ダイ・ハード4.0

 「面白い度☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆」

 マクレーンが野沢那智じゃねえ!

 劇場版ではちゃんと野沢さんだったらしい。やられたっ・・・!テレビでタダで見ようとするとこういうことになるのね。
 あの情けない声で「ちくしょ~」「くそ~」「いてえ~」ってぼやくのが私の中ではダイ・ハードなんだけど・・・
 まあダイ・ハード自体私は『1』しか見てないし、その『1』も「ベトナム(戦争)を思い出すぜ~(笑)」ってやたらテンション高いおっさんの乗ったヘリがテロリストに撃ち落とされて、マクレーンの方にぶつかってくるシーンくらいしか覚えてないや。
 あとはひたすら「ちくしょ~」「くそ~」「いてえ~」ってぼやいているイメージ。しかしあのベトナムオヤジは面白かったなあ。

 で、『ダイ・ハード4.0』なんだけど、最近の映画ってなんでこんなに長いんだろう?いくら面白くても疲れちゃうんだよな。
 映画会社や映画館の方も、一つの作品の上映時間が短い方がお客の回転率上がっていいだろうになんでこんな長いんだ?(今はシネコンがあるからそこまで支障が無い?)
 それにハリウッドって作品ではなく商品として割り切って映画を作るから、無駄なシーンなんてバシバシカットしていくって言うのに・・・はっきりいって『2012』もこの映画も、きれるところはあったような・・・
 二時間半~三時間が映画の基本的な長さになったら嫌だなあ。私は90分が一番好き。アニメ映画サイズ。

 追記:調べてみたら『ダイ・ハード4.0』って上映時間は二時間だった。すっごい長く感じたのはドラマ性が少なくアクションがてんこもり過ぎたから?

 まあでもごろごろしながらテレビで見る分にはいいんだけどね。すっごい集中して見ているわけでもないし。
 特にトンネルのシーンとエレベーターシャフトのシーンは秀逸!よくまああんなアクションシーンのコンテをきれたものだ。ああいうスピーディなアクションはどうやっても漫画では表現しきれないから「すごいなあ」ってただびっくり。そして笑った。
 特に自動車でエレベーターに突っ込むって、何がしたかったんだマクレーン・・・

 ただ後半、自分の娘が敵にさらわれて助けるって言う展開が、もう相変わらずの王道パターンで既視感がすごかったけどね。でもああするしかないんだろうね。あれをアメリカの大衆は求めているんだろうね。よっ待ってました!って。

 それとマクレーンって、ダーティハリーのような敵を問答無用でバカスカ殺す血に飢えたデカって感じじゃなくて「くそ~」って言いながら、自分の身を守るためにしょうがなく武器を使う刑事なんだね。
 冒頭から「意外とこの人は直接的に敵を撃ち殺さないな」って思ってて「撃ち殺す場合は自分も殺されかけてる場合だけだな、それは正当防衛で仕方がないな」って思って見ていました。
 だからやってることはパトカーでヘリを叩き落としたりと、かなり超人的なんだけど、その哲学は意外とまともなのかなって思った。

 でも最後の最後で敵側のハッカー(丸腰)を問答無用で撃ち殺しちゃうんだよねマクレーン。
 あれは違和感があったなあ。あの眼鏡のハッカーもなんか見た感じ敵のボスに「オレの言う通りにしないと殺すぞ」と脅されてやっている感じがして、こいつはいつ「お前は用済みだ」って言われてボスに消されちゃうんだろうってドキドキしていたのに、まさかマクレーンがあっさりぶっ殺しちゃうなんて・・・
 あそこはダーティハリーとの違いを貫いて欲しかったな。銃で殴って気絶させるとかあるじゃん。他にもやり方が。

