いまを生きる

 「面白い度☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆」

 君がここに存在し、命と個性がここに存在することで――力強い人生が成り立ち、君は詩が書けるのだ。・・・君たちはどんな詩を書く?

 マロさんお勧めの青春映画。原題は『Dead Poets Society』で、英語力0の私は死のポエム部とか訳して、なんでこんなホラー映画みたいなタイトルなんだろうって勝手に怖がってたんですが、ノラネコさん曰く「死せる詩人たちの会」が正しい訳だそうです。恥ずかしい・・・w

 先輩たちの顔をよく見てみろ。君たちとそう変わっちゃいない。野心に満ちた彼らは、人生に消極的になって時間を無駄にするようなことはなかった。それでも彼らは、もうすでにこの世にはなく、墓の下なのだ――

 どんな若者も最終的には老いて死からは逃れられない。だから限られた人生を精一杯生きようよと、厳しい全寮制学校で型破りな教育を試みた、英語教師ジョン・キーティング先生と、彼の教え「カルペ・ディエム(今を生きろ)」をモットーに、「死せる詩人の会」を結成した教え子たちの物語。
 いってみればアメリカ版の「3年B組金八先生」なんだけど、金八先生が常識的な範疇で普通にいい先生だとしたら、キーティング先生は教科書を破らせたり、教卓の上に生徒を立たせたり、国語版リトミックのようなものを試みたりと、授業内容はかなりラディカル。
 じゃあ『GTO』や『ごくせん』みたいな話なのかっていったら、そこは全然違うわけで、キーティング先生にはちゃんと教養(ここ大切)がある。自由な教育というのはただ生徒を自由にさせれば済むわけじゃない。もしそれで済むのならどんな人でも先生はできるはずだ。小学生だって幼稚園生だってOK。つーか先生なんていなくたっていい。

 んで、どうでもいい話なんだけど、「死せる詩人たちの会」を学生たちは学校の裏山かなんかにある洞窟で内緒でやるんだけど、ああいう秘密基地って懐かしいよね。
 うちの中学でも裏山に秘密基地を建造している、小学生の頃を忘れない素晴らしい子達がいるけど、私ももちろんやってた。
 今の私は立場上「いかんよ君たち」って注意しなきゃいけないんだけど、内心混ざりたかったもんね。つーか私といいバカはなんで山に入ってくんだろうね・・・30歳近い私が一人でそんなことやってたらもはや警察呼ばれちゃうもんなあ・・・

 なんの話ししてんだか。さて、作中の時代設定は1959年らしいんだけど、1950年代と言ったら第二次世界大戦の余韻がまだ大きく残っていて、厳しい全体主義の反省から、児童中心主義や自由教育が叫ばれた時代でもある。
 リトミックのダルクローズもそうだし、ハーバート・リード、箱庭療法のローウェンフェルドなども自然主義的な教育(子供の自然な成長を大人の論理で干渉し妨げるべきではない)を訴えた人たちだ。
 だからキーティング先生の教育方法を見たとき、すぐに「あ、そっちのスタンスの先生だ」って感じた。でもよりによって、いやあえてあの厳しい名門進学校ウェルトン学院でその手法を実践するとはこの先生は相当のたまだw

 しかもキーティング先生ってウェルトン学院の卒業生でもあるんだよね。厳しい校則の反動でああなってしまったんだろうか。
 そういえばイギリスの俳優ローワン・アトキンソンさんも、イギリスのパブリックスクール出で勉強はできるんだけど、厳しい規則に徹底的に反抗し先生をてこづらせたそうな。んで大人になってコメディアンやって聖職者や教員、軍隊を徹底的に皮肉ってんだから、もうw

 でもさ、教師が生徒に「自由であれ」って言うのってまあカッコイイセリフかもしれないけど、あんまマネしないほうがいいよね。
 それはつまりキーティング先生のようにクビをかける覚悟をして初めて言える言葉だよ。採用されてすぐだと、そういう金八先生やごくせんの真似したくなる気持ちもわからんでもないが、それで「お前らは自由に生きろ!」とか言っちゃって生徒をその気にさせて、そのあとほかの先生に注意されて、「やっぱお前ら規則通りにやれ」なんて変節したら、生徒の信頼大暴落だもんね。 
 実際、先生がクビになって終わる教師モノ初めて見たよw金八先生でも何度か危ない時あったけど、なんだかんだで無事に定年退職できたじゃんwキーティング先生すげえよな。フツーにクビだもん。
 つまりキーティングごっこはそれくらいのリスクがあるよってことだよね。

 芸術家になるように仕向けるのは危険だよ。彼らがレンブラントでもシェイクスピアでもモーツァルトでもないことに気がついた時、君が恨まれるよ。

 なんでこういうこと言うかっていうと、私は大学時代美術系のところにいたから、こういうラディカルな先生けっこういたんだよ。なかには「本物」の変人もいたんだけど、入ってきたばっかの若い先生でキーティングごっこやっちゃたのがいたんだ。そのリスクも知らずに。
 で、「芸術に答えなどないんだ。好きにしろ」って言うからさ、私もあ、じゃあ好きにしますって好き勝手にしたんだけど、そしたら怒り出しちゃってさw「なんだよ、だったらそんなかっこいいこと言うんじゃねーよ」って大嫌いになったもんね。 
 まあ私も大人気なく言葉通りにふるまったのが悪いんだけど、それはなんでかっていったら「あ、こいつ絶対自分に酔ってかっこいいセリフ言っちゃったな」っていうのが丸分かりだったから。つまりどうせ口だけだろ、と。それを確認したかったんだよね。・・・本当に嫌な奴だよね。私。

 この『いまを生きる』でも、庭を歩く授業でキーティング先生が「諸君自由に歩きたまえ」って言ったら、チョイ悪のチャーリーが「歩かない権利を行使してるんです」って私みたいな屁理屈を言ったんだけど、「そうかありがとう、立派な自己主張だな」といなしたもんねwそれくらいの度量というか機転が利かないと、こういう自由な教育はやらないほうがいいよ。
 自由は素晴らしいって言う人はたくさんいるけれど、それを簡単に言う人は自由すら真剣に考えたことがないんだろうな・・・そんなことをなんとなく思い出してモニョンとした気持ちになった映画でした。

 愚かな夢に枷を解かれた人々たちをも汝は幸せと呼びたもう
 されど人は夢の中でのみ 真に自由なり 昔も今もそして未来にもまた
 テニスンか?
 いやキーティング

『80日間宇宙一周 The Stargazer』制作裏話

 過去最長の脚本!

