戦争という現象

 いや~ワールドカップみんなすごい熱狂している。私は映画を観に行っちゃってオランダ戦は見なかったんだけど(というか一戦も見てない、非国民)、ワールドカップによって対戦相手の国の歴史や文化をテレビが取り上げてくれるの(だけ)は勉強になる。オランダってトルコの労働者の人やモロッコの人を受け入れた多民族国家だったんですね(ただ最近極右政党が議席をちょっと増やしたらしい)。

 あのサッカーの熱狂ぶりを見るに、人間って言うのはたまにいかれてしまいたい時があるのかもしれない。ああやってにわかナショナリズムになって全体主義に酔いたい。我が国を応援することで自分の思いをダイレクトに共有したい。
 そしてかつての近代戦争もいわばワールドカップのようなお祭りだったんだなあ、と私は思う。なにしろオランダはFIFAランキング四位かなんかの強豪で、それと日本は昨日善戦したわけで(負けちゃったけど)、第二次世界大戦では強豪国(おそらく軍事ランキング一位)アメリカに真珠湾で奇襲して成功しているわけで、その喜びと言ったらワールドカップの比じゃないですよ。「うおおおおお!神州日本が、あのアメリカに一太刀くらわしたぞ!」これって絶対楽しかったと思う。

 人って言うのはいくら偽善的に「喧嘩はよくない」「殺し合いはダメ」と言ってもそのような葛藤にカタルシスを見出す性質が確実にある。
 だから映画でも漫画でもはなっから平和な世界観の作品ってあまりない(いや最近癒し系萌え漫画とかあるけど・・・)。つまりなにか問題やトラブルが起きてくれないと、それを主人公が解決するから楽しいわけで、フィクションのお話として落ちないと思うんです。

 これはフィクションの中だけの話じゃなくて、マスコミが取り上げる事件のニュースも同じ。マスコミは凄惨な事件も事実を少なからず編集して「物語化」してしまう。
 遺族の人が「勘弁してくれ!」と思っていても、マスコミの人たちも面白主義で半分飯食っているようなところがあるから、いちいち取り合ってられない。
 『ファインディング・ニモ』に出てくるナイジェルというペリカンは、海出身者の魚に「海にいたならいつか襲ったこともあるかもしれないな。悪いなこれも生きていく為だ」と軽く言うのですが、確かにそのとおり。
 彼らは彼らで生活がかかっているわけで、人間的感情が商売に負けてしまうことは結構あると思う。
 結果的に事件を物語化して当事者を苦しませてしまう報道記者も、遺族の人や親族に「てめえには人間の心ってのがねえのか!」って怒られてもデスクが命令したなら取材しなきゃならないし(マスコミは超ヒエラルキーの軍事社会)、食っていくのに必死。
 本当に大変な仕事で、逆に人間的感情が欠落してないとやっていけない仕事かもしれない。

 「人間はどんなに恐ろしいことにも物語を見つける」とは、映画『ワールド・トレードセンター』のラストシーンの引用ですが、それは戦争でも同じ。戦争は一部の上層部が決定するだけでは絶対起こらない。国民の大多数の賛同がなくては戦争はできない。実際に戦うのは彼らだから。
 そして当時どの先進国も帝国主義に基づく植民地政策がブームで国とり合戦をしていた。日本もそのブームに乗り遅れるな!と参加しただけ。むしろ参加しないと植民地にされちゃうことを隣の大陸の国々の末路で知っていたから。
 戦争は人間個々人の意思の集合で起きるかもしれないが、それは単純な総和ではなく、当時の歴史的状況や政治的判断、国民の熱狂したいというプリミティブな感情、などの要素が複雑に関係しあって発生する、良いとか悪いとかを超えた、ある種の“現象”。
 だから、普通に考えれば誰でも戦争はよくないと言えるけど、人間には理屈では説明がつかない感情が、良くも悪くもある。だから戦争は人々を熱狂させる祭りとして、そして時に絶望をもたらす悲劇として、今なお開催されている・・・

 ワールドカップで強豪国が負けた場合、代表チームは国民に魔女狩り的非難を浴びてしまうこともある。そんな悲劇が起こるかもしれないから、代替戦争であるワールドカップをやめようよ、と言ってもそれは不可能だと思う。だって楽しいんだもん(私は全体主義が怖いのであまり興味ないけど)。
 国際交流?なら戦争もラディカルな国際交流の一つでは・・・

