『80日間宇宙一周 CRIMSON WING』脚本③

細胞修復機から出るミグ
技師「お疲れ様でした。これで終了となります。」
胸を触るミグ「本当に治った・・・あのグロテスクな跡が・・・!」
目が潤むミグ「絶対消えないと思ってたのに・・・」

待合室にかけ出すミグ
ミグ「ライト!見てくれ、私の傷が・・・あれ?いなくなっちゃった・・・」
ヴィン「やあミス・チオルコフスキー、さらに美しくなりましたね!」
「あ、ありがとうございます・・・あのライトは?」
「さあ・・・退屈で帰っちゃったんじゃないですか?」
「なんだよあいつ・・・せっかく私が綺麗になったのに・・・」
「あいつはそういう男です。では行きましょうか。」
「え?」
「決まっているじゃないですか。・・・パーティですよ。」



プロメテウスタワーの機械室
ライトを縛り付ける看護婦「抵抗しなければ傷つけはしないわ・・・」
ライト「嘘つけ、どうせ針ブッ刺したりするんやろ」
看護婦「あとでね・・・」
看護婦の制服を脱ぎ出す若い女性
「あんたなにしてんの?」
「着替えてるのよ、あなたもするでしょ」
女性バーテンダーのような衣装を着る。
「じゃあ私はパーティに行ってくるから。そこで待ってなさい」
手のひらサイズの改造銃に銃弾を装填する。
「そんなおもちゃでなにをするんや?」
「・・・社会を平等にするの・・・」



プロメテウスタワーのパーティ会場。
司会「いよいよ太陽系最大の航空ショーが明日開催されます!
今夜はみなさん存分にお楽しみください!」
土星の政財界の名だたるセレブが談笑している。
胸元の開いたドレスを着るミグ「こんなパーティに参加するの子供の時以来です・・・」
ヴィン「ドレスお似合いですよ」
ミグ「あの・・・なんでそんなに私に優しくしてくれるんですか?」
ヴィン「だってこんな美しい女性がいたら誰だって心を奪われますよ」
「そんなこと私一度も言われたこと・・・」
「冥王星の男は女性を見る目がないんじゃないですか?
それにあなたはクールなように見えてとっても優しそうだ。」
「そんなことは・・・」
「いいえ、おおらかで気が長くなければライトとなんか付き合えませんよ。」
「それは・・・まあ・・・そうなのかなあ」
「あいつ本当に自由でしょ?好き勝手なことばっかやって生きてる。昔からそうだった・・・」
「あの・・・ライトとは何かあったんですか?」
ミグが尋ねようとすると、美女をはべらせた軍人がヴィンに話しかけてくる。

将軍「やあヴィン。今夜はまた美人をつれてるじゃないか!」
ヴィン「アトラス将軍。あんたも妻子がいながら愛人を引き連れてご機嫌ですね」
将軍「はっはっは・・・ミラージュの明日の実演、楽しみにしているよ。」
ミグ「ミラージュ?」
ヴィン「ああ、うちで作っている最新鋭の戦闘機・・・」
将軍「我が軍はいい兵器には金は出し惜しみしない。頑張りたまえ・・・」
ヴィンから離れ、ほかのに声をかけるアトラス将軍。
将軍「ひさしぶりだなホイヘンス議員、今夜はまた美人を連れているじゃないか」
議員「将軍こそ美女に囲まれて・・・」

将軍を見つめるヴィン「あの様子じゃ買わねえな。コンバットプルーフだよ。
パイロットなしの戦闘機が的確に任務をこなすか信じてないんだ。アナクロ世代め。」
ミグ「仕方ないですよ。無人戦闘機なんて導入したら軍人がみんな失業しちゃいます。」
ヴィン「それっていけないことなのかな・・・戦場で死ぬ兵士がいなくなるんだよ?」
ミグ「すべての星がその兵器を導入すれば・・・そうなるかもしれませんね・・・」
ヴィン「いずれそうなるって。ミラージュは戦争を変えるよ。
きっと未来の宇宙戦争は誰も死ななくなる。」
ミグ「・・・・私はライトにいろいろな星に連れてってもらって、星によって様々な事情を抱えていることを知りました・・・中には兵器を買う余裕すらないとても貧しい星もあった・・・
一部の国家が強力な武器を持つことで世界全体の均衡状態が崩れて緊張状態になることだってある。もしその戦闘機が無分別な独裁国家やテロリストに渡ったら・・・?
自分の手を全く汚せずに他人を殺せる危険なおもちゃを子供が手に入れてしまったら?」
「・・・それは・・・」
優しく諭すように喋るミグ「絶対ないといいきれますか・・・?」

二人のもとにグラスを乗せたトレーをもった女性が近づく。
女性バーテンダー「お飲み物はいかがですか?」
ヴィン「いや私は結構・・・」
バーテンダー「そうですか・・・」
バーテンダーの怪しい動きを察するミグ「!」
バーテンダーがトレーの裏でキューブ状のものを握っている。
すかさずミグがバーテンダーのトレーをハイキックで蹴飛ばす。
ミグに蹴られてトレーで隠された改造銃の照準がそれる。
ボタン(引き金)を押す殺し屋。
プシュッという静かな音とともに銃弾が発射される

美女の腰に腕を回し酔っ払っている将軍。
議員「アトラス将軍、奥さんに見つかったら殺されるんじゃないですか?」
将軍「はっはっは確かにそこらの反政府ゲリラよりもウチのかみさんは怖いな!」
将軍の尻に銃弾が突き刺さる。倒れる将軍。
議員「本当だったんだ・・・」

ヴィン「!!」
殺し屋スカーレット「ちっ!」
ミグ「頭を下げて!」
ミグに向かって改造銃を発射するスカーレット
銃弾がミグの肩をかすめる
ミグ「ぐわっせっかく傷を治したのにまたできた!」
ミグをかすめた銃弾が窓ガラスを割る。

異変に気づきパニックになるパーティ会場。
悲鳴を上げて客が逃げ出す。
会場のSP達をものすごいスピードであっさり倒していくスカーレット
ミグ(この女、殺しのプロだ・・・!)

