名古屋議定書について

 地球温暖化と生物多様性の議論はとにかく似ている。
 欲深い人間の後ろめたさや、それでもなおも善人でありたいという欺瞞の心をうまくついて、「人類のエゴではなく、地球や、そこに生きる全ての生命の為に取り組むべき美しい環境問題」と言うイメージをマスコミはせっせと植え付けているけど、ばっかじゃないの。なんのことはない。これはどっちも経済問題。 
 結局生物多様性は金になるから保全しようってこと。こんな野暮なことは恥ずかしくて言いたくないんだけど、意外とマスコミのイメージをあっさり信じている善意の人もいるからなあ・・・

 COP10は生態系保全を世界目標にすること(愛知ターゲット)に同意したけど、これもなかなか国同士がみっともなく揉めて面白い。
 EUは「生態系の破壊を20年までにすべてやめるべきだ」とジャスティスかつ無茶なことを言い、日本や途上国は「20年までに生態系保全を確保する目的で、生物多様性の損失を止めるための行動を起こす」となんかこれはこれで実行力に乏しい中途半端なことを言っている。
 夏休みの宿題における努力目標をこんなノリで言ったら絶対夏休み最終日が修羅場になること請け合いだ。

 この議論にはポイントが二つある。ひとつは「生態系の破壊」の定義が曖昧なこと。生態系に何も影響を与えずに人間が活動することは不可能だから、どこまでが生態系の破壊なのかを検討しなければならない。
 どうも彼ら政治家は生態系の複雑さを理解していないようだから、国際的な会議でこの基準を考える時はかなり面倒くさくなりそう。
 例えば、その生きものが生態系にとってどれほど重要な種類かどうかって、乱獲して減らしてみたりしないと分からなかったりする(キーストーン種の記事を参照)。それでああ、こいつはこの生態系に必要なんだって。
 でもEUの言うように2020年で生態系の破壊を禁止してしまうならば、今後10年で地球全ての生物種が生態系に与える影響をまとめあげてデータベース化しなければいけないことになる。そんなことをEUが本気でできると思っているとは私には到底思えない。
 そしてそれについて「生態系の現状をどうやって調べるんだ」と的確な突っ込みをした途上国は先進国よりもよっぽど賢い。

 二つ目のポイントはなんでそんな無茶なことをEUはつきつけようとするのか?そもそも京都議定書の時も議論の主導権を握り、地球温暖化を巨大なビジネスマーケットにしたのは何を隠そうイギリスをはじめとするヨーロッパだ。
 竹内薫さんも言っているけど日本なんてエコの技術に関しては世界最高レベルで、もうこれ以上は省エネできないって臨界点まで来ているのに、無茶なCO2削減目標を掲げてしまった。
 だから京都議定書って日本がイニシアチブ取って採択した感じするけど、まんまと国際社会にはめられて温室効果ガスの排出権取引で金を絞り取られるはめになっただけなんだ。
 
 EUはそもそも環境保全に対する意識はかなり進んでいて、それで生物多様性についても「それくらいの大きなことを目標にしなければ到底守れない!」と言っているのかもしれない。これは政治的な理想論としてあると思う。
 でももうひとつの理由は、生物多様性が最も豊富である熱帯雨林がたくさんあるのは、南米とかの発展途上国だから、そう言った国を他人事のようにけん制しているのかもしれない。
 たとえばクジラを特に食べようとも思わない国は「クジラがかわいそうじゃないか!」って捕鯨禁止運動を仕掛けてくるけど、それと似た感じがするんだ。
 生物多様性を守るのはあくまでもジャングルを切り開く途上国の問題。だからお前ら2020年までにそういう破壊活動をやめないとひどいぞ(ジャイアン)みたいな。
 
 さて名古屋議定書とは、生物の遺伝資源が生む莫大な利益を、その生物の生息地のある国(遺伝資源原産国=それは大抵が途上国だ)に配分しようというルールを定めたものだ。
 これは先進国と途上国の経済的な格差をなくすいい目標って気もするけど、そういうイメージの裏に国家間のえげつない思惑が交錯している・・・と思う。京都議定書がそうだったから。
 たとえば途上国は自分たちの国に生息する生物どもが金になることを知り、できるだけ先進国から使用料を踏んだくろうとする。だから途上国は植民地時代の利益配分も求めたわけだ。これはさすがに先進国の経済的負担が莫大で棄却されちゃったけど(ただ基金を設立してというアフリカの要望は通った)。

