『青春アタック』脚本⑧流言蜚語

ざわめく3組
練習生「この学校にスーパースターの百地翼ちゃんがいるって本当なのかな?」
他の練習生「くだらないガセネタでしょう。この学校にそんなオーラのある美少女なんていないじゃん。」
「でも、ウソだったら、あんなにマスコミが押しかけなくない?」
「週刊誌の記事なんてウソばっかだって。」
音楽室に入ってくる乙奈「その通りです。事実無根だと思いますわ・・・」
練習生「先生・・・」
「やっぱりそうか~でも会いたかったなあ。わたし、翼ちゃんに憧れて芸能界を目指したの。
また、テレビに出てくれないかなあ・・・なんで突然芸能界からいなくなったんだろう?」
「不祥事で消されたんじゃない?
アイドルは恋愛禁止とか言いながら、イケメン俳優と片っ端からデートしてたらしいよ?」
「あ~そのスキャンダル私も知ってる!曜日ごとにローテーションしてたんだよね!」
「あと、後輩アイドルをいじめていたり、裏では相当性格悪いらしいよ」
「ちょっと!ファンの前でそんなこと言わないでよ~!」
「でも清く正しく美しい子だったら、芸能界から突然消えたりしないでしょう?」
乙奈「・・・・・・。」
ちおり「翼ちゃんはそんな子じゃないよ!」
練習生「ちおりちゃん・・・」
「・・・なんでわかるの?」
ちおり「性格が悪い子が歌う歌で感動するファンはいないよ。」
ちおりの頭をなでる乙奈「ちおりちゃん・・・ありがとう・・・
でも、学校にこれ以上迷惑をかけるわけにはいきませんわね・・・」
顔を上げる乙奈。



校門
マスコミの群衆の前に乙奈が現れる。
記者「おおっ出てきたぞ!」
「そこのモブ女子のきみ!百地翼ちゃんって君の学校にいるよね?」
乙奈「ええ・・・」
記者「やっぱりだ!ちょっと呼んできてよ!」
乙奈「あなたの目の前にいますわ・・・わたくしが百地翼です。」
記者「いやいや、そんな冗談はいいから・・・」
乙奈「そう・・・わたくしなど、どこにでもいる平凡な高校生にすぎない・・・
アイドルのオーラなんてたくさんの大人が作り上げた虚構ですわ・・・」
乙奈にカメラを向けるカメラマン「おい、確かに、この子かも・・・」
涙を流す乙奈「こうなってしまった以上、わたくしはどうなってもいい・・・
でも・・・この学校・・・白亜高校だけは・・・見逃してほしい・・・
わたくしの・・・大切な場所なの・・・」



音楽室のテレビ中継を見て言葉を失う練習生たち
「うそ・・・」
「ねえ、あんたさっきの発言謝りなさいよ・・・
あの人がイケメンをローテーションするわけないわ。」
「強く当たられたこともない・・・いつも褒めてくれた・・・」
「乙奈先生どうなるんだろう・・・」
「芸能界につれてかれちゃうのかな・・・」
「でも、いったい誰がマスコミに垂れ込んだの?」
「きっと生徒会よ!そもそも100万円の話だって生徒会が押し付けてきたんだもん!」
「みんなで文句言いに行こう!パンチラーズ、アッセンブル!」



生徒会に押し掛ける3組
「華白崎副会長、出てきなさい!よくも乙奈先生をマスコミの餌食にしたわね!!」
扉があく。
華白崎「・・・私が垂れ込んだと?」
練習生「100万円は払ったのに・・・!こんな仕打ちひどいわ!!」
華白崎「証拠は・・・?」
練習生「じょ・・・状況証拠がある・・・!
あなたは乙奈先生の自由放任なやり方を嫌っていた・・・!」
一笑する華白崎「根拠もない憶測で、他者を非難するなんて、外のマスコミ連中と変わらないわね・・・」
練習生「・・・う・・・」
華白崎「反面教師になさい。アイドルになったあなたたちに襲い掛かるのは、ああいった輩よ・・・」
練習生「謝ってよ・・・!」
扉を閉める華白崎「謝る道理がない・・・」



音楽室
号外「百地翼ついに発見!芸能界復帰はあるか!?」の見出し。
号外をたたむ練習生「先生もいなくなって・・・これから3組はどうなるんだろう・・・」
ちおり「乙奈さんってもともと教室には来なかったんでしょう?別に今までと変わらないよ!」
「そ・・・そうですけど・・・」
「アイドル百地翼だって知ってたら、もっといろいろ教えてもらえばよかった・・・」
「というかサインもらえばよかった~!」
「なんで隠してたんだろう・・・水臭いなあ・・・」
ちおり「きっと、みんなと対等に付き合いたかったんだと思うよ。
ふつうに学校に通って・・・ふつうのおともだちが欲しかったんだよ。」
立ちあがる練習生「・・・練習しよう。
年明けには芸能事務所のオーディションがあるんだよ。
先生がせっかく用意してくれた夢を叶える舞台・・・
わたし・・・無駄にしたくない・・・!」
「うん・・・やろう!カラオケボックスのバイトもあるし!」
「・・・ちおりちゃんはこれからどうする?」
ちおり「わたしは、至近距離で乙奈さんの全力ライブを見ちゃったから、別の方法でしろったま子さんに会うよ!」
練習生「いいな~」
「超うらやましいです・・・」
ちおり「いや、見ない方がいいよ!圧倒的実力差でアイドルなる気なくすから!」



体育館
2組の学生たちがストレッチをしている。
笛を吹くジャージ姿の海野「はい、ゆっくり伸ばそう、ゆっくり・・・
ストレッチパワーを感じているかな?」
体育館に入ってくるちおり
気まずそうに笑うちおり「へへ・・・」
微笑む海野「あ、ちおりちゃん・・・話は聞いてる、ようこそ2組、フィジカルクラスへ!」



その後の百地翼に対する世間の誹謗中傷はむごいものだった。
「自分勝手な失踪でファンの期待を裏切った」
「みんな忘れかけていたところで今更芸能界に復帰してもオワコン」
「黒いうわさがありすぎて、もうスポンサーがつかない」
「この末路は自業自得」
など・・・
これに激怒したファンがアンチと関ケ原で激突・・・多くの兵が打ち首となる大惨事となった・・・

