地学実験覚え書き②

 こんばんは。2016年も終わりですね。思い返せばろくな年じゃなかったから、とっとと過ぎ去って欲しい。いい事といえば、数学の単位がほとんど優で取れたのくらいだな。あと真田丸が楽しかった。おわり。
 ちなみにアキヒトさんの誕生日に、三浦半島の城ヶ島でフィールド調査をしてきたので、そのレポートを抜粋して掲載します。この巡検に関しては、リアルデザーテッドアイランドみたくてちょっと面白かった。攻略サイトみたいなマップとか作成したり、謎の洞窟があったり。

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ハインツ「閣下洞窟です。いかがいたしますか?」

城ヶ島巡検マップ(デザテ攻略サイト仕様)
マップブログ用.jpg
ポイントAで注意事項の確認、調査用具の準備を行い、島の西部から反時計回りに散策し、島の東部へ向かった。城ヶ島の地質は、西から東にかけて新しくなっていくので、堆積した順序に沿って巡検を行なったことになる。
城ヶ島を含む三浦半島南部は、新生代第三紀(鮮新世~中新世)の地層である三浦層群から成り、さらに三浦層群は三崎層と初声層という二つの異なる地層で構成される。
城ヶ島では島の北端部と西部に三崎層、島の東部に初声層が広がり、島の中央に二つの地層の境界(断層)がある。
また北米プレートに沈み込む形で北上するフィリピン海プレートによって火山活動や地殻変動が度々起こり、大規模な海岸線の隆起、それに由来する露頭が島のあちこちで見られる。

級化層理2.jpg
三崎層(堆積年代1200~400万年前)
凝灰質シルト岩とスコリア質凝灰岩の互層。フィリピン海プレートの衝突によって本州側に付加した。スランプ構造や生痕化石が見られる。城ヶ島西部に分布。

発声層.jpg
初声層(堆積年代400~300万年前)
「はっせそう」と読む。火山から噴出したスコリア、軽石質の砂や礫からなる凝灰岩層。三崎層同様にフィリピン海プレートの衝突によって本州側に付加した。
クロスラミナが発達。城ヶ島東部に分布。

B:傾斜した露頭
ポイントB.jpg
ポイントBから矢印方向へ岬を見た写真。
本来水平に堆積していた地層が、プレートテクトニクスのプレッシャーによって横倒しに倒れてしまったものだと考えられる。
実際にこの露頭には所々断層が確認出来、城ヶ島の地殻変動が活発であったことを物語っている。この露頭の傾斜方角は北上がりの南落ちで、城ヶ島西部がフィリピン海プレートによってコンスタントに南からの強い力を受けていることが分かる。
岬の地面には綺麗な断層が所々にある。

断層注釈入り.jpg
断層がひとつの場所で二つ走っている。写真の右が南。左が北である。
白い凝灰岩層に注目すると、断層A(赤いライン)が圧縮力による逆断層、断層B(青いライン)が引張力による正断層であることが分かる。
これは、矛盾する力の働き方が同時に起きているように見えるが、城ヶ島周辺のプレートの動きを踏まえると、南からフィリピン海プレートによる圧縮力がかかっているはずである。
したがって、もともと断層Aを生じさせるような圧縮力が南からかかったことによって、断層Aの左にあった地層が相対的に下向きの力を受け、それによって断層Aの左の地層に引張力が生まれ、二次的に断層Bを作り出したと考えられる。
また、断層Bを示す青いラインが下の方でずれているのは、断層が生じたあとにも継続的に南から北に向かって水平方向の強い力が働いていることを示していると思われる。

B:海岸段丘
海岸段丘は、海岸線沿いに分布する階段状の地形で、海岸線の段階的な離水(地盤の隆起や海面の低下)の繰り返しによって、波で海食される位置が断続的に後退してできる。
城ヶ島の海岸段丘は、1703年の元禄地震や、1923年の関東大震災による地表の隆起によって形成された。

海岸段丘のでき方
海食崖①.jpg

①山地や丘陵が直接海に面している岩石海岸が、波の浸食や風化によって削り取られ海食崖ができる。このとき海中にある崖は波がぶつかってこないため侵食されず平らな面(波食棚)が形成される。
海食崖②.jpg

②その後、地盤の隆起や海退で海岸線が後退し、海食作用が起こる場所が相対的に低くなる。
海食崖③.jpg

③再び別の場所で海食崖ができる。このサイクルをくり返すことで階段状の地形ができあがる。
海食崖④.jpg

B:おう穴・タフォニ
タフォニ.jpg
写真でも分かるように、この海食崖の表面にはところどころ蜂の巣のように穴が開いているが、これは生物が開けた跡でも、軽石や玄武岩のように内部のガスが抜けた跡ではなく、海食作用によって礫が波打ち際にぶつかりできたものだと考えられている。
波によって岩盤の割れ目に入り込んだ礫は、水流によって回転し岩盤を削り取るという。こうして岩石の表面にできた円形の穴をおう穴という。
実際、この崖周辺の風は風速10メートルを超えるほど強く、波の勢いも激しいものがあった。
さらに他の浸食作用の例を調べると、タフォニである可能性もあるのではないかと思った。タフォニとは、風が強い海岸で海水が勢いよく岩石に付着し、その後海水の水分が蒸発、岩石中に残された塩類が結晶化することで膨張、岩石を内部から破壊しできる穴のことである。
タフォニは砂岩や凝灰岩の崖で見られるということなので、この穴はタフォニである可能性も高いと思われる。

C:互層
三崎層群.jpg
異なる種類の層が交互に重なっている地層を互層という。
このポイントの崖は三崎層群に属するので、白い凝灰質シルト岩と、黒いスコリア質凝灰岩の互層が明確に確認できる。この二つの地層はともに堆積岩である。

