『青春アタック』脚本⑱呉越同舟

白亜高校の校門にバスが入ってくる。
バスに荷物を詰め込むマッスル山村。
校舎に取り付けられた「がんばれ白亜高校」の横断幕。
全校生徒が白亜高校女子バレー部を見送る。
白衣を着た4組が花火を打ち上げ、チアガールの格好をした3組の女子が歌とダンスで盛り上げる。

4組女子「学期末まで理科の授業がない喜びでこの花火を作りました!」
4組男子「半年くらいは大会に行ってきていいからな!」
花原「あんたたち・・・覚えておきなさいよ・・・期末試験で復讐してやる・・・」

3組女子「乙奈先生!コートでも最高のパフォーマンスを・・・!」
乙奈「やるだけやってみます・・・」
3組女子「ブーちゃんさん、先生をよろしく・・・」
黙ってサムズアップするブーちゃん。

運動部の主将たち「頑張って来いよ。」
大此木「まあ、楽しんでこいや。」
海野「うん、行ってくるね・・・!」

羽毛田校長「吹雪先生、部員をよろしくお願いしますね。」
さくら「じゃあ、ちょっくら行ってくるわ。
(生徒の方へ)お前ら、あたしが帰ってくるまでケガや病気に気をつけろよな!」

1組の生徒会役員「生原会長、華白崎副会長・・・お気をつけて。」
華白崎「みんななら難関大の二次試験もばっちりだから・・・」
ちおり「みんな、当分出番がないけど元気でね!」

病田「そろそろバスが出ます・・・」
見送るみんなに手を振りながらバスに乗り込む女子バレー部。
バスが発車する。

羽毛田「行ってしまいましたね・・・」
京冨野「また忙しくなりますね、校長・・・」
羽毛田「と、言いますと?」
京冨野「優勝祝賀パーティの準備ですよ。」

校門から出て、どんどん小さくなっていくバス。



高体連本部ビル
ネコをなでながら窓からの眺めに目をやる破門戸「いよいよゲームの始まりですね・・・」
破門戸のグラスにワインを注ぐ狩野。
破門戸「新世紀の東洋の魔女はいったい誰か・・・高みの見物と行きましょう・・・」
狩野「・・・・・・。」



バスの車内。
缶チューハイで、もうできあがっているさくら「やい、乙奈ちゃん!一曲歌え!!」
乙奈「・・・え?」
カラオケのイントロが勝手にかかる。
花原「誰よ!沢田研二なんて入れたの!」
ちおり「勝手にしやがれ!」
花原「おまえか!」
賑やかな後ろの席を振り返る海野。
海野「みんな楽しそうだね・・・」
ため息をつく華白崎「・・・みなさん気を緩めすぎです・・・
吹雪先生が持ってきた内部リークの要項が正しいならば・・・
この大会・・・一般的な運動部の大会とは全く違う・・・
試合以外にも戦略的な駆け引きがいる・・・」
海野「なんで、こんな形式にしたんだろう・・・」
華白崎「おそらくは・・・通常のトーナメント戦では予選段階で消えてしまうような無名校の選手も主催者側は注目したいのでは・・・」
海野「じゃあ、素敵な大会だね!」
華白崎「それはどうでしょう・・・優勝校以外はバレーの道を断たれるバトルロイヤルであることには変わりはない・・・それに巨額のカネが動くマネーゲームです。油断は禁物ですよ。」
海野「私はバレーしかできないから・・・
頭のいい華白崎さんや花原さんが頼り。」
華白崎「そういう意味で・・・数々の修羅場を潜り抜けた経験のある吹雪先生は、確かに頼もしいかと。」

後部座席でどんちゃん騒ぎする監督。
さくら「よし、マッスル!景気づけに脱げ!」
山村「無論だ。本日は勝負パンツをはいてきた・・・乙女たちよ刮目せよ・・・!」
花原「きゃー!」
乙奈「まあ、ビキニパンツにスパンコールとは破廉恥極まりないですわ・・・!」

海野と華白崎「・・・・・・。」



夜の波止場
バスから降りるちおり「わーい!」
海野「・・・ここが開会式の会場・・・?」
パンフレットを見る病田「会場はあの船みたいです・・・」
霧の中から豪華客船が現れる。
花原「金かかっているわね・・・!」
入場ゲートには、黒服を着た長身の女が立っている。
ちおり「あそこに人がいるよ!」
花原「なんか、不気味な女ね・・・」
女「白亜高校女子バレー部御一行様ですね・・・お待ちしておりました。」
女を見て花原「うお、で・・・でかい・・・!私よりもあるってことは・・・180以上?
というか、日本人じゃない・・・?」
女「・・・あ、あの・・・なにか?」
小声で花原「あの受付の人、人間を二、三人殺してそうな異様なオーラがない?」
乙奈「わたくしもひしひしと感じますわ・・・」
さくら「まあ、昔からスポーツ大会の興行には反社会勢力はつきものだかんね。
アサシンの一人や二人はよくいるよ・・・」
華白崎「よくいるんですか・・・」
花原「よくいちゃダメだろ・・・」
海野「あ・・・レイちゃん・・・!」
狩野「・・・海野さん。待ってたよ。」
花原「もしかして・・・この人が例の恐竜カルノサウルス・・・?」
キョトンとする狩野「・・・恐竜?」
花原「・・・い、いえ・・・」
狩野「海野さんのチームを一目見たくて。
本当に、みなさん異様なオーラを背負ってますね・・・」
海野「そうでしょ!」
さくら「お前ら、ロシアの殺し屋に言われてんぞ。」
花原「・・・え?」
狩野「豪華客船デゼスポワールへようこそ・・・もうじき出港です。」



「デゼスポワール」メインホール
全国からの参加者がひしめき合っている。
他のチームはみんなドレスを着て歓談しているが、白亜高校だけ制服で突っ立っている。
気まずい花原「・・・これ本当にバレーボール大会の開会式?船間違えたんじゃない?」
書類をめくる病田「そ・・・そんなことは・・・」
階段を下りて白亜高校のほうへ近づいてくる、ひときわ高級なブランドのドレスを着たポニーテールの美女。
美女の声は宝塚の男役のように低い。
「確かに正装とは書いてあったけど、まさか学校の制服で来るとはね・・・」
ちおり「すげー!シンデレラだ!!」
美女「今年も日本一のレシーバーと戦えるなんて、引退時期をのばして正解だったよ。」
海野「咲ちゃん・・・ひさしぶり!」
ちおり「だれ?」

周りが賑やかになる。
ガヤ「アユだ・・・!」
「間違いない、前回優勝校の聖ペンシルヴァニアの鮎原だよ・・・!」
「どっち?矛の方?盾の方?」
「矛だと思う・・・!」

美女「どうも、みなさん。鮎原姉妹の矛の方・・・鮎原咲です。
お会いできて光栄だ。今年もフェアプレーで行きましょう。」
力強く白亜高校の部員たちと握手する咲。
気まずい花原「はは・・・フェアプレーで・・・」
華白崎に気づく咲「あれ・・・?数年前、バレーボール千葉代表にいませんでしたか?」
目を背ける華白崎「ひ・・・人違いじゃないでしょうか・・・」
咲「そうかなあ・・・何年か前に千葉県にバレーボールがめちゃくちゃうまい広末涼子がいるって話題になったような・・・」
華白崎「千葉県に広末涼子はたくさんいるかと・・・」
咲「これはしたり。」
今度は乙奈に気づく。「・・・ん?テレビに・・・」
乙奈「ちがいます。」
咲「・・・そうですか・・・」

ひそひそ話が聞こえる。
ガヤ「なんであのスーパースター鮎原が、あんな貧乏くさい学校と交流があるの・・・?」
「というか、よくあんな汚い格好で入場ゲート通れたよね・・・ドレスコードでムリでしょ、普通。」

気を遣う海野「・・・私たちと離れてた方がいいんじゃない?」
咲「勝手に言わせておこう。
しかし、何度もうちにスカウトしたのに・・・
海野さんは最後まで私たちにとって最大のライバルなんだね。」
苦笑いする海野「あんな学費、私にはとても払えないよ・・・」
咲「まあ、いいわ。
おたがい、高校生活最後の大会。どちらが最強か・・・はっきり決着をつけようじゃない。」
海野「喜んで。」
咲「では決勝で。」
二階のVIP席に戻っていく咲。