 物語の骨子は「もしインディジョーンズが家族にいたら」。ハリウッド映画のヒーローってかっこいいけど、その家族にとってはいい迷惑なんじゃないかって感じで物語を組んで行きました。だって平気で人のもの壊すし、人のもの奪うし・・・人殺しだしね。家族が知らないところで謝ってんじゃないかってw
 というわけで、そんなはた迷惑な英雄として考え出したのが、ライトの父クリストファー。もうこのオヤジが馬鹿で馬鹿で動かしてて楽しかったけど、「あれ?これ読んでいる人だんだんムカついてこないかな?嫌われちゃったらやだな」って心配でした。
 言ってみればただの徘徊しちゃうじいさんだもんなw
 でもやってることはインディ・ジョーンズ先生と変わらないんだよ。見方を変えるだけでこんなに印象って変わるもんなんですね~(他人事)

 今回は私の漫画には珍しく武闘派の悪役が出てきたんだけど、このマルドゥクはクリストファーの影の部分だよね。どっちも財宝の魔力にとりつかれている。
 とはいえクリストファーは別に財宝を見つけて悪用しようってわけじゃなくて、純粋に学術目的で調査しているんだけど、動機がなんであれやってることはどっちも墓荒らしだし、人類の探究心っていうのは時に暴力的な結末をもたらすしね。今まではそれを科学技術で描いてきたけれど、今回は趣を変えて人文系の学問でやってみた。
 悲しいのはクリスの学説はあっていたのに、唯一最後までクリスの学説を信じ続けていたのがギャングのボスだけだったって事だよね。これはせつないよな。まあ本人はあまり気にしてないだろうけど。

 難しかったのは物語の結末。どうやって落とそうかなって、前橋に行ってプロデューサー気質の友人と何度か議論を重ねたんだけど、なかなかまとまらなかった。
 クリスがマルドゥクを倒すのはプロットの合理性から行けば正しい気もするんだけど、あの人のイメージに合わなかったんだよね。
 じゃあ誰がマルドゥクを倒すんだ?ってことになって「石版が暴走して死ねば?」って考えたんだけど、「田代、それはギャグになるぞ」って言われて、「じゃあもう死ななくてよくない?」っていうまさかのマルドゥク生存エンドもあったのだ。
 結局友人が考えた案に近いものにしたんだけど、なんとかひねり出したのはクリスとマルドゥクの最大の違いって家族の有無だったんだよね。
 そこで家族がいないひとりぼっちのミグを最後にぶつけてみたんだ。ちょっと苦しかったかな。本当は石版はミグじゃなくてクリスに壊させたかったんだけどね・・・物語の進行上難しかった。

 さて、このお話のイメージボードを固めるために私は、インディジョーンズシリーズ四部作を全て鑑賞し、『トゥームレイダー:アニバーサリー』をプレイし、エジプト編の途中でオレは吉村作治じゃねえとコントローラーを投げつけて、最終的には男版トゥームレイダース(じゃジョーンジーじゃねーか)『アンチャーテッド』の公式サイトでメインテーマをエンドレスで聴いてました。
 私、こういう遺跡探検系のお話嫌いじゃないんだけど(そう考えれば『デザーテッドアイランド』もそうだった!)、トレジャーハンターが狙うお宝がいつも「オーパーツ」だか「ロストテクノロジー」だか胡散臭くて、「うさんくせ~」って馬鹿にしてたんだけど、でもいざそれをやってみると、胡散臭いのをあえて狙うのってすごい難しいんだなって反省したよ。

 まず新紀元社の『図解近代魔術』という本を久々に開き、「それ系」のアイテムや伝説を手当り次第あたって、木星での冒険活劇のビジュアルイメージはサハラよりも北のエジプトあたりってことになりました(ただ西アジアや南アフリカ共和国もミックスされている)。
 で、エジプトのピラミッドにはアトランティスの叡智である「エメラルドタブレット」っていうのがあって、この石版と『2001年宇宙の旅』のモノリス、昨今のスティーズ・ジョブズ&アップル信者のiPad信仰、さらにエヴァンゲリオンの石版におっさんが真剣に話しかけている描写がどうしてもやりたいっていうのが繋がって、「スタータブレット」というアイテムを考え出しました。まあほぼエメラルドタブレットなんだけどw

 あとはもう、賢者の石だろうがエリクサーやら指輪やら槍やらなんでもかんでも本に書いてあるのを闇鍋のごとくぶち込んじゃったんだけど、そもそもこの漫画の世界観が架空のものなので、インディ・ジョーンズ以上になんでもありにできて楽しかった。
 あ、でも「セフィロトの樹」には助けられたな。あれは食べたものに命を与える実をつける木らしいんだけど(ってどう食べるんだ!?)、各セフィロトは惑星に対応しているんだよね。さらに天使にも対応していて「もうなんでもありだな」と思いながら、すごい使い勝手が良くてありがたかった。一番調べてて楽しかったしね。

 でもセフィロトの樹って冥王星に対応するセフィロトがないんだけど、そこはまあ、80日~のセフィロトの樹ってことで・・・また自分で新たな固有名詞を考えて付けちゃうと、読んでいる人がいよいよ整理できなくなっちゃうしね。
 ただでさえ設定量が膨大な上に、サイトの『80日間宇宙一周』の作品解説では「よくわからない設定を大量に出すことは読者を置き去りにすることだ」って昔の自分が偉そうに言ってるし・・・まあ確かにその通りだ。今回読んだ人はついていけたのだろうか・・・ゴメンチャイ(C)ペンギンズ
 とにかく今回私が考えた古代の伝承のアイディアの背骨になってくれたのは間違いなく、このセフィロトの樹だと思う。

 で、ここからが地獄だった。最初のステージの「メインベルトの小惑星」からどうやって一行を最終ステージの「超古代都市コロナド」に連れて行くか、その冒険の過程がさっぱり思いつかんかったorz
 もともとロードムービーが苦手だからね。冒険を“もたせる”ためにいろんなスポット(ロケ地)やアイテム、伝承を考えたんだけど、これはもう本当辛かったですよ。
 テレビゲーム、特にRPGのような鍵をみつけて、その鍵で何かの仕組みが解けて、さらに新たな鍵を探して・・・ってタイプのやつ作っている人ってすごいなあって思いました。

 でもゼウスとアストライアの伝説とか、凱旋祭のトリックとかよく考えたよな。まるで本当にインディ・ジョーンズのようじゃないか。えらいぞオレ。
 ここら辺の伝承はライト一家よかどっちかというとミグの心情のメタファーにしてみたんだけど(ライトは年上の自分を愛してくれるんだろうか)、もうあれだね。ミグとライトは少女漫画にありがちな「すんどめ展開」を繰り返してないでいい加減、決心付けたほうがいいよね。

 いよいよ私の漫画で最も長いお話になってしまった『80日間宇宙一周』も次回でおしまい。ミグとライトをもう動かせないのはさみしいけれど・・・今回でかなり畳み掛けたからね。
 ノーチラス号、ミラージュ、グラビティディフェンスシステムとどんどん出てくる兵器もインフレしちゃったし。最後はやっぱりピカさんの言うとおり「宇宙を破壊する兵器」を考えなくては。最後は宇宙論の難解な本を読みあさらねばならんのか・・・
 まあほとんど最後のオチは出来上がってるんですけどね。マロさんや円崎さんの納得のいく結末になっているのだろうか。ではまた!