ヴィンに銃口を向ける殺し屋
スカーレット「最期の言葉は?」
引きつり笑いのヴィン「きみ可愛いね・・・どっかの店で会ったっけ?」
スカーレット「ありがとう、さようなら」
殺し屋の腕を取るミグ
殺し屋「ぐっ!」
改造銃が床に落ち、すかさずヒールで踏み潰すミグ。
その隙にミグに頭突きをくらわす殺し屋
よろけるミグ
ミグから離れた殺し屋が太ももからナイフを取り出してミグに切りつける。
スレスレで殺し屋のナイフ攻撃をかわす。
バイキングのステーキナイフを取り応戦するミグ。

警報が鳴り拳銃を持った警備員がガラス張りの壁際の二人を取り囲む。
「武器を捨てろ!」
殺し屋とナイフで格闘するミグ「早く撃て!」
ミグの方へ撃ってくる警備員
身をかがめるミグ「こっちじゃないよバカ!」

すかさずミグから離れて割れた窓の淵に飛び乗る殺し屋
「私たちは宇宙一の発明家を拉致した・・・もうあなたたちの思い通りにはならない・・・」
ミグ「ライト・・・?」
窓から飛び降りる殺し屋「この勝負預けた」
ミグ「待て!!!」



殺し屋が消えたパーティ会場では厳戒態勢の警備員が無線で連絡を取り合っている。
パーティドレスのすそを引き裂くミグ「ライトがさらわれた!滑走路へはどう行くんだ!?」
警備員「滑走路は30階下のBフロアです」
ミグ「案内を頼む、あと武器を貸してくれ。そこまで殺傷能力が高くないもの、22口径がいい。」
警備員「32口径しかありません」
ミグ「じゃ、それ。貸してくれ。」
ヴィン「あんた一体何者?」
「ミグ・チオルコフスキー・・・冥王星の軍人だ」



プロメテウスタワー私設滑走路
滑走路にパラシュートで降下するスカーレット。
リンドバーグ号のハッチを開けてライトに銃を向けるスカーレット「離陸準備よ!」
ライト「・・・で、どこへいくんや?マクドナルドか?」
スカーレット「いいから早くしなさい・・・」
離陸準備をするライト「わ~ったから眉間にしわ寄せるのやめたらどうや?可愛い顔が台無しやで・・・そや、あんたの名前は?オレはライト。」
スカーレット「殺し屋が本名明かすわけ無いでしょ。」
「ふ~ん・・・で何人殺したんや?」
リンドバーグ号のコックピットに乗り込むスカーレット「・・・失敗した」
「プークスクス」
ライトの後頭部を押さえ操縦桿に思い切り叩きつけるスカーレット。
ライト「あいた~~~!!」
スカーレット「信じてくれた?さあ出発よ」

リンドバーグ号が発進する。
滑走路へつながるエレベーターからその様子を眺めるヴィンとミグ
ヴィン「離陸してる!」
ミグ「!!」
ヴィンとミグが滑走路にたどり着くと同時にリンドバーグ号が離陸する。
ヴィン「間に合わなかったな・・・」
ミグの方を振り向くヴィン「なにしてる?」
イエーガー号に乗り込むミグ「ライトを追う!」
ヴィン「え?」

イエーガー号に乗り込むヴィン「なんでオレまで・・・」
計器をいじくるミグ「ライトの友達だからだよ。」
ヴィン「で・・・あなた操縦できるの?」
ミグ「訓練で一度乗った。落ちた。」
ヴィン「・・・じゃ僕とかわってくれる?」



首都カッシーニの上空。
リンドバーグ号を追いかけるイエーガー号

リンドバーグ号コックピット
計器が後方からイエーガー号が接近していることを表示する。
ライト「あ、あいつや」
スカーレット「ちっ追いかけてきたわ・・・速度を上げて」
ライト「ニャハハ!オレの船があいつに抜かれると思うか?
「え?」
「シートベルトしたほうがいいで。」

ラムジェットエンジンを起動させ吹っ飛んでいくリンドバーグ号
イエーガー号をどんどん引き離す。

イエーガー号コックピット
ヴィン「なんだあれ!?」
ミグ「ラムジェットだ・・・!」
どんどん引き離される
ミグ「見失うぞ!これ以上スピード出ないのか!?」
ヴィン「こういう仕様ですから・・・」
ミグ「このスイッチは?」
ヴィン「あ、それは試作品のスペシャルエンジンだから押しちゃ・・・」
ミグ「もう押した」
イエーガー号の翼が引っ込みロケットエンジンが火を噴く。
一方向に猪突猛進するイエーガー号。
イエーガー号の前に高層ビルが現れる。「ホテル不夜城」
ヴィン「ぶつかる!」
助手席から操縦桿に手を伸ばし切ろうとするミグ「よけろ!」
音声ガイド「このモードではヨーイングできません」

ホテルのスイート
若いセレブのカップルがベッドの上で抱き合っている。
女「愛してるわダン・・・」
男「オレは危険な男だぜ・・・?」
部屋に突っ込んでくるロケットモードのイエーガー号。
吹っ飛ぶ裸のカップル。

イエーガー号のコックピット。
席の上からポンと酸素マスクが落ちてくる。
ミグ「なんか野暮なことしちゃったな」
ヴィン「あんたがライトと付き合えるのわかった・・・ライト並みにメチャクチャなんだよ・・・」