 あと敵のボス「ガブリエル」に魅力がなくて、恋人の女性格闘家に比べてかなり印象が薄かったのは痛かった。
 今回のボスってそんな腕っ節が強いタイプでもないし、仲間や部下を大切にするような悪のカリスマタイプ(例えば「核ミサイルを発射されたくなければ刑務所に服役している俺の仲間を釈放しろ!」とかいうボス)でもなかった。
 じゃあ頭脳戦が得意なキレモノタイプなのか?って言うとそれもいまひとつ。こいつって設定上ではFBIとかで名の知れた技術者らしいんだけど、こいつのエンジニアとしてのすごさも良く分からなかった。技術的なことみんなあの眼鏡の人や部下にやらせてたし・・・戦闘機の無線もあの眼鏡なしではままならないカッコ悪さ。

 そもそもシステムエンジニア時代の「アメリカのインフラを管理するコンピュータネットワークのセキュリティがぜい弱だよ」という自分の主張が国家に認められなかったという、かなり個人的な恨みで犯行を起こすって言うのもなんというか・・・まだ工事現場のおっさんを襲いながら世界征服をうたうショッカーの方がカッコいいっての。
 歴代大統領の演説をパッチワークして作った犯行声明のビデオもやたら趣味的で「もっとニクソン使いたかったな」ってこいつらは一体・・・

 ・・っていうか、なんでみんなあんなカリスマ性のなさそうな奴についていったんだ?それが一番の謎だよ!
 
 最後に面白いなあって思ったのが登場人物の配置。主人公と相棒はかっこ悪いハゲオヤジとSF映画オタクのハッカーなのに、敵側が美男美女のカップルって新しいなあって思った。
 もうそのキャラ配置の新しさだけに感心しちゃって「いいアイディア見つけた!」って大満足なのでした。これ後で私もパク・・・参考にしよう。主役がダサいおっさんで、敵が美男美女・・・メモメモ!

『量子重力理論とはなにか』

 タイトルに偽りあり!

 理学部の学生以外は買ってはいかん!いかんぜよ、竹内さん!(c)福山雅治

 著者はサイエンスライターの竹内薫さん。

 量子重力理論とはなにか?という本なのに、肝心の量子重力理論にふれているのは第四章だけで、それはたった20ページ。本全体の一割程度しかない。
 しかもその第四章も「量子重力理論の“迂回路”」という章で、量子重力理論への手がかりとなる数学的な考え方をあれこれ紹介しているだけ。しかし待ってくれ。俺たちは量子重力理論そのものを知らないのに、その迂回路ってなんだ?

 この本は書きかけの原稿をそのまま強引に本にしちゃった感じがあって(まえがきによれば路線変更で書くきかけの原稿を一度破棄しているそうだ)、章が進むにつれどんどん解説がおざなりになり、一般の読者はどんどん置いてかれてしまう。挙句の果てには「物理学徒のための注」とかいいだして、完全に物理学徒以外は放置プレイ。
 そして「本来は量子重力理論の本を書くはずだった」という衝撃の告白でこの本は終わる・・・(ならタイトル変えろ!)

 私は、ぶっちゃけ第一章(相対性理論の相対的な矛盾をローレンツ変換を使って座標で表す=ミンコフスキー図の話)くらいしか分からなかったし、量子のデジタル性について数学的な説明をした第二章は、イマイチイメージがつかめないところもあって半分くらいの理解度(偏光フィルターによって光の状態が変わる話は面白かったけど)。
 第三章の「二重相対論(相対論の絶対的な要素である慣性座標系=ここでは光速度に、量子力学のプランク定数を組み込んだ相対性理論のこと)」に入ると話は途端に難しくなって、それはなぜかっていうと「学術論文に書かれた数式(スナイダーの量子時空理論)を一緒に解いて行こう的」な、もうそんなの解説でも何でもないことになっちゃって、学術論文の数式なんて解けたら、そもそもこんな本買ってねえよって感じもするし、全くこの本はどういう層に向けて書かれたのか分からなくなってしまう。
 金子隆一さんと言い、これはサイエンスライター特有の病気みたいなものなのか?

 さらに「詳しい解説はこの本を読んで欲しい」って煩わしい解説は他の本に回してしまうんだから、一体この本の存在価値って・・・

 高校の微分積分も怪しい私が大雑把につかんだイメージはこういうことだ。言いたかった内容と違ってたらごめんね竹内さん。でもこの本の構成じゃ仕方ないでしょ?

