『80日間宇宙一周 From Earth with Love』脚本⑥

バーのダンスホールで踊るミグとイワン
イワン「よくキミの屋敷でこうしてふたりっきりで踊ったな・・・」
ミグ「はい・・・あの時は背伸びしてましたけどね・・・」
イワン「はは・・・」
ミグの顔に、顔を近づけるイワン
驚くミグ
イワン「でも今は立派なレディだ・・・」
ミグ「ウェイドさん・・・」
イワン「イワンでいい・・・」
ミグを抱きしめるイワン
イワンの胸に顔をうずめるミグ「10年間・・・ずっと・・・ずっと待っていたのに・・・」
イワン「・・・・・・。」

抱き合う二人に近づく男
男「ちょっとお取り込み中悪いんだがな」
イワン「うん、ホント迷惑・・・」
ほかの客に見えないようにイワンの背中に銃を突きつける男
男「ダンスのあとはカジノで遊んでいかないか?」



火星マフィアの大物ルチアーノ・ロッソが取り仕切るカジノ
ホールの奥のVIPルームに連れてかれる二人。
部屋の奥にボスのロッソが座っている。
ロッソは大柄な男で、顔に大きな傷跡がある。
ロッソ「ようウェイド、我がカジノへようこそ。久しぶりだな。」
イワン「こんばんはロッソさん・・・今夜のレースの方はリンドバーグで決まりだろ。
胴元としてはおもしろくないだろうな」
ロッソ「わからんぞ・・・
さて美しい女性と一緒のところ悪いんだがな・・・
お前さんが何で呼ばれたかはわかるよな?」
イワンに小声で話しかけるミグ「誰なんですか・・・」
イワン「火星マフィアのドン、ルチアーノ・ロッソ・・・」
ミグ「なんでそんな犯罪者と面識があるんですか・・・??」
ロッソ「犯罪者とは心外だな。この星ではギャンブルは合法だ。
お前のやっていることは非合法だがな、ええそうだろTIAのイワン・ウェイド」
ミグ「TIA・・・?」
イワン「とっとと用件を言え」
ロッソ「また女の前でかっこつけやがって・・・てめえよくもブレイズをやってくれたな」
イワン「好きでやったわけじゃない・・・」
ロッソ「いつもの“祖国のために”か?くだらねえ・・・」
ミグ「イワン、一体あなたは・・・」
ロッソ「彼女に言ってやれ、自分はうすぎたねえ地球のスパイだってよ」
ミグ「え・・・!?」
イワン「彼女は関係ない・・・復讐はオレだけでいいだろ」
ロッソ「いちいちクラシックなんだよお前は。そうやってかっこつけて自己満足に浸ってればいいさ。
だがこっちにもこっちのやり方がある」
マフィアの手下がミグを取り押さえて銃口を突きつける
身を乗り出すイワン「やめろ!」
二人の周りにマシンガンを持ったマフィアの構成員が集まってくる。
ロッソ「おっと動かないほうがいいぜ。
お前さんはもはやTIAの能力査定では全項目不合格の落ち目のスパイだ・・・
10年前とは違うんだ」
諦めて腕を上げるイワン
ミグ「イワン・・・」
イワンの体を調べるマフィア
首を振る「なにも持っていません・・・」
イワン「スーツが崩れちゃうからね」
ロッソ「ずっと復讐する機会を待っていた・・・お前にやられた傷がうずくんだよ」
イワン「なら、とっととやったらどうだ・・・その傷をつけた時から覚悟は出来てるんだ」
ロッソ「いや・・・死ぬのはこの女だ。
これからは女を死なせた絶望感を味わいながら生きていくんだな」
イワン「彼女はさっき会ったばかりだ、何も知らない・・・!」
ロッソ「いや・・・この女も我が組織に打撃を与えていてね・・・」
イワン「?」
ミグ「私は火星のマフィアなんて知らない・・・!」
ロッソ「そうかな?サーペンタリウスの商売をことごとく潰してきた女ミグ・チオルコフスキー・・・」
イワン「なんだと・・・?」
ミグ「サーペンタリウス・・・この星にも手を伸ばしていたのか・・・」
ロッソ「結局お前らは似た者同士だったって事だな・・・
さて女を殺す前に・・・お前の大好きな賭けをしねえか?」
カジノのモニターが映る。
コズミックグランプリのレース中継。
ロッソ「イワン・・・あんたさっきレースはリンドバーグで決まりだって言ったな?」
イワン「・・・・・・」
ロッソ「だが、それはどうかな・・・レースはまだ終わっちゃいない・・・」
イワン「なにを企んでいる?」
ミグ「まさか・・・!」
モニターを見るロッソ「おうおう、随分飛ばすな、このライト・ケレリトゥスってのは・・・
だがそんな速度で次のバンクにさしかかったら・・・あぶねえんじゃねえか?」
レース中継を見るイワンとミグ。
モニターの中ではリンドバーグ号がどんどん速度を上げていく。
ロッソ「地球の天才レーサーライト・ケレリトゥスはマリネリス峡谷のバンクを曲がりきれずにクラッシュ。調子に乗って操縦を誤った自業自得の事故でした・・・」
イワン「機体に細工したのか・・・」
ロッソ「誰がそんなこと言った?
(ミグの方を向いて)大好きなお友だちが事故死すると同時にお前も撃ち殺してやるからよ。
ありがたく思いなチオルコフスキー」
ミグ「・・・イワン・・・」
イワン「すまない・・・私のせいでキミの友人まで・・・」
ミグ「伏せて・・・」
イワン「え・・・?」
一瞬の隙をついて銃を突きつけているマフィアを殴りつけるミグ。
マシンガンが暴発し、他のマフィアにあたる。
マフィアの銃を奪い撃ち合いを始めるミグ。
すかさずその場で屈みこむイワン。
輪を描いていた二人を取り囲んでいたマフィアたちはお互いを誤射してしまう。
ロッソ「馬鹿野郎!撃つんじゃねえ!!」
マフィアの足を取り押し倒すイワン。
勢いよく倒れガラスのテーブルに頭を打つマフィア。テーブルが砕け散る。
立ち上がり、マフィアの銃を蹴り飛ばすイワン。
イワンの後ろからマフィアが銃を向けて近づく。
そのマフィアを撃つミグ。
イワン「やるなチオルコフスキー!」
ミグ「軍にいましたから・・・!」
背中合わせになってマフィアと戦う二人。
カジノのチップを回収するスティックでマフィアを殴りつけるイワン。
イワン「ベット」
敵のスーツの襟を引っ掛け、そのまま振り回し、別のマフィアにぶつける。
マシンガンで天井のシャンデリアを撃つミグ。
落ちてきたシャンデリアの下敷きになるマフィア。
手下を全部のしてしまうイワンとミグ。
イワン「雑魚に用はない」
デスクのロッソに近づく二人。
ロッソ「あんた、まだまだ動けるじゃねえか・・・」
イワン「能力査定、あれは偽情報だ」
笑うロッソ「くっくっく・・・
その姉ちゃんがいなかったらヤバかったんじゃないのか?」
イワン「・・・・・・。」
ロッソ「誰からも相手にされない孤独なスパイ・・・
国家の命令に従ったってなんの見返りもねえのに、なぜ無駄なあがきをする?」
イワン「なにかのためにやってるんじゃないさ・・・さあ話してもらおうか。
なぜリンドバーグ号がクラッシュするんだ?」
ロッソ「オレたちは何もしてねえよ・・・」
ロッソにマシンガンを突きつけるミグ「話せ!!さもないと殺す!!!」
イワン「どうだ?私よりも彼女の方がずっと怖いぞ」
ロッソ「バンクアプローチに爆弾を仕掛けた・・・」
スティックでロッソの頭を殴りつけるイワン「ごくろうさん」
スティックがへし折れる。
部屋から急いで出ていくイワンとミグ。
モニターではレースの模様が流れている。
実況「さあ、先頭のリンドバーグ号がマリネリス峡谷に差し掛かった・・・!」