とどのつまり、みなが言いたいことを言って、言いっぱなしで嵐は過ぎ去った・・・

スーパーアイドル百地翼のその後は誰も知らない・・・



教会
器をもって炊き出しの列に並ぶちおり。
乙奈「あら・・・ちおりちゃん・・・」
ちおり「乙奈さんだ!」
そばに刻みネギを入れる乙奈「ここ、私の実家。」
乙奈はブーちゃんと年越しそばをよそっている。
ちおり「わ~おいしそ~!十割そばだ!」
乙奈「あの子たちはうまくやれてる・・・?」
ちおり「ちょこちょこ小さい仕事取ってるみたいよ。」
乙奈「それはよかった・・・きっと私を超えるスターになりますわ・・・」
蕎麦をすするちおり「乙奈さんは今年の紅白歌合戦出ないの?」
乙奈「芸能界に混沌を生んだブラックアイドルですから・・・」
ちおり「じゃあさ、バレーをやろうよ!」



体育館
始業式の全校集会
京冨野「校長の話だ。気をつけ。礼。」
羽毛田校長「みなさんあけましておめでとうございます。みなさんのおかげで白亜高校は年を越すことができました。ありがとうございます。
本校は有志の寄付で運営されています。なので、もしみなさんの周りにチャリティーに関心がある富豪がいましたら、ぜひ連絡をしてください。あまっているお年玉を職員室によこしてくださっても大歓迎です。」

舞台袖の教員たち
花原「生徒になんつーこと言ってんだ・・・」
隣の華白崎に小声で話しかける海野「ありがとう」
華白崎「・・・なにが?」
海野「・・・生原さん、2組でバレーボールができて喜んでる。」
華白崎「海野部長もお人よしですね・・・去年を思い返してみなさい。
4組の花原さんは大やけど、3組の乙奈さんは誹謗中傷・・・
あの生原ちおりが入ったクラスの担任は必ずひどい目に遭っている・・・」
海野「・・・疫病神みたいな言い方。」
華白崎「あなたもせいぜい気をつけることね・・・」
横から話に割って入るマッスル山村(5組英語担当)「・・・疫病神はあんたじゃないのか・・・?」
華白崎「なんですって?」
山村「生原さんの家を燃やしたのも、乙奈さんをマスコミに売ったのも、あんただっていう噂で持ち切りだぜ。当然俺はそんなこと信じてないがな・・・
だが、あんた、ちょっと嫌われすぎだぜ・・・」
海野「・・・ちょっと山村くん・・・!」
華白崎「・・・・・・ばっかじゃない・・・」
病田「・・・あの・・・華白崎さんはそんな人じゃな・・・」
華白崎「かばわないでください。みじめになるから。」
速攻で謝る病田「ごめんなさい。」



廊下を一人で歩いていく華白崎
「男子バレー部」と書かれた部屋の前で立ち止まる。
扉が開く。
部屋の中から声がする。
「早く入ってくれ。お前と接触しているところを見られたら、俺様まで嫌われる。」
華白崎「・・・どうも。」
部屋の中に入ると、男子バレーのトロフィーがそこらじゅうに飾られている。
白亜高校男子バレー部部長、大此木勝行(おおこのぎかつゆき)
「いいか、幼馴染のよしみで話を聞いてやるだけだ。
引き受けるかどうかの決定権は俺様にある。それを忘れるな。」
華白崎「女子バレー部が年末から活動しているのはご存知かしら?」
大此木「海野が活動を再開したって?バカを言うな。女子バレー部の部員はあいつだけだ。
いくらやっこさんでも1人でバレーボールはできねえよ。」
華白崎「生原ちおりっていう子を入学させてね・・・そのホームレスの他にもバレーボールの未経験者を集めて、例の大会に優勝しようとしているの。これが、そのリスト」
リストをめくる大此木「4組の花原に3組の乙奈・・・運動神経の乏しい根暗女子ばっかりじゃねえか。海野は血迷ったのか?」
華白崎「・・・この子たちにスポーツの厳しさを教えて欲しいのよ。」
大此木「華白崎・・・貴様、この俺様に女子と試合をしろっていうのか?
だいたいネットの高さはどうするんだ?」
華白崎「・・・報酬は弾むわ・・・これは前金・・・」
蒲焼さん太郎をばら撒く華白崎
大此木「・・・!」
華白崎「あんた、昔からこの駄菓子に目がないでしょう?」
大此木「スーパービッグカツだ。それで考えてやる・・・
だがな・・・男子バレー部はもう廃部してんだ。お前の緊縮財政でな。」
華白崎「手段は問わないわ。」
蒲焼さん太郎をかじる大此木「・・・女子をいじめるのは小1のスカートめくり以来だぜ・・・
腕がなる・・・」

『青春アタック』脚本⑦秘中之秘

体育館
花原「ちおり何やってんのよ・・・あいつがいないとトスが上がらないじゃない・・・」
海野「生原さんと乙奈さんはクラスの方が忙しいんだって」
山村「これではスパイクは打てないな・・・またの機会としよう・・・」
海野「いいよ、トスなら私があげるから。」
花原「山村くん、レシーブ。」
肩をすくめる山村「・・・いやはや、そうきたか。」



