『80日間宇宙一周 The Stargazer』脚本⑦

トートの中央の広場にある噴水。
噴水に座って珍しく一人でぼんやりとしているライト。
ライト「どうすりゃええっていうんや・・・」

ライトに近づくミグ「お父さん・・・ギャングに殺されるぞ」
ライト「しゃあないやろ、母さんがほっとけちゅうたんや」
「あまり人の家庭に口を出したくはないんだが・・・許してくれ。」
ライトの隣に座るミグ。
微笑むミグ「冥王星人って意外とおせっかいなんだ」

家族のことを話し始めるライト
「ああ見えても若い頃は二人でスタータブレットを探していたんや。
母さんが古代文明の文字を解読する際に訪ねていったのが教授の研究室やったから・・・」
黙って話を聞くミグ。
「教授が出て行ったあと、母さんは女手一つでオレを育ててくれて、大学まで行かせてくれた。
母さんには感謝してるけど・・・母親というよりは・・・学校の先生みたいやった。
母さんはどんなことが起こっても“書斎にいる”んや・・・
あの頃のオレは親から自立したかったし、何事にも動じない母さんの気が引きたかった。
だから戦争が始まった時、レオナと一緒に家を飛び出したんや・・・」
「それでお母さんに後ろめたさがあるんだな・・・」
「今考えればアホなことをしたわ。オレら親子は二度も母さんを置き去りにしてしもうた・・・」
「私思うんだ・・・自立や独立っていうのは、これまでの関係をすべて絶って自分ひとりで生きていくことじゃないんじゃないか?」
「・・・・・・。」
「私は20年間たった一人で生きてきた・・・いや、周囲には私を気にかけてくれる仲間もいたのに、彼らの声を無視し続けていたんだ・・・大切な人を再び失うのが怖かったから・・・
後悔してる。
あの20年は二度と帰ってこないけど・・・でも、そのおかげで今の私がいる。」
噴水から立ち上がるミグ
「いくら自分を傷つけても過去は変えられない・・・でも・・・過去は過去なんだよ」
「・・・・・・。」
微笑むミグ「ま、これは私が尊敬する人物の言葉だが。」
「所さんやないんか・・・」
「ひとりで抱え込むなよ。さみしいじゃないか。私だって力になりたいんだ。」
鼻歌を歌いながら教会に戻っていくミグ
「♪梅雨どきに元気なのはカタツムリ~元気なのに遅い」

幼い頃の父親との思い出を思い出すライト
公園でライトがクラスの悪ガキにバカにされる
「お前の親父はホラ吹きや!」
「神が四角い板なんて本気で言うとるけど、頭おかしいんちゃうんか!」
「そんなもんあるわけないやろ」
自分の息子がいじめられるのを見かけるクリス。
子どもたちに割って入る勇気が出ない。

公園でひとりで泣いているライト。
公園に入ってくるクリス。
ライト「お父さん・・・お父さんは嘘つきじゃないよね??」
ライトの頭を撫でて微笑んでうなずくクリス「ああ・・・」
いじめられたライトを肩車するクリス「パパは必ずスタータブレットを見つけてみせるからな」
「約束だよ」
「ああ・・・約束だ・・・」




教会に入ってくるライト
「・・・母さん、あのバカ親父を捕まえに行くで。」
マーガレット「冗談じゃないわ・・・」
ライト「いつまで意地張ってるつもりや!
・・・確かに教授はどうしょうもないやっちゃ。
でもどうしょうもないやつなら見捨ててええんか?オレたちは家族やろ。」
「あなたをあんな目に遭わせた男よ?」
「それでもオレにとっちゃたった一人の父親なんや・・・」
「ならあなたが一人で迎えに行きなさい。」
「いや、あかん。オレたち3人でスタータブレットを見つけるんや。」
「・・・何考えてるの?」
「親孝行や」



スターライン運河
モーターボートで運河を下るライト、マーガレット、ミグ。後ろではケセドが舵を取っている。
ライト「まずはコロシアムに行ってくれ。オレの船がそこにあるんや」
ケセド「了解」
EM銃の手入れをするミグ。
マーガレット「随分物騒なものを持っているのね」
ミグ「ライトの話によればコロシアムにはクモの怪物がいるそうなんです」
ケセド「ハインラインスパイダーだ。」
ミグ「ハインラインスパイダー?」
ケセド「木星最大最強の肉食動物だ。巨大で俊敏。厄介なやつだ・・・
古代木星では異教徒をコロシアムに閉じ込めて彼らの餌にしていたそうだ」
弾を装填するミグ「やっつけてやりましょう・・・」
ため息をついて本を開くマーガレット

川を下っていくと巨大なコロシアムが見えてくる。
コロシアムの入口でモーターボートを止めるケセド。
コロシアムを取り巻く景観は以前とはうって変わっており、運河の真ん中で浅く水に浸かっている。
ミグ「美しくも不気味な静けさってところだな。例の怪物は見えるか?」
双眼鏡を取り出すケセド「待ってくれ」
ライト「水に流されたってことはないんかな」
双眼鏡を構えるケセド「それならばありがたいが・・・」
コロシアムの奥にリンドバーグ号が水に浮いている、
ケセド「船はあったぞ」
ミグ「動くのか?」
ライト「海王星の一件以来防水処理はした。
問題はつまった砂と凹みやけど、どうにかなるやろ。」
マーガレット「遠いわね・・・あそこまで行けない?」
ケセド「モーター音で怪物に気づかれたら危険だ」
ライト「ならいい考えがあるで」

コロシアムの中央部へ進んでいくモーターボート。
折れた巨大な柱の影からハインラインスパイダーが姿を見せる。
八つの目でボートを凝視するクモの怪物。
進み続けるボート。柱の影で全く動かないハインラインスパイダー。

だしぬけにボートに猛スピードで突っ込んでいく巨大グモ。
アメンボのように水面を滑り、脚は水を弾く時以外はほとんど動かしていない。

ボートの方に怪物が引き寄せられるのを見てコロシアムの奥へ走っていく一行、
「よし今や!母さんから行って!」
ブツブツ言いながら走り出すマーガレット「あんな生き物絶滅すればいいのに・・・」

ボートにあっさり追いつき大きな顎で捕まえるハインラインスパイダー。
脚と顎でボートを叩き壊していくが、獲物の姿はない。激怒する怪物。
「キシャー」
コロシアムの奥を振り返るハインラインスパイダー。
見るとリンドバーグ号に人間が乗り込もうとしている。