 でも生物遺伝資源を利用して作った製品(派生物。その生物の遺伝子を持たない複合物も含まれることになった)にも原産国の使用料(利用料?)がかかるのか?っていうのはまだ具体的なところまで詰め切れてないみたいだ。
 遺伝資源って例えばDNAの塩基配列なんかはPCR法で大量に複製できたりもするから、鉄などの鉱物資源や、石油、ガスなどのエネルギー資源よりかは、デジタル情報と性質が似ているんだよね。ネット上で違法コピーやダウンロードされちゃうとまずい。良くも悪くも共有しやすいんだ。

 その為に、遺伝資源を利用する際にはその原産国に法的許可を取っているかどうかを確認する監視部署を各国はひとつ設立しなければならない。
 経産省は「これで企業の生物資源利用の手続きがスムーズにできる」って言ってるけど、一方の企業側は「この国のこういう遺伝資源を使わせてください」って監視部署に届け出て原産国の許可証を取得するのはライバル会社に手の内の明かすことにはならないのか?とかなり不安だという話もある。

 なんにせよ、ついにバイテクも国際基準で法整備がなされるようだ。マイクル・クライトンが危惧したバイテクが野放しになっている『ジュラシック・パーク』の時代は終わるのかも。

アイランド

 「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆」

 『すばらしい新世界』のよくできたリメイク!

 ・・・いやこの小説が原作かどうか分からないけど。

 『すばらしい新世界』って言うのは、昔ハクスリー一族っていう生物学とかで有名な一族がいたんだけど(ダーウィンの進化論を支持したヘンリー・ハクスリーは特に有名)、一人だけなぜか小説家になった人がいて、その人(オルダス・ハクスリー)が書いたSF小説。
 ある種のユートピア社会を描いた作品なんだけど、その世界もメタ的に見ればかなり印象が変わるよって言う、実存主義的な内容だった。
 オルダスはおそらく当時の進歩主義や優生学に基づくユートピア思想に警鐘を促したかったんだと思う。
 当時は優秀な人間だけを集めて平和で善良な社会を本気で作ろうとしていて、これ(優生学)は今でこそ無かったことにしたい科学の黒歴史とされているけど、当時は本当に世界的ブームだったんだ。

 そして今なおそれに似たユートピア思想(宇宙船地球号とか)は形を変えて生き続けている。まあよりよい生活、よりよい社会を実現したいっていう目標はいいんだろうけど、それはあくまでも目標のままとどめといたほうがよかったりする。
 『ちびまる子ちゃん』のさくらももこ先生が「夢とはかなうまでが夢。かなったらただ現実なのである。」とかうまいことを言っていたけど、今はかつての優生学が達成しようとした理想の(ままにしといたほうがいい)社会が遺伝子工学などの発達によって、やる気になれば実現できそうだからかなり怖い。

 江崎ダイオードの江崎玲於奈さんは、中教審かなんかで「学校は優秀な遺伝子を持つ子とそうでない子でスクリーニングするべきだ」とか言っててかなりラディカルだ。
 このような遺伝子至上主義はかなり危険なので、遺伝子なんて大したことねえよくらいに思っておいた方がいい。
 だからこの遺伝子があると犯罪を起こしやすいとか言う研究も、科学リテラシーのないバカが誤解するとかなり恐ろしい。
 え?バカって誰かって?理系に弱い日本のマスコミのことだよ!
お前らこれを報道する時は本当に頼むぞ!!お前らがしくじると恐ろしい差別が始まっちゃうから!

