『80日間宇宙一周 From Earth with Love』脚本⑫

ライトのピット。
TIAのフレミングもいる。
ミグに挨拶しようとするフレミング「私はTIAの・・・」
ゲオルグ「挨拶はいい。説明してやれ」
会場の見取り図を広げるフレミング「脱出ポッドの微弱な信号をこの会場でキャッチした。
つまりこの会場のどこかにウェイドとヴェルヌはいる・・・」
ミグ「なぜレース会場に・・・」
フレミング「ライトへの復讐だ・・・!
彼女は自分を刑務所に入れたライトに残酷な死を与えようとしている!」
ミグ「でもテロ計画の情報をライトにリークしたのは彼女自身じゃ・・・」
フレミング「彼女は彼に一緒に逃げて欲しかったとしたら・・・?」
ミグ「え・・・?」
フレミング「ヴェルヌは幼い頃からライトに好意を抱いていたらしい。
しかしライトは彼女を相手にすることもなく、警察に突き出してしまった・・・」
ゲオルグ「女の恨みは恐ろしいからな・・・」
フレミング「それに彼女は宇宙一知恵が回る・・・」
ミグ「しかし彼女はライトにどんな復讐を・・・」
ゲオルグ「それはこの公爵閣下が説明してくれる。」
テーブルに自然科学の雑誌や図鑑、論文を置くルヴェリエ。
ルヴェリエ「イルミナ・ヴェルヌ博士の論文を読んだことがあるんです。」
ページをめくるルヴェリエ
「これです・・・」
論文にはとある微生物の顕微鏡写真が載っている。



観客席
イルミナ「私は知らなかった・・・この小さな世界は私だけのものだと思っていたから・・・
でも・・・そうじゃなかった・・・」
イワン「キミはその顕微鏡で・・・一体どんな世界を覗いてしまったんだ?」
イルミナ「ジオメトリカルホウサンチュウ・・・」
イワン「ジオメトリカルホウサンチュウ・・・?」
イルミナ「私が見つけた、宇宙でもっとも神に近い生き物・・・
オリハルコンの結晶で出来ていて、熱エネルギーを瞬時に代謝と自己増殖に用いてしまうんです。
一切の老廃物もなし。エネルギー変換効率は100%。」
イワン「だからあの時、ピストルを撃ったスタッフが結晶化して殺されたんだ・・・
・・・つまりそれは超小型の反応炉みたいなものじゃないか、バイオテロにはもってこいだ」
イルミナ「どれくらいの熱で反応するかは種類によって決まっているんですが、遺伝子操作を施せば太陽の中心温度にも、人間の体温を好むようにも作り替えられる・・・」
イワン「なんて恐ろしいものをキミは作り出してくれたんだ・・・」
イルミナ「作ったのは私じゃありません。もともと太陽系にいた生物です。
私はただそれを研究しただけ・・・」
イワン「だが、結果的にキミはそれをテロリストに流してしまったことになるんだぞ。
人類を滅ぼしかねない神の力を・・・」
イルミナ「知らなかったんです・・・この技術は平和利用されると思っていたから・・・」
イワン「・・・ライトにもそう言えるのか?」
イルミナ「・・・・・・」



ピット
ミグ「熱エネルギーをオリハルコンの結晶に変える生物・・・」
ゲオルグ「知ってるのか?」
ミグ「い、いえ・・・」
ルヴェリエ「つまりこの生物は熱を与えれば、与えた分だけ増殖してしまうんです。
強力な熱を与えたら、その暴走はもう止められない・・・」
ミグ「でもこの生物兵器は地球連邦がすべて差し押さえたんじゃ・・・」
フレミング「盗まれたんだ・・・」
ゲオルグ「なんだって!?」
フレミング「サーペンタリウスに・・・
それで我々TIAはサーペンタリウスを急遽リストのトップにおいて、マークしていたんだ」
フレミングに殴りかかるゲオルグ「揃いも揃って貴様ら地球連邦はバカばかりかー!!
ゲオルグを取り押さえるミグ「け・・・警部落ち着いてください・・・!
ルヴェリエ「今この人を責めてもどうにもならないですよ・・・!」
息を整えるフレミング「ヴェルヌは刑務所でピカールにライトへの復讐を持ちかけられたに違いない・・・ヴェルヌはライトの最大の晴れ舞台で復讐を完遂させる気だ・・・」
ミグ「最大の晴れ舞台・・・」

ハッとするミグ「もしかして・・・いや馬鹿な・・・」
ゲオルグ「なんだ?」
ミグ「太陽・・・
このレースの折り返し点は太陽だった・・・!」
ゲオルグ「太陽なんかにあの生物兵器を撒かれたら・・・!」
ルヴェリエ「太陽の熱エネルギーはすべて物質に置き換わって・・・」
ミグ「太陽系は滅びてしまう・・・!!
つまり生物兵器が仕掛けられた場所は・・・
ライトアロー号・・・リニアエクシードエンジン・・・!?」
フレミング「ヴェルヌはライト自身をテロの実行犯にするつもりなのか・・・!」
ゲオルグ「すぐにレースを中止させろ!」
ミグ「で・・・でもあのエンジンに生物兵器があると決まったわけじゃ・・・」
ゲオルグ「ああ!?お前何言ってる!これは太陽系の危機なんだぞ!!
とっととライトのバカに運動会は終わりだって言っとけ!!」
ミグ「・・・・・・。」
ゲオルグ「フレミング、あんたらはすぐに会場の二人を見つけ出せ!
生物兵器の弱点を聞き出すんだ!!」
TIAのエージェントたちと共にかけていくフレミング。
無線を持って立ち尽くすミグ。
ゲオルグ「なにをぼさっとしてるチオルコフスキー!お前がやらないならオレから言う!
貸せ!!」
ミグ「いえ・・・私から言います・・・」
ルヴェリエ「ミグさん・・・」



