『ラストパーティ』脚本⑫

雪原地帯を進むウィンロードたち。
雪で立ち往生してしまう馬。
ウィンロード「ガキども力いっぱい押せ!!」
馬のお尻を押す2人「う~ん・・・!」
ウィンロードも馬を降りて、引っ張る。
ウィンロード「頑張れ、スペシャルウィーク・・・!」
馬の蹄が雪から抜ける。
息を切らす3人。
ウィンロード「がんばったな子どもたち・・・」
ヴィンツァー「ここはもう移動手段はトナカイですよ・・・」
リネット「はあはあ・・・辺境伯すぎるわよ・・・一体どこまで歩くの・・・」
2人の背後を指差すウィンロード。
「あそこだ。」
指の先には雪原の古城が見える。
「あれが私の館だ・・・」



ウィンロードの館「ウィンターズ城」
館は古く、近づくと割と小さい。
ヴィンツァー「つ・・・ついた・・・」
リネット「なんかお化け屋敷のような古城ね・・・」
ヴィンツァー「うん・・・」
ウィンロード「文句があるなら、そこでカノッサの屈辱ごっこでもやってな・・・」
リネット「入れてください・・・!」
扉の脇の綱を引っ張ると、鐘塔が鳴る。
ゆっくりと扉が開く。
ウィンロード「入る前に雪を落とせよ?」
すると、ランタンを持った長身のメイドがウィンロードを出迎える。
メイド「お帰りなさいませ、旦那様・・・」
ウィンロードの外套を脱がせてやるメイド。
メイドは口調は優しいものの、目つきが鋭く、表情も冷たいため、異様な威圧感がある。
怯えるヴィンツァーとリネット。
メイド「ロト剣術魔法学園の出張はいかがでしたか。」
ウィンロード「予想通りろくなのはいなかった・・・」
メイド「それはそうでしょう・・・
やはり、旦那様と世界を救うのは、このセレスティアにお任せを・・・」
ウィンロード「なんか腹減ったな。こいつらに温かいもんでも食わせてやってくれないか?」
ヴィンツァーたちをじろりと見るメイド「・・・この子たちは・・・?」
メイドに囁くウィンロード「人食い男爵に食い物にされそうだったから引き取ってきた・・・」
メイド「なんと慈悲深い旦那様・・・かしこまりました。
(膝を曲げて視線を低くするメイド)きみたち・・・好きな献立を教えてくれないかな・・・?」
リネット「・・・え?なんでもいいの??あたしピーチタルトが食べたい!」
困惑するメイド「クックパットに載ってたかな・・・」
ヴィンツァー「・・・遠慮しなよ・・・」
ウィンロード「なんでも好きなものを作ってもらえ・・・明日からお前らはこの館で働くんだからな。」
ヴィンツァー「江戸前寿司が食べたいです・・・」
メイド「(世界観考えろよ・・・)ぜ・・・善処しますわ・・・さあ、坊やたち、食堂へご案内します。」
ヒソヒソ声でリネット(見た目のわりに優しいお姉さんね・・・)
ヴィンツァー(う・・・うん・・・)
ウィンロード「お前らと歳は変わらんぞ。」
リネット「え・・・?セクシーすぎるでしょ・・・」



食堂
お祈りをする4人。
テーブルにピーチタルトと寿司的な何かを並べるメイド。
メイド「旦那様は根菜のスープとパンでいいですか?」
ウィンロード「ああ・・・」
自分たちと違って貧しそうな食事を見てリネット「・・・お金に困ってるの?」
ウィンロード「誰を買ったからだと思ってやがる・・・」
ヴィンツァー「本当にすいません・・・」
料理を置くと食堂の隅にどいて直立不動の姿勢をとるメイド。
リネット「あの人は食べないの?」
ウィンロード「ああ・・・あいつは食べなくてもいいんだ。」
リネット「私たちもやがて飯なしで働くのよヴィンツァー・・・」
ヴィンツァー「え?」
メイド「わたくしは旦那様からミルクさえいただければ結構。」
2人「・・・え?(どういうこと?もしかして下ネタ?)」
ウィンロード「そういうことを言うと誤解されるだろ・・・!」
リネット「はは~ん、実はメイドとか言いながら、男女の関係なんでしょ。
こんな屋敷にこんな絶世の美女と2人きりで住んでるんだ・・・」
ヴィンツァー「やめなよ・・・悪趣味だって・・・」
ウィンロード「このバカが・・・おい、こいつらに言ってもいいよな?」
メイド「わたくしは構いませんわ。」
ウィンロード「こいつはセレスティア。見た目は人間だがモンスターなんだ・・・
身寄りがなかったから私が保護して・・・それから家のことを色々やってもらっている。」
ぺこりとお擬似をするメイドのセレス
「セレスとお呼びくだされば、どんな場所にも駆けつけ、皆様をお守り致します。」
リネット「モンスターなの・・・?どおりで人間離れして綺麗なんだ・・・くそ・・・」
ヴィンツァー「あの・・・セレスさんはなんていうモンスターなんですか?」
セレス「大した魔物ではないですよ・・・サキュバスというマイナーな種族でして・・・」
ピーチパイをほおばりながらリネット「知ってる!エッチな夢を人に見せるド変態よ。」
ヴィンツァー「そ・・・そうなの?」
ウィンロード「ド変態って・・・サキュバスっていちおう堕天使だからな・・・
お前なんか簡単に消し炭にできることを覚えておけ・・・」
リネット「ヴィンツァー気をつけなさい!この人こう見えて、いただき女子の上位互換よ!
これで、ウィンロードさんとただれた関係なことが確定したわ・・・やらしい・・・!」
セレス「そうだと嬉しいのですが・・・私がお勤めしてから10年・・・
旦那様はただの一度もわたくしをひとりの女性として見てはくれません・・・
こんなにもわたくしは旦那様を愛しているのに・・・
きっと旦那様は今なお童貞であらせられると確信しております。」
ウィンロード「小さい子の前でなんつーこと言ってんだ、お前も。」
顔を赤らめるセレス「はっ申し訳ありませんでした・・・!」
ウィンロード「おい、お前らも自己紹介をしなさい。」
ヴィンツァー「は、はい・・・ぼくはスナイデル・ヴィンツァーです・・・」
リネット「あたし、リネット。リネット・アシュレイよ。」
セレス「スナイデルおぼっちゃま、アシュレイお嬢様でよろしいですか?」
ウィンロード「呼び捨てでいいよ・・・お前の方が先輩なんだ・・・
いろいろ教えてやってくれ。」
セレス「銀食器の炙り方なら今すぐにでも・・・」
ウィンロード「家事だけじゃない。剣と魔法もだ・・・」
ヴィンツァー「お姉さんが?」
リネット「教えられるの??」
ウィンロード「私は短気だからな・・・おしとやかなこいつの方が丁寧に教えてくれる。
まあ、頑張れ・・・」
ヴィンツァー「ぼく一生召使でいいです・・・」
セレス「あら、そんな後ろ向きではいけませんわ・・・人生が童貞で終わりますわよ。」
ウィンロード「セレス、いいかげんにしろよ。」
セレス「ダメです・・・久方ぶりにほかの人とお話するので、下ネタが抑えられませんわ。」
リネット(・・・やっぱり変態ね。)