 話がそれてしまった・・・私は、こういうセンスオブワンダー(モノの見方をずらせば、自分たちの世界の印象がガラッて変わるような話。SFの醍醐味!)って結構好きで、私も一回漫画で描いたことあるんだけど、正直これを観てから描けばよかったな。それくらいこの映画はよくできてる。

 冒頭から30分までの舞台となるクローンプラントのデザインはとにかくかっこいい。
 前にこの映画を見た時は、あの白を基調としたかっちょいい地下施設のシーンがもっと見たくて「なんだよ、意外とすぐにアイランドの秘密ネタばれしちゃって、ただの逃避行モノになっちゃたなあ」ってガッカリした覚えがあるんだけど、今改めて見たらその逃避行のシーンもアクション性が高くてなかなか面白かったりする。
 私はSFでもファンタジーでも、その作品独特の世界観を出せれば勝ちだって思っていて、この映画の世界観を象徴するのは、なんだかんだでやっぱりあのクローンプラントだと思うんだ。
 都市部の空飛ぶ電車や自動車は『フィフスエレメント』かなんかでやってたしね。

 後この映画『ダイ・ハード4.0』に比べて敵側の印象がなかなか強いよね。
 アイランドの秘密を知って地下施設から逃亡した主人公たちを執拗に追う傭兵「ローラン」も、最初は敵として描かれながら、最後はクローンの味方になってくれるという、自分なりの哲学のある人でかなり魅力的だし(やっぱりクローンビジネスに言葉にはできない違和感を感じたんだろうな)、敵の親玉である「メリック医師」もなかなかリアリティのある悪役だと思った。
 ああやってクローンを作り続ければ、それこそ半永久的な人生が約束されるわけで、そんなことに実際なったら、彼のように自分を神だと勘違いしてしまう人も意外と出てくると思う。クローンを作る側と買う側の違いはあれどね。
 とにかく科学による寿命の克服ってすごいよね。実際人類の平均寿命って伸びてるわけだし、今だってできることなら永久に健康で生き続けたいって言うゲスな欲望のある人(私だ)はけっこういると思うし。これは戦国時代や第二次大戦中には考えられない価値観だよね。

 ただメリック医師って、クローンが自分の存在する世界に疑問(それはすなわちメタ的な視点=哲学)を持たないように、クローンの精神年齢を15歳の子どもに設定したって言うんだけど、アイランドの崩壊の原因はそこにあるよね。
 ダメだよ8歳くらいにしとかないと!メリック先生が15歳の頃は、牧歌的でみんな純粋だったかもしれないが、今日びの15歳って人生でもっとも暴力的でSEXのことしか考えていないぜ!(15歳を誤解してます)
 実際クローンのあいつらも脱走して外の世界の刺激に触れたとたん、鉄道の車輪をドンキーコングのように高速道路に転がすわ(あれで何人の民間人が犠牲に…)、女とバカスカやっちゃうわ・・・
 つまりは、あんな見た目は大人、中身は中学生日記のクローンが最後は大量に解放されちゃったというのか・・・おっかねえ・・・

 ちなみにこの映画では、意識も感情も人間と変わらないクローン(人工的な双子のようなものだから)を一度作って、それをわざわざ殺して臓器を頂戴するなんて無慈悲で回りくどい方法をとっていたけれど、現実にはips細胞のようにもっと手軽に自分の組織のコピーが作れる技術が存在する。このips細胞は受精卵や胚を利用するES細胞と違って倫理的にも問題がないそうだ。
 そういう意味で素晴らしい新世界の夜明けは近いのだ。

ダイ・ハード4.0

 「面白い度☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆」

 マクレーンが野沢那智じゃねえ!

 劇場版ではちゃんと野沢さんだったらしい。やられたっ・・・!テレビでタダで見ようとするとこういうことになるのね。
 あの情けない声で「ちくしょ~」「くそ~」「いてえ~」ってぼやくのが私の中ではダイ・ハードなんだけど・・・
 まあダイ・ハード自体私は『1』しか見てないし、その『1』も「ベトナム(戦争)を思い出すぜ~(笑)」ってやたらテンション高いおっさんの乗ったヘリがテロリストに撃ち落とされて、マクレーンの方にぶつかってくるシーンくらいしか覚えてないや。
 あとはひたすら「ちくしょ~」「くそ~」「いてえ~」ってぼやいているイメージ。しかしあのベトナムオヤジは面白かったなあ。