カジノの裏口からレース場へ向かうミグとイワン
駐車場のアストンマーティンに乗り込むミグとイワン。
イワン「ピットに向かおう!リンドバーグ号がバンクアプローチに差し掛かる前に止めなければ!」
エンジンをかけてギアを変えるイワン。
ミグ「もう時間がない・・・!」
イワン「スパイの秘訣を知ってるか?運を天に任せることさ!」
車を急発進させるイワン。ピットに向けて爆走する。



マリネリス峡谷のコース。
リンドバーグ号が先頭で突っ切っていく。
コックピットに貼られたミグの写真を見るライト。
ライト「待ってろよ、優勝カッププレゼントしたるからな・・・」
さらに機体を加速させていくライト。

『80日間宇宙一周 From Earth with Love』脚本⑤

火星――イーグルモーターウェイ。
太陽系最大のモータースポーツの聖地は宇宙一速いレーサーを決める「コズミックグランプリ」の予選コースになっている。
赤い荒野に切り開かれた宇宙ロケットのコースはバンクアプローチから空を裂き、緩やかなカーブを描きながらねじくれている。
観客席の大歓声。

実況「ついに始まりました!宇宙最速のレーサーを決めるコズミックグランプリ第一戦!
今シーズンのコズミックグランプリはとんでもないサプライズがありました。
太陽系を冒険中に冥王星付近で消息を絶っていた人気レーサー、ライト・ケレリトゥスが新たに開発した新型機リンドバーグ号で緊急参戦したのです!」
解説「これはファンにはたまらないでしょうね。なにしろライトは地球と火星では有名レーサーにして発明家。あのアイザック・イエガーの宇宙最速記録を超える唯一の男と言われていますからね。」
実況「オッズもマイヤースを抜いて一気に一番人気です!」
解説「いや~当然でしょう」




特別に用意されたVIP席
ガラス張りでピットの全景が見えるVIP席は豪華なペントハウスになっている。
頭上の巨大なモニターにはコース上の各機の現在位置や賭けのオッズなど、レースの詳細なデータが表示されている。「賭けはまだまだ受付中!」の電光表示。
高級ドレスを着てVIP席に一人座っているミグ。
テーブルに肘をつき、ぼんやりとピットを眺める「・・・・・・」

スピーカーから流れる惑星連合放送の実況
実況「さて、現在各チームのレースクイーンによるギャルオンが行われていますが・・・
見てくださいライトチームのレースクイーンを!
なんと天王星で人気急上昇中のアイドルの新星、アリエル・スカイです!超人気アイドルにレースクイーンをやらせてしまうとはなんとも贅沢!」
解説「それだけじゃありません、ピットでクルーチーフと話をしている少年は海王星のルヴェリエ・ネプトゥヌス公爵です!」
実況「さすが宇宙の人気者ですね~彼の周りにはセレブが集まるのでしょう!」


