対位法について

 アカデミー長編アニメ賞はやっぱり『トイ・ストーリー3』でした。それはまあ当然だとして、嬉しかったのは歌曲賞に『トイ・ストーリー3』のエンディングテーマ“WE BELONG TOGETHER” (僕らはひとつ)が選ばれたこと!ピクサーの曲が選ばれたのって『モンスターズ・インク』の「君がいないと」以来かな?
 私はとにかくこの曲がすっごい好きでDVDもこの曲が聞きたいがためにエンディングばっかり繰り返し見ていたほどだから本当にうれしい。

 『トイ・ストーリー3』って全体的に割としんみりとした雰囲気の作品だったから、ラストにこんなに爽やかで明るい曲を選んだのは本当に上手い。よかったよかったでハッピーな気持ちで終われるもんね。
 それに本当はさみしいんだけど、エンドロールが妙に明るいとそれはそれでギャップで泣けてきたりする。マロさんはこれを対位法って言っていたけど、確かに作品全体の世界観で見れば対位法かもしれない。

 対位法って基本的に哀しい場面に明るい曲を合わせたり、明るい場面に哀しい曲を合わせたりするような、シーンにおける演出法のことらしいから、最も効果的な対位法を試みたのはやはり『WALL・E』の冒頭のシーンだろう。
 ゴミの星と化した地球というこの上なく絶望的で哀しいシーンに明るい『ハロー・ドーリー』の曲(日曜は晴れ着で)を流すというのはなかなか計算されていると思う。
 とはいえDVDの音声解説によれば、本当は別の曲を使いたかったらしいんだけど、フランスのアニメ作品が同じ曲を冒頭に流していたから、監督が演劇部をやっていた頃なじみがあったこの曲に変更したそうだ。
 転んでもただでは起きないのがアンドリュー・スタントン。恐るべし。

 とにかくこういう凝った演出ができるのが映画づくりの楽しいところだろうな。漫画だと曲は流せないし、スタッフロールで後日談とか絶対できない。
 「こんな退化した人類じゃ死の星になった地球では二週間もたない」といった突っ込みを受けて作った『WALL・E』の後日談エンディングは秀逸。
 絵画史と合わせて未来人の新たな文明の歴史を見せるってのが上手い。これ考えた人本当に天才だよ。
 ラスコーの洞窟壁画→古代文明の絵文字→ダ・ヴィンチの素描→モネ→スーラの点描→ゴッホって感じかな?

 『ナイト・ミュージアム2』では「タイムズスクエアのキス」の中でラリーの携帯電話を拾った人が、エンディングのスタッフロールで再登場して、モトローラ携帯電話を発明しちゃう・・・といったお遊びがあったけど、あれも面白かった。写真の世界で落としたラリーの携帯電話なんてもう忘れていたからw。ジョナスブラザーズの“Fly With Me”もいい曲だったし。

WALL・E

 「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆☆」

 私は生き残りたいんじゃない、生きたいんだ!

 何気にピクサー史上最大スケールのSF大作。そして私が思うにピクサーで最もまともにいい話。監督も「ピクサーアニメにおいて異色の存在になると思う」って言ってたけど、確かにすっごいシンプルにまとめてきた。爆笑の嵐だった『トイ・ストーリー3』などに比べるとギャグも少なめ。セリフも少なめ…
 ただセリフが少ない分セリフの一言一言が重い。さすがセリフに納得いくまで脚本を書き直し続けるピクサー。どの作品もその物語を象徴する印象的な名言がしっかりあるから引用がしやすい。

 繰り返しになるけど本作の特徴は短編作品的なシンプルなメッセージとストーリー。そして世界観が極めてシリアス。あの冒頭のゴミにまみれた地球のシーンはピクサーとは思えないほど・・・怖い。大気は火星のようにめちゃくちゃでまるで悪夢のようだ。
 ウォーリーがひとりぼっちで地球に取り残され、健気にむなしくゴミを圧縮し積み上げている孤独さが怖いんじゃない。ハードSFとして大量消費社会の未来を真剣に描いているから怖い。