リンドバーグ号にマーガレットを乗せるライト。
ライト「急げ母さん!」
マーガレット「段差が・・・」
リンドバーグ号の前でクモを見張るミグ「まだかライト!」

コックピットに乗り込むやいなや計器を操作するライト
「頼むで、動いてくれ・・・!」

ボートを放り投げてハインラインスパイダーが猛スピードでリンドバーグ号へ向かってくる。
ミグ「速い・・・!」
EM銃を構えて、狙いを付け接近する怪物に向けて撃つミグ。
プラズマ化した銃弾はクモの頭部に命中するが、ひるまず突っ込んでくる。
ミグ「EM銃が効かない!!??」
クモをアサルトライフルで銃撃するケセド「脚だ!脚の関節を狙え!!」
銃撃をものともせず、どんどんリンドバーグ号に近づいてくるハインラインスパイダー

意を決するケセド「・・・私が囮になる」
ミグ「バカな!あなたも!」
ケセド「だが同じ戦士として誓ってくれ。
セレマの意志に従い、マルドゥクの野望を阻止すると・・・!」
ハインラインスパイダーのほうへ駆け出すケセド。
ミグ「ケセド!」
ケセド「頼んだぞ!」

ハッチから身を乗り出すライト「ミグ乗れ!!」
ケセドを援護射撃するミグ「彼を見捨てられない!」
ハインラインスパイダーを至近距離で銃撃するケセド「うおおおおお!」
クモはケセドを顎で挟んで軽々と持ち上げる。
ケセドは構わずEM銃でもろくなった外骨格を銃撃し続ける。
ハインラインスパイダーの鋏角の一つが吹き飛び青色の血が吹き出る。
加勢しようとするミグ「ケセド!」
ライト「ミグ!ここでみんなやられたら何のためにあいつは命を捨てて戦ってるんや!」
ミグ「・・・・・・!」

コロシアムから離陸するリンドバーグ号。
断末魔の叫びを上げて大地に崩れるハインラインスパイダー。水しぶきが上がる。
コロシアムでハインラインスパイダーと刺し違えるケセド。
仰向けになって太陽を見つめるケセド「神よこの命返すぞ・・・」



扉の神殿――アストライア大神殿。
スターライン運河の先にあるガニメデ大瀑布の中央にある、四方を滝に囲まれた神殿。
神殿は水上の四角い広場の上に建設されていて、人工島のようになっている。
ボートから降りて、神殿に積荷を下ろすギャングたち。
水しぶきと霧で虹がかかっている。
古地図を確認するマルドゥク「ここだ・・・ついに見つけた・・・」
広場の中央には「女神の聖域」と呼ばれる、奇妙な石柱に囲まれた祭壇のようなものがある。
祭壇の床には、絵文字のような記号が書かれたスイッチのようなものが規則正しく並んでいる。
直径50センチほどの円形のスイッチの数は11で、各スイッチは石畳の床の隙間に埋め込まれたエネルギーを供給するチューブのようなもので繋がっている。
石柱の数も11だ。そのさらに奥にはオベリスクが建っている。
ギャング「これは・・・?」
マルドゥク「鍵穴だ」
祭壇の中央には星の欠片を捧げる台がある。
星の欠片(オリハルコン)を取り出し台座に置こうとするマルドゥク。
クリス「本当に置いてしまうのかな」

女神の聖域に歩いてくるクリス。
銃を突きつけるギャングたち「クリストファーてめえ・・・!」
マルドゥク「生きてたのか・・・」
ギャング「引田天功みたいなやつだ・・・」

台座を見つめるクリス
クリス「伝説の墓荒らしローズ・シュナイダーを覚えてないかね」
マルドゥク「なに?」
クリス「200年前、トートの礼拝堂からアストライア像の宝石を盗み出し、この聖域にかざした。
今のキミのように・・・どうなったかね?」
マルドゥク「・・・脅しているのか?」
クリス「忠告だよ」
部下にオリハルコンを渡すマルドゥク。
「ありがとよ。だがお前には、これはやらねえ。(部下に)お前がやれ。」
オリハルコンを台座にセットする手下のギャング。
台座にカチリとはまったオリハルコンの結晶に地面からエネルギーが注入される。
石畳の床をはうチューブにもエネルギーが流れ込み、赤く光り出す。
祭壇を取り囲む石柱が音を立てて左右にスライドしていく。
マルドゥク「なにが起こるんだ・・・?」
だしぬけにオリハルコンの結晶から赤い光線が四方に飛び出す。
その光線の一つが動き続ける石柱の反射板にあたって跳ね返り、台座の方に立っているギャングの体を貫く。
叫び声を上げるギャング。ギャングの体は熱されて、どんどん炭化していく。
石畳の床に倒れるギャングだった炭。その衝撃で粉々になった炭は風でどこかへ飛んでいく。
台座からポトンと落ちる星のかけら。
クリス「ほらね・・・」
マルドゥク「てめえわかっていたのか・・・」
クリス「NG例だけね・・・愚かな墓荒らしは正義の女神によって裁かれる」
星の欠片をクリスに放り投げるマルドゥク「じゃあ今度はお前の番だ」
星の欠片を受け取るクリス
マルドゥク「裁いてもらえ」

『80日間宇宙一周 The Stargazer』脚本⑥

グランド・イクリプスダム
ライト「楽しめるわけないやろ!」
クリス「でもめったにないぞ、ダイナマイトでダムごと爆死って経験は」
総延長2000キロもあるグランド・イクリプスダムの秘密のエリアにある何百年も使われていないクレストゲート(頂上水門)にダイナマイトごとくくりつけられているライトとクリス。
封印されたゲートには枯れたツタがからまり、マルチプルアーチは古代の要塞といったおもむきだ。
眼下に広がる黄金色の砂漠の海はゲートから何キロも下にある。
ライト「お前本当にぶっ飛ばしたるからな!」
ギャング「てめえら静かにしろ!」
ゲートに取り付けられた作業用の足場から二人の様子を見物するマルドゥク
「やらせておけ。死んだら親子ゲンカもできねえ・・・」
ギャングがマルドゥクのもとに二人の所持品を持ってくる
マルドゥク「さて・・・オレの小惑星から持ってったものを返してもらうぜ・・・」
クリス「やだ、エッチ!」
クリスのバックパックをひっくり返すマルドゥク
バッグの中から虫メガネや恐竜図鑑、星座早見盤やバナナが落ちてくる。
空になったバックパックの二重底から小惑星のかけらを奪い取るマルドゥク
マルドゥク「昔からあんたの隠し場所は変わってねえな・・・」
小惑星の結晶はオレンジ色に輝いている。
「これが“星の欠片”クリスタルオリハルコンか・・・20年かかってやっと手に入れた・・・」
クリス「場所を特定して掘り出したのは私だぞ」
「だが今はオレのものだ」
星の欠片を首にかけて立ち上がるマルドゥク
「世話になったな教授。
あんたが20年前学会で恥をかいたおかげでオレには夢が出来た。」
クリス「夢・・・?」
背を向けるマルドゥク「力だ」
クリス「あれ、行っちゃうの?」
マルドゥク「スターライン運河は頼むぜ。」
親子にくっつけられたダイナマイトの導火線に火がつけられる。
立ち去るギャングたち。