太陽へ一直線に進んでいくレーサーたち。
ライトアロー号のコックピット
ミグ「・・・ライト、聞こえるか?」
ライト「ああ、ミグ。どうした?」
ミグ「今から私が言うことを信じて聞いて欲しい・・・」
ライト「ええよ。何?」
ミグ「レースを中止してくれ」
ライト「またかい!!!
あんな・・・今度はどこに爆弾があんねん!」
ミグ「キミの機体だ・・・!それも今度は太陽系を滅ぼしかねない生物兵器だ!」
ライト「生物兵器ってなんやねん・・・」
ミグ「それは・・・その・・・キミの・・・」
ライト「イルミナか」
ミグ「え・・・?」
ライト「天王星のこと誰かに聞いたんやな・・・
言っとくけどイルミナはテロリストなんかちゃうぞ。
生き物を愛する優しい女の子や!」
ミグ「しかしキミを恨んでた・・・!キミは・・・
キミは・・・彼女の遠くへ行ってしまったから・・・」
ライト「・・・・・・。」
ミグ「その生物兵器が太陽の周りでばらまかれたら、太陽の熱は全てクリスタルになってしまうんだ。頼むライト・・・もう一度私を信じてくれ・・・!」
ライト「・・・それは直接イルミナに確認したんか・・・?」
ミグ「え・・・?」
ライト「オレは信じへんぞ!
イルミナはそんなことするような子じゃ絶対にない!!」
ミグ「だが・・・!!」
ライト「今度はオレを信じろミグ!!」
ミグ「ライト・・・」
無線が切れる。
「電波射程圏外」の表示
ミグ「ダメだ・・・」
ルヴェリエ「そんな・・・!」



火星の宇宙サミットの会場――ウェルズ議事堂。
会場の前に高級車が止まる。
車から降りるアタッシュケースを持ったスーツの男。
銃を持った警備員「失礼ですが・・・」
ピカール「太陽系科学学会のトリエステ・ピカールと申します。
惑星連合の皆さんに至急お伝えしたいことがありまして参りました。」
警備員「しかし名簿にない方を通すわけには・・・」
ピカール「宇宙温暖化問題ですか・・・けっこう。
しかし、そんなくだらない政治的駆け引きよりも、もっと深刻な危機について彼らには考えてもらわねばなりません。」
警備員「え?」
警備員に銃を突きつけるナッシュ・ストライカー軍曹「オレたちの宇宙は本当に滅びるんだよ」
異変に気づき集まってくる会場警備の警察や軍隊。
銃を突きつける特殊部隊「そこの二人!おとなしく手を上げろ!!」
ピカール「軍曹、ここは頼みます。」
ナッシュ「わかった。」
会場に入っていこうとするピカール
特殊部隊「動くな!!」
ナッシュ「撃つのか・・・悪いことは言わん。やめといたほうがいいぜ?」
特殊部隊「勝てないぞ!こっちは大勢だ!!」
ナッシュ「じゃあやってみろ」
特殊部隊が発砲する。
その瞬間彼らの武器が結晶化していく
「なんだ・・・!!?」
「撃て!!撃ちまくれ!!!」
集中砲火を浴びるが、すべての銃弾がナッシュに届く前にオリハルコンになってしまう。

くるりと向きを変え扉の方へ歩いていくナッシュ。
ナッシュの背後には結晶と化した警察、特殊部隊・・・そして戦車や装甲車が、まるで時間が凍ったかのように並んでいる。



宇宙サミットの会場に入ってくるピカール
円卓には各惑星の首脳が席についている。
スタッフ「なんなんだ君たちは!!」
アタッシュケースを持ち上げるピカール「宇宙の未来について話に来ました」
秘書官たち「ふざけるな!!」
ナッシュ「ふざけてるのはてめえらの方だろ。誰ひとり宇宙の未来なんか考えちゃいねえ。
ただの利権じゃねえか」
秘書官「なんだと・・・キミ達、口の利き方に気をつけたまえ・・・!」
ナッシュ「お前と話したいわけじゃねえよ。オレたちが用があるのはそっちの・・・」
ンゴロ・アルベド議長(木星のトップ)「わかった・・・聞こう・・・」
ナッシュ「話がわかる政治家もいるな。」
席を持ってきて勝手に座るピカール「では失礼して、会議に参加させてもらいますよ・・・」
アラゴ国王(海王星のトップ)「またあんたらかよ・・・俺たちを人質にして今度は何をしたいんだ?」
ピカール「いえ・・・我々の人質はあなたがたではありません・・・」
アタッシュケースを開けるピカール。
ケースの中には何かの起動スイッチが入っている。
ピカール「我々の人質は太陽系全土です。あなたはお分かりですよね?
・・・地球連邦大統領、ハワード・センチネル閣下・・・」
ハワード・センチネル大統領「・・・・・・。」

『80日間宇宙一周 From Earth with Love』脚本⑪

惑星連合放送の中継衛星
オフィスで惑星連合放送の役員会議が開かれている。
ハル・ケプラーが役員たちにプレゼンをしている。
ケプラー「いいか、我々が忘れちゃいけないのは、報道は真実じゃない、娯楽だってことだ。
それを間に受けて真剣に議論をしている救いようのないバカがいるからオレたちはメシが食える。
勘違いするな、オレたちにとって重要なのは、その情報が真実かどうかじゃない。
“視聴者が見たいものを見せてやる”ってことだ。
いかにして無知で、無教養で、忍耐力のない、移り気な視聴者の心をつかむかだ。
虚構こそ今や真実(リアル)なのだ」

役員会議が終わる。
イワン「連中いい顔をしていなかったぞハル」
振り返るケプラー「ふん偽善者共が・・・
で?今日はどうした?なにか面白いネタでも持ってきたのか?」
イワン「その逆だ・・・どこか二人で話せないか?」
ケプラー「オフレコか?」
イワン「ああ。ここに来たことはTIAには知らせないで欲しい。
最近上の連中がオレのやり方が気に入らないらしくてな・・・
情報管理もずさんだし、足引っ張ってばっかりなんだよ」
ケプラー「わかった。オレのオフィスでいいか?」
イワン「すまない」