アウトレイジ

 「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆」

 かなり特殊なバイオレンスコメディ映画。

 ついに北野武監督の『アウトレイジ』をレイトショーで鑑賞してきました。本当は先週見る予定でしたが、話題作の『告白』を先に見てしまったので一週遅れの鑑賞でした。

 北野監督がインタビューで常に「怖さと笑いは紙一重」と言っていて、私はまったく意味が分からず「いや、怖さは怖さ、笑いは笑いじゃない・・・?」と首を傾げていたのですが、実際に映画を見て監督の言葉が解った。
 確かに紙一重。いや~ここまで笑うとは思わなかった。だって怖いやくざ映画だと思ってたから。人を笑わすのにこんな方法があったとは意外。でもやっぱりたけしさんの笑いですね。
 たとえば中華料理店のオヤジが麻薬を流してて、そいつをとっちめて薬を卸している元締めを吐かせるシーンがあるのですけど、もう耳にさいばし突き刺して、肉切り包丁で指をダンって切っちゃうんですけど、その切れた指が2本ほどお客さんの注文したタンメンに入っちゃってw、そのままタンメンがお客さんに運ばれてて、ニンテンドーDSに夢中なお客さんは指入りタンメンに気付かない・・・
 これはたけし的世界観を象徴するシーン。たけしさんの世界ではいわゆる「一般人」がとても命に無関心。
 すぐ傍でやくざが暴力行為をしていても、サラリーマンは顔色一つ変えずに飯を食っている。これって命の重さに麻痺している現代人を皮肉っているというのは、果たして深読みなのか。

 たけしさんは強いて言うなら明大の工学部にいた「科学畑」の人間。自分が交通事故で死にかけた時、たけしさんは神様みたいな存在が現れるかちょっと期待したらしい。
 しかし現実は残酷だった。そんなものは結局現れず、顔が二つ分に腫れてぐちゃぐちゃになった自分の肉体と「もう少し付き合うのかあ~・・・」と、意識を取り戻したらしい(『たけしの死ぬための生き方』より)。
 この経験は、結局現実は科学通りになっていたということをたけしさんに示したのかもしれない。悲しいけど現実において人の命など重いも軽いもない。地球の生物は皆平等に意味もなく生まれて意味もなく死ぬだけ。
 そんな人の“生”を突き放したニヒルな演出、生命観が、たけしさんの映画には確実に存在する。

 しかしそのニヒルさがニヒルで終わらない。そこに笑いを見出してしまうのがプロの芸人「ビートたけし」。
 笑いと言えば、大体トイレの個室にいる男を射殺するのに、やくざが洗面台に上がって上からピストルを撃つんですけど、ちゃんと靴を脱いでるんですよ。人殺しの最中なのに、こんな行儀の良いやくざはいないw。もうツボに入っちゃって・・・
 あとアフリカのどこかの国の在日大使。このキャラ大爆笑。ゾマホンさんといい(二代目そのまんま東)、ポヌさんといい、『BROTHER』といい、たけしさんは黒人が好きなんだと思う。

 現実はとても残酷だけど、でもその世界で必死に生きる人々は愛おしい。たけしさんはそんな風に思っている気がする。
 『アウトレイジ』に出てくる極悪人は、みんな自分の感覚や欲望に正直で「偽善」が一切ない。だから悪人のはずなのに・・・どこか愛らしさと哀愁を感じてしまう。
 とにかく、こんな映画はたけしさんしか撮れない。というか、よくこんな話思いつくよなあ。やくざ映画よほどたくさん見ているのかなぁ?それともやくざの知り合いでもいるのかな・・・?

 たけし映画初出演の俳優さんたちの演技はみんな秀逸。たけしさんが一番セリフとか下手なんだけどw、それがまたいい。あの人は演技がどうこう・・・のレベルじゃなくて存在感だけで凄味があるから。
 でも 北村総一朗さんに三浦友和さん、杉本哲太さん、小日向文世さんってみんな優しい人の良さそうな俳優さんばかりじゃないですか。なのに役に入るともう本物のやくざにしか見えない。こええ~!流石プロ。
 結局、強大な国家権力である警察(小日向さん)がいいとこどりなのは、やくざは警察のお目こぼしがないと成立しない現実?を投影しているからなのか。

 『告白』の経験から、今回は映像の撮り方にも注意して鑑賞したのですけど、たけしさんはやっぱり上手い。構図とかも。
 たけしさんは数学が得意だし、細かいところも凄い計算して作っている。なにしろ「映画因数分解理論(余計なシーンは共通因数でくくれるので省略すべき)」の提唱者ですからね!(※ただ私の評価基準に映像などの観点は基本的に無い。そこらへんは正直知識がないのでよく分からないから。私は主に物語で判断します)

 最後に一言。村瀬組長(石橋蓮司さん)可愛そすぎる~!!まさに踏んだり蹴ったり!そりゃねえぜ兄弟!!