ダムに取り残されるふたり。
クモによって二人一緒に足の先までぐるぐる巻きにされ、ダイナマイトをくくりつけられた二人の体。
ライト「・・・おいどうするんや」
クリス「決まってるだろ。取られたものは取り返す」
ライト「同感や」
ギャングがいたステップから導火線の火がクレストゲートに近づいてくる。
クリス「キミは工科大学に行ってたよな」
ライト「中退したけどな」
「導火線の火って息で吹き消せるかな?」
「お誕生会ちゃうぞ、今の導火線は水でも消せないんや・・・
おいこの体勢のまま、あそこの日向に向きを変えれるか・・・?」
クリス「なんで?」
ライト「いいから!せ~ので右に飛ぶで」
クリス「わかった」
ライト「せ~の・・・ぎゃっ」
タイミングが合わず二人ともども転んで地面に顔をぶつけるライト
「お前どっち飛んどんねん!右って言ったやろ!」
「私にとっての右じゃないの!?」
「日向はこっちやんけ!ダムから落ちるとこやったわ!」
「わりわり!」
体をギリギリまでそらし日向に顔を向けるライト。灼熱の太陽がライトを照らす。
クリス「なにするんだ」
ライト「クモの糸って何でできてるか知ってるか?」
クリス「すまん、今週のむしむしQ見てなかった・・・」
ライト「スピドロイン・・・タンパク質なんや。つまり・・・」
フライトゴーグルのレンズが光を集め体に巻き付いた蜘蛛の糸を暖めていく。
腕の力で強引にクモの糸を引きちぎるライト「紫外線で劣化する。」
立ち上がるライト「助かったでレオナ・・・」
クリス「さすがマサチューセッツ工科大学!天才!」
ライト「いい息子を持ったやろ!」
クレストゲートに立ち、肩を組み太陽を見上げる二人「ニャハハハハハハ!」
ライトのフライトゴーグルが集めた光が地面の導火線に火をつける。

大爆発



ラクダのようなナナフシに乗ってダムから離れるギャング。
背後でダムが爆発し放水が始まる
双眼鏡でダムの決壊を確認するギャング「死にました」
マルドゥク「これでもう邪魔する奴はいない・・・」



トートの凱旋祭
中央の広場で人々がゼウスの帰還を祝福し踊っている。
子供たちと踊りながらミグにダンスの振り付けを教えるサーシャ
「そんな難しい振り付けじゃないわよ。
各振り付けはそれぞれの惑星に対応しているの。海王星はこう(片腕を上げる)、天王星は一回転してバックステップ・・・そして冥王星――あなたの星ね、それは体を右にひねってこう。
最初のステップは西からよ。」
サーシャの真似をして踊るミグ。
最初はたどたどしかったが徐々に踊りのコツを掴んでいく。
徐々に曲に合わせてペースアップしていく舞い。
サーシャ「上手よミグ・・・!」
ミグの美しい踊りに見とれて人が集まってくる。
ミグを見つめるケセド「美しい人だ・・・」
マーガレット「本当ね・・・私の子にはもったいないわ・・・」

サーシャ(トートは超古代都市コロナドから帰還したゼウス一世が旅の疲れを癒したとされる街なのよ)
ミグ(なぜゼウスは神の力を捨ててまでコロナドから帰還したんだろう・・・?)
サーシャ(この町に伝わるアストライアの伝説はご存知?)
ミグ(いや・・・)
サーシャ(正義の女神アストライアは人間の王ゼウスに恋をしてしまったの。
アストライアは神の掟を破り、ゼウスと限られた時を愛し合った。
その後、アストライアを忘れることができなかったゼウスは、長い旅の末、人間と神の世界をつなぐ光の都コロナドを探し出した。しかし神々はコロナドに人間が立ち入ったことを許さなかった。
神の名を汚したアストライアはコロナドから追放され、その扉の外でゼウスの帰還を待ち続けた・・・
長い年月が流れ、ゼウスがコロナドから帰還した時、ゼウスは若さを保ち、アストライアは老いていた。
皮肉にもアストライアは人間に、ゼウスは神になっていた・・・)


踊り続けるミグ。
気がつくと街の全ての人が踊るミグを見つめている。

ミグ(ゼウスは老いたアストライアを愛してくれたのかな・・・)
サーシャ(言い伝えでは二人の結末は残っていないけれど・・・きっと・・・)


音楽が終わり、踊りきるミグ。
ミグに拍手が送られる。
ミグ「え・・・?」

その時、砂漠の海に大量の水が流れてくる。
枯れたスターライン運河は水で見る見るうちに満ちていく。
四方を水に囲まれていく港町トート。
住民「水だ!砂の海に水が満ちた・・・!」
「奇跡だ!」
「女神の舞いのおかげだ・・・!」
ミグを拝むお年寄り
ミグ「えええ!?」

「うわ水死体も流れてきた!」
「いや生きてるぞ!」
ミグ「えええええええ!!!???」



トートの教会。
応急キットをしまうサーシャ「とりあえず応急処置はしたけど・・・」
ミグ「ありがとう」
サーシャ「ライトに言っといて。これで借りは返したって」
無線機を置くケセド「私とシスターは外にいる」
ミグ「すまない大佐・・・」
サーシャ「いきましょう」
部屋から出ていく二人。
ベッドに横たわる傷ついたライト。
意識が回復しない。
「ライト・・・」
泣きながらライトの上半身を抱きかかえるミグ
「こんなことになるなら自分に素直になればよかった・・・!
私はあなたのことをあ・・・」
ライト「痛いよミグ・・・」
驚いてライトを離すミグ「うわまだ生きてた!」
ベッドに頭をぶつけるライト「ぎゃっ!」
ミグ「あ、ごめん!」

ライト「ミグ・・・ずっと言いたかったことがあるんや・・・ええかな・・・?」
ミグ「え?」
「母さんを守ってくれてありがとう・・・」
「・・・どういたしまして・・・」

ライト「それより教授は・・・?」
ライトのとなりでベッドに横たわっているクリス。
ショックを受けるライト「教授・・・」
ベッドから飛び起きる「ふあ~!よく寝た!はい、じゃあクリスの冒険第三章はじまるよ!」
ライト「寝てたんかい!」
服とフェドーラ帽を素早く身に付け部屋から出ていこうとするクリス。
手招きするクリス「さあみんな、表へ出な!(C)テリオスキッド」
だが部屋のドアの前にマーガレットが立ちふさがっている。
別れた妻に気づくクリス「あ・・・」
ライト「あ、これアカンやつや」
シーツをかぶってベッドに潜り込むライト
クリス「マーガレット・・・」
マーガレット「悪い子ねクリス」