凝灰質シルト岩(白)は、火山灰の混ざった砂泥岩で、堆積時に火山の噴火があったことがわかる。その時の火山灰が砂や泥と一緒に河口に堆積したと思われる。

スコリア質凝灰岩(黒)は、スコリアを多く含む凝灰岩のことで、こちらも火山活動によって形成されたことがわかる。
スコリアは黒っぽい穴だらけの岩石のことで、鉄やマグネシウムの割合が高く粘り気の少ない玄武岩質マグマが噴火の際に上昇し、圧力が下がったために、内部に含まれていた揮発性分が抜け、多孔質になった。ちなみに白っぽいものは軽石と呼ばれる。

この二つの地層が交互に堆積しているということは、この場所はかなり活発な火山活動がコンスタントに起きていることがわかり、さらに、この互層の間隔(厚み)で過去に起きた噴火のペースや規模を調べることができる。
大規模な噴火の場合は、大量の火山灰が降り積もったはずなので地層が厚くなり、小規模の場合は地層の厚みが薄くなるはずである。
しかし、なぜ同一の場所で、白と黒の二種類の火山灰やマグマが堆積しているのだろうか。
以下の3つの可能性が考えられる。

①近い場所に二つの火山がある。
②二種類のマグマだまりがある。
③同じマグマでも噴出するタイミングで色が変わる。

この中の③をマグマの結晶分化作用という。

スコリア質凝灰岩.jpg
また、スコリア質凝灰岩の地層の中には、写真のように礫状の凝灰岩が含まれている層も見られた(写真の下側が北)。
この凝灰岩の礫は変成作用を受けていないので、マグマの熱にさらされていないことがわかる。

黒っぽいスコリア質凝灰岩の中に凝灰岩の礫が含まれている、ひとつの仮説としては、地上にもともとあった白っぽい凝灰岩が、風化・侵食の後に河口に運搬されることで礫になり、その時海底から吹き出ていた未固結の玄武岩質溶岩の中に取り込まれたのではないかと思われる。
しかし、運搬堆積作用で海底のマグマまで運ばれてきたとすれば、下部で粒が大きくなり、上部で粒が小さくなる級化層理が見られるはずである。
これは、この地層が河口付近で形成されたと考えると説明ができる。凝灰岩質の礫・砂・泥が河口に運ばれると、軽い砂や泥は沖合にまで運ばれるが、礫は河口付近で沈んでしまう。こうして大きな礫のみ、局所的に玄武岩質のマグマに取り込まれたのではないだろうか。

もうひとつの仮説としては、海底に堆積していた凝灰岩の地層を、玄武岩室マグマが下から砕き割って、その後固結したという可能性があるが、黒っぽい玄武岩質マグマの温度は、噴出時には1200℃の高温に達するので、マグマが海底である程度急冷された後に、タイミングよく礫が取り込まれないと、変成作用を受けてしまう。

最後の仮説は、この礫がマッドボールであるというものである。マッドボールとは、未固結のシルト岩が海底地滑りによってちぎれて礫のようになる現象である。この海底地滑り説は、後述するスランプ現象とも整合性がある。

C:スランプ構造
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特定の地層だけがシワが寄るように曲がっている異常堆積構造をスランプ構造という。
褶曲であるならば、上下の地層と共に曲がるはずだが、スランプ構造では上下の地層は直線的なままである。
写真の真ん中の地層だけが圧縮力を受けたとは考えにくいため、シワの寄った地層を構成する堆積物がまだ軟らかかった時に、地震に伴う海底地滑りが発生、摩擦が小さい地層の上部が波打つ形で変形したものだと考えられる。
この時、波打った地層の上部にすでに別の地層が堆積していたかどうかは意見が分かれている。

スランプ構造のでき方(仮説A)
①硬い地層の表面に軟らかい地層が乗っていた。
スランプ構造①.jpg

②地震もしくは、海底の傾斜角度が4°(安息角)以上になると地滑りが発生する。これにより、表面の軟らかい地層だけ滑り落ち、シワが寄った感じに曲がる。
スランプ構造②.jpg

③シワが寄った軟らかい地層の上に再び地層が堆積した。
スランプ構造③.jpg

スランプ構造のでき方(仮説B)
①硬い地層の間に軟らかい地層が挟まれていた。
スランプ構造④.jpg

②軟らかい地層の上の硬い地層が海底地滑りを起こし、それに引きずられる形で真ん中の柔らかい地層が変形した。
スランプ構造⑤.jpg

D:海食洞
海食洞.jpg
海食崖の侵食がさらに進むとできるトンネル。
洞窟上部の形状から、海岸線が二段階に変化したことがわかる。

海食洞のでき方
①海食崖がある
海食洞①.jpg

②海食崖が波によってさらに削られる
海食洞②.jpg

③地震によって陸地が隆起し、海食の位置が相対的に下がる。
海食洞③.jpg

D:級化層理(グレーディング)
級化層理.jpg
(写真の左が北)
同一の地層(単層)の下部から上部に行くほど粒の大きさが連続的に小さくなっている構造を級化層理という。
時間とともに運搬速度が小さくなると、ストークスの法則により、最初に粒の大きい重い礫が、次に砂が、最後に水に溶けていた泥が積もっていくため、このような順序だった階層ができる。
この級化層理によって地層の上下判定をすることができる。
この海食洞の地面の級化層理を調べると、もともと西が下で、東が上であることがわかる。つまり、地層累重の法則により、西の地層が古く、東に行くに従って新しくなっていることがわかる。

E:生痕化石
生痕化石.jpg
生物の足跡や巣などの化石を生痕化石という。
写真のものはゴカイの巣穴だと思われる。
この巣穴はもともと空洞だったが、その中に土砂が堆積し地層が重なったあとに、その部分だけを残して地層上部が風化すると、このような凸型の生痕化石(ポジ型化石。カスト)ができる。
凸型の部分だけが残るということは、地層の上部が残り下部が風化したと考えられるため、何らかの原因で地層ごと上下がひっくり返った可能性がある。
もしくは、巣穴に詰まった堆積物だけが風化に強ければ、この写真のように残ると考えられる。