 昔はニュートン力学や電磁気学(古典物理学と言う)で世界の物理現象は大体計算できると思っていた。でもその理論は、かなり特殊な状況(力が釣り合っているとか、力が働かない時とか・・・)でしか使えず、一般的な目の前で起こる物理現象を考える場合には、話を単純化する必要があった(だからあくまでも式を演繹して導かれる答えは実験結果の近似値だった)。

 しかし現実の世界はもっと複雑だ。ニュートン力学では実験を行なう「観測者」を世界に全く影響を与えないような「完全なる第三者」として想定し、客体世界の物理現象を扱ったが、よくよく考えればそれは幻想だった。
 実際には学校の授業参観で子どものいつもの授業態度が変わってしまうように、観測者(主体)が客体世界に影響を与えてしまう。
 そこで「主体と客体の関係性」を物理学に組み込んだのがアインシュタインだった。物理現象と言うのは観測するものと観測されるものの相対的な関係性によって決まるから、相対性理論と言う。

 もう一つの物理学の革命が量子力学の誕生だ。もう難しいので適当に考えると古典力学は物理現象の連続性を(例えば大砲や弓矢の弾道とか)、話を単純化することでなんとか計算しようとしていたのだけど、そのようなマクロな物理現象を、量子(物理量の最小単位。私はドットのようなものだとする)レベルにまで細かくしてみていくと、その連続性は失われ、全ては飛び飛びの値にしかならなくなる。
 飛び飛びってなんだって言うと、竹内さん曰くそれは「デジタル」であり、私なりにイメージするに、電光掲示板の動きはぱっとみ連続的に見えるけど、クローズアップして見ると、その動きはドットごとのデジタルな振る舞い(電球をつけたり消したり)の集合(ドット絵)だったりする。

 なんとも強引なアナロジーだけど、私たちだって組織、細胞、分子、原子、電子と原子核って細かく分解していけば、結局のところ量子の集合体であり、ミクロな世界ではもうこれ以上は理論的に細かくしきれない!という領域がみえてくる(プランク世界)。
 ここでやっと加速度や重力の影響度の値がほとんど0(完全に0ではない)の領域に到達する。世界のすべてがデジタルな粒(量子)ならば、物理現象を発生させる全ての力も量子化できるはず。
 この世界の力は大きく分けて四つの勢力が存在するが、その内の三つは量子論で説明がついたという。だがこの力の四天王の中でもっともメジャーな重力(時空をひぱって曲げてしまう力)だけは、現在においてもなぜだか量子化できない。「重力子」なるものも発見されていない。この重力を量子化する理論こそが量子重力論なんだろう。

 この理論を完成させるために、この本ではシュバルツシルト時空(回転するブラックホールや膨張する宇宙の曲がり具合が計算できると言われる時空のこと。自由落下する飛行機の中では重力がなくなるように、ブラックホール内部では局所的ではあるが重力の影響を考えずに済むことができる)とかレッジェ計算(時空を細かい三角形の集合として、その時空の曲がり具合を調べる計算方法)とか手がかりになりそうなものを雑然と紹介している(だけなんだ)けど、一番ぶっ飛んでいるのが最後に出てくるミルナーのエキゾチックな微分構造。

 ミルナーは、7次元の球面には我々の使う微分構造以外にエキゾチックな微分構造(なにものだそれは)が27個存在すると数式を解いて証明したらしい。
 7次元の球面とは、その球面上の位置関係を7種類の座標軸が決定する球面の事で、そんなの立体的にあり得ないんだけど、数物理学者は別に次元を増やすことにあまり抵抗がないので、どんどんおかしな世界へ旅立ってしまう・・・
 面白いのは1~3、5~6までの次元の世界は微分構造の種類が1個に絞られるのに、7次元では合計28個、8次元が2個、9次元で8個、10次元で6個、11次元で992個、12次元が1個、13次元が3個、14次元が2個、15次元が16256個・・・と素人にはその規則性が全く分からない点。

