『80日間宇宙一周 The Stargazer』脚本③

研究室の窓の外に高級車がやってきて止まる。
その後ろには無骨な軍用ジープが続く。
車両からぞろぞろと降りてくるスーツの男と屈強な男たち。

窓の外をぼんやりと眺める「さてと・・・そろそろ帰ってくれないかしら」
ライト「え?」
マーガレット「結論から言って・・・これは古代木星語よ。」
ミグ「木星?」
マーガレット「エッジワースカイパーベルトに文明はないわ。正直に言いなさい。
これはメインベルトの石碑でしょう?・・・あの男ね」
ライト「それは・・・」
「呆れた。まだスタータブレットを探しているのね・・・」
ミグ「スタータブレット???」
ライト「ま、まあでもあれが見つかれば教授も落ち着くと思うで」
プロジェクターからフィルムを外してそれを突き返すマーガレット
「もうその話はうんざり。スタータブレットなんてただのオカルトよ。
太陽系科学学会もそう断定したわ。」
ライト「でもこれはなんや?
もしかしたら教授は本当にスタータブレットまであと一歩ってところまでつかんでるんちゃうか?」
ミグ「スタータブレットって何??」
窓の外を見つめながら追い返すマーガレット
「どうでもいいわ。とにかくこれ以上は協力できません。帰ってくれない。忙しいの」



庭に着陸しているリンドバーグ号を確認する男たち。
無線で連絡する特殊部隊の隊員「例の宇宙船に間違いありません。」
大学に入ってくるスーツの男と屈強そうな背の高い黒人の男。
屈強な男「それで・・・いったい何者なんですか?」
スーツの男「彼らとは何度か会ってましてね・・・とっても面白い人物なんですよ。」
屈強な男「それが例のものを狙っていると?どうもわからないな。
我々が動くほど大物のようには思えませんが・・・」
スーツの男「くっくっく・・・まあそのうちわかりますよ。」
大学の受付に挨拶をする。
スーツの男「マーガレット・アレゴリー教授をお願いします」



研究室を強引に追い出される二人。
マーガレット「さっさとそのフィルムをもってここから離れなさい。
以後大学には戻ってこないように。出口はこの通路を右ね」
扉を閉めるマーガレット

ミグ「なんかにわかに怒られちゃったな・・・」
ライト「忙しいんやろ・・・それにあの人、教授とはいろいろあってな」
ミグ「いや、私が嘘をついたのが悪かったんだよ。
ごめんなライト、余計なこと言っちゃって・・・」
ライト「ええってええって。お前がいなかったら読まずに突き返されてたわ。
しかし、さすが名家の出は違うな・・・!」
「え?」
「いろんな文字知ってたやないか。ファイファイの円盤とか・・・オイラぜんっぜんや」
ミグ「ああ・・・大したことじゃないよ」
ライト「ニャハハまたまた!」
ミグ「後ろの黒板読んだだけだから」
ライト「・・・・・・」
ミグ「ごめんね。遺跡探検なんてしたことないんだ。私の趣味は家で一人で酒を飲むこと」
ライト「・・・帰ろうか、ミグ・・・」
ミグ「うん・・・」
大学から出ていく二人。



マーガレットの研究室
スーツの男と屈強な男が研究室に入ってくる。
スーツの男「失礼しますよ」
マーガレット「あらムッシュピカール・・・今日は懐かしい人ばかり訪ねてくるわね」
ピカール「・・・というと?」
マーガレット「いえ、こっちの話よ。お茶でもいかが?そこの木偶の坊も飲む?」
ケセド・バイザック大佐「あ。いただきます。」
マーガレット「で、今日はなんの御用かしら?」
ピカール「実は人を探していましてね・・・
地球の冒険家と冥王星の軍人のコンビなんですが・・・あの二人にはほとほと困ってましてね・・・」
懐から写真を撮り出すピカール「ご存知ないですかね?」
写真を受け取り無言で見つめるマーガレット
「・・・用件はそれだけ?」
写真を突き返すマーガレット「人探しなら残念ね、力になれそうにないわ。宇宙は広いもの」
ピカール「ええ、宇宙は広い・・・だから母親のあなたを訪ねてきたんですよ・・・」

大学構内の中庭
リンドバーグ号に向かって歩く二人
ミグ「・・・つけられてるぞ」
ライト「そのようやな・・・」

研究室
マーガレット「・・・容疑は?」
ケセド「アマルテア政府の機密情報を持ち出した疑いです。」
マーガレット「言っててバカバカしくない?」
ケセド「私も同感です。彼らはどう考えても国際スパイには見えない。
とはいえ上からの命令なんです。形式的な事実確認をするだけですので、居場所をご存知ならば教えていただきたい」
マーガレット「ごめんなさい、バカな子だけどそれなりに可愛いのよ」

大学の中庭を歩く二人を発見する特殊部隊
「隊長ターゲットを確認。宇宙船の方へ向かっています」

ケセド「了解。すぐに向かう。・・・博士、見つかりました」
ピカール「ああ、見つかったようです」
紅茶を飲むマーガレット「はい、いってらっしゃい」
ピカール「あなたにもご同行願えませんかね?」
マーガレット「あら20年前の学会を覚えてない?私はあなたが嫌いなの」
ピカール「そうですか・・・バイザック大佐」
ケセド「了解。二人を確保しろ。」

中庭
特殊部隊が物陰に隠れながら近づき徐々にふたりを包囲する
ライト「なんやねん・・・」
ミグ「知らないよ、もしかしてそのフィルムを狙ってるんじゃないのか?」
ライト「お宝に興味があるのはギャングだけやないってことか・・・
・・・数が多いな。リンドバーグ号で蹴散らすわ、援護してくれ」
微笑むミグ「人生最大の危機的状況かな・・・?」
ライト「バカ言え・・・後ろは預けたで!」

ケセド「作戦開始だ」
特殊部隊「了解・・・」
銃を構える特殊部隊に突然拳銃を撃ちまくるミグ。
その途端ダッシュで宇宙船に向かうライト。
特殊部隊「気づかれた!!」
ケセド「宇宙船に行かせるな!」
リンドバーグ号に特殊部隊が近づけないように銃でライトを援護するミグ。
宇宙船に近づけない特殊部隊
ケセド「クソっ!ゴム弾だ!ゴム弾であの女を制圧しろ!」
ミグに向かってゴム弾のグレネードランチャーを撃つ特殊部隊。
ゴム弾を避けながら中庭の並木の陰に身を隠すミグ。
マガジンを素早く取り外し、装填しなおす。
ミグ「ああ、もう・・・」
リンドバーグ号にたどり着くやいなやハッチを開けてEM銃をミグに放り投げるライト。
ライト「こいつで母さんを頼む!」
EM銃を受け取るミグ「母さん?」