F:フレイム構造
フレイム構造3.jpg
下の地層がまだ固まっていない時に、上からさらに新しい地層が堆積することによって、地層の境界が炎のような形になることをフレイム構造という。
城ヶ島のフレイム構造は、堆積する地層の色のコントラストが明確であるため、世界で最もフレイム構造が綺麗に見える場所だと言われている(実際、地学の資料集でも城ヶ島のこの場所の写真が掲載されている)。

フレイム構造.jpg
フレイム構造のでき方については大きく3つの説がある。

①海洋生物説
ヒラメやエイといった海底を這い泳ぐ生物が付けたという説。
生物学者が主に提唱。海底にミステリーサークルを作るフグ(アマミホシゾラフグ)などもいることから可能性はなくはないが、城ヶ島のフレイム構造はあまりにも広範に及んでいるので、生物が作ったとなるとかなり多くの個体数が必要になる。

②荷重痕(ロードキャスト)説
下の白い凝灰岩層が堆積し、続成作用で完全に固化する前に、上からスコリア質砂岩が降ってきて、白い火山灰がその衝撃で舞い上がり、上下の地層が混ざり合うことで、炎のような境界ができたというもの。テキストにも書かれている最も一般的な説。

③液状化現象説
海底地震によって下の白い凝灰岩層がある種の液状化現象を起こし、炎のような境界を作ったという説。
液状化現象が起こると、比重の小さな構造物は浮き上がり、その上に乗っていた比重の大きな構造物は下に沈み込む。
F地点のフレイム構造も、下の白い地層よりも上の黒い地層の方が粒の大きさが大きく比重が大きいため、液状化が起こる可能性はあると思われる。また、フレイム構造が広域に及ぶ理由も説明できる。

G→H:向斜構造
向斜構造.jpg
(南東方向に撮影。写真の左が東、右が西)
地層がお互いに向かい合う形で傾斜している構造を向斜という(※その逆は背斜)。
写真の左側の地層の傾斜方向が南西、右側の地層では東になっている。
このような地形は、床に敷いた布の一部を水平に手で押すとそのポイントを中心にシワが寄るように、島の地表が北上するプレートのプレッシャーによって大きく褶曲していることを示している。実際に毛布を南から押して見ると、この地点のようなU字型の褶曲地形ができた。
褶曲②.jpg

G→H:差別侵食
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フランスのケスタ地形のようなギザギザ。白い凝灰質シルト岩だけが選択的に風化され、両端の黒いスコリア質凝灰岩が綺麗に残っていることがわかる。
泥岩などが乾燥・湿潤を繰り返すことによってもろくなることをスレーキングという。
泥岩が降雨や波によって水分を吸収する(毛細管現象が起きる)と、泥岩内部に含まれていた空気を押しのける形でこれを圧縮させ、岩石の粒子同士を引き離してしまうのである。
しかし、黒い軽石(多孔質)であるスコリアを含むスコリア質凝灰岩も、白い凝灰質シルト岩同様にスレーキングの影響を大きく受ける(一般的に凝灰岩も泥岩も軟岩として知られる)はずなので、凝灰質シルト岩がスコリア質凝灰岩と比較してスレーキングによる風化に弱いことを証明する必要がある。
もしくは別の原因があるのかもしれない。この場所だけ顕著に差別侵食が起きている点も興味深い。この謎を解くのはあなただ。(丸投げ)

I:正断層&逆断層
二つの断層.jpg
断層Aが逆断層、断層Bが正断層である。
テキストなどでは異なるタイプの断層と紹介され、その形成メカニズムも異なるような印象を受けるが、これら二つの断層は同一メカニズムによって作られることが分かる。
つまり、圧縮力による逆断層の発生によって二次的に引張力が生まれ、逆断層に付随するかたちで正断層ができるというものである。

J:三崎層と初声層の境界
地層群の境界2.jpg
(写真の左が西、右が東)
同じ高さで、東に歩くと三崎層から発声層に突然変わるポイント。
地質年代で言えば三崎層よりも発声層の方が新しく、三崎層の上に発声層が堆積するため、このように三崎層の真横には並ばないはずである。
三崎層の隣に発声層が並んだ地形は以下のような手順でできたと思われる。

①三崎層の上に発声層が堆積した。
地層境界①.jpg

②プレートの活動によって西部が隆起し、東部が沈降する。
地層境界②.jpg

③同じ高さに三崎層と発声層が並ぶ。
地層境界③.jpg

K:クロスラミナ
クロスラミナ.jpg
細かい泥が堆積したシルト岩が見られることから、三崎層の堆積場所が沖合や深海であったと考えられるのに対し、発声層の堆積場所は浅瀬だったと考えられている。その根拠の一つとなったのが、写真のクロスラミナである。

クロスラミナ補助線.jpg
地層の断面に見られる、弱い縞模様をラミナという。そのラミナが交差しているものがクロスラミナで、水の流れがよく変わる場所で堆積した岩石で見られる。
縞模様を切っているほうが上位の地層で、ここでは青いラインが該当する。
つまり写真の下が堆積時には上だったことになる。
このように水の流れがよく変わる場所は、浅瀬であると考えられるため、発声層は深海で堆積した三崎層と区別される。

L:馬の背洞門
馬の背洞門注釈.jpg
細い岬状の海食崖の侵食が両側から行なわれ、トンネルのように貫通してできたと思われる。
関東大震災以前の馬の背洞門の写真も残っており、震災前はこのトンネルを船でくぐり抜けられたことがわかる。しかし関東大震災による隆起によって、現在では船は座礁してしまい通れない。
写真の高い段丘が元禄地震の際に隆起した面、低い段丘が関東大震災の際に隆起した面だと写真資料から考えられる。