ウィンロードの書斎
壁に貼った世界地図を眺めて物思いにふけるウィンロード
書斎に入ってくるセレス
「お二人はお休みになりました・・・長旅で相当疲れたのでしょうね・・・
私のベッドでぐっすりです・・・」
ウィンロード「そうか・・・世話が焼けるのが増えるがすまないな。」
微笑むセレス「わたくし、顔は怖いですが子どもは大好きなんです。
それに、新しい家族が増えて嬉しいです。ねえ、旦那様。」
ウィンロード「そんなにお前と年は変わらないがな。」
セレス「・・・え?(わたし老けてるのかな・・・)」
ウィンロード「この前、採取した検体はヘルシングの研究所に送った・・・
感染爆発がブリジッドにも起こる前に、あの血液博士が治療法を見つけてくれればいいが・・・」
セレス「なぜ、わたくしたち魔物には感染しないのでしょう・・・」
ウィンロード「解決の糸口はそこだろうが・・・オレは理系じゃねえ。
感染源のニャルラト・カーンを倒すことくらいしか思いつかん・・・」
セレス「わたくしのレイピアの出番ですね・・・」
ウィンロード「それはダメだ。お前は、あのヴィンツァーたちを鍛えてやってくれ。」
感染地図を指さすセレス「時間がありませんわ・・・」
ウィンロード「時間がないからこそ、下手を打ったら取り返しがつかん・・・」
セレス「私の父は大天使サマエルですよ?」
ウィンロード「知ってる。その大天使が邪神ニャルラト・カーンには手も足も出ずに殺された・・・」
ショックを受けるセレス「・・・え・・・」
ウィンロード「・・・邪神はおそらく不死の存在・・・決して殺せない・・・」
セレス「ひどいです、旦那様・・・
10年もお仕えしましたのに、わたしを戦士としても女性としても見てくれないんですか・・・?」
ウィンロード「・・・わかった・・・時が来たら邪神と戦うことを認めよう・・・
だが、一人で戦うことは許さん。あの2人が一人前になったらパーティを組んで補佐して欲しい。」
セレス「ヴィンツァー様は見込みがあると・・・?」
ウィンロード「正直剣技の才能はない。ただ・・・」
セレス「・・・・・・。」
ウィンロード「あの子は優しい・・・暴力以外の解決策を見つけるかもしれない・・・
我々が思いもつかないような解決策をな・・・」




セレスの部屋で寝ているヴィンツァーとリネット。
軍隊のラッパを吹くウィンロード「起きろこのやろう!!仕事だ!」
ヴィンツァー「ねむい・・・」
リネット「筋肉痛が・・・ちょっと勤務開始は明日からで・・・」
ウィンロード「どこの世界に雇い主に起こしてもらう召使がいるんだ!」
セレス「旦那様・・・
朝の仕事はわたくしが済ませますので、お二人はもう少し寝かせてあげても・・・」
ウィンロード「お前は甘い!甘すぎる!こういうのは初日が大事なんだ。
ここでピシッとやらないと、お前はこいつらのお母さんになるぞ!」
セレス「それも悪くないわね・・・」
セレスを睨みつけるウィンロード。
セレス「はいはい朝ですよ!二人とも起きましょう!
井戸で顔を洗ったら、水を汲んで、暖炉に火を入れて、食事の準備ですよ!」
部屋を出ていくウィンロード「お前がしっかりしつけろよ!」
恍惚の表情を浮かべるセレス「ああ・・・まるで4人家族のようだわ・・・」
ウィンロード「聞いてるのか?」
セレス「あ、はい・・・!」

『ラストパーティ』脚本⑪

荷物をまとめて学園を後にするヴィンツァーとリネット。
校門の外で馬をとめて待っているウィンロード。
ウィンロード「荷物を馬に乗せろ。」
荷物をウィンロードの馬に乗せるリネット「はい・・・」
ウィンロード「馬鹿野郎!私の荷物を乗せろ!お前らの荷物など自分で持て!」
ヴィンツァーに耳打ちするリネット「22万ゴールドの逸材にずいぶんな物言いね・・・」
ウィンロード「なんか言ったか?」
リネット「いえ・・・」
ヴィンツァー「ありがとうございます、ウィンロードさん・・・
立派な剣士になれるように頑張ります・・・」
ウィンロード「私がお前らを剣士として買いとったと?(ニヤリと笑う)
まあいい・・・まずは小姓として頑張りなさい・・・」
ヴィンツァー「は、はい・・・!(やったー!剣の修行をしなくて済むぞ・・・!)」
ウィンロード「さあ、出発だ。世話になった学園に礼を言いなさい。」
校舎に向かって頭を下げる二人。