ミグ「宇宙の人気者、か・・・
私なに勘違いしてたんだろう・・・」



コズミックグランプリのピットでは燃料タンクが並び、それぞれの出場レーサーのロケットをクルーがせわしなく動き回り最終点検している。

ライトのチームのピット
クルーたちと一緒にルヴェリエとアリエルがライトに声援を送っている。
アリエル「ライトさ~ん!こっちこっち!」
ピットに入ってくるライトが二人に気づく。
ライト「アリエル、ルヴェリエ!いや~久しぶりやな~!」
ルヴェリエ「お久しぶりです。」
ライト「なんでまた火星に?」
ルヴェリエ「宇宙サミットがこっちであるんで、兄と一緒に来ているんですよ」
ライト「兄さんはもう海王星の王様やもんな。相変わらずひねくれてんのか」
ルヴェリエ「ははは・・・海王星を救った英雄によろしく言っておいてくれって言ってました。」
ライト「そうか・・・」
アリエル「ライトさん頑張ってください!」
ライト「アリエルもわざわざ見に来てくれてありがとな。キミも最近忙しいんちゃうんか?」
アリエル「大ジョブです!来たるこの日のために仕事前倒ししてきました!」
ライトの前で一回転するアリエル
「見てください、ほら、今日は私、ライトさんのレースクイーンやりますから・・・!」
ライト「お~カワイイで」
アリエル「ピットは日差しが強いんで・・・この・・・傘を・・・」
パラソルがなかなか開かない。
ルヴェリエ「ここ押せばいいんじゃないですか?」
アリエル「そっか、ありがとうござ・・・」
勢いよくパラソルが開いて骨組みが逆さになったパラソルがミサイルのように飛んで行き、となりのピットクルーに当たる。
ライト「・・・じゃ、いってくるわ」

グリッドには各レーサーの宇宙船が入ってくる。
グリッドのリンドバーグ号に乗り込むライト。
となりのグリッドで機体に乗り込むルナ・マイヤース
ルナ「おかえりライト、でも優勝カップはこの私がもらうから」
ライト「望むところや」
ルナ「レオナに負けた借りはあなたで返すわ・・・じゃあフィニッシュラインで」

実況「各機グリッドにつきました!いよいよ宇宙最速のレーサーが決まります!
シグナルが点灯し・・・マーズ・コズミックグランプリ、スタートです!!」


シグナルが変わり宇宙ロケットが一斉に発進する。
エンジンが火を吹きどんどん加速していく機体。
リンドバーグ号が先頭に躍り出る

ピットのモニターにリンドバーグ号がトップの様子が映される。
ルヴェリエの手を取って飛び跳ねるアリエル「うわあ見てください一番ですよ!」
ファンの大歓声「ライト~~!」

惑星連合放送の調整室
スタッフ「カメラ切り替えろ。よし」
二位以下をぐんぐん引き離していくライト



ライト・ケレリトゥスのピット
クルーチーフ「いいぞライト。順調だ」
ミュウがヘッドセットでライトと通信する
ミュウ「冥王星では女性とイチャイチャしていただけじゃなさそうね」

コース
リンドバーグ号をドリフトさせるライト「機体を改良してたんやって・・・!」

ルヴェリエの方を向くアリエル「そういえばミグさんは・・・?」
ルヴェリエ「VIP席が用意されてるみたいですよ」
アリエル「さすがライトさん、やることが素敵ですね~」



VIP席
ウエイターが高級ワインを注ぐ
「失礼します」
ミグ「あ、どうも・・・」
退室するウエイター。
一人になるミグ。
豪華な食事が乗ったテーブル。
実況「ライトが後続との差をどんどん広げていきます!やはり当初の予想通りぶっちぎりですね!」
解説「ライトはイエガーですら15年かかったアルファケンタウルスまでたった80日で往復するとビッグマウスを叩きましたからね。つまり光の速さを超えるということですが、彼ならやれる気がするのが恐ろしいんですよ。」
実況「実際イエガーの時代とは比べ物にならないほど、宇宙ロケットのスペックは大きく向上しました。宇宙世紀は新たな時代に突入しているのかもしれません!」

ミグ「・・・・・・。」

VIP席に入ってくるミュウ「ごめんなさいね・・・ピットではマスコミがうろついているから・・・」
ミグ「いえ・・・私はここで十分です。ありがとうございます・・・」
ミュウ「好きなものを注文してください。ライトのおごりなんで・・・」
ミグ「はい・・・」
ミュウ「あなたのために優勝カップ持ってくるって言ってましたよ・・・
もしチオルコフスキーさんが本気でライトと一緒になりたいなら、わたくし共も・・・」
首を振るミグ「私はもう・・・」
ミュウ「そう・・・
それで本当に後悔はないの?」
ミグ「ライトによろしく言っておいてください。一緒にいろんな冒険ができて楽しかったって。
この恩は一生忘れないって・・・」
ミュウ「必ず伝えるわ・・・」
テーブルに地球行きのチケットを置くミュウ
チケットには地球の写真が印刷されている。
ミュウ「地球は美しい星よ・・・」
ミグ「ありがとうございます・・・」



火星の地平線を飛行するリンドバーグ号。
実況「メリディアニ平原を抜けて、レースは中盤を迎えました!
トップはなおもライト・ケレリトゥスのリンドバーグ号です!!」

VIP席のモニターを見るミグ「宇宙最速の男・・・か・・・」
席を立ち、荷物をまとめるミグ「夢を叶えてね、ライト・・・」
VIP席から退室しようとすると、ドアがノックされる
ボーイ「チオルコフスキー様、お手紙が届いております。」
ミグ「・・・ライト・・・?」