L:タービダイト
混濁流堆積物.jpg
地震や地滑りによって陸上や大陸棚の混濁流が海底に堆積したものをタービダイトという。
テキストによればタービダイトは級化層理が発達すると書いてあったが、写真のタービダイトには明確な級化層理が見られない。これを淘汰が悪いという。
これは土石流が勢いよく運搬されたことで、大小様々な粒子が一度にまとめて堆積したからであると考えられる。
また白っぽいマッドボールらしきものが確認できることからも海底地滑りが起きたことがわかる。

M:不整合境界
M発声層群と関東ローム層.jpg
ウミウの営巣地を観察できる城ヶ島公園の展望台から、東の海食崖を撮影したもの。遠くには房総半島が見える。
岩石の表面が白っぽいところが発声層で、これは海水の塩分がついたのではなくウミウの糞によるものである。
その上の茶色い地層が、かの有名な関東ローム層である。関東ローム層は箱根山や富士山が噴火した際の火山灰が堆積して出来た地層で、色が茶色っぽいのは酸化したからである。

 あらためて感じたのは、専門知識の重要さ。地学実験の最終日に城ヶ島へ巡検に行ったんだけど、事前に大学で判別方法や成因を学習しなければ、ただの観光旅行になっていたことであろう。見えども見えずというか。
 あと、スケールと方位の記録の重要性を強く感じた。巡検の最中では、地形や岩石の大きさなんか見ればわかるじゃんみたいな感じだったんだけど、巡検を終えて数日も経つとすっかりスケールなんか忘れちゃうんだよね。
 それに、岩石や地形ができる原因にプレートテクトニクスを考慮する際には、写真をとった方角が分からないとどうにもならないという。
 今回クリノメーターの計測は二箇所しかやらなかったんだけど、帰宅後、この二箇所の走向と傾斜を衛星写真で再確認したら、ある程度正確に一致してて、ちょっと感動した。わりと単純な仕組みの器具なんだけど、やるなお前!みたいな。
 心残りがあるとすれば、岩石のサンプルをほとんど採取しなかったこと(スコリアの小さな欠片だけお土産で持ち帰ってきた)。今度こういう機会があればマイ・ハンマーを持参し、岩石の組成や強度を確かめてみたい。
 あと、城ヶ島って風がめちゃめちゃ強くて、写真撮影の際のスケールには風で飛ばされないような重いものが必要なので、その点でもハンマーは役に立つと感じた。嗚呼ハンマー。

参考文献とサイト
『ニューステージ新地学図表』(浜島書店、2013年)

『もう一度読む 数研の高校地学』(数研出版、2014年)

千葉県公式サイト『新しい浜の誕生―地震による隆起と沈降―』https://www.pref.chiba.lg.jp/bousai/bousaishi/documents/dai3syou.pdf

吉澤孝和『量地指南に見る江戸時代中期の測量術』
http://www.cbr.mlit.go.jp/tenjyo/hyaka/publication/pbl_tell/pdf/22.pdf

小玉喜三郎・岡 重文・三梨 昴『三崎地域の地質』
https://www.gsj.jp/data/50KGM/PDF/GSJ_MAP_G050_08093_1980_D.pdf

早稲田大学大学院創造理工学研究科『三浦半島のジオサイト』
http://www.dept.edu.waseda.ac.jp/earth/geop/Miura-geosites2013.pdf

『エンドレスブルー奄美大島』
http://endless-blue.jp/misterycircle.html

鈴木 聡『グリーンタフ地域に分布する火山岩類のスレーキング特性に関する研究』
http://air.lib.akita-u.ac.jp/dspace/bitstream/10295/2720/1/kouhakuyoushikou1102.pdf

地学実験覚え書き①

 お久しぶりです&おはようございます。今日中に以下の石ころをすべて判別できるようにというミッション・インポッシブルが下されました。マジで覚え書き。

堆積岩
大気や水の風化侵食運搬堆積作用でできる岩石。

砕屑岩
粒の角が河川の運搬によって削られて丸い。

①礫岩(コングロメレート)
粒の大きさが2ミリ以上。

②砂岩(サンドストーン)
粒の大きさが2ミリ未満~1/16ミリ以上。
石英が砕けた粒(珪岩)をたくさん含むものはグレイワッケと呼ばれる。

③泥岩(マドストーン)
粒の大きさが1/16ミリ未満。

④頁岩(シェール)
本のページのようにペラペラと薄くはがれることにちなむ。
内部に含まれる有機物の関係で光沢がある。
近年某合衆国がこの岩石からオイルやガスを取り出す技術を開発した。プロミストランド。一方のカナダではアノマロカリスなどが挟まっている。

⑤粘板岩(スレート)
頁岩に似るが、さらに真っ黒でキレイ。
内部の有機物は完全に炭化(石墨化)しており、そのために光沢がない。宮城県石巻市で質がいいものがとれ、鉛筆の芯や、すずり、東京駅の屋根瓦などに使用されている。

火山噴出岩
火山噴出物は広域に及ぶため、別の場所の地層を対比する際、キーベッド(カギ層)となる。
見分けるポイントは、火山灰はガラスの粒子であるため、粒の角がとがっていること。
凝灰礫岩と凝灰岩(ゼオライト)はほとんど区別がつかないが、凝灰岩のほうはなめると舌に吸い付くので(唾液が無数の小さい孔に入るため)、キーベッド探しの時は調査隊はカタツムリのごとく地層をなめるらしい。

生物岩
珪藻土やドロマイトなどいろいろあるらしいが、代表的なものはいつものこの二つ。

①石灰岩(ライムストーン)
主成分は炭酸カルシウム。有孔虫やサンゴの死骸が海底に堆積して固化。

②チャート
ガラス片という意味。
珪藻類や放散虫の死骸がマリンスノーとして海底に堆積し固化。
非常に硬く、火打石として用いられる。茶色っぽい。

火成岩
溶岩(ラバー)やマグマが冷えて固まった岩石。

深成岩
マグマが地中深くでゆっくり冷えたもの。等粒状組織を持つ。肉眼ではかなり分かりにくいが、偏光顕微鏡のクロスニコル設定で覗くと、大きな結晶で岩石が隙間なく敷き詰められているのがよくわかる。