ロト剣術魔法学校職員室
テスタメント「シドニアのやつ、結局何しに来たのかしら・・・
学年最下位の劣等生2人を22万ゴールドの大金で引き取って帰っていったけど。」
ラム隊長「ヴィンツァーくんのことか?私は彼を劣等生だとは思わないが・・・
本校開校以来の天才と言われたベオウルフくんに臆することなく敢然と立ち向かった・・・
あんな勇気のある学生は久しぶりだ。」
テスタメント「で、3秒でズタボロにされたじゃない。」
ラム隊長「勝敗は重要ではないのだ。」
テスタメント「数々の戦場で敵をぶった切った“ツインソードのラム”とは思えないわね・・・
あんたに負けた敵はみんな死んでるじゃない。」
ラム隊長「誇り高い死だ。」
テスタメント「こういう馬鹿がたくさんいるから、葬儀屋は儲かるのよ・・・はっ
そのビジネスいいかも・・・」
職員室に入ってくるピカール「・・・ウィンロード卿のお話ですか?」
テスタメント「学園長・・・」
ピカール「レスター海峡の向こうは邪神によってひどい有様だそうです・・・」
テスタメント「感染の第3波ですか?」
ピカール「大陸の3分の1は死に絶え、元凶のニャルラト・カーンは西に移動を開始したと・・・」
テスタメント(やっぱり今儲かるのは葬儀会社だな・・・)
ラム隊長「邪神がグレートブリジッド島に上陸すると・・・?」
ピカール「もう我々の世界に残された時間はわずかなようです・・・
おそらくウィンロード卿は自分の剣技を有能な若者に継承し・・・邪神を倒そうとしているのでは・・・」




ドリームワールド
小田「こうしてヴィンツァー卿は高名な剣士シドニア・ウィンロードに剣の才能を見出され、彼の生涯唯一の弟子となりました・・・」
桃乃「まさにエリート街道だね・・・この人に挫折とかはないの?」
小田「伝説のチート勇者ですから。ウィンロード卿はなんと22万ゴールドの大金でヴィンツァー卿を引き抜いたそうです・・・現在の価値で2億円だそうですよ。」
缶ビールを飲みながら桃乃「は~・・・サッカー選手みたいだね。」
お菓子を食べる小田「お嬢様の年棒の方が高いですかね。」
桃乃「その10分の1ももらってないわよ。さあ、続きを聞かせてちょうだい。」
古書をめくる小田「はい。」




街や村、平原、山地と旅をしていくウィンロード一行。
馬を引くリネット「どんどん田舎になっていくんだけど・・・」
荷物を担ぐヴィンツァー「ご主人様・・・どこへ向かっているのですか??」
馬に乗っているウィンロード「わたしの領地だ。」
リネット「とんでもない僻地ね・・・」
ウィンロード「今すぐその減らず口をやめないと、みかん箱に入れてここに置いて行くぞ・・・」
リネット「ふふん、やってみなさい。あたしたちに秘められた大いなる力が目的なくせに・・・」
ウィンロード「・・・このガキ・・・」

その時茂みが揺れる。
馬を止めるウィンロード。
怯えるリネット「なに・・・?」
ウィンロード「スナイデル、見てこい。」
茂みに入るヴィンツァー「はい・・・」
茂みの中には何もいない。あるのは水たまりだけだ。
ヴィンツァー「あれ?おかしいなあ。」
水たまりを踏むヴィンツァー。
すると、水たまりが変形し、ヴィンツァーの脚を水たまりがつかむ。
水たまり「もらった~~!!」
ヴィンツァー「!!!」

茂みの中からヴィンツァーの悲鳴が聞こえる。
リネット「ウィンロードさん!ヴィンツァーが!」
落ち着いて馬から降りるウィンロード「わかってるよ・・・まったく・・・」
茂みからヒトの形をしたスライムがヴィンツァーを人質に飛び出してくる。
スライム「はーはは!そこのお父さん!
可愛い我が子を助けたいなら、料金は15ゴールドになります!」
ウィンロード「・・・500ゴールドやるから、このうるせえ娘をひきとってくれねえか、ゼリーマン。」
ゼリーマン「あれ?シドニアかよ。
独身主義だったあんたがいつの間に二人も子どもを作ったんだ??」
ウィンロード「こいつらは小姓だよ・・・」
ゼリーマン「身の回りの世話ならセレスがいるだろ・・・
はは~ん、とうとう弟子を取ったんだな。
セレスが怒るぜ~女性蔑視だって。」
ウィンロード「戦いは男の仕事だ。あいつがどんなに強くてもな。」
ゼリーマン「で、こいつはお前の剣技を受け継ぐ素質があると・・・
どれ、最強のモンスターのオレ様がこの小僧の実力を見てやろう・・・」
ゼリーマンに捕まれたヴィンツァーがじたばた暴れる。
ヴィンツァー「これあげますんで、許してください!!」
そう言うと、ゼリーマンの体に香辛料の入った小袋を入れてしまう。
ゼリーマン「ぎゃああ!馬鹿、お前これ塩コショウじゃねえか!
浸透圧で縮む~~!!」
ヴィンツァーをはなすゼリーマン
「み…見事このオレを倒した・・・貴様は世界一の勇者になる素質があろうぞ・・・」
リネット「さすがヴィンツァー!」
ウィンロード「いや、お前を倒せないやつはいないだろ・・・」
リネット「さあ観念しなさいモンスター!」
そう言うと、ウィンロードから預かった剣を抜いてゼリーマンに振り回す。
慌ててよけるゼリーマン「うわ、あぶねえ!なんだこの狂戦士は!!」
リネット「とどめを刺してあげるわ!成敗!!」
ウィンロード「やめろリネット!相手はもう降参している!」
リネット「だからチャンスじゃない!憎き魔物はこの世から一匹残らず殺戮・・・」
一喝するウィンロード「愚か者!
剣を今すぐ捨てろ!命をいたずらに奪うものに剣を握る資格はねえ!!」
びっくりして剣を落としてしまうリネット。
リネット「だ・・・だって・・・私たちの村は魔物に・・・」
ヴィンツァー「だからって一緒くたにしちゃいけないよリネット・・・」
リネット「ヴィンツァー・・・」
ウィンロード「・・・うむ、スナイデルが正しい。」
ゼリーマン「オレはお前らの村を滅ぼした覚えはないぜ・・・」
リネット「う・・・」
ゼリーマン「さあ、こういう時はなんて言うんだい?」
リネット「・・・ごめんなさ・・・」
ウィンロード「謝る必要はない。そもそも最初に襲ってきたのはこいつだからな。」
ゼリーマン&リネット「・・・え?」
ゼリーマンの方を向いてウィンロード「・・・弟子を取ったのかと言ったな・・・」
ゼリーマン「お、おう・・・」
ウィンロード「あたりだ。世界が滅ぶ前に最後の戦いを挑む。」
ゼリーマン「誰が?あんたはいい年だろ・・・」
ヴィンツァーの肩に手を置くウィンロード「この子かもしれん。」



