『ラストパーティ』脚本⑱

エゼルバルド城作戦会議室
ベオウルフ「お前は勢力が二倍以上の敵に勝てるというんだな・・・!」
ゼリーマン「大勢力は指揮系統も結束も弱い。情報を攪乱すれば簡単につぶせる。」
ベオウルフ「軍を動かしたこともないのに偉そうに・・・」
ゼリーマン「スライムってだけで軍師採用試験の受験資格がなかったからな・・・」
ヨシヒコ「受けようとしたのか・・・」
ゼリーマン「地図を見ろ。ガリア軍は南から進軍してくる。
キャッスルヴァニア地方の北はハイランド・・・そこを超えたら王都だ。
城内の領民は2000人・・・こいつらをまとめてハイランド地方に移住させる。」
ベオウルフ「それこそ愚策・・・!民間人の亀の歩みでアキレスのようなガリア軍の機動歩兵部隊からは逃げ切れまい・・・!」
ゼリーマン「その時間稼ぎをあんたらがしろ。」
ベオウルフ「我々騎士が民の盾になれと・・・?」
ゼリーマン「そういうの好きだろう?」
兵士「しかし、敗れたらどうなる?エゼルバルドでガリア軍は物資を補給し、次は王都を狙うぞ」
ゼリーマン「そこだ。避難民に必要最低限の物資を持たせたら、エゼルバルド城を焼いちまえ。
ここで略奪できると思ったガリア軍は落胆するだろう。
さらに、北のアルフレド城とイケニ城で狼煙を上げろ。あたりの城塞都市を全て焼いて逃亡したと思わせるんだ。
するとどうなる?ガリア軍内部に不平不満がたまり、士気は下がり、バン!内部から崩壊だ。
もともとこいつらはならず者集団。仲間意識なんかねえ。
将軍のジルドレイを殺したものにTボーンステーキスペシャルディナーセットを振舞うと情報を流せば、喜んで反逆を起こすさ・・・」
ベオウルフ「どう思う、ヴィンツァーくん・・・」
ヴィンツァー「民間人は助かるが・・・君ら騎士団は良くて壊滅、悪くて全滅だ・・・」
ゼリーマン「もうひとつ手があるぜ・・・それはお前ら騎士団が領民を見捨てて、とっとと逃げちまうことだ。」
ヨシヒコ「そうなると、敵は王都まで進軍しないか?」
ゼリーマン「だいじょうぶです。その頃にはハイランドは冬。
補給路を伸ばしすぎて全員凍え死にます。
ジルドレイが利口なら、そうなる前に兵を引き上げるはずだ。」
兵士「・・・そっちにしませんか?」
ベオウルフ「でも、カッコ悪くないかね・・・」
兵士「団長、考えても見てください。
領民2000人と騎士800人の命どちらが国にとって重要ですか?」
ベオウルフ「確かに・・・ここで精鋭である我々がまとめて討ち死にしたらこの戦争は敗北・・・
断腸の思いだが領民には犠牲になってもらうとするか・・・」
シルビア「なんか、クソみたいな結論が出たわよ・・・」
ベオウルフ「礼を言うスライム。お前のおかげで決心がついた。」
ゼリーマン「よかったな。」
兵士「それでは全軍撤収!!」
作戦室を片付けてぞろぞろ出ていく騎士団。

ヨシヒコ「信じられない・・・市民を見捨てて軍隊が逃げ出したぞ・・・一体どうなるんだ?」
ゼリーマン「2000人の市民は皆殺しにされます。」
シルビア「それにあたしたちは含まれるの?」
ゼリーマン「あの馬鹿どもと一緒に逃げれば生き延びられるぜ?
封鎖されていた城門も解禁されるだろうしな。」
ヨシヒコ「虐殺を防げないのか??」
ゼリーマン「旦那・・・我々の目的は奥様の奪還でしょう?
こんなくだらねえ戦争に首を突っ込むことはないっすよ。とっとと出立しましょう。」
ヨシヒコ「しかし・・・キミが言ったように市民を北のハイランドに逃せば・・・」
ゼリーマン「ガリア軍を足止めする奴がいない。」
ヨシヒコ「ぼくらでなんとかできないのか・・・」
ゼリーマン「たった4人で??自殺行為だ。」
ヨシヒコ「だが猶予は6日間ある。」
ゼリーマン「もしかして・・・3000のガリア兵と戦うとか言いませんよね!?」
微笑むヨシヒコ「きみは最強のモンスターの王なんだろ?
だいじょうぶ・・・ぼくに考えがあるんだ・・・」
ゼリーマン「ちょ・・・!」
ヴィンツァー「・・・ヨシヒコさん・・・あなたは私の師匠に似ている・・・
シドニア・ウィンロード卿は、私財を投げ打ってまで自分の領民を守ろうとしていた・・・
ぼくは彼に何を教わったんだろうな・・・」
ヨシヒコ「ヴィンツァーさん・・・」
ヨシヒコに膝まづくヴィンツァー「サー・イズミ・・・私はあなたに従います。
どうぞご命令を・・・」
シルビア「あたしも簡単な魔法と、怪我の手当ならできます・・・!
ヨシヒコさん、みんなを助けてあげて・・・!」
ゼリーマン「ま、まあ・・・領主が出て行ったから、これでこの城を守れば、オレたちは一国一城の主か・・・旦那の作戦を聞きましょう・・・」
ヨシヒコ「キミは覚えているだろう?修道院でぼくが書いた手紙のことを・・・」
ゼリーマン「向こうからの加勢は期待できないのでは・・・?」
ヨシヒコ「ドリームワールドにはひとつだけ“裏技”があるんだ・・・」



ドリームワールド各リージョン転送ゲート管理室
椅子の背もたれに寄りかかって、さぼってスマホゲームをしている管理室の主。
ドリームワールド運営本部ゲートキーパー部長:長門守
「くそったれが~!!千連ガチャ引いて、SSRがゼロとはどういうことだこの野郎!」
スマホを投げつける長門「コマキの野郎・・・くそみてえなゲームばっかり作りやがって・・・
100万も課金しちまった・・・ああ、ばかばかしい・・・
しかし、泉と小田は帰還する気配がないな・・・死んだな。」
機械室のような部屋に入ってくる湯浅「半分あたりで半分はずれだ・・・」
長門「・・・こんな窓際部署に人が来るとは珍しい・・・ようこそ我が城へ。」
湯浅「ドリームワールドのすべての転送ゲートは君が管理していると聞いたが・・・」
長門「その通り。転送先をスイッチングするだけの誰でもできる退屈な仕事だ・・・
こんなことをするために私は量子力学を学んだわけじゃない・・・」
湯浅「スイッチング?」
長門「このパークの転送ゲートはすべて同じものを使ってるんですよ。
転送先を変えているだけでね。」
湯浅「では・・・例えばマジックキングダムの転送ゲートの行き先をジャングルツアーズに変えることは・・・」
長門「スイッチ一つで可能だ。しかし、何のために?
ドリームワールド開園目前にそんなことをすれば混乱しかないだろう。」
湯浅「実は、マジックキングダムの泉さんから手紙が届いた・・・」
手紙を受け取る長門「拝見。」
湯浅「君はこの会社に不満を持っていると聞いた。
結城さんはもう頼りにならない。君の力を貸してほしい・・・」
手紙を読んでニヤリと笑う長門「くくく・・・泉め・・・面白いことを考えたものだ・・・」
湯浅「頼めるかね?」
長門「考えておこう・・・」
湯浅「え?」
長門「ケンブリッジ大学理学部卒、元ロスアラモス研究所主任技術者のこの私を見くびってもらっては困る・・・ゲートの設定を無断で変更することはコマキ社の懲戒処分の対象になるのだ。
この仕事・・・気が狂うくらい退屈だが手取りは悪くなくてね・・・」
湯浅「ここで手を打たなければ、泉さんも姫川さんも死んでしまうぞ・・・!
実際に小田さんは惨殺されたそうだ・・・
これ以上死者が出たら、それこそテーマパークとして営業停止になる・・・!」
長門「この私にリスクを冒させるのならば、その見返りをご提示願いたい・・・」
湯浅「私の後任に君を選出する。それでどうかね。」
長門「大手ゲームメーカーGASEの専務の椅子を譲るというのか?」
湯浅「私はもう定年だ。会社を守って勇退できるなら本望だ。」
長門「悪くねえな。転送プログラムのバグで一時的に転送先が変更されたということにする。
オレは何も聞かなかったし、あんたは何も知らなかった・・・これでいいな?」