ケセド「よし、相手は弾切れだ、押せ押せ押せ!GOGOGO!」
EM銃の弾丸が飛んでくる
特殊部隊が吹っ飛ぶ「うわあああ!」
「なんだあれは!?」
「大佐実弾の許可を!!」
ケセド「いやダメだ!殺してはならん!セレマの命令だ!」
EM銃でジープがひっくり返る
「後退だ!一度体勢を立て直して再び」
ミグに応戦する特殊部隊の一団にリンドバーグ号が突っ込んでくる
ライト「散れい!ちらんかいお前ら~~!!」
リンドバーグ号のプロペラから逃げ出す特殊部隊「うわあああ!」
無線をひっつかむケセド「やっぱ撤退!全員撤退!!」

研究室
窓の外では銃声が鳴り響き激しい戦闘が行われているが、動じずにお茶会をしている二人。
マーガレット「あれが形式的な事実確認?」
ピカール「まあね」
EM銃を構え部屋に踏み込んでくるミグ「アレゴリー教授!」
マーガレット「ああ・・・あなた。」
ピカール「お邪魔してますよ」
驚くミグ「ピカール卿・・・!」
マーガレット「もしかして知り合い・・・?」
ミグ「悪党です」
うなずくマーガレット「知り合いのようね」
EM銃を向けるミグ「今度は何を企んでいる?」
ピカール「とんでもない、私はただ忠告に来ただけですよ。」
ミグ「忠告だと・・・?」
ピカール「スタータブレットには近づかないほうがいい」
マーガレット「あら、どういう風の吹き回し?
クリストファーの論文は質の悪いオカルトなんじゃなかった?」
椅子から立ち上がるピカール「世の中知らなくていいこともあるんです。
ご主人にそうお伝えください。」
マーガレット「言って聞くようならとっくに言ってるわ」
ピカール「そうでしたね。」
ミグ「待て!スタータブレットってみんな言ってるけど何なんだ!?流行ってるのか!??」
後ろからミグを殴りつけ気絶させるケセド
倒れるミグ「ぐっ」
ピカール「荒唐無稽な御伽噺ですよ。」



中庭
撤退する特殊部隊
リンドバーグ号で制圧するライト「帰れ!帰れボケ!!」
大学から車両が出ていく
ライト「まったくゴキブリみたいなやつや・・・」

研究室
ライト「ミグ!母さん!!」
研究室には誰もいない。
クリス「さらわれたようだな」
ライト「教授!いたんか!」
クリス「で、例のフィルムは読んでもらった?」
ライト「お前どうしてくれんねん!お前のせいで母さんとミグが捕まっちまったんやぞ!」
クリス「大ジョブ大ジョブ。相手の目的がスタータブレットなら古代文字が読める母さんに危害は加えないって。そのミグってやつは殺されちゃうかもしれないけどねニャハハ!・・・で誰そいつ?」
ライト「殴るぞ」
クリス「少しは落ち着いたらどうだ。カッカしてると見えるものも見えなくなる。例えば・・・
この便箋はママの趣味じゃない」
マーガレットの机から手紙を見つけるクリス。
ライト「なんや?」
クリス「招待状だ」

『80日間宇宙一周 The Stargazer』脚本②

木星最大の国家アマルテア。
日干しレンガの建物が並び、エジプトや西アジアのようなエキゾチックな雰囲気を醸し出している。
遠くには巨大な宮殿やモスクが見える。
青空マーケットでは様々な人種が交易品の取引をしている。

オープンテラスのカフェ&バー。
ラジオ「――JNC木星民族会議のンゴロ・アルベド議長は“木星の新しい夜明けだ”と惑星連合の和平合意を歓迎しました。これにより帝国主義の時代から続いた植民地は木星からすべて無くなることになります。
しかし民族の境界を無視してひかれた国境線は今もなお資源をめぐる対立の火種となっており、平和への道のりは長く険しいと言わざるを得ません。
貧困と紛争に喘ぐこの星が真に独立するには、内政干渉と国境の変更を認めないというJNCの条項を変更する必要があり、アルベド議長は・・・」


カフェのテーブルで指を組むYシャツ姿のミグ。木星は大気の影響で気温が高いがネクタイはちゃんと締めている。
ミグ「・・・で?お父さんの病気は大丈夫だったのか・・・?」
ライト「ああ、死にかけてたよ」
驚くミグ「帰ってきちゃっていいのか!?」
ライト「・・・というかあっちが勝手に宇宙船から飛び降りたんや」
ミグ「飛び降りた!!???」
「もうほっとけばええねん。(ウエイターの方を向いて)あ、ロイヤルアイスティー頼むわ」

テーブルに置かれるアイスティー
ミグ「なるほど。つまり・・・純粋にお前に会いたかっただけなんじゃないか・・・?」
ライト「い~やあれはお宝のことしか考えてへん。教授は昔からそうやった」
ミグ「教授・・・?」
ライト「オトンって感じせえへんねん。だって会ったの10回もないから」
ミグ「え??」
ライト「ミグの親御さんが亡くなったのって、あんたが10歳くらい?」
ミグ「そうだね」
ライト「じゃあお前の方がずっと親と会ってるよ・・・あんたは親とうまくいってた?」
ミグ「ああ・・・優しい両親だったよ。たくさん愛してもらったし。尊敬してる。
だから突然いなくなったのがショックでさ・・・」
アイスティーをストローでかき混ぜるライト「ふ~ん・・・」
ミグ「・・・家族との思い出が少なかったのなら、今から増やしていけばいいじゃないか。
私にはもう二度とできないんだから」

路地の奥からガラスの割れる音とけたたましい車のエンジン音が聞こえる。
ライト「まったくこんな市街地でカーチェイスやるなや・・・どこのバカ・・・」
後ろをふりかえり、テラスの外を見るライト。
見るとトラックに乗った男たちがひとりの裸の男を追いかけている。
追っ手「てめえもう許さねえぞ!クリストファー、金を返しやがれ!」
肩を落とすライト「・・・・・・。」
パンツ一枚のクリスが両脇にケースを抱えてトラックに追いかけられている「出世払い!」