ライブハウス
練習生「・・・え?年内はすべて埋まっている・・・??」
ライブハウスから出てくる練習生
「こっちもダメ。何か月も前から予約するみたいよ・・・」
「どうしよう、先生に啖呵切ったのに、会場すら借りれないなんて私たちっていったい・・・」
練習生たちに駆けてくるちおり「幕張メッセ取れたよ!」
「ほんとう!?」
「ちおりちゃん、すごい!」
ちおり「同人誌と恐竜とスポーツカーすべてどかしたよ。」
「なんで、この子にそんな力が・・・」
ちおり「というわけで270万円払っといて!」
「・・・270円じゃなくて・・・?」
ちおり「270円でメッセが借りられるわけないじゃん、カラオケボックスじゃねえんだし」
練習生「ムリだって!そもそも100万円かき集めるためにライブやろうとしてるんだよ・・・」
ちおり「メッセはダメか~じゃあ日本武道館に電話してみよう!」
「もっと高いって!!」
ちおり「パンチラーズは予算はいくらあるの・・・?」
「4300円・・・」
ちおり「・・・草むらで踊ってれば・・・?」
「一度、駅前でやったことがあるんですけど、警察官の人に補導されちゃったんですよ・・・」
「スカート丈が卑猥だってね・・・」
ちおり「長ズボンはけば?」
「それは、ちょっと勘弁してください・・・」
ちおり「会場の他にも、機材とスタッフはどうするの?スポンサーは?」
「・・・・・・。」
ちおり「チケットノルマはあるの?」
「・・・・・・。」
ちおり「アイドルは歌って踊ってるだけだと思ってたの?
そういうのは習わなかったの・・・?」
心が折れる練習生「先生に頭下げて蕎麦を打つ・・・?」
「うん・・・」
ちおり「わたしは諦めないよ。しろったま子さんに会いたいし!」
「でも、まったく無名でお金もない私たちに一体なにが・・・」
ちおり「歌とダンスはうまいんだよね?」
「はい・・・!それだけは自信があります・・・!先生にもお墨付きをもらえたし・・・!」
ちおり「じゃあやっぱり攻めの姿勢でメッセに・・・」
「カラオケボックスでいいです・・・」
そこで何かをひらめくちおり「・・・あ、そうか。」
練習生「あの・・・なにかいいアイディアが・・・?」
ちおり「カラオケボックスに行こう。」

カラオケボックス
練習生「なんで私たちバイトの履歴書を書いているんだろう・・・」
ちおり「お金を払って会場を借りるんじゃなくて、お金をもらって会場を借りればいいんだよ!」
練習生「どういうこと・・・?」

カラオケボックスの部屋にコスチュームを着たパンチラーズがお客を接客する。
「生ビールピッチャーで~す」
客「うお、アイドルみたいな店員が来た!!」
練習生「実は、私たちアイドルなんです・・・!」
客「本当に!?テレビで見たことないけど・・・」
ちおり「彼女たちはローカルアイドルでして。」
酒が回っていて騙される客「確かにチバテレビで見たかもしれない・・・」
客「うん、確かに見たことある!じゃあ一曲歌ってくれる!?」
練習生「よろこんで!」
盛り上がる会場

部屋から出てくるパンチラーズ
ちおり「好評だったね!」
練習生「おひねりもらっちゃいました!」
ちおり「この調子で、すべての部屋を回ろう!」
「おー!」

部屋を荒らしていくパンチラーズとちおり
客「演歌行ける?」
「よろこんで!」
客「軍歌は?」
「一回音程を聞かせていただければ・・・!」



カラオケボックスに足を踏み入れる芸能関係者
部屋に案内する乙奈「さあ、こちらです・・・」
ムジカ・ムンダーナ(作曲家)「翼チャン、カラオケボックスで接待なんて面白いじゃないか」
スパル・タックス社長(芸能プロダクション社長)「まさか、こんな田舎のカラオケボックスで平成の歌姫の歌声が聞けるとは・・・」
イ・スンシン会長(キャスティング業界のフィクサー)「韓国来ねえか?向こうの芸能界はブルーオーシャンだぞ・・・日本の人気アイドルは韓国ではレジェンドだ」
受話器を持つ乙奈「ここの料理が結構美味しいんですよ・・・注文しますね・・・」

部屋に入ってくるパンチラーズ「烏龍茶、メキシカンコークとバドワイザー、軟骨揚げといちご豆腐お待たせしました~!」
乙奈「お待ちしておりましたわ、みなさん。」
パンチラーズ「・・・!先生!?」
メガネをなおすタックス「変わったコスチュームの店ですね・・・」
乙奈「ここの店員はお客のリクエストの曲を歌ってくれるんですよ。そうよね?」
パンチラーズ「は・・・はい!」
ちおり「このおっさんたちは?」
乙奈「私の親戚です。」
ムジカ「ははは!まあ、付き合いは長いな!!
この翼チャンの歌でも歌ってくれや!あれ、俺が作曲したんだ!」
パンチラーズ「・・・え?翼・・・??」
テーブルの下でムジカを蹴る乙奈「あらやだ、おじさん、酔っ払って・・・
このアフロは、ただの無職のサーファーですわ」
ムジカ「NOO!!!」
乙奈「でも、百地翼の“エアリエル”はあなたたちの十八番じゃない?」
パンチラーズ「はい!歌わさせていただきま~す!」



カラオケボックスを去る重鎮たち
ムジカ「翼チャン、とんだ食わせもんだぜ・・・オレたちにオーディションをさせやがった・・・」
タックス「どうですイ会長?私は悪くはないと思いましたが・・・お金がないなりに、ああいう企画をひねり出す発想力、実行力は、売り出す際のストーリーとしては面白いかと。」
リムジンに乗り込むイ会長「俺はどんな田舎娘でもスターにする・・・お前さんが売り出したいっていうなら、広告業界とは話を付けるさ・・・」



深夜
乙奈「みなさん、閉店までお疲れ様・・・!よくがんばりましたわ・・・」
パンチラーズ「はあはあ・・・クラスみんなで120曲くらいは歌ったかな・・・?」
おひねりを数えるちおり「しめて82万円になります。」
練習生「そんなに稼げたの!?」
ちおり「金回りの良さそうなお客さんの伝票に、冷静に考えると意味不明なサービス料とかチャージ料とか勝手に書き込んだら、払ってくれた。」
練習生「ぼったくりバーの手口では・・・」
「酔っ払っているから、払っちゃったのね・・・」
茶封筒を差し出す乙奈「これは、わたくしの親戚からのちょっと早いお年玉だそうですわ・・・」
ちおり「・・・すげ~!30万円入ってる!」
飛び上がって喜ぶ練習生たち「ノルマクリアだ~~!!」
飛び込んでくる店長「君たち!バイトの分際で随分勝手なことしてくれるじゃないか!
アイドルに会えるカラオケボックスとして大盛況だ!
・・・サイン書いてくれ!!」



