27.メンデルの遺伝の法則では進化は起きない?

 メンデルの遺伝の法則において重要な考えが対立形質というものだ。これはその名の通り「対をなしている生物の形質のこと」であり、それは生物の対立形質ごとに独立している。
 これをメンデルの独立の法則という(え?連鎖があるって?その話は後回しにさせてください)。

 たとえば、メンデルがハマったエンドウで言うと・・・種子の形の対立形質は「まる」か「しわ」だし、種皮の色は「黄色」か「緑」、鞘の形は「ふっくら」か「くびれ」とそれぞれ決まっていて、「種皮が黄色のエンドウは、種子を必ずしわにする」といった種皮の色の決定が、種子の形の決定に影響を及ぼすことはない。(え・・・?染色体の連鎖??ワタシニホンゴワカラナイ・・・)

 そして「黄色と種皮の親」と「緑の種皮の親」を交雑すると、色が混じりあって「黄緑の種皮の子」が生まれる・・・と言うのではなく子どもの種皮はいつでも黄色か緑かのどちらかなのだ。

 ダーウィンの進化論は「形質が世代交代ごとに徐々に変化していき、それが結果的に大きな変化になって現れる」というものだったが、このメンデルの法則はそれに反する。
 なぜならメンデルの遺伝の法則では、異なる形質を交雑しても、新たな形質は生まれないからだ。
 変化するのは、独立した対立形質の組み合わせだった。それは「黄色」「しわ」「ふっくら」のエンドウや、「黄色」「まる」「くびれ」エンドウ、「緑」「まる」「ふっくら」エンドウと言ったように・・・
 では一体全体「キリンの長い首」のような、今までなかった新しい形質はどのように生まれるのだろうか??

26.遺伝の法則のパラドクス

 ダーウィンの自然選択説のポイントは、小さな形質の変化が世代交代を繰り返すことで、その種の形質に大きな変化をもたらすということだ。
 しかしこの理論には当時大きなアキレス腱があった。この世代交代ごとの小さな形質の変化についてのメカニズムがダーウィンにも解らなかったのだ。
 つまりこれは遺伝の法則のことである。

 遺伝はダーウィンの進化論の中核をなす重要なポイント。その仕組みがよく分からないのでは、進化論の説得力が大きく低下してしまう・・・
 一応父親と母親の形質情報(遺伝子)をそれぞれ半分ずつ子どもが受け継ぐとは、ダーウィンも考えてはいた。
 そしてこの考え自体は正しい。しかしこの理論を自然選択説に応用すると矛盾を抱えてしまう。どういうことかと言うと、ある世代に現れた新しい形質が、世代交代をするたびにどんどん薄まっていってしまうのだ(詳しくは図を参照)。

evo2.jpg

 この考えでは何回世代交代を重ねても赤の群れが黄色の群になることはない。しかしこれに矛盾しない遺伝の法則は、実は『種の起源』発行のたった7年後(1866年)にチェコの修道士によって考えられていた。
 ・・・考えられてはいたのだが、その理論の重要性に気付く人間はダーウィンはおろか
この時誰もいなかった・・・
メンデルの遺伝の法則・・・これが脚光を浴びるのは1900年・・・なんと34年後のことだった。この時ダーウィンも、称賛されるべき遺伝法則の父メンデルもとっくに死んでいた・・・

25.ダーウィニズム論争勃発!

 とにかく『種の起源』の内容におかんむりだったのが教会関係者だ。オックスフォードの学会ではダーウィンの理論は彼らの猛批判に合い、なんて可哀想なダーウィン・・・んん?

ダーウィンが会場にいないぞ!

 ・・・あの~ダーウィンさんの学説を議論しているのに、ダーウィンさんはどこにいるんですか?ええ?家!?さすが引きこもりのダーウィン!やってくれるぜ!

 じゃあ、教会関係者に対して、自然選択説を猛烈に擁護してくれているあの人は誰?その人こそ「ダーウィンの番犬」の二つ名を持ち、19世紀最高の生物学者ともいわれるトマス・ヘンリー・ハクスリーだった。
 オッカムの剃刀とその知名度で、ハクスリーはダーウィンに代わって頭の固い教会関係者と激しく戦い続けた。
 その論戦の様子を家で「へ~そうだったんだ~」とダーウィンは呑気に聞いていた。

 ちなみに「世界はダーウィンが思っているほど長くはない!4004年だ!」という教会側の反論に対しては先輩の地質学者ライエルが力を貸してくれた。

 ・・・とはいえハクスリーやライエルに反論の全てをまる投げしていたわけではない。
 動物学者たちの的確な批判については、ダーウィン自身が逃げずにしっかりと論理的に回答している。

 ドイツやスイスの動物学者の質問
Q.植物の種の形とか、ぱっと見、その生物の何の役に立っているか分からない。これがなんで自然選択で獲得されたって言えるのか?