銃撃される裸のクリストファーを見つめて口を開けるミグ
ライト「あれと暮らしたい?」
ミグ「・・・・・・。」
ライト「目合わせるな。因縁つけられるで・・・あ、近づいてきた。」

カフェのそばの石畳に停車しているバイクに股がるクリス「ちょうだい」
そばでタバコを吸っていたバイクタクシーのおじさん「待て!ドロボー!!」
構わずエンジンをかけるクリス。ブロロロロロロ・・・
オープンテラスを通り過ぎるバイクとギャングのトラック。
メニューで顔を隠すライト。トラックが遠ざかっていく。
ミグ「もう行ったよ・・・」

石畳の道を歩き、クリスがいたところへ向かうライト。
ライト「ま、こういうことや。気軽に関わったら火の粉がこっちにも飛んでくる・・・」
ミグ「お父さん歳の割にやたら動きが俊敏だったけど・・・でも、ほっといていいのか?」
ライト「自分で何とかするやろ・・・」

遠くで追っ手のトラックが横転し爆発する
男たち「うわ~~~!!!」
火が上がる方を見つめるミグ「・・・・・・。」
ライト「ほらね。」
何かに気づいてかがむライト
「・・・あのバカ、なんか落としていきおった・・・」
地面に落ちた小さなビニール袋を拾うライト。
ビニール袋の中のものを取り出すライト「カメラのフィルムやんけ」
ミグ「じゃあ届けてやらないと・・・」
小さなメモがついている。
メモを読むライト「・・・あいつ・・・」

(エウロパ大学のアレゴリー教授に解読頼むわ!ノシ)



黒板にチョークで板書する年配の女性教授
「現在木星には55の国家が独立しています。
しかし未だに紛争や内戦、飢餓といった深刻な問題を抱えている国も多い。
国境と資源に関係する地政学的な問題、歴史や文化に関係する民俗学的問題・・・
紛争の背景には様々な要因がありますが、私が考えるに、最も大きな原因はそれぞれの民族が異なる言語を使っているからだと考えます。」

大学の廊下を歩くミグとライト
ライト「は~こういう学校の雰囲気は好きになれへんねん。冥王星を思い出すわ・・・」
ミグ「悪かったな・・・で、誰なんだ?」
「ああ、マーガレット・アレゴリー・・・言語学者や。
宇宙のすべての文字を知っている。」

エウロパ大学の講堂
ほとんどの大学生は白人であくびをしている。
マーガレット「民族ごとの異なる思考体系の形成は、まさにその民族がどのような言語を用いているかに大きく規定されており、それらを相対的かつ系統学的に比較研究することは、民族紛争を客観的に分析する一つの手がかりになるはずです・・・
言うならば、これは言語の進化の道筋をたどることであり・・・
M・フーコーが論じた“知の考古学”にほかなりません。」

講義終了のベルが鳴る。ぞろぞろと出て行く学生たち。
教壇でテキストを揃えるマーガレット「・・・・・・。」
ライト「アレゴリー先生」
マーガレット「あら・・・久しぶりねライト君・・・今更単位を取りに来たの?残念だけど手遅れよ。」
苦手そうなライト「い、いや・・・ちょっと解読して欲しい文字があるんやけど・・・」
「ふ~ん・・・誰かによるわね」
「え?」
「あなたが言語学に興味を持つはずないでしょ?(廊下の学生たちに顎をやる)官僚候補の連中だって興味がないのに・・・この星の平和は当分お預けね・・・」
ライト「ははは・・・あきませんね~学校の授業はちゃんと聞かんと・・・(学生に怒鳴る)お前らちゃんと勉強せえよ!」
にじりよるマーガレット「で・・・誰の差し金なの?」
ライト「そ・・・それは・・・」
ミグ「私です」
マーガレット「あなたは?」
ミグ「ミグ・チオルコフスキー、冥王星の小惑星解体部隊のものです。小惑星を解体中に奇妙な碑文を発見したので、その写真をアレゴリー教授に見ていただきたく参上しました」
ライト(ミグ・・・!)
マーガレット「ああディープインパクトの・・・未解読言語に興味がおありなんですか?」
ミグ「え?ええまあ・・・遺跡探検が趣味なので・・・」
マーガレット「なるほど・・・例えばどんな未解読言語をご存知なの?」
ライト(んなもん知らんがな・・・)
ミグ「ええとインダス文字、ミノア語、エラム文字、ファイストスの円盤・・・」
マーガレット「なるほど・・・失礼しました、あなたには教養がある。
私の研究室へ案内しますわ。」
廊下の方へ歩き出すマーガレット
ライト「ミグ・・・」
黙ってうなずくミグ。マーガレットのあとをついて行く二人

研究室は本棚だらけで狭いが綺麗に整理整頓されている。
窓際には手入れの行き届いた花や観葉植物が並んでいて、小さな英国庭園のようになっている。
丁寧に紅茶を入れるマーガレット。
「あなたはメロンソーダよね。気が利かなくて本当ごめんなさいね・・・」
ライト「いや紅茶でええです・・・」
紅茶とケーキを差し出すマーガレット
「ヒマリアのプランテーションで採れた茶葉なんだけど・・・冥王星の方の口に合うかしら」
ミグ「いえ、いただきます・・・」
プロジェクターをセットするマーガレット「ところで、ええと・・・」
かがみ込んでプロジェクターの配線を繋ぐライト「あ、オレがやります」
「あ、どうも。で、チオルコフスキー将軍、どのあたりの小惑星でくだんの碑文を?
太陽系外縁天体?」
ミグ「ええ」
考え込むマーガレット「・・・・・・」
ライト「セットできました」
マーガレット「・・・まあいいわ。とりあえず見てみましょう」

研究室の照明が落とされる。
スクリーンに石版の写真が映し出される。
メガネをかけるマーガレット「これは・・・」
ライト「なんて書いてありますかね?読めますかね??」
マーガレット「ちょっと静かにして。今読んでいるんだから」
ライト「さーせん」