生徒会室
華白崎の机の上に100万円の封筒を置く乙奈
「・・・これで年は越せそうかしら?」
華白崎「・・・けっこう・・・」



誰もいない音楽室
音楽室に入ってくる乙奈
一人だけ残っているちおり「学校は来年も通えそう?」
乙奈「ええ・・・すべてちおりちゃんのおかげですわ・・・ありがとう・・・
あの子達もプロのアイドルになることができそうです・・・」
ちおり「先生の教え方がうまかったんだよ!」
乙奈「・・・あの子達を見ていたら・・・小さい頃・・・
歌が上手だねって褒められた時のことを思い出しちゃいました・・・
あの頃が一番幸せだったかも・・・」
ちおり「へ~」
乙奈「いや・・・今かもしれませんわ・・・
先生なんてやりたくなかったけれど・・・
若い子が夢を叶える瞬間に立ち会えるのは、こんなに嬉しいことなのね。」
ちおり「・・・芸能界って本当にドロドロしてるの?」
幸せそうに微笑む乙奈「・・・うふふ・・・ないしょです。」
ちおり「・・・じゃあ、乙奈さんの歌を聞かせて!」
乙奈「そうですね・・・ささやかなお礼として・・・」
ちおり「わ~い!せっかくだからアイドル時代の格好して歌ってよ!」
音楽準備室に引っ込む乙奈「あらあら・・・参りましたわ・・・ちょっと待っててくださいね・・・」

現役時代のコスチュームとメイクで現れる乙奈
普段の清楚な格好と打って変わって、ツインテールで、萌え萌えのフリフリの格好。
乙奈「お待たせ!今日はそこの小さなお友達のために私の天使の歌声をプレゼントするね!」
乙奈だと気づかないちおり「・・・誰?」
乙奈「お、乙奈さんの大親友のスーパーアイドル、百地翼だよっ!」
ちおり「思い出した!タモリさんの横にいた人だ!!すげ~!!」
乙奈「それでは、一曲目は恋する乙女の切ないバラードロック、意地悪なアナタです、カウントダウン!」
ちおり「・・・・・・。」
乙奈「・・・・・・。」
ちおり「・・・?」
乙奈(小声で)「ラジカセの再生ボタンをお願いします・・・」
ちおり「おっけい!」
爆音でイントロが流れる。
乙奈「いっくよ~~!!」
全力で踊りながら歌唱する乙奈。普段の緩慢な動きとのギャップがすごい。
ちおり「かっこい~!!」

生徒会室
音楽室のほうから音が漏れている
残務作業をしている華白崎「・・・誰だ、こんな夜中に・・・」

学食の調理室
大量の年越しそばを打っているブーちゃんも音楽に気づく「・・・・・・。」

科学研究室
試験官だらけの机で寝ている花原「むにゃむにゃ・・・」



音楽室
乙奈「百地翼スペシャルライブ楽しんでくれたかな!」
サイン色紙を抱えて感涙しているちおり
「・・・か・・・感動しました・・・!乙奈さんによろしく伝えてください・・・!」
屈んでちおりに顔を近づける乙奈「・・・ちおりちゃん、お願いがあるの。
今夜私に会ったことはわたしたち3人だけの秘密にしてくれるかな?お姉さんと約束できる?」
ちおり「いいよ!」
乙奈「じゃあファンのみんな!まったね~!
引き続きザ・ベストテンをお楽しみください!
黒柳さん、久米さん、スタジオにお返ししま~す!」
伝説のアイドルを拍手で送りだすちおり「センキュー!」

ちおり「・・・そういや、乙奈さんどこ行ったんだろう・・・?」
制服の姿で戻ってくる乙奈「スペシャルライブはどうでしたか?ちおりちゃん。」
興奮するちおり「ねえねえ!なぜかさっきスーパーアイドルの百地翼ちゃんが来たんだよ!
乙奈さん、あんなバケモンの後に歌うのはなかなか切ないと思うよ!」
乙奈「あらまあそんなすごい方が・・・じゃあ私は勘弁してもらえるかしら・・・?」
ちおり「え~!」
息を切らしている乙奈「ちょ・・・ちょっと、もう声帯と筋肉痛が・・・」
ちおり「乙奈さんもいたらよかったのに!
プロのアイドルってすっごいキラキラしているんだよ!
こればっかりは実際に直接対峙したファンじゃないと判らないだろうな~」
腕を組んで得意げなちおりを見て、微笑む乙奈。
乙奈「そう言ってくださるなら・・・
あの子も最後のライブでちおりちゃんのために歌えてよかったと思います・・・」
ちおり「きっとまた帰ってくるよ!」
乙奈「そうですね・・・」



翌朝
白亜高校の校門が芸能記者でごった返す。
校門でおしくらまんじゅう状態の羽毛田校長。
校長「すいません・・・!学生の登校の妨げになるので控えてください・・・」
記者「伝説のアイドル百地翼ちゃんが登校しているっていう事実は本当ですか!?」
病田「そ・・・そんな名前の学生は名簿にはいません・・・あうう」
記者に突き飛ばされる病田。
京冨野「だいじょうぶか病田!!」
さくら「やめて!彼女の傷病休暇はもう0よ!」
追い返そうとする京冨野「てめえらの事務所覚えたぞ・・・!」
記者「ヤクザがカタギを恫喝していいんですか?学生にもやってるんじゃないんですか??」
そう言いながらマイクやカメラで教師を殴りつける記者たち。
京冨野「こいつら・・・半端な極道よりもたちが悪いぞ!
先生方!校門を閉鎖して籠城しましょう!」
校門にはさまれる羽毛田「あたたた!」
さくら「校長が犠牲に・・・!」



音楽準備室の窓から校門の様子を見下ろす乙奈
「いったい誰が・・・」
乙奈が手にしている週刊誌の原稿には、音楽室でちおりと翼が指切りをしている写真が載っている。

『青春アタック』脚本⑥応機接物

保健室に登校した海野たちが殺到してくる。
「花原さん大丈夫!?」
乙奈「火遊びしちゃダメですよ・・・!」
微笑む花原「いや、違うから・・・」



花原が生原たちホームレスを命懸けで守ったという噂が学校中に広まる。
男子「おい聞いたか、花原がホームレス狩りを撃退して警察から表彰されたそうだぜ・・・!」
女子「聞いた聞いた・・・!なんでもギリシアの火っていう魔法を使って敵を火だるまにしたらしいよ」
男子「不良に続いて、大人の犯罪者も倒すとは・・・マジですげーな、あの人・・・」
女子「ねえ、今度の理科の授業でその火炎系の魔法のやり方教えてもらおうよ・・・!」