花原「海野さん・・・私たち場違いなんじゃ・・・」
海野「・・・だからレイちゃんがゲートにいたんだ・・・」

ヴィバルディの「春」が鳴る。
黒服「みなさまステージ中央にご注目ください。
ただいまより、春の高校バレーバトルロイヤル大会の開会式を始めます。」
ステージに小柄の老紳士が現れる。
老紳士「えー・・・高校バレーに青春をかける淑女のみなさま、わたくし高体連の総裁を仰せつかっております、破門戸錠と申します。ただいまから、今大会のルールを説明いたします。
一度しか申しませんので、どうか集中力をもってお聞きいただきたい・・・」

各校の部長に黒服から要項が入った封筒が配られる。
部長を中心に集まる各校の部員たち。
封を切って要項を開く部長。

破門戸
「今回の大会には・・・リーグもトーナメントもございません。
開催期間中に参加各校が自主的に相手を決めて試合を行ってください・・・
試合の形式はバレーボールであれば自由・・・
9人制でも6人制でも、サイドアウト制でもラリーポイント制でも、リベロを導入しようが、ローテーションがなかろうが、ウイングスパイカーをアウトサイドヒッターと呼ぼうが・・・両校の合意があればいっこうに構いません。」

ざわつく会場。

破門戸「みなさまに課せられた条件はただひとつ・・・
封筒に入っている対戦チケットをすべて使用すること・・・」
封筒の中には、スポーツの観戦チケットのようなものが3枚入っている。
破門戸「他校と対戦する際は、このチケットが1枚必要となります。
つまり、どんなチームも3回は試合を組まなければならない・・・
4回戦以降は、わたくしどもからチケットが新たに支給されます。」

想像していたルールと異なり当惑する参加者たち。

破門戸「それでは・・・本大会の勝利と敗退についてご説明しましょう・・・
まず敗退。
一度でも試合に敗北した場合、即日その部は廃部となり、あまった対戦チケットは廃棄されます。
次に勝利。最後まで試合に勝利し続け、生き残ること・・・
以上で、本大会の説明を終わります。
みなさんのご健闘を祈ります。」
ステージを降りようとする破門戸。

参加者「ちょっと待って!そんな適当な部活の大会聞いたことないよ!」
「試合ごとにルールが違うんじゃ不公平よ!」
「開催期間中に1校まで絞られなかった場合は?」

破門戸「ご質問には一切お答えできません・・・」

参加者「答えなさいよ!こっちは賞金6億円がかかってんのよ!」
「私たちには知る権利がある!」
花原「・・・そーだ、そーだ!」
騒然とする会場。

破門戸「・・・殺しますよ。」

参加者「え・・・?」

破門戸「賞金がかかっているだと?その金はだれが払うと思ってる?
お前らのくだらない青春ごっこに6億だぞ・・・?破格の待遇だと思いなさい。
だいたい、何も生産しないお前たち未成年の部活動という思い出作りに、何人もの学校教員が土日も無給でつきあってやっていると思っている?」

ちおり「無給なの・・・?」
病田「日当で340円は振り込まれます・・・」
参加者「そんな言い方ひどいわ!私たちは高校三年間休まず一生懸命バレーに打ち込んできた!」

破門戸「それがどうした・・・?それを評価するのはお前らじゃない。我々だ。
お前らが、今までやってきたことに本当に信念や自信、矜持があるならば・・・
簡単なことだろう。勝利すればいい・・・」

参加者「う・・・」

続ける破門戸「・・・そんな覚悟もないのに、口だけはいっぱしのことを言う・・・
お前たちは、このままなんとなく部活動を引退して、なんとなく高校を卒業して、それでなんとなく感動して・・・何の夢もない・・・つまらない大人になるのか?
この国の権力者は、お前らをそうやって見くびっているから・・・年寄りだけを優遇し・・・未来を担う若者に負担だけを強いるのだ・・・」

泣き出す参加者も出てくる。

破門戸「だが・・・我々高体連は、諸君ら夢を追う高校生を決して見捨てない・・・
大人たちを見返したいのならば・・・勝って見せることだ。」
ステージから消える破門戸。

黒服「以上で開会式を終わります。ここで、ささやかですが皆さんに軽食を用意しました。
明日からの大会に向けて英気を養っていただけたらと思います。」

ホールに高級ビュッフェが運ばれる。
泣きながらバイキングを食べる参加者たち。「がんばろうね・・・!」
「優勝しよう・・・!!」
「美味しい・・・あのフリーザ、実はいい人なのかも・・・」

花原「・・・なんか異様な空気になってるんだけど・・・」
華白崎「あのフリーザがいい人なはずがない・・・
ここで口車に乗せられたら、それこそフリーザ軍の思うつぼです。」
ドリアンをほおばるちおり「でも美味しいよ!」
すでに奥のバーカウンターで飲んだくれているさくら。
ブーちゃんも一口かじって頷く。
乙奈「せっかくのご好意ですからいただきませんか・・・?」
海野「うん・・・」
花原「・・・委員長どうする?」
おなかが鳴る華白崎「・・・・・・。」
みんなで料理をがっつく。
涙を流す華白崎「こんなおいしいもの食べたことがない・・・」
花原「・・・それはよかったね・・・」

白亜高校に絡んでくる他校のバレー部員。
「女のくせに必死にがっついてみっともないわね・・・
ちょっとあなたたち不潔だから料理を触らないでくれる?」
傷つく海野「・・・え?」
華白崎「確かに我々のかっこうは制服ですが、毎日しっかり洗濯をしています・・・」
ちおり「わたしは入学してからそのまま!」
冷笑する他校の部員たち。
他校の部員に近づくちおり「言うて、そんなにくさくないよ。嗅いでみ、トライミー。」
他校のバレー部員がちおりを蹴とばす「くさいわね、私たちに近寄るな!」
「にゃああああ!」
ちおりに駆けよる花原「ちょっと何すんのよ!!
こいつがくさいのは、食べているドリアンのせいよ!誤解だわ!」
他校「くさいやつが腐った料理を食べるんじゃない!」
ドリアンを踏み潰す。
地面に突っ伏しながらちおり「あああ、私のドドリアさんが・・・!ザーボンさんも!!」
そのとき、食べ物を粗末にしたことに憤ったブーちゃんが歩み寄る。
慌ててブーちゃんを止める乙奈。
二人の前にさりげなく山村が割って入る。
山村「楽しい食事の場だ。仲よくしようぜ・・・」
海野「食事のマナーが悪かったのは謝ります・・・なので許してください・・・」
他校「試合の時にはしっかりと風呂に入りなさい。」
立ち去る他校のバレー部。

怒りに震える花原「な・・・なんだあいつら~!」
乙奈「あんな失礼な方々、白亜高校には一人もいませんわね・・・
いったいどちらの学校なのかしら・・・」
歩いてくるさくら「あれが上武高校。本当にクソでしょ?」
納得して頷く一同。
海野「あの子たちが・・・」



甲板
水平線を眺めながら破門戸「会場にあなたの姿があったから驚きましたよ・・・吹雪さん。」
シャンパングラスを持ちながらさくら「久しぶりっすね、監督。白髪増えました?」
破門戸「ほとんどは、あなたのせいですよ・・・
私のチームをめちゃくちゃにしてバレー界から姿を消して・・・
いったいどういう風の吹き回しですか?」
破門戸の隣に立つさくら「風ゆえの気まぐれよ。」
破門戸「ほほほ・・・あなたが参加するなら、退屈はしなさそうだ・・・」
さくら「今度はどんな悪いこと企んでるのよ。」
破門戸「それはお互い様です。なんですか、三畳農業高校って・・・」
さくら「面白いでしょ?
しかし、監督も変わりませんね。死ぬまでオリンピックで金を取りたいんだ。」
酒を注いでやる破門戸。
さくら「おっと、すいません。」
破門戸「わたしの夢ですからね。」
さくら「金を取ったら?」
破門戸「他の惑星のバレーチームを倒しに行きますか・・・あなたはどうなんです?」
酒を飲むさくら「上がまだまだ元気だからなあ・・・」
破門戸「さて、誰のことでしょうか。」
微笑むさくら「誰だろうね・・・
ただ・・・白亜高校はつぶさせないよ・・・」
破門戸「それが今の吹雪さくらの夢ですか。」
さくら「そうかもね。」