①花崗岩(グラナイト)
もっともメジャーな深成岩。花崗は中国の地名に由来。グラナイトは「粒の石」という意味。
シリカの含有量が多く、反対に鉄とマグネシウムの含有量が少ないため全体的に白っぽい。
古くなると鉄が酸化することでピンク色になっていく・・・といっても3億年位たたないとピンクにならない。
含まれる造岩鉱物は
白いものが斜長石(カルシウムとナトリウム)とカリ長石。
透明なものは石英。
黒いものは黒雲母と角閃石。

②閃緑岩(ディオライト)
きらめく緑の石という意味だが全体的に灰色。花崗岩と区別がつきにくいため「区別する」という意味でディオライトと名付けられた。しかし比較するとわかるが、花崗岩はグロス調で閃緑岩はマット調っぽい。
造岩鉱物の白いものは斜長石。
緑のものはカルシウムを含んだ明るい緑色の角閃石。

③斑糲岩(ガブロ)
斑状に黒い石という意味。
全体的に黒くかなりキラキラしている。いわゆる黒御影石。
玄武岩とともに海洋プレートを構成する。

火山岩
地表付近のマグマが急冷したもの。斑状組織を持つ。
偏光顕微鏡で覗くと石基(グランドマス)と呼ばれている部分も実は斑晶(フィナクリスト)同様に細かい結晶でできていることが分かる。そのため中学校で石基をガラス質と教えるのは厳密には誤り。
斑状組織.jpg
偏光顕微鏡のクロスニコルで見た斑状組織(安山岩のもの)。石基(グランドマス)の部分も実は微小な結晶で出来ていることがわかる。
明確な平行線の縞々(双晶)が走っている灰色~白の斑晶は斜長石。
レインボー的にカラフルな斑晶は角閃石。分厚さによってブルー→グリーン→オレンジと色が違って見える(薄くなるほど黄色っぽくなる)。

①流紋岩(ライアライト)
火山岩で最も白っぽい。
名前の由来は溶岩が流れた跡(縞模様)が岩石に残されているため。
白っぽいマグマは粘り気が強く溶岩ドームを形成する。溶岩ドーム崩壊の際の火砕流は温度が400℃、時速は70~300キロメートルに達し、たびたび犠牲者を出す。
ちなみに特殊な流紋岩として、黒曜石やピッチストーンといったガラス質のタイプがある。どちらも割ると鋭く尖るがピッチストーンの方はもろいので石器にはならない。

②安山岩(アンデサイト)
灰色の火山岩。
アメリカを“米”と漢字表記するように、アンデス山脈を“安山”としてみたらしい。
オーソドックスな輝石安山岩のほかに、黒っぽい角閃石安山岩、ごま塩状の黒雲母安山岩がある。

③玄武岩(ビソート)
黒色の火山岩。兵庫県の洞窟の名前にちなむ。
海洋プレートの最上部を構成する。
また、砂岩と酷似しており専門家でも見分けがつかないことがある。しかしサラサラのマグマが急冷されたため内部に火山ガスがまだ含まれていることがあり、ほのかに硫黄の香りがする・・・らしいが鼻づまりには厳しい。
サラサラのマグマは溶岩台地を形成し、その世界最大のものが西シベリア台地、次いでデカン高原。

変成岩
堆積岩や火成岩が、接触したマグマの熱(接触変成)や地中の温度や圧力(広域変成)の影響を受けて再結晶化したもの。
中学では習わない第三の勢力。もともと火成岩や堆積岩であったために最も見分けが困難。

接触変成岩
深さ10~20キロメートルにあるマグマだまり周辺でしかつくられないために局所的。

①ホルンフェルス
元泥岩。
割れると角笛状(ホルン)の破片ができることにちなむ。
黒っぽい岩石で、見分けるポイントは表面に仄かに青い透明なビーズのような結晶(菫青石)があること。

②大理石(マーブル)
元石灰岩。結晶石灰岩ともいう。ウェディングドレスのように白く美しい。
炭酸カルシウムが結晶化して透明な方解石になったもの。
ちなみにマーブルチョコは表面を大理石のようにつるつるにコーティングしたから。

広域変成岩
海洋プレートの沈み込み帯でつくられるため広域で、厚さは数キロメートル、長さは数百~数千メートルにわたって大量生産される。
普通に考えて、そのまま地球の内部に沈んでいきそうだが、現在も地質学者を悩ます謎の浮上をして地表付近にアイルビーバックする。

片岩(クリスタライン・シスト)
ミルフィールのような薄い片理面がある広域変成岩。
全体的な特徴としてラメ状の細かなキラキラがある。

元玄武岩の広域変成岩
出世魚のように①→②もしくは①→③と変わっていく。

①緑泥石片岩(クロライト・シスト)
クロライトはギリシャ語で黄緑という意味。
400℃、深さ15キロメートルでできる。
シルバーの塗装をされたような岩石。
日本ではポピュラーな岩石で巨大なものもある。庭石としても人気。

②緑簾石片岩(エピドート・シスト)
緑泥石片岩がさらに沈み、450℃、深さ20キロメートルまで達すると作られる。
シルバーの表面がところどころ黄緑色に変色している岩石。

③藍閃片岩(ブルー・シスト)
緑泥石片岩が450℃、深さ30キロメートル以上(マントル突入)まで沈み込むと作られる。
青い。緑簾石片岩と同一温度、しかし圧力条件のみが異なるため、二つの岩石産地を比較することでマントルの速度や温度についての情報も調べることができる。
ブルーシスト.jpg
藍閃片岩の片理面。綺麗なミルフィール状。