職員室
窓の外を眺める華白崎「・・・・・・」
京冨野「なんか面白くなさそうだな委員長・・・」
華白崎「私は委員長じゃない・・・」
京冨野「女子バレー部の稼働が学校の雰囲気をよくしたじゃねえか。
花原も体を動かしたことで、生徒へのあたりも柔らかくなったらしいし・・・
お前さんの見立て通りだよ。」
華白崎「私は女子バレー部を潰そうとしたんです・・・予算削減のためにね・・・」
京冨野「連中がバレーの大会に出場すれば、その問題もなしだ。よかったな。」
華白崎「あの大会に優勝できるわけないじゃない・・・
高校の部活動の大会はだいたい金のある名門私立高校が優勝するんです・・・」
京冨野「はは・・・違いねえ。」
チャイムが鳴り出席簿とドスを持って職員室から出ていく京冨野。
華白崎「わたしが卒業するまで、この学校には潰れてもらっちゃ困るんだ・・・」
デスクの上の生原ちおりの履歴書に目をやる華白崎。
華白崎「校長もなんで学費も払えないあんな一文無しを入学させたのか・・・
イヌネコを拾ってくるんじゃないんだから・・・
ほかの学生がどれだけ苦労して学費を稼いでると思ってるんだ・・・」



理科室
黒板に易しい回路図を板書する花原。
「これが直列つなぎで、こっちの分かれ道があるのが並列つなぎです。
さて、このテレビのリモコンにはこのように単4電池が2つ取り付けられていますが、これが直列つなぎか並列つなぎか判断するにはどうすればよいでしょう?」
ちおり「はいはいは~い!」
花原「じゃあ、生原ちおり・・・」
ちおり「片方とって使えるか調べる!」
花原「・・・。10ポインツフォーユー!」
ちおり「やったー!」
女子「なんかあどけない生原さんが来てくれたおかげで授業の内容が小学生に戻ってすごいわかりやすい・・・!」
男子「かつてはあいつ自身の研究発表の場だったからな・・・つーか全然授業うまかったんだな」
ちおり「直列つなぎにするくらいなら、なんで電池の長さを長くしないの?」
花原「千歳飴みたいにか。それは電池の発明者アレッサンドロ・ボルタという学者が試みて・・・」
理科室に京冨野が入ってくる。
花原「あら、先生・・・」
京冨野「生原のお嬢ちゃん、クラス替えだ・・・」

女子「せっかく仲良くなったのに残念だわ・・・」
ちおり「みなさんのご親切忘れません。」
花原「あんたを東京理科大に合格させたかったわ・・・」
ちおり「じゃあ、放課後体育館でね!」
花原「あいよ。」

廊下でちおりを見送る4組。
男子「花原がクラスから追い出されるのはわかるが、なんであんな心が綺麗なちおりちゃんが・・・」
花原「確かに・・・って今言ったの誰だ!!」
目をそらす一同。



生徒会室
乙奈「お呼びですか?華白崎生徒会副会長・・・」
華白崎「どうぞかけてください。
3組で芸能界にメジャーデビューしそうな学生は出てきそうですか?」
乙奈「・・・3組の担任を引き受ける際に申しましたとおり、わたくしは音楽の楽しさを伝えるだけで、プロの芸能人を育成することは致しかねますわ・・・」
華白崎「しかし3組の学生はアイドルの夢を目指して毎日学校に通っている・・・
生徒の思いに担任は応えてやるべきではないですか?」
乙奈「希望者にはオーディションの日程や親身になってくれる芸能プロダクションは紹介しております。しかし、私から歌やダンスを教えることはお断りしますわ・・・
若い才能は学校で画一的に育つものではないので。」
華白崎「あなたは教えたくないのではなく・・・教えられないのでは?」
微笑む乙奈「あなたの言葉はいつも冷たいですわね・・・
気に食わないのでしたら、いつでも3組の担任を変えてもらって結構。
わたくしは先生のお仕事をやる柄じゃないので。」
生徒会室から出ていこうとする乙奈
「・・・あなた・・・2年前に突然活動を休止した大人気アイドル“ツツジっ子クラブ”のセンター、百地翼じゃない?アイドル時代の名残を必死にかき消してはいるけれど。」
立ち止まる乙奈「・・・だから?」
華白崎「世間の熱狂から逃げるように、無名のこの学校に入学してきた。」
乙奈「マスコミ各社にリークするおつもり?」
華白崎「さあ、どうかしら・・・
とはいえ・・・大人気のアイドルが突然芸能界から姿を消したのだから、所属事務所からは多額の損害賠償請求が来ているはず・・・」
乙奈「・・・わたくしに何をしろと?」
華白崎「例の入学生・・・生原ちおりに・・・学費くらいは稼げる芸を仕込むことはできませんか?」
乙奈「サーカスの動物じゃないのですから・・・お金なら3ヶ月後のバレーの大会で・・・」
華白崎「わたしはそんなギャンブルに全ベットするほど愚かじゃない。
それに・・・この学校は3ヶ月もたないかもしれない・・・」