 で、『ダイ・ハード4.0』なんだけど、最近の映画ってなんでこんなに長いんだろう?いくら面白くても疲れちゃうんだよな。
 映画会社や映画館の方も、一つの作品の上映時間が短い方がお客の回転率上がっていいだろうになんでこんな長いんだ?(今はシネコンがあるからそこまで支障が無い?)
 それにハリウッドって作品ではなく商品として割り切って映画を作るから、無駄なシーンなんてバシバシカットしていくって言うのに・・・はっきりいって『2012』もこの映画も、きれるところはあったような・・・
 二時間半~三時間が映画の基本的な長さになったら嫌だなあ。私は90分が一番好き。アニメ映画サイズ。

 追記:調べてみたら『ダイ・ハード4.0』って上映時間は二時間だった。すっごい長く感じたのはドラマ性が少なくアクションがてんこもり過ぎたから?

 まあでもごろごろしながらテレビで見る分にはいいんだけどね。すっごい集中して見ているわけでもないし。
 特にトンネルのシーンとエレベーターシャフトのシーンは秀逸!よくまああんなアクションシーンのコンテをきれたものだ。ああいうスピーディなアクションはどうやっても漫画では表現しきれないから「すごいなあ」ってただびっくり。そして笑った。
 特に自動車でエレベーターに突っ込むって、何がしたかったんだマクレーン・・・

 ただ後半、自分の娘が敵にさらわれて助けるって言う展開が、もう相変わらずの王道パターンで既視感がすごかったけどね。でもああするしかないんだろうね。あれをアメリカの大衆は求めているんだろうね。よっ待ってました!って。

 それとマクレーンって、ダーティハリーのような敵を問答無用でバカスカ殺す血に飢えたデカって感じじゃなくて「くそ~」って言いながら、自分の身を守るためにしょうがなく武器を使う刑事なんだね。
 冒頭から「意外とこの人は直接的に敵を撃ち殺さないな」って思ってて「撃ち殺す場合は自分も殺されかけてる場合だけだな、それは正当防衛で仕方がないな」って思って見ていました。
 だからやってることはパトカーでヘリを叩き落としたりと、かなり超人的なんだけど、その哲学は意外とまともなのかなって思った。

 でも最後の最後で敵側のハッカー(丸腰)を問答無用で撃ち殺しちゃうんだよねマクレーン。
 あれは違和感があったなあ。あの眼鏡のハッカーもなんか見た感じ敵のボスに「オレの言う通りにしないと殺すぞ」と脅されてやっている感じがして、こいつはいつ「お前は用済みだ」って言われてボスに消されちゃうんだろうってドキドキしていたのに、まさかマクレーンがあっさりぶっ殺しちゃうなんて・・・
 あそこはダーティハリーとの違いを貫いて欲しかったな。銃で殴って気絶させるとかあるじゃん。他にもやり方が。

 あと敵のボス「ガブリエル」に魅力がなくて、恋人の女性格闘家に比べてかなり印象が薄かったのは痛かった。
 今回のボスってそんな腕っ節が強いタイプでもないし、仲間や部下を大切にするような悪のカリスマタイプ(例えば「核ミサイルを発射されたくなければ刑務所に服役している俺の仲間を釈放しろ!」とかいうボス)でもなかった。
 じゃあ頭脳戦が得意なキレモノタイプなのか?って言うとそれもいまひとつ。こいつって設定上ではFBIとかで名の知れた技術者らしいんだけど、こいつのエンジニアとしてのすごさも良く分からなかった。技術的なことみんなあの眼鏡の人や部下にやらせてたし・・・戦闘機の無線もあの眼鏡なしではままならないカッコ悪さ。

 そもそもシステムエンジニア時代の「アメリカのインフラを管理するコンピュータネットワークのセキュリティがぜい弱だよ」という自分の主張が国家に認められなかったという、かなり個人的な恨みで犯行を起こすって言うのもなんというか・・・まだ工事現場のおっさんを襲いながら世界征服をうたうショッカーの方がカッコいいっての。
 歴代大統領の演説をパッチワークして作った犯行声明のビデオもやたら趣味的で「もっとニクソン使いたかったな」ってこいつらは一体・・・

 ・・っていうか、なんでみんなあんなカリスマ性のなさそうな奴についていったんだ?それが一番の謎だよ!
 