元砂泥岩の広域変成岩
出世魚のように①→②→③→④と変わっていく。

①黒色片岩(ブラック・シスト)
粘板岩が400℃、深さ15キロで変化してできる。

②紅簾石片岩(ピーモンタイト)
石にもよるがほのかにピンク色。
黒色片岩が450℃、深さ20キロで変化してできる。

③雲母片岩(ツー・マイカ・シスト)
白雲母と黒雲母のふたつのマイカ(雲母)が同時に存在する岩石。
550℃、深さ20キロでできる。これは温度が高いと黒雲母が作られるため。

④黒雲母片麻岩(バイアタイト・ナイス)
片理が粗い物を片麻岩という。片麻岩はさらに高温な場所でできる。
雲母片岩の白雲母に含まれる水分が高熱によりぬけて、ほかの結晶内に注入、触媒作用を起こし融点を下げたことで、岩石の一部が溶けてしまった(つまり一部火成岩になっている)。白雲母はカリ長石に変化しみられない。
650℃以上でできる。
黒雲母片麻岩.jpg
黒雲母片麻岩の片理面。かなり粗挽き。

この世界の片隅に

 「面白い度☆☆☆ 好き度☆☆☆」

 警報もう飽きた。

 観る予定どころか、その存在すら知らなかったけど、最近(ネットだけで)やたらめったら超大絶賛されているから、高崎まで行って鑑賞したアニメ映画。ちなみに『アイアン・スカイ』みたいにクラウドファンディングで製作されたらしい。で、おれ見た。別にフツーだった。君ら大げさ。
 つーか、みんなが大絶賛するような作品って大きく2パターンあって、①そもそも作品のジャンルがニッチで好きな人しか見ないから見た人みんな絶賛ってパターン。オタクアニメの映画版に多い。と、②完成度はそつないくらいのレベルなんだけど、クチコミやらなんやらで、普段映画は見ないがそのために絶賛のハードルが低い人がたくさん見てくれて、結果的に大絶賛。の2パターンがあると思うんだけど、これはわりと①かな、と。

 今年ヒットした映画って『シン・ゴジラ』も『君の名は。』も、そしてこの映画もだけど、内容はないんだよね。情景のディティールが丁寧なだけで。 
 だからオタク映画のコンテキストが勝利した年なんだよな。どういうことかっていうと、オタクって例えば、登場人物の名前がみんな金属になっているぞ!とか(セーラームーンみたいだな)、爆弾のシーンはゴッホの絵画の『星月夜』を引用している!みたいなメタファーっていうか、そういうデータさえあれば満足なところがあってさ。勝手に深読みするからな。
 それはそれでいいんだろうけど、自分はオタクじゃないしね。データだけじゃ物足りないんだよね。作った人は何を言いたいんだろうっていうのがないとさ。
 この手の映画の絶賛がさすがにここまで続くと、なんというかていねいっていうジャンルを新設してもいいよな。

 ただ、この映画は扱っている時代が時代なだけに、ディティールだけっていうのがわりとうまくいったっていうかさ。史観とかイデオロギー的なの一切排除して、一貫して生活だけを描いているっていう。
 自分のおじいちゃんやおばあちゃんもこの世代だったけど、確かに戦争って言っても、日常がじゃあアクション映画みたくなるかっていうと違うわけで。
 結局は生活をしなきゃいけないわけで。それで、大変な思いをした人(おばあちゃん)もいれば、わりと生活に変化がなかったっていう人(おじいちゃん)もいたわけで。
 で、その当たり前の事実をアニメで丁寧に描いたわけだよね。だから、まあ、そりゃそうだよな。こんな感じだったんだろうな、と。暮らさないとなって。

 泣いたらもったいない。塩分が。

 なんかこの映画観て泣かない奴は非国民だとか言われそうだけどさ。別に泣かないよね。だって描いているのは生活だけだもん。そしてそれは戦時中でも平和な世の中でも大変なわけでさ。
 よく、宇宙飛行士がスペースシャトルで宇宙に行って、地球があまりにちっぽけなことを知っていろいろ悟っちゃってさ。「地球人よ仲良くしようよ」みたいな博愛主義者になって帰ってくるけど、「そんなこと言われてもさ」っていうのあるじゃん。全人類をスペースコロニーにでも移住させなきゃ共感できねえよっていう。
 なんかこの映画ってそんな違和感あるよね。「号泣した!」とか「戦争はよくない!」とか「当たり前の日常こそかけがえのないことが・・・」とか。でも繰り返すけど描いているのはあくまでも生活だからね。「フツーだった」って感想が一番ニュートラルだと思うよ。

 もっと言えばさ、戦中、戦後、高度成長、バブル、平成不況、グローバル化・・・どんな状況になっても、普通のままでいるっていうのは変わらないってことじゃないんだよね。矛盾しているのかもしれないけど、ここにとどまるためには走り続けねばならぬという。赤の女王やシュンペーターが言ってたやつで。
 めまぐるしく変わる時代の中で普通のままでいるっていう時点で、もう普通じゃないんだよ。
 自分もよく「お前は変わらないな」って言われること多いんだけど。でもそれは、大きな変化を防ぐために、細かな部分はかなり投げ売りっていうかプライド捨てちゃったところがあって。それにふと気づくと、ちょっと切ない気分にはなる。そこまでして守ってきたものは何なんだろうっていう。
 そんな自分とは比べ物にならないコペルニクス的転回&喪失を70年くらい前に田原総一朗さんなんかはしてきたと思うよ。あとゆうこりん。

数学科教育法覚え書き②

数学の4領域
中学校で習う数学の四天王的なジャンル。
Aは代数学、Bは幾何学、Cは解析学、Dは統計学に相当する。多分。

「A数と式」
数量の関係や法則などを文字を用いた式に表現したり、その意味を読み取ったりする能力を培う。
また、文字を用いた式で数量や数量の関係をとらえ説明できることや、目的に応じて簡単な式を変形したり、その意味を読み取ったりする能力を養い伸ばす。

第1学年
正負の数の定義と計算の仕方
絶対値
累乗
四則演算と数の集合(New!※群論の伏線!)
文字式の表し方と計算
交換法則、結合法則、分配法則
不等号(New!)
一次方程式

第2学年
多項式の計算
等式変形
連立方程式
連立方程式の利用

第3学年
乗法公式
因数分解
素数・素因数分解
平方根
有理数と無理数(数の概念の拡張)
二次方程式
二次方程式の解の公式(New!)