映画ブロガーさんは大人だなあ

 「ネット議論は有益か?」という話で、私は記事に同意する時だけコメントしようとたほざいていたのに、映画『告白』に関しては同意できる記事が「みっきーさん」のブログくらいであまりに少なく、ついに『告白』を絶賛する人のブログに「私は駄目でした」とネガティブなコメントを書いてしまった・・・
 これは煽っているわけでは決してなくて(本当にすいません)、なんでこの方はこの映画を面白いと思ったんだろう?ってすっごい気になっちゃって・・・
 『告白』は一緒に見に行ってくれる人がいなくて、一人で見たというのも関係しているのかも・・・友達と一緒に見ていれば「どう思った?」って語り合えるけど、そういう人が周りにいないからどうにも客観的な判断が出来ない。

 で、偏見かもしれないけれど、映画ブロガーさんの方が、アニメや漫画の感想ブログの人よりも年齢層が高い印象がある。
※この意見は、アニメや漫画のブログにはほとんど行かないから、本当に偏見ですよ!
 私にとってアニメや漫画の「なになにってキャラがうんたらで、声優がこうこう」っていうネット上のやり取りって、結構炎上しているイメージがあります。
 これはやっぱり漫画やアニメを支えている読者や視聴者の平均年齢が中学生や高校生などで低いからなのかな?と。

 若い人ってエネルギーはすごいけど、経験だけは大人の人に劣ってしまう場合が多いから(もちろんすべてじゃない)、ものごとをまだ冷静に見れないことがある。価値の相対化が出来ないから。
 漫画でも映画でも数をたくさん見れば、感想も変わっていくし、その作品を絶対視もしない。映画をたくさん見ている人にとっては、批判的な意見も一つの意見だと相対化が出来て冷静に対処できるけど、たくさんの作品を知らず、好きな作品を絶対視している若い人にとって批判的な意見は、その作品と、その作品を愛する自分を全否定されたように受け取ってしまう。
 だから動転して感情的になってしまうんだと思います。

 漫画やアニメのブロガーさん(ってどれくらいいるのかな?)でも大人な対応が出来る人もいるから、本当に偏見なんですけど・・・
 だって私の『告白』の記事に「うるせえ、馬鹿やろう!」って言うブロガーさんいないですからね(単にこのブログの閲覧者数が少ないだけだと思うけど)。本当に大人だなあ・・・
 私も当初『告白』は「決して好感を抱く内容の映画ではないが、ネガティブな演出がつきぬけてカタルシスの域まで行っているすごい映画です!」とか記事で書くだろうなあと思ってたんですよ。でも完全に期待外れで・・・

 しかしKLYさんとか受け流し方が本当にかっこいい。私にはできないわ・・・でも『ジュラシックパーク』って結局何が言いたい映画なの?ってコメントが来たら、とうとうと長文書いてあの作品の良さを解らせてやりたい気分にはなりますね!(うぜえ!)

初期値鋭敏性について

 「初期値鋭敏性」とは、複雑系数学のカオス理論で重要な概念のひとつです。

 私はモンゴルで研究されている気象学者さんにミーハー丸出しで「あああ、あのカオス理論って本当に使っているんですか?」って胸をときめかせながら尋ねたことがあり「ああ、使ってるよ」の解答にテンションが上がった思い出がありますw。
 教授の話では時間スケールによって用いるモデルが異なり、かなり先の未来を予測しようとするときにカオスを用いるそうです。ここって初期値鋭敏性を説明するときに重要なポイントかもしれない。
 
 そもそもなぜに気象学?って方もいるかもしれませんが、ここは『ジュラシック・パーク』を視察したテキサスの数学者イアン・マルカム氏に解説をお願いしましょう。

田代(以下T):こんにちはマルカム博士。イスラ・ヌブラルでは大変な目にあわれたそうですね。

マルカム博士(以下M):インジェン事件についてはノンディスクロージャーを結ばされたがね。インジェンとハモンドの作ったショーケースとやらは、やはり複雑すぎたんだ。ジュラシック・パークが崩壊したのは自明の理だよ。
 で?今日はティラノサウルスに放り投げられた感想でも聞きに来たのかい?(笑)