おまけ:作中の固有名詞の元ネタ

クリストファー⇒冒険家クリストファー・コロンブスから。

マーガレット・アレゴリー⇒心理学者マーガレット・ローウェンフェルドから(当初はカウンセラーという設定だったため)。アレゴリーとは抽象概念を、記号などを用いて具体化するような寓話表現のこと。神話などに用いられる。

サーシャ・ラグランジュ⇒天文学のラグランジュポイントから。ラグランジュポイントとは3つの天体が平衡状態を保つことができる場所のこと(5種類ある)。例えば太陽と木星と小惑星群の位置関係がそれにあたる。

ケセド・バイザック大佐⇒ケセドとは木星のセフィロト名。苗字は天体望遠鏡のバイザック式から。

ンゴロ・アルベド議長⇒気象学のアルベド(反射能)から。モデルは南アフリカ共和国のネルソン・マンデラ大統領(マディバ)。

マルドゥク⇒バビロンの神様マルドゥクから。木星と同一視されていたらしい。

ギガントマキアーグソクムシ⇒ギガントマキアはギリシャ神話におけるオリンポス神と巨人との戦争のこと。もちろんゼウスも参加。

ハインラインスパイダー⇒『宇宙の戦士』の作者ロバート・A・ハインラインから。宇宙グモが登場する。種小名はその宇宙グモ「アラクニド」から。『イッツアドリームワールド』では悪役の魔法の杖として使ったw

メイキュウグンタイアリ⇒種小名のアヌビスとはエジプトの冥界の神さま。頭はジャッカル。

ケンタロスシニガミカマキリ⇒ケンタウロスは『トゥームレイダース』のパロディ。種小名はエジプトの『死者の書』から。イメージとしては『ナイトミュージアム』の黄金の石版を守る二頭のアヌビス神を参考にしました。

小惑星「1903 XQ」⇒小惑星は発見された日を記号化して名前にするんだけど、これはライト兄弟が有人飛行を成功させた日。

マーシャル大学考古学研究チーム⇒インディ・ジョーンズの出身大学。

港町トート⇒トートはエジプトの知恵を司るすごい偉い神様。頭はトキ。だからってわけじゃないけれどトートは時も管理する。また『MOTHER2』の港町トトももちろん意識してます。

スターライン運河⇒ナイル川

グランド・イクリプスダム⇒アスワン・ハイ・ダム。ただマルチプルアーチ式なのは見た目優先で私が勝手に選んだだけです(アスワン・ハイ・ダムはたしかロックフィル式)。

ガニメデ大瀑布⇒ナイル川第1~第4瀑布

アストライア大神殿⇒アブシンベル大神殿。アストライアはギリシャ神話の正義の女神。ただゼウス一世とのラブロマンス云々は全くの創作です。ごめんなさい。本当はゼウスの娘なの。
アストライアはメインベルトの小惑星の名前にもなっている。

女王ラトナ⇒クレオパトラから。女王クレオパトラは裏切り者に毒をもられる危険があったからか毒に詳しかった。実際毒蛇のエジプトコブラを使って自殺している。
また天王星編の大物アイドル、パトラ・ジュリエッタの名前もクレオパトラから(古代ローマと交流があったため)。

ブリックロード4世⇒『MOTHER2』の同名のダンジョン職人から。アメンホテプ4世っぽくw

死の迷宮アメミット⇒アメミットはエジプトの『死者の書』に出てくる魂を喰らうおっかないワニとライオンとカバのキメラ。

超古代都市コロナド⇒太陽のコロナから。

スタータブレット⇒エメラルドタブレット。『2001年宇宙の旅』のモノリスもイメージしている。作中では木星のモノリスは木星を太陽にするための装置だった。

アマルテアなどの国家の名前⇒すべて木星の衛星の名前が由来。

『80日間宇宙一周 The Stargazer』脚本⑩

ミグをかばって撃たれるクリストファー。
マーガレット「クリス・・・!」
ライト「教授!」
一瞬の隙をついてギャングを攻撃するミグ。
後ろの手下を蹴飛ばし、銃を奪ってギャングを倒していく
石版を持って繭の奥へ逃げ出すマルドゥクと手下。
ミグ「待て・・・!」

追跡を諦め後ろを振り返るミグ。
血を流して横たわるクリス
ライト「しっかりしろ教授・・・!」
クリスに近づくミグ
ミグ「なんで私のために・・・」
クリス「決まってるだろ・・・あなたも・・・大切な家族だからだよ・・・」
涙目になるミグ。
マーガレット「まさかあなたが銃弾くらいで死なないわよね・・・?」
クリス「いや・・・今回はダメっぽい・・・死んじゃう・・・」
ライト「アホなこと言うなや!」
クリス「あ~・・・石版を戻すと得た知識を忘れてしまうのか・・・
・・・でも、ひとつだけわかったことがある」
ライトの頬に手をやるクリス
「20年もかかったが・・・私の宝物はこんなに近くにあったんだな」
ライト「え?」
微笑むクリス「私が求めるべき答えはこれだったんだよ・・・」
ライト「父さん・・・」



繭の奥には狭い通路があり、そこを超えるとミュセイオンの最深部に到達する。
太陽系が描かれた巨大な壁画がある広大な部屋にたどり着くマルドゥク。
壁画の下の台にはタブレットを立てるくぼみがある。
マルドゥク「スタータブレットの本当の使い方をクリストファーは知らねえ・・・
この世の真実を知るなんてほんの余興程度だ・・・」
石版をはめ込むマルドゥク
スタータブレットが起動し、壁画が光り出す。
スタータブレット「グラビティディフェンスシステム作動――」
生まれて初めて微笑むマルドゥク



ミュセイオン全体が大きく振動する。
ライト「何が起きとるんや・・・!?」
マーガレット「早くここから逃げましょう」
クリスに肩を貸すライト「父さん、立って・・・!」
クリス「あたた・・・もっと優しく・・・」
ライト「すまん!」
ミグの方を向くライト「ミグ行くで!」
ミグ「先に行っててくれ・・・私はあの男と決着をつける」
ライト「義理堅いのもええかげんにせえ!崩れるぞ!」
ミグ「ごめんな・・・約束は破れない性分なんだ。二人を頼んだぞ!」
まゆの奥へ駆け出すミグ。
ライト「ミグ!」