海沿いを進んでいくウィンロードたち。
気候が変わり、針葉樹林が増えてくる。
不満そうなリネット「黒死病はああいう不潔な魔物がばらまいてるのよ・・・」
ウィンロード「そういう説もあるな・・・」
リネット「なら、なんでやっつけないのよ・・・!」
ウィンロード「・・・こんな話がある・・・
黒死病を恐れたとある王が勇敢な剣士に王都周辺のモンスターをすべて駆除させた・・・
コボルトからセイレーン、ヒュドラ、ケルベロスまで・・・
相手がどんなに手ごわくとも・・・剣士はモンスターなら一匹残らず殺戮した・・・
どうなったと思うね?」
リネット「・・・・・・。」
ウィンロード「王都で感染爆発が起きた・・・
魔物は王都に侵入するどころか、近づきすらしなかったのに・・・
住民はパニックになった・・・
感染症は魔物を滅ぼせば解決すると思っていたからな。
そして、恐怖に囚われた住民たちはこう考えた・・・
魔物の返り血を浴びた剣士が王都に入って病気をばら撒いたのだと・・・
国家の英雄は一転して国賊となり・・・海を越え・・・姿を消した・・・
剣士は確信した・・・黒死病の流行にモンスターは無関係であったと。
王の命令とは言え取り返しのつかない殺戮をしてしまったと・・・」
ヴィンツァー「・・・なんで、そこまで分かるんですか?」
ウィンロード「10年間モンスターと暮らしていても、黒死病を発症しなかったからだ・・・」
リネット「・・・え?」
海の向こう岸に目をやるウィンロード「見ろ。」
二人も海峡の向こうに目をやる。漆黒の雲が広がっている。
ウィンロード「わたしの故郷の末路だ・・・」
リネット「分厚い雲・・・」
ウィンロード「雲じゃない・・・あれは鳥だよ。死体をついばんでいるのさ・・・」
そう言うと、先を進んでいくウィンロード。

『ラストパーティ』脚本⑩

ピカール「紳士淑女の皆様・・・本日はロト剣術魔法学校の年度末発表会にようこそおいでくださりました・・・!本校の生徒の日々の鍛錬の成果をぜひ最後までご覧ください!
発表会の最後には学生のオークションもあります!
それでは、まずは魔法学部の発表です!
学部長のテスタメント先生よろしくお願いします!」
魔女のテスタメント「魔法学部 黒魔術学科 攻撃魔法専攻の学生の総合火力演習となります。
ピカチュウのように強い光を放ちますのでくれぐれもご注意を・・・」
テスタメントが杖を振ると、来場者の手元に遮光板が現れる。
テスタメント「第一小隊整列!!」
魔法学部の学生が競技場の中心に整列し、遠くの山の方へ腕を上げる。
テスタメント「PKファイヤー 方位角3032 射角119 3連続 斉射!!」
そういうと、学生たちが一斉に山の山頂に向けて火炎弾を撃ち込む。
爆撃と轟音。
来場者の歓声。
山火事が起こる。
テスタメント「続いて第二小隊前へ!
PKアイスストーム 同一目標 斉射!!」
今度は別の学生が一斉に山火事に向けて氷系の魔法を放つ。
鎮火される山火事。
テスタメント「演習は以上となります。
来年度はより難易度の高い落雷系の全体攻撃魔法を履修させますわ・・・」
会場内が拍手に包まれる。
来場者「ブラボー!!」

