで、この花は蜜腺がとても長く、とても長い口吻(ようはベロ)を持つガがいなければ、こんな形にはならない。そして現に長い口吻のガは存在し(このガが見つかる前から、そう言うガがいなければ、このランの形は意味がないとダーウィンらは予言)、このランの蜜を独占。口長のガは、蜜腺の長いランへの適応から、結果的に同族のランに花粉を届けることになり、ウィンウィンの関係(どっちもハッピー)になっているとのこと。
 これは生物間の相互作用の好例ですよね。他にも小魚とチョウチンアンコウ、美しすぎて、むしろ敵にも目立つオスのクジャクと地味なメスのクジャクなど、ベタで分かりやすい例を丁寧に解説。

 私も一応中学の頃に進化論の解説本や、高校の頃に『種の起源』は読んだことあるので、ランの話は知っていましたが、唯一知らなかった話が「イヌの家畜化」について(『進化の存在証明』「第3章 大進化に至る歓楽の道」「ふたたびイヌについて」136~144ページ)で、この話は「へ~」って感じで感動しました。
 ドーキンスが言うに、イヌと言うのは野生のオオカミを人間が無理やり「イヌ化」させたのではなく、オオカミの一部が自ら人間社会に適応し「自己家畜化(こんな言葉初めて聞きました!)」したというのです!
 詳しく言うと、一部のオオカミが人間の集落で出る「ゴミ」に狙いをつけて腐肉食動物(スカベンジャー)化し、オオカミから現在のディンゴのような野犬になり、その野犬を人間が飼いならして、今日のイヌがあると言うのです。
 ここで起きた変化が「逃走距離の長さ(ゴミあさり中にどれくらいの距離まで人が近づいたら逃げるか)」で、これは簡単に言えば、オオカミだってゴミをあさるかもしれないけど、ヒト慣れしていないオオカミは、ちょっとでも人が近づいたら逃げてしまうのでゴミあさりには野犬ほど向かない。
 それに対し野犬はゴミあさりに特化しているいわばプロなので、ギリギリまでゴミをあされるような、人の接近距離を試行錯誤によって獲得している。これがイヌが人の相棒になる第一ステップだったのではないか?というわけです。この話は初耳で面白かったです。

 第3章の結論は「生物の形質の変化(進化)は人の手がなくとも十分起きる」ということでしょう。

 そして第4章は、地質年代測定方法について。そう、この前ブログで同じような記事を書いちゃって「あちゃ~」って感じです。ドーキンスの説明の方が親切丁寧で分かりやすいですね。なんせ原子の構造の説明からしてくれるんだから。
 でも「火成岩に比べて化石を含む堆積岩は時代を計る時計としてはクソである」とか書いちゃうところがさすがドーキンス。クソって書くか普通w。
 でも『生命40億年全史』の三葉虫オタク、フォーティ氏よりも、ドーキンスの方が知識の守備範囲は広くて正確ですね。特に恐竜と鳥、その他爬虫類についての考察は、マニアも納得の出来。確かに「爬虫類」という分類単位はもはや形骸化してますよね。
 フォーティ氏は恐竜のページの記述若干誤ってましたから。まあ専門外だからいいけど…

青少年健全育成条例について

 少年漫画などの過激な性的表現を規制すると言う、東京都議会の青少年健全育成条例。これに対して出版社や一部の漫画家、および読者が「表現の自由の弾圧だ!」と反対しているようですが、私は「これってそんなに騒ぐことなのか?」と言う感じです。
 つまり未成年キャラの性描写が規制されると、いわゆるルイス・キャロルもしくはシュレーディンガー的ロリコンの人が楽しめなくなっちゃうから騒いでいるだけで、そういう変態性欲は18禁の漫画や同人誌がどっさりあるんだから、そっちで満たせるし、少年漫画などではある程度規制されてもいいんじゃないかと思うわけです。