ミュセイオン最深部
コックピットのような玉座でスタータブレットを操作するマルドゥク。
玉座に座るマルドゥクにEM銃を突きつけるミグ「それを止めろマルドゥク」
マルドゥク「しつこいやつだ・・・てめえら白人はなんでも奪っていきやがる。
ここはオレたちの星だ。
これ以上よそ者に勝手な真似はさせねえ・・・」
ミグ「その石版は誰のものでもないだろ・・・」
マルドゥク「ふん、ならばお前にも王の力を見せてやる・・・壁画を見な・・・」
壁画に書かれているのは太陽系の軌道図だ。
そこにはメインベルトにあるすべての小惑星の位置が赤いランプで示されている。
マルドゥク「そうだ小惑星だ・・・メインベルトの小惑星は木星の重力によって安定した軌道を保っている・・・もしこの重力をここで操作できるとしたらどうだ?」
ミグ「なんだと・・・?」
マルドゥク「太陽系のどの惑星にも、好きにメインベルトの小惑星を落とすことができるってことだ・・・
直径1000キロのケレスをお前の星に落としてやったっていいんだぞ?」
ミグ「なんでそんなことを・・・」
マルドゥク「お前は4才の頃に、自分が住んでいる村を皆殺しにされたことはあるか?」
ミグ「なに・・・?」
マルドゥク「オレには生まれた時から国がなかった・・・オレはずっとひとりで生きてきた。
だが、この力さえあればオレこそが木星の・・・いや、宇宙の支配者だ・・・!
オレだけの王国を作ってやる・・・!」
ミグ「・・・石版を戻せマルドゥク!そんな方法では王国はできない!
わからないのか?
木星の重力を変えるということは木星の破壊を意味するということだぞ!」
マルドゥク「脅しても無駄だ。もう誰も止められねえ」

振動がさらに大きくなっていく。
地面は引き裂け、地中のガスと溶けた金属が見える。
マルドゥクの護衛のギャングが恐ろしくなって逃げ出す。
ミグ「この星は変わりつつあるんだマルドゥク!」
マルドゥク「うるせえ!」

その時ギャングが悲鳴を上げる。
ミグが振り返ると王の間の両側から二頭のケンタウロスが人間たちに向かって突進してくる。
ケンタウロスに向かって銃撃するギャング。
ケンタウロスは腕の大きな鎌でギャングを薙いでいく。
血しぶきが上がる。
マルドゥク「なるほど王の護衛ってわけか・・・」
二頭のケンタウロスにEM銃を向けるミグ
タブレットを操作するマルドゥク「そいつを始末しろ!」
ギャングを虐殺したケンタウロスは今度はミグに向かってくる。
ケンタウロスの攻撃を転がりながら避けるミグ。
EM銃を撃つがケンタウロスの硬い表皮には効かない。
笑うマルドゥク「死ねえ!」

ミグ「ケレリトゥス博士すまない・・・!」
コックピットのスタータブレットを撃つミグ。
スタータブレットが衝撃で台座から外れて、システムが消えてしまう。
マルドゥク「てめえ、なにしやがる・・・!」
ケンタウロスが向きを変えてマルドゥクの方へ向かってくる。
ミグ「お前に王の資格はない!」
ケンタウロスがマルドゥクの頭の上から鎌を振り下ろす。
マルドゥク「ぎゃあああああ!」
スタータブレットに鮮血が飛び散る。
超古代都市コロナドが崩れていく・・・



アストライア大神殿でミグが戻るのを待つライト。
ライト「ミグ!」
神殿からリンドバーグ号へ駆けてくるミグ「早く離陸しろ!木星が燃えていくぞ!」
スターライン運河の青い水が蒸気を出しながら熱いマグマに変わっていく。
離陸するリンドバーグ号。



木星の大地震が止まる。
リンドバーグ号のコックピットで流れる惑星連合放送のラジオニュース。

「本日未明に木星全土を襲ったマグニチュード10の超巨大地震ですが、これにより各地で甚大な被害が報告されています。これまでの死者は4万人以上――行方不明者は30万人に上る見通しです。」
「こちらはヒマリアの国境付近です。
対立していたヒマリアとアナンケの民がともに助け合い救助活動を行なっています。」
「アマルテア政府は隣国パシファエに5万トンの救援物資を送ると発表・・・」
「木星民族会議のンゴロ・アルベド議長は木星全土に緊急声明を出しました。」

アルベド議長「今こそ木星に生きるすべての民が団結するときなのです。
神はこの苦難を我々に等しく与えました。豊かな国にも貧しい国にも、強い国にも弱い国にも・・・今の木星にはかつてあった格差などありません。私は信じています。
必ずや木星がこの試練を乗り越えることを。」


リンドバーグ号の中ではマーガレットがクリストファーの看病をしている。
ライト「ミグ・・・結局あの板は何やったんや?お前はすべてを見たんやろ?」
ミグ「もしかしたら木星を太陽にする時限装置のようなものだったのかもしれない・・・
でも・・・よくわからない。神はなんでそんなものを造ったんだろう・・・」

ずっと黙ってやり取りを聞いていたが口を開くマーガレット
マーガレット「これは私の仮説に過ぎないけれど・・・
ひとつだけ確かなのは、あれは神の遺跡というようなものじゃないってこと。」
クリス「なんだって・・・?」
マーガレット「古代人がスタータブレットと呼んでいた、惑星内部の熱エネルギーを用いてオリハルコンの結晶を作る生物の・・・まあ鍾乳洞みたいなものね・・・
小惑星にあった星の欠片が成長したらああなるんじゃないかしら。」
クリス「生き物だったっていうのか!?」
マーガレット「人類の文明と類似点がないのも当然ね。そもそも人工物じゃないのだから
・・・あの石碑は鉱物と生物の中間にあたるような存在なのかもしれない。
私たちが文字だと思っていたものは単に彼らが作り出した模様だった可能性もあるわ。」
クリス「すべては人類の壮大な勘違いだったってことか・・・」
マーガレット「あら、そんながっかりすることはないわよクリス。
人は他人と宇宙を共有することはできない。でもほんの小さな誤解によって、神に祈り、他者を慈しむ感情が人間に生まれたのだとしたら、それは壮大な奇跡よ。」
ミグ「・・・奇跡。」
マーガレット「・・・こういう話があるわ。古代には沈黙交易という風習があったの。
異民族と言葉を交わさずに行う交易なのだけれど、考えてみれば言葉も通じない相手と取引をするなんて不思議な話よね。
私はこう思うの・・・それが未知の存在であれ・・・人間は交流することそれ自体に幸福を感じる動物なのだと。分かり合える合えないは問題じゃないの・・・それでも誰かと関わりたくなってしまうのよ。それが人間なの。」

ミグ「・・・・・・。」
ライト「元気出せや父さん。宝はここにおるで。」
ライトに微笑むクリス「そうだな・・・スタータブレットはこれで諦める」
ライト「ああ、わからんままの方がええもんもあるって」
「そして新しい冒険の始まりだ・・・!私は次の宝を求めることにするよ!レッツトライ!」
三人「え?」
クリス「キミらに私たちの孫を産んでもらわないとね」
ライト「はあああ!?」
マーガレット「・・・そうね、あなたたち私たちよりもいい夫婦になるわ」
ライト「ちょっと待てって・・・!」
クリス「孫も冒険家にしようぜ」
マーガレット「クリスいい加減にしなさい。孫にはちゃんと大学に行かせるわ」
ライト「そういう冗談はやめろや!ミグは気位が高いんや!
・・・ごめんなミグ、気にせんでええから・・・」
涙を浮かべるミグ
ライト「ミグ・・・?」
ミグ「ご・・・ごめんね・・・なんか・・・久々に家族を思い出しちゃって・・・」
ライト「ミグ・・・」
夕日に向かって飛んでいくリンドバーグ号。