3組音楽室。
ちおり「ここが新しいクラスか~!」
扉を開けると、可愛い女の子たちがダンスの練習をしている。
ちおり「すげ~武富士ガールズがこんなに・・・!」
ツインテールの練習生「ちがいますよ・・・!
新入生のちおりちゃんですよね?
わたしたちはアイドルを目指してるんです。」
ちおり「テレビに出れるの?しろったま子さんに会える?」
練習生「アニメキャラはちょっと・・・でもアテレコしている人にはスタジオで会えるかも・・・」
ちおり「本当に!?じゃあわたしもアイドルなりたい!」
練習生「このクラスに入れたってことは、アイドルとしての素質があるんだと思いますよ。
ちおりちゃん、小さくて可愛いし。」
ちおり「わ~い、小さくて可愛くてよかった~!」
練習生「お互い頑張りましょうね!」
キョロキョロするちおり「・・・このクラスには先生はいないの?」
練習生「いますけど、ほとんど教室に来ないので、基本的には自由に歌って踊ってます。」
ちおり「それでプロのアイドルになれるの・・・?」
練習生「そ・・・それは・・・」
ちおり「アイドルのなり方教えてもらおうよ!」
練習生「・・・先生は教えてくれないんですよ・・・
とっても温厚で優しい先生で、いつも褒めてくださるのですけど・・・
あまりアイドルになることを快く思ってないみたいで・・・」
ほかの練習生「みんなで先生に頼んで、やっとやってくれた授業が枕営業の断り方だったもんね・・・」
練習生「あと、変質者が熱狂的ファンになった場合の対処法と、芸能界に蔓延するドラッグの恐ろしさもあった・・・」
ちおり「・・・キラキラしてないね!」
乙奈「あら、誰の噂かしら?」
姿勢を正す練習生「せ・・・先生!!」
ちおり「あ、乙奈さんだ!」
乙奈「ちおりちゃん、ようこそ3組芸能クラスへ・・・」
練習生「・・・珍しいですね・・・先生が教室に足を運んでくださるなんて・・・」
乙奈「クラスの子を集めてくださる?今日はみなさんにご相談があります・・・」
練習生「は・・・はい・・・!」

練習生「3組全員集合しました・・・!」
乙奈「回りくどいのがわたくしは好きではないので、単刀直入にお話します。
白亜高校の経営が危機的状況です・・・
このままでは、アイドルの夢を叶えるどころか、全校生徒が中卒で社会に放り出されます・・・」
生徒たち「そんな・・・そんなにやばいんですか・・・?」
乙奈「どうにかして100万円を稼がないと年が越せないそうです・・・」
生徒たち「どんな学校なんだ・・・!」
乙奈「現在それぞれのクラスがお金を稼ぐため頑張っていますが、4組は研究費でむしろ借金まみれ、2組はバレーの大会が年明け、1組は歳末助け合い募金を募っていますが、それでも26万円・・・」
ちおり「ダンボールの家の作り方なら教えられるよ?」
練習生「ホームレス確定・・・!?」
乙奈「そこで、3組に白羽の矢が立ったわけです・・・」
練習生「今こそライブをやりましょう・・・!そのために今日まで努力してきたんです・・・!」
乙奈「・・・わたくしの提案としては、学食のブーちゃんと協力して年越しそばを大量生産し、それを1食200円で売れば、5000食でノルマがクリアできます。」
練習生「なんでみんなで蕎麦をうたなきゃいけないんですか!」
練習生「私たちはアイドルとしてみんなに夢や希望を与えたいんです!やらせてください・・・!」
気乗りしない乙奈「う~ん・・・」
ちおり「やらせてみたら?」
練習生「・・・わたしたちじゃまだ実力不足なのでしょうか・・・!?」
乙奈「いえ・・・みなさんは容姿もいいし、性格もいいし、歌唱力もダンスも高い水準だと思います・・・しかし・・・わたくしは蕎麦づくりがいいなあ・・・麺棒買っちゃったし・・・」
練習生「ノリノリじゃないですか!」
ほかの練習生「もういいです!私たちが勝手にライブを開いて100万円を稼ぎます!
先生は勝手にそばを打っててください・・・!
みんないくよ!ザ・パンチラーズのメジャーデビューよ!」
練習生「う・・・うん・・・!」
音楽室から出て行ってしまう3組の練習生たち。
乙奈「あ・・・」
ちおり「行っちゃったね。」

乙奈「困りましたわ・・・」
ちおり「・・・ミニスカート履くだけでお金は稼げないって、はっきり言った方がいいんじゃない?」
乙奈「いえ・・・あの子たちには才能があります・・・わたくしよりもずっと・・・」
ちおり「・・・なんで乙奈さんはアイドルの養成なんてしてるの?」
乙奈「・・・わたくしが元アイドルだった・・・なんて言っても信じてはもらえませんでしょう?」
ちおり「スカート長いしね!」
笑う乙奈「そう・・・アイドルで成功するためには実は才能はそこまで大きな要因じゃない・・・
このわたくしがなれたのですから・・・
6歳のころにお父様が勝手にオーディションに応募してから、右も左もわからないまま怒涛の芸能生活・・・
普通の学生生活なんて何もできなかった・・・わたくしは歌が人よりちょっと上手なだけで、基本的な学力も常識もない・・・そしてお友だちも・・・」
ちおり「それでアイドルやめちゃったの?」
顔を上げてちおりの方を向く乙奈「わたくしは、もう19です・・・最後の十代で一度でもいいから普通の高校生活をしたいんです・・・もう、あんな魑魅魍魎のいる芸能界に戻るなんてまっぴら・・・」
ちおり「でも、あの子たちの夢だよ?」
乙奈「そうですわね・・・」
ちおり「楽しいこともあったんじゃない?それを教えてあげたら?」
乙奈「・・・。」
ちおり「みんな先生のこと慕ってたよ。」
乙奈「・・・そうね・・・先生は・・・生徒の力になるべきですわね・・・
ちおりちゃん・・・手伝ってくださる?」
微笑むちおり「ともだちだもん!」