 まあ、規制されようが、されなかろうが、漫画が好きで描く人はそのルール内で必死にあがくわけで、その葛藤において優れた名作が出来ると、私は思っています。
 よって今のような漫画がある種のハイカルチャー的ポジションに昇格し、一般に認知され、作家が何でも自由に描ける状況が、今日の漫画の画一化、面白さの拡散の原因になっているのならば、いっそ規制を強化して「淘汰圧」をあげた方が、最終的には業界の為にはなるんじゃないかと考えています。
 規制が出来たからって従うと言う前提はないわけですし。

 自由すぎると逆に作家は何を描いていいか分からなくて、結局有名漫画のマネしかできない、こういった指摘は出版社の中にもあると思いますし。
 これはあくまでも私の個人的な立場ですが、少年マガジンなんて少年誌の割にひどいエロさですからね。ああいう意味のないあざといパンチラなどは、作家の自己満足だろうし、読者にとってはなくなっても別にいいんじゃないかな。

 追記:ネットではほとんどが反対だから通らないな、これ。

 反対派の意見でまさに会心の一撃が「石原都知事の『太陽の季節』は何だよ」って言う意見。ほんとですよね。チンチンで障子破るような、くだらない小説書いた変態にとやかくは言われたくはないw。

中間種が現在存在しない理由

 ここまで言わなきゃ分からんのか・・・?

 『進化の存在証明』第2章は家畜の交雑について。ここでのドーキンスは第1章とはうって変わって非常に丁寧。というかよくもまあ根気強く、分岐分類学についての基礎中の基礎を説明できるなあって感じです。
 これってはっきりいって小学校高学年でも理解できることなのに、やっぱり問題なのは頭ガチガチの創造論を支持する大人なのかな?
 とにかく算数で言えば、第2章の内容は掛け算99レベルで入門編です。この内容は私の著作(『ソニックブレイド』に出てくる「適応プログラム」や『優等生学』に出てくるウーマンジェネティック社の「天才児発生ビジネス」)でもとりあげたので、改めてここでいろいろ書くつもりはありません。強いて言うなら「バイオロジー」ですね。

 でもひとつだけ言うならば「進化でキリンの首が長くなったなら、首の短いキリンと、首が長いキリンの中間の動物がいるはずだ」という主張の答えについて書き留めておこうと思います。
 結論をいうならば「そのような中間種は“現在”存在しません」。しかしかつては存在しした(首が中くらいのキリンの化石は見つかっていませんが)。中間種は今はキリンとオカピになっちゃっていないってことです。
 こんな例えはどうでしょうか?今のガソリン式自動車のそもそもの元祖は、ドイツのベンツが1885年に開発した、ガソリンエンジンを取り付けた三輪車なのですが、このクラシックカーの構造を基礎として今日の様々なタイプの種類の自動車が生まれることになります。
 しかし現在トヨタと日産とホンダとフォードとGMなどをつなぐ“中間的な自動車”(ベンツのガソリンエンジン付き三輪車)は存在しません(博物館にはあるのかな?でもあれが公道を走ってるところは見たことないですよね?)。

 それと同じく、ヒトとチンパンジーの基礎となった動物も確かに“かつては”存在していたのです。ドーキンスが「まったくイライラするぜ!」と言った「ヒトがチンパンジーから進化したのなら、なんでまだチンパンジーがいるの?」という、たわけた反論も「そもそもヒトはチンパンジーから進化してない!親(祖先)が一緒なだけ!」で終わります。問いの前提からおかしかったんです。
 
 どんな動物でも、化石になって現代にその痕跡が残る確率はとても低く、現在のキリンやオカピのちょうど分岐点にいる動物の化石は見つかっていませんが、犬と猫の共通の祖先(ミアキス)は発見されています。
 ダーウィンの進化論の追い風となった、ドイツの「始祖鳥」は鳥と爬虫類を結ぶ中間の動物として有名ですが、あれはどうやら分岐点にちょうどいた動物ではなくて、恐竜の一種と言う話も最近ではあります。
 というか恐竜と鳥の区別が最近はかなり危うい(恐竜の種類によってはほとんど鳥でどっちだか分らない)というのも、進化がグラデーションのように徐々に変わっていったことを証明する強力な証拠なんだと思います。
 ティラノサウルスとニワトリのDNAってかなり近いらしいですからね。
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