『80日間宇宙一周 CRIMSON WING』脚本②

土星の夜空をバックに首都カッシーニの上空を飛行するリンドバーグ号。
カッシーニは香港のような美しい夜景を灯している。
コックピットのライト「どうや、スタンプは溜まったか?」
ガイドブックを広げるミグ「あとはハイペリオン教会とフェーベの歴史的町並みと、プロメテウスタワーだな・・・」
「それ全部たまるとなんなん?」
「それはいくらお前でも言えない。最重要機密事項だ。」
ガイドブックを取り上げるライト。
「土星の名所スタンプを集めて、太陽系最高の医療技術を誇る豪華アンチエイジング三昧をゲット・・・あ!だからこの星に寄りたいって言ったんやろ!」
あせるミグ「え、ちがうよ?」
ライト「土星は今金持ちの間でアンチエイジングとか美容が流行っとるって聞いたことあるで!」
ミグ「な、なんだよ私がキレイでいちゃダメっていうのか!私ももう三十を過ぎただろ、最近なんか疲れやすいし、動きのキレもなくなっちゃったし、お肌のハリも・・・」
「・・・ミグお前は大丈夫や」
「え?そうかな・・・」
「よく持ちこたえている方やと思うで。」
「どういう意味だこのやろう・・・
それに土星のエステって高額だから・・・スタンプラリーならタダじゃないか。」
「海王星や天王星で散々おばはんって言われたのがそこまでショックだったんや・・・」
「お・・・お前女心わからなさすぎだぞ!」
「ニャハハ面白いやつ」

その瞬間警報がなる。
コンソールを叩くミグ「未確認航空機が猛スピードでこちらに接近!」
ライト「ああ、もう見えとる!」
リンドバーグ号の方へ流線型のデザインをしたロケットのような宇宙船が突っ込んでくる。
急旋回して正面衝突をかわすリンドバーグ号
リンドバーグ号の方へ引き返してくる機体
ミグ「追いかけてくるぞ!」
「なんやねん!」
「敵か!?」
「わからん!」
速度を上げて引き離そうとするリンドバーグ号。
向こうも速度を上げてくる。
ミグ「なんか悪質じゃないか?」
ライト「変なのに絡まれてもうたな」

ロケットの機体が航空ランプをチカチカさせる
ライト「あれはスピードバトルの挑戦や・・・!」
ミグ「スピードバトル?」
ライト「ほ~う、俺の船と競争しようって気か、おもしろい!」

ビルの隙間をぬって飛ぶ二機。
リンドバーグ号にぴったりと付いてくるロケット。
ライト「なかなかやるやんけ。ならこれならどうや」
ギヤを切り替える。
リンドバーグ号にターボがかかり、どんどんロケットを引き離す。
ミグ「おいおい、あまり飛ばしてビルにぶつかるなよ・・・」
操縦桿を倒すライト「任せとけ!」
急降下し高速道路のトンネルに入るリンドバーグ号。
トンネルを避け追跡を諦めるロケットの戦闘機。
トンネルを出て急上昇するリンドバーグ号。
後ろには戦闘機はもういない。
ライト「どうや!そんじょそこいらの暴走族なんかに負けへんで~」

ヴィン(無線)「いや~相変わらずの腕だなライト!」
ライト「お前・・・もしかして成金ヴィンセントか!?」
ミグ「友達?」
ライト「ぜんっぜん。あいつすげ~むかつくからほっといたほうがいいで。」

リンドバーグ号の頭上にロケットの戦闘機が再び現れる。
高度を落としリンドバーグ号に併走するヴィンの戦闘機「イエーガー」

ヴィン「6年ぶりに親友に会ったっていうのに冷たいなあ」
ライト「誰が親友やねん・・・どっかいけオレは・・・(ミグがライトの前にガイドブックを出す)プロメテ・・・タワーへいくんや。」
ヴィン「は~はっはそのビルはオレの会社だよ!歓迎するよライト」
ライト「・・・気が変わった。木星にでも行くわ・・・」
操縦桿を切ろうとするライトの腕を取って、首を振るミグ「・・・・・・。」(目が潤んでいる)
ライト「ミグちゃんそんな目で見るなや・・・」



プロメテウスタワーの滑走路にイエーガー号を止めるヴィン。
ライトのリンドバーグ号も続いて着陸する。
宇宙船を降りるヴィン「すぐにわかったよ。今時プロペラ機で空飛んでいるのなんてお前くらいだぞ」
リンドバーグ号から降りるライト「でもお前のトンガリよりも速いで・・・」
ヴィン「ははは・・・とにかく土星にようこそ。
この度は我が社の株を間接的に下げてくれて感謝するよ」
ライト「なんやねん・・・」
ヴィン「しかしなんでまた土星に?金に困ってうちで働きたくなったとか?」
ライト「お前とは二度とごめんやな・・・」
ミグに気づくヴィン「はっ!」
ライトの背後でリンドバーグ号を降りてくるミグ「こんばんは・・・」
ヴィン「なんだお前その美女は!!」
ミグ「え?私・・・?」
ヴィン「キミいつの間に結婚!?」
ライト「ちゃうわボケ」
ミグの前に歩きだしミグの手を取って挨拶するヴィン「ならオレが口説いてもいいよな、いいよね。
いや~お美しい・・・わたくしプロメテウスという会社をやっておりますヴィンセント・レイセオンというものです。ライトくんとは竹馬の友でして・・・ヴィンと呼んでください。」
照れるミグ「あ、はじめまして。ミ・・・ミグです・・・ミグ・チオルコフスキー・・・」
ヴィン「ライトとはどういうご関係ですか?」
ミグ「え?」
ヴィン「もしかして男女の関係・・・」
ミグ「い、いえいえ・・・彼はその・・・弟みたいなもんでして・・・」
「は~よかった・・・ミス・チオルコフスキーは男性を見る目は確かのようだ」
「うるさいわお前ら。いつからオレはお前の弟になったんや・・・」

プロメテウスタワー最上階の社長室。
私設のバーカウンターがあり、リビングは高級マンションのような高価な調度品で飾られている。
窓の外には首都カッシーニの美しい夜景が広がる。
グラスに高級ワインを注ぐヴィン
「ミス・チオルコフスキーはお酒は飲まれますか?」
ミグ「ええ・・・」
ヴィン「では、こいつの味がわかることでしょう。お前は自販機のコカコーラでいいんだよな?」
ライト「ありがとな。」
ミグにグラスを渡すヴィン「どうぞ。シャトー・リングレット千年ものです。」
ミグ「こんな高いお酒・・・」
ヴィン「いいんですよあなたに飲まれるために生まれた酒です。乾杯と行きましょう。」
「友の再開と新たな出会いに乾杯!」