王は太陽の子
神に知恵という強大な力を授かり王国を築きし者
全知全能のその力は地を揺るがし、海を引き裂き、天空の星をも落とす
王は神にも等しい力を得た

しかし王の心は満たされなかった
満ちていくのは扉の外で祈り続ける女神への思い
王が探し続けていたものは、神の力ではなく
たった一人の愛する人だった

よって王は神の地を去り、その力を封印することに決めた
アストライアの大神殿と迷宮は、探求者に試練を与えるであろう
星の運河を辿り、星の欠片を手にした女神の舞によって真実の扉は開かれるのだ




秘密結社の円卓。
円卓には林檎に絡みつく蛇の紋章が掲げられている。
名だたる政治家や貴族、科学者などが円卓で顔を並べている。
「・・・いい知らせかね?」
スーツの男「ええ」
「だがキミの友人に投資しても宇宙戦争は起きなかったじゃないか。」
「同感だ。太陽系は和平への道を歩みだしている」
スーツの男「果たしてそうでしょうか?
大国が世界平和という理想に舵を切ったときに、切り捨てられるのは少数民族の現実です。
植民地というタガがなくなった今、木星は多くの武器を必要としています・・・
我々のビジネスに負けはない」
「だが、ミラージュ計画はどうなった?ノーチラス号は??強大な兵器で地球を破壊するという君の計画はどれも失敗続きだ」
「ああ、地球はなんともないぞ。欠けてもいない。」
スーツの男「地球を破壊するのはやめました・・・」
「なんだって?」
スーツの男「地球を破壊する程度ではまだ足りない・・・
我らが主が求めるのは宇宙すら破壊する兵器です」
ざわつく
「そんな兵器は存在する意味がないだろう。宇宙がなくなったら商売はできん。」
スーツの男「お忘れですか?我々の目的は金を儲けることではない。
主の意思を実行することです」
「・・・その兵器とは一体どういうものなのかね?」
「我々にもわかるように話してくれないか、ピカール卿」
微笑むピカール。



円卓の奥の空間に入るピカール。
空間は暗く、奥にいる何者かに話しかけるピカール。
ピカール「同志ザドキエルは再び長い眠りに・・・」
木星にあったものと同じ石版(iPad)と対峙するピカール
スタータブレット(・・・月へ行け。そして選択せよ。)
ピカール「はは」

つづく

『80日間宇宙一周 The Stargazer』脚本⑨

死の迷宮アメミット
レンガで組まれた地下通路が複雑に上下左右に入り組んでいる。
ランタンをかざして振り返るミグ「また分かれ道だぞ」
ライト「あいよ~」
分岐点を手帳にメモするライト
マーガレット「まったく古代人の趣味は理解できないわ・・・」
ミグ「なんでこんなものを・・・?」
マーガレット「紀元前にブリックロード4世っていう迷宮職人がいてね・・・王の愛人をこういった迷宮の中に隠していたってわけ。ここはその中でも最高傑作と言われているわ。」
ライト「男はスケベ心があればなんでもできるな・・・」
ライトを見つめる二人「・・・・・・。」
ライト「な、なんやねん・・・」

かがむライト「お、ミグ明かりをくれ」
ミグ「あ、はい。」
壁面をなでるライト
ミグ「なんだ?」
「チョークのあとや」
マーガレット「クリストファーの仕業ね」
ライト「これをたどっていけば教授に追いつくで」



迷宮を歩き続けるギャングたち
ギャング「ボス、また同じ道に戻ってきてます」
マルドゥク「なんだと・・・?
迷路っていうのは片方の壁さえ辿っていけば必ずぬけられるんだ。どんなバカでもな」
ギャング「しかしこの道に来るのは5回目です。見てください。ジウラがつけた印です。」
マルドゥク「オレがバカだって言いてえのか」
ギャング「いえ・・・しかし何かが変です」
道の奥から何かが近づいてくる。
マルドゥク「クリストファー・・・」



ライト「道が変わってる・・・」
マーガレット「なんですって?」
手帳を見せるライト
「見ろ、このエリアの分岐点はすべてカウントしたはずや。なのになんで何度も戻ってくるんや?
時間とともに迷路自体が変わってんねん。」
マーガレット「ちょっと待って頂戴。
紀元前に時間によってコースが変わっていく迷路を作る技術はないわ。そもそもどうやってコースを変えているのよ。」
ライト「オレに言われても・・・」
耳を澄ますミグ「二人とも静かに・・・!」
ライト「どうした?」
ミグ「悲鳴だ」



最後尾のギャングが何者かに襲われる。
ギャング「ぎゃあああああ」
闇の中でもがくギャング。
「なんだ!?」
ライフルに付いた照明を最後尾に向けるギャングたち。
ビームが巨大なアリたちを照らし出す。
ブルドッグアリをラグビーボール大に大きくした巨大なアリが最後尾のギャングにまとわりついて、その肉を引きちぎっている。
肉を掴んだアリは闇へ引き返していくが、さらにたくさんの兵隊アリが通路の奥からギャングたちに接近してくる。
マルドゥク「野郎ども撃ち殺せ!」
ギャングのライフルが火を噴く。
迷路の壁面を伝いライフルにも登ってくるアリ。
強力な顎でアサルトライフルすら分解していく。



迫り来るアリにEM銃を撃つミグ「おい!キリがないぞ!!」
ライト「陸のピラニアみたいなやつや!母さんバッグから殺虫スプレーを出してくれ!」
スプレーをライトに投げるマーガレット「こんなもの効くの?」
スプレーの表示を読むライト「本製品はアリ、ハチ、ムカデ、その他の不快害虫を効果的に防除することができます」
スプレーをよくふってからアリに吹き付けるライト。
スプレーがかかったアリは仰向けになって転がる。
ライト「あ、意外に効くで!!」
ミグの体に登ってくるアリ「きゃああああ!服の中に入るのだけはやめて!!」
ライト「ミグ動くな!」
ミグにまとわりつくアリにスプレーをかけるライト。
泣き出すミグ「痛い痛い痛い!噛まれた!!」
ライト「あかん数が多すぎる!」
ライトからスプレ-を奪い取るクリス。
ライト「教授!?」
クリス「違う、この星で殺虫剤はこう使うんだ」
殺虫スプレーに火をつけて火炎放射器にするクリス。
アリを一度に炙っていく。
火炎に恐れをなして撤退していくアリたち。
地面にへたり込むミグ「助かった・・・」
クリス「なにしてる?さあ、いくぞ。彼らを追いかけるんだ。」
ミグ「え・・・?」
気づくライト「そうか・・・」
ニヤリとするクリス「そうだ。見失う前に(ミグを立たせる)さあ・・・!」