「・・・そこまで古い言葉じゃないわ・・・2世紀あたりね。

王は太陽の子
神に知恵という強大な力を授かり王国を築きし者
全知全能のその力は地を揺るがし、海を引き裂き、天空の星をも落とす
王は神にも等しい力を得た


ええと状態が悪くて読めないわ。

・・・よって王は神の地を去り、その力を封印することに決めた
アストライアの大神殿と迷宮は、探求者に試練を与えるであろう
星の運河を辿り、星の欠片を手にした女神の舞によって真実の扉は開かれるのだ


マーガレット「書かれているのは以上よ。照明をつけて構わないわ」
照明をつけるライト
ライト「・・・で結局どういうこと?登場人物をイラスト付きで整理してくれへん?」
マーガレット「私の専門は解読するだけ。意味を見出すことじゃないわ。
それを得意とする学者をライトくん、あなたは知っているはずよ。」

『80日間宇宙一周 The Stargazer』脚本①

電報「チチ危篤。スグモドレ」

メインベルトの未知の宙域に存在する、地図にも載っていない小惑星「1903 XQ」

直径500キロに及ぶ小惑星の地表には大規模なレアメタルの鉱山が広がっている。
地下資源を回収し、製錬するためのトラス構造のプラントには、怪獣のように馬鹿でかいプロメテウス社製の重機がところせましと並んでいるが、採掘場は現在、操業停止しており動いていない。
小惑星表面を切り裂くように掘られた数キロにも及ぶトレンチ。
地下1000mまで垂直に掘られた、まるで不思議の国のアリスに出てくるような、巨大なトンネルの中にはロープやバケツ、エレベーター、作業用ステップが組まれている。

坑道の最深部
ダンゴムシのような生物をあしらった黄色と黒の警告標識が取り付けられている。
400nm以下の波長の光は使用禁止!

地下採石場の傍らには、古代文明のものと思われる寺院の遺跡が見えるが、物騒なドリルのついた採掘機によって半分以上破壊されている。
そこでは、EVA服(小惑星には大気がない)を着た20人ほどの発掘調査隊が作業をしており、その中央では大柄の中年男性が壁に向かって、エアスクライバーを使って壁面を掘り出していく。
「マーシャル大学考古学研究チーム」のロゴが入ったコンテナが発掘現場に転がる。
コンテナのいくつかは横倒しになっており、彼らが突貫工事で作業をしていることがわかる。
現地人のポーターは掘り出された出土品をリレーのように後ろへ運び出し、ビニール袋に入れていく。

ライト「あれ?」
ミグ「どうした?」
ライト「親父が危篤やって」


大柄な男に話しかける現地人のコーディネーター。
コーディネーター「ミスタータイムオーバー。チームヒキアゲル!」
男「・・・アミーゴあと五分。」
コーディネーター「アンタソレバカリ!マルドゥククル・・・!ココギャングノナワバリ・・・!」
男「ダイジ、ダイジ!発掘許可申請は何度も送ったんだから。
まああの馬鹿どもが英語読めるかわかんねーけどさ。ニャハハハハ!」

調査隊の背後にいかにもガラのわるそうな黒人ギャングたちが武装して立っている。
マルドゥク「二千通にも及ぶラブレターありがとよ教授、今度うちの若いのに英語ってのを教えてくれねえか?」
コーディネーター「ヒイイイイイ」
一目散に逃げ出すコーディネーター
男「あ、お先やってま~す」
「お先やってますじゃねえよ、てめえうちのシマで勝手に何やってんだ」

男(すべて掘り出す時間はなさそうだな・・・)
背中越しに小型カメラのシャッターを切る。
壁面から断片的に掘り出された石碑がフィルムに収められる。
ギャング「おい!なにしてる!!」
ギャング「ボス、あいつ記念撮影してますぜ」
ギャング「そのフィルムをよこせ!」
マルドゥク「殺されてえようだな教授、てめえももう終わりだ」

ミグ「それは大変じゃないか、すぐ行ってやろうよ」
ライト「大丈夫やって、殺しても死なんような男やから」


男「あんたらの商売の邪魔はしてない。ここは見逃してくれないかね」
マルドゥク「い~や、お前はここで大好きな遺跡ちゃんと死ぬんだ。」
男「ダメ?交渉決裂?ボーリングするとき地質図とか書いてやったじゃん。」
マルドゥク「残念だったな。」
男「ふ~・・・西部開拓時代・・・大切な井戸や金鉱が奪われそうになったとき何をしたと思うね?」
ギャング「ボス、まだ喋ってます」
マルドゥク「時間稼ぎだ。殺せ。」
銃を構えるギャング
とっさにギャングの方へ手榴弾を投げつける男
ギャング「爆弾だ!」
ギャング「よけろ!!」

手榴弾が破裂し強烈な閃光がはしる。
マルドゥク「あのやろう!はったりだ!!」
「撃ち殺せ!!!」
一斉に引き金を引くギャング
発掘隊とギャングとのあいだで激しい乱闘が始まる。
現地人の調査隊をビームガンで銃撃するギャング。
つるはしでギャングをぶっとばす調査隊。
銃撃をかわしてトンネルの奥へ走る男。
寺院の遺跡全体が大きく振動する。
マルドゥク「逃がすんじゃねえ!」

その刹那、閃光に向かって巨大なダンゴムシのような生き物がブルドーザーのように突っ込んでくる。重機やステップを破壊しながら暴走してくるギガントマキアーグソクムシ。
あるものは踏み潰され、あるものは消化液で溶かされる。
ギャング「ぎゃああああ」
マルドゥク「明かりを消せ!明かりを消せえええ!」
ギャングたちはグソクムシに銃撃するが、体の殻が厚くて通用しない。

マルドゥク「そんな化けもん相手にするな!やつを追え!」
遺跡の回廊を宇宙用のジェット推進ジープ「マーキュリー」に乗って進む考古学者。
道は上り坂になっていく。ギアを四輪駆動に切り替えてアクセルを踏み込む。
ギャングたちもトラックに乗って追いかける。
「行け!殺せええ!!」
前のジープに向かって銃撃するギャング。
車両は寺院中心部の祭壇に向かう。
祭壇には蔦やグロテスクな昆虫がびっしりとくっついていて、そこらじゅうに王の怒りに触れた墓荒らしの白骨化した亡骸が転がっている。
トラックの荷台に乗ったギャングがロケットランチャーを担ぎ、ジープに向かって発射する。
ジープの男はバックミラーを見ながら急ハンドルを切ってロケット弾をかわす。
ロケット弾は人面の形に掘られた祭壇の彫刻にぶち当たり、祭壇の中から黄金色に輝く古代文明の財宝が溢れ出る。
賢者の石やエリクサー、サウロンの指輪、ロンギヌスの槍なども見える。
男「へ~あんなところにあったんだ」
古びた吊り橋に差し掛かるジープ。
のっそりと動く背の高い巨大なザトウムシの下をくぐり抜ける。
付近には不思議な鉱物や、不気味に光る生物たちがそこらじゅうにいる。