『青春アタック』脚本⑰三顧之礼

体育館
花原「・・・海野さんは?」
華白崎「また臥竜岡(がりょうこう)へ行ってますよ・・・」
花原「またか・・・東京から帰ってきてからずっと保健室に入り浸ってるなあ・・・」
ちおり「怪我しすぎだよね!」
花原「ちがうわよ・・・さくら先生を監督にスカウトしようとしてんのよ・・・」
華白崎「あの人が本当に全日本代表とは思えませんが・・・」
乙奈「あら、人は見た目じゃありませんわ・・・」
山村「うぬが言うと説得力があるな。」
華白崎「待っていてもしょうがない・・・今日も海野さん抜きで練習をしましょう。」
花原「え~また基礎練・・・?」
ちおり「あきた~」
華白崎「基礎を軽んじる者に勝利はない・・・」
山村「それに、そもそも人数的に基礎練しかできないしな・・・」
黙って一人でトスの練習をするブーちゃん。
乙奈「・・・やりましょう。」
ちおり「今日も顔でレシーブするの?」
花原「うるさい・・・
くそ~・・・海野さんがいないと華白崎さんのストイックな練習を止める人がいないのよ・・・」

体育館に入ってくる海野「みんな・・・」
花原「海野さん・・・!今日は練習に混ざってくれるのね!」
海野「やっぱりさくら先生に誠意を見せなきゃいけないと思うのよ!
生原さんと花原さん・・・一緒に保健室へ行こう!」
ちおり「わ~い!」
花原「・・・し・・・しかたないな~・・・」(ちょっとラッキー)
華白崎「・・・いいかげんにしてください海野部長。」
海野「・・・え?」
華白崎「東京で古い友人に何を吹き込まれたのか知りませんけど・・・
仮に吹雪先生が全日本代表だとしても、監督に迎えたからって魔法のようにチームが強くなるわけじゃない・・・大切なのは私たちは今、どう努力するか・・・」
海野「そうだけど・・・全日本代表といえば・・・私たちにとっては雲の上の存在・・・神のような人よ。
誠意を持って接しないと・・・
先生が監督を引き受けてくださるまで、私はあきらめないわ・・・」
目をパチクリする華白崎。
顔を見合わせるちおりと花原。
華白崎「冷静に考えましょう。選挙ポスターにらくがきを推奨していた人ですよ・・・?」
ちおり「酒を密造しようともしてたよ!」
海野「二人共行こう。」
小声で花原「・・・海野さんには私からうまく言うよ・・・」
華白崎「花原さん・・・お願いします・・・
海野部長までが変な方向に行ったらいよいよチームは終わりだ・・・」
花原「までって・・・」



保健室
扉の前でさくらが出てくるのを待つ海野とちおりと花原の3人。
花原「・・・留守なんじゃない?」
海野「いつもこうだから。」
ちおり「立ってるの疲れた~花原さんおんぶして。」
花原「まったく・・・」
ちおりをおんぶしてやる花原。
花原「華白崎さんじゃないけれど・・・
さくら先生を監督にしてもそこまで劇的に変わらないんじゃない?」
海野「・・・運動部の強豪校には必ず優秀な指導者がいるの・・・
中学時代もそうだった・・・
今の私たちに欠けていたのはそこだったんだ・・・
私たちは個々の能力は決して低くない・・・
むしろ全国的にも高いと思う。
男子チームとも試合になったんだから・・・
さくら先生と・・・バレーについて語り合いたいな・・・」

日が暮れてあたりが暗くなる。
花原「今日はもう帰ろう・・・本当に出張なのよ・・・」
ちおりは眠っている。
海野「・・・私はまだ待っているから・・・先に帰ってていいよ。」
花原「・・・信じているのね・・・」
海野「・・・信じてる。」
帰らない花原「・・・・・・。」
海野「・・・?」
微笑む花原「・・・あの人には私も恩があるからな・・・」
スカートをめくって太ももを見せる花原。
目立たないがやけど跡がある。

深夜
ふらふらと学校に戻ってくる教職員
「校長!このハゲ!今夜は朝まで付き合え!学校で飲みなおすぞお!」
さくらを抱える羽毛田「かんべんしてください・・・」
京冨野「俺たちはもう帰るぞ・・・」
目をこする病田「ねむい・・・」
さくら「はくじょーもの!刺青はがすぞ!」

校舎に電気がついていることに気づく。
羽毛田「おや・・・誰かまだいますね・・・」
京冨野「アルソックかけたよな・・・?」
病田「きっと生徒です・・・そうですよね、吹雪先生・・・」
さくら「・・・・・・。」



保健室の前の廊下に歩いてくるコートのさくら。
振り返る海野たち。
さくら「・・・負けた。
大切な大会の前に風邪ひくわよ・・・入りなさい・・・」

保健室
ストーブをつけるさくら。
「私の同期は、実業団や名門大学・・・強豪高校・・・いろんなところに監督として就任したけど・・・
私は全て断ってきた・・・私から見れば・・・すべて三流だったからね・・・
この私が仕えるほどじゃない・・・」
海野「この海野美帆子・・・高校三年間チームに恵まれずくすぶっていました・・・
私にとって、学生時代はもうわずか・・・どうか・・・お力を・・・!
誠意というなら、私たちは髪を丸刈りにします・・・!」
花原「・・・ちょ・・・何言って・・・」
さくら「・・・私の現役時代の愛称を知ってる?」
海野「ええ・・・確か・・・闘将・・・」
さくら「私は中途半端な戦いは嫌い。
やるからには私のやり方で徹底的にやらせてもらう・・・
でも、どいつもこいつも、なまじプライドが高くてごちゃごちゃウルサそうでね・・・」
ちおり「私たちはプライドの欠片もないよ!」
花原「お前、言ってて情けなくないのか・・・」
微笑むさくら「うん・・・強豪校に仕えるより・・・
強豪校を作るほうが楽しいかもね・・・それもひと月足らずで・・・」
海野「で・・・では・・・」
さくら「・・・約束が一つだけあるわ・・・
優勝したら・・・とびきり旨い酒をおごってちょうだい・・・」
海野「ありがとうございます・・・!!」
さくら「・・・後悔はないわね・・・?やっぱりやめたはナシよ。」
海野「はい・・・!」
ちおり「やったー!」
つばを飲む花原「ど・・・どんな厳しい練習が・・・」

さくら「さて・・・私がどこに出張に行ってたかわかる・・・?」
ちおり「駅前の、よろこんで庄屋でしょ!」
さくら「ご名答。」
そう言うと、机に大会の要項と強豪校の資料をばら撒く。
さくら「元チームメイトにスポーツ誌の記者がいてね・・・そいつと呑んでた。
今から話すのは優勝へのサクセスルートよ・・・」