レース場にあるバー。
店内は薄暗く大人の雰囲気になっている。
ホールでは男女が踊っている。
カウンター席に座るミグ
バーテンダー「何にしましょう?」
ミグ「生中・・・じゃなくて・・・」
男性「リトルプリンセス」
バーテンダー「かしこまりました。」
ミグの隣に座る男性「私はマティーニ、シェイクして、ステアせず」
となりの男性に振り向くミグ「え・・・?」
シックなパーティスーツを着たイワン「こんばんは・・・」

バーのカウンターで二人で酒を飲む
イワン「おとなしかった君が軍に入隊とはね・・・ご両親の跡を継いだわけだ」
ミグ「ウェイドさんはまだ貿易商をやっているんですか?」
イワン「・・・相変わらず世界を飛び回っているよ」
ミグ「そうですか・・・十年前と変わってないんですね・・・」
イワン「あの時はキミを悲しませた・・・すまない・・・」
ミグ「いえ、いいんです・・・
あの時のあなたの気持ち・・・よくわかるから」
イワン「・・・なにか悲しそうだね・・・」
ミグ「・・・え?」
イワン「君の瞳を見ればわかるさ・・・
なあ、踊らないか?」
ミグ「・・・・・・。」
イワン「・・・今のキミには愛する人がいるのかな・・・?」
ミグ「いえ・・・私でよかったら・・・」

『80日間宇宙一周 From Earth with Love』脚本④

輸送船の船内。
輸送船のカーゴにリンドバーグ号を固定させる。
コックピットから降りるライト「もう大丈夫や・・・」
ミグ「私には何がなんだか・・・」
ライト「驚かせちまったみたいやな、ごめんな」

無線の女性がカーゴに現れる「あなたが突然姿を消して地球や火星は大騒ぎよライト」
ライト「すまんすまん。冥王星でちょっと足止めを食っちまって・・・」
女性「まったく、いつもあなたはそうなんだから・・・」
ライトと親しげに話すタイトスカートの似合うスーツの女性を見つめるミグ。
ミグ「ライト・・・この人は?」
ライト「ああ、ミュウや・・・オレのなんというか・・・」
ミュウ「マネージャーです。さて、その人のこと・・・詳しく話してもらえるかしら?」



輸送船の応接室。
豪華な調度品が並んでおり、壁やキャビネットにはライトのトロフィーや写真、グッズなどがたくさん飾られている。
「レース界の新星ライト・ケレリトゥス」
「快挙!アースラリー3連覇!」
「GT選手権で優勝!」

唖然とするミグ。状況がいまいち飲み込めない。
メロンソーダを冷蔵庫から取り出すミュウ
「コズミックグランプリが近いからマスコミの宇宙船が火星付近をうろついているのよ」
ソファに座るライト「あ、もうそんな時期なんや・・・」
ぼーっと立ち尽くしたままライトのポスターや新聞記事を見つめるミグ。
ライト「ミグ、座ったらどうや?」
ミグ「え?は、はい・・・」
メロンソーダをライトに渡すミュウ
「それで、うちの天才レーサーはコズミックグランプリに間に合わせるために戻ってきたのかしら?」
ライト「いや、たまたま・・・オレ今年は出るつもりないで」
ミュウ「少しはファンのことも考えなさい・・・
チオルコフスキーさんは何を飲みますか?」
居づらそうなミグ「いえ・・・私は・・・お構いなく・・・」
ライト「ミグには紅茶にアプリコットジャム入れたって」
ミグ「ライト・・・」
ミュウ「あら、彼女のことは随分詳しいのね」
ライト「一年間一緒にいると嫌でも覚えるんやって」
ミュウ「ライト・・・これはまずいわよ・・・冥王星くんだりまで行って恋人連れ帰るのは・・・」
ライト「なんやねん」
ミグ「恋人なんて、わ、私はそんな関係では・・・」
ミュウ「あら、恋人じゃなかったらなんなんですか?婚約者?」
ミグ「ち、違います・・・!」
ミュウ「単刀直入に申し上げます。あなたはライトとどういうご関係かしら?」
メロンソーダを飲むライト「第三夫人」
ミグ&ミュウ「あなたは黙ってて!」

ミグにロシアンティーを入れるミュウ
ミュウ「ご存知のとおりうちのライトは人気レーサーでしてね。
コズミックグランプリのシーズン中にスキャンダルは困るんですよ」
ミグ「スキャンダルだなんてそんな・・・私はただ、彼に地球に連れてってもらいに・・・」
ミュウ「あなたもいい年なんだからわかりますよね?
今のマスコミは人気者の足をすくうことが大好きだってことくらい・・・
それに地球と冥王星の政治的な状況はご存じのはずです。
冥王星の一部の過激派が地球を攻撃しようとして・・・」
ライト「それはミグが責任もって止めたったからええやん。
このミグはなんだかんだで3回は世界救っとるからな。」
ミュウ「・・・と、そんな感じで、ありもしないことまで作りあげられてしまうんです・・・」
ミグ「私、知らなかったんです、その、ライトさんが有名なレーサーだったってこと・・・」
ミュウ「さすが太陽系の果てからきた人ね・・・ライトを知らないなんて・・・」
ミグ「・・・・・・。」
ミュウ「いいわ、でもはっきりさせときましょう。あなたとライトに男女の関係はあったの?」
ライト「ええと・・・」
ミグ「そんなの一度もなかっただろ!!」
ミュウ「その言葉を信じていいのかしら?
ここで手を打っておかないと、チオルコフスキーさん・・・あなたもマスコミの餌食よ?
ライトの輝かしい実績が飾られた応接間を見つめるミグ「・・・・・・。」