ソファーでリラックスして昔話をするヴィン。
「なにしろ、こいつは機械いじりしか興味のない子供でしてね。
こいつにあなたのような美しい方はもったいない。よろしければ私が地球まで送っていきますよ」
ミグ「・・・そんな・・・」
コーラを飲むライト「おいミグ、そいつ稀代の女ったらしや。あまり間に受けんほうがいいぞ。
そいつ洋式便所にも美しいっていう美的感覚やからな・・・」
無視するミグ。
ヴィン「い~やライト。今回のオレは本気だ。
お前さえよければしばらく彼女をエスコートさせてくれない?」
ミグとライト「え?」
ミグ「わ、私は嬉しいですがライトが・・・」
ライト「俺はええけどミグがなんていうか・・・」
ヴィン「てことはいいってわけね。」
ガイドブックを取り出すライト「おいこのスタンプラリーはどうするんや。」
笑うヴィン「なに、お前こんなのやってんの!?」
ライト「これスタンプ全部貯めるとミグがアンチエイジング・・・」
ライトの足を思い切り踏みつけるミグ「ははは!」
ライト「なにするんや~!」
ヴィン「なるほどね・・・ではこの私が土星最高のエステをあなたにご案内しましょう。」
ミグ「・・・え?」
ヴィン「なにしろ美容医療も我が社の得意とする分野なんでね。」
ミグ「よ、よろしいんですか?」
ヴィン「あなたはきっと、もっともっと美しくなる。ぜひお手伝いさせてくださいミグ。」
赤くなるミグ「そんな・・・」
ライト「なんやねんお前ら・・・資生堂のCMか」



プロメテウスタワーにあるプロメテウスメディカルセンター
救命救急搬送口
救急車がサイレンを鳴らして病院に入ってくる。
けが人が緊急搬送される
救急車に駆け寄る看護婦。
患者を担架をストレッチャーに乗せる救急隊員「血圧50~80、心肺停止のショック状態だ!」
脈拍を見る看護婦「わかりました。では早くラ・メトリーに!」
ストレッチャーをエレベーターに乗せる看護婦
エレベーターが閉まる。

エレベーターの階を表示するランプが20から30へ移動していく。
看護婦「大丈夫!きっとラ・メトリーが助けてくれるわ・・・!」
患者に心肺蘇生装置で電気ショックを与えようとする看護婦。
パッドを持つ看護婦の手を患者がとっさにつかむ。
看護婦「え?」
AEDで看護婦に電気ショックを食らわす患者。
看護婦「きゃあああ」
倒れる看護婦
ストレッチャーから降りて立ち上がる患者の女「大丈夫、ラ・メトリーが助けてくれるわ」



プロメテウスメディカルセンター
エントランス
美人な看護婦がナースセンターに続く通路を歩いている。
ヴィン「どうする?お前もついでに人間ドッグでもしてく?お前がパンに挟まれるの。」
ライト「しょ~もな・・・誰がお前の病院で・・・」
ヴィン「そうかい。」
舞い上がっているミグ「じゃあなライト、綺麗になって帰ってくるから!」
待合室のソファに座るライト「あいよ~・・・」



MRIのような装置のある部屋に連れてかれるミグ。
大掛かりな医療装置にはLa Mettrieというロゴがうたれている。
技師「それではアンチエイジングを開始します。この細胞修復機の中に入ってください」
ミグ「あの・・・」
技師「なにか?」
「実は昔からずっと気にしている傷があって・・・胸の傷なんですけど・・・
これも治るんですか?」
「治りますよ。このマシンに治せない病気やケガはないんです」
「本当ですか・・・!?」
「ええ・・・」
「もう一生治らないと言われていた傷なんですが・・・」
微笑む技師「大丈夫。全て元通りにしますよ。」



病院の待合室。工学系の雑誌をめくるライト
「そんな若返りたいもんかね~自分だけ老けるわけやないんやからええやんけ」
ライトの隣に座るヴィン「あいかわらず女性がわかってないね君は」
ライト「おいミグは?」
ヴィン「細胞修復機でエステ中。」
ライト「それ安全なもんなんやろうな・・・」
ヴィン「それは設計したやつに聞いてくれ。
しかし彼女本当いい女だな。どこでみつけた?」
ライト「冥王星まで行った時に世話になったんや。自分の屋敷に親切に泊めてくれて・・・まあいろいろあって今はあいつを地球に連れてく途中。」
ヴィン「じゃ地球へ行くのか・・・」
ライト「あいつの夢やから・・・」
ヴィン「・・・・・・。」
ライト「なんやねん」
ヴィン「なあ、ライト・・・もう一度一緒にやらないか?」
ライト「・・・」
ヴィン「その才能を自分のためにしか使わないなんて勿体無いって。また世間をあっと言わせようぜ」
ライト「それはないなあ・・・」
ヴィン「ライト・・・」
ライト「オレはもうお前とは組まん。悪いな・・・」
ヴィン「新しい発明のアイディアが出てこないんだよ・・・頼むよ」
ライト「そういう時もあるって・・・あいつのエステそろそろ終わるんちゃうんか。迎えに行ったれよ。」
立ち上がるヴィン「・・・本当女心分かってないね・・・じゃあな」
ミグを迎えに行くヴィン。

待合室の大理石の柱の影で無線をする看護婦。
看護婦「目標が一人になりました」
(無線)「よし作戦実行だ」

ライトの方へ看護婦が近づいてくる。
「お客様こちらへお越し下さい」
ライト「人間ドッグはええって・・・」
ライトにだけわかるように改造銃を突きつける看護婦「おとなしくして」
ライト「どういう病院なんや・・・」

『80日間宇宙一周 CRIMSON WING』脚本①

とある農村部。
内戦状態の土星。
戦車の機甲部隊が農村の花畑をキャタピラで踏みしだく。
空は爆撃機で埋め尽くされ街が空爆されている。
炎で赤く染まる空。
街を追われた難民たちは恐怖と飢えに苦しんでいる。
定期的に聞こえる爆発音。