 最後に面白いなあって思ったのが登場人物の配置。主人公と相棒はかっこ悪いハゲオヤジとSF映画オタクのハッカーなのに、敵側が美男美女のカップルって新しいなあって思った。
 もうそのキャラ配置の新しさだけに感心しちゃって「いいアイディア見つけた!」って大満足なのでした。これ後で私もパク・・・参考にしよう。主役がダサいおっさんで、敵が美男美女・・・メモメモ!

『量子重力理論とはなにか』

 タイトルに偽りあり!

 理学部の学生以外は買ってはいかん!いかんぜよ、竹内さん!(c)福山雅治

 著者はサイエンスライターの竹内薫さん。

 量子重力理論とはなにか?という本なのに、肝心の量子重力理論にふれているのは第四章だけで、それはたった20ページ。本全体の一割程度しかない。
 しかもその第四章も「量子重力理論の“迂回路”」という章で、量子重力理論への手がかりとなる数学的な考え方をあれこれ紹介しているだけ。しかし待ってくれ。俺たちは量子重力理論そのものを知らないのに、その迂回路ってなんだ?

 この本は書きかけの原稿をそのまま強引に本にしちゃった感じがあって(まえがきによれば路線変更で書くきかけの原稿を一度破棄しているそうだ)、章が進むにつれどんどん解説がおざなりになり、一般の読者はどんどん置いてかれてしまう。挙句の果てには「物理学徒のための注」とかいいだして、完全に物理学徒以外は放置プレイ。
 そして「本来は量子重力理論の本を書くはずだった」という衝撃の告白でこの本は終わる・・・(ならタイトル変えろ!)

 私は、ぶっちゃけ第一章(相対性理論の相対的な矛盾をローレンツ変換を使って座標で表す=ミンコフスキー図の話)くらいしか分からなかったし、量子のデジタル性について数学的な説明をした第二章は、イマイチイメージがつかめないところもあって半分くらいの理解度(偏光フィルターによって光の状態が変わる話は面白かったけど)。
 第三章の「二重相対論(相対論の絶対的な要素である慣性座標系=ここでは光速度に、量子力学のプランク定数を組み込んだ相対性理論のこと)」に入ると話は途端に難しくなって、それはなぜかっていうと「学術論文に書かれた数式(スナイダーの量子時空理論)を一緒に解いて行こう的」な、もうそんなの解説でも何でもないことになっちゃって、学術論文の数式なんて解けたら、そもそもこんな本買ってねえよって感じもするし、全くこの本はどういう層に向けて書かれたのか分からなくなってしまう。
 金子隆一さんと言い、これはサイエンスライター特有の病気みたいなものなのか?

 さらに「詳しい解説はこの本を読んで欲しい」って煩わしい解説は他の本に回してしまうんだから、一体この本の存在価値って・・・

 高校の微分積分も怪しい私が大雑把につかんだイメージはこういうことだ。言いたかった内容と違ってたらごめんね竹内さん。でもこの本の構成じゃ仕方ないでしょ?

 昔はニュートン力学や電磁気学(古典物理学と言う)で世界の物理現象は大体計算できると思っていた。でもその理論は、かなり特殊な状況(力が釣り合っているとか、力が働かない時とか・・・)でしか使えず、一般的な目の前で起こる物理現象を考える場合には、話を単純化する必要があった(だからあくまでも式を演繹して導かれる答えは実験結果の近似値だった)。

 しかし現実の世界はもっと複雑だ。ニュートン力学では実験を行なう「観測者」を世界に全く影響を与えないような「完全なる第三者」として想定し、客体世界の物理現象を扱ったが、よくよく考えればそれは幻想だった。
 実際には学校の授業参観で子どものいつもの授業態度が変わってしまうように、観測者(主体)が客体世界に影響を与えてしまう。
 そこで「主体と客体の関係性」を物理学に組み込んだのがアインシュタインだった。物理現象と言うのは観測するものと観測されるものの相対的な関係性によって決まるから、相対性理論と言う。