ライト「ミグ言ったれ、俺とお前とは恋人以上の・・・」
ミグ「私はただ彼に地球まで送ってもらっていただけで、個人的な関係は一切ありません」
ミュウ「本当なのね?」
ミグ「はい・・・」
ライト「ミグ・・・!」
ミグ「うるさいな・・・そもそもお前と私はそれだけの仲だったはずだろ・・・?」
ライト「お前と俺とは戦友やったんちゃうんか」
ミグ「戦友?そうか・・・そう思っていたのか・・・なら任務が終わればお別れだな。
私も地球に連れてってもらったら、そこで別れるつもりだったし・・・
男女の関係は本当にないし・・・」
ライト「じゃあオレが地球に三日で送ったら・・・」
ミグ「三日の付き合いだったってことさ・・・」
複雑な表情のライト
ミグ「・・・なんだ?
そのあとも私と一緒にいるつもりだったのか?
冗談じゃない、キミは今まで一体いくつ私の屋敷の調度品を壊したと思っているんだ・・・
その代金として地球に送ってもらうのは当然さ。安いくらいさ。」
ライト「屋根は直したやろ、昔のこと言うなんて卑怯やぞ。」
ミグ「ああ、私なんて生真面目で融通のきかない堅物の女さ・・・もともとキミとは相性が悪いんだよ」
ライト「あんた急に変やぞ。ケーキに当たったんちゃうんか。」
ミグ「当たってないよ・・・」
ミュウのほうを向くライト「まあ、とにかく火星のレースは今回はパスするわ。オレはこいつと一緒に地球へ行くから。」
受話器を取るミュウ「そう・・・まあ、あなたたちが男女の仲じゃないってことはわかったわ。
でも、ファンはがっかりするでしょうね・・・」
ミグ「いえ、もう地球へは一人で行きます。
ライトをレースに出してやってください」
ライト「・・・へそ曲げるのもええかげんにせえよコラ」
ミグ「お前はなんにもわかってない!」
ライト「わかってないのはお前やろ!」
ミュウ「あ~もう、痴話喧嘩はやめて!私はどうすればいいの?レースに出場するのしないの?
スポンサーにだって迷惑がかかるのよ!」
ライト&ミグ「出ない!!」「出ます!!」
ライト「あ~そうかい、オレが嫌いなら理由を言え!」
何かにハッとするミグ「え・・・」

屋敷のドアで男性を引き止めるミグ
ミグ「私が嫌いなら理由を言ってください!」


ミグ「・・・・・・。」
ライト「じゃないとオレは納得せえへんからな!
俺はお前に約束したんや、俺の船でお前に地球を見せたるって・・・!」
ミグ「バカ・・・」
ライト「言うてみろ!」
涙目になるミグ「もうほっといてくれ!」
応接室から出ていくミグ。



ライトのチームの輸送船の応接室。
応接室に戻ってくるミュウ。
ミュウ「彼女は来客室に案内させたわ・・・」
ライト「そうか・・・ありがとな。飲むか?」
ミュウに紅茶を入れてやるライト。
ミュウ「いただきます、ありがとう」
ソファーに座るミュウ。
ミュウ「あの人と結婚するならレースのあとにしてね・・・」
ライト「あんたさっきと言ってること違うやんけ」
ミュウ「私の専門はハリウッドセレブの愛人スキャンダルのもみ消しよ?
あなたたちが恋人以上の関係だってことくらいわかります・・・
“戦友”ね・・・」
ライト「・・・オレの船で地球を見せて・・・プロポーズするつもりやった」
紅茶をかき回すミュウ「そう・・・
最愛の恋人を失ったあなたが、もう一度人を好きになるなんてね・・・」
ライト「レオナが死んで、両親が離婚して・・・幼馴染の女の子が逮捕されて・・・
そんなボロボロになった俺を癒してくれたのがミグやった・・・
ミグは、自分の身に起きた不幸を決して人のせいにしないんや・・・
オレはイヤなことからすぐに逃げてまうけどな・・・あいつは向き合ってた。命懸けで・・・」
ミュウ「・・・しかしどうしたものかしら・・・マスコミには撮られてしまったし・・・」
ライト「そんなん構うもんか。オレはあいつを地球へ連れて行く」
ミュウ「・・・彼女はそれを喜ぶかしら?」
ライト「なんやと?」
ミュウ「彼女はあなたにレースに出てもらいたいから、あんなことを言ったんじゃないの?」
ライト「そりゃわかるけど・・・」
ミュウ「あの人の性格を考えてみなさい。」
ライト「・・・・・・。
あいつを招待してもらえるか?」
ミュウ「VIP席を用意するわ」
ライト「ありがとう」
紅茶を飲むミュウ「美味しい・・・冥王星の飲み方悪くないわね」