T:いえ、カオス理論の大まかの説明をお願いしたいと思いまして。中学生でもわかるように説明はできますか。

M:ようし、やってやろうじゃないか。とりあえず、のどが渇くからコーラをくれ。シェイクして、ただしステアしないでくれ。
 さて、カオス理論の大テーゼは「予測不可能性」一言でいえば「遠い未来は予測が出来ない」というものだ。
 そもそもカオス理論というのはもとをただせば1960年代に、コンピューターを使って気象を予測しようという試みから生まれた。

T:いわゆる天気予報ですね。

M:その通りだ。天気予報はテレビで毎日のようにやっている。しかし明日の天気が外れる確率と一カ月予報の一ヶ月後の天気が外れる確率はどちらが高いかな?まずは直感を問いたい。

T:ひと月先の方が外れそうですね。

M:そうだな。そこが重要な考えだ。1940年代。ジョン・フォン・ノイマンら数学者はコンピュータのように多数の変数を同時処理できる機械があったなら、天気は予測できるだろうと予言した。
 それから数十年。現在のコンピューターのスペックは当時に比べてとびきり優秀だ。扱うデータも現代の方がずっと精度がいい。しかし・・・天気予報はいまだに外れることがある。なぜか?
 天気・・・つまり気象系は、我々の想像以上に巨大で複雑なシステムであり、地球の大気は陸地や海、太陽と常に“相互作用”を繰り返している。
 これまでの物理学は、もっぱら「線型方程式」で惑星の軌道、振り子、ばね、回転するボールなどの物理現象の振る舞いを解いてきた。しかし、気象をはじめとする乱流現象はそれでは解けない。
 複雑な乱流現象は線型方程式で解ける単純な振る舞いの「総和」ではなく、ずっと「動的」なものだったのだ。
 そこで振り子と気象系は同じ物理現象であるものの、まったく異なるアプローチが必要だと数学者は考えた。そこで誕生したのが位相空間のシステムを振る舞いを扱うカオス理論だ。

T:振り子やばねのふるまいは単純だけれど、気象は複雑すぎる。

M:その通り。

T:で、カオス理論で何が解ったのでしょうか。

M:気象系は遠い未来になればなるほど、まったく予測が出来ない。予測は本質的に不可能だ、ということが解った。

T:本質的に不可能?非決定論だと?

M:いや、違う。カオスも決定論的モデルだ。
 だが気象系には「初期値鋭敏性」というものが働く。これは複雑なシステムにおける初期値の微妙な「ずれ」が時間がたつにつれて増幅されて、結果に大きな影響を与えてしまうということだ。
 比喩的な話だが「北京で蝶が羽ばたくと、セントラルパークで雨が降る」という具合に。

T:北京の小さな変化が、その後セントラルパークの天気を変えてしまう?

M:そういうこともありうるかもしれない。とにかくこの世界は我々が考えていた以上に複雑だったということだ。実は単純だと思われるニュートン的物理現象においても、現実では数秒後も“厳密に”予測はできない。

T:なぜ?

M:きみは「慣性の法則」を習ったな。

T:物体に力がはたらかない時、もしくは力がつり合っている場合は、静止していた物体はいつまでも静止していて、運動していた物体はその速さで等速直線運動を続ける。という法則ですね。

M:どう思った?

T:嘘くさいと思いました(笑)。そんな状況見たことないと。

M:その通り。この法則には「物体に力がはたらかない時、もしくは力がつり合っている場合」という歯切れの悪い前提が但し書きされている。しかしこのような状況は現実にはかなり「特殊」で宇宙空間などでしか体験できないだろう。

T:特殊相対論もそうですよね。

M:同感だ。加速度運動と重力の概念を割愛しているからな。特殊な状況を仮定し、理屈を単純化しているわけだ。

T:しかしこの世界は単純ではない。

M:つまりニュートン力学すらも現実の物理現象に厳密に当てはめることは不可能だ。物理学の実験で誤差が生じるのはそのためだ。微小な誤差は完全には排除はできない。そこで研究者は誤差を近似値などで補正して理論を叩きだす。
 しかしカオス系では誤差は許されない。初期値鋭敏性が働き、微小な誤差も時間がたつにつれて増幅され結果に大きな影響を与える。