 もう一つの物理学の革命が量子力学の誕生だ。もう難しいので適当に考えると古典力学は物理現象の連続性を(例えば大砲や弓矢の弾道とか)、話を単純化することでなんとか計算しようとしていたのだけど、そのようなマクロな物理現象を、量子(物理量の最小単位。私はドットのようなものだとする)レベルにまで細かくしてみていくと、その連続性は失われ、全ては飛び飛びの値にしかならなくなる。
 飛び飛びってなんだって言うと、竹内さん曰くそれは「デジタル」であり、私なりにイメージするに、電光掲示板の動きはぱっとみ連続的に見えるけど、クローズアップして見ると、その動きはドットごとのデジタルな振る舞い(電球をつけたり消したり)の集合(ドット絵)だったりする。

 なんとも強引なアナロジーだけど、私たちだって組織、細胞、分子、原子、電子と原子核って細かく分解していけば、結局のところ量子の集合体であり、ミクロな世界ではもうこれ以上は理論的に細かくしきれない!という領域がみえてくる(プランク世界)。
 ここでやっと加速度や重力の影響度の値がほとんど0(完全に0ではない)の領域に到達する。世界のすべてがデジタルな粒(量子)ならば、物理現象を発生させる全ての力も量子化できるはず。
 この世界の力は大きく分けて四つの勢力が存在するが、その内の三つは量子論で説明がついたという。だがこの力の四天王の中でもっともメジャーな重力(時空をひぱって曲げてしまう力)だけは、現在においてもなぜだか量子化できない。「重力子」なるものも発見されていない。この重力を量子化する理論こそが量子重力論なんだろう。

 この理論を完成させるために、この本ではシュバルツシルト時空(回転するブラックホールや膨張する宇宙の曲がり具合が計算できると言われる時空のこと。自由落下する飛行機の中では重力がなくなるように、ブラックホール内部では局所的ではあるが重力の影響を考えずに済むことができる)とかレッジェ計算(時空を細かい三角形の集合として、その時空の曲がり具合を調べる計算方法)とか手がかりになりそうなものを雑然と紹介している(だけなんだ)けど、一番ぶっ飛んでいるのが最後に出てくるミルナーのエキゾチックな微分構造。

 ミルナーは、7次元の球面には我々の使う微分構造以外にエキゾチックな微分構造(なにものだそれは)が27個存在すると数式を解いて証明したらしい。
 7次元の球面とは、その球面上の位置関係を7種類の座標軸が決定する球面の事で、そんなの立体的にあり得ないんだけど、数物理学者は別に次元を増やすことにあまり抵抗がないので、どんどんおかしな世界へ旅立ってしまう・・・
 面白いのは1~3、5~6までの次元の世界は微分構造の種類が1個に絞られるのに、7次元では合計28個、8次元が2個、9次元で8個、10次元で6個、11次元で992個、12次元が1個、13次元が3個、14次元が2個、15次元が16256個・・・と素人にはその規則性が全く分からない点。

 そして微分構造の種類が最も多いのが実は4次元で、その数は計測不能(多すぎて数え切れない)だという。
 我々の住む宇宙は四次元だからこそ、無限の可能性があるのでは?とか竹内さんはやたらリリカルに締めくくっているが(例えばエヴェレット解釈=パラレルワールドの可能性とか)どうなんだろう。

“社会”人の絶滅

 中国の反日デモ(・・・の名を借りた国家体制批判)って、団塊の世代の人たちが若かった頃の日本の学生運動見ているようでなかなか興味深い。というのも若い頃に本気で自分たちの社会をよりよくしようと団結した経験が私たちの世代には無いから。
 大学時代も、周りのみんなは社会に対して何の問題意識も持たず「どうせ俺たちがなにしても社会は変えられないよ」とニヒルに振舞う人ばかりで、ちょっとつまらなかった。

 いや私は別に横断幕持ってみんなで行進したかったわけではない(お祭りとか嫌いだし)。ただ、せっかくのモラトリアム期なんだから、ただ惰性で授業に出て単位とって卒業しちゃうのはもったいない!
 もっと若さゆえの傲慢さ、社会経験がないことの利点?を生かして、現代社会の矛盾や問題点を偉そうに論考してやろうぜ!私は本気でそう思っていたし、教授の若い頃の話を聞いて、良くも悪くも昔の大学生はエネルギッシュでかっこいいなあって憧れてた。
 団塊の世代の人って大学進学率が今よりもずっと狭き門だったから、今の大学生よりも確実に教養もあったんだよね。オタクのように大学生の人口がどんどん増えてバカの割合も増えちゃったんだ。