作戦会議室には4人しかいない。
ゼリーマン「異世界から異世界へ行く?」
バックパックから「ドリームワールド」の園内案内図を取り出すヨシヒコ。
「実は・・・転送ゲートは周波数を変えるだけでほかの異世界につなぐことができる・・・
ぼくの世界には英雄はいないが・・・ほかの世界にはいる・・・
ヴィンツァー卿・・・あなたがかつて邪神と戦った時と同じように精鋭を集めるんだ。」
ヴィンツァー「あれはゼリーマンが集めてくれただけで・・・」
シルビア「そうなの?」
ゼリーマン「確かに面白いアイディアだが・・・アテはあるんですか?
ニャルラト・カーンと戦う時は、4人集めるのに1年かかった。」
ヨシヒコ「ああ・・・ドリームワールドの世界のうち、4つは僕が開拓した・・・
頭を下げて営業をし・・・相手との信頼を築いたつもりだ。
まず、格闘ゲームエリアの「九龍」・・・ここにはスパルタン草薙という格闘家がいる。
常に強いものと拳を交えることしか考えていないストイックな人物で、対戦相手に魔王を紹介すると言ったら二つ返事で協力するだろう・・・
次に、アクションゲームエリアの「ジャングルツアーズ」・・・ここには、どんな猛獣も仕留める凄腕のハンターがいる。名前はローランド・ペルト・・・・ドラゴンのトロフィーを屋敷に飾れるとなればハンターとしての血が騒ぐに違いない・・・
3つめ。シューティングゲームエリアの「メガ・サターン」・・・この世界は僕らの世界よりもずっとテクノロジーが進んでいて・・・星間戦争すら安全な、ある種のスポーツになっている・・・
戦闘宇宙船を一機でも借りれれば、魔王の居城まではひとっ飛びだ。」
ゼリーマン「戦闘宇宙船??」
ヨシヒコ「空が飛べる乗り物だよ。」
驚くシルビア「そんなことが可能なの!?」
ヨシヒコ「僕らにとってみれば、魔法がある方が驚きだけど・・・
宇宙船のレンタルは、エースパイロットのルナ・マイヤースに頭を下げればもしかしたら・・・」
ヴィンツァー「4つめは・・・?」
ヨシヒコ「ここです。」
シルビア「じゃあ結局3人しか増えないの・・・?」
ゼリーマン「ほかにも世界はあるんでしょう??」
ヨシヒコ「ああ・・・僕は知らないが、サウンドノベルホラーゲームエリアの「ホーンテッドレジデンス」と、プライズ・メダルゲームエリアの「ビリオンパラダイス」という新エリアが・・・」
ゼリーマン「じゃあ、ここもついでにリクルートしましょう。」
ヴィンツァー「戦闘要員になるかなあ・・・」
ゼリーマン「この名探偵、黒神志郎はいい軍師になりそうだ。」
シルビア「軍師はあなたじゃないの?」
ゼリーマン「あんなモエ、出まかせに決まってるだろう?」
シルビア「あきれた・・・」
ヴィンツァー「シルビア、これがゼリーマンだ。」
ヨシヒコ「それでは、敵が攻めてくるまでに5つの世界に手分けして行き、最強の戦士を連れてくる・・・異論は?」
シルビア「あたしは大賛成!こういう冒険小さい頃からずっと憧れてたの・・・!」
ゼリーマン「オレにとっちゃどんな世界も、この世界よりはマシだぜ。」
ヨシヒコ「ヴィンツァー卿・・・?」
ヴィンツァー「 ぼくは人見知りする性格なんだけど・・・
みんなを殺されるよりはましだ・・・頑張ります。」
ヨシヒコ「・・・では各々方、ぬかりなく。」

『ラストパーティ』脚本⑰

薄暗い書斎
ひとりの修道士風の学者が本を執筆している。

ゴート大学主席司祭ローワン・ウイリアム
「私が勇者スナイデル・ヴィンツァーと出会った1370年の秋・・・まさかヴィンツァー卿の最後にして最大の冒険が始まるとは誰が予期したであろうか。
この偉大な『ラストパーティ』の物語を始める前に、我が世界を取り巻く情勢について簡単にまとめておきたい。

ブリジッド王国とガリア帝国の全面戦争が開始されたきっかけは、同じ年の春のことであった。
ストレイシープ村、クヌート砦、エゼルバルド城といったブリジッド王国領のいくつかが、突如異世界から襲来したコマキ国によって制圧されたのである。
当時、ブリジッドとガリアは王位継承をめぐって緊張関係が続いており、この奇襲攻撃をブリジッド国王のライオンハーテドは、ガリア帝国によるものだと断定し、宣戦布告。
対するガリア帝国の皇帝、ハデス・モルドレッドも、この奇襲攻撃はブリジッドによるでっち上げであるとして徹底抗戦・・・神都ハルティロードの大神官イノストランケヴィア3世を捕囚し、聖地を大陸内のパーガトリーに移転してしまった・・・

王位継承権を持つイノストランケヴィアを奪われたライオンハーテドは勇敢にも王自ら先陣を切ってガリア大陸に進軍・・・しかし戦に敗れハデス城に人質にされてしまった。
これにより戦況は一気にガリア帝国が優勢となり、ガリア軍はブリジッド島に上陸・・・
数々の砦を落とし、村を焼き討ち・・・略奪行為を繰り返した・・・
その中には、異世界が制圧したストレイシープ村も含まれていた・・・
このとき、ガリア軍は多くの侵略的外来モンスターを送り込んだという。
しかし、これには不可解な点がある。
ガリア大陸のモンスターは全て、最強の剣士シドニア・ウィンロードによって討伐され絶滅したはずである。ハデスは一体どこからモンスターを召喚したのか?
そもそも、この戦争を引き起こした異世界のコマキという国家の目的は何だったのか?
いずれにせよ、強大な召喚獣、オディオサウルスによってコマキ国が制圧したストレイシープ村は壊滅し、コマキ国は地図から姿を消したのである。

しかし、コマキ国は最後に一人の勇敢な戦士を召喚した。
彼こそはサー・イズミ・ムツヒコ・・・トウキョウトチュウオウクを所領とするキギョウ戦士で、爵位はシュニン。彼の目的は唯一つ・・・オディオサウルスによってさらわれた最愛のプリンセス・・・レディ・ヒメカワを救出すること・・・
その崇高な自己犠牲の精神に胸を打たれた、勇者ヴィンツァーはサー・イズミに忠誠を誓い彼とともに最後の冒険に旅立つのであった・・・
さて、サー・イズミが勇者の協力を得たのと同じ頃、エゼルバルド城内ではガリア軍の襲来に備えて、王立騎士団長ベオウルフ・レイセオンが作戦会議を開いていた――」