来賓席の方へ引き上げる講師のテスタメント
「あら・・・そのマッシュルームヘアーはウィンロードじゃない。来てたんだ。」
ウィンロード「まあな。」
テスタメント「しばらく見ないうちに老けたわね~・・・」
ウィンロード「お前は変わらないな・・・美容魔法か。」
テスタメント「PKドモホルンリンクルよ。あんたもやる?」
ウィンロード「くだらねえ。」
テスタメント「で?うちの子たちの魔法はどうだった?
せっかく来たんだから一人くらい買って帰りなさいよ。」
ウィンロード「使い物にならんよ、あれじゃあ・・・」
テスタメント「いつも憎まれ口ばっか。だから結婚できないのよ・・・」
ウィンロード「では聞こう。火炎魔法と氷結魔法を放つ学生を入れ替えたのはなぜだ?」
テスタメント「・・・え?」
ウィンロード「あの威力だ。消費MPが高すぎて詠唱できるのは一度きりだからじゃないのか?」
テスタメント「なによ、あんたバトル・オブ・ナガシノを知らないの?」
ウィンロード「じゃあ、魔法使いを3000人もパーティに加えろというんだな。
いずれにせよ、あれでは必殺の一撃をかわされたらおしまいだ・・・
実践では役には立たんよ・・・」
テスタメント「はいはいそうですか・・・あんたは一体なにと戦おうとしてんのよ・・・」
ウィンロード「だが・・・一人だけファイアとアイスを打っていたやつがいたな・・・」
テスタメント「ああ・・・あの子は消費MPが少ないから・・・
でも、アルコールランプ程度の着火と冷えピタ程度の冷却しかできない落第生よ・・・」
ウィンロード「じゃあ、お前のクラスは全員落第だ。」
テスタメント「・・・くっ・・・!バーカバーカ!」
悪口を言って立ち去っていくテスタメント。
ため息をつくウィンロード「精神年齢も変わりやしねえ・・・」

ピカール「続きまして、勇者学部です!
剣術学科フェーデ専攻の学生によるトーナメント試合を開催します!」
諸侯たち「いよいよですな・・・」
「今年は即戦力の剣士がいるかな・・・」
ラム隊長「それではAブロック第一試合を始める!両選手の土俵入り!
はっけよい、残った!」

選手控室
控室の外からは競技中の歓声が聞こえる。
緊張でベンチにへたり込んで震えているヴィンツァー「始まってしまった・・・もうだめだ・・・」
ベオウルフ「いよいよだね、ヴィンツァーくん。
ぼくはどんな相手にも敬意をもって接する。わかるかね?
つまり、手加減をせずに全力で行かせてもらうということさ・・・」
ヴィンツァー「それはちょっと・・・
ぼく、わざと負けますので剣でたたくのは勘弁してもらえますか?」
ベオウルフ「なぜあの姫君はこんな腰抜けが好きなのか、さっぱり分からん・・・
きみにはプライドはないのか?愛する女性を守るために戦おうとは思わないのかね。」
ヴィンツァー「誰かを傷つけるくらいなら、ぼくは愛なんていりません・・・」
ベオウルフ「哀しい奴だな・・・愛のない人生に何の意味がある?
ようし、騎士の情けだ。君の無意味な人生を終わらせてやろう。
ボコボコにしてやる。」
ヴィンツァー「ひいいい!」
控室に入ってくる少女「ヴィンツァー・・・」
少女の顔は暗い。
ヴィンツァー「・・・ど、どうしたの?」
少女「あたし・・・攻撃魔法ぜんぜんできなかった・・・せっかくの発表会だったのに・・・
あたし・・・剣もダメ・・・魔法もダメ・・・字も読めない・・・
何もできない・・・」
ヴィンツァー「そ、そんなことないよ・・・」
涙を浮かべる少女「でも・・・あんたは違う・・・あんたは剣の才能がある・・・
あの時・・・あたしを守ってくれたじゃない・・・」




数年前――感染症で壊滅した村。
村人の死体を狙って舞い降りるハルピュイア。
少女「やめて!こないで!!」
ハル「チョーダイ。チョーダイ。」
少女「パパ!ママ!お姉ちゃん!!誰か助けて~~!!」
少女に向けてかぎづめを向ける。
その時、木の棒を持ってハルピュイアに向かっていく幼いヴィンツァー。
ヴィンツァー「うあああああ!!お前なんか怖くないぞ!あっちいけえええ!!」
そう言うと、泣きながら木の棒を振り回す。
その太刀筋を難なくかわしてしまうハル。
しかし、木の棒の速度があまりにも速く、風圧でハルの胸当てが外れてポロリしてしまう。
ポロリに気づいて一瞬意識が切れるハル。
そのチャンスを逃さず、木の棒でハルの脚を叩き、少女をかぎづめから守るヴィンツァー。
たまらず、少女を諦めて飛び去って行くハル。
恐怖でガタガタ震えて、失禁してしまう少女。
少女に近づくヴィンツァー「だいじょうぶ・・・もう戻ってこない・・・
も、もし・・・もう一度襲ってきたら・・・今度は墓を作って埋めてやる・・・」
ヴィンツァーに抱き着く少女「う・・・うわああああ!」




選手控室
少女「・・・だから、あなたは絶対に勝てる。わたしの・・・勇者様なんだから・・・」
ヴィンツァー「・・・リネット・・・」
そう言うと、何かを決心して立ち上がるヴィンツァー。
ベオウルフ(・・・こいつ、顔つきが変わった・・・)
ヴィンツァー「ベオくん。ぼくは、どんな相手にも敬意をもって接する。」
ベオウルフ「ほう・・・」
ヴィンツァー「つまり、お互い手加減をせずに全力で戦おう・・・騎士道精神に則って。」
ヴィンツァーと握手をするベオウルフ「いい試合にしよう。」

土俵に入場し、剣を握って向かい合うヴィンツァーとベオウルフ。
ラム隊長「はじめ!!」




学生のオークションが始まる。
ステージに並ぶ剣士と魔法使いの卵たち。
ボコボコにされているヴィンツァー。
ピカール「アダムス大臣が10万ゴールドを上げた!他はいないか?他はいませんね?
・・・ベオウルフ・レイセオンくん、王立騎士団がハンマープライス!!」
ハンマーを叩くピカール。
学生たち「さすがベオくんだ・・・6ケタをつけたぞ・・・オレなんか4ケタなのに・・・」
「オレは3ケタだぞ・・・」
「まあ、あそこで売れ残っている2人よりは幸せだろ・・・まがりにも騎士の従者になれるからな。」
そう言うと、ヴィンツァーとリネットに目をやる学生たち。
ピカール「残るは、黒死病で滅んだ貧しい農村から拾った孤児二人です!スキルは特に無し!
言い値でお売りしますが・・・」
しらける会場。
心細そうにヴィンツァーの手を握るリネット。
ヴィンツァー「大丈夫だよ、売れ残ったら学園に戻れる・・・」
リネット「それは成績のいい学生だけよ・・・あたしたち無能な在庫は処分される・・・」
ヴィンツァー「ごめん・・・ぼくがベオくんに負けたばっかりに・・・」