『80日間宇宙一周 From Earth with Love』脚本③

ベッドで女性と愛し合うイワン
電話が鳴る。
女性「鳴ってるわよ・・・」
イワン「まったくいいところなのに・・・」
携帯電話を取って着信先を見るイワン「おっと本部からお呼びだ、いかなきゃ・・・」
女性(アンジェラ)「本部?」
イワン「・・・君にだけ教えるけれど・・・実は私は腕利きのスパイなのさ」
笑うアンジェラ「本当?」
イワン「内緒にしてくれよ、暗殺されちゃうから・・・
・・・(受話器に)はいもしもし・・・わかりました」
携帯を切って、立ち上がってバスローブを羽織るイワン
女性にキスするイワン「じゃあね子猫ちゃん」
アンジェラ「もういっちゃうの?」
イワン「続きはまた今度」
アンジェラ「じゃあ・・・
二時間の延長で合計850ドルになります」
イワン「・・・僕のテクニックに免じてまけてくれない?」
アンジェラ「だ~め」
部屋に入ってくる屈強な男「お客さん、ここで暗殺されますか?」
イワン「・・・・・・。850ドルだっけ?」

売春宿から出ていくイワン。
コールガール「最近あのお客さんよく来るわね。気に入られてるんじゃないのアンジェラ?」
アンジェラ「やめてよ、あんなおじさん・・・昔の自慢話ばっかりしてそのほとんどが嘘なんだもん。
なにが僕に抱かれた女は天国にいくよ。
スタミナもないし、バッカみたい」



TIA本部
フレミングのオフィスに入ってくるイワン
フレミング「来たなウェイド。お前の携帯電話には誰もかけてこないな。」
イワン「私のプライベートを傍受するんじゃないよ」
フレミング「でも電話が鳴って嬉しかっただろ。まあかけろ」
オフィスの椅子に座るイワン。
イワン「この前はどういうことだフレミング、サーペンタリウスとのコネをつぶしやがって。
ブレイズとあの仲になるまで何年かかったと思ってんだ」
フレミング「あれはウチがやったことじゃない、軍だ」
イワン「軍?軍に俺ごと焼いちまえって言ったのか」
フレミング「そういうな・・・こっちは止めたんだが、地球連邦軍のバーンズがお前が悪党に肩入れしすぎてんじゃないかって言ってきてな」
イワン「俺がそんなことするわけないだろ・・・」
フレミング「わかってるよ・・・オレだってもとは現場型だ。
お前との付き合いは長いし腕は買ってる。
だが軍の連中はこっちのやり方などわからないのさ・・・」
イワン「二重スパイの嫌疑を晴らしてくれたってことか、そりゃどうも。
せっかくサーペンタリウスの内部に潜入できるところだったのに、これで打つ手なしだ」
フレミング「そうでもないさ。」
資料をデスクに放り投げるフレミング
フレミング「次の任務だ」
資料の封を開けるイワン。書類と何枚かの写真が入っている。
フレミング「トリエステ・ピカール博士。
冥王星の科学顧問を務めていた天才宇宙物理学者だ。
冥王星の任務の際、お前も社交パーティで会ってるよな?」
イワン「で、博士がなんだ?」
フレミング「MI8の情報だとピカール博士はサーペンタリウスの大物幹部らしい。
緋色の旅団による海王星のクーデターも裏では彼が手を引いていたという」
イワン「ま、見た目通りのたぬきじいさんだってことだな」
フレミング「博士は海王星の他、天王星、土星、木星にも姿を見せている。
これらの星で起こったことといえばアイドルの暗殺事件、戦闘機の暴走、木星の大地震・・・」
イワン「その全ての手を引いているっていうのか?
いくら博士でも天変地異は起こせないだろう・・・」
フレミング「わからんぞ、彼の研究は高エネルギー理論だ。
つまり太陽の核融合、超新星爆発、ブラックホールのジェット、そういった宇宙を実験室で再現するってことだ。
次にこの写真を見てくれ」
イワン「?」
フレミング「冥王星の軍事基地でピカールと一緒に写っている女だ」
イワン「女?」
フレミング「ああ。こっちの海王星の写真にも」
イワン「ピカールの愛人か?」
三枚目の木星の写真を渡すフレミング「愛人がレールガンつきつけないだろ」
女性が紅茶を飲むピカールにごつい銃を突きつけている。
イワン「どういう状況の写真なのこれ?」
フレミング「彼女がピカールの敵であろうと味方であろうと、サーペンタリウスの情報を握っている可能性は高い。接触してくれないか。」
写真を見つめながら何かに気づくイワン
「まさか・・・ミグ・・・?」
フレミング「・・・知り合いか?」
イワン「ああ・・・間違いない。ミグ・チオルコフスキー・・・」
フレミング「もしかして・・・あの時のチオルコフスキー将軍の娘か」
イワン「そうだ・・・」
フレミング「よし、昔の関係を利用して情報を聞き出せ。」
イワン「十年以上前の話だ、もう忘れられてる」
フレミング「ならやり直せばいい」
ミグの写真を見つめるイワン
イワン「・・・どうやって接触する?」
フレミングがテレビをつける。
惑星連合放送のニュースが映る。
「来週火星で行われるコズミックグランプリは、太陽系最速の宇宙ロケットを決める世界的な選手権で、続々と著名なレーサーが火星に現地入りしています。
またコズミックグランプリはレースファンだけでなくギャンブラーにとっても手に汗握る一大イベントであり、ブックメーカーでは早くもどのレーサーが優勝するか賭けの対象になっています。
オッズの方は、月出身のルナ・マイヤースが一番人気で1.8倍・・・」

フレミング「招待してやろう。」



火星の周辺宙域を飛行するリンドバーグ号
操縦桿を握りながらミグに話しかけるライト。
ライト「もうそろそろ火星やから地球まであとちょっとやで。」
ミグ「そっか・・・ついに地球か・・・」
ライト「なんや、あまり嬉しそうちゃうな。」
ミグ「そんなことないよ・・・小さい頃からの夢だもん。
ライト・・・本当にどうもありがとう・・・」
ライト「そんな改めて言われると、調子狂うなあ・・・」
窓の外をぼんやりと見つめるミグ

マーガレット(あなた・・・地球へ着いたら息子とは別れてしまうの?)