エゼルバルド城内
作戦室へかけてくる兵士「伝令!クヌート砦も陥落!
敵軍の士気は高く、6日後にはエゼルバルド城に到達予定!」
キャッスルヴァニア地方の地形図を眺めるベオウルフ
「ホーン平原での敗北でマイヤー砦を奪われたのが致命的だったか・・・
敵軍の数は?」
兵士「3000!」
ベオウルフ「ふむ・・・半分以上差し向けてきたか・・・
しかし、それだけの人数の兵糧を長期間確保するのは不可能・・・
じきに季節は秋・・・ここをしのげば引き上げるか・・・」
兵士「実際ガリア軍の食料不足は深刻で、近隣の村を手当たり次第略奪しています・・・!」
ベオウルフ「まるでイナゴだな・・・
短期決戦でエゼルバルドを陥落させ食い扶持を凌ぐつもりか・・・」
兵士「ベオウルフ騎士団長いかがいたしますか?」
ベオウルフ「こちらの兵力は800・・・連中はカタパルトを上陸させていた・・・あれで城内に火炎弾を投げられたら防壁は意味をなすまい・・・
6日の猶予があるならば・・・この城を捨て王都まで兵を引くことも可能だが・・・
民間人を見捨てることになろう・・・
ふっ、騎士の名誉をかけて迎え撃つのも一興か・・・」
兵士「・・・え?」
ベオウルフ「・・・え??」
兵士「いや・・・逃げないんですか?相手の兵力は二倍以上ですよ?カタパルトも持ってるし・・・」
ベオウルフ「・・・ちょっと考えさせてくれ。」
兵士「逃げるなら今しかないですよ!
あなた、いつもかっこうばっかりつけて勝機逃すじゃないですか・・・!
この前のホーン平原の戦いだって栄(ば)えるけど重くて使いにくいロングソードなんて選ぶから・・・」
ベオウルフ「陛下から賜った聖剣エクスカリバーだぞ?せっかくだから使ってあげないと・・・」
兵士「どうでもいいでしょそんなの!その聖剣が役たたずだったから負けたんじゃないですか!」
考え込んでしまうベオウルフ「う~ん・・・」
兵士(ダメだこの人・・・!この人自身は一騎当千でも軍を率いる才覚があまりにもない・・・!)
ベオウルフ「でも・・・赤壁の戦いでは10万の曹操軍に対し、孫権劉備軍は・・・」
兵士「うちに諸葛孔明がいますか?」
ベオウルフ「う~ん、心強い援軍がいればな・・・」
兵士2「伝令!ちょうど市民ホールでHEROCONが開催されています!
元勇者の皆さんに協力してもらえば・・・!」
ベオウルフ「でも、ランスロット卿もロビンフッド氏ももう、90・・・100・・・?だよ??
あの頃とはもう武器や戦術も違うしなあ・・・」
兵士2「騎士団長!僥倖です!
なんとあの伝説の勇者スナイデル・ヴィンツァーもサイン会をやっていたとの報告!」
兵士「それは誠か!団長、これは不幸中の幸いですぞ・・・!」
ベオウルフ「ただなあ・・・ヴィンツァーくんは確かに一騎当千だが、軍を率いる才覚がない・・・」
兵士「お前やん・・・」
ベオウルフ「・・・え?」
兵士「・・・え??」



エゼルバルド城メインゲート
門が封鎖され、行商人らを中心に人だかりができている。
ゼリーマン「おいおい!なんで跳ね橋が閉まってるんだよ!!」
衛兵「申し訳ありません、領主ベオウルフ様の命で、非常事態宣言が出されました!
城内のすべての人と物の移動を禁じます!」
ヨシヒコ「出れなくなったってことか・・・」
シルビア「入れなくもなったわ・・・」
ヴィンツァー「まいったな・・・最悪のタイミングで街に来てしまった・・・これは籠城戦だ・・・」
シルビア「なにそれ?」
ヴィンツァー「相手が飢えや寒さに負けて引き上げるまで城内でひたすら耐える。」
ゼリーマン「最悪の手だな。」
ヴィンツァー「理由を聞こう。」
ゼリーマン「オレたちは先日ガリア軍に襲われた。連中は周囲の村の連中を皆殺しにして食料を残らず奪っている。キャッスルヴァニアの村はいくつだ?100はあるだろ・・・すべての穀物生産量を合わせると・・・エゼルバルド城の備蓄を大きく凌ぐ。それにブリジッド島の南部海岸はすでにガリア軍が抑えている。兵站も確保されているってことだ。」
シルビア「今年は不作って聞いたけど・・・」
ゼリーマン「それはそれで地獄だぞ。困窮した軍隊ほど狂暴なものはねえ。
もうひとつ。連中は巨大なカタパルトを複数台陸揚げしている。」
ヨシヒコ「僕も見た。」
ゼリーマン「俺なら、火炎弾を壁の内側に投げ込んで火災を起こして放置するぜ。
これで自軍の犠牲はゼロで城を落とせる。
・・・ベオウルフとはどこのバカだ?」
ヴィンツァー「・・・さ・・・さあ・・・」
兵士がかけてくる「失礼します!ヴィンツァー卿!
我が主君ベオウルフ卿がエゼルバルド城本丸でお待ちです・・・!ご同行願えますか?」
ヴィンツァー「・・・・・・。」
兵士「大切な旧友をお忘れですか?ベオウルフ・レイセオン卿です・・・!
学生時代に一人の女性をめぐって決闘を行ない、互いに讃えあったとか・・・!」
ヴィンツァー「・・・いきます・・・」
ゼリーマン「おい・・・」



エゼルバルド城作戦会議室
兵士に案内されるヴィンツァー一行
両手を広げて歓迎するベオウルフ「いや~・・・久しぶりだねヴィンツァーくん・・・!」
ヴィンツァー「ご活躍のようで・・・」
ベオウルフ「戦嫌いの君にとっては不幸だが、ぼくにとっては幸いかな。
6日後にガリア軍がこの城を攻めてくる。
ぜひ、力を貸してほしい。金と地位のある美形の僕からのたっての願いだ・・・」
すると、いきなりゼリーマンを蹴とばすベオウルフ。
ゼリーマン「いてえな!何すんだ!」
ベオオルフ「誰だ!この城に汚れた魔物を入れたやつは!」
兵士「え?全身をゼリーで塗った潜入捜査官なんじゃないんですか?」
ベオウルフ「そんな奴いるわけないだろ!!」
ためらわず剣を抜くベオウルフ
「邪悪な魔物め、この私がところてんにしてくれるわ・・・!」
ヨシヒコ(この剣どこかで・・・
はっ、ホーン平原の戦場で怯える小田さんの首を飛ばした騎士だ・・・
この男、見かけは上品だが、暴力をためらわない殺戮者だ・・・!)
ベオウルフ「醜い怪物に生まれたことを後悔するがいい・・・!死ね!!」
ゼリーマンに剣を薙ぐベオウルフ。
その剣をヴィンツァーがとっさに受け止める。そして返す刀でベオウルフの剣を跳ね飛ばしてしまう。
ベオウルフ「何をするんだヴィンツァー!」
ヴィンツァー「ぼくは師匠にこう教わった・・・いたずらに命を奪う者に剣を握る資格はないと・・・
この魔物は善良だし知恵が回る・・・きっと役に立ってくれる・・・」
剣を拾って鞘に収めるベオウルフ
「くっ・・・今回は旧友の顔を立ててやる。しかし、二度とこの城には来るな。次は殺す・・・」
ゼリーマン「生きてるだけで罪ってか・・・」
ベオウルフ「おい、お前。口は達者なようだが、本当に賢いか証明してみろ。
この戦況お前ならどう戦う?」
ゼリーマン「遠慮なく言っていいのか?」
ベオウルフ「許す。何でも言いたまえ。」
シルビア「・・・言ってやれば?」
ヨシヒコ「うん・・・」
ゼリーマン「どこのバカが考えたのか知らんが、この期に及んで籠城をするなど最も愚かな選択だ。」
剣を抜こうとするベオウルフを慌てて止めるヴィンツァーとヨシヒコ「許すっていっただろ・・・!」