逃げ出したアリを追いかけていくライトたち。
マーガレット「なるほどアリたちは迷宮には迷わない・・・」
クリス「この迷路の作者だからな」
ミグ「え・・・?」
ライト「迷路の形を変えていたのはアリどもだったってことや」
アリを追いかけていくと、道が開け巨大なホールに到達する。
ライト「ここは・・・」
クリス「女王の間だ」

ホールはたくさんの通路のハブとなっており、働きアリが世話しなく通路とホールを行ったり来たりしている。ホールの中央には働きアリの何倍もある巨大な女王が全く動かずに餌を貪っている。
ホールではキノコが栽培されており、そのキノコが青白く発光するのでほんのりと明るい。
ホールの隅の高い塚の陰に隠れながら、働きアリの動きを目でたどるクリス。
土のペレットを直方体に成形していき迷路に運んでいくアリたち。
さらに頭上5メートルほどにある通路から出てきたアリはギャングのちぎれた一部を咥えている。
アリは女王のそばにいる別のアリにその肉片を渡し、そのアリは肉片を顎と消化液を使って器用に肉団子にしていく。
クリス「ギャングたちは上にいるらしいな」
ライト「何人かはミートボールに加工されたことはわかったな」
気分が悪くなって口を押さえるミグ「人生でこんな光景を見るとは思わなかった・・・」
背中をさするライト「大丈夫か・・・?」
ミグ「ミートボールスパゲッティ大好きだったのに・・・」
クリスに話しかけるマーガレット「あれを見て。あなたが好きなものじゃない?」
女王の方を指さす。
でっぷりと肥えた巨大な女王アリの後ろには巨大な扉がある。
クリス「アメミットの出口・・・すなわち・・・」
マーガレット「超古代都市コロナドへの入口・・・」

女王アリの方へ飛び出そうとするクリスを止めるライト。
ライト「ちょい待て!」
ギャングの死体を運んできたアリが出てきた通路から、今度は別のものを咥えたアリが女王の方へ近づいてくる。
ライト「なんやあれは・・・?」
双眼鏡を暗視モードにしてアリが咥えているものを確認するライト。
ライト「!!みんな伏せろ!!」

女王に時限爆弾を渡す働きアリ。
珍妙な貢物に首をかしげる女王。ホールの中央が爆発する。
女王の間は爆弾で吹っ飛んだアリの死骸でいっぱいになる。
ロープをつたって通路からホールへ降りてくるギャングたち。
女王のちぎれた頭を蹴飛ばすマルドゥク「これでいい・・・」

ギャングに気づかれないようにもの陰に隠れている4人。
30人以上いたギャングたちは6人しかいない。
クリス「向こうもだいぶ減ったな・・・」
ライト「あれだけ肉団子にされればそりゃ減ったやろ」

扉の前に立つマルドゥク
ギャングたちに扉を開かせる
ギャング「ダメですボス、開きません。なにか仕掛けがあるようです・・・」
手を振り上げるマルドゥク。扉から離れるギャングたち。
ロケットランチャーで扉を吹き飛ばすマルドゥク。
マルドゥク「これで開いた・・・」
扉から強烈な光が差し込む。

マーガレット「貴重な遺跡になんてことを・・・」
ライト「あれがアリならトゥームレイダースは誰でもクリアできるな」

扉を抜けるマルドゥク。
目の前には考古学的にどの文明にも見られない形状の広大な遺跡が広がっている
いびつに湾曲した石壁には見たことのない文字が赤く光っている。
マルドゥク「二手に分かれてスタータブレットを探せ。お前はオレと来い。」
ギャング「分かりました」
コロナドの捜索を開始するギャングたち。



コロナドに入る4人。
クリス「ここが超古代都市コロナド・・・」
マーガレット「・・ご感想は?」
肩を震わせるクリス「本当にあった・・・」
ライト「よかったな・・・」
ミグ「おめでとうございます」
クリス「祝杯はまだだ・・・スタータブレットを見つけないと・・・」
マーガレット「ヒントを探しましょう」
石壁に近づくマーガレット
クリス「文字が読めるか?」
マーガレット「信じられない・・・
こんなの初めて見たわ・・・どの文化にも属さないタイプの文字よ。」
ライト「母さんにも読めない文字があったんやな」
マーガレット「当然よ。私が読めるのは人間の文字だけ」
ミグ「え・・・?」
マーガレット「この遺跡は人類が作ったものじゃないわ・・・」
クリス「てことはやはり神の・・・」
首を振るマーガレット「その結論はまだ早いんじゃない?」
ミグ「なんか怖くなってきた・・・」
ライト「ミグ・・・」
ミグ「こんなところに私たちがズカズカ足を踏み入れちゃっていいのかな・・・?」

躊躇なく建物に登って手招きしているクリス
「おい、キミらも早く来いよ!こっから辺りが見渡せるぞ!」
ライト「ミグ、もう手遅れや・・・」

見晴らしのいい高台に登る一行
眼下には高層ビルが並んでいる。
マーガレット「まるで夢を見ているようね・・・」
クリス「伝説によれば太陽神ライトニングは超古代都市コロナドを3日で創造し、その中央のミュセイオンに自身の叡智スタータブレットを置いた・・・」
ライト「ライトニング?」
ライトの頭を撫でるクリス「お前の名前はそれから取ったんだよ」
マーガレット「そしてライトニングはタブレットを11に分割し、それぞれの天使に配った。
天使は各惑星へと飛び・・・それぞれの星の人類に文明を授けた・・・」
ライト「数が合わへんぞ」
クリス「ああ、太陽と月が惑星としてカウントされるんだ・・・
さて・・・いよいよ神に会えるぞ・・・どうする?」
ライト「どうする・・・ちゅうてもなあ・・・とりあえず挨拶だけしてちゃちゃっと石版をもらってこうや」
クリス「お前、神様だぞ!?私には聞きたいことが数え切れないほどたくさんある・・・」
マーガレット「そんなに聞きたいなら、インタビューの順序をあらかじめ考えておいたらどうなの?」
クリス「すでに20年前から考えてあるよ。」
マーガレット「・・・呆れた。」
ライト「ミグはなにか聞きたい?」
ミグ「私はいいよ・・・」
クリス「もしかして冥王星の人たちは神とか信じてないとか?」
ミグ「いえ・・・じゃあひとつだけ・・・
感謝を伝えたいです。私を産んでくれてありがとう・・・私は今幸せですって。」
クリス「あなたは面白いことを言うね。それなら自分の親に言えば済むじゃないか」
ライト「おい・・・!」
ミグ「そうですね・・・私にとっては神に会うのも親に会うのも変わらないのかもしれませんね・・・」