ミグ「・・・・・・。」
突然スピードを上げるリンドバーグ号。
驚くミグ「!?どうした!」
ライト「尾けられとる!!」
ミグ「なんだ!?サーペンタリウスか!?それとも木星のギャングの残党!??」
ライト「いやもっと恐ろしいやつらや!!」
リンドバーグ号に猛スピードで追いすがる宇宙船。
ミグ「ラムジェットを起動させたらどうだ?」
起動パネルに手を伸ばすライト「ようし・・・」
別の宇宙船がリンドバーグ号の前に飛び出してくる。
ライト「あかん進路を塞がれた!」
操縦桿を切って避けようとするが、第三の宇宙船がリンドバーグ号と接触ぎりぎりで接近してくる。
宇宙船の側面には「惑星連合放送」という文字とロゴマークがペイントされている
ミグ「放送局の中継船・・・!?」
ライト「パパラッチどもや!」

あっという間に中継船に囲まれるリンドバーグ号。
リンドバーグ号にフラッシュがたかれる。
記者「その機体・・・!ライトさんですよね!!?」
ライト「ミグ隠れろ!」
ミグ「え?」
コックピットに回り込む中継船。
「やっぱりライト・ケレリトゥスさんの宇宙船のようです!」
「地球の冒険家ライト・ケレリトゥスさんが一年ぶりにカメラの前に現れました!!」
「一体どちらへ行っていたんですか!?」
コックピットのミグを屈ませるライト。
ライト「なんでここにいるってわかったんや!??」

コックピットのミグに気づく記者「おいコックピットに女性が乗ってるぞ!」
「その女性は誰なんですか!?」
無線を掴むミグ「え~っと・・・私はただの・・・」
ライト「あかん何も話すなミグ!」
記者「誰なんですか!?その人とはいつから付き合っているんですか!?
冒険中に消息を絶ったことと、その女性とは何か関係があるのでしょうか!?」

惑星連合放送の衛星中継ステーション
中継船から送られる映像を眺める惑星連合放送のプロデューサー、ハル・ケプラー
「“ライト・ケレリトゥス熱愛発覚”か・・・すぐに衛星回線で流せ。生中継だ。」
スタッフ「はい!」
ケプラー「太陽系の果てまで行って、女を連れ帰ってきたとは面白い・・・」

マスコミの集中砲火を浴びるリンドバーグ号。
「ライトさん一言!」
その時、ライト・ケレリトゥスのロゴがペイントされた輸送船がマスコミの船を強引な操縦で蹴散らす。
「!!」
輸送船のカーゴハッチが開く。
輸送船から女性の声「早く入って!」
すかさず輸送船に滑り込むリンドバーグ号。

マスコミ「待ってくださいライトさん!!」
「一言!一言だけお願いします!!」
マスコミを無視して急発進する輸送船。

『80日間宇宙一周 From Earth with Love』脚本②

蒼穹の空――
雲を切り裂きぐんぐん速度を上げていく航空機・・・
太陽にそのまま突き進むかのように操縦桿を上げて機首を持ち上げていくパイロット。

地球――
ライトスタッフ空軍基地
夏の太陽はジリジリとアスファルトを焼き付ける。
中学生のレオナが双眼鏡を持って空を指差している「あ!降りてきたで」
後ろを振り返るレオナ「写真写真!」
カメラを構えるヴィン「あ、ああ・・・」
天空から超音速戦闘機が滑走路に着陸してくる。
戦闘機のコックピットからパイロットが降りてくる。
ヘルメットを脱ぐ伝説のパイロット、アイザック・イエガー。
滑走路に飛び出す三人の中学生。レオナ、ヴィン、そしてライト。
レオナ「イエガーさん!イエガーさん!」
ヴィン「サインください!ぼくたちファンなんです!」
イエガー「ははは悪ガキどもめ。ここは立ち入り禁止だぞ」

基地内になる掘っ立て小屋のような店。
店内には地球連邦軍の名だたるパイロットたちが会話を楽しんでいる。
レオナ「すげ~・・・!」
ヴィン「あの人はディーク・グリソムさん、あの人はグレン・シェパード・・・!」
店主にオーダーするイエガー「マスターなんか冷たいものを未来のパイロット諸君に。
オレはいつものでいいや」
ヴィン「ありがとうございます・・・!」
コーラをグビグビと飲み干すレオナ「うめ~!」
ビールを飲むイエガー「一番近い街から100キロもあるのにどうやって来たの?」
レオナ「いや線路たどって自転車で・・・」
イエガー「あの荒野を自転車で来たの!!??」
レオナ「だって車を盗めな・・・」
ヴィン「い、今は夏休みなんです・・・!」
嬉しそうなイエガー「最近の若い子はすごいな」