夫婦喧嘩が始まる。
正座させられて一方的に叱られているクリス。
ベッドの中からミグに囁くライト「・・・ミグ止めてくれ・・・!」
ミグ「え?なんであたしが!?」
「オレが言ってもこいつら聞かへんねん」
恐る恐る二人に近づくミグ「と・・・とりあえず一回離れましょう
(私なんでこんなことしてんだろ・・・)」
手を振り上げるマーガレット「いや一発いかせてちょうだい
結婚してすぐに子供を私に押し付けて失踪した男よ。」
ミグ「暴力はいけません・・・!許す強さがあれば人は分かり合えることが・・・」
マーガレット「家族だからって分かり合えるわけじゃない!」
ひるむミグ。ライトの方を向いて涙目で首を振る(ムリだよ・・・)
マーガレット「まったく、こんな男と結婚するんじゃなかったわ。あなたが家族を省みたことがある?
子供のことを考えたことがあるの?」
クリス「あ・・・」
「いえ答えなくて結構。考えたことないわよね、あなたはいつも自分のことばかり」
「自分のために生きてたらこんなことしてないだろ、私は宝のために生きてるんだって。」
呆れてため息をつくマーガレット
「その夢が大切なのはあなただけよ。私たち家族の夢じゃない・・・
確かに、若い頃はあなたの野心的で勇敢なところに惹かれたけれど・・・
子供を出産して私は変わったの。母親になったのよ。
でもあなたは変わらなかった・・・
あなたはあのタブレットに取り付かれている。
この星のギャングと変わらないわ。」

ドアを開けるクリス「わかったよ・・・もうキミら家族には迷惑をかけない。
これからは私一人でやるよ」
マーガレット「勝手にしなさい。でも二度と私と息子に顔は見せないで。」
クリス「ああ・・・」
教会から出ていくクリス。
「おい、母さん!また教授が出てってまうで!」
「ほっときなさい・・・」
「せっかく家族一緒になれたのにええんか!?」
マーガレット「ほっときなさい!!」
ライト「・・・10年経ってもうちの家族は何も変わってへん・・・!」
部屋を飛び出すライト
ミグ「ライト・・・!」

『80日間宇宙一周 The Stargazer』脚本⑤

砂嵐が吹き荒れる砂漠のど真ん中に不時着しているリンドバーグ号
クリス「へくちん!・・・ったく誰か噂してるな~」
ロケットエンジンに詰まった砂をかき出しているライト
「教授、あんたも手伝えや!操縦桿奪って砂の中に突っ込んだのはお前やぞ!」
サングラスをかけて地図を広げるクリス「おかしいな・・・古地図によればアストライア大神殿はこのあたりの砂の中に埋まっているはずなんだけど・・・」
ライト「仮に埋まってても砂に突っ込むのはただの墜落やろ。」
クリス「だってお前がダムを爆破するのに反対するから・・・」
ライト「テロやないか。
もういい加減スタータブレットは諦めたらどうや・・・20年探しても見つからないってことはそもそもないんやって。どれほど周りに迷惑かければ気が済むねん。」
クリス「人間夢を諦めたら終わりよ。」
ライト「いや違うな。あんたは夢をあきらめないから終わってんねん。」
クリス「本当屁理屈は母さん似だな。
まあ心配するな。スタータブレットさえ見つかれば全部チャラになるって。
考えてみろ、この世のすべてが書かれてるんだぞ。ちょっとすごくね?
それは人類の叡智そのものだ。」
リンドバーグ号の巨大なエンジンブロックにスコップを突っ込むライト「また始まった・・・」
「ゼウスは超古代文明を探していた・・・それは土星のサタンのように死を恐れたからじゃない。
ゼウスは純粋に知りたかったのだ。
われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか・・・
そして果てしない旅の末ついにゼウスはそれを知った・・・私も知りたい。」
ライト「まずお前が考えるべきはオレがなんで生まれたかちゃうんか。」
クリス「それはあれですよ・・・有性生殖ですから、こ」
ライト「もういいもういい!そんな話聞きたくない!」
「キシャー」
ライト「手伝う気がないんならちょっと黙っててくれへんか?」
「キシャー」
ライト「気が散るねん!」
クリス「いや、私じゃない・・・」
砂丘の向こうを指さすクリス
双眼鏡をつかむライト「・・・どこや?」
クリス「見えなくなった」
双眼鏡で周りを確認するライト
砂嵐がやんで視界が開ける。
砂丘の先には傾いて砂漠に埋まった観客席が見える。
「おいよく周り見てみろ・・・あんたは神殿に突っ込んだんやない・・・
コロシアムや・・・」
直径3キロほどの円形闘技場の中心にリンドバーグ号があることがわかる。

「キシャー」
砂丘の向こうから聞こえる不気味な音が大きくなる
二人「・・・・・・。」
砂丘の向こうからカマドウマがぴょんと跳ねてくる。
息を吐くクリス「・・・ただのバッタだ」
そのカマドウマめがけて巨大なクモが突進し目にも止まらぬ速さでカマドウマを捕まえる。
大アゴにはさまれたカマドウマはもがくが、毒液を注入されて即座に風船のように膨らんで破裂する。吹き飛んだカマドウマの脚が二人の方へ飛んでくる。

ライト「うわ!クモの化物や!!」
クリス「ライト退治しろ!」
ライト「バカかスリッパでどうにかなるでかさちゃうぞ!」
カマドウマの体液をあっという間に吸ったハインラインスパイダーが二人の方へ近づいてくる。
クリス「武器武器!」
ライト「この前お前が全部使ったんやろ!」
二人の方にとんでもないスピードで突っ込んでくるハインラインスパイダー
クモをすんでのところでかわす親子。
クモはリンドバーグ号側面にぶつかり機体が大きく凹む。
ライト「にゃあああ!オレの船があああ!」
ライトのモノマネをするクリス「大丈夫大丈夫。また作ればええんや。」
ライト「あ~!もう我慢の限界や!!お前とはやってられるか~!」
クリス「なんだキミは父親に手を上げるのか!」
クリスに飛びかかるライト
ライト「うるさい!お前なんかオヤジちゃうわ!!この大冒険バカ!」
コロシアムの中で取っ組み合いの喧嘩をはじめる二人。
ライト「だいたいお前のせいで母さんが出てったんや!」
クリス「違うよ、私が出てったんだ!」
「なにがスタータブレットや、あんなもん、ただの古いまな板やんけ!」
「なんだと!?私を侮辱するのは構わないが、人類の叡智をまな板よわばりするのは許せん!
決闘だ!かかってこい!」
ぶっ飛ばされるクリス
「来年還暦の父を本当にぶったな、この野郎!」殴りかえすクリス
ライト「そんな強く殴ってないやろ!このバカ親父!」