コロナドの中央にある巨大な立方体の建物「ミュセイオン」
クリスが近づくとドアが自動で開く。
クリス「やっぱ神の作った街はすごいな~」
自動ドアの原理を調べるマーガレット「・・・・・・。」
ライト「母さん?行くで」
マーガレット「あ、はい」
建物の中に入る4人。
入口を抜けると下に下る幅の広い螺旋階段があり、さらにその奥は吹き抜けになった広大なスペースが広がっていることがわかる。
クリス「なんだ・・・ここは・・・」
ミュセイオンの中は誰も想像もしたことのないような異質な空間が広がっている。
蔦のようなものが蜘蛛の巣のように張り巡らされており、そのアレイは空間中央部の光り輝く巨大なまゆにつながっている。
蔦は一見乱雑に張られているように見えるが、近づいて観察すると樹形図のような規則性があることがわかる。
ライト「なんやこれ?」
クリス「系統樹だ・・・」
ミグ「生命の・・・?」
マーガレット「いえ・・・世界よ・・・」
螺旋階段とまゆをつなぐブリッジを歩くマーガレット。
ブリッジのそばに伸びる蔦に触れる。
マーガレットの体温に反応してかすかに動き、色を変えるつた。
「この粘菌のような巨大な単細胞生物に世界のすべてを演算をさせているのよ・・・
エネルギーの供給はきっとあの中央のまゆからね。
生物を使うとは、まったくたいしたものね・・・その発想はなかったわ・・・」
蔦をナイフで傷つけるクリス。中から血液のような液体が出てくる。
別の場所を傷つけると血液の色が違う。
ミグ「・・・データベースなんだ・・・これまで現れたすべての生き物の」
クリス「これがセフィロトの樹の正体・・・コロナドの叡智・・・」
マーガレット「まさか四方数kmにも及ぶ巨大な生物だったとは残念ね。
とてもじゃないけど博物館へ運び出せるようなものじゃないわクリス。」
ライト「ここ自体が博物館みたいなもんやもんな」
クリス「いや・・・これはスタータブレットじゃない。きっとあの繭の中だ。」
ライト「やっぱり行くんやな」
クリス「もちろん」



黄金色に輝く繭の中に入るクリス
クリスの目の前にはついに長いあいだ探し続けていたもの・・・
スタータブレットが中央で浮いている。 
クリス「あった・・・!」
スタータブレットを手に取るクリス
クリス「あった・・・!!」
クリスが持ったことでスタータブレットが反応し、マックの起動音を鳴らす。
タブレットの画面が付き、メニュー画面が表示される。
最初は画面の言語がわからなかったが、そのうちに形を変えて英語になっていく。
スタータブレット「表示言語を最適化しました。お調べになりたい情報をメニュー画面からどうぞ」
クリス「すげええええ!!!!!」
大はしゃぎでタッチパネルになっている画面をスクロールさせるクリス。
クリス「人はなんで生まれて、死んだらどうなるのか・・・なんでも書いてあるぞ・・・!
へ~宇宙が11次元ってそういうことだったのか!
すげえすげえすげえ!!!」
振り返るクリス
「おい、みんなちょっと来いよ!死ぬってどういうことかわかったよ?
実は私たちって死んだら・・・」
マルドゥク「どうなるんだ?」
クリス「あ・・・」
「そこまでだ、教授。その板をよこしな。その答え合わせをしたくなかったらな・・・」
ギャングにライトたちが捕まっている。

マルドゥク「言っとくが今回は毒なんて撃たねえぞ。一撃でこいつの脳みそぶちまけてやる」
クリス「ライト・・・」
ライト「教授・・・すまん」
マルドゥク「どうする?」
クリス「・・・分かった。スタータブレットはくれてやる。
だから他の人間は傷つけないと約束してくれ。私の・・・大切な家族なんだ」
マルドゥク「やっと大人になったな、教授・・・いいだろう」
マーガレット「クリストファー・・・」
ライト「そいつに石版をやったらあかん!」
クリス「いいんだライト・・・」

石版をマルドゥクに渡すクリス
マルドゥク「お利口だ」
石版を受け取るマルドゥク。
そしてミグに銃を向ける。
ミグ「え・・・?」
マルドゥク「だが、こいつはお前の家族じゃねえ」
クリス「・・・・・・!」
ライト「やめろ!」
引き金を引くマルドゥク。
銃声。

『80日間宇宙一周 The Stargazer』脚本⑧

神殿上空を飛ぶリンドバーグ号。
ライト「あいつら、教授に扉を開けさせるつもりや・・・」
ミグ「どうする?」
ライト「あのままだと教授は有罪確定や。助け出す。」

祭壇に上がって石畳の記号を読むクリス
「王冠」「知恵」「理解」「慈悲」「王国」「知識」「美」「勝利」「基礎」「栄光」「峻厳」・・・
マルドゥク「なんだそら」
石畳の図像を見つめるクリス「これはセフィロトの樹だよ。
その果実を食べると神と等しい力を得ることができる・・・」
マルドゥク「そいつは味わってみてえ」
クリス「私の説ではその正体はエメラルドでできた石版だがね・・・」

アストライア大神殿にプロペラ音が聞こえてくる
空を見上げ瀑布の向こうを指さすギャング「ボス!」
マルドゥク「息子か・・・」
ロケット砲を構えるギャング「撃ち落としますか!?」
マルドゥク「まあ待て・・・家族を再会させてやろう」
接近するリンドバーグ号を見上げるクリス「ライト・・・」

ジェットの向きを変え大瀑布の中央に垂直に着陸するリンドバーグ号。
船から降りてくるライト「教授!」
クリス「連れ戻しに来たのか・・・」
ライト「いや・・・スタータブレットを見つけるで・・・」
クリス「え・・・?」
リンドバーグ号にマーガレットがいるのに気づくクリス
マーガレットを呼ぶライト「母さん!」
ミグに促されて降りてくるマーガレット。
クリス「マーガレット・・・」
マーガレット「なにも言わないで」

ライト達に銃を突きつけるギャング
マルドゥク「一家が集合ってか」
マーガレット「随分出世したわね、あなた・・・」
マルドゥク「おかげさまでな。さあ扉を開いてもらおうか。アレゴリー先生」
マーガレット「誰が協力するといったの?」
マルドゥク「この状況を見て言ってんのか?てめえの息子をいつでも蜂の巣に出来るんだぞ」
マーガレット「やれやれ・・・20年前あんたを雇うんじゃなかったわ・・・」

神殿のオベリスクに近づくマーガレット
オベリスクに彫られた文字を読む。
神の力は太陽系に文明をもたらした。
冥王星には苦難を受け入れる強さを
海王星には恵みの海と安らぎを
天王星には宇宙と調和するための音楽を
土星には病を癒す奇跡を
木星には知恵と多様な生命を
火星には団結し戦う勇気を
地球には気高い誇りと自由を
                  ゼウス 記・・・