釣り橋を渡り終えるやいなや、後続の追っ手の車両に向かってダイナマイトを放り投げる男。
男「掘れぬなら 埋めてしまおう 小惑星」
ギャング「あぶねえぞよけろ!!」
大爆発。吊り橋が焼ききれて後続車は奈落の底へ落ちていく。
ギャング「ぐわ~~~!」

遺跡から採掘所の坑道に入るジープ。
遠くにトンネルの出口が見えてくる。
男「にゃ~っはっは!さらばだ諸君!」
アクセルを踏み込みどんどん加速していくジープ。
その直後、考古学者のジープとヘッドライトに引き寄せられたグソクムシが正面衝突する。
ジープから吹っ飛ぶ男「ぎゃあああああ!」

ミグ「お父さんはいくつ?」
ライト「・・・もうじき50かな・・・?いや60だったかも・・・」
ミグ「すぐ戻ってやれって。もう昔のお父さんじゃないんだから」


燃えるジープ。
地面に倒れている男「あたたた・・・腰が・・・」
銃を突きつけるマルドゥク「歳を考えろ教授。てめえはもう若かねえんだ」
男「いやまったく・・・だからタクシー呼んどいた」
ギャングたち「?」
坑道にミサイルが発射され、岩石が崩れ大きな穴が開く。
マルドゥク「!!」
ライト「何が危篤や。どうせこんなこったろうと思った・・・」

穴の向こうにはプロペラ機のような宇宙船が浮いている。
ライト「迎えに来たで教授!」
男「お~!ライトくん!じゃ、私そろそろ帰るから。」
マルドゥク「てめえ・・・」
リンドバーグ号が機銃を連射し、男を取り囲むギャングたちを圧倒する。
男から離れるギャングたち。
旋回したリンドバーグ号は坑道に急降下し、カーゴハッチを開ける。
低空飛行するリンドバーグ号に向かって走りだし、タイミングよく飛び移る男。
急上昇するリンドバーグ号に向かって銃撃するギャング。
エンジンを点火させ吹っ飛んでいくリンドバーグ号
坑道に衝撃波が走る。吹き飛ばされるギャングたち。
無線を持つマルドゥク「船を出せ」

クレーンやパイプラインを避けながら、ギャングの採掘施設を猛スピードで飛ぶリンドバーグ号
ギャングたちの武装宇宙船がしつこく追ってくる。
ハッチを開けて船内に乗り込んでくる男「写真撮ったくらいで随分としつこいなあ」
ライト「今度はどの勢力を怒らせたんや」
男「ああ・・・アルンジャナイジェリアギャングだよ」
ライト「なんやて!!スマイル・マルドゥクを敵に回したのか!あんた行くとこまでおうたな!」
男「うん。宇宙で敵じゃない人間を探すほうが難しいよ!ニャハハハハ!今は最高のスリルと冒険を楽しもうじゃないか!」
機銃手の席に座るやいなや適当にボタンを押しまくる「あ、それポチッとな」
ライト「コラ勝手に押すな!!」

リンドバーグ号からクラスターミサイルが連射される。
追っ手の宇宙船が直撃を受けて爆発し、小惑星に落下し建設重機が吹き飛ぶ。
小惑星の採掘施設は連鎖反応的に次々と崩壊していき、最後に基礎が破壊されてゴロゴロ転がるヘリウム3の巨大な球体タンクに、衝撃波を受けて回転したクレーンがぶち当たって核爆発のようなキノコ雲ができる。

小惑星から離れるリンドバーグ号
窓を覗き込み首を振る男「なんてエグいことを・・・」
ライト「お前がやったんやろ!」
男「まあ、これでみんな土に帰ったべ。また調査隊のメンバー集め直さなきゃ。」
燃える小惑星を指さすライト「おい、それであれは終わりか。」
男「だって、あの破壊工作は最終的にキミの船がやったわけだし・・・ギャングの報復もこの船を狙うだろ。とりあえず木星入って適当なとこに降ろしてくれ。わたしは別の宇宙船に乗るから」
ライト「こらクソオヤジ、ギャングのアジトに落としたろうか」
男「10年ぶりに会った父親に向かって何だね、その口の利き方は・・・
あ、そうそう大事な話を忘れていたな。
私はあの小惑星で超古代文明の存在を示す、とんでもないお宝を手に入れた。」
ライト「超古代文明???」
「まあ、中心部の祭壇は2~3世紀のものだったがね。メインベルトは113年にゼウス一世の支配下に置かれたから考古学的に合理的な説明はつく。木星王の支配域は定説よりも広かったわけだ。
ええと・・・あった。これだ。」
懐から土にまみれた小さなかけらを取り出す。
男「見てくれ、紀元前の木星圏にはすでにこのような高度な結晶加工技術があったのだ。」
ライト「どーせまたいつものガラクタやろ。いい加減宝探しとかやめろや。小学生かお前は。
だいたい今いくつやねん、もっと大人になれ・・・」
男「59歳です」
ライト「・・・・・・。と、とにかくな、あんま社会に迷惑かけんなや。」
男「キミはいつからそんなお行儀のいい子になったんだ。私はそんな子に育てた覚えないぞ」
ライト「あんま育てられた覚えがないんやけど・・・」
男「昔の格言にもあるだろ。この世はでっかい宝島って。
いや~しかし汗かいちゃったなあ、なんか冷たいもんでもある?あと金貸してよ。」
ライト(助けてやったのに礼の一つもなしとは、なんてふてぶてしい野郎なんや・・・!)

瓦礫となった小惑星の採掘施設
炎の前に立ち宇宙を見上げるマルドゥク「どこにでも逃げるがいい。必ず探し出してやるからな・・・」
マルドゥク「また会おうぜクリストファー・ケレリトゥス教授・・・」

『80日間宇宙一周 The Stargazer』登場人物

 『80日間宇宙一周』の第5弾『80日間宇宙一周 The Stargazer』の脚本が完成しました!なんと45000字!シリーズ最長の脚本!
 もう金曜日と土曜日ずっとワープロ打ってたので肩と手の甲が痛い・・・!