ハインラインスパイダーが二人に向き直る。
クモの吹きつけた糸で二人一緒にぐるぐる巻きにされるライトとクリス
クリス「あらららら」
ライト「なんでお前とセットにされなあかんねん!」
クリス「・・・ごめんなライト、私父親らしいこと何もしてやれなかったけど・・・」
ライト「腹くくるの早!!」
長い脚で糸をたぐり寄せるハインラインスパイダー
ライト「くっ・・・!」
二人をアゴで挟む瞬間ハインラインスパイダーが二人を地面に落とす。
突然辺りを警戒するハインラインスパイダー
大地を揺らし、その場から立ち去っていく巨大なクモ。

ぐるぐる巻きにされたまま置き去りにされる二人
ライト「教授・・・なんか助かったで・・・」
クリス「え?マジ!?よっしゃあああ第二章の始まりだぜ!」

糸で縛られたまま砂の上で横になる二人の前に誰かが近づく。
頭上を見上げるライト
ライト「・・・第二章が始まるかどうかはまだわからんで教授・・・」
マルドゥク「言っただろクリストファー、また会おうぜってな・・・」
マルドゥクの背後には武装したギャングたちとそのキャラバンが並んでいる。



トートの教会
子供たちに支援物資を配るボランティアの若い女性。
「ハイペリオン基金」と書かれたダンボール
そこからおもちゃや衣服を取り出して一人に一つずつ渡していくシスター「神のご加護を」
子供「ありがとう」
ミグの横を子供が駆けていく
ミグ「転ばないようにね」
子供「うん!」
サーシャ「そう、またライトとはぐれちゃったの・・・」
ミグ「ああ・・・」
サーシャ「言っとくけど今度は私じゃないわよ」
ミグ「分かってるよ・・・しかしこんなところで会うとはな・・・」
サーシャ「皮肉なもので、惑星連合の和平合意によって難民が大量に出てね。
私たちも駆り出されたってわけ」
サーシャは土星で着ていたような肌を覆うローブではなく、ブーツにソックス、ショートパンツにTシャツといった動きやすいアウトドアスタイルをしている。
ミグ「なんでまた・・・」
サーシャ「植民地というタガが外れたことで独立した少数民族が互いに争いだしたのよ。
かえって紛争が増えたから兵器や武器の需要はうなぎのぼり。
ミラージュで大儲けしたサーペンタリウスは笑いが止まらないでしょうね・・・」
「和平合意のきっかけはミラージュの暴走だったもんな・・・」
「でも惑星連合の和平合意は・・・セレマの民族宥和政策は決して間違っていないわ。
平和への道のりは茨の道だけれど・・・いつかきっと、必ず報われる。」
「そうだな・・・」
「あなたは私にこう言ったわね。許す強さがあれば人は分かり合えることもできるって」
「え?」
「この星には女を贈与しあう部族だっているし、戦った相手を食べてしまう部族だっている。
言葉も文化も大きく異なる民族が互いに相手を認め合うためには、あなたの言うとおり許す強さが必要だわ・・・」
ミグ「甘っちょろい理想論だったのかな・・・」
「いいえ。私はあなたの言葉に救われているのよ。
報復の連鎖を繰り返すこの星には神が必要なの。例えそれがどんな形であっても。」
ミグ「なあ、神は本当に存在すると思うか・・・?」
サーシャ「あなたその質問をこの私に言う?」
ミグ「すまない。でも、どうやら本当にいるらしいんだよ。なんか神は四角いらしくてさ・・・」
サーシャ「神はいるから信じるものじゃない。信じるからいるものなのよ。」
ミグ「もし神に会ったらキミはどうする?」
微笑むサーシャ「・・・毎日会ってる。」

教会に入ってきて首を振るケセド
ケセド「ダメだ将軍、砂漠の船は全便欠航だ。アレゴリー教授には宿で待機してもらった。」
ミグ「足止めか・・・」
サーシャ「当たり前じゃない。今日は凱旋祭だもの。仕事は休みよ」
ミグ「凱旋祭・・・?」
サーシャ「あらそれでこの街を訪れたんじゃないの?」



街中で民族衣装をまとったパレードが始まる。
カテドラルの鐘が鳴り、花びらが舞い上がる。
教会の奥の小さな部屋でサーシャによって民族衣装に着替えさせられるミグ
ミグのネクタイをほどくサーシャ「そんなかっこう暑苦しいでしょう。
こっちのほうがあなたにはずっと似合う。」
ミグ「いや私はいいって・・・ダムに行かなきゃいけないし・・・」
サーシャ「どのみち今日は砂漠にはいけないわ。覚悟を決めなさい。」
ミグの胸元から青い宝石のついたネックレスを見つけるサーシャ
「あら、これはなに?」
「ああ、それは海王星でライトにもらったんだ・・・」
「綺麗・・・まるで女神アストライアのオリハルコンみたい」
「アストライア・・・」
「彼女よ。」
礼拝堂にある女神の石像に目をやるミグ
サーシャ「まあ胸のオリハルコンは何年も前に盗掘されちゃったんだけど・・・」
女神が両手を広げ美しく舞っている。胸には宝石がついていたらしいがえぐり取られている。
その台座には文字が彫られている。
ミグ「女神は神殿の扉を開き王の帰還を待ち続けた・・・何年も何十年も・・・」
サーシャ「・・・それにライトはこう言ってたわよ。」
ミグ「え?」
宝石をミグの首にかけるサーシャ
「しかめっ面ばっかりしてないで、少しは人生を楽しめって」

『80日間宇宙一周 The Stargazer』脚本④

リムジン
マーガレット「・・・あ、査読しなきゃいけない論文があったんだ、取ってきていい?」
ケセド「また今度にしていただけませんかね奥さん・・・」
ため息をつくマーガレット「は~・・・だからクリストファーには関わりたくないのよ・・・
あの男は例え離れていてもこっちに干渉してくるんだから」
ケセド「・・・強力な電磁波のような人だな」
意識を回復するミグ「う・・・」
マーガレット「眠り姫のお目覚めのようよ」
ミグ「どこへ連れて行くつもりだ・・・
その人に手を出したらライトが黙っちゃいないぞ」
ケセド「キミ達を傷つけるつもりはない。ただ会ってもらいたい方がいる」
ミグ「会ってもらいたい方?」
ケセド「セレマだ。」
ミグ「セレマ?」
マーガレット「まさか・・・」
ケセド「我が木星の偉大な父、ンゴロ・アルベド議長。」