教会
ステンドグラスに祈りを捧げている人々。
教会の冷たい壁にもたれかかるようにして地面に座っている男の子と女の子。
かじかんだ手に息を吹きかける女の子。
ろうそくのあかりで壊れたおもちゃのお人形を修理する男の子
「できた・・・はい。クリスマスプレゼント」
女の子「うわ~ありがとう」
男の子「メリークリスマス、サーシャ」
人形を大事そうに抱く女の子「あのさ・・・神さまはいるよね?」
男の子「ああ・・・」
女の子「じゃあなんで何も悪いことしてないのにこんなに辛い目にあっているの?」
男の子「正しい人にも災いは降りかかるんだ・・・」
女の子「家に帰りたい・・・」

革命軍が教会に入ってくる
難民「革命軍だ!!」
問答無用で信者たちを捕まえていく革命軍。
祭壇を蹴飛ばす革命軍「科学の時代にくだらねえもん信じてやがる。」

教会の外に追い出される信者たち
革命軍兵士「オラ!とっとと歩け!」
銃を突きつけられる女性「お願いします!子どもたちだけは・・・!」
ニヤニヤする革命軍の兵士「どちらか一人だけだ。早く選べ。」
膝まづく女性「そんな・・・!」
カウントダウンをする兵士「10、9,8,7・・・」
怯える子供たち
「5,4、3,2・・・」
女性「選べない!」

怒りに震える男の子(こいつらは強いんじゃない・・・ただ武器を持っているだけ・・・それだけなのに・・・)
引き金を引く兵士「時間切れだ」

ナレーション「正義は一体どこにある!?正義はこれだ!」

悪のテロリストが撃ち殺される。
テロリスト「うわ~!」
戦場の空にシャープなデザインの真紅の戦闘機が現れる。
空を指差し歓声を上げる市民「プロメテウス社の新製品ミラージュが来てくれた!助かった~!」

ミサイルを担ぐテロリスト「くそがああ!」
真紅の戦闘機は地対空ミサイルをあっさりかわし、顔認識センサーでテロリストだけを機銃で正確に撃ち殺していく。

「民間人は絶対誤射しない超精密狙撃システム!」

テロリストが地下のシェルターに逃げていく。
テロリスト「へっへっへ・・・ここなら攻撃できまい・・・!」

「地下の敵も逃がさない!これが新兵器パイルバンカーミサイルだ!!」

戦闘機から巨大な杭のようなミサイルが垂直真下に発射され、地面の底が抜けたように吹っ飛ぶ。
シェルターのあった場所には大きなクレーターが残る。

「悪党どもに正義の鉄槌だ!!」
テロリストを殲滅し帰っていく戦闘機に手を振る市民たち。
「ありがとうSX32ミラージュ!」

VTRが切り替わりスタジオのセットを映し出す。
高級ブランドのスーツを着てメガネをかけたイケメン社長が笑顔でプレゼンをする。
ヴィンセント「いや~みなさんこんばんは!プロメテウス社CEOのヴィンセント・レイセオンです!
土星にいるテロリスト緋色の旅団、まったく困ったやつだよね!
ということで今回は最新鋭ステルス戦闘機SX32ミラージュを紹介だ!」
スポットライトが灯り、スタジオに巨大な戦闘機が現れる。
観覧客の喝采「ワ~オ!」

ヴィン「このミラージュ、なにが一番すごいかっていうと無人戦闘機だってこと!
自軍から一人の死者も出さずに作戦を遂行できるんだ!
戦いが長期化した軍隊にとっての悩みの種は戦死した兵士に対する補償だよね。
国防長官の手紙よりも遺族が欲しいのは軍人恩給だ。
しかしこのミラージュさえあればそんな心配はない。
敵地に出撃させたら、エアコンの効いたオフィスでコーラでも飲みながら吉報を待てばいい。
ミラージュは必ず作戦を成功させ戻ってくるでしょう。」
観客席の軍服を着た大佐が腕を振り上げる「イエ~!」

ヴィン「今回はこの最新鋭無人戦闘機SX32ミラージュと、奥様が嬉しいガンコな汚れも落ちるスチームクリーナー、キッチンの心強いお供トースターとミキサーもお付けして、お値段なんと5億アースドルでのご提供!分割金利手数料はすべてプロメテウスが負担!
このパイロットのいらない最強の武器で我々は永遠の安全と平和を手に入れることができるのです!私はここに宣言します!兵士諸君!死ぬような仕事はしなくていいから!
電話番号はフリーダイヤル・・・」

都市インフラ、通信技術、輸送機械、医療機器・・・
あなたの街を灯す企業プロメテウス


生放送が終わりピンマイクを外すヴィンセント。
テレフォンショッピングのセットの裏には会社の株価を示すモニターが並んで社員がコンピュータで取引をしている。
ヴィン「どうだ?」
コンソールを叩く社員「社長見てください!株価が・・・」
ヴィン「なんで下がってんの?発注のほうは?」
受話器に手を置いて首を振る社員「まだ一件も」
ヴィン「どういうことだ?」
大慌てで新聞を持ってくる副社長エド「ヴィンセント大変です!」
エド「天王星の大物アイドルジュリエッタが土星と和平交渉を進めました!
戦争は回避、軍需関連株はストップ安です!」

カッシーニ証券取引所
ジュリエッタの暗殺が回避されて株価が上がらず阿鼻叫喚のデイトレーダー。

スタジオ
新聞を折りたたむヴィン「テレビつけろ」
モニターにテレビのニュースが映る。60ミニッツ風のインタビュー。

レポーター「・・・つまりあなたが天王星と土星の架け橋になるということですかジュリエッタ?」
ジュリエッタ「ええ。これからはお互い憎しみ合うことをやめて共存の道を歩んでいきたいなって」