『ラストパーティ』登場人物(七英雄集結編)

 ついに2つのエピソードが交錯しました。最終章です。おそらく『青春アタック』のちょうど半分位の分量。映画にすると3本分くらいなのだろうか・・・

泉ヨシヒコ
異世界「マジックキングダム」に閉じ込められた妻を救出するためにやってきた、元コマキ社のゲームクリエイター。
かつての勇者ヴィンツァーに魔王討伐を依頼する人物。特技は名刺交換とデバッグ作業。

ゼリーマン
全スライムの英雄。戦闘力5のゴミだが、ザコからボスまでモンスターへの顔が広い。

スナイデル・ヴィンツァー
かつて世界を救った勇者。現在では特にやることがないので、村で引きこもっている。
実は人一倍臆病者で、誰も殺めたことがない。
しかし、剣術などのステータスは最強ランクを誇る。

シルビア・アシュレイ
風の魔法使い。世話焼きな女の子。世界を救う大冒険に憧れているが、ヴィンツァーには止められている。



姫川桃乃
ヨシヒコの元妻で、ドリームワールド内で行方不明になったテストプレイヤー。
コマキ社の井伊社長の娘で、彼女が転送先で行方不明になったため、社内は騒然とした。
慎重派のヨシヒコと正反対の行動派の女性。

結城秀夫
天才プロデューサー。破天荒かつ無責任で、採算や安全性を無視して、とにかく楽しいゲームだけを追求する男。彼だけは井伊社長の要求も突っぱねる。サングラスとアロハシャツがトレードマーク。

長門守
ドリームワールド内のすべての転送ゲートを管理するオペレーター。
出世コースから外れたため、適当に仕事をしている。

湯浅専務
GASEから出向してきた中間管理職。異世界で悪戦苦闘するヨシヒコをコマキ社の目を盗んでサポートする。



スパルタン草薙
格闘ゲームエリアの「九龍」の武闘派ファイター。中国拳法の使い手で、だいたいの敵は拳でなんとかなると考えている。魔王をKOさせれば、世界最強ということでパーティに付いてくる。
とんでもない大食漢でエンゲル係数はかなり高い。

ルナ・マイヤース
SFシューティングエリアの「メガサターン」のエースパイロット。サイボーグ化された女性であり、「クレイモアー」という宇宙船で宇宙を冒険していた。最終的に、核ミサイルを魔王城に放てばなんとかなると考えている。

ローランド・ペルト
アクションエリアの「ジャングルツアーズ」の伝説的ハンター。19世紀初頭のイギリスの探検隊のような格好をしている。数々の猛獣を狩ってきただけあって、相手がモンスターだろうがひるまない。

黒神志郎
サウンドノベルホラーエリアの「ホーンテッドレジデンス」での惨劇を解決した天才的な私立探偵。ドラキュラ伯爵のような不気味な見た目で、理屈っぽい癖のある性格。



凝血寺夫妻
「九龍」の路地裏に住む老夫婦。年金受給者でかなり好戦的。

サイクロン鈴木
スパルタン草薙の門下生。「押忍」しか言わない。言えない。

ホワイト
カジノ・プライズ・メダルゲームエリアの「ビリオンパラダイス」のマスコットキャラ。
イカサマを逆手にとって泉らのパーティの魔王討伐予算を工面する。

どうぶつたち
うさぎやひつじ、くまなどに似た愛らしい森の精霊。「ビリオンパラダイス」の警備をしており見た目と違ってガラが悪い。

エルフたち
耳が尖った美しい女神。「ビリオンパラダイス」ではバニーガールをしている。

サイの大群(ライノセラス・ユニコニス)
ジャングルツアーズでツアーカーを横転させるなどたびたび大惨事を引き起こす。

バンダースナッチ(アンドリューサルクス・インペリオス)
秘宝「アフリカの女王」を守るジャングルツアーズで最も凶暴な猛獣。

ガンツ&ローゼス号
ローランドの愛船。巨大なディーゼルエンジンを積んでおり、最大出力は4万馬力。

ホーンテッドレジデンスの容疑者たち
小石川ちおり:少女漫画家。最初に犠牲者で鉄の処女にはさまれて死亡。
宇佐美よわか:高校教師。二番目の犠牲者。心臓麻痺により死亡。
鳳桐子:華道家。頭の回転が速い。ヴィンツァーを惨劇の犯人と推理する。
小田島さくら:医師。人をご臨終にするのが好き。
井口ひろみ:ピアニスト。
鏡姉妹:双子の女流脚本家。

ライト・ケレリトゥス
ルナ・マイヤースの知り合いの冒険家。



ベオウルフ卿
ブリジッド王国の騎士団長。キザで見えっ張りな性格。

ジルドレイ将軍
ガリア帝国軍の隊長。百戦錬磨の軍人。

ハル
ゼリーマンの友人の人面鳥。

メド
野生の魔物を統べるメドゥーサ。

メグナ・テスタメント
元黒魔術師の葬儀屋。

ツインソードのラム
モンスターハンターギルドのマスター。

ランスロットとロビンフッド
HEROCONでサイン会をやっていた老勇者。

イエヤス&マサノブ
おっぱいパブの経営者。

ローワン・ウイリアム
ゴート大学の歴史家。勇者ヴィンツァーの最後の冒険『ラストパーティ』を後世に残す人物。

『ラストパーティ』脚本⑯

コミックマーケットのような会場「HEROCON」
かつての勇者のファンがサイン色紙を持ってブースに並んでいる。
笑顔でファンと握手をする白髪の勇者たち。

ゴート大学の歴史学者のローワン・ウイリアムがヴィンツァーのブースでインタビューをしている。
ヴィンツァー「再びぼくが目を覚ましたときは・・・アッティラ大草原は暖かな日差しにつつまれており・・・ミス・アシュレイ・・・リネットと手を握り合っていました・・・」
ローワン「ほかのパーティの方は?」
ヴィンツァー「この世界に残れたのは・・・ぼくらと・・・
最後まで逃げ回っていたサー・モルドレッド・・・現在のガリア帝国の魔王ですね・・・
あとの4人は・・・生死不明です・・・
そして・・・48年のアルバレイク国とのロストミンスター戦乱でリネットが亡くなり・・・
その3年後には恩師のウィンロード卿も大往生しました・・・
わたしは、きっと欝だったんだと思います・・・
あとはご存知のとおり、勇者年金で故郷の村でほそぼそと暮らしています・・・」
立ち上がって握手をするローワン
「勇者ヴィンツァー様。今日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。
この場所を教えてくれたミスター・ゼリーマンにも礼を言わなくては・・・」
ヴィンツァー「ゼリーマンは大丈夫ですよ・・・
もう随分と会ってませんが・・・今なお、臆病でひ弱なお前が勇者なんて認めない、の一点張りらしいですから・・・」
ローワン「この偉大な冒険譚を書物に残してもよろしいでしょうか。」
ヴィンツァー「こんな与太話でよかったら・・・」
シルビア・アシュレイ「ねえ、ローワンさん。どうせ本にするなら多少は忖度してよね。
例えば・・・世界を救った勇者の出自が農民はかっこが付かないじゃない・・・
名門貴族くらいにはしてよ。」
ヴィンツァー「それじゃあ、歴史の一次史料にならないだろ・・・」
シルビア「じゃあこうしましょう。正史と演義の二冊を書くってのは?」
ローワン「ま、まあ・・・それならいいか。演義の方は一般大衆にも売れそうだし・・・」