机に近づく三人の女子高生。
さくら「今回の春高バレーにはリーグもトーナメントもないのはご存知?
いや・・・知らないわよね・・・開催時に突然発表されるのだから。」
海野「え・・・じゃあどうやって対戦カードを・・・」
さくら「出場校どうしが試合を取り付けるのよ・・・練習試合のようにね・・・」
花原「でも、両者の合意がない場合は・・・?
例えばいきなり強豪校から試合を申し込まれたら、そこで終わっちゃうわけだし・・・」
さくら「その場合、強豪校は弱小校にハンデキャップを設定することができるの。
そのハンデで相手が了承すれば、対戦カードは成立・・・
参加校は開催期間中に最低でも3校と対戦しなければ失格・・・
最後まで生き残った学校が優勝・・・
はい、どうすればいい・・・?」
花原「まずはレベルの近い学校と試合を取り付けて・・・」
さくら「ちがーう!優勝するために試合をする必要はないってこと・・・」
海野「で・・・でも、最低でも3校と対戦しないと失格なんじゃ・・・」
さくら「優勝するためには、決勝戦の一戦だけ戦えばいい。
それまでは期間ギリギリまで試合から逃げ続けて、ライバル校のつぶしあいを待つ。」
海野「決勝以外の2校はどうするんですか・・・?」
地図を置くさくら「栃木県の北部の山中に三畳農業高校という学校がある・・・」
花原「奥日光に・・・?そんな高校、聞いたことないけど・・・」
さくら「それはそうよ。私が作ったんだから。」
花原「作った・・・??」
さくら「この学校とまず戦う。練習試合ね。
勝敗はいくらでもでっち上げられる。誰も知らない秘境高校だからね。
もともと野生動物しかいないし、敗退させて部を潰しても大丈夫。」
海野「も・・・もう一校は・・・?」
さくら「埼玉県の上武(かんぶ)商業高校。
ここは本当にクソみたいな学校で、金さえ払えばどんな汚いこともやってくれる。
1000万円で八百長に乗ってくれたわ・・・
これで2勝できる・・・」
海野「・・・決勝は・・・?」
さくら「おそらく・・・決勝まで残るのはこいつらね・・・」
長身の双子美少女の写真を置く。
さくら「東京都の聖ペンシルヴァニア女子大学附属高校・・・」
海野「鮎原姉妹・・・春高バレー常連校ですね・・・」
さくら「こいつらはさすがにタイマンでは勝てない。絶対に無理。
普通にバレーが強いし、清く正しいから汚い金でも動かない。
そこで・・・ほかの強豪校や中堅校に金を払って、聖ペンシルヴァニアと積極的に戦ってもらう。
そして、体力を消耗させたところで、HP満タンの我々が容赦なく叩き潰す。
裏工作の費用の試算は・・・学校の設立も含めて・・・1億6752万円・・・
優勝賞金で充分返せるわ。」

言葉を失う三人。
あまりに卑怯なやり方にドン引きの花原「・・・やっぱり監督やめてもらおうか・・・」
海野「・・・うん・・・」
ちおり「スポーツマンシップの欠片もないね!」
さくら「・・・え?」

――こうして、白亜高校女子バレー部に天才的戦略家の吹雪さくらが加わったのである・・・



翌日
生徒会室
華白崎「・・・学校を・・・作った・・・?定款に当たる寄付行為は?文部省の認可は?
そもそも資金はどうするんです?」
花原「通信制高校ってことにすれば数万円で設立できるらしいよ。」
奥日光の地図を開く華白崎「・・・インターネットどころか、電線も通っていなさそうなんですが・・・」
ちおり「車道もないよ!」
華白崎「校舎はどうするんです?設立申請の際に県教委の立ち入り調査があるはず・・・」
花原「廃校になった分校を譲ってもらったって・・・
当局が詳しく調査するころには、この集落はダムに沈んでいるから証拠も隠滅できるってさ。
大会出場申請もすでに済ませたって。」
書類をめくる華白崎「・・・なんと・・・」
華白崎「しかし・・・この、裏工作費の1億6千万円は法外です。
そんな金があったら、そもそもこの大会に出場していない・・・」
花原「なんとかするらしいよ・・・」



雑居ビルの中の裏カジノ
美しい女性を侍らせた富裕層が楽しそうにギャンブルに興じている。

VIPルームに案内されるスーツの京冨野とドレスのさくら。
出迎える店長「こ・・・これはこれは・・・京冨野さん・・・」
京冨野「世間は不景気なのに、ここはずいぶん景気がいいじゃねえか、徳川店長・・・」
店長「お・・・おかげさまで・・・」
さくら「あんたさ、京ちゃんに口きいてもらって、この店やらせてもらってんでしょう?
ちょっと2億円くらいわたしたちに貸しなさいよ。」
店長「いや、それは・・・」
さくら「二か月後には絶対返すから!絶対!」
店長「そんな2千円のノリで言われても・・・」
さくら「賭けてんでしょう?今度の大会。」
店長「ま・・・まあ・・・うちは、昔からプロ野球もJリーグもすべてやらせてもらってますんで・・・
最近では高校部活動も・・・」
さくら「春高バレーの現在のオッズを教えて。」
店長「おい見せてやれ・・・」
ホール主任「わかりました・・・」
オッズ票を受け取るさくら。
京冨野「我が白亜高校は・・・?」
さくら「すばらしい!ダントツで人気最下位!オッズは250.3倍!」
ニヤリとする京冨野「悪くねえな・・・」
さくら「店長・・・この学校が優勝したらどうする?」
店長「胴元としてはぼろ儲けですけど・・・」
さくら「・・・なら、私たちと組みなさい。」



生徒会室に入ってくるさくら。
アタッシュケースを机の上に乗せる。
さくら「御所望の“矢”を集めてきたわ・・・金庫に入れときなさい。」
華白崎「御冗談を・・・」
無言でアタッシュケースを開ける花原。札束が詰め込まれている。
さくら「色を付けて2億5千万円融資してくれたわ・・・」
さくらの前でひざまずく花原「先生・・・!孔明先生・・・!!」
ちおり「・・・もし大会に負けちゃったらどうなるの?」
さくら「良くて全員ソープランドね。」
ソープランドを知らないちおり「わーいやったー!」
一転、青くなる花原「・・・“良くて”??」
華白崎「生徒を風俗に売るなんて・・・とんでもない教師だ・・・」
さくら「よくてね。
なあに、負けなきゃいいだけ。簡単な話でしょ?」
ちおり「今度は戦争だー!」

『青春アタック』脚本⑯邂逅相遇

白亜高校の校門
バイクにまたがった二人乗りの昭和のバンカラがマッスル山村と対峙している。
「オレッチ、樹羅高校で番長やらせてもらってるジョニーってもんだけどよ、ここに海野美帆子っていう女子生徒がいるって聞いてよ、連れてきてくんねえか?」
山村「なんだ貴様ら・・・
剃り込みと木刀がトレードマークのお前たちに大切な学友をハイそうですかと差し出すわけなかろう・・・」
ジョ二ー「ほう・・・オレッチとやんのか、おお?」
ブレザーを脱ぐ山村「拳を交えたいのなら・・・このマッスルが相手になるぞ・・・」
後ろの木刀を持った細身のバンカラが止める。
「やめるのだジョ二ーよ・・・他校の学生とのトラブルは、あのお方に固く禁じられているはずだ・・・」
バイクを降りるジョ二ー「固いこと言うな久蔵・・・って、おめえどこまで脱ぐんだ!!??」
ブリーフ一枚になっているマッスル山村。
山村「お前も遠慮せず脱ぐがいい・・・」
久蔵「気をつけろジョ二ー・・・目の前にいるのは本物の変態なのやもしれぬぞ・・・」
ジョ二ー「あ・・・あの・・・別の人呼んできてもらえますか・・・?」

駆け寄ってくる女子たち
華白崎「こちらです・・・」
ちおり「うわー本物のくにおくんだ!かっけー!」
ちおりの腕章に気づくジョ二ー「・・・もしや、おめえがこの学校のヘッドか?」
ちおり「夜露死苦!」
華白崎「生徒会長の生原です・・・
わたくし共としては、本校の学生の個人情報を他校の学生に伝えることはできません。
おひきとりを・・・」
華白崎にすごむジョ二ー「あああ!!??」
たじろいで後ずさる華白崎「・・・け・・・警察を呼びますよ・・・!」
ジョ二ー「気の強い姉ちゃんだな・・・どうする?」
ちおり「いいアイディアがあるよ!」

校庭に土俵を作り、シコを取るジョ二ーと山村。
ジョ二ー「オレっちは相撲で負けたことがねえ・・・」
山村「奇遇だな・・・俺もだ。」

小声で華白崎「どうするんですか・・・山村先輩が負けたら・・・」
ちおり「そしたら昔剣道をやってた華白崎さんが、あの居合の先生みたいな人と二回戦。」
華白崎「・・・なんで、こういう時に不良の扱いがうまい京冨野先生と吹雪先生がいないんだ・・・」
ちおり「みあってみあって・・・!はっけよーい・・・!のこった!!!」