「B図形」
なんと中学一年生で球体を扱うようになった。

第1学年
線対称,点対称(小学校算数にも移行)
ねじれの位置
垂直二等分線の作図
角の二等分線の作図
弧と弦
おうぎ形
球の体積と表面積(New!高校から移行)
平行移動、対称移動及び回転移動
投影図
正多面体(プラトン立体)

第2学年
平行線と角
多角形と角
三角形の合同条件
三角形の合同の証明
二等辺三角形の性質
直角三角形の性質と合同条件
平行四辺形の性質と定理
平行線と面積(等積変形)

第3学年
三角形の相似条件
相似の証明
中点連結定理
相似な立体の面積比・体積比(New!高校から移行)
円周角と中心角
円周角の定理の逆
三平方の定理

「C関数」
比例と反比例は小学校の時点で結構ガッツリやるようになった。

第1学年
デカルト座標(直交座標)
関数の定義
比例と反比例

第2学年
一次関数
一次関数の利用

第3学年
関数Y=aX²(二次関数の伏線)
いろいろな事象と関数(New!高校から移行。ブレーキの制動距離など)

「D資料の活用」
脱ゆとりで統計学がまるまる追加された。何気にムズイ。

第1学年
度数分布表
ヒストグラム
代表値(平均、メジアン、モード)
分散
近似値
有効数字

第2学年
ラプラスの確率定義
統計的確率(大数の法則)

第3学年 
全数調査
標本調査
母集団

代数学覚え書き④

 雪江明彦先生「Nはナチュラルナンバーで自然数、Zはドイツ語のターレンで整数、Qはクオシェントで有理数、Rはリアルで実数、Cはコンプレクスで複素数の集合。」

 群論ってとにかく言葉がわかりづらい。つーかガロアの野郎わざとわかりづらく作りやがっただろ。そういうインテリふりかざすのいくない。だから隠れミッキー的に隠れトランプでてくる。
 まあ、こういうところって初学者は厳密性よりも大まかなイメージが重要だと思うので、用語の定義を代数の式で表すよりも、できる限りわかりやすい文章で自分なりに記述してみました。ギリシャ文字の羅列なんていきなり見てもクリプトグラフィーよ。

互換
数と数、文字と文字の位置を交換すること。

偶奇(パリティ)
偶数か奇数かという意味。パリティーピーポー。

奇置換
互換の回数が奇数回。

偶置換
互換の回数が偶数回。

対称群(シンメトリックグループ)
位置や順番を並び替える操作を元とする群のこと。前回の例題のやつ。

絶対解けないケンちゃんパズル
ルービックキューブや、ケンちゃんラーメン新発売のパズルも対称群である。
あの手のスライドパズル(マスが4×4のものを15パズルという)はかつて外国でサム・ロイドというパズル職人がこんな感じの問題を作って1000ドルの賞金を懸けたことがある。

ケンちゃんラーメン.jpg

この状態から1~15を並び直せ、つまり15と14を置換しろっていう問題なんだけど、結論から言って、このパズルは絶対解けない。
これを解くには①15と14だけを並び変えて、さらに②空きマスの位置をそのままにしなければならないが、①の互換は奇数回、②の互換は偶数回行わないといけないので、どうやっても同時にできないのである。
空きマスの位置をそのままにするのがなんで偶数回の互換なのかというと、結局数と数とを交換するには空きマスをスライドさせなければならず、もとの位置に戻すには行きと帰りで往復(×2)しなくてはならないから。

交代群(オルタネーティンググループ)
対称群Sの偶置換に当たる元全てで構成される部分群のこと。
ケンちゃんラーメンでわかったように位置をキープするの(恒等置換ι)も偶置換なので交代群Aの元になる。
また、置換は偶数回と奇数回の二種類あるので、置換の合計nのちょうど半分が交代群の元の数となる。ちなみに奇置換のグループは恒等置換ができないので単位元を持たず、そのため群の公理をクリアできず群とならない。
さらに、交代群のすべての元は、対称群の任意の元に作用させることができ、その順序についても左から作用させても右から作用させても演算結果がまったく変わらないため、交代群は対称群の正規部分群であることがわかる。

例題
具体的に4次の対称群S4の交代群の元を考えてみる。
4次というのは文字や数字が4つ並んでいるということなので、その置換のパターンは4×3×2×1で24通り。
このうち半分が偶置換なので、交代群の元の数は以下の12個。
①[1234]→[1234](ι)
②[1234]→[2134]→[3124](123)
③[1234]→[3214]→[2314](132)
④[1234]→[2134]→[4132](124)
⑤[1234]→[4231]→[2431](142)
⑥[1234]→[3214]→[4213](134)
⑦[1234]→[4231]→[3241](143)
⑧[1234]→[1324]→[1423](234)
⑨[1234]→[1432]→[1342](243)
⑩[1234]→[2134]→[2143](12)、(34)
⑪[1234]→[3214]→[3412](13)、(24)
⑫[1234]→[4231]→[4321](14)、(23)

巡回群(サイクリックグループ)
一種類の元から生成される群。
例えば元Aからできる巡回群Cn=〈A〉は
{A-n…A-3、A-2、A-1、e、A1、A2、A3…An}
となる。
ここで巡回群の任意の二つの元をX、Yとすると
X=Am、Y=An(m、nは整数)
となるので
X・Y=Am・An=Am+n・・・①
Y・X=An・Am=Am+n・・・②
①、②より
X・Y=Y・X
したがって巡回群は交換法則が成り立つアーベル群。