マーガレットのとなりでオベリスクを見つめるクリス
マーガレット「このオベリスクが女神の聖域のヒントのようね」
クリス「木星には知恵と生命を・・・私が思ったとおりだ・・・」

マルドゥク「おい時間稼ぎはオレには通用しねえぞ」
クリス「学問には時間がかかるんだ」
マーガレット「20年間待ったのにそれを無駄にしたいの?」
マルドゥク「てめえら・・・」
二人を見て微笑むライト
ライト「ああなると誰にも止められへん・・・」
マルドゥク「そうか・・・」
ライトにエアライフルを撃つマルドゥク
クリスとマーガレット「!!」
ライトに駆け寄ろうとするミグ「ライト!!」
ミグに銃を向けるギャングたち
マルドゥク「動くな!」
首をおさえるライト。首にはダートが突き刺さっている。
苦しむライト「ぐ・・・!」
マルドゥク「そいつはアンフィスバエニアオオムカデの毒牙から抽出した猛毒でな・・・
激しい出血と皮膚の爛れで苦しみながら死んでいくんだ・・・」
クリス「ああ、毒物マニアだった女王ラトナの記録では最も悲惨な死に方をしたっていう・・・」
マーガレット「解説してる場合じゃないでしょ!」
マルドゥク「10分以内にこの血清を打たなければ、お前らの息子は手遅れだ・・・」
マーガレット「10分以内って・・・本当に聖域の謎はわからないのよ!」
クリス「そうだ!この神殿自体初めて来たんだぞ!」
マルドゥク「じゃあ息子はまた作るんだな。」

痙攣するライト。とうとう地面に倒れる。
ミグ「やめろ!なんでもする!なんでもするからそいつを助けてくれ!」
ミグの方を振り返るマルドゥク「なんでもする・・・?」
ミグを不安そうに見つめるクリスとマーガレット。
ライト「やめろ・・・ミグ・・・あかん・・・」
マルドゥク「ならば、お前が扉を開けろ。」

星の欠片を持って祭壇に上がるミグ。
クリス「あの人、扉の開け方を知っているのか・・・?」
マーガレット「まさか・・・考古学の知識なんて何もなかったわよ」
クリス「じゃ、なんで・・・」
マルドゥク「綺麗な女が醜く炭化していくのは一興だな」

汗でぐっしょりのミグ「落ち着け・・・考えろ・・・」
深呼吸をして目を瞑る。
記憶がめまぐるしくかけまわる。

「アストライアの大神殿と迷宮は、探求者に試練を与えるであろう
星の運河を辿り、星の欠片を手にした女神の舞によって真実の扉は開かれるのだ」

「女神は神殿の扉を開き王の帰還を待ち続けた・・・何年も何十年も・・・」

マーガレット(このオベリスクが女神の聖域のヒントのようね)
サーシャ(舞いの各振り付けはそれぞれの惑星に対応しているの)

ケセド(我々は過去を完全に消し去ることはできない。それらは物語の形であれ、文化風習の形であれ・・・形を変えて残っているものだ・・・)


何かを閃くミグ「もしかして・・・」

マルドゥク「どうした?怖気づいたか、女」
泡を吹くライト「ミグ・・・オレはもうええ・・・やめろ・・・」
ミグ「なら私も一緒に行くよ・・・」
台座に星の欠片をセットするミグ。
周りの石柱が動き出す。
ライト「あかん・・・」

ミグ「最初のステップは・・・」
中央のオリハルコンから光線が発射される
「西・・・!」
石柱の反射板から跳ね返ってきた光線をよけるミグ。
だがよけた光線が再び反対側の石柱に跳ね返ってミグを襲う。
マーガレット「危ない・・・!」

ミグ「冥王星には苦難を受け入れる強さを・・・!」
体を右にひねって光線を避けるミグ。
クリス「よけた!」

片腕を上げるミグ「海王星には恵みの海と安らぎを」
そのまま一回転する「天王星には宇宙と調和するための音楽を」

ステップで次々に飛んでくる光線をかわし続けるミグ。
バックステップで光線を交わしたあと腰をかがめて両手を広げるミグ。
「土星には病を癒す奇跡・・・」
頭上スレスレを光線が飛んでいく。
「木星には知恵と多様な生命を・・・」

マルドゥク「踊ってやがる・・・」
美しく舞い続けるミグに見とれる瀕死のライト「ミグ・・・」

「地球には気高い誇りと自由を・・・」
最後の光線をかわして踊り終えるミグ
石柱の回転が止まる。
息を切らすミグ
手を叩くマルドゥク

その直後神殿全体が振動する。
石畳の床の溝が赤く発光し、地面が動き出す。
女神の聖域が3っつに分かれ、同心円状に広がりだし、それぞれが遠ざかる。
ギャング「離れろ・・・!」
祭壇の中央に巨大なトンネルが口を開ける。
振動が止まる。

ミグ「扉はあけたぞ!血清を打ってくれ!!」
立ち上がるマルドゥク。トンネルの方へ歩き出す。
ミグとすれ違いざま、背中越しに血清の注射器を放り投げる。
慌てて注射器をキャッチするミグ。

ライフルのバレルの下に取り付けられた照明を付けるマルドゥク「いくぞ」
ぞろぞろとトンネルに入っていく武装したギャングたち。
神殿に取り残される四人。

ライトに血清を打つミグ
ライトの顔色が徐々に良くなっていく
ミグ「ライト・・」
力なくつぶやくライト「まったくこの星では踏んだり蹴ったりや・・・」
マーガレット「よかった・・・」
ライト「泣くなよ母さん・・・」
マーガレット「泣いてないわよ。これは水しぶきが目に付いただけ」
ミグに向き直るクリス「ありがとう、ええと・・・」
ミグ「ミグ・・・ミグ・チオルコフスキーです。」
クリス「あなたが・・・」
ライト「いいやつやろ・・・」
クリス「ああ、いい人だ・・・」

よろよろと立ち上がるライト「って、こうしちゃおれん・・・」
肩を貸すミグ「ライト立てるのか・・・?」
ライト「マルドゥクは行っちまった。あいつよりも先にスタータブレットを見つけんと・・・」
マーガレット「もういいじゃない。命を捨ててまで探すようなもんじゃないわ・・・」
ライト「いや、神殿を開けちまった以上、最後までやらんと・・・
それにこれはオレたち家族の問題でもあるんやないか」
ミグ「ライト・・・」
ライト「ミグにも来てほしいんやけど・・・」
ミグ「もちろん。バイザック大佐に約束したしな。」
クリスに振り返るライト「教授は・・・?」

クリストファーがいない
ミグ「待ちきれなかったようだな・・・」
ライト「たしかこの先は迷宮になっているんやなかったっけか・・・」
マーガレット「どうしようもないひと・・・」
ライト「じゃあ迷子を探しに行くか」
ランタンを灯して迷宮の闇に足を踏み入れる三人。
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