ぶつかり合う両者。
ジョ二ー「やるなオメエ・・・!」
山村「お前こそ、なかなか可愛い乳首をしているではないか・・・!」
ちおり「のこったのこったー」

相撲を見に来る海野「一体何の騒ぎ・・・?」
ちおり「あ、海野さん!つっぱり大相撲春場所。」
海野「へ~私おすもう大好き!枡席に座っていい?」
久蔵「お主が海野氏か・・・?」
海野「はい・・・そうですけど・・・」
久蔵「実は我が主から手紙を預かっておってな・・・」
海野「てがみ?」
久蔵「・・・狩野レイを覚えているかね・・・」
海野「・・・え?今なんて・・・」
久蔵「狩野レイだ。彼女は我が樹羅高校に通っている・・・もうじき卒業で番長は引退したが・・・」
目をうるめる海野「・・・し・・・親友です・・・生きてたんだ・・・」
久蔵「そなたのことを忘れたことは一時もないと申しておったぞ・・・」
海野「れ・・・レイちゃんのこと・・・もっと教えてください・・・こ、こちらへ・・・!」
ちおり「私も聞きたい!」
海野「茨城県のヤンキーとも戦ったんですか・・・?」
久蔵「その話は長くなるな・・・まずレイ殿は成人式で暴れる馬鹿どもをひとり残らず・・・」
学校の中に入っていく一同。

校庭に取り残されるジョ二ーと山村。
がっぷりよつで硬直状態。
ジョ二ー「もう降参したらどうだ・・・!?」
山村「お前こそ、鳥肌がたっているぞ・・・」




電車を降りる海野。
東京駅から丸の内のビルディング街を歩く。
久蔵からもらった手紙を開く。
海野「このビルが・・・高体連本部ビル・・・」



屋上に駆け上がる海野。
扉を開けると、スーツを着た長身の旧友が立っている。
狩野「・・・覚えている・・・?」
涙を流す海野。
「もちろんよ・・・」
狩野「・・・もういじめられてない・・・?」
頷く海野「強くなったもの・・・」
駆け寄って抱きしめ合う二人。
狩野「・・・ただいま・・・」



丸の内のカフェで話し合う狩野と海野。
海野「手紙読んだよ・・・高体連で働いているってすごいね・・・」
狩野「・・・バレーボール・・・続けてるんでしょう。
あの大会に出場するの?」
海野「うん・・・」
狩野「・・・海野さんなら優勝できるよ。」
海野「レイちゃんといっしょにやりたかったな・・・」
狩野「そうだね・・・」
海野「ね・・・ねえ・・・よかったらうちの学校で一緒にやらない?」
苦笑いする狩野「相変わらずだね・・・もう何年もやってないよ・・・」
狩野の脚の古傷に目が行く海野。
海野「・・・ごめん・・・」
狩野「・・・悩んでいるの・・・?チームのことで・・・」
海野「・・・え?」
狩野「海野さんのことなら何でも分かるよ・・・」
海野「まいったな・・・みんな素質はあるんだけど・・・個性が強すぎて・・・」
狩野「・・・確かに大会の選手名簿をみたら・・・海野さん以外は女子バレー部じゃないよね・・・」
海野「メンバーは、家なき子と、狂った科学者と、元アイドルと、料理人と、全国模試一位の秀才。」
ドン引きする狩野「それ・・・どこまでが本当の話?」
海野「・・・え?」

狩野「なるほど・・・
私のアドバイスが役に立つかはわからないけど・・・」
海野「お願いします。」
狩野「あの二人に聞いたと思うけど・・・震災のあと・・・私は樹羅高校に入学したんだ・・・」
海野「全国の元気な子が集まるビーバップ的なハイスクールだよね・・・」
狩野「・・・どんな無法地帯なんだろうって不安だったんだけど・・・
今までで一番秩序があったんだ・・・」
海野「みんな喧嘩自慢のツッパリなのに??」
狩野「どうしてか分かる?」
海野「う~ん・・・」
狩野「・・・誰が一番強いかハッキリしていたからよ・・・
樹羅高校は喧嘩が強い新入生が来ると、まず学校の番長がタイマンをはるんだ・・・
勝負に勝ったほうが次の番長。それでおしまい。」
海野「それでレイちゃんが勝っちゃったの・・・?」
照れて赤くなる狩野「わ、私は一応、女の子だから・・・みんな女子には優しいんだ。」
海野(なんか久蔵さんの話と違うけど・・・まあいいか・・・)
狩野「何が言いたいのかというと・・・チームのボスをはっきりさせたほうがいいってこと。」
海野「そうか・・・確かにな・・・
部長の私か、生徒会長でセッターの生原さんか・・・スキルが高い華白崎さんか・・・」
狩野「ちがうちがう・・・」
海野「・・・え?」
狩野「部員じゃない・・・監督を付けるの・・・それもとびきり優秀な・・・」
海野「・・・監督・・・?」
狩野「中学時代に私たちが勝てたのも、素子さんのおかげでしょう・・・?」
海野「たしかに・・・でも・・・うちの学校にはそんな先生は・・・」
狩野「・・・おかしいな・・・いるはずだけど・・・」
海野「・・・え?」
狩野「若干15歳で日本代表に選ばれ、輝かしい成績を残したセッターで二つ名は“闘将”・・・」
海野「ほ・・・ほかの学校の先生じゃない・・・?」
狩野「そうだったかなあ・・・
オリンピック予選で未成年なのに飲酒したまま試合に出て、熱くなって相手の選手を殴って、女子バレー界から一瞬で姿を消した、伝説の選手が確か・・・」
突然思い当たる海野「・・・いるかも・・・」
狩野「その人は今なにをしてるの・・・?」
海野「・・・保健室で飲んだくれてます・・・」
椅子から立ち上がる海野。
海野「こうしちゃいれない・・・!東京に来た甲斐があった・・・!
ありがとうレイちゃん!!また絶対連絡するね!」
狩野「お役にたててよかった・・・」

海野の後ろ姿を見送る狩野。
狩野「がんばれ、バレー少女・・・」



職員室
さくら「はくしょん!・・・風邪ひいたかな・・・熱燗であったまろう・・・」
とっくりを傾ける。
脚立に乗って不器用に窓に横断幕を飾り付ける羽毛田と病田。
病田「こっち・・・」
位置を調整する羽毛田「そっち?こっち?」
さくら「誰かの誕生パーティ?」
羽毛田「女子バレー部が大会に出るんですよ。」
さくら「こんな年度末に?」
病田「学校を挙げて応援してあげたくて・・・」
遠くから横断幕を眺める京冨野「ちょっと傾いてねえか・・・?」
病田「どっち・・・??」
横断幕を読むさくら「がんばれ白亜高校・・・」
羽毛田「病田さんが書いたんですよ。達筆でしょう?」
さくら「さすが国語教師・・・」
病田「顧問の私にはこんなことしかできないですから・・・」
京冨野「この学校にバレーを教えられる教員がいればな。」
羽毛田「生徒にいい思い出を作ってやれるんですけどね・・・」
タバコに火を付けるさくら「そうねえ・・・」

バーンと職員室の扉を勢いよく開けて入ってくる海野。
羽毛田「おや・・・」
病田「美帆子ちゃん・・・」
京冨野「東京に行ってたんじゃねえのか?」
荒い足取りで、さくらの前に近づく。
さくら「・・・?」
海野「・・・日本代表だったんですよね。」
さくら「・・・ま・・・まあ・・・」
深く頭を下げる海野
「うちのチームの監督になってください・・・!!」
タバコを口からポロリと落とすさくら「あつ・・・」



保健室の人気教師のさくら先生が女子バレー日本代表だったことは即座に全校に知れ渡った・・・

人目を気にして、窓から保健室に忍び込むさくら。
保健室の前の廊下では海野が立って待っている。
保険室のドアには「バレー部勧誘お断り」というパネルがかかっている。

さくら「・・・あの子本当にしつこいな・・・しかし・・・なんであの黒歴史がバレたんだろう・・・
全日本バレー連盟の選手データも抹消したはずなのに・・・
もしかして・・・高体連の方には残っていたのか・・・」

廊下の海野に声をかける病田。
病田「今日はもう諦めたら・・・?」
海野「それでは、明日また来ます。」
病田「吹雪先生は監督はやらないと思うよ・・・」
海野「・・・輝かしい実績があるのになんで・・・」
病田「・・・きっと吹雪先生の中ではそうじゃないんじゃないかな・・・」
海野「・・・全日本が?」
病田「スポーツ選手には・・・必ず引退があるから・・・
その競技に人生を懸けていたほど・・・やりきれない思いがある・・・」
海野「・・・私にとってそれは今なんです。」
保健室に一礼して歩いていく海野。