 そして微分構造の種類が最も多いのが実は4次元で、その数は計測不能(多すぎて数え切れない)だという。
 我々の住む宇宙は四次元だからこそ、無限の可能性があるのでは?とか竹内さんはやたらリリカルに締めくくっているが(例えばエヴェレット解釈=パラレルワールドの可能性とか)どうなんだろう。

“社会”人の絶滅

 中国の反日デモ(・・・の名を借りた国家体制批判)って、団塊の世代の人たちが若かった頃の日本の学生運動見ているようでなかなか興味深い。というのも若い頃に本気で自分たちの社会をよりよくしようと団結した経験が私たちの世代には無いから。
 大学時代も、周りのみんなは社会に対して何の問題意識も持たず「どうせ俺たちがなにしても社会は変えられないよ」とニヒルに振舞う人ばかりで、ちょっとつまらなかった。

 いや私は別に横断幕持ってみんなで行進したかったわけではない(お祭りとか嫌いだし)。ただ、せっかくのモラトリアム期なんだから、ただ惰性で授業に出て単位とって卒業しちゃうのはもったいない!
 もっと若さゆえの傲慢さ、社会経験がないことの利点?を生かして、現代社会の矛盾や問題点を偉そうに論考してやろうぜ!私は本気でそう思っていたし、教授の若い頃の話を聞いて、良くも悪くも昔の大学生はエネルギッシュでかっこいいなあって憧れてた。
 団塊の世代の人って大学進学率が今よりもずっと狭き門だったから、今の大学生よりも確実に教養もあったんだよね。オタクのように大学生の人口がどんどん増えてバカの割合も増えちゃったんだ。

 だからどう考えてもモラルを逸脱している人に対しては、教授だろうと真向から議論を挑み反抗して一人学生運動ごっこをしてみたんだけど、おかげで単位を取れずに7年も大学にいるはめになった。親にはいい迷惑だけど。そして一番大学を批判していた奴が一番大学にいたって言うのが皮肉な話。

 もちろん学生運動は美化しちゃうとまずいのは分かっている。運動って言うのはとどのつまり一部の中核にいる人だけが賢くて、周りは最終的には全体主義的な引力(「運動をやめたいだと?てめえ俺たちを裏切るのか」的な力)に引っ張られているだけって話も、前にdescf氏としたこともあるんだけど、それでも社会に積極的にコミットしようって言うスタンスには憧れを感じてしまう。
 私たちの世代は大きな物語への憧れがあるのではないだろうか?ない?あっそう・・・

 実存主義のサルトルは「人生なんて偶然性の産物で、ど~せ生きるも死ぬも不条理な確率の力に支配されちゃうんだよ」って言った。「人生で成功している奴って言うのは結局のところ運が良かったんだよ」って言うのと同じ論理だよね。
 ・・・確かにそうなんだけど、そんな事考えてちゃ夢のために努力することの意味性がなくなってしまう。でもそれは厳密には違うんだ。全てが偶然性ならその夢がかなうかどうかも分からないんだから。
 これはサルトルもちゃんと考えていて、ここで思考が終わると単に生きることが虚しくなるだけの野暮なニヒリズムになっちゃうから、それならば社会の進歩に人生をかけてもいいんじゃない?ってマルクス主義(社会が段階的に進歩していくという希望的観測)をみんなの生きがいにしようと呼びかけた(アンガージュマン=能動的な社会参加のこと)。
 しかし今はマルクス主義自体が廃れてしまった。あわれサルトル。やっぱり人生をかけるほどの社会的思想や実現すべき社会システムは、資本主義以降は無いのだろうか??なんかありそうな気もするんだけどね。民主的な社会主義とか。
 
 私は中学生くらいの時、自分よりもちょっと上の若い人が大人になったら、社会はもっとよくなるんじゃないかと思っていた。「絶対的な価値観を子どもに押し付けるのが大人」といった古くさいイメージが変わって、もっと一人一人の個性や価値観の違いを尊重してくれる心の広い大人が増えると思っていた。
 そしてどんな人も自分の意見が言いやすくなって「今度はこういう問題があるんだけど、みんなで意見を出し合おうぜ!」って感じで民主主義の理想に近づくんじゃないかと思っていた。
 つまり中学生の自分の気持ちを、今知っている難しい言葉で言語化するならば、ポストモダン(価値観の相対化)万歳!って感じだった。