ヴィン「いきたいなじゃないよ。あれ、こいつ過激派に暗殺されたんじゃなかったっけ?」
エド「撃たれる寸前ジュリエッタを助けた奴がいて、弾は別の子に当たっちゃったみたいです。」
ヴィン「冗談じゃねえよ。まいったなあ、こっちは戦争の準備して待ってたってのに~調子狂っちゃうよ・・・」
パラパラと電話が鳴る。
コンソールの社員「発注の問い合わせは現在4件です。うち1件は間違い電話。」
ヴィン「土星でだよね?」
社員「いえ全宇宙で・・・(受話器に向かって)うちはチャーハンなんてやってねえ!」
ヴィン「全宇宙でたったそれだけなのか?」
エドの方を向くヴィン「冥王星は?これさえあれば無人で隕石も吹っ飛ばせるぜ。」
エド「あの星は政府が軍事産業にとんでもない関税をかけて国内メーカーを保護していますし、我が社も参加したノーチラス計画でクーデターが起きちゃったんですよ。」
ヴィン「それは気の毒にな。海王星は?」
エド「被災してデフォルトって騒いでいる星ですよ。」
ヴィン「我が社の兵器があったら隕石落なかったのにね。天王星の再軍備はもうないの?」
エド「その可能性は低いかと・・・あの星は政治家よりもアイドルの発言力のほうが強いですから」
ヴィン「・・・ったく誰だよジュリエッタ救った奴。
あ、そういえば二本撮りしたゴルディオンハンマー12のほうは天王星でバカ売れなんだろ?」
エド「ええ」
ヴィン「やっぱこれからは建設重機だよ!宇宙戦争の時代じゃねえよ。今度の航空ショーでも入札されなかったら、ミラージュのプロジェクトチームは解散するから。」
頭をかくエド「大変なことになってきた・・・」

ニュースでジュリエッタの暗殺シーンが流れる。
ジュリエッタが突然ステージに現れた男によって押し倒される。
TVモニターに見たことのある顔が映る

ヴィン「あいつは・・・」
エド「あ、彼ですよ。くだんの冒険家。」
ヴィン「いや冒険家じゃない・・・同業者だよ。」
エド「知ってるんですか?」
ヴィン「ライト・ケレリトゥス・・・この星にいたのか・・・くくく・・・面白い!」
エド「一体何者なんです?」
ヴィン「宇宙で最も恐ろしい最終兵器を作れる頭脳がありながら、ラジコンヘリしか作らない趣味人ってところだな。じゃ出かけてくるから」
エド「あの・・・二時間後の食事会は?」
ヴィン「ウチの商品を買わないやつとなんでメシ食わなきゃいけないんだよ。」

プロメテウス社の本社ビルの廊下を歩くヴィン
廊下にはプロメテウス社のたくさんの業績を讃えた記事や表彰状、写真が飾ってある。

「太陽系のボーダレス化に乗じて年商1000兆ドルかせぐ宇宙一の大社長ヴィンセント・レイセオンは死の商人?」

「プロメテウス社が医療分野にも革命!メディカルサーバー「ラ・メトリー」によって死を乗り越えた土星人。永遠の美と健康が実現!保険会社の倒産相次ぐ。」

「電気水道ガス、科学大革命で破壊された都市インフラを科学の力で再生。
万里の長城を発電所に改造――4万都市に灯り。市民に笑顔戻る。土星のモウタクサン国家主席から表彰」


通路を進むほど飾ってある写真が古くなり、記事が小さくなっていく。

「ベンチャー界の若きルーキーが語る夢――土星に住むすべての人を幸せにしたい」

廊下の一番奥に古い白黒の写真がかけてある。
若かりし頃のヴィンセントとライトが肩を組んで笑っている。
「前身企業ライト&レイセオン社創業」

『80日間宇宙一周 CRIMSON WING』登場人物

 いや~お待たせしました。『80日間宇宙一周』まさかの第4弾!近年稀に見る難産!一ヶ月以上かかった!

 土星の大まかな世界観や設定はアイドル編「ギャラクシーミネルバ」の直後におおよそできていたのですが(アイドル編でもちょっとだけ土星は出てくるし)、具体的にドラマを詰めていくプロット段階で数え切れないほど脚本を書き直し、大学ノートが3冊も犠牲に!
 本当いろいろなストーリー展開を考えたし没シーンは10個くらいある。情報量がやたら多いんだ今回。

 それと今回って武器メーカーの話なんだけど、今そういうアニメで『ヨルムンガンド』ってのが流行っているらしく、やべえ時期的にバッティングしたかな、とハラハラ。
 だけれどその真相は単に私がアイアンマンをやりたくなっただけだったというね。
 日比谷でパキPさんに「アイアンマンって実はね、死の商人の話なんですよ」って聞いた時にすでに「うわ!やりたい!」って思ってた。

 天王星編の段階で土星のモチーフは中国ってことになっていたから、じゃあ世界最大の軍事力を持つ現代の中国を風刺してみようと。
 それにアイアンマン抜きで普通に考えても、4度目にもなる今回のテーマは「原点回帰」にならざるを得ない。だから一作目のようにライトの技術が軍事利用されたり、別のキャラをうまく使いながらライトとミグの出会いのようなものをもう一度やってみました。

 しかし『80日間宇宙一周』は色んな映画やアニメをパクり倒しているよね。冥王星がディープインパクト、海王星がモーレツ宇宙海賊、天王星がマクロス、そして土星がアイアンマン。
 変化球を狙った『ソニックブレイド』と違ってこっちはベタでライトなSF(本人はソーシャルフィクションのつもり)にしたいから、だいたい既に他が似たようなのやってるんだよな。まあソニックブレイドもガンダムだけどね・・・ということで登場人物の紹介。

ミグ
冥王星の軍人。銃火器や爆発物の扱いに関してはプロ。責任感が強い。
若い頃に負った胸の傷にコンプレックスを持っている。
ヴィンセントに一目惚れされ口説かれる羽目に。でも本人は女性として見られて結構嬉しい。

ライト
機械に強い。なんでも作れる。修理できる。自由人。
かつてヴィンセントと小さな会社を立ち上げていたらしい。
当時の発明のアイディアは全部ヴィンセントに横取りされ、挙げ句の果てにピンはねされた苦い過去が明らかに!