保健室の扉が開く。
さくら「行った・・・?」
病田「・・・はい。」

保健室の中で話し合う女教師たち。
さくら「諦めてくれたかな・・・?」
病田「美帆子ちゃんを見くびりすぎです・・・
きっと先生が監督になるまで、通い続けますよ・・・」
さくら「そのまま卒業させちゃおうぜ・・・」
病田「・・・やってあげればいいのに。」
酒を煽るさくら「私のやり方はもう古いよ・・・」
震える病田「・・・ずるい。」
さくら「病田先生・・・?」
泣き出す病田「さくら先生は・・・いつも生徒から人気があって・・・
私は見向きもされない・・・
私は・・・あの子達に何も教えてやれないから・・・」
慌てるさくら「ちょ、ちょっと大の大人が泣かないでよ・・・」
病田「私が自慢できることは・・・人よりも闘病生活が長かったことだけ・・・」
さくら「・・・す・・・すごいじゃない・・・」
病田「・・・今、この時を摘め・・・」
さくら「・・・は?」
病田「古代ローマの詩人ホラティウスの一節です・・・人はいずれ死んでしまう・・・
私はきっと長生きできないけれど・・・
自分が生きた意味をほかの人に残せるってことは・・・幸せなことだと思いますよ。」
さくら「・・・そうかもね・・・」
病田「・・・監督やってあげたら?」
でも断るさくら「・・・いや・・・いいかな・・・」
病田(・・・え?)

『青春アタック』脚本⑮鎧袖一触

白亜高校の学食
サンマ定食を食べる花原「へ~海野さんにそんな友達がいたんだ。」
サンドイッチを食べる海野「もう何年も会ってないけどね・・・」
子ども用のスプーンで猫まんまを食べるちおり「花原さんみたいだよね!」
花原「私はそんな暴力はしないぞ。」
ちおり「中学時代に対不良の爆弾作ったんでしょ?」
花原「・・・そんなこともあったね・・・あれは人生で二度目の逮捕だったかな。」
海野「死んじゃうから・・・」
海野に質問をするちおり「なんで離れ離れになっちゃったの?」
配慮する花原「・・・お、おい・・・」
海野「いいよ・・・
レイちゃんはどんな時でも私を守ってくれた・・・」



中学時代の回想
海野たちの教室。
机をくっつけて、海野と狩野がランチを食べている。
粗末なパンを食べている狩野
豪華なお弁当をあける海野「はい、レイちゃん。」
狩野「・・・?」
海野「いつもパンばっかりだから、私が作ってきたんだ。よかったら食べてよ。」
狩野「海野さんが・・・?」
海野「ま、まあ・・・正確にはお母さんとだけど・・・」
狩野「・・・うれしい。いただきます。」

すると、教室に不良男子が入ってくる。
不良「オレの女を辱めたのはてめえか外人。」
無視して食事をする狩野「・・・おいしい。」
彼氏を止めるうめちゃん「・・・もういいって・・・この子に関わっちゃアカン・・・!」
不良「お前は引っ込んでろ。俺の気が済まん。」
狩野「・・・彼女の忠告は聞いた方がいいわよ・・・」
海野が作ってくれた弁当を床に落とす不良
椅子から立ちあがる狩野
慌てる海野「・・・レイちゃん、私はいいから・・・!」
狩野「・・・海野さん・・・」
海野「・・・うん・・・」
ホッとする海野とうめちゃん。
しかし怒りが収まらない不良が、狩野の飲んでいた牛乳を狩野の頭からかける。
一同「・・・!!」
狩野「・・・この学校のお友達を全員呼んできなさい。めんどうくさいから。」
うめちゃん「全員殺される・・・海野はん・・・助けて・・・!」
海野「祈ろう・・・」

――翌日、校内の不良グループは全員退学をした・・・

海野(レイちゃんはケンカが誰よりも強かったけど・・・
暴力を振るうときは決まってわたしを守るときだけだった・・・
レイちゃんのおかげで、わたしは学校でいじめられることもなくなった。
しかし・・・レイちゃんの強さは周辺の喧嘩自慢の男の子の功名心に火を灯してしまった・・・)

鉄パイプを手に取る不良少年「巨人狩りだ!」


ケガを心配する海野「レイちゃん・・・だいじょうぶ?」
頭に包帯をしている狩野「とうとう素手で勝てないから凶器を使い出した・・・」
海野「もうケンカはやめて・・・」
狩野「わたしもやめたいんだけど・・・
きりがなくて・・・一人で戦うにはもう限界が近いな・・・」
海野「なんでこんなことに・・・」
狩野「このままでは海野さんにも危害が加わる・・・いい加減終わりにしないと・・・」
海野「・・・どこへ?」
狩野「ゲームしてくる・・・」
海野「危ないことは嫌だよ・・・」
狩野「だいじょうぶ。海野さんはわたしが必ず守るから。」

ゲームセンター
不良グループが集会をしている。
そこへ、ボロボロになった構成員を引きずって狩野が歩いてくる。
狩野「どいつがボス?」
奥を指さす半殺しにされた構成員「あの人です・・・」
ボスに近づいていく狩野。
ボスは筋骨隆々でいかつく、喧嘩慣れしている凄味がある。
ボスに声をかける狩野「ゲームしようか。」
ボス「え?」

格闘ゲームの筐体のモニターに頭から突き刺さって動かないボス。
ざわつく不良たち。
狩野「これからはわたしがボスよ。」
不良「誰がお前なんかと・・・」
そう言った不良も、ボスの向かいの筐体に突き刺さる。

狩野「血の気の多い君たちに、うってつけの仕事を与えるわ・・・
この周辺の不良グループ、暴走族、ギャングの最強格をすべてリストアップして、自宅の住所を突き止めてほしいの。」
不良「それで、どうすれば・・・」
狩野「火をつけてきなさい。ノルマは1人1軒以上。」
不良「戦国時代か・・・」
「逮捕されちゃうじゃないですか・・・!」
狩野「はくがつくでしょう?」
「放火殺人はおそらくムショから出てこれません・・・!」
狩野「あと・・・警察の事情聴取で私の名前を出したら・・・殺すから。」



公園のたこ焼き屋の屋台に絡むチンピラ
「おうおう・・・誰に断ってたこ焼き焼いとんじゃ・・・」
海野と狩野が、屋台でたこ焼きを買っている。
海野「ここ、美味しいんだって。」
狩野「楽しみだな・・・」
狩野を見て、逃げ出すチンピラ。

・・・こうして、一人の女子中学生によって関西の反社会勢力はすべて滅ぼされた・・・



学食
食事がのどを通らない花原「・・・それ、どこまでホントの話・・・?」
海野「・・・え?」
花原「恐竜みたいな女ね・・・」
海野「・・・レイちゃんより強い不良は、結局日本にはいなかった・・・
これでやっと平和に暮らせると思ってた・・・
でも・・・誰よりも強い恐竜でも・・・天変地異には勝てなかった・・・」



95年1月。
大地震で壊滅した早朝の神戸。

つぶれたボロアパートでうめいている狩野。
太ももに鉄の支柱が突き刺さり、なかなか抜けない。
狩野「・・・・・・。」
歯を食いしばって引き抜く。傷口から大量の血があふれるが、冷静に止血する。
学校のジャージ姿のままアパートからはい出ると、倒壊した建物だらけの戦場のような光景が広がっている。
狩野「・・・こんな景色・・・もう見たくないと思ったのに・・・」
脚を引きずりながら歩いて行く狩野。
狩野「海野さんを・・・助けなきゃ・・・」

横倒しになった高速道路の橋脚を横目に、よろよろ歩いて行く狩野。
被災した街にはだれもおらず、静寂が漂っている。

とうとう海野の自宅までたどり着くが、裕福だった海野の邸宅は跡形もなくつぶれていた。
狩野「・・・・・・!そ・・・そんな・・・」
がれきを必死に掘り起こそうとする狩野。
「海野さん・・・たーくん・・・お父さん、お母さん・・・」
馬鹿力で柱を持ち上げようとするが、さすがにびくともしない。
太ももから再び血があふれ出てくる。
地面に膝をつく狩野。
そして、慟哭を上げる。
狩野「いない・・・なんで・・・!」