T:未来は誰にも分からないということですね。

M:未来予測は本質的に不可能だ。だから我々は複雑なモデルを複雑なまま捉えることで、カオスの振る舞いを「理解」しようとしている。これは複雑系の未来を予測しようとしているのではない。
 というのもカオス系にはどうやら、いくつかの秩序だったパターンが存在するらしいからだ。潜在的な規則性。カオスの秩序構造と呼ばれるものだ。
 これは「人工生命」に詳しいが、専門的な話になるのでここではやめておこう。

T:今日はお忙しい中ありがとうございました。

カーズ

 「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆☆」

 車は楽しみに行くために走っていたんじゃなくて、楽しみながら走っていたの。

 映画史に残るとんでもなく奇抜な設定の映画、それが『カーズ』。
 公開当時は『ゲド戦記』に興行収入で惨敗したものの、どう考えてもこっちの方が面白い。ニホンジン・・・ドウカシテル・・・!(とはいえ私はジブリ映画は見ないんだけど・・・ごめん宮崎吾朗さん)

 自動車が命を持っているっていう設定は分かる。アニメでは『機関車トーマス』があるし、絵本では『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』『のろまなローラー』『はたらきものの じょせつしゃ けいてぃー』(どれも画力が秀逸!絵本は本当にたくさん読んだなあ・・・)など自動車や汽車などを擬人化した作品は意外と多いんです。
 そもそも無生物に命を与えたって言えば、ジョン・ラセター監督はなにより不朽の大名作『トイ・ストーリー』がある。

 しかし!しかしですよ!この『カーズ』の世界は『トイ・ストーリー』と似て非なるもの。ななななんと、人間がこの世界にはいない。
 お前ら一体どこで作られた!?って感じなんだけど、とにかく水たまりに集まる小さな羽虫でさえ、よく見ると自動車・・・!こんな世界、サルトルだったら実存揺さぶられまくりの嘔吐ゲロゲロで、ヘロヘロになっちゃうと思う。

 とはいえ、その奇抜な設定を抜きにして見れば、そこにあるのはまるで『スラムダンク』のようなスポーツを題材にした骨太の人間ドラマ。熱い!オイル圧上がってレッカー車呼ぶはめになります。
 車が大好きな男の子とおじさんはともかく車にイマイチ興味がない人(私も)は、とりあえずカ―ズのキャラクターを人間に置き換えてみよう。絶対泣けるから・・・そしてきっと車が好きになる!
 エコだあ?知ったこっちゃねえ!『カーズ』に登場する車種は、「ポルシェ911カレラ」などの例外もあるものの、ほとんどがオタク感涙であろう、燃費が悪いがとにかくかっこいい1世代前の古き良き時代の自動車ばかり。
 「ハドソン・ホーネット」を筆頭に、私も名前は知っている「シボレー・インパラ」、学生時代のローワン・アトキンソン(この人真性自動車オタク)がこれに乗ってライブに行ったという「フォルクスワーゲンのバン」、『ルパン三世カリオストロの城』でおなじみ「フィアット500ルパンモデル」(確か大塚康生さんの当時の愛車)、極めつけは「29年型T型フォード」だ!!お婆ちゃんキャラにこの車種を使うという発想に感動!!シュワちゃんがハマーだったり、こういう発想って大好き!(欲を言えば日本語吹き替えでも玄田哲章さんだったらなお最高だった)

 な~んてもぐりコメントしているけど、正直私は車はそこまで詳しくない・・・詳しくないが友人が車オタクだったので、ちょこちょこは名前だけは知っているんです。
 それになんつったって私もダイナソーオタクだから、マイナーな車種が出ると「よくぞこれを・・・!」って気持ちは分かる!
 「いや、こんなのマイナーじゃないよ」って言われそうだけど・・・でも車種の年代を見るにラセター監督絶対こだわりましたね。