すっかり打ち解けてイエガーと談笑するレオナ
レオナ「こいつなんて自分の作ったロケットの名前にしてんすよ、やめろや、イエガーさんに失礼やろ」
ヴィン「す・・・すいません・・・」
イエガー「世界一速いロケットにしてくれよメガネ君」
ヴィン「それはもう・・・!」
ライトが気になるイエガー「君は飲まないの?」
レオナ「ああ、そいつは無口なやつで・・・どうしたライト?」
席から立ち上がるライト
イエガーに近づく。
イエガー「ん?」
ライト「いつか・・・あなたを超えてみせます」
店内のパイロットたちの視線がライトに集まる。
間――
微笑むイエガー「望むところだ・・・」
ライトを楽しそうに見つめるレオナ。中学生のライトはレオナよりもずっとたくましくなっている。
おろおろするヴィン。
イエガー「オレは恒星(ほし)を超えた・・・キミは何を超える?」
ライト「光です」
パイロットたちが爆笑する。
イエガーだけは笑わない「宇宙に穴を開けてみろライトニング。」



リンドバーグ号のコックピット
ライト、レオナ、ヴィンがイエガーと撮った古い写真。
アルバムを閉じるライト。
ライト「伝説のテストパイロット、アイザック・イエガーが現役を引退したのはこのすぐ後やった」
ミグ「すごい人だったんだね・・・」
ライト「そりゃそうや。イエガーは4.4光年先のアルファケンタウルスまで10年かけて往復したんや」
ミグ「どこにあるんだその星は??」
宇宙地図を広げるライト「ええか・・・ミグの冥王星とオレの地球の距離がだいたい50億キロ・・・これくらいなんやけど、太陽とアルファケンタウルスの距離は、その8千倍や」
ミグ「この人はそんな宇宙の果てまで行っちゃったのか!」
嬉しそうに笑うライト「ちゃうちゃう、アルファケンタウルスは太陽系から“最も近い”恒星なんや。
あの人の冒険は確かに歴史に残る偉大な業績やったけど・・・
宇宙全体にしてみれば砂粒よりも小さい。
光の速さでも10万年かかるほど広い銀河が星の数ほどあんねん・・・んでその銀河団が1000億個くらいあって、それを従える宇宙が最近の研究では約・・・」
ミグ「待って待って私が悪かった・・・宇宙は途方もなくでかいんだね・・・」
ライト「オレたちは宇宙の欠片も知らん。この宇宙には未知の領域がまだたくさんある・・・ワクワクせえへんか?」
微笑むミグ「・・・・・・。」
ライト「オレはいつか必ずこの人を超えたる・・・な、なんやねん・・・」
ミグ「そうだね・・・」
ライト「そのお母さんのような温かい眼差しやめろや。
・・・それに、お前は知らんと思うけど、オレは地球ではけっこう名の知れたレーサーやねんで?
ファンだって数え切れないほどいるんや」
全然信じてないミグ「・・・あはは・・・」
ライト「いやいやマジで・・・」
笑うミグ「またまた・・・でも私だけはファンでいてあげるよ。可哀想だから」
ライト「・・・ありがとな」

リンドバーグ号のコックピットには「ライトが落ちてきて一周年パーティ」と書かれた飾り付けがしてある。操縦はオートにしてあり、リビングの小さなテーブルに小さなケーキがある。
ライト「じゃ今度はミグのアルバムな」
ミグ「いや私はいいよ・・・君と違って地味な人生だし・・・」
ライト「なにいうとんねん卑怯やぞ」
赤くなるミグ「か、からかわないでよ??」
ライト「その年で何を恥じらうことがあるんや、観念せい」
黙ってアルバムを差し出すミグ「・・・・・・。」
アルバムをめくるライト
小学生くらいのミグの写真。リボンをつけて女の子らしくめかしこんでいる。
ライト「あんた昔から半分寝たような目つきなんやな・・・」
ミグ「君と違って家で本を読んでいるようなおとなしい子供だったんだよ」
ライト「小さい頃よく遊んだ女の子がそんな感じやったよ。」
ミグ「意外だなあ。キミの周りってみんなテンション高いイメージがあるんだけど」
ミグの写真を見つめるライト「しかし、それがなんでファイティングマシーンに・・・」
ミグ「ファイ・・・十代の頃にいろいろあって・・・強くなりたかったんだ・・・」
ライト「ふ~ん・・・それで十代の写真はないの?」
アルバムを取り上げるミグ
「ま、まあもう過去の話なんかいいじゃないか・・・今が十分幸せなんだから」
アルバムから一枚の写真がひらひらと落ちてくる。
ライト「あれ?なんか男前の写真が」
ミグ「あ、それは・・・!」
ライト「はは~んあんたの恋人やろ」
ミグ「私だって恋人の一人くらいいたさ・・・」
ライト「もしかして・・・あれか、ミグにひどいこと言って振った奴」
ミグ「え?」
ライト「いや前に教会でそんなこと言ってたやん」
ミグ「・・・・・・。
うん・・・まあ、そうなんだけどね・・・写真、捨てられないんだ」
ライト「まだ好きなの?」
ミグ「いや・・・どうなんだろう・・・でも、私にとってはとっても大切な人なんだ・・・」
ライト「傷つけられたのに?」
ミグ「この人は私の命の恩人なんだよ。
貿易商でね、身寄りのない私を保護してくれて屋敷を買い戻してくれた・・・
でも・・・ある時突然行ってしまったんだ・・・」
ライト「その理由が知りたいから写真が捨てられへんのや・・・」
ミグ「もしかして嫉妬してる・・・?」
ライト「するかい」
ミグ「私にとってはもう思い出の人だから・・・」
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