 どこが怖いか?それはこの映画がこだわる人類の未来のリアリティ。実は物語の大まかな内容は「ノアの方舟(ハトが船に持ちかえったオリーブを見て生きものが故郷に帰る)」+「2001年宇宙の旅(HALコンピュータの反乱)」+「ドラえもんのび太とブリキの迷宮(科学技術が発達して人間が椅子に座っているだけで生活できるようになっちゃう)」みたいなものだと思っていて目新しさは特にない。

 ただ背骨はシンプルだけど細かい設定が考え抜かれていて、とりわけ未来人の描写がすっごい新しい。オレこんなにリアリティのある未来人見たことないよ。
 冒頭のシーンの怖さの話に戻ろう。それはBNL社という政府を担う未来の大企業のCMが底抜けに明るいからだ。
 「地球はゴミだらけになったから、後はゴミ処理ロボットに掃除を任せて、その間は宇宙へバカンスに繰り出そう!」みたいなこと言ってるの。この楽観&しぶとさがすっごいリアル。
 大抵のSFってこういう未来描くと必ず人類が絶望してるの。「我々はとんでもない過ちをしてしまった。うお~」って嘆いて絶望している。
 でもさ実際このまま地球がダメになっても、それは今までの祖先がやってきたことのつけが回ったんだから、問題に直面している世代は自分たちの世代だけのせいじゃないから、問題の原因が分散されてそこまで深刻に感じないと思うんだ。徐々に「ああ、もうじきやばいなあ・・・」って感じている位で。今の地球温暖化だってそんなところじゃん。

 その上この映画では地球は核戦争や火星人の侵略でダメになったわけじゃない。「核戦争はダメ絶対!」って言ったらほとんどの人はみんな賛成すると思うけど、便利で楽しい大量消費社会や火力発電、自動車をダメって言われたらどれだけの人が賛成するだろう?
 どんなに心が優しく親切な人でも現代に生きている以上、大量消費社会を捨てて原始時代に戻ろうなんて思わない。だからまあその問題は後ででいいか・・・って先送りしてきた・・・その未来があれなんだ。
 で、地球がダメになっても楽観も悲観もしない。人類はなんだかんだですっごい逞しいから、問題が起きたらちゃんと対策を考える。適応ってやつだ。で、逃げちゃった。

 大抵のSFはこう言う話を書くと必ず人類や文明を批判したくなっちゃうもの。しかしピクサーは違う。彼らを否定も肯定もしない。そう言う時代なんだってしちゃうのが逆にSFのリアリティとしてすごかった。
 なによりロボットに依存するあまり椅子から立ち上がろうともしなくなった未来人は、ぶくぶく肥り、手足が退化し、まるで大きな赤ちゃんのようになってしまったけど、心も子どものように純粋で無垢。
 大抵のSFは(三度目)この手の未来人を「科学は発達したけどなにか人として大切なものを失った・・・」とか「自己中心的な残酷な奴になっちゃった・・・」とかに設定しちゃうんだけど、平和、安全になり過ぎて呑気になっちゃったってのは面白い。まるで天敵のいない島に生活し続けたあまり飛ぶのをやめてしまったドードー鳥のようだ。

 そして極めつけはAXIOMの船長。監督は船長を決して愚かに描きたくはなかったそうだ。怠け者でやる気がないけど、本当は偉大な人物・・・

 この向こうで我々の故郷が問題を抱えている。それなのに何もしないなんて…私はいやだ!

 心がなくプログラムされた命令を繰り返すことしかできないはずのロボット達の奮闘を見て、人類は再び二本の足で立ち上がり新たな誕生を迎える。そのシーンで『2001年宇宙の旅』の人類の夜明けのシーンのBGMが流れるんだけど、いつものピクサーならこのパロディシーンで笑いが起きるだろう。しかし笑えない。リアルなSFとして真剣に見ちゃうと感動してしまうのだ。・・・これはこれでどうかと思うが・・・

 最後に一言。パラソル超強ええ。

作家のダブルスタンダード

 この記事の情報は不正確である可能性があります。

 漫画に詳しい高校生の子曰く東京都の青少年健全育成条例は「過激な暴力描写や未成年の女の子の性的な描写がある漫画の閲覧を18歳未満には禁止する」という内容だそうです。しかも東京都がこれを行なうと地方も前へならえで漫画の規制に乗り出してしまうらしい・・・
 私てっきり「エロ漫画は普通の漫画と別のコーナーで売れ」ってだけの条例だと思ってたよ。私が調べた時はそんな感じだったんだけど・・・なんか情報が錯綜してるな・・・結局どっちで通ったんだ??