ヴィンセント・レイセオン
土星の経済特区に本部を置く多国籍兵器メーカー「プロメテウス」の社長。
ライトとはライバル関係。
出身地は土星で、亡命先の地球でライトに出会いふたりで会社を立ち上げた過去を持つ。ひょうひょうとした性格。口癖は「うちで働かない?」

ニコライ・ベルゲルミル
ミグたちが海王星で戦った緋色の旅団の最高幹部。
この星の共産主義はまやかしだと批判、土星の不平等社会を是正するためにライトを拉致し、新型戦闘機ミラージュの破壊を強要する。
元は医者で教会地下のカタコンベを改造した秘密基地で身寄りのない人の診察を行なっている。

殺し屋スカーレット
緋色の旅団の腕利き工作員かつハイペリオン教会のシスター。
クールな性格だが根は優しく星間戦争によって親を亡くした子供の面倒を見ている。
自分が楽しむためだけに発明をするライトを無責任だと責める。

エド・グレイプ
プロメテウス社副社長。ヴィンセントの片腕で付き合いは長い。たいてい社長の尻拭いに追われる。
新型ステルス戦闘機ミラージュ開発の責任者。

ジーン・アトラス将軍
土星人民解放軍の将軍。政財界に強いコネを持つ。ハイテク技術に疎いエロおやじ。

メディカルマシーン「ラ・メトリー」
プロメテウス社が開発した全自動医療マシン。少量のサンプルさえ採取すれば現在の健康状態、及び将来かかる病気の確率、そしてその確率を軽減する生活サイクルを瞬時に計算するスーパーコンピューター。アルバイトでも操作できる。これにより土星の医者はお払い箱になった。

イェーガー号
ヴィンセントの愛機。デザインはシャープでモダンだが飛行性能はリンドバーグ号に劣る。
ただリンドバーグ号に比べてかなり頑丈。

SX32ミラージュ
かつてライトが設計した戦闘機「ベガ」をもとに作り出した、真紅の無人ステルス機。
超高性能で一度起動すれば太陽系のどの空軍もかなわない圧倒的な破壊力を持つ。

土星
共産主義の惑星。20数年前に科学大革命が起こり医療技術が飛躍的に進歩。
すべての病気の治療法が完成した。
これにより医療費さえ出せば永遠に健康な生活が送れるようになり、富裕層は死を克服している。
土星人の信仰心はなくなり歴史的な教会を訪れるのは観光客しかいない。
また緋色の旅団の本部がある星。

アウトレイジ ビヨンド

 「面白い度☆☆☆☆ 好き度☆☆☆」

 模範囚が刺されるかよ。

 そういえば刺されてましたね。


 北野映画初の続編映画ついに公開!言うまでもなくこの映画は何ヶ月も前からすっごい楽しみにしてて、もう予告編のつくり方からしてワクワクして「えええ、どうなっちゃうの?」って感じだったんですが、見事に予告編に裏切られました。
 もう予告編でイメージしていたお話の筋と全然違う!公式サイトなどで説明されていたような単純な三つ巴抗争ではなく、ずっと複雑で立体的。

 わかりやすい起承転結のあるような物語ではなく、情報量が雑多でそれぞれのエピソードやシーンがバラバラに並列的に並べられ、伏線がとんでもなく緻密に絡まり合っている。
 なんというかクライトン作品で例えるならば『ネクスト』のような構成。伝わんないかwでも読んだ人ならわかると思う!

 北野監督は、出演者のたくさんの顔写真を机に並べて「これがこいつに恨みを持って、だからこいつは・・・」と軍隊の作戦本部の将軍のようにプロットを組み立てたらしいですが、それも納得。
 戦争になったらどないするんじゃボケ!というセリフにもあるように、これは人間の戦争をまるで神の実験のように描いたある種のシミュレーションなのかもしれない。

 だから、この世界に絶対的な力を持つチートキャラはいない。偉そうにしている奴もみんな立場が変われば命乞いも土下座も失禁もする。
 ・・・いや実はチートキャラいるんだけどそのチートキャラに対する使い捨てのチェス駒の最後の抵抗。それがアウトレイジビヨンドで描きたかったことなのか。

 たけしさんは公開前さんざんいろんな番組(ニコニコ動画すら)に出まくって「今回はエンターテインメントに徹した。今のテレビ番組はなんでもテロップが入ってて驚いた。あれくらいやらなきゃ今の視聴者はわからないのかって。だから今回はできるだけキャラクターに状況を言葉で喋らせて分かりやすく作った」とか言ってたけど、全然甘かったw

 分かりやすくセリフで説明することでいつもの難解さを捨てた分、情報量を増やして複雑化させたから結局すっごい頭を使って状況を整理しないと話が追えない。
 些細なセリフや描写まで全てが計算しつくされていて、ちょっとでも気を抜くとおいてけぼりを食ってしまう。
 やっぱりこの人常人の頭脳の持ち主じゃないわwこんな情報量のある脚本を新幹線で3時間では書けません(とはいえ震災で公開日が伸びてその間色々書き加えたらしいけれど)。

 さてこっからはネタバレごめんなキャラクターの紹介。これに関してはもうどうやってもネタバレになるので未見の人は読まないでね。
 絶対予想を裏切る内容になっている映画だから。

「大友」
 この映画ってなんか例えとしてどうかとは思うけれど、やっぱり『魔法少女まどか☆マギカ』に似ていて、この人はやっぱりまどか役だなあって。
 今回の大友の兄貴はとにかく消極的(まどかたる所以)。出所したあとはヤクザを引退して、以前にお世話になったフィクサーのおじいさんのコネで韓国にいくつもりだったし、もう年齢的な限界を感じている。
 ここらへんは「オレもう山王会とやる気ねえぞ」のセリフにすべてが詰まっている。たけしさんってちょっと前まで「オイラは最終的に芸能界のパンダになりたい」って言ってたんだよ。
 つまり、もう歳だし無茶なことは若手の人にやらせて、自分は上野動物園のパンダのように何にもしないでギャラをもらってればいいやと。確かにサーカスの動物と違ってパンダって何か芸があるわけじゃないもんね。
 最近は「あれ?この業界もしかしてパンダを買う余裕もないんじゃねえか」って思ったらしく、これまで以上にいろんな仕事を取ってお茶の間の私たちを楽しませてくれているんですが、とにかく今回の大友はちょっと前のTVタックルのたけしさんのように控えめ。
 そして相変わらずヤクザの義理や道理にこだわる。そこを利用されてまた大きな抗争に巻き込まれていくんだけれど・・・