 さて、車の話はこの辺にして、この映画はとにかく物語が良くできています。

 主人公の「ライトニング・マックイーン」は若手ナンバーワンの天才的レーサー。自信満々なルーキーである彼は、自分だけの力でレースを勝ち抜いてきたと考えている節があり、その才能にちょっと自惚れている。とはいえ、彼の実力は本物で、ピットクルーの評価は最低なものの多くのファンを獲得していた。
 自分の才能、実力だけを信じる。ライトニングはその方法で自分を鼓舞し、勝利し続けてきた実はストイックなアスリート。
 43台のレーサーが戦う「ストックカーレース(テレビゲームの「デイトナUSA」みたいな奴)」の大会「ピストン・カップ」で、ライトニングは優勝射程圏内に入り、デビューの年に彼がピストン・カップを制すれば史上初の快挙だった。
 彼の優勝を阻むライバルは、長年王座に君臨してきた今季引退のカリスマベテランレーサー「キング(ストリップ・ウェザース)」と、ラフプレーを得意とする(これって実際のレースでやっていいの?)ひげがトレードマークの「チック・ヒクス」。
 レースは三つ巴となりラストの400周目・・・なんとライトニング、キング、チックの3台が同着という前代未聞の結果となった。
 大会本部はこの3台による王座決定戦を、1週間後カリフォルニアで開催することを発表。ピストン・カップを制して石油メジャーの「ダイナコ」と契約するため、さっそくカリフォルニアに向かうライトニングだったが、とあるハプニングで「ルート66」に一人(一台?)置き去りにされて・・・

 才能があるがそれゆえに挫折をまだ知らず、ただひたすら自分の道を突っ走るライトニング。彼の成長がこの映画の核。
 私はスポーツに詳しくないので想像ですが、アメフト選手のK氏の話なんかを聞くと、やはり選手として第一線で活躍できる期間はかなり限られている(競技によるだろうけど)んだと感じます。
 それゆえに若いライトニングも心の底でどこか焦っていたのかもしれない。
 
 しかし彼が辿りついたのはカリフォルニアでなく、地図から消えたさびれた街「ラジエータ・スプリングス」。
 現代のスピード重視の社会とは無縁の生活をする「ラジエータ・スプリングス」の住人達。当初ライトニングは彼らと深く付き合う気は全く無く、とっととこの街を出てカリフォルニアに向かいたかったのだけど、どこか癒されるこの街のペースに徐々に乗せられて・・・

 彼を成長させるカギとなるのが、無邪気なオンボロレッカー車「メーター」と、ロサンゼルスで弁護士経験があり、その忙しい生活に自分を見失った過去を持つ「サリー」・・・そしてなんといっても過去と向き合うことを恐れている、伝説のレーサーだった「ドック」。

 とにかくライトニングと対になっている重要なキャラがドックなんですよ。サリーもライトニングに大事なことを教えてくれるんだけど(後述)、とにかくドック。ドックが熱いんですよ。
 二人とも優秀なレーサーだけど、性格は正反対。ライトニングは後ろなんて振り向かずバシバシ未来に向かって爆走する「超前向きタイプ」で、ドックは逆に過去に縛られ過ぎてひねくれちゃってる「超後ろ向きタイプ」。

 そこで重要な役割を果たすのが、かつて挫折し一回り強くなった女性弁護士のサリー。キャリアウーマンだった彼女は、ライトニングの気持ちもドックの気持ちもどちらの気持ちも解るのだ。彼女の言葉でライトニングもドックも大切な何かを見つけ(ドックは思い出し)人生において大きな一歩を踏み出した。
 そしてライトニングとドックは共に協力し、王座決定戦を戦う・・・!なんてすばらしい展開・・・!!
 レースの結末と言い、ただの子供向け自動車アニメだと馬鹿にしてはいけません。スポーツマンシップについてとても深いものを示唆しているのがこの映画なのです。

 私はサリーがライトニングに「ラジエータ・スプリングス」の歴史、過去を打ち明ける「ホイール・ウェル」のシーンで、もう号泣。理由が分からないんですけど、あのセピアのシーンになってあの歌「♪ロングアゴ~・・・」が流れると条件反射的にボロボロ泣いちゃうんですよ。メーター錆びてないし~!
 でも彼女のセリフは本当に深い。「インストルメンタル(手段的)」と「コンサマトリー(完結的)」の話を、哲学や思想書ではなく、アニメで聞かされるなんて・・・本当に深い・・・
 ※記事の最初で引用したサリーのセリフの「車」の部分を「人」に、「走る」を「生きる」に置き換えてみよう!きっとすっごいぞ!

 最後に私が一番好きなキャラは、タイヤ屋さんのルイジ。黄色いフィアット500なんですけど、このキャラの日本語吹き替えをしているパンツェッタ・ジローラモさんのカタコトのセリフが最高!なんか、もう相棒のグイドとセットで超可愛い・・・!萌え~!!シューマッハが来店してよかったね!
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