 私の予想は半分当たって半分外れた。つまり社会全体の価値観は確かに多様化したけど、そこで生まれた様々な価値観を若い世代は許容できなかった(・・・気がする)。
 私たちは一つの価値観を共有することをやめて(ここまでは別によかったんだけど)、一人一人が自分だけの世界を作って閉じてしまった。個人レベルでは相対主義どころか絶対主義もいいところなんだ。
 これじゃあ昔の大人と一緒・・・いや、大人が子供っぽくなっただけで、むしろ悪化した!率直に言って大人がダサくなった!

 別に大人になってもアニメや漫画にハマっているのはどうでもいいんだけど、大人なら自分とは違う意見にも耳を貸すべきだと思う。だって価値観が多様化したのなら、個人レベルで相対主義を標榜しなければいけないんじゃないの?「なるほど。その意見も面白いね!」って。
 それともそんなことは不可能なのだろうか?外部の病原菌を免疫が殺すように、個人の思想や価値観にも免疫があるのだろうか??
 そんなことはない。いろいろな人の面白い意見を交雑すればもっと面白いアイディアが生まれるに違いない。

 私たちはもう一度ポストモダン思想を考え直した方がよさそうだ。そしてせっかくの民主主義。もっともっと活かせるような気がする。

ホンマでっか!?TVは優れたSF

 今日初めてちゃんと見たんだけど、フジテレビの「ホンマでっか!?TV」が胡散臭さ全開で面白い。コメンテーターに科学者(正確には「心理学者」ではなく「心理“評論家”」のように、学者ではなくてあくまでも評論家名義になっているのがポイント)が出ているものの、これはあくまでもSF的面白さだ。

 この番組に登場する情報・見解はあくまでも一説であり、その真偽を確定するものではありません。『ホンマでっか!?』という姿勢でお楽しみ頂けると幸いです。という最後に出てくる「このドラマはフィクション(創作)です」的なテロップは、同じフジテレビでやっていた報道バラエティ番組「ワールドダウンタウン」を彷彿とさせるし、このエクスキューズを入れることで「発掘!あるある大辞典」の失敗(インチキ情報を注釈なしで報道し、それを真に受けた視聴者が番組で紹介したダイエットを実践したり、外国の科学者のコメントを日本語吹き替え時に改ざんした)は二度としでかさないというスタッフの強い決意が見て取れる(いや、制作スタッフが同じかどうかは調べてないけど・・・)。

 結局理科離れの日本ではこういう一見科学的なオカルトが好きなんだと思う。その大きな理由は馬鹿でも解りやすいから。
 そしてこの番組のおバカな構成は、「どう考えても真に受ける内容の番組ちゃうで~」っていう密かなメッセージになっていて作りが巧い。この番組を真面目に見る奴は流石にいないだろうから。
 SFというのは科学的な正しさよりも、物語としての“真実味(リアリティ)”を受け手に与えられれば大成功だと思うんだけど、この番組も胡散臭い番組と割り切ればとっても楽しめる。
 そもそもテレビ番組だってスタッフが一生懸命制作した“作品”なんだよね。

 しかし、一見真面目そうな専門家から個性を見つけてキャラクタライズしてしまう、さんまさんのトーク力は天才的としか言いようがない。

『はじめての構造主義』

 タイトルに偽りなし!

 著者はご存じ橋爪大三郎さん。中学生でも完全に構造主義を理解できる。本当にマジだって!あのベストセラー哲学本『ソフィーの世界』の10倍分かりやすい。『構造と力』の1000倍分かりやすい。そして口調が面白い。みんなこれを読んで、無知な大人をせせら笑ってやろうぜ!

 とにかく説明が巧い。もう天才的。小難しい言葉を並べて誤魔化そうなんて文章は一切ない。全部面白いけれど、特に構造主義のルーツを数学に探る第三章は必見!
 なぜ複雑系数学(カオス理論や位相幾何学)を学ぶマルカム(『ジュラシック・パーク』に出てくる数学者)がハンナ・アーレントを引用していたりしたのかが、納得した。納得しまくった。
 この第三章で、近代以降の科学と哲学の歴史がどうリンクしていたかが、ほとんど分かる!ああ、こんな本を私は待っていた!