 今回は副題の時点で「スタートレジャー」と「トレジャースター」のどっちにしようか3日間も唸っていたんですが、結局「スターゲイザー」にしました。
 これは「天文学者」という意味らしいのですが、ほかにも「夢想者」という意味もあって、今回登場するキャラクターにぴったりだなあって。
 前回の土星でミグとライトの「過去」を描いたので、今回の木星編ではミグとライトの「未来」を描いてみました。もしあの二人が結婚したら歩みがちな未来をw
 ということで登場人物紹介。今回はとにかく設定量が多い!私設定を考えるのあんまり好きじゃないからきつかった・・・虫の名前考えるのだけは楽しかったですが。

ミグ・チオルコフスキー
32歳の天涯孤独の軍人。身内がいない。
ケレリトゥス家の壮絶な家族喧嘩に巻き込まれる。

ライト・ケレリトゥス
宇宙一の発明家であり冒険家。ミグとの長い付き合いで多少マトモになった。
今回彼の名前の由来が明らかに。マサチューセッツ工科大学中退。

クリストファー・ケレリトゥス博士
ライトの父親。考古学者にしてトレジャーハンター。
ライト以上にめちゃくちゃで自分勝手。敵が多くいつも誰かに追われている。
「ちょっと宝さがしてくるわ!」と三年間くらい失踪しちゃうタイプで、息子のライトとは数える程しか会ったことがない。太陽系の文明は石版によってもたらされたという、超知性創造説を唱えるが、学会では異端児扱いされている。実際異端児。

マーガレット・アレゴリー教授
ライトの母親。エウロパ大学社会学部教授。心理言語学者。
言語が人間の心理的発達にどのような影響を与えるのかを研究している。
家庭を顧みないクリスとは会うたびに喧嘩する仲で、10年前に離婚している。
一見クールで知的だがかなりマイペースなタイプ。

トリエステ・ピカール博士
謎の黒幕ミスターアップルに仕えるサーペンタリウスの幹部。
かつてクリスの超知性創造説の論文をはねつけたのはこの人。

サーシャ・ラグランジュ
木星の小さな教会でボランティア活動をしているシスター。
復讐の連鎖には信仰心が現実問題として必要だと説く。

ケセド・バイザック大佐
アマルテア政府直属の特殊部隊ジュピター隊長。
クリスが小惑星で撮影した石碑のフィルムを狙う。
実は秘密裏にある人物から密命を受けている。義理堅いアナンケ系。

ンゴロ・アルベド議長
木星民族会議議長。長年の民族独立運動で木星から植民地をなくすことに成功した。
父親はある部族の長だった。

スマイル・B(バラバ)・マルドゥク
小惑星帯を支配しているアルンジャナイジェリアギャングのボス。
レアメタル採掘の他、麻薬、武器密売、売春なんでもござれ。
合法非合法問わずビジネスを行い、その利益でサーペンタリウスから武器を大量に購入している。
4歳の頃からこの稼業をやっているという、誰もが関わりたくない宇宙一凶暴な男。
その名と裏腹に生まれて一度も笑ったことがなく、怒ってばっかりいる。
自分たちの独立国家を圧倒的武力によって誕生させようと企む。

木星
太陽系最大の惑星。
資源大国だが、植民地時代の名残で民族に関係なく強制的に引かれた国境線が原因で、民族紛争が相次ぎ、未だに貧しい第5世界。ヒマリア、カルメ、パシファエとたくさんの民族国家が対立しており、そのほとんどがモノカルチャー経済に依存している。
最も栄えている国家はアマルテア。首都はユピテル。
とんでもなく巨大でとんでもなく危険な節足動物が生息しているが、生物多様性条約のため、むやみに野生動物を殺せない。

ギガントマキアーグソクムシ(Bathynomus imperiosus
小惑星の地下に住む、分厚い外骨格を持つ重戦車のような節足動物。
特定の波長の光が嫌いで、光を出すものに襲い掛かる。
強力な消化液で岩石や鉱物を分解して食べている。全長8メートル。

ハインラインスパイダー(Eremobates arachnidus
木星の砂漠地帯に生息するクモとアリジゴクを足して二で割ったような怪物。
時速70キロで疾走し、体の半分近くある大きな鋏角で獲物を捕まえる木星最大最強の肉食動物。古代木星ではコロシアムで奴隷と戦わせていた。全長4メートル。

メイキュウグンタイアリ(Eciton anubis
ブルドッグのような大アゴで巣穴に迷い込んだ獲物をバラバラにして、巣の中央の巨大な女王のもとへと運ぶ、史上最大の真社会性昆虫。特殊なフェロモンを使っているので彼らは迷宮で迷わない。全長50センチメートル。女王は全長5メートル。

ケンタロスシニガミカマキリ(Paratoxodera totenbuchus
コロナドの最深部を守る大カマキリ。強靭な脚で駆け回り、鋭い鎌でスタータブレットを狙う盗掘者を葬ってきた。常に二頭ひと組で行動し連携をとって攻撃してくる。背中は幅の広い甲冑に覆われていてどんな攻撃も跳ね返す。体高2.5メートル。全長3メートル。

トロイア
小惑星帯のこと。ギャングが支配している危険地帯。
レアメタルを掘り出す巨大な採掘プラントが建設されている。

トート
港市国家パシファエにある小さな港街・・・だったが現在では砂漠の真ん中にあるちいさなオアシス都市となっている。コロナドから凱旋したゼウス一世が旅の疲れを癒した場所として有名で、年に一度ゼウス一世の帰還を祝う凱旋祭が行われる。

スターライン運河
アストライア大神殿の場所を示す幻の運河。

グランド・イクリプスダム
古代セバ族が建造したと言われる太陽系最大のマルチプルアーチ式のダム。
木星の枯れた大地に灌漑用水を送り都市国家の発展に大いに貢献した。
近年では水力発電によってアマルテアに電力を送っている。

アストライア大神殿
ガニメデ大瀑布の中心に存在する、扉の神殿。セバ族の聖域。
星の欠片を携えた正義の女神だけがコロナドへ旅立つことを許される。

死の迷宮アメミット
アストライア大神殿と超古代都市コロナドをつなぐ広大な地下迷宮。
上下左右に掘られた複雑なトンネルである上、時間が経つにつれ徐々に迷路の形が変化していく。入ったら最後、生きては出られない、コロナドへの最後の関門。