リネットに目をやるベオウルフ。
自分を買い取ったアダムスに声をかける。
ベオウルフ「あの・・・あそこにいる2人も買い取ってほしいのですが・・・」
アダムス「競争率の高い君を買い取ってもう予算がないよ・・・」
ベオウルフ「ぼくの友だちなんです・・・どうか・・・」
アダムス「これはわたしのポケットマネーじゃないんだ。国民の税金だ。
残念だが、私一人の判断でそんなことをしたら暴動が起こるよ。」
2人に向かって首を振るベオウルフ。

すると、太っていて下品そうな領主が名乗りを上げる。
領主「私が引き取ろう。」
ピカール「マンイーター男爵から30ゴールドが上がりました!
他にいないか?」
マンイーター男爵に向かってウィンロードが話しかける。
「あんた・・・あれを本当に騎士として雇うのか?」
男爵「ぶひひ・・・あの子たち・・・よく見ればなかなかのロリロリじゃないですか。
ぼくのリカちゃんハウスのコレクションにしようかな、と・・・」
ウィンロード(性的虐待をされた後に殺されちまうか・・・)
ピカール「それではマンイーター男爵がハンマープ・・・」
札を上げるウィンロード「二人まとめて20万ゴールドだ。」
ざわつく会場。
ピカール「・・・え?なんですって?みなさん静粛に!!」
ウィンロード「・・・22万ゴールドのがいいか?」
ピカール「な・・・なんと22万ゴールドが出ました!今回のオークションの最高額です!!」
参加者たち「おいおい・・・!あの最強の剣士ウィンロード卿が競り落とすということは、あの二人、もしかしてとんでもない逸材なんじゃ・・・!」
「買っときゃよかった!」
「でも、22万ゴールド以上も出せないぞ・・・!」
悔しがる男爵「ぶひょ~!ぼくの着せ替え人形が奪われたブー!」
ピカール「それでは、22万ゴールドでシドニア・ウィンロード卿がハンマープライス!!」

『ラストパーティ』脚本⑨

モンスターを差別するならず者の武器を一撃で切断してしまう騎士。
コンピテンシーリーダーをその騎士の方へ向けてレーザーを飛ばすヨシヒコ。
ゼリーマン「何者ですか?」
コンピテンシーリーダーを読み上げるヨシヒコ
「・・・ええと・・・
戦闘経験:レベル99
剣技レベル:カンスト
人間性:誠実で心根が優しいが、やや控えめで優柔不断
職歴:王立騎士団軍事顧問、勇者ギルドトップランカー、現在無職・・・」
ゼリーマン「・・・本物の勇者だ・・・」
ヨシヒコ「氏名:スナイデル・ヴィンツァー」




回想
ドリームワールドのスタッフルーム
「マジックキングダム」の資料の山に目を通しているガイドの小田順子。
背の高い精悍な女性が入ってくる。
女性「・・・あれ、残業?」
小田「あ・・・お嬢様・・・こんばんは・・・」
背の高い女性の名は「姫川桃乃」・・・コマキアミューズメント第二開発部長である。
分厚い古書を見て桃乃「どっかの修道院の写本?」
小田「はい・・・明日の最終現地確認の予習を・・・」
桃乃「真面目な子ね・・・私は昔から勉強はさっぱり・・・だから“遊び”を仕事にしたんだけどね・・・」
小田「あはは・・・」
桃乃「あら、でもこれ絵が入ってる。なにかの物語?」
小田「はい・・・伝説の勇者が破滅の邪神から世界を救ったお話です・・・」
桃乃「へ~面白そうね・・・」
すると、突然小田が興奮して立ち上がり桃乃に詰め寄る。
小田「聞きたいですか!!??」
桃乃「・・・え、ま、まあ・・・」
小田「このお話は・・・もうメルヘンオタクの私の中でも最高傑作ですよ・・・!!」
桃乃「メルヘンオタクだったんだ・・・」
小田「私がずっと憧れていた王子様はこの人だったんです・・・」
桃乃「そこまで言う。まあ私も今夜は暇だし・・・じゃあ聞かせてちょうだい。」
小田「部長・・・長くなりますよ?」
ソファに腰を下ろす桃乃「酒もつまみも用意済みよ。」
古書のページを嬉しそうにめくる小田
「ではまず、勇者様の出自を紹介しますね・・・
伝説の騎士「スナイデル・ヴィンツァーSNEIJDER WINZER」は、向こうの暦で1319年に、広大な所領を持つ名門諸侯と、王家の血を引く姫とのあいだに生まれた、由緒正しき貴族であったとされています。ヴィンツァー卿は、幼い頃から正義感が強く勇敢で、弱きを救うため、自ら積極的に剣の鍛錬に励みました。
その崇高な騎士道精神に一目置いたブリジッド国王陛下は、ヴィンツァー卿を自身の居城に召還し、世界を滅ぼさんとする邪神ニャルラト・カーンの討伐を命じました・・・
あれ・・・お嬢様、寝てませんか??」
桃乃「寝てない、寝てない!でもさ・・・その勇者様に憧れるより・・・自分が勇者になった方がずっと面白くない?」
小田「お嬢様はそう言うでしょうね・・・でも、本当にかっこいいんですって!」
桃乃「ごめん、ごめん・・・続けて・・・」
小田「勇者ヴィンツアァーはそこで、邪神を倒すために6人の精鋭を集めます・・・
彼らは円卓の騎士と呼ばれ・・・」