ケプラーのオフィス
豪華なソファーに座るケプラー
ケプラー「サーペンタリウスに関しては我々は実態がある組織じゃないと踏んでいる。
惑星連合を裏で操っているのがサーペンタリウスとか・・・その手の陰謀話はいくらでもあるが、それは逆に言えば、いくらでも作れるってことだ。
これまでオレたちがネタにしてきた多くの秘密結社と同じく、結局は絵にかいた餅なのさ・・・」
ケプラーにウォッカを注いでもらうイワン「それは、テレビ屋の勘か?」
ケプラー「いや長年の経験に基づく確信だよ・・・
人の人気と一緒だイワン。
何か重要なものがあると思って蓋を開けたら中身は空っぽなんてことはよくあるもんだ。
思い込みってやつはそれだけ強大だ。
世界を動かしているのは案外そんなものなのかもしれない・・・」
イワン「本当に?本当にそれだけなのか?
我々の世界はもっと具体的な危機に瀕しているとは考えられないか?」
ケプラー「なるほど・・・確かに恐怖は金になる。
小惑星の衝突、ブラックホールの接近、太陽フレア・・・ガンマ線バーストなんてのもあったな。
どいつも結局は世界の滅亡には役不足だったが・・・そんなのはどうでもいい。
重要なのはそういった恐怖の存在は、大衆が自分自身で作り上げているってことだ」
イワン「小惑星は何度も衝突しているぞケプラー。実際に海王星では・・・」
ケプラー「ああ、そのとおり。だが先月の木星の大地震でかき消されたな。
今回の宇宙温暖化はさらにいい。
つかみどころがない上に、業界団体という視聴者が叩きやすい敵がいるからな。
どんなに被害が甚大だろうと自然災害には“敵”はいない・・・」
イワン「・・・そういえば宇宙サミットはいつだ?」
ウォッカを飲むケプラー「来週だ。コズミックグランプリの最終戦と同じ日さ。」
グラスを置いて立ち上がるイワン「・・・ありがとう」
ケプラー「あんたも気をつけろよ。情報は利用するためにあるんだぜ」
イワン「肝に命じる」



レース会場
実況「いよいよコズミックグランプリの第5戦がはじまります!
初戦で最下位だったライト・ケレリトゥスが驚異の追い上げを見せた本レース、
ついにルナ・マイヤースとライト・ケレリトゥスの一騎打ちになりそうです!
オッズはマイヤースが1番人気、ライトは3番人気です!
最終戦はコースが大幅に変わるんですよね。一体どんなレースなんでしょう?」
解説「はい、火星から太陽までを回る星間コースになっています。
その距離は8億キロ。太陽の引力を利用してうまくスイングバイできるかが勝負の鍵となりそうです。」


満員の観客席
飲み物を持ってくるイワン「ライトは勝ち進んだな」
楽しそうなイルミナ「ええ・・・ライトくんはすごい・・・」
イワン「ああ、あいつはすごいやつだ・・・(飲み物を渡す)」
イルミナ「ありがとうございます」
席に着くイワン「どうやら尾けられてはないようだ・・・」
イルミナ「いつもそうやって後ろを気にして生きているんですか?」
イワン「弁護士も敵が多いのさ・・・」
イルミナ「大変な職業なんですね・・・」
イワン「私も宇宙を飛び回り、いろいろな人物に会って、いろいろなものを見てきた・・・
いや・・・見すぎたのかもしれない・・・」
イルミナ「・・・・・・。」
コインを取り出すイワン「・・・だから、ほとほとこの仕事が嫌になってね、
コインに自分の人生を委ねることにしたのさ・・・」
悲しそうにイワンのコインを見つめるイルミナ
イワン「・・・どうだ賭けをしないか?」
イルミナ「え?」
イワン「このレースで誰が優勝するか」
微笑むイルミナ「私はライトくんに全額ベットしますよ」
イワン「君の肝っ玉には負けるな。」



ライトのピット
ライトとクルーとミュウが打ち合わせをしている。
クルーチーフ「いいかライト。このレースで一着になれば優勝できる。
お前をさんざバカにした連中に目にもの見せてやれ」
ライト「おう、任せとけ」
ミュウ「それに・・・彼女に優勝カップをプレゼントするんでしょ」
ライト「ああ・・・」
ピットにミグを連れてくるミュウ。
ミグ「ライト・・・」
ライト「ミグ、行ってくるからな」
ミグ「待ってるから・・・」

ライトアロー号のコックピットに乗り込むライト。
それをピットから見つめるミグ。



レースがスタートする。
エンジンを起動させるライトたちパイロット。
各機が太陽を目指して勢いよく飛んでいく。
大歓声の観客席
身を乗り出すイルミナ「すごい、すごい・・・!
私一度でいいからレースを生で見たかったんです」
イワン「キミのライトがトップだぞ。これは賭けはキミの勝ちかな?」
笑うイルミナ

イルミナ「・・・今でも私を無罪だと思いますか?」
コインを指で弄るイワン「ああ・・・それにキミはもう死んだ・・・
外の世界で自由に生きればいいさ・・・」
複雑な表情のイルミナ「自由・・・」
イワン「・・・」
イルミナ「そういえば、ライトくんはいつも自由だったな・・・」
イワン「ライトとは・・・?」
イルミナ「幼馴染だったんです。
・・・幼い頃は二人ともおとなしい子供で、よく一緒に遊んでいました。
今では想像もつかないと思いますけど、ライトくんままごとしてたんですよ?」
イワン「はっはっは・・・」
イルミナ「でも・・・私と違って、あの人はどんどん世界を広げていった・・・
気づいたらライトくんはずっと遠くへ行ってて・・・
私に残ったのは・・・私だけの・・・小さな世界」
イワン「・・・・・・。」
いじらしく微笑むイルミナ「知っていますか?宇宙は私たちのごく身近なところにもあるんですよ?
顕微鏡と望遠鏡・・・覗いているものは違うけれど・・・
そこに広がる世界は間違いなく宇宙なんです。」