ローワンを見送る2人。
シルビア「・・・ねえ・・・そうなるとさ・・・あたしはあなたの娘ってことになるの・・・?」
ヴィンツァー「そこらへんは・・・まあ・・・複雑なんだよ・・・また今度話すよ・・・」
シルビア「今話しなさい。」



宿屋
ゼリーマン「ヨシヒコの旦那、ヴィンツァーの居場所がわかりましたぜ。
エゼルバルド市民ホールだ。そこの「HEROCON」でブースを開いてる。」
ヨシヒコ「・・・ヒロコン??」
ゼリーマン「引退した勇者がファンと握手したりサインしたりして小銭を稼いでいるケチなイベントですよ。」
ヨシヒコ「でも、それはちょっと楽しそうじゃないか?」
ゼリーマン「爺さん達にスライムをいじめた武勇伝を聞かせられるだけです。」
ヨシヒコ「君がヴィンツァー卿と確執があるのはなんとなくわかる・・・
だが・・・彼は臆することなくハルピュイアの埋葬を買って出てくれた・・・高潔な人物じゃないか?」
ゼリーマン「まあ、あいつは昔から甘ちゃんだからな・・・」
椅子から立ち上がるヨシヒコ「僕は決めた。あの人に魔王から桃乃を救い出してもらう。」
ゼリーマン「まあ旦那がそう言うなら・・・」
ヨシヒコ「名刺は・・・足りてるな・・・よし、行こう。
ぼくはリクルートがうまい。見ててくれ。」



エゼルバルド市民ホール「HEROCON」
ヴィンツァーに説教するシルビア「あなたはホントにダメな男ね・・・
なんでそこで母さんを捕まえなかったのよ・・・!」
ヴィンツァー「告白したさ・・・でもその翌日に「世界を救った勇者熱愛発覚!」って週刊誌の記事が出て、それで・・・世界中の婦人からリネットに誹謗中傷の手紙が届いて・・・
とてもじゃないけど普通の生活が送れなかったんだよ・・・」
シルビア「は~バッカみたい・・・」
ヴィンツァー「それに、その頃には、君の母さんはハルティロードの首席神官になっていたんだ・・・
ぼくは王立騎士団の軍事顧問が忙しかったし・・・なかなか二人の時間が取れなくて・・・」
シルビア「あ~あ・・・あたしの父さんは一体誰なのかしら。」
ヴィンツァー「ぼくがいるからいいじゃないか・・・」
シルビア「そういう問題じゃないの。」

その時、スーツの男がヴィンツァーのブースに現れる。
ビジネスマンのスーツはボロボロだ。
ビジネスマン「・・・あなたがスナイデル・ヴィンツァーさん・・・??」
ヴィンツァー「え?ええ・・・」
シルビア(不思議な服装の人ね・・・)
ヴィンツァー(う、うん・・・)
名刺を差し出すビジネスマン「わたくし、コマキ社の開発部主任、泉良彦と言います・・・」
ヴィンツァー「・・・このカードにサインを書けばいいですか?」
突然頭を下げるビジネスマン「伝説の勇者様!世界を救ってください・・・!」
ひるむヴィンツァー「い・・・いや、それはもう私の力ではどうにも・・・」
ビジネスマン「あなたの世界じゃない・・・私の世界が危機なんだ・・・!」
ヴィンツァー「・・・?いったいどういうことでしょうか・・・
それに、私はもう勇者稼業は引退しておりまして・・・
信頼できる人物をご紹介しますので、どうぞそちらに・・・」
ゼリーマン「久しぶりだな・・・ハナタレ・・・」
ヴィンツァー「ぜ・・・ゼリーマン・・・!なんで君がここに・・・!」