 だからどう考えてもモラルを逸脱している人に対しては、教授だろうと真向から議論を挑み反抗して一人学生運動ごっこをしてみたんだけど、おかげで単位を取れずに7年も大学にいるはめになった。親にはいい迷惑だけど。そして一番大学を批判していた奴が一番大学にいたって言うのが皮肉な話。

 もちろん学生運動は美化しちゃうとまずいのは分かっている。運動って言うのはとどのつまり一部の中核にいる人だけが賢くて、周りは最終的には全体主義的な引力(「運動をやめたいだと?てめえ俺たちを裏切るのか」的な力)に引っ張られているだけって話も、前にdescf氏としたこともあるんだけど、それでも社会に積極的にコミットしようって言うスタンスには憧れを感じてしまう。
 私たちの世代は大きな物語への憧れがあるのではないだろうか?ない?あっそう・・・

 実存主義のサルトルは「人生なんて偶然性の産物で、ど~せ生きるも死ぬも不条理な確率の力に支配されちゃうんだよ」って言った。「人生で成功している奴って言うのは結局のところ運が良かったんだよ」って言うのと同じ論理だよね。
 ・・・確かにそうなんだけど、そんな事考えてちゃ夢のために努力することの意味性がなくなってしまう。でもそれは厳密には違うんだ。全てが偶然性ならその夢がかなうかどうかも分からないんだから。
 これはサルトルもちゃんと考えていて、ここで思考が終わると単に生きることが虚しくなるだけの野暮なニヒリズムになっちゃうから、それならば社会の進歩に人生をかけてもいいんじゃない?ってマルクス主義(社会が段階的に進歩していくという希望的観測)をみんなの生きがいにしようと呼びかけた(アンガージュマン=能動的な社会参加のこと)。
 しかし今はマルクス主義自体が廃れてしまった。あわれサルトル。やっぱり人生をかけるほどの社会的思想や実現すべき社会システムは、資本主義以降は無いのだろうか??なんかありそうな気もするんだけどね。民主的な社会主義とか。
 
 私は中学生くらいの時、自分よりもちょっと上の若い人が大人になったら、社会はもっとよくなるんじゃないかと思っていた。「絶対的な価値観を子どもに押し付けるのが大人」といった古くさいイメージが変わって、もっと一人一人の個性や価値観の違いを尊重してくれる心の広い大人が増えると思っていた。
 そしてどんな人も自分の意見が言いやすくなって「今度はこういう問題があるんだけど、みんなで意見を出し合おうぜ!」って感じで民主主義の理想に近づくんじゃないかと思っていた。
 つまり中学生の自分の気持ちを、今知っている難しい言葉で言語化するならば、ポストモダン(価値観の相対化)万歳!って感じだった。

 私の予想は半分当たって半分外れた。つまり社会全体の価値観は確かに多様化したけど、そこで生まれた様々な価値観を若い世代は許容できなかった(・・・気がする)。
 私たちは一つの価値観を共有することをやめて(ここまでは別によかったんだけど)、一人一人が自分だけの世界を作って閉じてしまった。個人レベルでは相対主義どころか絶対主義もいいところなんだ。
 これじゃあ昔の大人と一緒・・・いや、大人が子供っぽくなっただけで、むしろ悪化した!率直に言って大人がダサくなった!

 別に大人になってもアニメや漫画にハマっているのはどうでもいいんだけど、大人なら自分とは違う意見にも耳を貸すべきだと思う。だって価値観が多様化したのなら、個人レベルで相対主義を標榜しなければいけないんじゃないの?「なるほど。その意見も面白いね!」って。
 それともそんなことは不可能なのだろうか?外部の病原菌を免疫が殺すように、個人の思想や価値観にも免疫があるのだろうか??
 そんなことはない。いろいろな人の面白い意見を交雑すればもっと面白いアイディアが生まれるに違いない。

 私たちはもう一度ポストモダン思想を考え直した方がよさそうだ。そしてせっかくの民主主義。もっともっと活かせるような気がする。
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