宇宙ロケットが次々に火星の軌道を離れていく・・・
ピットでロケットを見つめるミグ。

係員「ちょっとここは関係者以外立ち入り禁止ですよ!!」
ゲオルグ「うるせえ!どけ!!」
係員を蹴散らしライトのピットに入ってくるゲオルグ。
ミグ「ゲオルグ警部!?」
ゲオルグ「ミグ!?ライトはどこだ!!」
ミグ「もうレースは始まっちゃいましたよ・・・」
ゲオルグ「くそ!!」
アリエルとルヴェリエも入ってくる。
ルヴェリエ「大変なんです!」
ミグ「ど・・・どうしたんですか??」
ゲオルグ「トランキュリティからヴェルヌが脱獄した!
ウェイドを人質にこの星に逃げたらしい!」
ミグ「え・・・!?」

『80日間宇宙一周 From Earth with Love』脚本⑩

月面
トランキュリティ刑務所があった場所はクレーターになっている。
クレーターの上空を旋回する宇宙船。
イワン「あそこだ・・・」
宇宙船のアームでクレーターから球体を掘り出しコンテナに回収する。
フレミング「怪物は核爆発でも焼けなかったわけか・・・」
イワン「彼女自身が内側からさらに球体を強化したんだろう。
それと・・・ボイスレコーダー役に立ったよ」
フレミング「TIAお手製の超小型ジャミング装置だ。監視カメラを狂わすくらいわけはない」

宇宙船の格納部
コンテナにある球体
球体に近づくフレミングとイワン。
フレミング「しかしこれは危険な賭けだったんじゃないのか?」
イワン「まあね・・・」
フレミング「ったく、なんでもかんでもコインで決めやがって・・・
さて・・・核でも破壊できないこのボールをどうやって割る?」
ガラスが割れるような音
「!」
後ろの球体からイルミナが出てくる。桎梏がすべて外れている。
イルミナ「これはガラスじゃないんです。
オリハルコンの結晶・・・私の作品・・・」
イワン「出る気になればいつでも出られたんだな・・・」
首を振るイルミナ「いいえ・・・例え球体から出ても、核ミサイルで焼かれてました・・・」
イワン「だから早く死刑に・・・」
フレミング「はめられた・・・!」
イルミナに銃を向けるTIAのスタッフ。
イルミナ「私を救ってくれるんじゃなかったんですか?弁護士さん・・・」
イワン「やめろ撃つな!」
スタッフの一人がイルミナに向かって発砲する。
その刹那、ピストルの熱エネルギーが一瞬のうちにオリハルコンの結晶に変わってしまう。
ピストルの銃口からどんどん結晶に変えられていくTIAのスタッフ
悲鳴を上げるスタッフ「ぎゃあああ!」
結晶になって砕け散ってしまう。
イルミナ「かわいそうに」
フレミング「なんてこった・・・」
イワン「球体が割れて彼女の作った微生物がばらまかれたんだ・・・」
ゾッとする笑みを浮かべるイルミナ「それではお話の続きをしましょう、ウェイドさん。
私とあなた・・・ふたりっきりで・・・」
フレミングたちに目をやるイワン「・・・頼む。」
フレミング「お前・・・殺されるぞ・・・」
イワン「女性には何度か殺されかけているんでね・・・」

宇宙船からイワンとイルミナが乗った小型ポットが発進する。

宇宙船のコックピット。
フレミング「追跡しろ」
オペレーター「TIAの工作船にはステルス機能がついています。
向こうからの信号がなければ追えません・・・!」
コンソールを叩くフレミング「くそったれ!!」



小型ポッド
イルミナ「助けてくれてありがとうございます・・・」
ポッドを操縦するイワン「・・・で、どこへ連れてって欲しいんだ・・・?」
イルミナ「火星のコズミックグランプリの会場へ・・・」
イワン「一体何を企んでいる?キミの目的は何だ?」
微笑むイルミナ「一度でいいからライトくんのレースが見たかった・・・それじゃダメですか?」



火星
レッドシグナル空軍基地
滑走路にリンドバーグ号が運び込まれる。
油まみれになってリンドバーグ号にエンジンを取り付けるゴダードとライト。
その様子を頬杖をついて見つめるミグ。
青い空と太陽。ゆっくりとした時間が過ぎていく。

ダグ「面白いことやってるじゃないかヘルマン」
振り返るライト「あ、来てくれたんか!」
リンドバーグ号に二人の老人が近づいてくる。
クーラーボックスからビールを取り出し放り投げるダグ・リリエンタール「ほれ冷えてるぞ」
ビールを受け取るゴダード「早いじゃないか」
アロハシャツのダグ「新しいおもちゃがあるって聞いたら、いてもたってもいられなくてな。
どのみち息子の家じゃ居場所がないよ、ようライト」
翼から降りてくるライト「ダグ・・・!
超光速ロケットの構造的な計算ができるのは宇宙でもあんたしかいない」
ニヤリとするダグ「オレもそう思う。で、そこの美人は?」
ミグ「は・・・はじめまして、ミグ・チオルコフスキーです。よろしく・・・」
ダグ「リリエンタールだ、よろしく。おっぱい触っていい?」
ライト「お前もか!!」
ロン・クーロン「わたしはロン・クーロン。おっぱい触ってもらっていい?」
ライト「帰れ!!」

滑走路のアスファルトの上にチョークで数式を書くダグ。
ダグ「25年前にオレたちが作った“Xー零”の原理は量子力学の応用だった。
つまり、物質を原子核の密度にまで圧縮させ、それによって発生する衝撃波を利用して光速の3分の2まで速度を出すことに成功したわけだ」
ライト「イエガーがアルファケンタウルスまで行った伝説の機体やな」
勢いよく数式を書いていくダグ「だが今回のエンジンには全く違う理論を応用させる。
具体的に説明しよう。光速度不変が成り立つのはあくまで4次元の話であって、それは特殊相対論を成立させるための前提に過ぎない。
現在の物理学は光を基準に理論を構築しているから、当然光の速さは越えられないわけだ。
しかし・・・収縮してしまっている残り9つの次元を広げれば光だって超えられる。
ここまではわかるな?」
頷くライトとゴダードとロン。ミグだけはさっぱり理解できない。



滑走路
豪音と共にエンジンに火がつく。
コックピットのライト「どうや?」
機体から離れたテント
コンピューターシミュレーションを確認しながら首を振るゴダート
ヘッドセットを外す「まだまだだな・・・もう一度調整してみるぞ」
ライト「わかった」