賑やかな酒場
お客がピンボールやビリヤードに興じている。

名刺を机に置いてヴィンツァー
「お話はだいたいわかりました・・・奥様がガリア帝国の魔王ハデスに捕らえられたと・・・」
ゼリーマン「来月までに救出しないと、この人の会社が倒産しちまうんだよ。
魔王退治なんか何度もやってんだろ。つべこべ言わずにやるんだ。」
ヴィンツァー「ちょっと待ってください・・・私は魔王なんて倒したことないよ・・・」
ヨシヒコ「あなたは、信用できる人だ・・・
ずっと前に、なんたら・・・っていう邪神も退治したって聞きました。」
ヴィンツァー「あ・・・あれも・・・退治したって言っていいのかどうか・・・」
ゼリーマン「ほら、嘘だって言ったじゃないっすか。
こいつの武勇はだいたい嘘なんだって・・・
そもそも子どもの頃、この俺に捕まって醜い命乞いをしたようなやつだぜ・・・」
ヨシヒコ「君に負ける人間がいるのか・・・?」
ヴィンツァー「はは・・・こりゃまいったな・・・」
シルビア「はは・・・こりゃまいったな、じゃない!!」
机をどんと叩くシルビア。
シルビア「あんた・・・さっきから聞いてれば、うちのヴィンツァーを嘘つきだの、腰抜けだの・・・ずいぶんな言い方ね!あんたがここでのんきにバドワイザー飲めてるのは誰のおかげだと思ってんのよ!!」
ゼリーマン「何だ、この凶暴なシスターは・・・お前本当に聖職者か?」
ヴィンツァー「まあまあシルビア・・・楽しい酒の席だからさ・・・」
シルビア「言ってやりなさいよヴィンツァー!
あなたたちが命懸けで戦ったから、世界から黒死病が消えたって・・・!!」
ヨシヒコ「そうなんです・・・よね??」
ヴィンツァー「ま、まあ・・・確かにゼリーマンの言うとおりで・・・黒死病の治療法を見つけたのはヘルシング博士だし、実際に感染者の治療に当たったのはリネットだからなあ・・・」
ゼリーマン「ほら見ろ。それをお前の手柄にしやがって・・・
で、国王や大神官からいくら報奨金もらったんだ?お父さんに半分回しなさい・・・」
ヴィンツァー「ずっと昔にリネットが設立した医療基金にまるごと寄付しちゃったよ・・・」
ゼリーマン「はい身内の脱税法人来ました・・・」
ヴィンツァー「そうじゃないって・・・」
ゼリーマン「じゃあ、リネットのやつの居場所を教えろ。取立てに行く・・・」
シルビア「母さんはとっくに死んだわよ。」
ゼリーマン「・・・え?あいつが??・・・本当か。」
ヴィンツァー「ああ・・・なのであの頃の仲間は・・・もう君くらいしかいないんだよ。」
ゼリーマン「そうか・・・あの憎たらしい奴が、そんなあっけなく死んじまうとはな・・・」
ヴィンツァー「あれでも、シスターになってからはしおらしくなったんだよ・・・
でも・・・リネットは、聖女として・・・無理をしすぎたんだと思う。
白魔法は・・・自分自身の生命エネルギーを消耗してしまうから。
だからロストミンスターの戦いの時には、すでに余命が幾ばくもなかったんだ・・・」
ゼリーマン「バカ野郎が・・・あの時きりがねえって言ったのに・・・」
ヨシヒコ「・・・なんか、一気に頼みにくくなったな・・・
分かりました・・・この話は聞かなかったことにしてください。
ゼリー、行こう・・・ボクら二人で暗黒大陸に渡るんだ。」
ゼリーマン「だ・・・旦那・・・いいんすか?」
立ち上がって会計をしようとするヨシヒコ「ああ・・・これはRPGのゲームじゃない・・・
この世界だって死んでしまったら、それでおしまいなのだから・・・」
シルビア「あ・・・ヴィンツァー・・・やってあげなさいよ・・・!
あの人、戦時中の暗黒大陸に丸腰で行くつもりよ・・・!すぐに殺されちゃうわ・・・」
ヴィンツァー「・・・でも・・・」
シルビア「なにも、今度は世界を救えってわけじゃないのよ、ただの民間人の救助よ。
戦に出て殺し合うわけじゃないじゃない・・・!」
ゼリーマン「あばよ、腰抜け。あの世のリネットもシドニアもガッカリだろうぜ・・・」
その言葉にぴくりとくるヴィンツァー「待ってくれ・・・
確かにぼくは腰抜けだ・・・
でも、リネットやウィンロードさんを失望させる人生は送りたくない・・・
ヨシヒコさんと言いましたね・・・座ってください・・・」
戻ってくるヨシヒコ「・・・」
ヴィンツァー「ガリア帝国の魔王はハデス・モルドレッドと言います・・・
彼のことはよく知っています・・・今では魔王とは呼ばれているが気のいいやつでね・・・
たしかに女好きでしたが、嫌がる女性を無理やりさらうような真似はしないはずだ・・・」
ヨシヒコ「ま・・・魔王と知り合いなんですか??」
ヴィンツァー「同じパーティだったんですよ・・・」
ヨシヒコ「え?えええ??」
ゼリーマン「ふん、立場が人を変えちまったんじゃねえのか??」
ヴィンツァー「だとしたら・・・ぼくは古い友人を諫めないといけない・・・
分かりました。ぼくは殺し合いは嫌いだが・・・魔王までの案内と護衛をお引き受けします。」
深々と頭を下げるヨシヒコ「あ・・・ありがとうございます・・・!!
いくらお支払いすれば・・・!」
にこりと微笑むヴィンツァー「あの時の金貨でけっこうですよ。」

――泉ヨシヒコのパーティに伝説の勇者スナイデル・ヴィンツァーが仲間になった!




ドリームワールドのコントロールルーム
妖精は蛍のように発光し、室内をふわふわと飛び回る。
脚についた手紙はすでにない。
結城「きいい!小うるさい便所バエだよ!死んで地獄にゴートゥーヘル!!」
ハエたたきで潰されてしまう妖精。

『ラストパーティ』脚本⑮

数日後の朝
目を覚ますウィンロード。汗を拭う。熱は引いている。
ウィンロード「神様はまだ俺を働かせたいようだ・・・」
涙を流して彼に抱きつくセレス。



食堂
ウィンロード「それでは確認するが・・・地下シェルターの避難物資は領民に事前に配布。
邪神上陸前にお前たちを鍛え上げ、邪神を迎え撃つ・・・これでいいんだな?」
頷くヴィンツァーとリネット。
ウィンロード「残された時間はすくねえ。ここからは相当厳しい修行になるぞ・・・覚悟しろ。」
リネット「覚悟の上よ。」
ヴィンツァー「はい。」
ウィンロード「我が愛しの妻セレスティア様。」
セレス「なんだい?この豚野郎・・・」
一夜にして立場が逆転している夫婦。
ドン引きするヴィンツァー&リネット。
ウィンロード「・・・その設定もういいか??」
笑顔のセレス「もう満足です。やっぱりわたくしは亭主関白なあなたが好きみたい。」
ウィンロード「お前は、国中を回ってニャルラト・カーンを討伐する腕利きの戦士を集めてくれ。
顔が広いゼリーマンを頼るといい・・・」
セレス「かしこまりました。」
ウィンロード「リネット。」
リネット「はい。」
ウィンロード「お前はもう一度神都ハルティロードへ行け。
そして死ぬ気で白魔術の勉強をして立派な聖職者になるのだ。
首席神官のイノストランケヴィアにこの手紙を渡せ。白魔術の世界的権威だ・・・」
推薦状を受け取るリネット「あたしがシスターか・・・悪くないわね・・・任せてちょうだい。」
ウィンロード「6年の博士課程を3ヶ月で履修しろ。」
リネット「おっけい・・・アルファベットはだいたい覚えたわ・・・」
ウィンロード「さて・・・ヴィンツァー・・・今日からお前の剣の師匠はこの私だ・・・
悪いが、わたしはセレスのように優しくない・・・外へ出ろ。
お前が覚えるべき剣技のゴールを見せてやる・・・」
ヴィンツァー「はい・・・!」



城外の雪原に出る4人。
ウィンロード「世界でこの私しか打てない剣技は2つある・・・
まずは剛剣のメイルシュトローム・・・
これは絶対に人に向けてやるんじゃないぞ・・・
まずは剣士の前方1.5km以内にいる住民や野生動物を避難させろ・・・」
リネット「それだけで日が暮れちゃうわよ・・・」
剣を構えるウィンロード「お前・・・私の前に立っていいぞ・・・」
リネットを後ろに下げるヴィンツァー「少しは黙ってなよ・・・」
ウィンロード「耳を塞いでおけ・・・はあああああ!!」
気合をためるウィンロード。
そして一気に剣を抜くと、とんでもない衝撃波が発生して遠くの雪山が爆発する。
一瞬世界が静寂に包まれ――その直後3人にものすごい爆音と振動が襲いかかる。
吹き飛ぶヴィンツァーとリネット。
呆然として起き上がるリネット「ばっかじゃないの!雪崩が起きるじゃない・・・!」
ヴィンツァー「いや・・・起きてる・・・!」
こちらに向かってくる大雪崩。
リネット「きゃああああ!」
ウィンロード「動くな!」
すると前方の地面が振動しクレバスができる。
雪崩の雪は4人にたどり着く前にそのクレバスに全て落ちていく。
ヴィンツァー「す・・・すごすぎる・・・天と地・・・一度に二回斬ったんだ・・・」
リネット「これをヴィンツァーにやらせるの?」
ウィンロード「うん。」
リネット「狂ってる・・・」

