11.キュヴィエの絶滅説

 ラマルクが博物館で研究をしている時、ドイツでは一人の学生がリンネの分類学の本に感動していた。
 ラマルクの永遠のライバル、ジョルジュ・キュヴィエである。社会人になったキュヴィエは貴族の家で家庭教師をしながら化石の研究にいそしんだ。
 そしてキュヴィエは古生物学者としてのキャリアを積んでいった。

 彼はリンネから学んだ分類学をさらに発展、古生物学に応用。生物の分類にかけて彼の右に出る者はいなかった。
 なにしろ時の権力者ナポレオンもキュヴィエの頭脳を信頼して莫大な権力を彼に与えていたし、ナポレオン失脚後も王室は彼を上院議員として迎えた。
 キュヴィエは化石オタクな医者が持ってきた、最初に見つかったとされる恐竜のひとつ「イグアノドン」の歯の化石をサイの歯と間違えたようだが、それでも古い地層には現在は生息していない原始的な動植物の化石が見つかることに注目していた。
 こんなキレ者でクールなキュヴィエを、何とかギャフンといわせたい!と思った学生が、角のついた悪魔の格好をしてキュヴィエが眠る寝室に忍び込んだという話がある。しかしキュヴィエは「角のついた動物に肉食動物はいない」とだけ言って再び寝てしまった・・・

 そして1795年・・・パリ自然史博物館でラマルクとキュヴィエは出会うことになる・・・

 永遠のライバル、ラマルクとキュヴィエ・・・彼らには皮肉な共通点がある。それはラマルクの「進化」もキュヴィエの「絶滅」も発想は見事だったがそのメカニズムの説明があんがいザックリだったということだ。

 とりあえずキュヴィエの「絶滅」から説明しよう。

 個別創造論においては神がつくった「生物」は完璧で、その種の数は過去も未来も増減しないということだった。
 しかし古生物学者のキュヴィエが研究した動物の化石は、どう考えても現在存在しない動物が含まれていた。
 それはマンモスであり、中生代の海のギャング、海生爬虫類のモササウルスであり、恐竜イグアノドンだった。
 個別創造説に固執する当時の研究者はマンモスもモササウルスも、生きたものがまだ発見されてないだけで世界中を探しまわればロストワールドがきっと見つかると言う、夢はあるものの苦しい言い訳をしていた。

 しかしキュヴィエは違った。その化石は大昔に滅んだ動物の痕跡であり、生物の種の数は絶滅によって減るのだと発表したのである。
 当時の価値観にしてみれば、これは神の完全性を根底から覆す暴論である。当然学会では大きな反響を読んだ。
 しかしキュヴィエは絶滅のメカニズムをこのように説明することによって批判を回避した。

聖書を読んでごらんなさい。そこには神が起こされた「ノアの大洪水」が書かれていますね。絶滅とはこの「大洪水」に他なりません。バベルの塔と言い、大都市ソドムとゴモラと言い、神は定期的に生物たちに裁きを加えるのです。

 つまり神の裁きによって一匹残らず死に絶えてしまったもの。それが化石でのみ発見される絶滅動物であるとキュヴィエは説明したのである。

10.進化論の父ラマルク

 まずはとりあえず「進化論」を考えたラマルクから詳しく紹介していこう。ここで「あれっ?進化論ってダーウィンが考えたんじゃないの??」と混乱する人もいるだろう。

 はっきり言ってそれは違う。進化論をはじめに考えたのはラマルクで、ダーウィンは進化がどのようにして起きるか、そのメカニズムの合理的なモデル「自然選択説」を考えただけにすぎない。
 この自然選択説は今なお進化のドグマとして輝いているが、その偉大な功績もラマルクが進化という枠組みを考えてくれたからこそである。
 もっと言えばラマルクが1809年に『動物哲学』を発表する以前にも、生物進化にたどり着いていた人はいただろう。例えばラマルクの師匠ビュフォンがそれだ。

 しかし個別創造説が常識で、世界は水、火、風、土の4大元素でできていると信じられていた当時のフランスで「進化」を堂々と発表した、ラマルクの勇気リンリン具合はアンパンマン並だ。

 ではここで、ざっとラマルクの人生を追ってみよう。

 ラマルクは1744年に北フランスの貴族の家に生まれた(BGMは甲子園球児の紹介のテーマで)。親の影響で神学をバッチリ学んだラマルクは、父の死をきっかけに自分の夢だった軍人を目指す。
 「オーストリア、フランス、ロシア」対「プロシア、イギリス」で勃発した「七年戦争」ではイギリスに劣勢を強いられるものの、「MOTHER2」の「フライングマン」の如くよく戦い将校に昇進する話もあったという。
 しかし病気に倒れたラマルクは軍を退役。パリに行って今度は医者を目指す。

 知的好奇心旺盛なラマルクは医学を学びながら気象学、植物学も学び、彼の処女作『フランス植物誌』がビュフォンの評価を得て、ラマルクは科学アカデミーのメンバーとなった。
 ラマルクの恩師ビュフォンは彼を王室直属の植物学者に推薦。ヨーロッパ各地を飛び回り王立陳列館(革命後のパリ自然史博物館)に植物の標本を集めた。
 この時フランス革命がおこり、貴族の窮屈な暮しにいい思い出のなかったラマルクは貴族の称号を自ら捨ててしまった。