格納バンカーにはリンドバーグ号のコックピットから取り外された電子機器のパーツが転がっている。
作業台で電気系統をつないでいくロン
ロン「しかしあの頃の地球連邦軍は羽振りが良かったなあ・・・」
後ろのホワイトボードで計算式を書いているダグ「いうな、クーロン」

バンカーに入ってくるミグ「お疲れ様です」
ロン「ああ、チオルコフスキーさん・・・」
ミグ「なにをしているんですか?」
ロン「航法システムの回路をつないでおるのです・・・
わたしは電気屋でね・・・ライトくんには昔からひいきにしてもらってます。」
作業台のパーツに目をやるロン。
ロン「さて、宇宙ロケットの進歩を影で支えたのは、このアビオニクスであります。
超高速で宇宙を飛ぶロケットの速度は、人間の感覚では処理しきれない。
従いまして、電子的な演算でパイロットにもわかるように尺度を落とし込む(ダウンサイジングする)わけであって・・・」
ダグ「よせよクーロン、彼女がキョトンとしてるじゃねえか。
もっとわかるように言わねえと、女にモテないぞ」
ロン「じゃ、任せる。」
ダグ「あんたの星にマトリョーシカっておもちゃがあるだろ。つまりはあれさ。
ショベルカーのアームで砂粒一つはつまめないが、徐々にアームのサイズを小さくしていけば、砂粒を一つずつつまんで移動させることだってできるよな?
ようはそういうことだ。天文学的なスケールのものを人間のサイズに落とし込む、そしてその逆をも可能にするのがクーロンの仕事さ。」
ミグ「ありがとう、よくわかりました・・・」
ダグ「まあ、普段はハイビジョンテレビ売ってる電気屋だがね」
ロン「うるさいぞ」




滑走路に改造されたリンドバーグ号・・・ライトアロー号が置かれている。
ライトアロー号を見上げる一同。
ライトに最後の確認をするゴダード「まずは光速の1000分の1からだ。
レースごとにリニアエクシードエンジンの様子を見て、徐々に最高速度を上げていけ。」
ライト「マッハ900ってところか・・・わかった」
ミグ「それでレースに勝てるんですか?」
ダグ「ははは!光速度なんて出したら、たった4時間であんたの星を通り過ぎちまうよ!」
ロン「それだけじゃありません。最高出力でこの機体は次元の壁をも破ってしまう・・・」
ゴダード「それは最終戦の切り札にとっておけよライト。
文字通り、光(ライト)になっちまうんだからな。」
ライト「わかっとる・・・」
肩に手を乗せるゴダード「じゃ、レース頑張れよ。」
ライト「ああ、ありがとな師匠」
ダグ「幸運をな」
ミグ「あれ?帰っちゃうんですか??」
ゴダード「オレたちは作るのが好きなんだ。飛ばすのはどうでもいいよ」
ダグ「いや~しかし趣味でプロを超えるってのは気持ちがいいな!」
ロン「いつもの店に行きましょう」
ロンの電気店のバンに乗りあっさり引き上げていく三人
笑うミグ「おかしな人たち・・・」
ライトアロー号に乗り込むライト「さ、ミグ。レース会場に行くで」
ミグに手を差し伸べるライト
ミグ「うん・・・」

『80日間宇宙一周 From Earth with Love』脚本⑨

ブース
イルミナ「・・・私はもう死刑が確定しています。
弁護するにしても手遅れですよ、ウェイドさん」
書類をめくるイワン「死刑はあさってだったな・・・
ではその前に、キミのことをいろいろ教えてくれないか?
生い立ちからひとつずつ丁寧に・・・」
イルミナ「二日後に死ぬ人間の話を聞いて一体何の意味が・・・」
イワン「私はいろいろなところに顔がきいてね。あなたの証言によっては力になれるかもしれない。
つまり死刑を取り下げられる」
イルミナ「司法取引ですか?」
イワン「そうだ」
首を振るイルミナ「・・・それは不可能ですよ弁護士さん・・・私の運命は決まってしまった」
イワン「・・・そんなことないだろ。
未来は誰にもわからない。コインを投げるまで・・・」
イルミナ「・・・ひとつだけそれを知っている存在がいますよ」
イワン「・・・神か?」
イルミナ「宇宙そのものです・・・星々はすべてを記録している・・・過去も、そして未来も・・・」
笑みを浮かべるイワン「科学者らしい答えだな」
イルミナ「・・・私がここで死ぬのは宇宙が決めた運命なんですよ。」
イワン「いや、宇宙の未来のためにキミは生きるべきだ。
キミはサーペンタリウスに利用されただけなんだろう?
だから組織を裏切り、かつての旧友にテロを止めさせた・・・」
イルミナ「え・・・?」
イワン「・・・好きだったんだろう?ライト・ケレリトゥスのことが・・・」
表情が変わるイルミナ「ライトくんを知ってるんですか?」
イワン「ああ、この前会ってきた。いいやつだ」
嬉しそうなイルミナ「そうですか・・・ライトくんは元気ですか?」
イワン「それが火星のレース中にちょっとした事故を起こして怪我をした。
いや、怪我自体は大したことはないんだが・・・
その事故をしくんだのがサーペンタリウスだったんだ。」
イルミナ「・・・そんな・・・。」
イワン「教えてくれないか?君が知っていることを」
録音機をテーブルに乗せるイワン。
録音機を見るイルミナ。
イルミナ「・・・サーペンタリウスはただの社交クラブですよ・・・
テロはテロリストが勝手に実行しているだけです・・・」
イワン「では、キミが生物兵器開発に手を貸した理由はなんだ?」
うつむくイルミナ「・・・・・・。」
イワン「キミを救いたいんだ。
生きてライト君に会わせてやる」
イルミナ「・・・本当ですか??」
イワン「ああ、約束する」
イルミナ「・・・・・・。」
悲しげに首を振るイルミナ「でも・・・この球体からは絶対に出られない・・・
何があっても破壊できません・・・」
イワン「救う手段はある」
イルミナ「もういいんです・・・
すぐにでも死刑にしてください・・・準備は出来てますから・・・」
すべてを悟ったかのような目をするイルミナ。
その目を見つめるイワン。