ウィンロード「そしてもう一つ・・・これは研究中の技だが・・・
速剣のリニアエクシードスラッシュというやつだ。」
ヒソヒソ声でリネット(こういう名前って誰が考えてるのかしら・・・・)
ヴィンツァー(う・・・うん・・・)
ウィンロード「これは魔法使いから黒魔術のバフ(強化)を付与してもらう必要がある・・・
セレス頼む・・・」
セレス「お任せを。」
そう言うと、セレスが両手をウィンロードの剣にかざす。
すると、剣が白く発光する。
剣を鞘に収めるウィンロード。
2人「・・・?」
ウィンロード「終わりだ。」
ヴィンツァー「あの・・・やらないんですか・・・?」
ウィンロード「やったよ。」
ヴィンツァー「見えなかったんですけど・・・」
ウィンロード「そこがこの技の欠点だ。速すぎて誰も見えない・・・
この技は一瞬だけ光速を超えるため時空を切断してしまう。
しかし、それだけだ・・・いまいち使いどころが分からんのだが・・・
もしかしたら何かの役に立つかもしれん。
これは若いお前が完成させるのだ。」
ヴィンツァーの肩を叩くリネット「きっと自分では着地点が見つからないのよ・・・」
ヴィンツァー「ぼくにできるかな・・・」
ウィンロード「できるようにしろ・・・
それに・・・多くの人を傷つけうる技は・・・分別のある達人にしか習得できねえ・・・
わかるか?お前は人を傷つけることを嫌う・・・
そんな子であることは最初から見抜いていたさ・・・
お前にはこの技を使う資格があるのだ・・・」
セレス「旦那様のおっしゃるとおりですわ・・・ヴィンツァー様は優しい・・・
もし、あなたが一人前の剣士となったら・・・このセレス・・・忠誠を誓いますわ・・・」
リネット「ずるいわ、あたしもよ。」
ウィンロード「そういうことだそうだ・・・」
ヴィンツァー「みんな・・・立派な大人になって・・・また会おう・・・」



数年後――
ブリジッド国境のアッティラ大草原
邪神を迎え撃つ世界最強の7人の戦士。
風の巫女リネット「・・・どうしましたか?ヴィンツァー・・・」
伝説の勇者ヴィンツァー「ミス・アシュレイ・・・昔のことを思い出していました・・・」
リネット「ウィンターズ時代ですか?それともロト剣術魔法学校?」
ヴィンツァー「辛いことも多かったけど・・・思い返せば楽しかったなって・・・」
リネット「ふふ・・・そうでしたね・・・」
鉄の戦士ヴォルスング「邪神との最終決戦前なのに随分と余裕じゃねえか、ああ?
あんたらの走馬灯じゃねえだろうな?」
緊張している炎の騎士サー・モルドレッド「え・・・縁起でもない・・・」
ヴォルスング「モルドレッドお前、悪魔のくせにビビってんじゃねえだろうな・・・」
モルドレッド「君は自分の王国が皆殺しにされたことがないから、あいつの恐ろしさを知らないんだ・・・ヒッチコックもびっくりするくらいのネズミの群れが・・・」
ヴォルスング「お前の地獄の業火とやらで燃やしちまえよ。」
モルドレッド「やったさ・・・その結果ぼくの愛する王国は全焼さ・・・ハーレムの子たちもみんな黒焦げ・・・うう・・・ごめんよみんな・・・」
ヴォルスング「・・・おい・・・この腰抜けはパーティから外したほうがいいんじゃねえか、ヴィンツァーさんよ。」
悪魔を励ますヴィンツァー「国民の敵をうちましょう・・・モルドレッド王子・・・」
涙を吹くモルドレッド「うん・・・」
冷静に狙撃ライフルのスコープを覗く、竜の狙撃手ジークフリート
「ヴィンツァー殿・・・現れましたぞ・・・」
雲の流れが変わり、草原の向こうに影ができる。
月の剣士セレスティア「博士・・・」
闇の科学者ヘルシング「ん~ふっふっふ・・・新しい機械を買った際には説明書を読んでください・・・少なくとも3回。箱から出す前とセットしたあとと・・・寝る前に・・・一晩置くのがポイントです。
気をつけなければいけないのは、外国製の機械で・・・」
ヴォルスング「あんた・・・一体誰に向かってしゃべっているんだ?」

ヴィンツァー「みんな・・・とうとう最後の戦いだ・・・
こんな私についてきてくれてありがとう・・・
それでは黒死病撲滅作戦の最終確認をする。
これが失敗したら、世界は闇に閉ざされ・・・人間は絶滅する・・・」
ヴォルスング「何度も聞いたよ。早くしてくれ。俺は敵をぶん殴りたくてウズウズしてんだ・・・」
ヴィンツァー「まず、ヘルシング博士が開発した新兵器、ソーラーカノン8基を機動。これで、最初のネズミの群れをパラボラで反射させた強力な直射日光で迎え撃つ・・・
ほどなく邪神は雲を厚くして日光を遮ってくるだろう・・・
そこでセレスとモルドレッド王子・・・君たちの出番だ。
セレスがトルネードブラスターで竜巻を発生させたら、王子はエターナルインフェルノをそこに撃って火炎旋風を邪神にぶつけてください。君らが台風の目になるんだ。」
セレス「お任せを・・・」
モルドレッド「ごめん・・・エターナルって言うけど、あの技、継続時間が19分しかないんだ・・・」
セレス「気合です。キリのいい20分頑張ってください。」
モルドレッド「う・・・うん・・・」
ヴィンツァー「ネズミたちが殺菌消毒されるまでの20分・・・ヴォルスングが近接攻撃、ジークフリート卿が遠距離攻撃でネズミたちの猛攻を防ぎ続ける・・・」
ヴォルスング「わにわにパニックだな。任せろ。」
ジークフリート「ネズミども・・・吾輩の榴弾の味を思い知るがいい・・・」
ヴィンツァー「ミス・アシュレイは癒しの風で常時全体回復をお願いします・・・」
リネット「わかりましたわ・・・」
ヴィンツァー「暗雲で日光が遮断できないことを知った邪神は、その真の姿を現しぼくらに襲いかかるに違いない・・・」
ヴォルスング「本当か?そこが重要だぞ。」
ヴィンツァー「私の師匠が言っていた・・・間違いない。
邪神が射程距離まで接近したら・・・この私が最大出力のメイルシュトロームを放ち・・・
邪神を木っ端微塵にする・・・
この流れで行く・・・では、各々方ぬかりなく。」




ドリームワールド
桃乃「面白い・・・!!それで、それで!どうなったのよ!!」
古書をめくる小田「ここからは私もまだ読んでないんですよ・・・一緒に読みましょう・・・
ええと・・・あれ?これでおしまい・・・?」
桃乃「え?なんて書いてあるの?」
小田「なんだかんだあって勇者は邪神に勝利しました・・・とだけ・・・」
桃乃「この著者は馬鹿なの!?一番面白いところを端折ったんかい!!」
ページをめくる小田「おかしいなあ・・・なんでここの記述だけスカスカなんだろう・・・あ!」
桃乃「なに?」
小田「ここだけページが破れてる・・・!そんな~!」
桃乃「うそ~!!こ・・・こうなったらオダジュン、明日の現地確認のあと、この勇者に直接会いに行こうよ・・・!で、ご本人から最終決戦の詳細を聞かせてもらうの・・・あなたは現地の言葉はバッチリでしょ?」
小田「あ、それいいですね・・・!でも、勇者の故郷は転送ゲートからかなり北だからなあ・・・」
桃乃「ヘリコプターを転送しましょう。」
小田「ドラゴンだと勘違いされて撃ち落とされませんかね・・・?」
桃乃「とりあえず手配しておくから・・・!よし、夜会はこれにておしまい!
明日に備えてもう寝ましょう・・・」
小田「そうですね、お疲れ様でした。明日はよろしくお願いします。」
桃乃「お疲れ!またね!」