アマルテア中心部――木星民族会議議長ンゴロ・アルベドの宮殿(夜)
宮殿の上空を飛ぶリンドバーグ号
ライト「誰の家なんや」
クリス「木星の偉大な父さ」
ライト「あんたと対極にいる人物ってことか」
クリス「言うよね~・・・でも私もなにげにいい父親だったろ?」
ライト「お前正気か。」
クリス「万が一にもうざい父親ではなかったはずだ。我が子を信頼し自由にさせたのだから」
ライト「つーかいなかったやろ」
クリス「・・・その点、私の父は厳しかった・・・私を規則でがんじがらめにした。
人を殺すなとか、人の物は壊すなとか、勝手に持ってくなとか・・・」
ライト「・・・当たり前やんけ。」
クリス「歴史上の偉人は大抵その全てをやっているんだよ、ハリソン・フォードでさえ」
ライト「あの人は演技でやっとんねん!いい加減にしろ馬鹿!」
クリス「やっぱ教育の仕方間違っちゃったのかなあ・・・」
ライト「まあいい。で、なんでそんな偉大な人物が母さん誘拐すんねん」
クリス「誘拐したんじゃないさ・・・これから会う人物はそんな小悪党じゃない。ずっと大物だ。」



宮殿の待合室
扉の向こうではたくさんのスタッフが夜までせわしなく働いている。
ケセド「セレマの執務が終わるまで、もうしばらくお待ちください」
ソファに緊張して座るミグ「セレマとは?」
マーガレット「氏族の名前ね。最高の敬意を表す呼び方よ。
ンゴロ・アルベド議長についてはご存知?」
首を振るミグ
マーガレット「少しは冥王星以外の新聞を読んだほうがいいわ。
人種差別が激しかったアマルテアで差別政策を撤廃した人物よ。
アマルテアの治安がここまでよくなったのはセレマのおかげってわけ。
ミグ「なんでそんな人が私たちを・・・」
マーガレット「さあね・・・愛と寛容の平和主義者として有名だけど、強い意志と決断力がある闘士でもあるわ。まあ、わざわざ宮殿に招待してくれたんです。とりあえず会ってみましょう。」
ケセド「それではこちらへどうぞ。セレマがお待ちです。」

宮殿内の大ホール
豪華な装飾が施されたホールの中心にアルベド議長が立っている。
アルベド「マーガレット・アレゴリー教授にミグ・チオルコフスキーさん。お会い出来て光栄だ。
急な招待を許してくれ。部下が手荒な真似はしなかっただろうか」
ミグ「いえ・・・」
マーガレット「ご招待にあずかりまして光栄です、議長」
アルベド「美しいお二人とゆっくり食事でもしたいところなのだが、なにぶん私も多忙の身なので無礼を許して欲しい。さっそく本題に入ろう・・・」
ケセドがうなずき壁のパネルを操作する。
「この星は今、歴史的に重大な分岐点に立たされている。
つまり民族の宥和に向かうか、血で血を洗う復讐の泥沼に向かうかの・・・
この機会を逃したら永遠に民族紛争はなくならないだろう・・・
ここで争いののろしが上がることは何としても避けたい・・・わかるかね。」
ミグ「・・・しかし・・・私たちと木星の社会情勢にいったい何の関係が・・・」
アルベド「ではお見せしよう」

ホールの壁が持ち上がり、中から巨大な石碑の写が現れる
アルベド「あなたがたが探していたのは、これではないのかな」
マーガレット「これは・・・小惑星の石碑に書かれていたものと同じ碑文・・・」
ミグ「え・・・?」
アルベド「その通りだ」
ミグ「なぜこれが・・・」
アルベド「教授はセバ族を知っているかね?」
マーガレット「アストライア大神殿を守る、いにしえの扉の民族・・・
しかし大神殿と共に彼らも遠い昔に滅びた・・・」
アルベド「大神殿を隠し、生き残っていたらどうかね?」
「なんですって?」
アルベド「私はセバ族の末裔なのだよ。」
マーガレット「アストライア大神殿が存在するって言うの?」
うなずくアルベド「スターライン運河の先に・・・」

アストライアの大神殿と迷宮は、探求者に試練を与えるであろう
星の運河を辿り、星の欠片を手にした女神の舞によって真実の扉は開かれるのだ


ケセド「これは政府の一部の人間しか知らない、機密事項だ。
しかしあなたのご亭主は小惑星からこの碑文を見つけてしまった・・・」
マーガレット「冗談でしょ・・・」
アルベド「私の部族は扉を守るだけだ。神に近しい存在がいるかどうかはわからない。
だが、我々の先祖がゼウスが封印した力を守ったように、その力を求め解放しようとする者もいた。
ケレリトゥス教授によって、その悪しき心の持ち主がスタータブレットの存在を知ってしまったのだ・・・」
ケセド「スマイル・マルドゥク・・・ニグレド族の末裔、その最後の生き残りだ。」
マーガレット「ニグレド族・・・古代木星に死と破壊をもたらした戦闘部族・・・」
ケセド「20年前からマルドゥクはメインベルトの小惑星を武力で支配し、その資源を一手に牛耳った。だが連中の本当の目的はレアメタルでも天然ガスでもなかった・・・」
マーガレット「それが、これだったってわけね」
アルベド「ニグレド族の手にスタータブレットが渡れば、平和への道を歩み出す我が星に大いなる禍が降りかかるに違いない。それだけは阻止せねばならない。」
ケセド「我々はキミ達の動向を監視しようと思っていたのだが、向こうの動きは思った以上に素早い。連中が国境に向かったという情報が入った。もう悠長なことはしていられないだろう」
ミグ「それで我々にどうしろと?」
アルベド「マルドゥクよりも早くスタータブレットを見つけ、回収してもらいたい」

バルコニーから宮殿内部の様子を双眼鏡で眺めるクリスとライト
ライト「おい、母さんを助け出さなくてええんか?」
クリス「いい、次の目的地がわかった。」
「どこやねん」
「港市国家パシファエ。グランド・イクリプスダムだ。」



港市国家パシファエ国境付近にある「デスファーブル野生動物保護区」
高さ6メートルにもなるフェンスには
「生物多様性なんてくそくらえ」「家族が虫に食われてから言え」
といったボードがくくりつけられている。

炎天下の空は乾いた地面をじりじりと焼き付ける。
巨大なカンガルーのように進化した全長2mほどのカマドウマの群れが跳ねていく。
広大な大地に敷かれた交易路を突き進むジープ。
ハンドルを握るケセド。地図を見るマーガレット。
ミグは外の巨大な昆虫を見つめている。

アルベド(我がセバ族は大神殿に至る運河を消し去った。
水路の流れを変えたのは、枯れた大地に灌漑用水を送るためでもあったが、伝説の運河を伝説のまま残すためでもあったのだ)