刑務所に警報が鳴り響く
ブースから出てくるイワン「来てくれ!彼女がいなくなった!!」
看守「そんな馬鹿な、あの球体からは絶対出られない・・・!」
すべての監視カメラの映像をチェックする。
看守「どこかに写っているはずだ・・・!」
警備スタッフ「いません!」
看守「もう一度よく探せ!熱源探知は!?」
スタッフ「それも反応なし!消えました!」
イワン「博士が姿を消した以上、あの球体に直接入って確認しないと・・・」
看守「いや、あの球体には誰も入れない。
こうなったらマニュアル通り、ヴェルヌの死刑を早めよう」
マイクを掴む看守
看守「全職員に告ぐ!ヴェルヌ区に異常発生!30分後にこの施設を核焼却する!!
直ちに避難を開始しろ!」
自爆スイッチを押す職員

月面上空のミサイル衛星が動き出す。

エレベーターに乗り込む職員たち
ブースの中に置かれたボイスレコーダー。
ブースに戻ってレコーダーを手に取るイワン。
レコーダを切って懐に入れる。
看守「なにしてるんですか!さああなたも早く逃げて!急いで!」
イワン「いや・・・忘れ物をしてね・・・」
イワンもエレベーターに押し込まれる
看守「これで最後だな!?」
エレベーターが閉じる。

誰もいない管制室。
監視カメラの映像が切り替わり・・・・・・球体の中のイルミナを映し出す。
悲しい目でカメラを見つめているイルミナ。



トランキュリティ刑務所のヘリポート
フレミングがイワンにTIAの宇宙船を回す。
フレミング「どうなった!?」
宇宙船に飛び乗るイワン「死刑執行だ!すぐに出してくれ!」
急いで離陸し、月から離れる宇宙船

静止衛星からミサイルが撃たれる。
核爆発で跡形もなく吹き飛ぶトランキュリティ刑務所

TIAの宇宙船
フレミング「なにか聞き出せたか?」
イワン「・・・いや・・・自分の運命はすでに決まっていると言っていた・・・」
月面で煌々と燃える核の炎を見つめるイワン



火星――昼。
青空。
閉鎖されたレッドシグナル空軍基地。
錆びたフェンスが開かない。
フェンスを蹴飛ばすライト。
ミグ「いいの!?」
広大な空軍基地を歩くライトとミグ。
滑走路には壊れた戦闘機や宇宙ロケットの機体がいくつも転がっている。
ミグ「男たちの夢の墓場って感じだな・・・」
ライト「一人だけ死にぞこないがおるんや。」

航空機の格納バンカーのシャッターの横に付けられたブザーを押す
インターホンから老人の声が聞こえる「帰れ」
ライト「・・・録音メッセージや」
ミグ「じゃあ留守?」

その時バンカーの奥の納屋が爆発して吹っ飛ぶ
ライト「ふせろ!!」
二人を衝撃波が襲う。
一機の宇宙ロケットが勢いよく飛んでいく
ミグ「なんだ!?」
上空を一直線に飛ぶロケット。
しかし速度を上げた途端翼がへし折れ、コントロールを失って落下し出す。
遠くの滑走路に墜落するロケット。
煙を吹くロケット
ミグ「ゴホゴホ・・・一体なんだったんだ・・・??」

格納バンカーの中にある粗末なオフィス
ホワイトボード、チラシ、机、壁・・・オフィスのそこらじゅうのものに数式や設計図が書かれていて、その全てに赤いバツがつけられている。
理系の変人の住処の異様な光景に落ち着かないミグ
コーヒーに酒を入れて出すゴダート「いや~すまない、すまない。怪我なかった?」
ライト「いきなりロケットで逃げるんやもん・・・どんなじいさんなんや」
ゴダード「てっきり借金取りかと・・・」
ライト「紹介するわ、オレの師匠の・・・」
ゴダード「ヘルマン。ヘルマン・ゴダードです。こちらの美しいお嬢さんは?」
ミグ「ミグ・チオルコフスキーです」
ゴダード「はじめまして。おっぱい触っていい?」
コーヒーを吹くライト「いきなり何てこと言い出すんや!」
ゴダード「とりあえず女性にはこう言っとくのがわしのモットーでな。
その・・・万が一ってのもあるし・・・この年になると、もう何回触れるかわからないからの」
ショックで絶句するミグ
ライト「なに考えとんねん・・・」
ゴダード「なんじゃ、そのために来たんじゃないのか・・・」
ライト「あんた頭おかしいんちゃうんか。
ここに来たのはあれや。前にここのみんなで作って頓挫した計画があったやろ。
あの設計図が欲しいんや」
ゴダード「ああ、プリンと醤油でガチのウニを作るマシン、バフンカイザーのことじゃな・・・」
ライト「ちゃう!超光速エンジンや!!」
ライトに小声で囁くミグ「ライト・・・この人大丈夫なのか・・・?」
ライト「バナナとマヨネーズでメロンは成功させた・・・信じろ。」
急に顔つきが変わるゴダード「なにくだらないこと言っておる。
超光速エンジンの実験はまだ続いとるぞ」
ライト「なんやって?」
立ち上がって壁のスイッチを押すゴダード。本棚が動き出す。
ゴダード「こっちだ。お前に見せたいものがある」

地下の秘密ラボラトリー
ランタンを持ちながら階段を下りるゴダード「軍は、超光速航行は相対性理論に反するとかなんとかぬかして資金を打ち切り、手を引きおったがな・・・
科学理論など人間が考えたルールに過ぎん。絶対不可能だと誰が決めた?」
部屋の電気を付ける
ラボの中央に、布をかぶった巨大なロケットエンジンが置かれている。
ゴダード「戦時中、軍の連中に持ってかれる前にここに隠したんじゃ」
ライト「シートをとっていいか・・・?」
ゴダード「ああ・・・」
布を取るライト。立派な恒星間エンジンが現れる。
ゴダード「リニアエクシードエンジンだ」
感動するライト「すげえ・・・」
ゴダード「あとちょっとのところで資金繰りに行き詰まってな・・・まだ未完成なのだ。
お前にやろう」
ライト「ええんか?」
ゴダード「こいつはお前に会うのをずっと待っていた・・・だからライト、お前が完成させろ」