超古代都市コロナド
伝説上の都市。光の都とも言われる。
ここで木星王ゼウスはスタータブレットを見つけ、生命誕生の真相を知ったとされる。

スタータブレット
この世の全てを記録したとされる石碑。人類に文明を作り出すための知恵を授けたと言われている。手にしたものは大いなる神の力を授けられ、どんな願いでも叶うと言われるがコロナドから持ち出すと大いなる禍が起こる。鉱物なのか、コンピューターなのか、生命体なのか不明。

サーペンタリウス
死の商人。
その実態は政治家、貴族、科学者、芸術家たちで構成された、太陽系を影で操る秘密結社。歴史の影にサーペンタリウスあり。宇宙最強の武器開発を企み、そのためには手段を選ばない。
惑星連合の和平合意により、木星から植民地が消滅し少数民族が独立したことで、かえって紛争が増え、兵器や武器の需要は皮肉にも増える結果となった。

『戦争はいかに「マンガ」を変えるか』

 著者は小田切博氏。日本の漫画評論家どもは「手塚漫画はアメコミの影響を多分に受けている」とかさらっと言うけど、お前らアメコミのことなんて全然知らねえじゃねえか!という怒りの本。

 パキPさんが勧めてくれて、確かに、昨今の漫画規制に関してあーだこーだ言う前に、まずはアメリカのコミックコードの歴史を勉強したほうがいいよなって感じで買ってみました。
 例えば、これからの日本が閉鎖的な内需主導型の経済か、開放的なグローバル経済かを選択しなければならないときに、すでに関税をとっぱらったEUや、かつての韓国におけるIMF通貨危機についての知識が役に立つように、歴史というのは現代を冷静に考えるための手がかりになる。

 つまりアメリカにはラディカルな漫画規制(コミックコード)の前例があり、その規制がアメリカのコミックにどのような影響をもたらしたのかを知ることは、今日本で起きている漫画規制について考える上でも大変重要なはずだ。
 それに今では「世界一漫画の規制がゆるい国(C)夏目房之助」として知られる日本ですら、第二次大戦中は表現の自由が規制され、出版を許されたのは戦争のプロパガンダ的な漫画だった。ここら辺もそうだけど、多少のタイムラグがあるもののアメリカと日本の漫画業界がたどってきた歴史には共通点が多い。
 そもそも小田切さんも他の識者も指摘するように日本のサブカル文化はアメリカニズムの模倣なのだ。

 本書のメインテーマは、日米の漫画文化や漫画市場の比較及び考察らしいのだが、私にとってもっとも新鮮だったのはアメコミの実情や歴史を、日本のアメコミ認知の低さに憤る著者が熱く語った「第一部アメリカンコミックス」だ。
 最初読んだときこいつはなんで3ページ目からキレてるんだろう?って当惑したんだけど、小田切さんによって語られるアメリカンコミックスの実情を知れば、自分がこれまで抱いていたアメコミに対するイメージがとんでもなく断片的であることを痛感する。
 例えるならば、ティラノサウルスだけで恐竜語るもんだよねw「あいつらでかくて馬鹿だから滅んだんだろ?」って恐竜オタクに得意げに話しちゃうくらい危険な行為をぼくらはやっていたわけだ。
 いや、それだけではこの人もここまで怒らないだろう。小田切がここまでブチギレモードなのは、仮にも漫画批評で飯を食っている人間(すなわちプロ)が、その程度の知識でアメコミを理解した気になって、日本漫画の優位性を説くかませ犬としてアメコミを評論(!)しているからだろう。

 具体例を一つ挙げるならば、アメコミは日本の漫画と異なり、ライター(脚本)、ペンシラー(下書き)、インカー(ペン入れ)と、まるで自動車や航空機の組立のように、合理的な作業の分業化が進んでいるので、なかなか日本のように作家主義的な作品が登場しないという意見(誰だこんなこと言ってたバカは!?私だ)。
 これは正確には正しくない。大手の出版社が手がけるヒーローコミックの場合、これは当てはまるが、60年代からの反戦運動に代表される若者文化(カウンターカルチャー)として広まり、その後オルタネイティブコミックスとして発展することになる、アンダーグラウンドコミックスは一人の作家が物語と作画すべてを手がけ、「商品」ではなく自己表現のための「作品」として描かれた正真正銘の作家主義的なアメリカのコミックだ。

 こんな感じでアメリカのコミックは日本人の想像以上に多様化しており、日本に負けず劣らず豊かな歴史を持っている。
 ・・・というか日本の漫画が商売と芸術のあいだを中途半端にフラフラしてきたのに対して、アメリカのコミックの方が二極化というか、多極化が進んでいたことがわかる。
 コミックブック(子供向けの勧善懲悪ヒーロー漫画を起源とする)、コミックストリップ(プロフェッショナルな新聞漫画。大人も読む)、アングラコミック(作家主義的風刺漫画)などが冷戦や、コミックコード、流通形態の変化によって分離し統合した複雑な経緯が・・・小田切よ、年表にしてくれ。
 なんにせよ、とてもじゃないが一言で「アメコミとはこうだ」って言えるほど単純なものじゃないのだ。Tレックスくんは恐竜を象徴するかもしれないが、Tレックスくんだけが恐竜のすべてじゃ――古生物のすべてじゃないのだ。
 
 とまあ、こんな感じで第一部はアメコミについて全く詳しくない人にとっては驚きとワクワクにあふれた読書体験ができます。
 で、問題は、本書のタイトルにもなっている戦争(に象徴されるリアルの社会現象)が漫画(およびその作家)にどのような影響を与えたかって部分なんだけど、これがなんというか小田切さんのスタンスがイマイチつかみにくい。
 本書はとにかく作者の熱エネルギーはすごいんだけど、そのエネルギーが抑えきれなかったのかバーストしちゃって、文章の構成がそこまで練り込まれていなくて、思いの丈を思いつく順から文字に起こしちゃいました的な本になっちゃっている。
 ぶっちゃけて言ってしまえば、論理展開の順序がめちゃくちゃで、前後関係をこちらが整理して読み進めなきゃいけないから、読み終えるのに一週間くらいかかったw