マジックキングダム暦1319年――
のどかな田園風景が広がるリーズガーデンの農村地帯。
どこかで羊の鳴き声が聞こえる。
粗末な納屋
農夫が畑に出ていこうとしている。
臨月の妊婦「あなた・・・!知事からステイホーム要請が出ているのよ・・・!
外に出るのは危険だわ・・・ここだって邪神の瘴気が漂って・・・」
窓の外を指差す農夫「ただののどかな昼下がりじゃねえか・・・!
自分の目で見て考えろ。政府の情報に踊らされるな。」
妊婦「でも・・・」
農夫「それに・・・ここで私が働かなかったら、誰がお腹の子を食わせてやるんだ・・・?」
妊婦「じゃあ、せめてマスクをつけてくださいな・・・」
鳥のくちばしのようなヘンテコなマスクを差し出す妊婦。
農夫「そんなもんつけて農作業ができるか!
外に出ただけで病気になって死ぬわけないだろう。
待ってな、私の可愛い息子よ・・・」
そう言うと、扉を開けて農場に出て行ってしまう農夫。



数年後
廃屋のようにボロボロになった納屋にスキップしながらやってくる少女。
ドアをノックする。
少女「ちょっと!いつまで引きこもってんのよ!!いい加減外へ出なさい!!」
廃屋からは返事がない。
すると、ボロボロの扉を蹴破る少女「オラー!!」
ベッドにくるまっている少年。
その汚いシーツを引っペがしてしまう少女。
「起きろヴィンツァー!!」
少年時代のヴィンツァー「や・・・やめてよ・・・!」
ヴィンツァーは痩せこけており、ガタガタ震えている。
少女「いい加減起きなさい!部屋を片しなさい!!窓を開けて換気しなさい!!」
ヴィンツァー「ほっといてよ・・・!」
少女「あら・・・あんた怪我してるじゃない・・・見せてみ。」
ヴィンツァーのアザだらけの腕を取る少女。
ヴィンツァー「平気だから・・・」
少女「また、やられたんでしょ・・・仕方ないわね・・・
痛いの痛いの飛んでけ~」
そう言って、ヴィンツァーの腕を撫でるとアザが消えてしまう。
微笑む少女「はい。これでだいじょうぶ。」
ヴィンツァー「あ・・・ありがとう・・・」
少女「あら、お礼が言えるのね。えらいえらい・・・じゃあ、学校に行くわよ。」
ヴィンツァー「ぼ・・・ぼくは学校になんか行きたくない・・・!
いつもいじめられるし・・・剣だって嫌いだ。」
少女「ヴィンツァー・・・あたしたちの家族の敵をとりたくないの?」
ヴィンツァー「ぼくら孤児がいくら頑張ったって、あの邪神には勝てないよ・・・」
そう言うと、シーツに手を伸ばす。その手をぴしゃりと叩く少女。
少女「勝てるさ。」
ヴィンツァー「なんで・・・」
少女「君は、人の痛みが分かるから。」



ロト剣術魔法学校――
邪神により家族を失った孤児を集めて、優秀な剣士や魔法使いを育成する教育機関である。
木刀を振るヴィンツァーと少女。
ビリー隊長のような筋肉ムキムキの講師サー・ラムマヤ
「体幹が真っ直ぐだとクリティカルヒットが出やすい・・・!
何度も繰り返し体に覚え込ませよ・・・!サークル!サークル!!」
ヴィンツァー「はあはあ・・・ぜえぜえ・・・」
少女「もう息が上がったの?・・・情けない・・・」
隊長「少年・・・!がんばるのだ!」
座ってしまうヴィンツァー「ラム隊長・・・ぼくには向いてません・・・」
隊長「いや、キミは筋がいい、あとはスタミナだけだ。自分に自信を持つのだ。」
少女「ほら、私のスタミナを見習って精進なさい。」
少女の方を向いて隊長「きみはもう帰っていいぞ。太刀筋が不安定で、周りの子に木刀が当たってみんな怖がっている・・・いたずらに人を傷つけてはならぬ。
騎士が剣を握るときは、弱きものを守るときだけだ・・・」
少女「うわ~ん!!」傷ついて泣き出してしまう少女。
ヴィンツァー「・・・・・・。」



昼休みの校舎の中庭
木のラケットでボールを壁打ちしている生徒たち。
木陰で本を読んでいるヴィンツァー。
パンを片手に近づいてくる少女「あなた、字が読めるの?」
ヴィンツァー「うん・・・ちょっとだけ・・・」
少女「すごい!ねえ、それどんな話?」
ヴィンツァー「アーサーという王様が騎士の仲間を集めて冒険をするんだ。」
少女「かっこい~!いいなあ、男の子は・・・あたしも騎士になりたかった。
高潔な精神と、卓越した剣技を併せ持ったわたしも性別(ジェンダー)には勝てずに魔法学科にクラス替えさせられたからね・・・」
ヴィンツァー「いや、円卓騎士団には女騎士もいたらし・・・」
少女「あ?」
ヴィンツァー「なんでもないです・・・」