 とにかく、もしこの条例の内容が前者だとするならば、作家の表現の自由うんぬんよりも、全国の漫画ファンにとって気の毒な条例だと思う。
 こんなの実施されたらはっきり言って漫画の9割以上が読めなくなると思うんだけど・・・だから私はそんな条例なわけないだろ!ってふんでたんだけどね。
 これじゃ『ちびまる子ちゃん』なんて、腹痛に悩まされる回で小学校三年生のセミヌードが描かれているから(まるちゃんが波乗りしているイメージ図でなぜか海パン)もうアウトだよ。
 
 私は作家って基本的に胡散臭いところがあると思っているから、なんでもかんでも表現の自由だ!っていうのには懐疑的なんだけど、子どもの娯楽が減ってしまうのは哀しい。まあ漫画読まなくても彼らには携帯があるからいいのか別に・・・だとしたら一生懸命働いている書店と出版社がやばいよ。

 私の世代ってジャンプが週に600万部以上売れた黄金時代を経験した世代だから、この漫画ファンの高校生にも「じゃあ私の世代に生まれればもっと楽しかったかもね」とか言ったんだけど、彼らも彼らで100年に一度の萌え黄金時代を経験しているから、これはこれでオタクにとっては楽しいのかもしれない。

 さて作家が胡散臭いというのは、表現というものは基本的にダブルスタンダード・・・アンビバレントな行為だと思うからです。
 ひとつは相手を楽しませたい・・・というエンターティナー的感情。もうひとつは自己の発散というアーティスト的感情。モヤモヤを吐きだしてすっきりしたいというある種のエゴ。
 この二つを同時に行っているのが創作で、この二つの勢力の力関係が作家さんによって違うってだけ。
 おそらく宮崎駿さんなんかはもともとの気質はアーティストなんだけど、いろいろできる力のある人だから『カリオストロの城』みたいな優れたエンターテイメント作品もできたってだけ。今の宮崎アニメは昔よりもつまらなくなったって言うファンがいるけど、多分宮崎さんは「もう十分俺はエンターテイメントをやった!」って思っているから、もともとのアーティスト気質に戻っただけなんだろう。

 vicさんが自身のブログで

 子どもは観てはいけない映画に、子どもが出演している時、内容によっては、すごく気になるのです。しかも、重要な役をやっているとなると。

 「闇の子供達」という映画を観た時、10歳未満のタイの子ども達が大人の性のおもちゃになる役を演じているのですが「こんな演技、日本の子役だったら、やらせないのでは?」と思いました。

 自分が演じている役が、どういう意味があるのか、映画全体の中でどのように使われるのか、まだよく分からないのに、そんな大人のモラルの欠如した世界(しかも子どもが犠牲者になっている)を経験させるような演技させて、いいのか!?と、思ったのです。

 多分、本人達が「この役をやりたい」と選んだわけではなく、大人がやらせているのだと思うと...


 というようなことを仰っていたんだけど、これこそまさに作家の痛いところをグサリと突いた発言。少なくとも私はグサッときました。
 子どもの人身売買の実情を世界に知ってもらうためにこう言う映画を撮ったんだ!それは意味がある!といくら奇麗事言っても、作家は内心この問題を見て見ぬふりをしている。

 私もストーカー殺人事件を漫画に取り上げた時、「ストーカー殺人を肯定しているわけじゃないから別に取り上げてもいいだろ」という言い訳のもと『ダブルスピーク』を描きましたが、やっぱり単純に「面白い漫画の内容を思いついた。それをみんなに読ませたい」という欲求に負けただけ。
 今描いている漫画も人が撃たれて死んじゃうシーンなどがありますが、やっぱりそう言うシーンで人の心を揺さぶったり楽しませたいって単純に思っているだけ。
 銃社会に対するアンチテーゼとか特にそういった崇高なことは考えていない。だから作家は二枚舌。