?「ああ・・・誰もいないな・・・」
声の方を振り返ろうとする狩野。
しかしその前に鉄パイプで思い切り頭を殴られる。
がれきの上に倒れる狩野「がはっ・・・!」
不良「・・・やっと、お前に復讐できる・・・」
鉄パイプを受け取るボス「おい、オレにもやらせろ・・・どのみち、大勢死んでんだ。
犠牲者が一人増えても変わりやしねえよな・・・」
涙を流す狩野「・・・おねがい・・・私の友だちをさがして・・・」
ゲーム筐体に突っ込まれた傷で、顔の皮膚が縫われているボス
「・・・お前、言ってたよな?
不良なんざ、人を殺す度胸もない腰抜けだって。
・・・見とけこの野郎・・・」
鉄パイプで再び殴るボス。
ズタボロの狩野。
ボス「死ね!死ね!死ね!!このくそ外人が!!!」
どんどん血まみれになる狩野。
鉄パイプでひたすら殴り続ける。

動かなくなる狩野。
ボス「はあはあ・・・死んだか・・・」
不良「・・・ば・・・バレないよな?」
ボス「こいつは地震で死んだんだ。そうだろ?」
不良「あ・・・ああ・・・」
立ち去っていく二人。

瓦礫のそばでうつぶせに倒れている狩野。
脚はぐちゃぐちゃにへし折れ、パンツは脱がされ、尻に「バカ」と書かれている。
涙を浮かべる狩野。



体育館に作られた仮設の避難場所
被災した人たちが毛布にくるまって、冬の寒さに耐えている。
弟と段ボールの上に座って、放心状態の海野。

会場を右往左往する被災者「わたしの母を見ませんでしたか・・・?」
「妹がいないの・・・!」

その様子を呆然と眺める。
海野「レイちゃん・・・無事かな・・・」
はげますたーくん「お姉ちゃん・・・きっと大丈夫だよ。」
海野「・・・被災してやっとわかった・・・
・・・レイちゃんのご両親は・・・きっと・・・戦争で亡くなったんだ・・・
それで・・・たった一人で知らない国へ逃げてきて・・・
孤独で・・・不安で・・・」
涙を浮かべる。
海野「・・・それなのに・・・私をかばってくれた・・・」
涙をぬぐう海野。
立ちあがる。
たーくん「お姉ちゃん・・・?」
海野「わたし・・・探してくる・・・」
たーくん「ぜったい危ないよ。」
海野「・・・見過ごせない・・・!」
たーくん「ぼくを一人にしないで・・・ひとりぼっちはやだよ。」
海野「たーくん・・・」



たーくんをおんぶしながら、崩壊した都市を歩く海野。
たーくん「レイちゃんのおうちってこっちだっけ?あっちじゃない?」
海野「そうだっけ・・・?」
たーくん「・・・もう帰ろうよ。目印の信号が全部なくなっちゃったから・・・わかんないよ。」
海野「信号・・・なんで忘れてたんだろう・・・!」
ポケベルを取り出す。
液晶を読むたーくん「505・・・3418・・・なんの番号?」
海野「・・・SOS・・・美帆の家・・・!」



救急車が海野の家に走ってくる。
ストレッチャーに乗せられる狩野。
海野「・・・ひ・・・ひどい・・・」
死にかけでやっと一言絞り出す狩野「・・・ごめんね。」
海野「あの・・・どこに搬送されるんですか?」
救急隊員「病院もいくつかやられているから・・・でも、お友達はなんとかします。」

走り去っていく救急車をみつめる兄弟。
たーくん「お姉ちゃん・・・行こう・・・ここにいてもしかたがないよ・・・」
海野「・・・・・・。」
瓦礫の中から、バレー大会の写真を見つける海野。
海野「・・・うん。・・・生きよう。」



学食
厨房でブーちゃんが無言で涙をぬぐう。
花原「じゃあ、それ以来会ってないんだ・・・」
海野「連絡の取りようがなかったから・・・あのころは生きるので精いっぱいで・・・」
ちおり「私たちは幸せだね。」
花原「え・・・おまえもけっこう・・・いや・・・うん。」
海野「でも、生きてれば絶対また会える。そう思うんだ・・・」

学食に入ってくる華白崎。
華白崎「生徒会長・・・ちょっと。」
ちおり「どしたの?」
華白崎「校門にやっかいな不良がいます・・・今マッスル山村先輩が対応していますが・・・
どういたしましょう・・・」
ちおり「花原さん、爆弾投げる?それとも屋上から落とす?」
花原「いやよ・・・怖いもん・・・」

『青春アタック』脚本⑭合縁奇縁

深夜
文部大臣の邸宅。
暴走族が集合し、邸宅の周りをバイクでグルグル回っている。
「ブンブンブブブン!!卒業式!1回!卒業証書!2枚・・・!」

カーテン越しに外を眺める文部大臣
妻「あなた・・・警察に通報したほうが・・・」
明智文部大臣「無駄だよ・・・警察が到着する頃には消えているさ・・・
それに・・・警察にもとっくに息がかかっているだろう・・・」
娘「どういうこと・・・?」
文部大臣「あれはメッセージさ・・・今度の大会に余計な口を出すなという・・・」

波止場にある廃倉庫に入っていく暴走族。
パラリラパラリラ~と爆音を鳴らす。

廃倉庫の中にはロシア女が一人だけいて、ドラム缶の上に片膝を立てて座っている。
暴走族の総長が大勢の部下を従えて凄みをきかせて入ってくる。
ロシア女に話しかける総長「・・・約束の金を出せ、狩野(かるの)レイ。」
狩野「・・・それは約束を守った人が言う言葉・・・」
総長「ああ?てめえ、関東最大の暴走族のヘッド呼び出しといて、コケにすんのかこの野郎、ぶち殺すぞ!」
大勢の暴走族が狩野を取り囲む。
狩野「暴力はいけないわ・・・」
にやりと笑う総長。
総長「俺は暴力が好きだぜ・・・」
すると、総長をとりかこむ暴走族。
突然の部下の裏切りに慌てる総長「・・・!な、なんだてめえら・・・!!」
囁くように狩野「・・・私をぶち殺すんじゃなかった・・・?」
総長「・・・はは・・・冗談だよ・・・悪かったよ・・・」
狩野「そう・・・それならよかった・・・」
ドラム缶から降りて、総長に近づいてくる狩野。
総長「・・・・・・。」
総長が警戒して懐のナイフを探る。
すると、狩野がその手を咄嗟につかみ、総長の股間にナイフを刺してしまう。
真っ赤に染まるズボン。
慟哭する総長「ぎゃああああ・・・お母ちゃん・・・!!」
狩野「私も暴力は好きなの。」
激痛で倒れる総長。
そこに狩野がバイクを蹴り飛ばし、総長を潰してしまう。
狩野「隠れ家に爆音で来る馬鹿がいるかよ。」
恐怖で凍りつく暴走族。

怯えながら狩野に声をかける暴走族の副長「か・・・狩野さん・・・」
狩野「レイでいいよ・・・」
副長「レイさん・・・破門戸さんから、バレー大会の選手名簿が届きました・・・
確かに出場しているそうです・・・」
狩野「本当に・・・?」
副長が資料を渡す。
封筒を開ける狩野。
笑顔になる狩野「ホントだ・・・」
資料には、海野美帆子の写真が入っている。



白亜高校の学生寮。
海野の部屋のキャビネットには、両親と弟との家族写真の隣に、中学時代にバレーの大会で撮った記念写真が立ててある。
そこには、海野と狩野が写っている。
海野「中学時代か・・・そういや、レイちゃん今頃何してるんだろう・・・」



1993年神戸――
中学校の教室
海野「千葉県から転校しました海野美帆子です。好きなスポーツはバレーボールです。
みなさん仲良くしてください。」
教師「よろしくしたってな!」
ひそひそ話をする生徒たち
「なんやあいつ、坂東の人間か、ディズニーランドをなわばりにしとるからって、なめくさりやがって・・・」
「あいつ、金持ちらしいで。見てみい、あの世間知らずそうな顔・・・はらたつ。」