『青春アタック』脚本⑤一騎当千

体育館裏
病田「やめた方がいいです・・・」
海野「大丈夫、先生にブルマーは冗談ですよ・・・」
病田「ちが・・・本気であの大会で優勝する気ですか・・・?」
海野「ま・・・まあ、出るからにはそこを目標にしたいですけど・・・」
病田「・・・正直、あの子たちで全国制覇できる見込みってあるんですか??」
海野「今の段階では・・・ないですけど・・・」
病田「大会なんか出ずに・・・みんなで楽しくバレーをしているだけじゃだめなの・・・?
確かに美帆子ちゃんの技術はプロ並みだし・・・優しくて指導が上手だから・・・
無名の織戸高校でも全国に通用するチームにしてしまった・・・
その結果・・・」
海野「学校側や保護者も介入してきて、練習が厳しくなり、バレーを楽しむ感じではなくなりました・・・
でも・・・勝つことと楽しむことは両立できるはずです・・・」
チラシを眺める病田「・・・いつから学校の部活動はお金のためにやるようになっちゃったんだろう・・・」
海野「その件ですけど・・・もし優勝したら、賞金は学校と花原さんの借金に充ててください。私は高校最後の年にバレーができただけで十分です。これで、心置きなくピーナツ農園に就職できる・・・」
病田「美帆子ちゃん・・・」
海野「でも・・・私はまだ高校生です・・・誰もが一生で一度しかなれない・・・高校生なんだ・・・」
病田「わかりました・・・でも、くれぐれも無理はしないでね・・・
学校の借金のことなんか考えなくていいから・・・」
体育館の中に目をやる海野「大丈夫です・・・あのメンバーは全員修羅場をくぐった経験があります。
花原さんはマッドサイエンティストで逮捕歴があるし、乙奈さんは元アイドルで芸能界の闇を知っている・・・ブーちゃんは厳しい料理人の修業を積んでいるし・・・なにより生原さんは・・・
文字通りの雑草魂・・・
この平成の日本で社会的な支援を一切受けずにたった一人で生き延びてきた・・・
彼女たちは・・・きっとどんな女子高生よりもタフですよ。」
体育館の中からスパイクの轟音が轟く。
花原「よけんな山村!」
病田に海野が微笑む「ね。」

体育館に戻っていく海野を見送る病田
「高校生には一生で一度しかなれない・・・か・・・」



夜。
海野「今日の練習はこれくらいにしよう!みんなお疲れ様!」
コートに倒れている5人。
海野「・・・最初にしてはハードにやっちゃったかな・・・」
花原「・・・マッスル、よく耐えたわね・・・」
山村「痛みとは生きている証拠よ・・・」

帰り道
海野「今日はよく休んでね!」
一同「ばいばーい」
生原「いや~おもしろかったね~」
花原「あんなに体を動かしたの生まれて初めてよ・・・」
乙奈「わたくしもずいぶん久しぶりですわ」
山村「生原さん、6人目のメンバーはどうするんだ?」
花原「なんとかしなさいよーこんだけ練習してても出れないんだから」
生原「う~ん・・・あ!そうだ!!」
花原「なんか思いついたの?」
生原「青春アタックが始まっちゃう!!」
山村「なんと!!学友の諸君さらば!!」
ジェットのように帰宅する山村。
生原「電気屋行かなきゃ!花原さん早く!」
花原「・・・・・・」
乙奈「わたくしたちは、道がこちらですので、ごゆっくり~」

電気屋の前
「閉店しました」の張り紙がシャッターについている。
生原「・・・!!」
花原「あら・・・残念だったわね・・・」
号泣する生原「う・・・うわああああああああああ!!!!!」
花原「そ・・・そんな嗚咽するようなことか!?」
ゲロをする生原「おろおろおろ・・・」
花原「きたねえ・・・!」



ボロアパートの裸電球を付ける花原。
狭い部屋は試験管と借金の督促状と刺激臭で溢れている。
ダイヤル式のテレビをつけてやる花原「あ・・・あれ・・・?」
テレビを蹴飛ばす。
「ほら・・・写った・・・」
『青春アタック』のOPが始まる。
生原「放送に間に合った~!」
花原「これか・・・下手くそな絵のアニメだなあ・・・」
真剣な生原「静かにして!」
花原「失礼・・・」
ブラウン管の中では、しろったま子たちが木材を担いで特訓をしている。
生原「あれ、明日やろうよ」
花原「あれが仮にスギ材でも1本あたり約750kgよ・・・
あれを3本も持ち上げるなら、種目をウエイトリフティングに変更したほうがいいわ・・・メダルが取れるから。」
生原「花原さんって物知り~!」
花原「ありがと・・・」
生原「今週も面白かった~!花原さんちはテレビがあって羨ましいな~」
花原「こんな借金まみれの生活のどこが羨ましいのよ・・・」
生原「でも家にカラーテレビがあるよ?」
微笑む花原「あんたは幸せもんね・・・」
生原「私の家は主にダンボールで出来ているからクオリティの面でちょっと・・・」
昔の花原の写真を見つけるちおり。母親と写っている。
生原「これ花原さん?」
花原「あ・・・」
生原「うわーかわいー!」
花原「・・・これでも昔はフランス人形みたいで可愛いって言われたのよ・・・」
生原「こんな小さなお子さんいたんだね!」
花原「・・・おい、そっちは私の母さんだ・・・」
生原「花原さんに似て美人だね!お母さんはおしごと・・・?」
花原「・・・まあ、そんなところ・・・」
生原「なんの仕事してるの?」
花原「・・・借金を何とかするって言ってベーリング海に行ってから何年も戻ってこない・・・
きっと海に落ちて死んだのよ・・・
見ず知らずの人の借金の連帯保証人になんかなって・・・本当にバカみたい・・・」
生原「優しい人だね!」
涙目になる花原「・・・うん・・・優しいの・・・」
生原「きっと帰ってくるよ!たくさんカニを持ってきて。」



夜の公園
生原「じゃあちおり帰るね!今夜はおじゃましました。」
花原「本当にダンボールの家に帰るの?」
生原「割とあったかいよ!」
花原「ちょっと見に行ってもいい・・・?
建築学の素養がある私がもっと快適で安全な家を作ってあげるよ・・・」
生原「本当に!?うれし~」
アパートから支柱とモルタルを持ってくる花原「・・・で、あんたの家はどこにあるの・・・?」
指を指す生原「あっちだよ!」
指を指す方角が明るい。
花原「・・・なんか燃えてない・・・?」