二人に近づく長身でイケメンの青年。
「君たちここにいたか・・・」
ヴィンツァー「ベオウルフくん・・・」
ベオウルフ「きいたぞ、ヴィンツァーくん。女の子を泣かすなんて紳士のすることじゃないぞ。」
ヴィンツァー「ごめん・・・」
少女に手を出すベオウルフ「さあ、可憐な姫君・・・よろしければこの私と散歩でもしながら思索にふけりませんか?」
少女「い・・・いや・・・だいじょうぶ・・・」
ベオウルフの取り巻きの女子たち「まあ、なんて失礼な女なの!ベオさま、バラ庭園に行きましょうよ、また花言葉のおはなしを聞かせてくださる?」
ベオウルフ「なるほど・・・あなたはその同郷の少年に未練があるのですね・・・」
少女「・・・なんでも色恋沙汰にしないでくれる?思春期の乙女みたいな人ね。」
ベオウルフ「ふふ・・・ヴィンツァーくん。君はわたしの恋敵のようだ。
こうしようじゃないか。年度末の御前試合でわたしと君の一騎討ちをセッティングさせる。
その試合で勝利したほうが、その可憐な姫の寵愛を受ける。どうだね?」
少女「あたしは贈答品じゃないんだけど。」
ヴィンツァー「ぼ・・・ぼくには無理だよ・・・ベオくんは勉強も運動も一番だし・・・」
立ち去るベオウルフ「では、ごきげんよう。」
少女「・・・あんた・・・どうするの?」
ヴィンツァー「ベオくんは優しくてかっこいいから君にはぴったりだよ・・・」
泣いて走り去っていく少女「ばか~!!」



年度末の剣術・魔法発表会
国中の諸侯や領主が将来有望な騎士の卵を採用しに集結する一大イベントである。
トーナメント会場で来賓を出迎える職員。
ピカール学園長「これはこれは、ようこそおいでくださいましたアダムス主席大臣・・・」
アダムス大臣「まったくうちの王の戦争好きにも困りますよ・・・戦いが好きなのは結構だが毎回負けて敵国の捕虜ですからね・・・マグナカルタの関係で身代金を払う度に増税するにも限度がある・・・ゆえに特殊部隊を結成し秘密裏に王を救出することが閣議決定されたのです。」
ピカール「それは由々しき事態ですな。本校の学生は精鋭ぞろいです・・・ぜひご照覧あれ・・・」
アダムス「それは楽しみだ。」
ぞろぞろと会場に入る諸侯や貴族の中に、ひとり偏屈でみすぼらしい騎士が混ざっている。
ピカール「おや・・・あなたがここに来るとは珍しい・・・」
騎士「来ちゃ悪いか?」
ピカール「いえいえ・・・むしろ嬉しいですよ。
この国で最強の剣士がとうとう自身の後継者を探しに来られた・・・
どういう心境の変化ですか?ウィンロード卿・・・」
騎士「ただの気まぐれだよ。あいにく、おしゃべりは好きじゃねえんだ。
そろそろ入れてくれるかね。」
ピカール「ええ、どうぞ・・・」
そういうと、会場で受付をするみすぼらしい騎士。
受付「お名前と所領を・・・」
騎士「スノーフル辺境伯、シドニア・ウィンロードだ。」

『ラストパーティ』登場人物(ヴィンツァー編)

 なんと、ヨシヒコがヴィンツァーと合流するまでに4万字も使ってしまったため、あそこまでを「ヨシヒコ編」とすることに決めました。
 こっからは伝説の勇者ヴィンツァーの半生記となります。よろしくです!

登場人物
スナイデル・ヴィンツァー
かつて世界を救った勇者。平和な現在では特にやることがないので、村で引きこもっている。
実は人一倍臆病者で、誰も殺めたことがない。戦場を逃げ延びただけの生存者だった。
しかし、剣術などのステータスは最強ランクを誇る。

シルビア・アシュレイ
風の魔法使い。世話焼きな女の子。世界を救う大冒険に憧れているが、ヴィンツァーには止められている。

リネット・アシュレイ
ヴィンツァーの幼馴染の孤児の少女。明るく活発な性格。
成人になると高名な白魔術師となり、病に苦しむ人々に医療行為を施すようになる。

ベオウルフ・レイセオン
剣術学校時代のヴィンツァーの学友。成績優秀な騎士の卵。

マッスル・ラムマヤ
剣術学校時代のヴィンツァーの先生。両手剣のパワープレイを得意とする。

メグナ・テスタメント
魔法学部の先生。エステが好きな美魔女。

シドニア・ウィンロード辺境伯
仕官時代のヴィンツァーの師匠。偏屈で人間嫌いだがひょんなことから弟子を取ることに。

ヴィンツァーの円卓騎士たち
これに、伝説の勇者ヴィンツァーと風の巫女リネットを入れた7人で、邪神ニャルラト・ハーンに挑んだ。

・鉄の戦士ヴォルスング
 超強力な鉄拳で戦う戦士。短気だが優しい男。

・月の剣士セレスティア
 美しき女剣士。真っ直ぐな性格で忠義心が厚い。

・竜の狙撃手ジークフリート
 寡黙なドラグーンマスケット銃の名手。

・闇の科学者ヘルシング伯爵
 頭脳明晰な紳士。実は吸血鬼で不老長寿。

・炎の騎士サー・モルドレット
 悪魔と人間とのハーフ。強大な潜在能力を秘めるが事勿れ主義者。



ライオンハーテド王
ブリジッド王国の国王。戦が好きなわりに弱く、敵に捕虜にされることが多い。
身代金を支払う度に重税を課すので国民全員に嫌われている勇猛な王様。

姫川桃乃
コマキアミューズメント第二開発部長。コマキ社の社長の娘。

小田順子
ドリームワールドのガイド。メルヘンが好きで夢見がちな性格。

ハル
意地汚い怪鳥。攻撃的なモンスターではないが、幼き頃のヴィンツァーとリネットにトラウマを与える。

ゼリーマン
全スライムの英雄。戦闘力5のゴミだが、とにかく顔が広い。

邪神ニャルラト・ハーン
かつて世界を滅ぼそうとした恐るべき邪神。大量のネズミで病気を蔓延させ、ガリア大陸のほとんどを暗黒大陸に変えてしまった。
その後、ブリジッド島にまで魔の手を伸ばしたがヴィンツァー達に倒される。
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