汗が流れるミグ。でもネクタイを緩めない。
ケセド「なにか飲むか将軍。冥王星と違ってこの星は暑いだろう?」
ミグ「いえ、結構・・・それで・・・」
ケセド「ああ、スタータブレットの話だったな。
スタータブレットとは最初の人類に知性を与えたとされる伝説の石版だ。
動物の中で唯一人類だけが高度な文明を築くに至ったのはこの石版の力が原因らしい」
ミグ「世の中にはそんなものがあるのか?」
席の後ろからぼやくマーガレット「ないからこんなことになってるんでしょ。」
ケセド「・・・まあ彼女のように、その存在を疑問視する意見が優勢だな。
しかし石版伝説はこの星では珍しいものではない。
木星王ゼウス一世は、超古代都市コロナドでスタータブレットを見つけ、この世のすべてを知ったという。宮殿にあったあの碑文はその冒険の物語を綴ったものだ。」
ミグ「・・・あのピカールもまるでそれが存在するかのように言っていた。
スタータブレットには近づくな・・・」
マーガレット「確かにそのとおりよ。近づくべきじゃなかった・・・」
ミグ「・・・大佐。あなたは本当にあると思いますか」
ケセド「それは神を信じているかっていうのと同じ問いだな。
正直にわかには信じがたいが・・・
古くからの伝承は“真実”を暗示していることが多い。
我々は過去を完全に消し去ることはできない。それらは物語の形であれ、文化風習の形であれ・・・
形を変えて残っているものだ。これも私の部族の古い言い回しだが。」
ミグ「・・・・・・。」
ケセド「石版が実在するにせよしないにせよ、マルドゥクをこのまま放っておくのは危険だ。
グランド・イクリプスダムは百年も前から水力発電によってアマルテアに電力を供給している。スターライン運河を見つけ出すためならギャングはダムすら破壊するだろう。
発電所を止めるなんて卑劣な真似を許すわけには行かない。そうだろう?」
ミグ「え?ええ・・・」
ケセド「着いたぞ・・・交易路の終着点、港町トートだ・・・」

パシファエにある小さな港街トート
四方を砂漠に囲まれた歴史あるオアシス都市で、中心には小さな教会がある。
その教会のそばには小さな井戸があり、紛争によって国を追われた難民たちが水を求めて長い列を作っている。
ボランティア団体のスタッフ「え~ただいま最後尾は300分待ちで~す!」
ミグ「ここのどこが港町なんだ・・・?」
ケセド「砂の海の港ってとこだな・・・ちょっと待っててくれ。私は現地のガイドを探してくるから。
ダムに行く前に砂の海で漂流したら一大事だからな」
人ごみに消えていくケセド。

教会の広場で水を待つ列を眺める二人。
家屋の日陰に入って座り、井戸からポンプで水を汲み上げる様子をぼんやりと見つめるマーガレット。
マーガレット「あなた・・・地球へ着いたら、そのまま息子とは別れてしまうの?」
ミグ「え・・・?」
マーガレット「ずっと息子のそばにいて欲しかったけど・・・残念ね・・・」
ミグ「息子さんには大切な恋人がいるそうですよ。
それに私は彼よりもずっと年をとっています。人種も違いますしね・・・」
マーガレット「息子はそうは思ってないみたいよ・・・あなたのことよく手紙に書いてる。」
「ライトが・・・?」
「太陽系の果てに、これまでの旅で出会った中で一番親切な人がいたって・・・
あなたにはずっと助けてもらってるって。」
「そんな・・・命を助けてもらったのはこっちなのに・・・」
「・・・あなた、ご家族は?」
「いえ、身寄りがないんです」
「そう・・・話しづらいこと聞いたわね」
「・・・家族がいれば喧嘩もできるんですよね・・・」
「離婚もね・・・」

『80日間宇宙一周 The Stargazer』脚本③

研究室の窓の外に高級車がやってきて止まる。
その後ろには無骨な軍用ジープが続く。
車両からぞろぞろと降りてくるスーツの男と屈強な男たち。

窓の外をぼんやりと眺める「さてと・・・そろそろ帰ってくれないかしら」
ライト「え?」
マーガレット「結論から言って・・・これは古代木星語よ。」
ミグ「木星?」
マーガレット「エッジワースカイパーベルトに文明はないわ。正直に言いなさい。
これはメインベルトの石碑でしょう?・・・あの男ね」
ライト「それは・・・」
「呆れた。まだスタータブレットを探しているのね・・・」
ミグ「スタータブレット???」
ライト「ま、まあでもあれが見つかれば教授も落ち着くと思うで」
プロジェクターからフィルムを外してそれを突き返すマーガレット
「もうその話はうんざり。スタータブレットなんてただのオカルトよ。
太陽系科学学会もそう断定したわ。」
ライト「でもこれはなんや?
もしかしたら教授は本当にスタータブレットまであと一歩ってところまでつかんでるんちゃうか?」
ミグ「スタータブレットって何??」
窓の外を見つめながら追い返すマーガレット
「どうでもいいわ。とにかくこれ以上は協力できません。帰ってくれない。忙しいの」



庭に着陸しているリンドバーグ号を確認する男たち。
無線で連絡する特殊部隊の隊員「例の宇宙船に間違いありません。」
大学に入ってくるスーツの男と屈強そうな背の高い黒人の男。
屈強な男「それで・・・いったい何者なんですか?」
スーツの男「彼らとは何度か会ってましてね・・・とっても面白い人物なんですよ。」
屈強な男「それが例のものを狙っていると?どうもわからないな。
我々が動くほど大物のようには思えませんが・・・」
スーツの男「くっくっく・・・まあそのうちわかりますよ。」
大学の受付に挨拶をする。
スーツの男「マーガレット・アレゴリー教授をお願いします」



研究室を強引に追い出される二人。
マーガレット「さっさとそのフィルムをもってここから離れなさい。
以後大学には戻ってこないように。出口はこの通路を右ね」
扉を閉めるマーガレット

ミグ「なんかにわかに怒られちゃったな・・・」
ライト「忙しいんやろ・・・それにあの人、教授とはいろいろあってな」
ミグ「いや、私が嘘をついたのが悪かったんだよ。
ごめんなライト、余計なこと言っちゃって・・・」
ライト「ええってええって。お前がいなかったら読まずに突き返されてたわ。
しかし、さすが名家の出は違うな・・・!」
「え?」
「いろんな文字知ってたやないか。ファイファイの円盤とか・・・オイラぜんっぜんや」
ミグ「ああ・・・大したことじゃないよ」
ライト「ニャハハまたまた!」
ミグ「後ろの黒板読んだだけだから」
ライト「・・・・・・」
ミグ「ごめんね。遺跡探検なんてしたことないんだ。私の趣味は家で一人で酒を飲むこと」
ライト「・・・帰ろうか、ミグ・・・」
ミグ「うん・・・」
大学から出ていく二人。