キャラが動くことの危険性

 本当かどうか知りませんが、少年誌で長編漫画を連載する時ほとんどの漫画家さんはラストまでの展開をきっちり考えずに、とりあえず第一話を描いてその成り行きで話を進めていくそうです。だから毎週どういう方向に話を持っていくか考えるのが大変だという・・・これは話を考えるよりも絵を描くのが好きな人が漫画家になる場合が多いからだって言ってました。
 ラストまでちゃんと考えて計画的に物語を進める人は浦沢直樹さんくらいとか。

 私は基本的にト書きの脚本を作ってセリフまでしっかり考え抜いてから、ネームなり下書きなりを描くタイプなのですが、これって脚本通りに話を進め絵を入れていくのでかなり作業的。クリエイティブな活動は脚本作りで基本的に終了しているわけですから。
 とはいえこのやり方は短編漫画を描くときにはかなり使えるし、映画サイズの話でも効果的。なにしろ進むべき展開がもう考えられているので、話が成り行きで変な方向には絶対行かない。ちゃんと奇麗に完結します。
 
 今描いている長編も基本的に物語の背骨は完成されていて、それ通りに進めればいいのですが、あまりにセリフを一字一句脚本で決めちゃうとネームや下書きを描いてて楽しくないので、漫画にして面白そうなシーンとかセリフとかキャラをネームの段階で考えて入れていくことにしました。
 こうすると、すっごいネームを描くのが楽しくはなるのですけど、その場の展開の楽しさ、面白さで、話の方向性が変わる危険性もあるのでひやひやです。ちゃんと伏線とかに即した展開にしないと・・・

 「作家の手を離れキャラが勝手に動き出す」とは基本的にいい意味で使われることが多いですけど、キャラを自由気ままにさせちゃうと物語の起承転結がドチャメチャになる場合があるので、ストーリー漫画では必ずしも歓迎されることではないのです。
 で、私のキャラもちょっと気を抜くとシリアスなSFものなのに、わいわいギャグを繰り出したりちょけたりするので、本当こいつら可愛くもバカ!って思います。お前のことを言ってるんだよ須藤先輩!

 しかし『ソニックブレイド』なんて『イッツアドリームワールド』よりも昔に考えた話だからね。海浜幕張駅のフードコートでプロットを考えていたのが懐かしい・・・楽しかったなあ幕張生活・・・
 2003年なんて私まだ十代だよ。今読み返すとキャラの名前が本当に十代が考えたレベルだよな・・・なんだ「間流守(まるす)」ってありえない名字はw。変更しようかな?でもこれはこれでいい思い出だしいいや。なにしろ面倒。

宇宙戦争

 「面白い度☆☆☆ 好き度☆☆☆☆☆」

 違うヨーロッパなわけないだろ!

 H・G・ウェルズの名作SF小説をスティーブン・スピルバーグ監督が映画化。いや~スピルバーグ天才。
 絵でも漫画でも(おそらく映画でも)「上手いことが面白い、かっこいいとは限らない」という説があって、いくら絵が下手でも読者の胸を打つ漫画はあるし、重要なのは小手先の技術や理屈じゃなくて一瞬のうちに受け手の心をはっとさせるようなケレンミ(はったり)。これがあるかないかが、おそらくクリエイタ―の才能の有無につながるんだと思う。
 で、スピルバーグ監督はやっぱすごい。火星から来た巨大ロボットをあんな怖く撮れる人いないよ。こういう荒唐無稽なものをリアルに見せちゃう力は本当に半端無い。この人にかかればティラノサウルスも宇宙人も笑い話じゃなくなってしまう。

 私これ映画館で見たんですけど、とにかくあの教会をぶっ壊してトライポッドマシーンが登場するシーンが最高にかっこよくて、スピルバーグ監督はでかいものの威圧感や怖さを演出するのは本当に天才的だよなあって息をのんだ覚えがあります(音響もぜんっぜん映画館の方がいい。テレビで観るより10倍怖く感じる)。
 CGもすごいですよね。今のCG大作映画って『マトリックス』にしろ『ハリー・ポッター』にしろ、もう漫画的表現の延長線上に行っちゃった感じがありますけれど、『ジュラシック・パーク』や『宇宙戦争』はあくまでも現実には無いものを現実的に見せるためのツールとしてCGを使っているので、すっごいリアル。何度も言うけどあのシーンは本当に怖い。
 あの三脚の脚だけ出てくるところとか、ロボットの全体像がなかなか把握できなくて、徐々に観客が「こんな感じのロボットなのかな?」って予想できるかできないかあたりで、俯瞰でロボットの全体像を見せるところとか本当に上手い。あれでしっかりロボットの高さも見せている。実はこんなにでかいんですよって。