『80日間宇宙一周 From Earth with Love』脚本⑧

警察署のオフィス
警官から二人に所持品が返される。
ミグの方を向くゲオルグ「余計なことしちまったかな、まあオレの供述がなければあんたは一生塀の中だったがな。で、ええとあんたがTIAの・・・」
イワン「イワン・ウェイドだ」
ゲオルグ「天王警察のゲオルグだ。サーペンタリウスがこっちで悪巧みしているという情報が入ってな、TIAと共同で捜査に当たれとよ。」
ゲオルグと握手するイワン「よろしく・・・そちらで何かわかっていることは?」
懐から写真を取り出すゲオルグ「イルミナ・ヴェルヌ博士は知ってるか?」
写真を受け取るイワン「人類最高のIQをもつ科学者・・・確か専門は生物学・・・」
ゲオルグ「微生物だ。数年前うちの星でサーペンタリウスによるバイオテロ事件があってな。
まあ幸い未遂に終わったんだが、その生物兵器を開発したのがヴェルヌだ。」
ミグ「もしかしてその事件って・・・」
ゲオルグ「ああ、ライトが解決した事件だよ・・・そういえば、なんであいつがこの事件をあっさり解決できたのか言ってなかったよな。ライトにタレコミがあったんだ」
ミグ「?」
ゲオルグ「ヴェルヌは地球時代のライトの幼馴染だ。
ヴェルヌがサーペンタリウスを裏切りライトに情報を漏らしたのさ。
その後ヴェルヌは生物兵器開発の罪で刑務所行き。」
ミグ「・・・・・・。」
イワン「彼女は脅されて兵器を作らされていたのかもしれないな・・・」
ゲオルグ「ヴェルヌの公判記録を読んだんだが、ろくな裁判もせず有罪が確定。
宇宙一厳重な刑務所、月面のトランキュリティにぶち込まれた。
どう思う?」
イワン「静かな海に沈められた人魚姫ってとこか・・・
よほど重要な情報を握っているんだろう、サーペンタリウスにとって・・・そして」
ゲオルグ「月を管轄する地球連邦にとってもな。
トランキュリティ刑務所に入れたのは蛇使い共からかくまうためでもあったんだろ」
イワン「例の生物兵器はどうなった?」
ゲオルグ「地球連邦がすべて差し押さえた。少なくとも天王星のものは全て。」
ミグ「それで・・・その人をどうするんですか?」
ゲオルグ「ああ・・・死刑が確定したんだ。執行は三日後。
そしてこれを見てくれ。先週のヴェルヌの面会者だ」
刑務所の監視カメラの写真を見せるゲオルグ
ミグ「ピカール卿・・・!」
イワン「トランキュリティに行っていたのか・・・」
ミグ「ピカール卿が裏で動いて、彼女を死刑に??」
イワン「いや、死刑になる前になにか大事な情報のやり取りをした可能性もある・・・」
ゲオルグ「ヴェルヌが開発した生物兵器は太陽系すら滅ぼしかねない代物だ。
言っとくが、これは大げさな表現じゃねえぞ。」
ミグ「じゃあ・・・もし、そんなものがまだどこかに残ってたとしたら・・・」
ゲオルグ「なんとしても奴らの企みを阻止しねえと。
ヴェルヌが死刑になったら、生物兵器の手がかりは消えちまう」
写真を見つめるイワン「・・・・・・。
・・・で、TIAは何をすればいいのかな?」
ゲオルグ「冗談はやめろ地球野郎。こちとら警察だ。法に反することはできねえんだよ。
オレの言ってる意味わかるよな?」
イワン「なるほど・・・ようくわかったよ。」
ゲオルグ「わかればいい。」
頷いて部屋から出ていくゲオルグ。

ミグの方に向き直るイワン「ミグお別れだ。次の任務なんでね・・・」
ミグ「いえ、私にも手伝わせてください。貿易商の仕事、興味があるんです」
イワン「ダメだ・・・トランキュリティは危険すぎる。」
ミグ「だからこそ力になりたいんです・・・」
首を振るイワン「キミにはもっと大事な任務があるだろ。」
ミグ「・・・・・・。」
イワン「彼のそばにいてやれ・・・」
ミグ「今度は帰ってきますよね・・・?」
イワン「ああ、約束する。」



病院――夜。
ライトの個室。
ドアには「面会謝絶」のプレート
ベッドで横になりながら、テレビのチャンネルを回すライト
どのチャンネルも自分が誹謗中傷を受けている
ライト「まるで犯罪者になったような気分やな・・・」
一つだけライトのニュースではなく、惑星連合のサミットを報じている。
そのチャンネルで止めるライト。
キャスター「今月火星で行われる惑星連合首脳会議、通称“宇宙サミット”は宇宙温暖化問題がテーマで、宇宙に放射される熱源の世界的な削減目標について話し合われる予定です。
宇宙温暖化とは、宇宙全体が収縮していくことで銀河どうしが近づき、徐々に平均温度が上がっていくという仮説ですが、この宇宙の未来は研究者のあいだでも意見が分かれており、宇宙温暖化にどれだけ人為的な活動が影響しているのかはわかっていません。
しかし急進的なエコ派は先日のコズミックグランプリにも反対し大規模なデモを・・・」