マーガレットの研究室
スーツの男と屈強な男が研究室に入ってくる。
スーツの男「失礼しますよ」
マーガレット「あらムッシュピカール・・・今日は懐かしい人ばかり訪ねてくるわね」
ピカール「・・・というと?」
マーガレット「いえ、こっちの話よ。お茶でもいかが?そこの木偶の坊も飲む?」
ケセド・バイザック大佐「あ。いただきます。」
マーガレット「で、今日はなんの御用かしら?」
ピカール「実は人を探していましてね・・・
地球の冒険家と冥王星の軍人のコンビなんですが・・・あの二人にはほとほと困ってましてね・・・」
懐から写真を撮り出すピカール「ご存知ないですかね?」
写真を受け取り無言で見つめるマーガレット
「・・・用件はそれだけ?」
写真を突き返すマーガレット「人探しなら残念ね、力になれそうにないわ。宇宙は広いもの」
ピカール「ええ、宇宙は広い・・・だから母親のあなたを訪ねてきたんですよ・・・」

大学構内の中庭
リンドバーグ号に向かって歩く二人
ミグ「・・・つけられてるぞ」
ライト「そのようやな・・・」

研究室
マーガレット「・・・容疑は?」
ケセド「アマルテア政府の機密情報を持ち出した疑いです。」
マーガレット「言っててバカバカしくない?」
ケセド「私も同感です。彼らはどう考えても国際スパイには見えない。
とはいえ上からの命令なんです。形式的な事実確認をするだけですので、居場所をご存知ならば教えていただきたい」
マーガレット「ごめんなさい、バカな子だけどそれなりに可愛いのよ」

大学の中庭を歩く二人を発見する特殊部隊
「隊長ターゲットを確認。宇宙船の方へ向かっています」

ケセド「了解。すぐに向かう。・・・博士、見つかりました」
ピカール「ああ、見つかったようです」
紅茶を飲むマーガレット「はい、いってらっしゃい」
ピカール「あなたにもご同行願えませんかね?」
マーガレット「あら20年前の学会を覚えてない?私はあなたが嫌いなの」
ピカール「そうですか・・・バイザック大佐」
ケセド「了解。二人を確保しろ。」

中庭
特殊部隊が物陰に隠れながら近づき徐々にふたりを包囲する
ライト「なんやねん・・・」
ミグ「知らないよ、もしかしてそのフィルムを狙ってるんじゃないのか?」
ライト「お宝に興味があるのはギャングだけやないってことか・・・
・・・数が多いな。リンドバーグ号で蹴散らすわ、援護してくれ」
微笑むミグ「人生最大の危機的状況かな・・・?」
ライト「バカ言え・・・後ろは預けたで!」

ケセド「作戦開始だ」
特殊部隊「了解・・・」
銃を構える特殊部隊に突然拳銃を撃ちまくるミグ。
その途端ダッシュで宇宙船に向かうライト。
特殊部隊「気づかれた!!」
ケセド「宇宙船に行かせるな!」
リンドバーグ号に特殊部隊が近づけないように銃でライトを援護するミグ。
宇宙船に近づけない特殊部隊
ケセド「クソっ!ゴム弾だ!ゴム弾であの女を制圧しろ!」
ミグに向かってゴム弾のグレネードランチャーを撃つ特殊部隊。
ゴム弾を避けながら中庭の並木の陰に身を隠すミグ。
マガジンを素早く取り外し、装填しなおす。
ミグ「ああ、もう・・・」
リンドバーグ号にたどり着くやいなやハッチを開けてEM銃をミグに放り投げるライト。
ライト「こいつで母さんを頼む!」
EM銃を受け取るミグ「母さん?」

ケセド「よし、相手は弾切れだ、押せ押せ押せ!GOGOGO!」
EM銃の弾丸が飛んでくる
特殊部隊が吹っ飛ぶ「うわあああ!」
「なんだあれは!?」
「大佐実弾の許可を!!」
ケセド「いやダメだ!殺してはならん!セレマの命令だ!」
EM銃でジープがひっくり返る
「後退だ!一度体勢を立て直して再び」
ミグに応戦する特殊部隊の一団にリンドバーグ号が突っ込んでくる
ライト「散れい!ちらんかいお前ら~~!!」
リンドバーグ号のプロペラから逃げ出す特殊部隊「うわあああ!」
無線をひっつかむケセド「やっぱ撤退!全員撤退!!」

研究室
窓の外では銃声が鳴り響き激しい戦闘が行われているが、動じずにお茶会をしている二人。
マーガレット「あれが形式的な事実確認?」
ピカール「まあね」
EM銃を構え部屋に踏み込んでくるミグ「アレゴリー教授!」
マーガレット「ああ・・・あなた。」
ピカール「お邪魔してますよ」
驚くミグ「ピカール卿・・・!」
マーガレット「もしかして知り合い・・・?」
ミグ「悪党です」
うなずくマーガレット「知り合いのようね」
EM銃を向けるミグ「今度は何を企んでいる?」
ピカール「とんでもない、私はただ忠告に来ただけですよ。」
ミグ「忠告だと・・・?」
ピカール「スタータブレットには近づかないほうがいい」
マーガレット「あら、どういう風の吹き回し?
クリストファーの論文は質の悪いオカルトなんじゃなかった?」
椅子から立ち上がるピカール「世の中知らなくていいこともあるんです。
ご主人にそうお伝えください。」
マーガレット「言って聞くようならとっくに言ってるわ」
ピカール「そうでしたね。」
ミグ「待て!スタータブレットってみんな言ってるけど何なんだ!?流行ってるのか!??」
後ろからミグを殴りつけ気絶させるケセド
倒れるミグ「ぐっ」
ピカール「荒唐無稽な御伽噺ですよ。」



中庭
撤退する特殊部隊
リンドバーグ号で制圧するライト「帰れ!帰れボケ!!」
大学から車両が出ていく
ライト「まったくゴキブリみたいなやつや・・・」

研究室
ライト「ミグ!母さん!!」
研究室には誰もいない。
クリス「さらわれたようだな」
ライト「教授!いたんか!」
クリス「で、例のフィルムは読んでもらった?」
ライト「お前どうしてくれんねん!お前のせいで母さんとミグが捕まっちまったんやぞ!」
クリス「大ジョブ大ジョブ。相手の目的がスタータブレットなら古代文字が読める母さんに危害は加えないって。そのミグってやつは殺されちゃうかもしれないけどねニャハハ!・・・で誰そいつ?」
ライト「殴るぞ」
クリス「少しは落ち着いたらどうだ。カッカしてると見えるものも見えなくなる。例えば・・・
この便箋はママの趣味じゃない」
マーガレットの机から手紙を見つけるクリス。
ライト「なんや?」
クリス「招待状だ」
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