 ・・・といってもこの本は2009年に出た新書だけど書じゃない。「第四章 構造主義にかかわる人々」で「こないだM・フーコーが死んじゃったよ」とか書いてあって「ええええ?」って驚いたんだけど、実はこの本初版は1988年で、その名作を新書として再販したんだ(ちなみにデリダさんはこの前まで生きていた)。
 そのおかげで私はこの名著を本屋で買う幸運に恵まれたわけだ。ありがたや~。

 そういえば、最後の方にジャック・ラカンについての簡単な解説があるんだけど、やはりラカンは難しいようだ。プロの橋爪さんでさえ「彼の書くものは難解を極めている。『エクリ』が主著だが、むずかしくて、何を言っているのかよく分からなかった(206ページ)」って本当に書いてあるんだよ(笑)。
 ラカンの鏡像段階論についてはYukiko T.さんの記事に触発されて、このブログでも批判的に取り上げたことがあるんだけど、それは私の勇み足だった気もする。
 本家フランス人でも読解できないような本を作ったラカンも悪いけど、ラカンはやはりそこまでバカじゃない。ラカンの言う「鏡像」とは言葉通りの鏡に映る像ではなく、もっと比喩的なものの(アナロジーでしかない)可能性がある。
 橋爪さんは「鏡像」を「自分以外の全てのもの」と説明している。なるほど。これならラカンの鏡像段階も納得できるぞ。つまり赤ちゃんは、自分と自分以外のものを区別できずにまるごと自分の一部だと受け止めて、強引に自己同一性を作り上げてしまうということらしい。
 中学生や昨今急増中の子供大人の病気(セカイ系症候群)の原因もここにあるんだろうなあw。一気にラカンが好きになった。そして誤解してごめんよラカン。でもやっぱり原著『エクリ』は難しいから読みたくないわ。
 
 あと第五章のポスト構造主義批判は明快かつ痛快!本を締めくくるのにふさわしいラストだ。ポスト構造主義は構造主義に対する本質的な批判になっていないというのだ!その理由がいちいち鋭くて大爆笑。
 言うならばポスト構造主義は構造主義に匹敵し得るような学術体系にすらなっていない。構造主義があったおかげで存在できる金魚のフンなんだ。文句だけ言って「じゃあその代わりの体系は?」って聞くとないんだよ。せいぜい苦し紛れで言ったのが「リゾーム」くらいのものでさ。
 でも構造主義のパイオニアであらせられるレヴィ=ストロース様は器が大きいから(もしくはポスト構造主義なんてはなから眼中にないからか)全然それをほうっておいて、むしろ「批判大いに結構結構」って余裕のスタンスなんだよ。
 つまりポスト構造主義は、論者が言うような構造主義を揺るがすほどの批判になっていないんだな。

 とにかく本当にみんな買った方がいいって!たった720円だよ?でも中身は7200円に匹敵するよ!それくらい濃い読書体験ができる。全然難しい本じゃない。小学四年生でも読める!それは私が保証します!モバゲーなんて捨ててしまえ!

 最後に私が気に入った素晴らしい一文を。

 人間の思考は一直線に進歩していく、と考えるのがあまりにも単純であることの。もしかすると、人間の思考のレパートリーはあらかじめ決まっていて、それを入れかわり立ちかわり、並べ直しているだけなのかもしれない。歴史をしっている文明社会は、ただのなにかのはずみで、それをストックしていっただけなのかもしれない。(181~182ページ。強調は引用者)

 これら(構造主義の源泉であるマルクス主義、地質学、精神分析)に共通するのは、目に視える部分の下に、本当の秩序(構造)が隠れていると、想定している点だ。(206ページ)

 構造主義――自文化を相対化し、異文化を深く理解する方法論――はきっと大いに役に立ってくれるに違いない。(232ページ。ラストの一文)
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