海野(わたしが転校した中学校はいわゆる下町の学校で、貧しい町工場の子どもが多かった・・・)

女子「なあ、あいさつ代わりに、畿内のしきたりを教えてやろうやないか・・・」
「よっしゃ!いっちょ、しばいたるか・・・!!」



学校の屋上
嬉しそうに階段を上って屋上へ向かう海野。
海野「ありがとう!私が立ち上げた女子バレー部に入部してくれるなんて・・・
一緒に大会で優勝を目指そうね!」
海野を取り囲む女子たち「ああ・・それはうそや。
誰が、お前みたいなよそ者の下でバレーなんかするかい。」
海野「・・・え?」
女子「お前んち金持ちなんやろ、とりあえずウチらに5000円ずつくれや。」
海野「神戸市って友だちを作るのに料金が発生するの・・・!?」
女子「誰がお前と友だちになるかい!!」
「いてまうぞコラ!」
海野「ご・・・ごめん、私みんなに失礼なことしちゃったかな・・・」
女子「そのしおらしい態度がむかつくんじゃ!関西のもんを下にみやがって・・・!
生まれて今まで人にいじわるとかしたことないんか!!」
海野「い・・・いじわる・・・?いじわるとは・・・?」
女子「特定の人物に対して、とおせんぼとか、なかま外れとか、ぶったり蹴ったりとかして、あわよくば泣かしてしまおうっていう、人間なら誰しも通る所業や・・・!」
本気で悩む海野「う~ん・・・あったかなあ・・・
たーくんを泣かしちゃったことはあったかも・・・」
女子「たーくん?」
海野「あ、わたしの弟です・・・
たーくんは今度小学校なんだけど、まだおむつをしてて・・・」
女子「・・・なめとんか!やっちまえ!!」
海野をリンチする女子たち。
うずくまる海野「痛い痛い!!やめてよ・・・!」

その時、給水塔から起き上がる巨体の女。
?「・・・眠れない・・・」
女子「なんやお前は!」
「うめちゃん、あいつも転校生や!」
「ロシアから来た狩野や!」
海野「狩野・・・?」
狩野「・・・せっかく静かに落ち着ける場所をみつけたのに。」
給水塔から降りてくる中学時代の狩野。
すくっと立ちあがると、身長は170センチ以上はある。
その巨体に驚く女子たち「なんじゃあ、ごっついな!!」
「お前本当に13歳か、巨人ちゃうんか!!」
傷だらけの海野に目をやる巨体の転校生。
狩野「・・・同族になんてひどいことを・・・」
女子「じゃかしい、黙っとけ、この外人。
ここはおめえらが来ていい国じゃねえんだ!」
狩野「・・・うん・・・ひどい国ね・・・」
女子「なんやと!?日本に喧嘩売ってんのか?」
狩野「私は喧嘩はしない・・・」
相手がひるんだと思って笑う女子「へっ・・・びびったか・・・」
狩野「私がするのは・・・」
そういうと、ボス格の女子の脚をつかんで持ち上げてしまう。
パンツ丸見えで逆さになるボスの女子。
女子「あああ、うめちゃん!!」
股間を手で隠すうめちゃん「きゃああああ!なにするんや!やめろ!!」
すると、そのまま屋上の手すりを乗り越えて、5階からうめちゃんを落下させようとする。
恐怖で失禁するうめちゃん「う・・・うわあああああ!!!やめて・・・!死にたくない!!」
狩野「・・・殺し合いよ。」
海野が狩野の巨体にすがりつく。
必死に女子をかばう被害者の海野
「だいじょうぶ!わたしはもうだいじょうぶですから!!勘弁してあげてください!」
狩野「・・・落としてみない?」
海野「みない!みない!!」
いじめていた女子たちの方を振り向く海野「・・・ほらみんなも!!」
女子たち「あたしたちが全面的に悪かったです!許してください!!」
狩野「・・・そう。わかった。」
土下座する女子たち「ありがとうございます!!」
一瞬場の空気が緩む。

狩野「・・・でも落とすけど。」
脚をつかんでいた手を放す狩野。
うめちゃんは絶叫しながら落下していく。
あまりの光景に失神したり、吐いたり、号泣する女子たち。
屋上から出ていく狩野
「・・・人類が暴力を禁止している理由が分かったかしら。」
海野は、うめちゃんが落ちていったほうを、おそるおそるのぞく。
すると、中庭の木にうめちゃんが引っかかっていることに気づく。
息を吐く海野「・・・よかった・・・」
女子たちに声をかける海野
「じゃ、じゃあ・・・とりあえずみんな無事だったことだし、あらためてバレー部の入部について話し合おうよ!」
涙を流す女子たち「こ・・・こいつも狂ってる・・・!!うわああああ!!」



昼休み。
校舎の裏で一人でパンを食べている狩野。
駆けてくる海野「狩野さ~ん・・・!」
狩野「あなたはさっきの・・・」
海野「こんなところにいた・・・捜しちゃったよ・・・」
狩野「私に何か用・・・?」
海野「さっきの・・・お礼が言いたくて・・・ありがとう。」
狩野「・・・そんなことでわざわざ・・・怪我は大丈夫だった?」
海野「うん、こんなのへっちゃら!バレーボールやってるし!」
狩野「・・・あなた変わってる。」
海野「そうかな・・・となりいい?」
狩野「・・・どうぞ。」

狩野の隣の芝生に座る海野。
海野「私は美帆子・・・海野美帆子です。千葉から転校してきたんだ・・・」
狩野「レジーナ・カルノヴァ・・・こっちでは狩野レイだから・・・レイでいいわ・・・」
海野「よろしくね、レイちゃん!」
狩野「・・・この国で私に親しく近づいてきたのはあなたが初めてよ、海野さん。」
海野「そうなの?」
狩野「だいたい差別するか、怖がるかのどちらかだから・・・
いえ・・・もしかしてその二つは一緒なのかもしれないわ・・・」
海野「日本を嫌いにならないでね・・・でも確かに驚いちゃった。
めちゃくちゃ強いんだもん!」
狩野「両親が特殊な職業についていたのよ。」
海野「へ~どんな?」
狩野「父が鉄砲の通信販売、母が腕利きの殺し屋。どっちも殺されちゃったけどね。」
ドン引きの海野「・・・・・・。」
微笑む狩野「冗談よ。
それに私は特段強くはない・・・みんな本気で戦う覚悟がないだけ・・・
ちょっと脅せば相手は従うと思っている・・・相手が殴り返すかもしれないことを忘れてる・・・」
海野「・・・どこでそんなこと習うの?」
狩野「・・・知りたい?」
頷く海野。
狩野「私の国はね、今戦争をしているの・・・」
海野「・・・え?」
気持ちよさそうに背伸びをする狩野「・・・やっと、静かに落ち着ける場所を見つけた。」
海野「ねえ・・・私でよかったら・・・友達になってくれないかな・・・」
狩野「わたしと・・・?・・・いいの??」
明るく微笑む海野「わたしもこっちでは友達がいないし・・・一緒にご飯を食べようよ。」
狩野「・・・うん。」



海野(すぐにわたしたちは親友になった・・・
レイちゃんは、よく私の家にも遊びに来てくれて、家族ぐるみの付き合いになったんだ。)


海野「お待たせ。レイちゃん、はいこれ。あげる。」
狩野に何かを渡す。
狩野「なにこれ?」
海野「お揃いのポケベル。お父さんに買ってもらったんだ。
(ボタンを押す)こうするとメッセージがやりとりできるんだよ!」
狩野「ありがとう。これで、この国でスパイ活動ができるわ。」
海野「レイちゃんが言うと冗談に聞こえないから・・・」

中学のバレーの大会
トスをする海野「はいっ!」
海野のボールを受けてアタックを決める狩野。
ホイッスルがなる。
ハイタッチをする海野と狩野。

海野の親がカメラを構える。
海野のお母さん「とるよー!」
写真に収まるユニフォーム姿の海野と狩野。

海野「ねえ・・・レイちゃん。」
狩野「・・・うん。」
海野「高校でも一緒にバレーをしようよ。」
狩野「いいよ・・・」
海野「約束だよ。」



現在。
中学時代の写真を眺める海野
「約束・・・守れなかったな・・・」
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