有限巡回群
なぜ一種類の元から生成される群を巡回群と呼ぶのかイマイチよくわからなかったが、巡回群の元の数が有限個の場合、その理由がわかる。
元の数が決まっている場合は、際限なく演算を繰り返すとどこかで元の重複が起こるはずである。ラインナップの種類が決まっているガチャガチャやカードダスを無限に引けば遅かれ早かれダブりが出るようなものである。
重複が起きたときの演算回数をm、n(どちらも整数)とすると
Am=An
両辺にA-nをかけると
Am-n=An-n
Am-n=e
となり、Aをm-n回演算すると一周して単位元eに戻ってくることがわかる。
これが巡回群の由来・・・だと思う。

クラインの4元群
ちなみに4次の対称群S4の交代群の元のうち、単位元eと以下の3つの元でできる部分群をクラインの4元群という。ポークの名前ではない。
①[1234]→[1234](ι)
②[1234]→[2134]→[2143](12)、(34)
③[1234]→[3214]→[3412](13)、(24)
④[1234]→[4231]→[4321](14)、(23)

特徴として②~④の操作をそれぞれ2回行うと最初の順番に戻る。
例えば①→②や②→①は②と同じ。
同様に
①→③、③→①の操作は③の操作と同じ。
①→④、④→①の操作は④の操作と同じ。
※よってクラインの4元群は正規部分群。
また
②→③、③→②の操作は④の操作と一緒。
②→④、④→②の操作は③の操作と一緒。
③→④、④→③の操作は②の操作と一緒。
クラインの4元群は巡回群を除くと最も小さな群であり、構造主義のレヴィ=ストロースが『親族の基本構造』で使ったことでも有名。

写像
ふたつの別の群G1とG2の元がある関数Φ(ファイ)によってリンクしているとき、その関係を写像という。
写像であるためには二つの条件がある。
条件①:G1の任意の元は必ずG2の元のどれかに対応する。
条件②:G1の任意のひとつの元は、G2の複数の元には対応しない。
※ただし超ややこしいけどその逆パターンはアリ。

単射
G1→G2の写像の際にG1の元がG2のたったひとつの元に対応していることをいう。
つまり1対1の関係。

全射
G1に属するすべての元がG2に写像されること。

同型写像
単射と全射を同時に満たす写像。

準同型写像
ある関数ΦがG1の元X1、Y1に作用するとき
Φ(X1Y1)=Φ(X1)Φ(Y1)=X2Y2
となるものを準同型写像という。
準同型写像はG1の元をG2の元、G1の単位元をG2の単位元に、G1の逆元をG2の逆元にそれぞれ送ってくれるため、群の構造を維持したまま別の群に移すという便利な性質があることが分かる。

核(カーネル)
式ではkerと表記される。「カーネル」とはフライドチキンではなくドイツ語で「コア」のこと。
G1→G2の写像の際にG2の単位元e2に写像されるG1の部分集合を指す。
ちなみに正規部分群は準同型写像の核である。

例題1
G1とG2を群、
e1とe2をそれぞれ単位元、
Φ:G1→G2を群の準同型写像、
準同型写像の核をKer(Φ)={g∈G1 |Φ(g)=e2}とする。
このとき、もしKer(Φ)={ e1 } ならばΦは単射であることを示せ。

そもそもG1→G2の写像の際にG2の単位元e2に写像されるG1の部分集合が核なので、G1の核がe1ならe1→e2なので、Φは単射。

例題2
Gをアーベル群、kを正の整数とするとき、次の写像Φは群の準同型写像であることを示せ。Φ:G→G1  Φ(g)=g^k

Φ(g)=g^k(kは整数)
Φ(g′)=g^l(lは整数)とすると
Φ(gg′)=g^(k+l)=g^k g^l=Φ(g)Φ(g′)
よって群の準同型写像である。

例題3
G1とG2を群、
e1とe2をそれぞれ単位元、
Φ:G1→G2を群の準同型写像、
準同型写像の核をKer(Φ)={g∈G1 |Φ(g)=e2}とする。
このとき、Ker(Φ)はG1の正規部分群であることを示せ。

まず、準同型写像ΦはG1の単位元をG2の単位元に移すので
Φ(e1)=e2
よってe1は準同型写像の核Ker(Φ)
e1∈Ker(Φ)・・・①(単位元がある)
と表せる。

X、YをKer(Φ)の任意の元とすると
G2の単位元e2に写像されるので
Φ(X)=Φ(Y)=e2
よって
Φ(XY)=Φ(X)Φ(Y)=e2e2
単位元同士を演算しても単位元のままなので
e2e2=e2
よって
XY∈Ker(Φ)・・・②(演算がとじる=ある群に属する元同士の演算結果もその群の元)

また、XをKer(Φ)の任意の元とすると
Φ(X)=e2なので
その逆元も
Φ(X-1)=e2^(-1)=e2
よって
X-1∈Ker(Φ)・・・③(逆元がある)

①~③よりKer(Φ)はG1の部分群の条件をクリアーする。

さらに、XをKer(Φ)の任意の元、gをG1の任意の元とすると
Φ(g X g-1)=Φ(g)Φ(X)Φ(g-1)
※Φ(X)=e2より
Φ(g)Φ(X)Φ(g-1)=Φ(g) e2 Φ(g-1)=Φ(g)Φ(g-1)=e2
よって、(gX g-1)∈Ker(Φ)

以上から、Ker(Φ)はG1の正規部分群である。

例題4
G1G2を群
Φ:G1→G2を群の準同型写像
核の写像先の値域(イミッジ)をIm(Φ)={Φ(g)|g∈G1}⊂G2
とする。
このときIm(Φ)はG2の部分群であることを示せ。

Φ(g)、Φ(g′)∈Im(Φ)とする。
Φ(g)Φ(g′)^-1=Φ(gg′^-1)∈Im(Φ)
よってIm(Φ)はG2の部分群である。
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