部屋から出ていく桃乃。
ドアが完全にしまったことを確認して小田がポケットから破ったページを取り出す。
小田「・・・わたしは・・・こんな結末は絶対信じない・・・」




アッティラ大草原は漆黒のネズミの大群に覆われる。
ネズミの波に巨大なソーラーカノンが一基、また一基と破壊されていく。
眉間に手を当てるヘルシング「ん~ふっふ・・・意外と持ちませんね・・・」
セレス「ヘルシング博士!下がってください!!
はあああ・・・!トルネードブラスター!!」
セレスが剣を高速で振るうと、巨大な竜巻が発生する。
竜巻に巻き込まれ吹き飛ぶネズミたち。
セレス「王子!今です!!」
モルドレッド「ええい、どうにでもなれ・・・!トゥエンティミニッツインフェルノ~~!!」
モルドレッドが巨大な竜巻に火を付ける。
強大な火災旋風がネズミたちを蹴散らしていく。
火災旋風を逃れてこちらに襲い掛かるネズミを次々に銃撃するジークフリート
「セレス殿!二発目だ!」
頷くと、もう一度剣を振るうセレス「トルネードブラスター・カテゴリー5!」
ネズミの群れに単身乗り込み、高速ステップとジャブで数え切れないネズミを叩き潰していくヴォルスング「はっはー!ハイスコアだ!!」

?「くっくっく・・・ウィンロード以来久しぶりに骨のある人間が現れたわ・・・
まあ、1人が7人に増えても・・・結末は変わらないがな・・・」
ネズミを叩きながら叫ぶヴォルスング「来たぞ・・・!ボスのお出ましだ!!」
邪神「強大な低気圧を発生させ、日光で我々を殺菌しようとするとは考えたものだ・・・」
ヘルシング「んっふっふ~・・・あたりですね・・・
このわたしの前ではどんな完全犯罪も不可能です。」
すると、雲の形が変わり・・・
セレスティアの前に巨大な牙を持った口が現れニヤリと笑う。
セレス「・・・はっ!」
ジークフリート「いかん!よけろセレス殿!!」
しかしセレスは3発目の竜巻を起こすモーションに入っている。
ニヤニヤした口はセレスの両腕を噛みちぎってしまう。
血まみれになるセレス「ああああ・・・!」
邪神「まずは一人。」
ヴォルスング「セレスがやられた!!王子、セレスを助けて撤退しろ!!」
モルドレッド「ひいい!!」
セレス「私に構わないで・・・持ち場を離れてはダメ・・・!」
リネット「ヴィンツァー・・・!」
ヴィンツァー「・・・ぼくらは7人で帰ると誓った・・・」
笑いながら首を振るヘルシング「ん~っふっふ・・・」
ヴィンツァー「?」
ヴィンツァーをビンタするヘルシング。
ヘルシング「大将のあなたはここにいなさい・・・
回復役のあなたもです。私の計算では3.4人は殺されます。しかし、勝利はできる。」
7人全員の生還で勝利できる確率は0だ・・・」

ヴォルスングがセレスを助けに行く「あの臆病者!もういい、俺が行く・・・!」
ヴォルスング「大丈夫かセレス!腕くらいなくなっても屁でもないだろ?」
セレス「ヴォルスング様・・・なんて愚かなことを・・・!」
すると、竜巻が消え、日光が全て雲で覆われてしまう。
モルドレッド「終わった・・・」
ヴォルスング、モルドレッド、セレスに息を吹き返したネズミが襲いかかる。
セレスとモルドレッドを守りながら戦うヴォルスング
「くそ・・・キリがねえ・・・!リネット・・・助けてくれ!回復魔法を・・・!」
リネット「今参ります・・・!」
ヘルシング「ダメです。セレスさんがやられた以上、ヴィンツァーさんに魔法でバフをかけられるのは、もはやあなただけだ・・・」
銃を構えるが首を振るジークフリート「くそ・・・ダメだ!味方に当たってしまう・・・!」

ヴィンツァー「もういいだろう!!正体を現せ・・・!私と勝負しろ!ニャルラト・カーン!!」
邪神「くくくく・・・この私に勝てると思っているのか?いいだろう・・・
お望み通り私の姿を見せてやろう・・・」
すると、ヴィンツァーたちの前に突然口が裂けた巨大なネコが現れる。
ニヤニヤ笑うネコ「わたしは100万回殺された・・・しかしそれは100万回生き返ったということ・・・私は不死身だ・・・」
ヘルシング「ん~ふっふ・・・あなた今なんとおっしゃいました?何回生きたと?
みなさんに聞こえる声でもう一度お願いします。」
邪神「お前は面白いな・・・私と近い匂いがする・・・不死のものだな・・・」

急にカメラ目線になるヘルシング
「え~・・・今回のパンデミックですが・・・邪神ニャルラト・カーンはある決定的なミスを犯しました・・・強大な力を持つ彼は慢心し、我々に重大なヒントを与えてしまった・・・
そう、100万回生きたネコ・・・アルカード・ヘルシングでした・・・」

リネット「・・・今ですヴィンツァー・・・!」
ヴィンツァーが邪神の隙をついて、近距離で渾身のメイルシュトロームを放つ。
メイルシュトロームが直撃し、ニャルラト・カーンの体が木っ端微塵に吹き飛ぶ。
ジークフリート「やったか・・・!」
ヘルシング「え~・・・残念ながら、そのセリフで“やれた”ことは一度もないんです。」
邪神「くくく・・・今のはちょっと痛かった・・・」
しかし、雲が再び集まりネコの姿に戻っていく。
リネット「そんな・・・!メイルシュトロームが効かない・・・!!」
ヴィンツァー「・・・!」
邪神「しかしそれだけだ・・・もうゲームオーバーでいいかな?」
くわっと大口を開けるニャルラト・カーン。
ヘルシング「え~・・・あなたは100万回の人生をどこで生きたんですか?」
邪神「・・・あ?」
ヘルシング「まさか100万回ともこの世界じゃないでしょう・・・
あなたを殺すことなどとうに諦めています・・・
なので・・・」
空間に切れ目ができていることに気づく邪神。
ヘルシング「異世界転生していただくことにしました。」
空間の切れ目はどんどん大きくなっていく。
邪神「馬鹿な・・・!」
リネット「メイルシュトロームと一緒にリニアエクシードスラッシュをうったのです・・・」
邪神「なんだと・・・時空に穴を開ければ、お前らもただでは・・・!!」
ヴィンツァー「たとえ異世界に飛ばされても・・・お前と同じ世界に飛ばされる確率は・・・
ほぼ0だ。100万1回目の人生を楽しめ。」
空間の切れ目が暴走し、発光しながら邪神を吸い込んでいく。
それどころか、ネズミ、草原、雲、天地すべてを吸い込んでいく。
吸い込まれていくヘルシング「ああ・・・いい時間だ・・・それではごきげんよう・・・」
リネット「ヘルシング博士!」
リネットが吸い込まれないように腕を取るヴィンツァー「ミス・アシュレイ!!」
リネット「ヴィンツァー!!」
剣を地面につきたて必死にリネットの手を握るヴィンツァー
「もう・・・絶対に手を離さない・・・!!」
大地が振動し、光はどんどん大きくなっていく。
目をつぶるリネット「ヴィンツァー・・・愛してる・・・!」
ヴィンツァー「私もだ・・・!!」
虚無――
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