 昔の映画版『宇宙戦争』(1953年)ではこのトライポッドはデザインが大きく変更されて空飛ぶ円盤の上に熱線銃がついたようなものだった。その熱線銃で宇宙人とファーストコンタクトしようとした人が溶かされちゃうんだけど、あの人の影だけ地面に残る演出はなかなかインパクトがあった。原爆かなんかのメタファーだったのかもしれない。
 スピルバーグ版ではトライポッドを原作そのままに出してくれてすっごい嬉しかったんだけど、あのジョージ・パルの演出に対してどんな人類殺戮方法を考えるんだろうと思っていたら、なんと人間の肉体だけ粉々にしちゃって服だけ残るという、恐ろしくシュールな演出!こんな発想どうやったら出てくるんだ?教えてほしい。
 空からひらひら服だけ舞い落ちてくる・・・これは一歩間違えればギャグになっちゃうんだけど(下着ドロボ―の人とか喜ぶんだろうな、とか)あくまでもその光景をシリアスに見せちゃうのがスピルバーグの底力。

 本作で(もはや天災に近い)父親として成長するレイを演じたのはトム・クルーズ。トム・クルーズみたいなイケメンがイケてるヒーローをやるのは当たり前だけど、こういう不器用なダメ人間を演じるとなかなか萌えるものがありますよね(でもガントリークレーンをダブルピックできる天才w)。
 行動力と正義感が半端無いレイの息子のロビーや、オーガニック食品をケータリングし年齢の割にどこか悟った感じの娘レイチェルもなかなかキャラが立っていて面白かった。
 レイチェルはキャアキャアうるせえとか言う意見があるけど、あの歳の女の子があんなことに遭遇してごらんなさい。あれがリアルな反応だと思うよ。
 あとフェリアー一家が自動車を運転しながらいろいろ宇宙人の攻撃について会話するシーン、これは状況を会話だけで説明しなきゃいけない、観客に飽きられる可能性の高い危険なシーンなんだけど(でも絶対必要な部分)、観客を退屈させないようにカメラをぐるぐる動かすのがうまい。走行する車をどうやればこう撮影できるのかはかなりの謎だけど・・・

 最後に『宇宙戦争』という作品自体に関して少し。これはもともとウェルズが19世紀末に産業革命および進歩主義を批判するために執筆した作品だという説がある。
 進歩だけが本当に素晴らしいことなのか?恐ろしく残酷な兵器だって生まれているじゃないか?と。
 人類よりも科学が進んだ火星人は、おそらく科学の未来そのもののメタファーなのだと思うけど、科学(=知性)が進歩しすぎたあまり人間的感情を失った冷酷で無慈悲な火星人は、未来の人類どころか科学兵器でバシバシ人を殺す現代人そのものなのかもしれない。
 とはいえこの映画は原作発表から200年後の2005年に公開された。冷戦による科学の軍拡競争は終わり、今の私たちは「科学の進歩が必ずしも人類を幸せにするわけではない」ことを公害問題などで学びちょいニヒリズム気味。
 だから監督は911テロ事件をイメージして現代風にアレンジし直したらしいんだけど、この路線変更はちょっと原作の訴えたいこととズレが出ちゃったような気がする(また脚本家デビット・コープの改悪か?)。だって911テロは科学の進歩によってに起きた事件と言うよりは、民族や宗教戦争の部類だったと思うから。飛行機という科学技術が武器になったとも言えるけど・・・

 SFの名作古典はやっぱりその作品が発表された当時の時代性をふまえた上で楽しまないと、頭の悪い私たちは「ベタすぎてつまらない」とか「地球の微生物でやられるなんて結局宇宙人バカじゃん」とか言って鼻で笑ってしまう。
 しかし宇宙人を科学技術が発達した現代の私たちだと想定すれば、あのラストはとてつもなく深いのだ。なにしろいくら発達した科学をもってしても地球環境は変えられなかったわけだから・・・ウェルズの予言は案外的中していると思いませんか?
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