「木村」
 この人が大友とコンビを組むとは思わなかった!一作目の顛末を知っていたら、もうその筋だけで続編見たくなるもんね。
 いや~木村さん相変わらずいい人wよく考えたら昔気質の大友とぴったりのキャラなんだよね。親分を尊敬し子分を大切にする、かっこいい兄貴分。
 しかしこの映画では決してヤクザを美化しない。屈折したアウトレイジの世界ではこういう人は結局貧乏くじを引いてしまうのだ。・・・ええと、さやかちゃん。

「嶋&小野」
 木村が面倒見ている子分。まるで少年マガジンのヤンキー漫画の主役のような、地元では負け無しの喧嘩上等コンビって感じだが、やっぱりアウトレイジではそういうものを手放しに礼賛はしない。
 一見爽やかそうに見えるヤンキーの若者も、結局カタギの弱い者(工場の作業員やウエイトレス)いじめて恐喝しているだけじゃんって事実をかなりリアルに見せてくれる。こんな奴らに絡まれたくないよなあ・・・
 木村や大友を慕って犬のように付いてくるが、マル暴の繁田に蹴り一撃でやられた挙句、山王会のボディガード舟木に惨殺される。

「加藤」
 山王会の現会長。物静かで話のわからない人じゃない。しかし加藤会長には大きなアキレス腱があった。自分が前会長を裏切り殺したことを見た人間がいたのだ。
 普通ならそんな奴消しちゃえばいいんだろうけど、加藤はそいつに他の古参幹部が羨む好待遇をしてしまう。そこがこの人の転落人生の原因。

「石原」
 山王会もうひとりの裏切り者。裏切り者って結局内心は怖くて怖くてしょうがないんだろうな。自分がやったことをいつ自分がやられるかわからない。
 とんでもない若さで関東最大の暴力組織のナンバー2にまで上り詰めたけど、古参幹部になめられないように必死だった。頭はいいのだろうが、大友の影に怯えて冷静さを欠き、刑事片岡や花菱会の策略に踊らされてしまう。
 CMでも分かるようにバッティングセンターのピッチングマシーンでお仕置きされる。痛いんだろうな、あれ。

「舟木」
 加藤の命を取ろうと無謀にも殴り込んできた少年マガジンの主役みたいなヤンキーコンビをあっさり返り討ち。ヤクザの世界はヤンキー漫画のそれじゃなかった。
 だが大切な子分をなぶり殺しにされた木村と大友によって、前作を彷彿とさせる痛いことをされる。先代会長の死の真相を知る人物でもある。

「富田」
 山王会の古参幹部。金より仁義の古いタイプのヤクザで、友達の白山、五味と共に加藤&石原新体制の愚痴をこぼす。なんというかクラスの中に必ずいるB級女子のグループっぽかったwだから友達にいいように担ぎ上げられ落とされてしまう。
 この映画の世界観を説明するために最初に犠牲になった可哀想なキャラ。いわばマミさん!しかし中尾彬さんが最初に退場するとは予想できなかったなあ・・・

「白山&五味」
 兄弟の冨田を切り捨てたのは自分たちがのし上がるためでは決してない。臆病者の彼らは自己保身のために兄貴分を見殺しにした。
 完全に冷たくもなければ情に厚いわけでもない、やっぱり女子みたいなコンビ。こいつらが結局山王会の会長とナンバー2になるんだけど、その時点で新生山王会の前途は多難だ。

「布施」
 関西花菱会の会長。ひょうひょうとした性格で、うまくすっとぼけながら山王会を徐々に潰していく徳川家康ばりの狸じいさん。
 宣伝では山王会と花菱会は勢力が拮抗、もしくは山王会の方が力が大きいって感じだったけど圧倒的な実力差で山王会を撃破。最終的には傘下にしてしまった。
 干しぶどう食いながら「ま、てめえの子分を平気でハジくようなやつはハナから救いようがな一ちゅうこっちゃな」とぼやく通り、実は花菱会の結束はかなり強い。内ゲバをやっていたのは山王会だけだったんだよね。

「西野&中田」
 花菱会の極悪コンビ。超怖かったです。実はそんなに出てこない!(衝撃の事実)
 花菱会の大物幹部はよそ者に簡単に心を許すようなお人好しじゃない。そう考えると山王会の人たちってガードゆるすぎだよなあ・・・彼らにとってみれば羊とか鴨ネギの類に見えたのだろうか・・・

「城」
 無口な凄腕ヒットマン。日本一贅沢な高橋克典さんの使い方だと思うw

「繁田」
 マル暴の刑事。先輩片岡のやり方に疑念を抱く。「ヤクザは人間のクズだからな!」と言いながら本当のクズのようにヤクザをみすみす死なせたりはしない。
 …なんというか体育の先生みたいな人だったw変な作業着だかジャージみたいの着てるしw

「片岡」
 もうね、アウトレイジビヨンドはコイツの話だってくらい終始出ずっぱり。嘘の情報を片っ端から流しまくってヤクザを疑心暗鬼にさせガンガン同士討ちさせていく。片岡にしてみればヤクザなんてみんな馬鹿に見えてしょうがなかったんだろうな。
 この映画のチートキャラでありゲームマスター。全部こいつの計画通りに動いていき山王会はほぼ壊滅。最後の最後の最後まで片岡の思い通り。ラストシーンを除いて。そりゃいいかげんにしろってなるぜ(笑)

 というわけですっごい情報量の映画でした!何度か見れば「あ、あれがこれのフリになってたんだ!」とかいろいろ気づくと思う。片岡の「オレの生き様見てろよ」とかw
 でも『魔法少女まどか☆マギカ』と一緒でキャラクター性はかなり希薄。ヤクザの言葉で「鉄砲玉」っていうのがあるけどそんな感じで、本当にみんなチェスのコマだもんね。
 チャートでもノートに書いて、この迷宮のようなプロットに散りばめられた仕掛けを探していくと面白い発見があるかもです。

 て、たけしの挑戦状かバカヤロー!
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