 ダーウィンの答え
A.昔役に立ってたんじゃない?あと一見していらなそうな器官でも、他の器官が影響を受けたり、見た目とは違った働きをしているのかもしれない。

 イギリスの動物学者の質問
Q.キリンの長い首は、高い所の餌を食べるための有利な形質だというが、それに伴い体が大きくなっちゃえば、食べる量が増えるわけで本当に有利な形質だとは言えないのではないか?

 ダーウィンの答え
A.キリンと同じ地域にキリンくらい大きく高い所の餌を食べられる動物がいたんじゃない?その動物よりも高い餌を食べることがキリンにとって有利だったのかもしれない。

 また「ある種が徐々に変化して、別の種に進化するならば、その変化の過程の中間種(首が中くらいの長さのキリンなど)が見つからないのはなぜか?」という有名な疑問に対しては、ダーウィン運が良かった。
 爬虫類と鳥類のちょうど中間の特徴を併せ持つ始祖鳥がドイツで発掘。この始祖鳥の化石は進化論をなかったことにしたい闇の組織によってクチバシから歯が抜かれてしまったが、この鳥には翼に鉤爪を備えた指も生えていた。
 また脚の短いウマ、体が小さく、鼻の短いゾウなどの化石も見つかった。

24.『種の起源』緊急出版!

 とはいえ、焦ったのはダーウィンだ。このままでは自分が20年前に思いつき、20年間こつこつ積み上げた学説をウォレスの手柄にされてしまう・・・!どうしよう?
 そこでダーウィンは頼れる先輩ライエルに手紙を書いた。

「ライエル先生へ。先生はいつも「キミはのんびり屋で、そんなにマイペースだと人に先を越されちゃうぞ」と忠告してくれましたが、とうとうそれが現実のものになりました。
私はこれほど驚くべき偶然の一致を見たことがありません。なんとウォレス君の論文は私の論文といくつかの章のタイトルまで一緒だったのです!」


 かねてからダーウィンの自然選択説のアイディアを聞いていたライエルと、ダーウィンの友だちの植物学者フッカーは「おいおい、やばいだろダーウィン!俺たちが何とかしてやるから、お前はとりあえず論文をまとめちゃえ!」とダーウィンとウォレスの先取権問題(学説は早く発表した者の功績になる)を調整してくれた。
 結局「自然選択説」はダーウィンとウォレスの共同論文と言う形で1858年リンネ学会で発表されることになった。

 とはいえ、自然選択説と聞いて今日の私たちがウォレスではなく、ダーウィンを思い出すのには大きなわけがある。
 それは、自然選択説をまとめた書籍(=『種の起源』)の執筆権をウォレスが憧れの先輩ダーウィンに譲ったからだ。1870年ウォレスはこう振り返っている。

「自分自身の力量をよく知っている私は、『種の起源』を書く仕事が、自分の手に負えるものではないことを知っている。ダーウィンさんはおそらく今生きている全ての学者の中で、その仕事をするのに最もふさわしい人だ。」

 ・・・というわけで、激しい先取権競争で生き馬の目を抜くような科学界では稀な美談もあって、ダーウィンは書きかけの草稿を強引にまとめて、『種の起源』の500ページだけのパイロット版を1859年に出版した。
 結局この時出したパイロット版が、わたしたちがよく知る『種の起源』である。

 そして即日完売した『種の起源』は学界に大きな嵐を巻き起こす(やっぱり)・・・

23.ダーウィンとウォレス必然の一致

 ウォレスの手紙を読んだダーウィンはさすがに驚いた。

 ウォレスが考えたという進化のメカニズムはダーウィンが20年も前に考えた自然選択説と全く一緒だったからである。
 これはウォレスがダーウィンの進化論をパクッたわけでは決してない。それならば、ダーウィンに手紙など出さずにさっさと学会に自分だけの手柄として発表するはずだ。
 ウォレスがダーウィンから影響を受けたのは一つだけ。ビーグル号の航海だった。ダーウィンの冒険に憧れたウォレスは、東南アジアとオーストラリアを探検。
 オーストラリアの動物が独特で原始的なのは、オーストラリア大陸が早くから他の地域から独立し、生存競争が他よりも緩やかだったからではないか?と考えたのだ。

 片やダーウィンはガラパゴス、ウォレスはオーストラリアだが、この二人は同じ本から自然選択説の着想を得ているのは言うまでもない。2人ともマルサスの『人口論』を読んでいたのだ。
 つまり2人の進化のメカニズムの説明における奇跡の一致は、実は奇跡でも何でもなくマルサスによる必然の一致だったのだ。

 そして当時のヴィクトリア朝時代のイギリスでは、超有名な大人気学者ハーバート・スペンサーが、小泉総理ばりに「自由競争!」「優勝劣敗!」といった力強いスローガンを使って、資本主義や産業革命によって発生したとんでもない格差社会から大衆の目をそらそうとしていた。
 そもそも最初に「誤解を生む大失敗な言葉である!」といちゃもんつけた「進化」と言う言葉も、この人のオリジナルだ。そしてその言葉は当初生物学ではなく社会に用いられていた。
 我がイギリスの社会はよりよく進化するのだ!と。マルサスの冷酷非情な生存競争を説く『人口論』もそんな時代にマッチしていたのだ。
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