ちおりの家が燃えている。
かけよる生原「ちょうろう!」
ホームレスの長老「おじょう、逃げるんじゃ・・・!ホームレス狩りじゃ・・・!」
凶暴なビジネスマン「ひゃっはー!会社をリストラされて家族も財産も何もかも失ったぜ~!
もう何も怖くねえ!野郎ども、金目のもの以外は全て燃やせ~!汚物は消毒じゃー!」
火炎瓶を投げつけるサラリーマンやリクルートスーツの就活生たち。
「わははは燃えろ燃えろ!就職先がどこにもねえ、この絶望感をくらえ!」
花原「・・・年の瀬になると毎年湧いて出てくるバブル崩壊の犠牲者だわ・・・
警察と消防に連絡しないと・・・!」
燃える家に入ろうとする生原「海野さんからもらった私の宝物が・・・!」
生原を慌ててとめる花原「何考えてるのよ!焼け死ぬわよ!」
泣き叫ぶ生原「うわあああああん!私のバレーボールが~!!」
花原「そんなもん諦めなさい・・・!」
生原「おろおろおろ・・・!」
花原「吐くんじゃない!!ええい、わかった・・・!」
自分が着ているダッフルコートにモルタルを塗ったくる花原
「バレーボールね?」
そのまま燃える生原の家に突っ込んでいく。
生原「花原さん・・・!!」
炎の中に消える花原
生原「花原さ~ん!」
生原に気付くサラリーマン「なんだ、この汚ねえガキは?」
就活生「小学生のくせにセーラー服なんか着てやがる」
サラリーマン「待て、高校の制服は高値で売れるぞ!身ぐるみをはげ!」
ホームレス狩りに取り押さえられる生原「にゃ~セーラー服を脱がさないで~」

その時、炎の中から勢いよくバレーボールのスパイクが飛んできて、ホームレス狩りの頭部にぶち当たる。
眼鏡が割れて倒れるリストラサラリーマン。
ホームレス狩り「業務課長・・・!」
振り返ると、炎の中からボロボロの花原が立っている。
花原「・・・わ・・・私の友だちに何をするんだ!!!」
生原「花原さん助けて・・・!」
「思い上がるな・・・希望がなくて苦しいのはお前らだけじゃないんだ~!!」
そう叫ぶと、火の粉をまき散らしながら突っ込んでくる花原。
逃げていくホームレス狩り「業務課長がやられた・・・!撤退だ・・・!」
花原の真っ黒になったコートを脱がせてやる生原「花原さん・・・!」
バレーボールを拾う花原「ほら・・・あなたの宝物・・・」
涙を流す生原「花原さん・・・大好き・・・」
力なく倒れる花原「セメントは燃えにくいだけで・・・燃える・・・」



中学生時代の記憶
母親と一緒に中学校から帰る花原
母親「わかってるわ・・・めぐなちゃんからじゃないんでしょ・・・?」
花原「あいつら・・・母さんを馬鹿にしたの・・・国会議員の愛人だって・・・」
微笑む母親「・・・もしそうだったら、もう少しいい暮らしをしてる・・・」
手をつなぐ2人。
花原「・・・ねえ母さん・・・」
母親「なあに?」
花原「わたし・・・学校で友達ができたよ・・・」



花原「・・・はっ・・・!」
意識が戻る。あたりを見渡すと、保健室であることに気付く。
花原「保健室・・・?」
視線を下にやると、ベットにちおりが寄りかかって眠っている。
保健室の先生「一晩中あなたを心配してたわよん・・・いい友達がいたのね・・・
というか、あなたって友達がいたのね。」
花原「さくら先生・・・」
さくら先生は、ショートカットのボーイッシュな女性で白衣をだらしなく着ている。
さくら「まったく科学に強いわりに無茶したわね・・・
Ⅱ度の熱傷で感染症が怖かったけど・・・
科学研究部の冷蔵庫に飛び切りよく効く局所抗菌薬があってさ・・・
そのおかげで、やけど痕は残らないと思うよ。」
オーラルクリーナーのアンプルを取り出すさくら。
さくら「これを作ったやつに感謝ね。」
花原「・・・わたしだ。」
煙草に火をつけるさくら「どこで何の発明が役に立つかなんてわからないわね・・・
私は授業を持たないから偉そうなこと言えないけどさ、もっと自分に自信持っていいんじゃない?」
ちおりに目をやる花原。

2024年の目標

タツノオトシゴ.jpg
 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。このブログも15年目に突入!※無駄に長寿コンテンツ。

 今年は、まず30代がとうとう終わるので、健康で40代に突入したい。漫画を毎日描いていた20代は病気がちだったのだけど、30代でほとんど描かなくなってからは、一度も大きな病気をしていないという奇跡。コロナ禍も感染してないし。いや、気づかずに感染はしてたかもしれないけど発症してないし。

 次に、今年は朝の連続テレビ小説のようにちびちび書き進めている『青春アタック』を完結させる!しかし、スポーツものって漫画だとある程度長期連載ってイメージがあって、映画みたいにサクって終わるようなものじゃないなっていう。
 『80日間~』から自分の漫画脚本って映画の構成をイメージしてたんだけど、スポーツでそれやるとけっこうダイジェストっぽくなっちゃうなってことで、連ドラや大河ドラマみたいなイメージで制作してます。
 結局ひとの親になって思うのは、日本っていうのは若い世代に金をかけない国だよなっていうこと。で、もしバブル崩壊で本当に日本が経済的に崩壊したら、まずまっさきに切り捨てられるのは子どもたちなんじゃないかっていうコンセプトで、世界観のバックボーンを掘り下げてみたんだ。
 もともと、社会に見放された役たたずの動物たちが集まって一旗揚げようとする『ブレーメンの音楽隊』をイメージしてたっていうのもあるしね。ちおりがネコで、花原がロバで、海野がイヌ、みたいな。
 あとは、『モンモンモン』みたいに、一人ずつ仲間が増えていくみたいにしようとも思ったんだけど(なので主要キャラにクラスを担当させた)、それをやるといつまでたってもバレーボールができないのでやめた。
 しかし、部活動て学校にとっちゃ超負担だからな。時代の流れでなくなっていくと思う。昔は学校で友達と放課後スポーツをやったりして遊べたんだよって思い出話になりそう。そういう青春を謳歌する場が消えちゃうってのもさみしいけど、学校の先生の人数も給料も上げないのなら仕方がない。

 3つめは、メダルゲームのメダルをせめて50万枚くらいに増やす。結局、ハイベットしても今の店長はでかい当たりを出さないということを90万枚以上使って学習したので、今後もローベットで遊び続けちびちびメダルを抜いていけば、意外と達成できるんじゃないか。もう20万枚目前だしね。おそらく、10万枚あれば極悪設定のフォーチュントリニティも安心して遊べそうなんだけど、一度7000枚使ってもステーションチャレンジ突破できないことがあったからね。油断ならない。
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