 とはいえ1793年にはラマルクはパリ自然史博物館の動物学教授に任命。着々とキャリアを重ねていった。ここでラマルクは植物ではなく無脊椎動物を研究、その分類に大きく貢献した。この経験が『動物哲学』につながったことは言うまでもない。

9.ラマルクVSキュヴィエ因縁の対決

 そのスターとは言うまでもない。ジャン・ラマルク(1744~1829)←本名が長い・・・wと、ジョルジュ・キュヴィエ(1769~1832)である。
 実はキュヴィエはラマルクの25歳年下なのだが、彼らの論戦は熾烈なもので年齢差などお構いなしだった。

evo1.jpg
 さてこのひどい絵を見ていただきたい。これは私が中学二年生の頃に制作した漫画で二人の論争の様子を描いた1コマである。今見ると本当に絵がヘタだが、そこは目をつむってもらいたい。
 上のコマがキュヴィエ、下のコマで指をさしているのがラマルクで、彼が怒っているのは「なんで慈悲深い神様が自分の作った生物を自ら定期的に皆殺し(=絶滅)にするのよ?」という指摘に対して、聖書を信じるキュヴィエが「し~らない」とおちゃらけたからである。

 そう、キュヴィエは生物史の超重要な概念絶滅を考えた天才で、ラマルクは進化を考えた、これまた偉人なのだ。

8.18世紀に“世界”は広がった

 私の高校は別にミッションスクールとかではなかったが、なぜかタダで聖書がもらえた。
 「わ~いラッキー」と最初は思ったが、これがオチのない随筆を見せられているようで、読むのは苦痛だった。そして読破を断念した本の一つとなった。おそらくあの本は相当の信仰心がなければ読めないのだと思う。
 よく「マタイの福音書第何節・・・」とスラスラ暗記している人がいるが、あれはカッコいい(なんて俗っぽいやつ)。

 ひとつ重要だったのが、聖書では世界の歴史は4004年であると考えられていたことだ。ちょっとどういう根拠か忘れたけど、現在では、宇宙の歴史が150~138億年、地球の歴史は46億年、生命の歴史は38億年と考えられており、そう考えると4004年は一瞬と言うほど短い。
 さすが神様である。世界を猛スピードで創造されたのだろう。

 しかしこの「世界4004年説」はキリスト教的価値観がばっちり幅を利かせていた18世紀においても「ちょっと無理があるよなあ・・・」と疑い出された。
 それもフランスの大物博物学者「ジョルジュ・ビュフォン」によって。彼は植物と数学を愛した学者だが、決して無神論者ではなかった。
 とはいえ、地球上にある鉄鉱石を観察すると、どう考えても地球が出来て4004年では熱々状態になっているはずなので、もう少し長い70000年くらいなんじゃない?と考えた。
 これでも短いよ!というのは私たちが今の科学を知っているからで、当時としては4004年から70000年への世界の歴史のスケールアップは相当インパクトがあったに違いない。

 植物好きのビュフォンは世界中の花々を自身が園長を務める王立植物園に集めた。ビュフォンはそこで世界中の変わった花々を観察し「生物の多様性」に、そして植物の交雑によって「生物の形質の可塑性(かそせい=変わるってこと)」にもしかしたら気付いていたのかもしれない。
 しかし彼はとうとう「進化」という発想にはたどり着かなかった。もしくは発想にたどり着いていても15世紀のダ・ヴィンチのようにあえて沈黙したのかもしれないが。

 とはいえ、ビュフォンはこの植物園に、進化論の論争戦を語る上でかかせない大スターの両者を雇い入れる。

7.リンネの分類学は個別創造説の賜物

 そして時は18世紀・・・ダ・ヴィンチが亡くなった200年後に産声を上げたのが、現在も用いられる分類学の父「カール・フォン・リンネ」である。

リンネの分類学は間違いなく「個別創造説」に基づいて考えられた概念である。

 なぜならば生物に名前をつけ分類をする上で重要なのが種の概念であるが、この動物は「キリン」と言う種・・・この植物は「エンドウ」という種・・・と仲間分けをする上では種は変わらないでいてくれた方が都合がいい。
 もしシマウマと名前をつけた種にあたる動物が、明日にはキリンになっていたらリンネは絶句。家に数週間は引きこもるに違いない。

 名前を付けたそばから生物が変わるのでは、彼の分類法では対応がしきれない。「リンネ先生、こいつちょっとキリンになりかけてるんすけど、こいつはキリンなんすか?シマウマなんすか?」と聞かれた時、リンネはどう答えたのだろうか・・・

 リンネの分類の世界では、生物の種の数は世界が創世された時点で決められていて、いずれ全ての生物の種の数と名前が解るはずだと考えていた。
 生物学者が発見する生物の種の数は、神が最初に創造した種の数と=(イコール)となるはずだ、というわけだ。

 しかし哀しいことにリンネの説は少し楽観すぎた。18世紀になると、植物の交雑が盛んに行われた。
 これは農業に携わる人なら当たり前の話だが、違った種類の植物を交雑すると、先代とは異なる雑種が生まれる。
 雑種は新しい種なのか??それを種だと言うならば、神が最初に作った種の数から一つ増えることになってしまう。
 リンネを悩ませたのは、そのような現実だった・・・
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