デモの様子が映る。
エコ派のプラカードに「ライトのクラッシュは宇宙を汚した当然の報い」と書かれている。

テレビを消す。
ため息をつくライト「これで全局制覇や・・・」
ノックのような音が聞こえる。
ライト「面会謝絶や・・・書いてあるやろ・・・」
ロープをつたって窓から入ってくるイワン「こんばんは」
ライト「・・・そんなことまでしてオレに悪口言いたいんか?」
部屋に降りるイワン「いや・・・」
ライト「あれ?あんたどこかで見たような・・・」
イワン「君と私は同じ女性を知っているようだね・・・」
ライト「そうや、ミグの元恋人やろ!あんた随分ひどい男みたいやな」
イワン「ああ、自分でも最低な男だと思うよ。
だからキミにお願いしに来た。
彼女を・・・ミグを守ってくれないか。幸せにしてやって欲しい・・・」
ライト「ミグをさんざ傷つけといて、随分虫がいいな・・・」
イワン「私はおそらくもうミグには会えない・・・だから・・・」
ライト「またどっかへ行っちまうのか?ミグを置いて・・・」
イワン「そうだ・・・おそらく生きて戻れない」
ライト「ざけんな!
ミグはお前のことをずっと思ってたんやぞ!!
十年間たったひとりでお前の帰りを待っていたんや!
ミグにとってはな、今もあんたは大切な人なんや、ええか、死ぬなんて俺が許さん!」
イワン「なるほど・・・思ったとおりの人間だ・・・
そういえば、昔キミに似た少年にあったことがあるよ」
ライト「・・・なんやと・・・?」
窓から出ていくイワン「さよならだ、ライト・ケレリトゥス。会えてよかったよ。」
ライト「もういくんかい!おいちょっと待てルパン三世・・・!」
カーテンが揺れる

ミュウが入ってくる「どうしたの?」
ライト「いや・・・」
ミュウ「そう・・・面会者よ」
ライト「え・・・?」

ミグが花束を持って入ってくる
ミグ「謝って済む話じゃないけれど・・・ごめんなさい・・・」
ライト「・・・・・・。」
微笑むライト「何言うとんねん。戻って来てくれるって信じてたで・・・」
ミグ「許してくれるの・・・?」
ライト「ミグ言ってたやろ・・・自分だけはオレのファンでいてくれるって・・・
オレはお前さえいれば十分や」
ミグ「ライト・・・」
ライト「それにな・・・まだレースに負けたわけやない・・・」
ミグ「え・・・?」
ライト「あれは第一戦や。コズミックグランプリは全5戦の総合順位で優勝を決めるんや。
まだ名誉挽回できる可能性はある・・・」
ミグ「で、でもその体じゃ・・・
(首を振る)ううん、キミならきっとこう言うんだね」
ライト&ミグ「なんでここで諦める?」



宇宙の果て。
強力な光を撒き散らす小さな天体が不気味にうごめいている。
その光を目の当たりにするひとりの宇宙飛行士。
(宇宙は何も変えられない・・・我々がどうあがいても・・・)


うなされて目を覚ますイワン。息を整える。
ベッドで汗グッショリのイワン「はあはあ・・・」
携帯電話が鳴る。
電話を取るイワン「ウェイドだ・・・」
フレミング「ダイヤル3に変えろ」
電話のボタンを押すイワン「変えた」
フレミング「よし、あんたの昔の女を調べたぞ。地球連邦のデータベースにはなかった。
ソースは驚くことなかれ惑星連合だ。
サー・ミグ・チオルコフスキー32歳。
冥王星宇宙軍将軍。
小惑星解体舞台ディープインパクト所属。
昨年起こった冥王星の軍事クーデターでは戦艦が惑星に衝突するのを命懸けで防ぐ。この功績が冥王政府に讃えられ名誉将軍に昇格。
海王星では王室からナイト爵を授与、天王星ではアイドル暗殺計画を阻止、土星では有名実業家を襲った殺し屋を撃退、暴走した自律型戦闘機を停止させている。最近では内戦状態の木星で和平への合意を裏で取り付けた・・・
まあ、とんでもない奴だ。何度世界を救ってるんだか・・・聞いてるか?」
イワン「ああ・・・かつての少女は私よりずっと腕の立つエージェントになっていたってことだな・・・」
フレミング「あんたも歳をとったのさ・・・」
イワン「そうだな・・・」

機内アナウンス「当機はまもなく月に到着します」



月面。
トランキュリティ(静かな海)宇宙刑務所
警備スタッフ「お疲れ様です、ええと・・・」
ライトで認識票を照らす警備員
イワン「国選弁護人のウェイドです」

刑務所の地下に続くエレベーター。
壁のフロアマップには地下の中央が球体になっていることがわかる。
イワン「・・・・・・。」
スタッフ「いわゆる“エコボール”ってやつですよ。
完全に外界から隔絶されています。
空気、水、食料、すべてがこの超強化ガラスの球体の中で循環している。
光と電波以外はエコボールの中へは入れないし、何も出れない・・・永遠に」
イワン「君たちはこんなところに若い女性を閉じ込めているのか」
スタッフ「若い女性と同時に宇宙で最も知恵の回るテロリストです。
万が一彼女があの球体から脱走した場合、この刑務所ごと核爆弾で焼却されるようになっています。いくら宇宙一の頭脳を持つ人間といえども生物である以上、核爆発には耐えられませんから」
イワン「まるで怪獣の檻だな」
スタッフ「ええ・・・我々が飼育しているのは正真正銘の怪物ですよ」
エレベーターが地下に到達し、扉があく。
スタッフ「つきました、どうぞ」

刑務所の地下管制室。監視モニターが数え切れないほど並んでいる。
正面の巨大なモニターには、吹き抜けのエリアの中央に設置された巨大な球体が映されている。
球体は直径15mほどで、植物が生い茂っている。
吹き抜けには青白い光が差しこみ、球体を上から照らしている。
イワン「球体の中とはどうやってやりとりをするんだ?」
面会ブースの中に入って受話器を差し出す看守
ブースに入るイワン「ありがとう」
看守「これまでにも何人かの先生がやってきましたけど・・・彼女は何も喋りませんよ」
イワン「まあやるだけやってみるさ」
ブースから出ていく看守「規則なので施錠させてもらいます。
では面会が済んだら、そのボタンで知らせてください」
イワン「わかった」
ブースの扉を閉める看守。機密ロックがかかる。
イワン「なにかあったら怪獣と一緒に燃やされるのか・・・」

管制室で監視カメラの映像を見つめる看守
カメラが切り替わり球体の中からイルミナを探す。
看守「囚人番号7283、面会者だ」
球体の中央へ痩せた女性がよろよろと歩いてくる。
体には不必要と言えるほどの桎梏がついている。
看守「受話器を取れ」
球体中央の台にある受話器を取るイルミナ
看守「先生、どうぞ。
くれぐれも見た目に騙されないように」
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