 とりあえず小田切さんの主張というか漫画観がある程度明確に伺える一文を引用します。

 開始当初、より現実味のある科学技術描写によって「フロンティア」としての宇宙への夢を復権させようとしていた『プラネテス』や『MOON LIGHT MILE』が事件後、急速に利権としての宇宙開発を描き始め、大国間のエゴがぶつかりあう閉鎖的な政治性に満ちた「場所」として宇宙を再定義してしまったことは、これらの作品の性格上ほとんど自己否定に等しいのではないかと個人的には思っている。
 はっきりいえば私には彼らが現実からの虚構への干渉に対して「踏みとどまれなかった」のではないかという感想を持つ。」(197ページ)


 911によってアメリカのコミック作家が「現実(←世界貿易センタービルがない)」に否応なしに向き合わされ狼狽したのと同じ頃、日本のいくつかの漫画では911や大国とテロとの戦いを、ある種無邪気に作劇に盛り込んだことを、小田切さんはあまり快く思っていない。
 まずもって虚構の娯楽であり、それ以上のものでもない漫画に、リアルな時事問題を作品のメインテーマを犠牲にしてまで盛り込む必要が果たして『プラネテス』や浦沢直樹の『PLUTO』、『機動戦士ガンダムSEED』にあったのだろうか?ということらしい。
 
 でもあの頃を振り返って純粋に思うのは、ガンダムSEEDやプラネテスが好きな人って、大抵そういう政治的な部分は無視して(意図的に読み取らないか、もしくは読み取れない)ラブコメとして見てなかったかい?てこと。
 ガンダムSEEDが当時流行ったのは覚えているけど、あれを見て多元文化主義やパクスアメリカーナの是非について語っている奴なんて一人もいなかったぞ、と。
 つまり小田切さんがここまで杞憂に思うことはないんじゃないかって思うんだ。まあこの場合は作り手のスタンスとしての問題提起なんだろうけど、受け手がそう取っちゃうんだから問題はないんじゃないのだろうか。

 おそらく911を経験したアメコミのように、日本の作家が変に社会に対する危機意識を持っちゃって本来の娯楽性を見失っちゃうのでは?という危惧なんだろうけど・・・今やってるアニメを見た感じあんまこの人たちリアルに影響受けてないw
 そう言う意味で日本の漫画を取り巻く状況って、小田切さんが望む形――漫画が漫画として(=政治や社会と切り離された単なる娯楽)あるべき――で今なお存在しているし、その状況を読者の健全性と考えるならば、それは津波だろうが隕石だろうが、変わらず維持されるほど強固なものだと思う。
 私は半分呆れて半分頼もしく思ったもの。311以降も相変わらずおんなじ美少女アニメやってるんだからw

 つまり、ほとんどの人は311の文脈で『魔法少女まどか☆マギカ』を観てないし、それは一部の批評家のマーケティング的な深読みだろう。これに関しては「ほむほむ~」とか言ってるだけの受け手の方が正しいよ。それでいいんだよ。
 ただオウム事件とエヴァンゲリオン(もしくはそれ以前のサブカルチャー)の関係性はわからない。ひとつだけ確かなのは、なんだかんだ言って一番こたえたのは庵野秀明監督ってことだよね。あの人の生き様的に自分のウルトラマンごっこの社会現象化はショックだったと思う。
 時と場合によってはこういうことも起きてしまうんだってことに、日本の作り手はもうちょいナーバスになったほうがいいのかもね。

 大塚英志さんは東浩紀さんとの対談本『リアルのゆくえ』で「自分の作ったものに意味が発生することへの恐れの有無についてはけっこう重要だと思うよ」と東浩紀さんに言ったんだけど、これは、自分の作品(エヴァ)にファンが能動的に意味や価値を見出していることに対して庵野監督が危機意識を持ち(ぶっちゃけ怖くなった)、意味(オチ)を作り出すことから最後の最後で逃げ出したことをある面で評価し、ごく普通に健全なメッセージ性を込める現在の作家(新海誠さんなど)に多少の違和感を感じているわけだ。

 でもさ、私に関して言えば311当時のブログを読み返せばわかるんだけど、アメリカの作家さんとおんなじことを考えてて、もう漫画描くのやめちゃおうかなって思ったんだよ。
 なんかメタ的に社会を風刺して人に読ませるのに罪悪感というか、なんかずるいよねって思っちゃったんだ。
 偶然原子力発電所がメルトダウンの危機に陥るって話を書いていただけにね。それも完全なエンターテイメントの文脈で。
 私が『抽選内閣』以降、漫画で社会問題を取り上げているのは、なにも読んだ人の目を社会に向けさせるためではなく、それくらいのものを描かないと純粋にエンターテイメントとして物足りないって思ってただけだけなんだよ。

 だからほとほと嫌になっちゃって、でもテレビで被災地の様子を放送していた時にさ、避難場所となった学校の体育館の隅で一人の中学生くらいの女の子が座っていて漫画の単行本を読んでいたんだよ。
 もちろん自分が描いた漫画じゃないよ、でもそれにすっごい救われた。未曾有の天変地異が起こって、とんでもない悲しみを負った人にわずかながらの生きる希望を与えるならば、漫画って本当天使にも悪魔にもなり得るなって。
 問題は「間」というか、時と場合というか、いつ誰に表現するかなんだなって思ったとき、なんかふっきれちゃった。
 そんな経験があるから、本書で紹介された世界同時多発テロによって描くことの意味を見失ったり、描くことの無意味さを嘆いた作家(とスーパーヒーロー)の気持ちが、自分の心の中にグワ~って入ってきちゃって、なんか無意識にペンを持って漫画描いていたよ。なんか描かずにはいられなかった。まあその次の日の仕事が辛かったけど。
 
 話がそれちゃったけど、当たり前だけどどんな人も現実からは絶対逃れられない。でも残酷な現実を少しのあいだでも忘れて、ちょっとでも前向きに生きる気になってくれたなら創作物ってそれで十分じゃないんじゃないかって思う。
 もちろんだからといって私がこれからブームに乗っかって萌え美少女漫画を描くってわけじゃないんだけど、いろんな漫画があってもいいよねって。まあ、いい歳して漫画を描き続けるための、ていのいい言い訳なんだけどね。
 ビートたけしさんが言うとおり、創作する人っていうのは結局徹底的に自分のことしか考えてないエゴイストなんだよね。そこを再確認できた本でした。

 ありがとう小田切。
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